♚IS学園の大魔王   作:くぼさちや

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11話 「見上げた空は心地よく、」

 

 

「それは急なお話ですわね」

 

 阿九斗が1日目のプログラムを終えた後、楯無から連絡を受けたセシリアは予定表を確認する。

 特別強化プログラムの5日目に、射撃戦の指導に付き合う約束をしていたが、急遽予定を変更して明日にお願いしたいということらしい。

 

(明日はシャルロットさんが一夏さんの訓練を担当なさるのでしたね。抜け駆けしないか心配ではありますが...)

 

 一瞬考えた後、返事を返す。

 

「はい、問題ありませんわ。では明日の17:00に第6アリーナで」

 

 そう確認をとってから連絡を切る。

 阿九斗とは一夏といるときにときどき話す程度で、これといって交流がなかったのはセシリアも気にしていたところだ。

 一夏との特訓と予定が重ならない限りであれば、喜んで引き受けたい。

 

「それにしても、2学期からの転入生となると大変ですわね。前期の実習単位取得のために補充プログラムが組まれるだなんて」

 

 表面上、今回の強化プログラムは阿九斗が取れていない1学期分の単位を取るための補充課題とされている。

 なにせIS学園は他の学校とは履修科目が全く違うのだ。

 早い時期に編入した鈴音やラウラたちはまだしも、この時期からの編入となれば単位の回収には骨が折れる。

 

「同じクラスの専用機持ちですもの。困ったときはお互い様、ですわよね」

 

 

 

 

 

 

 

 そして当日の朝。

 

(特訓に付き合うんですもの。まずはきちんとご挨拶を...)

 

 食堂で朝食を取っている阿九斗をみつけ、サンドイッチの乗ったトレーを手に相席を申し出ようとすると、

 

「あ! 紗伊くん発見!」

「紗伊くんも朝食?」

 

 1組の生徒たちが遮るように割って入った。

 それを火種に、周りでタイミングを見計らっていた女子生徒が一斉に阿九斗を取り囲む。

 なにせ普段から一夏は、セシリアを含めた代表候補生たちが独占している。ならばその輪に入れずにいた他の女子生徒がこうして阿九斗へ流れていくのは自然なことかもしれない。

 

(こ、これでは落ち着いて話もできませんわね...。仕方ありませんわ、今は出直して教室でお話しましょう)

 

 阿九斗との交友関係を開拓せんと、あっという間に人だかりができる。

 セシリアはそこから少し離れた席にトレーを置いて朝食を済ませることにした。

 少し待って人が空けばそれで良しと思ったものの、結局、寮長の千冬の一喝が入るまで騒ぎが収まることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 HR前の教室。

 30分前とあってまだ人の入りは少なく、自習に励んでいる阿九斗に遠慮してか、周りのクラスメイトも話しかけようとする様子はない。

 

(今がチャンスですわ。ここで話を済ませましょう)

 

「紗伊さ─────」

 

「ねえ一夏、次の週末ってなにか予定はあるかな?」

 

 セシリアの口が止まる。

 一夏と話しをしているのはシャルロットだった。

 

「ん? 特に予定はないけど」

 

「それじゃあさ、一緒にお買い物に行こうよ。そろそろ衣替えの季節だし、新しい服も買いたいなって」

 

 その抜けがけの瞬間をセシリアは見逃さなかった。

 後ろに立ってわざとらしく咳払いをすると、シャルロットはいたずらを見つけられた子どものように肩をすくめる。

 一夏と二人で買い物。

 あわよくば一夏に服を選んでもらいたいという乙女の野心はあっけなく看破された。

 そんな心境も知らずに、一夏は真後ろの席の阿九斗に話しを振る。

 

「そうだ、阿九斗も一緒にどうだ?」

 

「僕もかい?」

 

 阿九斗は手を止めて顔を上げた。

 異世界から来たばかりの阿九斗の私物は、ほぼゼロといっていい。

 衣服もIS学園の制服と寝巻きが一式ずつとTシャツが数枚ある程度だ。

 

(必要な日用品は校内で買い揃えられるから不自由はしていなかったけど、休日出歩くときに着られるような服が何着かあったほうがいいかな。でも......) 

 

 阿九斗は遠慮がちにシャルロットを見る。

 ここ数日で一夏を取り巻く専用機持ちたちの位置取りがなんとなくわかってきた。

 

「かまわないけど......お邪魔じゃあないかな?」

 

「ううん、そんなことないよ。むしろこういうのは人数がいたほうが楽しいし」

 

 そう言うシャルロットは、阿九斗の参加を歓迎しているように見えた。

 

(ああ、どうしてこういう時に、いいよ、って言っちゃうんだろう。僕ってやつは...)

