♚IS学園の大魔王   作:くぼさちや

17 / 33
お気に入り登録数100件突破!
読者の皆さん、ありがとうございます。


16話 「黒鉄」 ゴーレムズ戦:中編

 

「一夏くん! 行っちゃダメ!」

 

 楯無の静止に構わず一夏は雪平弐型を構えて突進した。

 多方から降り注ぐビットの攻撃を掻い潜り、瞬時加速で接近して斬りかかるとエムは難なくブレードで受け止める。

 

「お前たち、いったい何者なんだ!」

 

 その問いにエムは答えない。ただ愚弄するような笑みを浮かべるだけだった。

 一気にそのまま零落白夜で押し込もうとするが、脇腹に蹴りを入れられ、つかさずビットの追撃が一夏を襲う。

 

「ぐああああっ!」

 

 劇に使われた塔に背中から叩きつけられ、音を立てて石壁が崩れた。

 

「ふん、他愛ない」

 

 エムは専用機持ちたちに包囲されていたオータムのもとへ降り立つ。散開して警戒を現わにする一同を一瞥するとブレードの一閃でラウラのAICを切り裂いた。

 

「この程度か? ドイツのアドバンスド」

 

「貴様...! なぜそれを知っている!」

 

「言う必要はない」

 

【SOUND ONRY】

 

「......スコールか? ......わかった」

 

 プライベートチャンネルでなにやら外部と通信を取った後、《アラクネ》を操縦していたオータムに向き直る。

 

「迎撃態勢が整いすぎた。予定通り、あの2機をけしかけて帰投するぞ。オータム」

 

「てめぇ、わたしを呼び捨てにするんじゃねぇ!」

 

 怒鳴るオータムを鼻で笑い、エムは専用機持ちたちに背を向けて飛び立った。

 

 

 

 

 

 

 

「......セカンド...シフト?」

 

 自身の専用機に起きた現象に簪は驚愕を隠せない。

 

(信じられない。まだトータルでの稼働時間だって10時間もないのに、それがこんなに早く......)

 

 ISのセカンドシフトについては前例自体が少なく、未だに不明な点が多い。

 とはいえ、これが単なる偶然などとは簪も思っていなかった。恐らく阿九斗が発した青白い光が原因であろうことはそれとなく察しがつく。

 

「阿九斗...あなたは......?」

 

 そこから先の言葉が続かない。

 自分の理解の及ばない何かが自分に力を与えている。その正体を問う言葉がなんであるのか、簪には見つけることができなかった。そしてそんな心境が阿九斗にも伝わったのだろう。

 

「わかってる。事が全てまるく収まったあと、君にはきちんと事情を話す。今、僕から言えることは、そのISは操縦者の感情によって制御されている。君に立ち向かう意思があるのなら、その意思に沿って必ず力を貸してくれるはずさ」

 

 簪は《黒鉄》の武装情報を読み込んだ。

 程なくして表示された武装の一覧を目にして簪は眉をひそめる。

 

・高周波振動薙刀「ブレードチェーンソー」

・二連装大型コイルガン「アスタロト」

・回転アーム式プラズマ砲「スカーレットガンナー」

・脚部ヒートブレード「ファング」

・6×8フルマニュアルミサイル「ケルベロス」

 

 膝上の回転アームにはプラズマ砲。盾のような形をした左右の浮遊ユニットには砲身の長い大口径のコイルガンが2門ずつ伸びている。大型の薙刀は紫色に怪しく光り、第三世代兵器の山嵐の代わりにあった武装は全く違うタイプのミサイル兵器だった。

 

(ケルベロス? 山嵐じゃない...。《打鉄弐式》と少し武装が違うけど、今はそんなことは言ってられない)

 

 いくつかの後付け装備が見受けられたものの、セカンドシフトとだけあって、そこにあったのは《打鉄弐式》に搭載していた武装に近いものだった。

 

「...簪さん」

 

 魔法陣を前面に展開し、崩れた客席の壁に身を預けていた阿九斗が言った。

 その声に振り返った簪を後ろめたさを含んだ表情で見つめる。

 

「くどいようだけど、本当に気をつけて」

 

「......大丈夫、あの2機はわたしがやっつける」

 

 簪は手動でケルベロスを選択する。

 

「ケルベロス、全弾一点集中!」

 

 一斉に放たれたミサイルがゴーレムⅢの周囲に散らばるように打ち込まれた。

 さらにそこから爆煙に隠れた機体に向けてハイパーセンサーを頼りにコイルガンとプラズマ砲を放つ。

 熱波が周囲に拡散し、煙に混じってスパークが立ち上る。

 

「......まだ」

 

