皆さま大変お待たせいたしました。
ゴーレムⅢ戦ついに決着です。
「あ、あなたたちは......!」
「こちら織斑、阿九斗と4組の更識さんに合流しました」
『確認した。これより織斑、篠ノ之、オルコット、凰、デュノア、ボーデヴィッヒの6名は更識と協力して未確認機を殲滅しろ』
「「「「「「 了解! 」」」」」」
一夏は背中越しに問う。
「簪さん、まだ動けるか?」
「う、うん」
簪は驚いたようにうなずくが、ふと我に帰って言った。
「待って...敵は絶対防御を無効化するジャミングを発している。迂闊に近づくのは危険......」
「ああ、千冬姉...織斑先生から聞いたよ。」
「...瞬時加速による軌道変更もできる。強度も出力も他のISとは比較にならない」
「それも知ってる」
「......ならどうして戦うの? 死ぬかも知れないのに」
一夏は雪平弐型を正眼に構える。
「そんなの当然だろ? 俺は、俺の守りたいもののために戦う。それに臨海学校で俺は阿九斗に助けられたからな。今度は俺が阿九斗を助ける番だ」
振り返った一夏は誰もが頼もしいと思えるような笑みをたたえていた。優しさと力強さを同時に感じさせるような、そんな表情だ。
「で、でも......」
それでも承服しきれないでいた簪を制するように箒は言う。
「その唐変木になにを言っても無駄だ。昔から頑固な奴でな。一度決めたことは絶対に違えない。そういう男なのだ」
箒は一夏の隣に立ち、雨月と空裂を展開する。それに続いて鈴は双天牙月を連結させた。
「そうそう。こういうときって絶対に譲らないんだから」
「まあ、そんな一夏について来ちゃった僕たちも大概だよね」
「何を言う。嫁を守るのが夫の責務だ。貴様らはともかく、夫婦である以上私が一夏のもとへ行くのは至極当然のことではないか」
それに箒とセシリアと鈴が声を揃えて反応した。
「誰と誰が夫婦だ!」
「誰と誰が夫婦よ!」
「誰と誰が夫婦ですの!」
「まあまあ三人とも落ち着いて」
ラウラの一言に憤る三人をシャルロットがなだめるように苦笑する。
そんな一同の様子を見ていて簪は思った。
命を賭けた戦いを前にしているとは思えない、日常的な温かさ。しかしそれゆえにどうにかなるのではないかという期待を抱かせる。
「......みんな、ありがとう」
○
IS学園から数十キロ離れた海沿いに位置する船舶の駐留所。
民間の運送会社に上手く偽装していたものの、そこは亡国企業と太いパイプを持つ非正規の物流組織だった。
(襲撃してきた操縦者の二人と、あともう一人いるわね)
尾行中の楯無は貨物の影に背を預けるようにして様子をうかがう。
「今のところはひとまず予定通りかな。アラクネの損傷が思ったより少ないことを考えれば、むしろ上出来なくらいだ」
「ハッ! あんなガキ共相手にやられるかってんだ」
「しかし白式のコアの奪取には失敗した」
その場所からでは顔まではっきりと見えないものの、声から察するにどうやら若い男性のようだった。
「そのことは気にしなくていい。今回の目的はあくまでIS学園に対する警告だからね。コアの奪取は二の次さ」
聞き耳を立てていた楯無は気配を消しつつ、そこからやや離れた位置にあった貨物に身を移した。
すでに学園からは帰投するよう命令が下っている。しかし楯無もここまで追って来たのだから、せめて首謀者の顔だけでも確認しておきたいところだった。
「ふん、不気味なほど計算高いな。どこまで予測している?」
サイレントゼフィルスの操縦者、尾行中に聞いたところエムと呼ばれているらしい。彼女の問いに男は笑った。
「言うほど僕も万能じゃないさ。それにIS学園の生徒もなかなか馬鹿にできない。事実として、まさか一介の学生がこんなところまで嗅ぎつけてくるとは思わなかったよ」
そう言って男は身を隠していた楯無に視線を向ける。
(っ! どういうこと? どうしてあの男が......)
