♚IS学園の大魔王   作:くぼさちや

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12話 「試練と輪舞曲」

 

「これは......」

 

 とっさに上空へ飛び上がった阿九斗の周りを射出された球型のビットが12機、縦横無尽に飛び交っている。

 

『訓練用のボールビットよ。設定した機体を中心に一定の距離を保ちながらランダムに移動するの』

 

 客席に腰掛けた楯無はインカムを手に説明する。

 

『阿九斗くんに渡したのは1年生が射撃実習で使用する赤外線レーザーライフルよ。その赤外線をビットが感知すると自動的に機能を停止して落下するようになっているの。今回、阿九斗くんにはその12機のビットを1分以内に全滅してもらうわ』

 

「この速さで動く的を相手に...無茶な」

 

『あら、それだけじゃあないわよ』

 

 楯無はほくそ笑んだ。

 

『セシリアちゃん、やっちゃって』

 

 合図とともに今度は青いビットが4機、ハッチから飛び出していく。形は一変して細長く、またサイズも大きい。

 

(さっきまでのとは違う! あれは───)

 

─────ビュンッ

 

 同時に発射されたレーザーの一本が阿九斗の肩を打ち抜いた。

 自動的にセンサーが解析を始める。

 

(武装は...第三世代装備ブルーティアーズ。オルコットさんか)

 

 阿九斗はアリーナのハッチにいたセシリアを目視で確認した。

 

『今日の課題は、その4機の妨害を掻い潜りながら、指定武器で正確にボールビットを全滅させること。ノルマは1機あたり5秒。その他の武装もビットを破壊しない範囲で使用を許可するわ。以上よ』

 

「馬鹿なっ、そんなこと───」

 

『いいからやりなさい!』

 

 インカム越しに楯無は一喝する。

 

『よく聞いて。そのライフルの精度と阿九斗くんの射撃能力ではまず全滅は不可能よ。だから絶対に当たらないレーザーを当てるにはどうすればいいのか、それを考えなさい』

 

 反論を許さず、ブルーティアーズのレーザーが阿九斗を捉えた。

 

「くっ!」

 

 阿九斗はライフルを構える。

 

 ボールビットに照準を合わせながら、放たれるレーザーを対処。回避と射撃を同時にこなさなければならないこの特訓は、多大な集中力を必要とした。

 特にセシリアの妨害は厄介で、その都度回避を繰り返し、避けきれないものに魔法陣を展開して防御に回ると、一度合った照準が対象から外れてしまう。

 運良く命中したビットも、落ちてから1分が経過すると再び旋回を始め、特訓は休むことなく継続された。

 楯無はスコアを確認する。特訓の開始からすでに20分。

 

(1分間でようやく3機...それも徐々にペースが落ちてきているわね)

 

 スコア上の数字もそうだが、時間が経つにつれ、レーザーの被弾もところどころ目立ち始めた。

 そんなとき、セシリアから楯無に通信が入った。

 

「あら、セシリアちゃん。どうしたの?」

 

『今回の特訓内容ですが、わたくしはあまり気乗りしませんわ。ISの操縦経験がほとんどない紗伊さんに、この特訓はいくらなんでも過酷過ぎます。まずは基本となる射撃演習から始めるのが定石ではありませんの?』

 

 その声はどこか震えていた。

 安全な位置から逃げ回る素人を相手に一方的に攻撃を与えるような役回りなのだから、さすがに心を痛めているのかもしれない。

 

「無茶は承知よ。多角的な攻撃を回避しながら、動き回る標的を正確に狙撃するのは至難の業。純粋な能力で言えば国家代表並の射撃能力を必要とするわ」

 

『なら尚更ですわ! これ以上の継続に意味などありません。直ちに特訓を中止するべきです』

 

「そうかしら? 少なくとも彼はそう思っていないようよ」

 

 ビットを見据える阿九斗の瞳は、未だ消えぬ闘志を帯びていた。

 

 1機落として残り11機。

 阿九斗はハイパーセンサーを頼りにビットの位置を把握し、照準を合わせる。

 

(...やっぱり、こっちの距離に合わせて軌道を変えてくる。もう少し射距離を詰めれば当たりそうだけど、それは無理か)

 

 ライフルを構えて引き金を引くが、やはり当たらない。

 そうこうしていると死角からレーザーが放たれ、展開した魔法陣に衝突する。

 

(昨日覚えた瞬時加速を使えば、一時的にボールビットとの距離を詰めることができるかもしれないが、溜めの隙が大き過ぎる。そこをオルコットさんが逃すとは思えない)

 

 使える武装はビットを破壊しない範囲と規定されている。

 高い破壊力を持つ魔砲は論外。金剛力もこの距離では役に立たない。かろうじて使えるのは魔法陣だが、阿九斗の集中力では一度に展開できるのは一枚まで、つまり防御できるのは一方向にのみ。これでは4機あるブルーティアーズの射撃に対応しきれない。

 

(せめて、あの4機を無力化できれば...)