 黒く溶解したグラウンドの中央で黒い影がのそりと立ち上がった。

 再び2機のセンサーが簪をロックする。

 

(フルファイアで叩き込んでも仕留めきれなかった......ううん、弾道が散ってうまく命中しなかったんだ。このケルベロスって武装、コントロールが難しすぎる)

 

 倒しきれなかったのはこうした仕様の違いが原因だろう。

 山嵐がマルチロックオンによって各ミサイルが個別に敵機を追尾する。それに対し《黒鉄》のケルベロスはフルマニュアル、つまり発射から着弾の瞬間まで最大で48発のミサイルを常時コントロールし続けなければならないことになる。

 

「なんにしても、わたしだって初手で終われるとは思ってない。あなたたちは阿九斗を傷つけた」

 

 ケルベロスの残弾がないとはいえ、プラズマ砲のスカーレットガンナーやコイルガンのアスタロトにもまだ余裕がある。いざとなればシールドビットによる致命傷のリスクを覚悟で接近戦闘に持ち込めばいい。

 

「これ以上、好きにはさせない」

 

 

 

 

 

 

「織斑先生! これは!」

 

「ああ、間違いない。束の話に聞いていたマナによるISの突然変異だ」

 

 マナ特有の光と装甲の変形。コイルガンや脚部ブレードといった本来搭載されていなかった武装の搭載。そして《魔王》に似た禍々しいカラーリングなど、そう結論づける判断材料には困らなかった。

 

「交戦していた《サイレントゼフィルス》と《アラクネ》はどうなった?」

 

「両2機はいずれも学園外へ逃亡。現在、更識生徒会長が単独で尾行中です」

 

 単独とはいえ更識楯無は裏工作を実行する暗部に対する対暗部用暗部〝更識家〟の当主。追跡が本職ではないにせよ、隠密行動は彼女の十八番といえる。

 

「よし、もういいだろう。更識に撤収するよう指示を」

 

 千冬はオープンチャンネルを開いた。

 

「───全専用機持ちに通達する」

 

 

 

 

 

 

(......不思議、どうしてか身体が軽い。)

 

 全身の神経が澄みきってるのがわかる。各スラスターの出力、姿勢制御、その他細かな動作の一つ一つが簪の思い描く通りに動いていた。

 

(初めて扱う機体なのに、今までずっと一緒にいたみたいに戦い方がわかる)

 

 簪は距離を詰める。ブレードチェーンソーの先端がゴーレムの胴体を突いた。

 堅牢な装甲に弾き返されるような手応え。それとともに僅かだが刃の先端が通ったように感じた。

 

「......斬れる...!」

 

 そのままスラスターの出力を上げて急降下。ゴーレムをアリーナに叩きつけると、振動する刃を押し付けながら地面の上を引きずっていく。

 ブレードチェーンソーが音を立てて装甲を削り、やがてそれを貫いた。しかしそれでもまだゴーレムは右腕の砲門を向けてくる。

 

(中心のコアを外した...でもこれなら装甲を破れる)

 

 簪はブレードチェーンソーを引き抜き、後ろに引き下がる。

 左翼のユニットにビームが掠めていった。

 

(可能性は見えた。でも気は抜けない......)

 

 そこから数発のコイルガンで牽制を入れて、簪は両機の位置を確認した。

 たとえ戦闘が有利に進んでいても相手の攻撃は絶対防御を越えて生身へとダメージを与えてくる。それこそ、装甲のない場所へ攻撃を受ければ阿九斗のように一撃で致命傷を負いかねない。

 

(確認する限り、ISの絶対防御そのものが無効化されてる。恐らく武装によるものではなくジャミングかなにかで絶対防御の発動を阻害しているんだ。だとすればあのシールドビットに限らず、中・遠距離での被弾だって許されない)

 

 ゴーレムは砲門の数にものを言わせてビーム兵器を乱射している。ゴーレムⅢは手数こそそれに劣るが近接武装と射撃武装のバランスがよく取れていた。近づかれれば厄介だがまず仕留めるべきは、

 

「先に...!」

 

 簪はゴーレムの弾幕を避けきって叩きつけるようにブレードチェーンソーで斬りつける。

 ゴーレムは対抗して拳を振るうが、やはりその動きは鈍い。

 

「せぇああああああああっ!」

 

 手数で押し通すかのように簪はひたすら攻撃を繰り返した。その度にゴーレムには小さいながらも切り傷が増えていき、立て続けに襲う斬撃の波が徐々に機体を蝕むように装甲を削っていく。

 

(これなら......!)