楯無の瞳が驚愕に見開かれる。視線が合った瞬間、その男の顔を確認したのだ。
男はゆっくりとした動作で真一文字に手を振りかざす。すると炸裂音とともに楯無との間の空気が上下に分かれて切り裂かれていくのがわかった。
それが旋風のように通り過ぎ、楯無の首が宙を舞う。
○
「一夏! 今だ!」
「うぉおおおおおっ!」
瞬時加速に乗せた一夏の零落白夜が避けられ、空を斬った。
「ラウラ、頼む」
「任せろ!」
一夏の合図で放たれたレールカノンが装甲を掠め、ゴーレムの照準がラウラに向いた隙をついて一夏は再度、零落白夜を振りかざした。
ゴーレムは右側の二本の実体剣を交差させてそれを受け止める。
(押しきれない...!)
雪平弐型と実体剣の間で火花が散る。
ゴーレムは斬り払うように一夏の斬撃を弾いた。両者の距離が開き、そこへつかさずブルーティアーズから放たれた4本のレーザーが吸い込まれるようにゴーレムⅢに命中する。
「わたくしがここにおりましてよ!」
ゴーレムⅢは旋回して体勢を整えてながらセシリアを補足するとすぐさま反撃に転じ、持っていた実体剣のひとつを投擲する。
「なっ!」
今までなかった離れた位置からの攻撃にセシリアの反応がやや遅れた。
「危ない!」
シャルロットは剣とセシリアの間を取るとガーデン・カーテンを展開して剣を弾き返す。
剣はシールドに弾かれた衝撃で回転しつつ来た方向へ戻り、ゴーレムの手に収まった。
『コォオオォオォオオォ......』
ゴーレムⅢは放出したエネルギーを再び吸収し始める。そこから一瞬にしてトップスピード出し、その勢いのまま4本の剣をシャルロットに突き出した。
「うあっ!」
シャルロットはガーデンカーテンで防いだものの、衝撃で後方に吹き飛んだ。
そのままアリーナの地面へと流れていく機体をセシリアが受け止める。
「っ! 大丈夫ですの?」
「うん、でもたった一撃で防御パッケージが......」
展開していたガーデンカーテンに亀裂が走り、やがてパッケージがスパークを発するとバラバラに砕け散った。
「これほどの攻撃を絶対防御もなく受けては、ひとたまりもありませんわね」
上空ではゴーレムⅢが瞬時加速を駆使して飛び回っている。一瞬にして距離を詰めては斬りかかり、高速で回避をしては攻撃の隙をうかがうように旋回を繰り返している。
「いくわよ、龍砲!」
「捕捉した、スカーレットガンナー!」
鈴と簪はゴーレムⅢに照準を定めてたたみかけるように衝撃砲とプラズマ砲を放つ。
二人の強力な一撃は受け止めようとしたゴーレムⅢを軽々と吹き飛ばし、火力に押されて機体の姿勢が泳いだ。
「織斑君! もう一度!」
簪の合図に零落白夜を発動した一夏は再度、フルブーストで斬りかかる。
「今度は逃がさねえ!」
弾丸のように飛び出した一夏はゴーレムⅢの肩を突き、そのまま一直線に客席のシールドに追い込む。
やがて貫いた装甲ごと雪平弐型が背後のシールドに深々と突き刺ささり、磔のようにしてゴーレムの動きを止めた。
「簪さん! 今だ!」
「うん!」
後に続いた簪はブレードチェーンソーを振りかぶる。
一夏は突き刺した雪平弐型から手を離すとゴーレムⅢの腹部を蹴って距離を取り、入れ替わるように簪が一夏の脇を駆け抜けていった。超振動する刀身が音を立てて唸り、スラスターの出力に乗せてゴーレムⅢのコアを真横から斬りつける。
「ぐっ...!」
弾かれるような手応えとともに振動する刀身が小刻みに胴体とぶつかる。
最大出力の斬りつけたものの、やはり堅牢な装甲に阻まれてコアまで刃が通らなかった。
(そんな...! みんなが作ってくれたチャンスなのに...まだ......)