 

 しかし、内心ではだいぶ落ち込んでいた。

 そんなシャルロットの心境を一夏は、

 

「よし、決まりだな。どこに行く?」

 

 察することができない。

 気づいた時には買い物談義に花が咲き、セシリアの入る余地はなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

(...もお、いったいどこにいますの!)

 

 午前の授業が終わり、昼休みに入った。

 今度こそ話しをしようと思っていたのだが、授業を終えて早々に阿九斗は教室を出たらしい。セシリアが気づいたときには、すでに阿九斗の姿はなかった。

 廊下、食堂、売店やフリースペースなど、行きそうな場所をしらみつぶしに探していくが一向に見つからない。

 

(続きはお昼を済ませてからにしましょう)

 

 探しついでに売店で買ったサンドイッチを手に、屋上に上がる。

 ここしばらくは肌寒い日が続いていたが、今日は一転して暖かい。

 こんな日は晴れた空の下でランチというのも悪くないと、屋上の扉を開ける。するとそこには先客がいた。

 

「どこにいらっしゃるのかと思えば、ここでしたのね」

 

 屋上の隅で阿九斗が寝そべっていた。仰向けで組んだ両手を頭に敷いている。

 そっと近くまで歩み寄るとスヤスヤと寝息が聞こえてきた。

 

「こんなところで寝ていたら制服が汚れてしまうでしょうに」

 

 粗野な一面に若干呆れながらも、温かな風に前髪が揺れ、気持ちよさそうに眠る阿九斗を見ていると、試しに自分も横に寝そべってみたくなった。

 隣りに失礼して身を横たえる。

 

(なるほど、たしかにこれなら気持ちよく眠れそうですわね)

 

 視界全体に空が広がり、流れる雲を見ていると、まるで自分が空を漂っているように感じる。

 シートも敷かずに寝そべることには少し抵抗があったが、屋上の固い床も秋晴れの太陽の香りをめいっぱい吸い込んでいて、暖かく、心地いい。

 

「ふふっ、これに免じて、このわたくしを探しまわらせたことは、許してさしあげます...」

 

 セシリアはそうささやくように言ったあと、穏やかな気分で目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 麗らかな昼下がり。阿九斗は昼寝から目が覚めた。

 学園内ではどこに行っても騒がしくなり、こうして一人ゆっくりとできる場所は貴重だった。

 

「う~ん......スゥ...スゥ...」

 

(......あれ?)

 

 誰もいなかったすぐ隣に、いつの間にやら来客がいたようだ。

 色の薄いブロンドに青いヘッドバンド。膝が隠れるほどのドレス風のロングスカートに黒いストッキングを着用している。左耳には機械的なデザインの青いイヤーカフスが輝いていた。

 

(たしか、同じクラスのオルコットさんだったかな)

 

 寝返りをうったときに付いたのか、頬についたホコリを手で拭ってやると気持ちよさそうに寝顔が緩んだ。

 

(...まいったな)

 

 わざわざ隣で寝ているくらいだから、自分を訪ねてきたのだろう。ならこのまま立ち去る訳にもいかない。

 しかし、こうも気持ちよさそうな寝顔を見せられては逆に起こすのも悪い気がする。

 

(仕方ない。起きるまで僕もここでのんびりしていようか。昼休みが終わる前に起こしてあげればいいわけだし)

 

 入学時に支給された電子書籍開く。

 ようやく使い慣れてきた端末に電源が入ると、たまには気分を変えて小説でも読んでみることにした。

 図書館機能を起動。タイトルを眺めながら気になった本を読み始める。

 

 

 

 

 

 

「.........う~ん...あら?」

 

 まだ寝ぼけているのか、トロンとした目で左右を見渡している。

 そんなの様子を呆れ顔でを見ながら、阿九斗は自分の口元を指で差す。

 そこで意識が覚醒したセシリアは、ようやく自分の口の端からよだれが出ていたことに気づいた。

 

「お、お見苦しいところをお見せしましたわ」

 

 セシリアは慌ててハンカチで口元を拭う。

 制服に付いた煤を手で払い、髪を整えてひとまずの体裁を取り繕っていると、阿九斗は微笑んだ。

 

「いいんだ、それより君は僕に何か用があって来たんじゃないのかい?」

 

「そうでしたわ。実は先日、更識会長から紗伊さんの補充プログラムのお手伝いを依頼されましたの。ですのでその説明も含めて、今朝からお話しに参ろうと思っていたのですが、落ち着いてお話できそうになかったので」