 

 それも破壊以外の方法で、だ。

 いつの間にか落とした1機が再び旋回を開始する。これでまた振り出しに戻った。

 

(このまま避けながら撃ち続ける以外になにか方法は───)

 

 わずかな隙を見つけては引き金を引く。当たるのは希、何度か命中したものも、そのほとんどがまぐれといっていい。

 精神的な疲労とともに徐々に苛立ちが芽生え始め、判断や照準を鈍らせた。

 

(会長の言う通り、全滅させるなんて不可能だ。当たらないものを当たるようにするって言ったって、そんな都合のいい方法があるわけ───)

 

 レーザーの青い軌跡が阿九斗のこめかみを掠める。

 ゾワリとした感覚とともに冷静さを取り戻した。

 

(まだだ、考えろ。僕には射撃能力がない。昨晩はそれを高めるためにプログラムを振り替えたと僕は思った。けど本当にそうなのか? こんな無茶な課題が誰にでもこなせるとは思えない。なら裏を返せば、これは僕だからこそできると組まれた課題ということだ。もし射撃能力を必要とせずに正確に当てる方法があるとするなら、恐らくそれは僕にしかできないこと)

 

「ふふ、はは、ははははははっ!」

 

 阿九斗は喜びに声を上げた。

 瞳から血が滴るように痣が浮かぶ。

 

(そうだ。このライフルも撃つ度にシールドエネルギーを消費している。つまり─────)

 

 阿九斗はろくに照準を合わせることなく、頭上に銃口を向ける。

 

「見つけた! 当たらないレーザーを当てる方法を!」 

 

 そのまま発射されたレーザーはビットに当たるはずもなく、上空へ一直線に軌跡を描いていった。

 

「当たらなくていい...後はそれを当てるようにするだけだ」

 

 ライフルを捨て、放ったレーザーに意識を集中する。

 

─────ギンッ─────

 

(曲がれ!!)

 

 空へと登るレーザーが速度を落とし、やがて落下するように阿九斗のもとへ戻っていく。

 

(右下!左上!)

 

 念じたままに右下を旋回していたビットに着弾すると反射するように左上のビットを打ち抜く。

 

「できた...なんだ、やってみれば簡単なことじゃないか」

 

 不敵に笑う。

 一筋のレーザーがまるで生き物のように阿九斗の周りで赤い軌跡を描いていた。

 驚いているのか、セシリアの攻撃が止んでいる。

 

(都合がいい。早々に決着を付けるとしよう)

 

 阿九斗の眼光とともにレーザーがボールビットを射抜いた。

 

(次...上!左下!右上!前方!背後!)

 

 阿九斗の意思に反応して次々とビットを追尾して撃墜していく。

 楯無が通信機に向かって叫ぶ。

 

「セシリアちゃん! 攻撃止まってるわよ!」

 

 すると今まで妨害を停止していたビットが攻撃を再開した。

 4本のレーザーが直撃するが、それでも阿九斗はレーザーのコントロールを手放さない。

 

「......これで、最後!」

 

 赤い曲線が12機目のビットを打ち抜いた。

 

「全機撃墜を確認。1機目撃破から全滅までのタイム17秒。合格ね♪」

 

 インカムを手に取り楯無は言った。

 

『訓練終了よ。お疲れ様』

 

 阿九斗はアリーナに着陸すると、力が抜けてその場に片膝をついた。

 肉体的にも精神的にも疲弊は相当なものだった。

 

『今のはまさか...フレキシブル!?』

 

 驚愕の表情で立ち尽くすセシリア。

 一瞬にして12機のボールビットを撃墜。それもたった一発のレーザーの偏光射撃によって。

 

「いいえ、もっと高度で単純なものよ。彼は光を屈折させてるのではなく、魔王の瘴気をコーティングしたレーザーをイメージで無理やり湾曲させているの」

 

『魔王の瘴気、ですの?』

 

「ええ、彼の専用機の武装。魔王の名に相応しい支配する力。別名、慣性操作結界」

 

 楯無はこれを待っていたのだ。

 内部のエネルギーをコントロールできるだけの強力なイメージインターフェース。そして実弾とは違い、ISのエネルギーを消費して撃つレーザーやビーム系統の武装であれば、発射後に射線を操作することも不可能ではないと楯無は考えた。

 

『操作!? ラウラさんのAICでも停止が限度ですのよ! それがこんなに早く...』

 

 ドイツの第3世代型IS《シュヴァルツェア・レーゲン》。その武装にはAIC、慣性停止結界が搭載されている。だが、まだそれが発表されてから半年も経っていない。

 

「たしかに本来なら相当な出力を必要とするわ。でも赤外線レーザー程度ならスペック上、十分可能よ」

 

