♚IS学園の大魔王   作:くぼさちや

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15話 「ヒーローの条件」 ゴーレムズ戦:前編

 

 

千冬の指示を無視して阿九斗は襲撃してきたゴーレムとの戦闘に入った。

 

(敵機の名称は...ゴーレムとゴーレムⅢ。一度に2機の敵を相手にしなくちゃならないのか...)

 

 ゴーレムは不格好なほどに手足が太く長く、腕の至る所にある砲門からはビーム兵器特有の光の粒子が散っている。

 対してゴーレムⅢは全体的に装甲が細く、女型、といった印象だった。赤いカラーリングの左右一対のシールドビットが機体を軸に浮いていて、腕には大型のブレードが握られている。

 

(時間稼ぎが限界か......いや)

 

 阿九斗は魔砲で牽制しつつ接近し、金剛力で強化した拳を叩き込む。

 楯無との特訓の成果か、追尾とまではいかないものの魔砲の弾道をある程度曲げることができるようになった。中距離まで近づけば有効な攻撃手段として活用できる。

 

(訓練でビット4機の攻撃を回避しながらボールビットを撃墜できたんだ。2機なら僕でも十分対処できる)

 

 ゴーレムの攻撃に集中していると、ゴーレムⅢが背後から接近する。それを阿九斗は振り向くことなく手のひらを後方に向けて魔砲を放った。

 着弾と同時に距離が開く。

 

「ハイパーセンサーを使った死角への射撃は、ビットを相手に散々やってきたものでね」

 

 墜落していくゴーレムⅢをセンサー越しに確認して、正面のゴーレムの頭を掴んだ。

 

「ふん!」

 

 引き寄せながら腹部に拳を叩き込む。

 衝撃で吹き飛んだ機体が後方の客席のシールドに叩きつけられた。

 手足のパーツが四散して重力に逆らうことなくアリーナの地面に落ちていく。しかし、妙なことにその装甲にダメージを与えられているようには感じない。

 

(...おかしい、派手に吹き飛んだ割にはあまりにも手応えが薄い)

 

 ゴーレムは不気味に装甲をよじって立ち上がった。両腕のビーム砲から粒子が漏れ、その照準を阿九斗に向けている。最初に落としたゴーレムⅢも立ち上がり、弾けとんだ腕も磁力で引きつけられるように戻っていった。

 

「気味が悪い...とは思うけど、僕が言えたことじゃあないね」

 

 阿九斗は傷ついた拳を修復しながら言った。

 再びゴーレムⅢが真正面から阿九斗に突っ込む。突き出された大型ブレードの切先を阿九斗は金剛力で受け止めた。掌を胸の前で合わせ、それで刃を挟み込んでいる。

 ゴーレムⅢはブレードを引こうとも押そうともまったく動かないため、左右に身体を揺すっていた。

 

「単純な力比べなら負ける道理はないか」

 

 阿九斗は再び拳にマナを集中させた。

 

 

 

 

 

 

 避難中の生徒の列から簪は飛び出した。

 職員たちの話しから襲撃してきた2機のISと阿九斗が第6アリーナで交戦しているという情報はすでに他の生徒たちの知るところとなっている。

 

(機動試験のために《打鉄弐式》は第6アリーナのハッチに置いてある。早く行かないと......)

 

 教員棟を抜けて第6アリーナへ。

 緊急時のプログラムが作動しているのか、アリーナの出入り口にはシャッターが降りている。

 簪は持っていた端末のプラグを門のロックに差し込んだ。認証キーを読み込み、それを打ち込んでいく。

 

【認証確認】

 

 ランプが点滅し、シャッターが開いた。

 

「待ってて、阿九斗。わたしも一緒に......」

 

 避難勧告の表示を無視して一気に階段を駆け上る。

 機能していない自動ドアを細い腕でこじ開けると、そこにはケーブルに繋がれた自身の専用機があった。そして隣りにはよく見知った女子生徒が一人。

 

「あっ、かんちゃんだ~! やっぱり、ここに来たんだね~」

 

 妙に間延びした口調。丈の長い制服の袖が彼女の腕に吊られるようにして揺れていた。

 