耳障りな金属音とともにブレードチェーンソーとゴーレムⅢの間で火花が散る。押し付けるように刃を当てているが一向にコアへ届く気配はない。
「やっぱり......わたしには」
───それにヒーローなんていうのは、別に誰にも負けないからヒーローなんじゃない。その人に戦う勇気があれば、その瞬間からヒーローになれる
苦しげに呟いた弱音をかき消すように耳の奥に残ったその言葉が簪の脳裏をよぎった。
瞳に再び闘志が宿り、薙刀の柄を強く握り締める。
(そうだ、ヒーローはこんなことで諦めたりしない。わたしにはまだ戦う意思がある。こんなところで終われない!)
簪の意思に比例してブレードチェーンソーの出力が上昇していく。
(阿九斗が、みんながここまで繋いでくれた。わたしは絶対に負けられない!)
刀身に雷光が走り、激しいスパークが大気の塵が焦がしながら装甲を削り始める。
「っ! せぇああああああああああっ!」
─────キィイィイィイィンッ!
薙刀の刀身が紅く光り、プラズマの熱と悲鳴のような騒音を発しながら激しく振動する。
【単一仕様能力
プラズマ分解式高熱振動切断「悲鳴狂振」発動】
──────スンッ──────
紙を切り裂くような微かな手応えとともに、薙刀の刃がコアもろともゴーレムⅢの胴体を両断した。
○
「......ここは?」
気が付くと、そこには見知らぬ天井があった。
簪はベッドから身体を起こして目元を擦ってみると、大型ブレードを掠めた頬に、じん、と痛みを感じる。その痛みはまるであの戦いが夢ではなかったことを証明しているかのようだった。
「気がついたか」
不意にベッドのカーテンが開き、千冬が顔を覗かせる。どうやら簪が寝かせられているのは学園の保健室のようだった。
あれからずいぶんと時間が経ったのか、部屋の窓から夕日が射し込んでくる。
「無人機を撃破すると同時に、力尽きて倒れたのだ。覚えはないか?」
「......覚えています。そうだ! 阿九斗は?」
簪がベッドから身を乗り出すと千冬が隣りのベッドを顎で示す。そこには自分と同じように身を横たえる阿九斗の姿があった。
繋がれた計測器が表示する心拍数と脈拍が正常であることを確認すると簪は安堵したようにため息をつく。
「命に別状はない。常識では考えられないほどの生命力だ。いや、やつの場合、治癒力といったほうがいいだろう。医療班が到着した段階では左肺の貫通、骨折12箇所、その他打撲や細かな傷を数えればキリがない程だったが、すでにそのほとんどが完治している」
簪はアリーナで阿九斗の傷を確認したときのことを思い出す。
あの場で見た限りでは阿九斗の負った傷は確実に致命傷だった。いくらIS学園の医療設備が充実しているとはいえ、一命を取り留めることができるかどうかも怪しい。
ましてや、ものの数時間で完治などはあり得ないはずだった。
しかし、現に阿九斗はこうして軽傷の簪と同様に保健室のベッドで眠っている。
そして打鉄弐式をセカンドシフトさせたと思われる阿九斗が発した青白い光。
「彼は、いったい何者なんですか...?」
千冬はそっとため息をついた。
「ああ、それについては包み隠さず話すつもりだ。もはや貴様も無関係ではいられんことだしな」
「それはつまり、わたしの打鉄弐式のセカンドシフトと関係が?」
「その通りだ。これについては各国や学園の上層部にも報告していない、というよりは報告しようのない情報だ。わかっていると思うがこのことは他言無用。IS学園内でも私を含めたごく一部の教員と更識家当主にしか知らされていない」
「お姉ちゃんが...?」