(とはいえ、私も高性能な射撃補正くらいに考えてたんだけどね)

 

 曲射レーザーによる追尾射撃が楯無の思い描く到達点であった。しかし阿九斗はその予想を遥かに超え、発射したレーザーを完全にコントロールしてみせた。

 

「これはひょっとしたら、ひょっとするかもしれないわね」

 

『どういうことですの?』

 

「ううん、こっちの話よ。セシリアちゃんもお疲れ様。戻っていらっしゃい」

 

 そう言って通信を切る。

 ホーミングと違い、軌道を自由に変えられるならば戦略の幅は一気に広がる。

 もしリミッターを外した魔王のフルパワーで、阿九斗が高出力の魔砲をコントロールするに至ったら。

 

「......つくづく期待させてくれるじゃない。ここまでお姉さんを夢中にさせるなんてね♪」

 

 楯無はその笑みを隠すように扇子を開いた。

 

 

 

 

 

 

 ISを解除すると身体が石のように重たかった。

 すぐには起き上がる気にもなれず、地面に伏していたら頭に柔らかな感触を感じた。

 

「なっ!?」

 

 見なくともセシリアが息を飲んだことがわかる。

 

「どうかな? お姉さんの膝枕の感想は?」

 

「少し、枕の位置が高いです......」

 

 頭が働かず、何も考えずに思ったままのことをを言うと楯無は畳んだ扇子で阿九斗の額をぺシリと叩く。

 

「女の子の脚になんてこと言うの!」

 

「はい...すみません」

 

 ようやく頭が回ってきて、阿九斗は身体を起こす。

 そこにはISを解除したセシリアと頬を膨らませた楯無がいた。

 

(...しまった。つい失礼なことを)

 

 なにかフォローを考えようとしたが、強烈な頭痛と目眩がそれを邪魔する。

 

「言い訳はいらないから休みなさい。疲れてるでしょうから、反省はまた後日」

 

 

 

 

 

 

 学生寮までの帰り道。

 日が沈んで暗くなった中庭を一定の間隔でライトが照らしている。

 

「...おっと」

 

 ふらついた阿九斗の身体を横からセシリアが支えた。

 階が違っても目的地は同じなのだから、わざわざ別れて帰ることもないとこうして二人で帰路についているわけだが、なんだかんだで阿九斗はセシリアに世話を焼いてもらっていた。

 

「しっかりしてくださいな。エスコートは本来、殿方の役割ですのよ」

 

 そう言うセシリアの表情は呆れ半分。しかし、もう半分には阿九斗への確かな敬意が込められていた。

 出力の低いレーザーとはいえ、あれほどのコントロールを維持するのに必要とされる集中力は計り知れない。阿九斗はそんな芸当で、不可能とすら思われた楯無の課題を見事達成してみせたのだ。

 

「......たしかに、女の子に寄りかかって歩くのは格好がつかないな」

 

 肩を落とす阿九斗にセシリアが寄り添いながら寮に到着する。ここからエレベーターで4階まで上がれば部屋は目と鼻の先だ。

 

「もう大丈夫。オルコットさんも疲れているだろうに、君には迷惑をかけてばかりだ」

 

「わたくしなら平気ですわ。ビットの操作だけで大した労ではありませんでしたもの。それよりも......」

 

 しばらく間を空けてセシリアは言った。

 

「よろしかったら、これからはセシリアとお呼び下さい。同じ専用機持ち同士、ファミリーネームでは他人行儀ですわ」

 

「しかし、君は身分ある人と見た。クラスメイトとはいえ、そこはわきまえるべきじゃないのかい?」

 

 事実、セシリアはイギリスの名門貴族の出身だ。本来なら席を同じくすることもないはずの立場にいる。

 

「ここではただのセシリアですわ。それに、わたくしも簡単に殿方に呼び捨てを許す女ではありませんのよ」

 

「え? それはどういう───」

 

 有無を言わさず、阿九斗の背中をそっと押す。ちょうど開いたエレベーターに阿九斗が尻餅をつくとセシリアは閉ボタンを押した。

 

「ではまた明日、学校でお会いしましょう」

 

 阿九斗が返事を返すまもなく扉が閉まる。

 小さく手を振りながら見送ったあと、セシリアは壁にもたれて待機状態の《ブルーティアーズ》を撫でた。

 

(いけませんわね。危うく決意が揺らぐところでしたわ。どうして闘志に満ちた殿方の瞳は、こんなにもわたくしを心惑わすのでしょう)

 

 胸に手を当てて、想い人の笑顔を思い浮かべる。

 

(心に決めた殿方は、織斑一夏さんただ一人。よそ見などして、皆さんに遅れを取るわけには参りませんわ)

 

 決意を新たに、セシリアは自室へと戻っていった。

 揺れる心は輪舞曲の如く。

 

 

 

 




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ではまた次回~
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