「ほ、本音!? どうしてこんなところに...」

 

「ええ~? だって~みんなが避難したのに、かんちゃんがいなかったから~こうして探しに来たのだ~」

 

 本音の眠たげな目がキラリと光る。

 布仏家は代々更識家に仕えてきた家系であり、本音は簪の専属メイドだ。

 

「...阿九斗がアリーナで戦ってるの。わたしも《打鉄弐式》で出る」

 

 簪は本音が自分を連れ戻しに来たのだと瞬時に悟った。

 

「そう言うと思ってたよ~。でもでも、まだ武装がないよ~?」

 

「ハイパーセンサーもスラスターもちゃんと動く。使えないのは山嵐のマルチロックオンシステムと荷電粒子砲だけ。完成してる近接戦用の夢現があれば十分」

 

「わかったよ~。だけど、無理したらダメだからね~」

 

 無理を承知で言っていたのだが、思いのほかあっさりと聞き入れられた。

 

「......とめないの?」

 

「もちろん。だってわたしはかんちゃんの専属メイドだからね~。かんちゃんが行くって言うなら~温かく見送るのがわたしの仕事だよ~」

 

「...ありがとう」

 

 今回ばかりはその優しさに甘え、簪はケーブルの接続を切って《打鉄弐式》に乗り込んだ。

 まだ量子変換も済ませていない超振動薙刀の夢現を携えて位置に着く。

 

「発進スタンバイ、開けて! 本音!」

 

「りょ~か~い! 第3ハッチ、開放~!」

 

 簪はカタパルトの上で体勢を落とす。

 

「...進路クリア。《打鉄弐式》出ます!」

 

 

 

 

 

 

「......いい加減、こっちも苦しくなってきたな」

 

 阿九斗の息が上がる。

 

(やっぱり、どんなに攻撃しても大した手応えを感じない)

 

 得意の金剛力で無人機を殴り倒しているのだが、攻撃を受けるたびに各身体のパーツの接続部分を外して巧みに衝撃をいなしている。その上、ゴーレム2機の装甲はかなり固い。

 放たれた魔砲をかわし、左右から阿九斗を挟み込むように肉薄する。

 一見、2体の敵を相手にすることに負担が出てきたようにも思えたが、ゴーレムは阿九斗の動きを学習し、少しずつ戦法を変えてくる。連携も上がっているようだった。

 

(長引かせるとこちらが不利か。下手に賢くなられる前にケリをつけないと)

 

 しかし、幾度となく攻撃を繰り返しているが、2機のゴーレムの頑強な装甲には阿九斗の金剛力や至近弾での魔砲ですら決定打にならない。

 

(シールドエネルギーを削り切ることができれば、あるいは機能停止に追い込めるかもしれないが、ここまでの戦闘でエネルギー切れを危ぶんでいる様子はない。いや、そもそも無人機であれば搭乗者を守るような機能はいらないんだ。絶対防御もシールドバリアもなく、ただ強固な装甲だけで身を守れば、移動や攻撃だけにエネルギーを割くことができる)

 

 だとすれば、中途半端な威力の攻撃ではまるで意味がない。

 

「あの装甲を破らない限り、勝機はないってことか」

 

 そのとき、ゴーレムの一体に急速接近する機影があった。

 

「やぁああああっ!」

 

 細身の薙刀がゴーレムⅢの腹部を突く。超振動する刀身が装甲を削るがそれでもやはり刃が立たない。

 

「簪さん!」

 

 《打鉄弐式》を纏った簪が夢現で真一文字に斬り払い、距離を取る。

 

「どうして君がここに?」

 

「一人でなんて無茶しすぎ...。わたしも一緒に戦いたい」

 

 そんな普段とは違う感情的な語気に押されながらも、阿九斗は口を開いた。

 

「無茶なのはわかってる。でも、誰かがやらなくちゃいけないことだ。それに代表候補生である君の腕を疑ってるわけじゃないけど、やっぱり危険だよ」

 

「阿九斗は...どうしてそうやって、全部一人でやろうとするの? 全部抱えて、自分一人で決着をつけようとしてばっかりで......!」

 