ISについては各国に情報の提示とその共有がアラスカ条約によって義務付けられている。未だ謎の多いISのブラックボックスの中でもセカンドシフトはとりわけ例が少なく、それを人為的に発生させたとなればIS学園はその情報を提示しなければならない。それを秘匿するのは協定違反だ。
しかし、そこに更識家の当主である楯無が関わっているとなれば簪にも話はわかる。
「聞かせてください。阿九斗を取り巻いている現状を、彼が何者なのかを......」
千冬は向かい合うようにして近くにあった椅子に座った。
「相当あり得ない話だ。紗伊が言うには、どうやらこことは別の世界からやって来たらしい。そこでは科学は過去の遺物と化し、数百年という長きに渡って魔術が発達してきたという。そして阿九斗は我々の世界とは多少、意味合いに違いはあるようだが、俗に、魔王と呼ばれる存在だったそうだ」
「............」
それを聞いても簪は驚くことはなかった。むしろ納得すらしている。
「現在は他国から紗伊とその専用機を保護するために学園に在学させている。特記事項が適応される2年半の間に元の世界に戻る手立てを見つけるつもりだ」
簪はしばらくなにも言わないでいたが、落とした視線に自身の専用機が映るとおもむろに口を開いた。
「阿九斗は、いつもなにかと戦っているようでした。それでもわたしの前では優しく笑いかけてくれる。でもときどき、ふと遠くを見るような目をされると、阿九斗がどこかに消えてしまうような気がして怖いんです。知らない間に、いつか誰にも届かない所へ行ってしまう。だからせめて、わたしはこの人のそばにいたいんです」
簪は紫色に染まった待機形態の黒鉄を撫でる。そして眠っている阿九斗に視線を移した。
(そう、この人のためなら、わたしはまた何度でもヒーローになれる)
その様子を見ていた千冬は柔らかく笑った。
「ふっ、若いな。だがそれもいいだろう。好きに勝る原動力はないと聞く」
「えっ? それは、どういうことですか?」
「惚れたのだろう?」
「なっ!」
簪の顔が耳まで赤くなる。そして今自分が言ったことを頭の中で復唱してさらに顔が上気した。
「さて、軽傷とはいえ、これ以上は傷に障るな。私は退散するとしよう」
千冬はそう言って保健室を立ち去る。
一人その場に残された簪は羞恥に頬を染めて悶々としていた。正確にはベッドに横たえている阿九斗と二人である。
(うっ...うわあぁあぁあぁ~っ!)
簪はそれからたっぷり五分間、ベッドの上でのたうち回った。
○
「ハァハァ......紙一枚で、どうにか逃げ延びた...かしら?」
楯無は片膝をつき、わずかに切られた首元の血を拭った。
プライベートチャンネルをIS学園に繋ぎ、遅れながら状況を報告する。
「こちら更識、追跡対象に感づかれました。これ以上の続行は不可能と判断し、帰還します」
『更識さん! よかった。無事だったんですね』
若干上ずった真耶の声が聞こえる。どうやら千冬は本部から席を外しているらしく、首謀者については無事に学園についてから話すことになるだろう。
楯無は報告可能と判断できる情報に絞って報告を済ませると通信を切った。
それだけ公にできない人物が今回の一件に関わっていたのだ。
「とっさに水の分身とすり替わってなかったら、わたしも今頃ここにはいないわね。それにしても驚いたなぁ。まさか亡国企業のバックにあんな大物がいたなんて」
縦無はゆっくりと呼吸を整えてつぶやくように言う。
「......アイリス社第三世代兵器技術顧問、大和望一郎」
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また、質問なども受け付けていますのでそちらもどうぞ。
ではまた次回〜