 

──────ピピッ

 

 ゴーレムⅢが接近していることをセンサーで察知し、大上段から振り下げられた大型ブレードを浮遊ユニットで受け止める。

 その隙にゴーレムはスラスターから黒煙をまき散らしながら簪から距離を取った。

 

(逃がしたけど、着実にダメージは蓄積させられている)

 

 簪はゴーレムⅢの胴体を突いた。

 やはり装甲が細いだけにゴーレムより動きが俊敏で、あっさりとかわされたが、そこから瞬時に手首を返すことで簪は突きから横薙ぎにその軌道を変えた。

 胴体の中間部分にブレードチェーンソーの刃が食い込み、そのまま力の限りなぎ払う。

 

「こういうフェイントは......阿九斗にはできなかったはず......!」

 

 確かな手応えを感じて、簪はコイルガンで追撃した。

 

「学習速度の速さは認める。でもわたしが同じ攻撃を繰り返すとは限らない。変化のパターンは...まだいくつもある」

 

 恐らく同じ攻撃も2度は通じないだろう。

 しかしゴーレムたちは一度見た攻撃のパターンに惑わされ、同じ挙動から簪が打ち込みに変化をつけてきた場合、それを絶対に避けることはできない。

 無人機ならではの弱点を突いた簪の戦略だった。

 

(...これで決める!)

 

 上段に振り上げたブレードチェーンソーに合わせてゴーレムは腕を重ねて防御の姿勢をとる。そのまま振り下ろすと思いきや、簪はそこから脚部ブレードのファングを展開して蹴り上げた。

 ゴーレムは体勢を崩し、その距離から放った2発のコイルガンが摩耗した装甲にめり込む。

 墜落したゴーレムがそれ以上動かないことを確認すると、ゴーレムⅢに視線を移した。

 

(あとは発展型が1機......)

 

 ゴーレムⅢは大型ブレードで簪に斬りかかった。

 

「...当たらない」

 

 体勢を反らせてブレードを避ける。

 わずかに頬を掠めたものの、反らせた身体に隠すように振りかぶったブレードチェーンソーで横薙ぎに払うと、堅牢な装甲に弾かれるようにして両者の距離が開く。

 

「この距離なら...!」

 

 膝下の二つの砲身に紅いプラズマが走ると、それが一直線にゴーレムⅢへと放たれた。

 ゴーレムⅢは二つのシールドビットを重ねて耐え忍ぶが、ビットの許容限界を超える高出力のプラズマは徐々にそれを押し込めていく。

 

「......ずっと、わたしを助けてくれるヒーローを望んでいた。誰にも負けない、どんな時でも助けてくれるヒーローが。でもそれは間違いだった。誰かを守るために戦う意志があるなら、それに強さはいらない。ヒーローじゃないわたしに必要だったのは、勇気だったんだ!」

 

 感情の昂ぶりとともにプラズマの口径が広がった。

 

「わたしは、阿九斗を守る! その為なら誰にも負けたりしない!」

 

 アリーナ中をプラズマが走り、照明設備が一斉に割れる。そして紅い雷光はシールドビットを砕き、ゴーレムⅢを打ち負かした。

 

「......勝った」

 

 アリーナのあちこちでうねるようにプラズマが上がる。

 

「そうだ! 阿九斗!」

 

 阿九斗もとへ駆け寄ろうとすると、最初に仕留めたはずのゴーレムが再び起動した。

 簪を補足し、ゴーレムの腹部からビームの粒子が溢れる。

 

「無駄...そんなの、わたしと《黒鉄》には当たらない......」

 

 簪は自身のスラスターに意識を集中させる。しかし、向けられていた照準が不意に《黒鉄》から外れた。

 ゴーレムは中破した機体を引きずるようにゴーレムⅢのほうへ向くと、高出力のビームを放つ。

 

「なにを!」

 

 その輻射熱に耐えられなかったのか、ビームを撃ち終えるなり、ゴーレムはパーツの各部から小規模な爆発を起こして機能を停止した。

 鉄の塊となった身を横たえて、装甲のライトラインが消える。

 

(まさか情報を消すために......)