 その言葉は阿九斗だけではなく自分自身にも向けられた言葉だった。

 一人でISを開発することにこだわっていたせいで、ここぞという今、不完全なままの力で戦わなければならなくなってしまった。自分一人でことを治めようとした阿九斗にその色を見たのだ。

 

(たしかにその通りかもしれない。なにもかも全部できるつもりでいて、格好つけて行き当たりばったりで失敗した結果、僕は今この世界にいるんだ)

 

 阿九斗は意を決したように首を振ると、簪に呼びかけた。

 

「未完成の機体であまり無理はさせたくない。が、この調子だと多分君には負担をかけてしまうだろう。だからせめて専用機がどこまで完成しているのか教えて欲しい」

 

────ピピッ

 

 送られてきたのは《打鉄弐式》のスペックデータだった。

 口頭で説明されるよりずっとわかりやすい。

 

「なるほど、メイン武装以外は完成しているようだね。よかった」

 

 これなら戦えなくはない。しかし、阿九斗と同様に有効打を与えるには攻撃力不足だった。

 

「一度打ち合ってわかっただろうけど、敵の装甲が硬すぎる」

 

「うん、わたしの夢現でも刃が通らない」

 

「いや、それはまだわからないよ」

 

 阿九斗はほくそ笑んだ。

 そしてブースターを吹かせてゴーレムに掴みかかる。攻撃ではない。金剛力でアリーナの端に押し込んだだけだ。そしてもう1機との間を簪が取り、2機のゴーレムを分断させる。

 簪は数回の立ち合いの末、ゴーレムⅢのブレードをかわして突きを放った。夢現の刃が再びその装甲を削る。

 

「阿九斗! 今!」

 

 その合図で阿九斗は押さえ込んだ客席のシールドと挟み込むように魔法陣を展開してゴーレムの動きを止めた。

 そしてすぐさま瞬時加速で簪の背中を押し、夢現の柄にマナを込める。

 

──────ガガガガガガガガッ!

 

 急速に出力が上がり、刃の振動がチェーンソーのような音を立てて唸る。

 

(畜生、これでもまだか!)

 

 一見、無人機の装甲を削っているように見えたが、マナの強化を受けて削れているのはむしろ夢現の刀身の方だった。

 そのまま阿九斗がさらに力を込めると振動に耐え切れなくなった夢現の刃が弾け飛ぶ。

 

「危ない!」

 

 阿九斗はゴーレムⅢを蹴った反動で簪とともに距離をとった。さっきまで二人が居た場所を後方から放たれたエネルギー弾が通り過ぎていく。

 

(悪くない手だとは思ったんだけどね)

 

 どうやら魔法陣による拘束はそこまで有効には働かなかったらしい。抜け出したゴーレムが再び照準を阿九斗に合わせている。

 

「簪さん。第三世代兵器の山嵐を、照準は適当で構わない」

 

「えっ......? でも、それだと当たらない」

 

「大丈夫、僕を信じて」

 

「...わかった!」

 

 簪は展開したキーボードを操作して山嵐を選択、48発のミサイルが上空に向かって放たれる。

 

──────ギンッ──────

 

 阿九斗は打ち上げられたミサイルに意識を集中させた。

 

「レーザーと違ってミサイルの照準は常時整える必要はない。慣性を操って多少角度を変えてやれば、後はその方向に向かって勝手に進んでくれる!」

 

 一定のシステムに則って行動する無人機はロックオンすらされずに放たれたミサイルを驚異と認識しなかったのだろう。一切照準を合わせず上方に飛んだ山嵐は直角にその進路を変え、2機のゴーレムを捉えた。

  

────ドオオオオオオオンッ!

 

 ミサイルの着弾と同時に爆煙があがる。

 煙が晴れたそこで2機のゴーレムが立ち上がるのが見えたが、山嵐を受けて装甲は酷く損傷していて、ひび割れた胴体に黒い球体が埋まっているのが見えた。

 

(装甲が破れてコアが見えた! 今なら勝てる!)

 

「おおおおおおおっ!」

 

 阿九斗はスラスターを噴かせて接近し、拳を振り上げた。

 

「阿九斗っ! 行っちゃダメッ!」

 

 簪の静止が聞こえたが構わず直進する。

 

(─────もらった!)