 

 阿九斗は昨晩の楯無との会話を思い出す。

 誰とは聞いていなかったが、1組の代表候補生を招いて射撃戦の訓練を行うとのことだった。

 セシリアはその場で立ち上がってスカートの両端をそっと掴む。

 

「改めて自己紹介を、わたくしはイギリスの代表候補生セシリア・オルコットと申します」

 

 上品に微笑むセシリア。

 言葉遣いからも育ちの良さが見て取れる。なにより江藤不二子のような毒々しさも感じない、貴族然とした立ち居振る舞い。

 高貴な家の出であることは阿九斗の目にも明らかだった。

 

(ならば、僕にも取るべき相応の態度というものがあるのか...)

 

 阿九斗も同様に立ち上がり、両足を揃えて頭を下げる。

 

「倉持技研所属、紗伊阿九斗です。この度の非礼をお詫びいたします。本来なら指導を受ける僕からきちんとご挨拶に伺うべきでしたのに」

 

「そんなに固くならないでくださいまし。他のクラスメイトと同じように気軽に接してくださいな。わたくしも普段から勉学に励むご様子を見て感銘を受けておりましたのよ?」

 

 思いのほか紳士的な対応にセシリアは好感を持っていた。

 こうした時の所作は一朝一夕で身につくものではなく、それは阿九斗が普段からやりとりの場で意識を高く持っていることの表れでもあった。

 もちろん、セシリアが担当につくことを阿九斗は知らなかったが、手間を取れせてしまったのは自分なのだから、特に言い訳をすることなく言葉を並べる。

 

(第一印象だけで殿方は語れませんわね。多少の粗野な一面も、男性の美徳のひとつですわ)

 

 IS学園に来てセシリアが学んだことの一つ。

 一夏に重なるものを感じて、セシリアは右手を差し出した。

 

「同じ専用機持ち同士、お手伝いできることがあればなんでも言ってくださいな」

 

 阿九斗はその手を取った。

 

「ありがとう。早速、今日の放課後からお世話になるよ」

 

 セシリアはうなずく。

 

「ではさっそく説明に入りますがご都合はよろしくて?」

 

 それに対して阿九斗は曖昧に微笑んだ。

 

「いや、残念だけど今はお互い時間の都合が悪いかな」

 

 そう言って時計を指差す。昼休みが終わるまであと10分程度だった。

 

 

 

 

 

 

「二人とも揃ったわね」

 

 アリーナには楯無とセシリア、そして阿九斗。

 結局、昨日と同様に細かな特訓内容を知ることなく放課後を迎えた。

 

「今回は事前に話しをした通り、射撃戦闘のプログラムを振り替えて行います。阿九斗くんはISを装備して待機。セシリアちゃんはあれの準備をお願い」

 

「了解しましたわ」

 

 セシリアは楯無の指示通りにその場を立ち去る。

 

(射撃戦闘と聞いてたから、てっきり彼女と戦うのかと思っていたけど、違うのか?)

 

 阿九斗も楯無の指示に従って《魔王》を展開する。

 

「さて、今回の訓練で使うのはこれよ」

 

 パチンッ、と楯無が指を鳴らすとハッチから飛び出た長方形のドローンが阿九斗の前で真っ二つに開き、IS用のライフルが突き出されるように渡される。

 

「...この武装、アンロックされているんですね」

 

 ライフルを構えてみて阿九斗は言った。

 

「あら、よく勉強しているじゃない」

 

「以前、僕の専用機にもどうにかして武器を装備させようといろいろ調べてみたんです」

 

 《魔王》の拡張領域には一切の空きがなく、武器を量子変換して装備することができない。

 そこで阿九斗は相手の武器を奪うか、展開済みの武器をあらかじめ持っておくなどの方法を考えた。

 調べた結果、後者はともかくとして、武器を奪うことのできない理由がそこにあったのだ。

 

「なるほどね。ISの武装には基本的にロックが掛かっていて、持ち主以外には使えないようになっているわ。けれどもアンロックした相手であれば他の機体の武装も使用できる」

 

「でもどうしてわざわざ? 射撃武装であれば僕の専用機にもありますけど」

 

 もっともな疑問に楯無は笑って答える。

 

「当然の配慮よ。備品を壊されたら堪らないもの♪」

 

「えっ、それはどういう─────」

 

 その言葉は最後まで続かなかった。

 一斉に射出された無数の小さな影が阿九斗に飛来する。

 

「特別強化プログラム2日目、開始よ」

 

 




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ではまた次回~
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