 

 しかし、視界の端で敵機の出力データが振り切れた。停止した機体ではなく、撃ち込まれたもう1機の方だ。

 ゴーレムⅢの周囲に高密度のエネルギーが弾ける。

 

「違う...! エネルギーを吸収してる!」

 

 細身の装甲に鎧を纏うかのように次々と追加装備が展開されていく。

 膨れ上がった巨大なエネルギー球の中で身じろぐように動くと、損傷した部分が修復され、やがてそれを収束するように膨大なエネルギーがその機体の中に収まった。

 

『コォオオォオォォオオォオォ......』

 

 吐息のような排熱音がゴーレムⅢから漏れる。

 中世の甲冑を思わせる造形の装甲に足や背中などの複数箇所に小型のスラスターがいくつも備え付けられている。

 後付けされた左右の肩の装甲からは腕が伸び、計4本になった腕にはそれぞれ実体の大型剣が握られていた。

 

──────ピピッ

 

(出力が跳ね上がった...エネルギー反応が通常のISの比じゃない)

 

 次の瞬間、機体の像が陽炎のように揺らめいたかと思うと、ゴーレムⅢが弧を描いて簪に肉薄する。

 

「ぐっ!」

 

 簪はやむを得ず浮遊ユニットを盾に攻撃を防ぐが、切り裂かれたユニットが破損してコイルガンの砲身がスパークを発した。

 

(速い...! 速すぎて照準器が追いつかない)

 

 通常のIS同様の速度で旋回していたと思えば、突然尋常でない速度で接近してくる。近づいては距離を取り、急接近して攻撃を行うヒット&アウェイの繰り返し。

 時には左右に機体を振って照準を撹乱しながら、そして時にサイドから回り込むように加速する。そしてその加速の瞬間、簪はゴーレムⅢのスラスターに不自然なエネルギーの揺らぎを認めた。

 

(......あり得ない、まさかあれは)

 

 一度放出したエネルギーを再び吸収し、螺旋を描くような軌道で簪に迫る。

 

「ぐっ!」

 

 右曲がりに回転がかかり、遠心力の加わった4つの斬撃を簪はどうにか受け止めた。

 強烈な一撃にブレードチェーンソーを握る両腕が痺れる。

 

(一撃が重い......! それにこの尋常じゃない機体加速度、間違いなく瞬時加速!)

 

 瞬時加速は本来、直線軌道しかできない。

 加速中に無理な軌道変更を行うと機体と身体に負荷がかかり、操縦者に骨折などが起こる危険性があるのだ。そのために瞬時加速中は直線軌道しか行うことができず、軌道やタイミングを読まれやすいという難点があったが、搭乗者がいなければその限りではない。

 つまり無人機であれば本来不可能な瞬時加速による旋回、機動変更が可能だということだ。同時に、それが可能なほどの強度をこの機体は有している証明でもある。

 

「こんなの出鱈目すぎる......」

 

 追加装備を纏ったゴーレムⅢには遠距離武装はなく、あるのは規格外の速度と装甲を活かした四振りの実体剣のみ。

 ならば離れて戦うのが近接特化型を相手にする場合のセオリーだろうが、そのスピードの差は圧倒的で照準を合わせるどころか簪は《黒鉄》にとって有利なポジションすら掴めずにいた。

  

「くっ、スピードだけで押し通せるとは、思わないで!」

 

 簪は大きくカーブするゴーレムⅢの軌道を読み、その位置に合わせてコイルガンを放った。

 それをかわされると一時的にゴーレムⅢの速度が落ち、どうにか照準器が機影を収める。

 

「捉えた! この距離なら外さない!」

 

 弾速から計算して必中と言える距離から簪はプラズマ砲を放った。

 しかしゴーレムⅢはそのまま勢いを殺すことなく、着弾したプラズマ砲を剣で切り裂くように突き進んでいく。やがて斬撃の届く間合いで実体剣の矛先が簪の視界に映った。

 

(っ! プラズマの出力が弱い...やられる!)

 

 恐怖に思わず目を瞑った。

 萎縮した身を引いて迫る衝撃に備えるが、一向に攻撃してくる様子はない。

 

(......攻撃が、来ない)

 

 簪は目を開く。

 ブレードの慣性は簪の目前で停止していた。

 

──────ドン!

 

 続いて圧縮された衝撃波がゴーレムⅢを吹き飛ばした。不意の攻撃を受けてホバリングで体勢を整えているとレーザーと実弾の雨がゴーレムⅢを追撃し、止めとばかりに紅と白の斬撃が弧を描く。

 

「あ、あなたたちは......!」

 

 映ったのは純白の翼のような浮遊ユニットと同じく純白の剣。

 それが簪を庇うように背を向けている。

 

「こちら織斑、阿九斗と4組の更識さんに合流しました」

 

『確認した。これより織斑、篠ノ之、オルコット、凰、デュノア、ボーデヴィッヒの6名は更識と協力して未確認機を殲滅しろ』

 

「「「「「「 了解! 」」」」」」

 

 1年生の全専用機持ちたちが戦いの場で足並みを揃えた。

 

 

 




とてつもない文字数になりました........
皆さんの評価、感想などお待ちしています。
次なる目標は平均評価7.0!!
ではまた次回〜
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。