 

─────ズンッ

 

 肉が裂けるような音が聞こえた。

 そして腹からなにか熱いものが流れる感覚がする。

 

「な、に...?」

 

 見るとゴーレムⅢのシールドビットが阿九斗の肺に深々と突き刺さっていた。ISのシールドを破った攻撃にもかかわらず、絶対防御が発動していない。

 ビットが引き抜かれると貫かれた腹部から鮮血が吹き出し、傷口を押さえて後ずさる阿九斗に無人機は距離を詰めて顎を蹴り上げた。

 

「ぐあっ!」

 

 数回地面をバウンドした後、客席のシールドに叩きつけられる。

 

「阿九斗! 阿九斗!」

 

 崩れ落ちる阿九斗に、すぐさま簪が駆け寄った。腹部の傷を見るなりその顔が青ざめ、瞳には涙が滲んでいる。

 阿九斗は破れた肺を空気が通っていく感覚に寒気を感じた。

 

(マナによる回復が遅い...これもリミッターの影響なのか......)

 

 阿九斗は血を噛み締めて悔やんだ。相手の情報も不十分だったにもかかわらず、それでもどうにかなると油断していた。

 

「......一夏や、ほかの候補生たちは...?」

 

「......まだ別の襲撃者に、苦戦してる」

 

 ディスプレイには《サイレント・ゼフィルス》を相手に苦戦を強いられている専用機持ちたちの姿があった。

 

「...じゃあ、なおさらあれを合流させるわけにはいかないな。なんとしてもここで」

 

 阿九斗は立ち上がろうとするが身体に力が入らない。

 誰の目から見ても戦闘の継続は不可能だった。

  

「......いや、すまない。まだ戦えるなんて、強がりは...言えそうにないよ......」

 

「言わなくていい...! 何も言っちゃダメ...」

 

「...僕なら平気だよ。でも、あんなのを相手にして......ほかの候補生たちが無事で済むとは思えない」

 

 阿九斗はゆっくりと呼吸を整える。

 

「君が、あれを倒すんだ」

 

 簪は身体を震わせた。夢現の柄に涙が落ちる。

 

「無理だよ...私は、弱くて...臆病で......」

 

 目元を赤く腫れさせて首を振る。

 阿九斗が戦えない以上、簪一人では山嵐を当てることはできない。コアが見えているとはいえ、近接武装一つでどうにかなる相手ではなかった。そうしている間にもゴーレムは阿九斗たちへと迫ってきている。

 

──────ピピッ

 

 ゴーレムのエネルギー弾の照準が阿九斗と簪を捉えた。

 

「......どんなときでも助けてくれる、誰にも負けないヒーローなんていなかった」

 

 そんな簪に阿九斗は優しく微笑みかける。

 

「大丈夫、欠けているものは僕が補う」

 

 阿九斗は簪の額に手をかざす。

 

(......できれば、この方法だけは使いたくなかった)

 

 マナを簪と《打鉄弐式》に注ぎ、コアを簪に適合させる。紫色の光が簪を包むと次々とディスプレイが表示され、データが更新されていく。

 

(なに...? これは......)

 

『コアノリンク最高値、《打鉄弐式》セカンドシフトヲ開始シマス......10...20...30...40...50%到達』

 

 電子音声のアナウンスとともに《打鉄弐式》のカラーリングが侵食するように紫へと変わっていく。

 

「君には勇気がある。ただ、それに相応しい力が欠けているだけなんだ。それにヒーローなんていうのは、別に誰にも負けないからヒーローなんじゃない。誰かを守るために戦う勇気があれば、その瞬間からヒーローになれる。僕は大切な友人からそれを教わった」

 

 ゴーレムからエネルギー弾が放たれる。その射線上には阿九斗と簪がいた。

 

『...80...90...100%到達』

 

 ひときわ強い光がアリーナに広がった。マナの固有の振動がエネルギー弾を打ち消し、客席のシールドを震わせる。

 

 

 

───セカンドシフト完了《黒鉄(クロガネ)》始動シマス。

 

 

 

「心配いらない。ちゃんと僕がついてる。気をつけて」

 




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