♚IS学園の大魔王   作:くぼさちや

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お待たせしてすみませんでした(汗)
ここ最近はなにかと忙しく、ちょっとずつでも書いていこうと思った結果こんなことに........



18話 「おかしな工作員」

 

 

特別強化プログラムに学園祭襲撃、その他なにかと騒動の絶えない毎日だったが、朝の日課は欠かさない。

 阿九斗はいつものように5時に起床し、ジャージに着替えていざランニングへ、そう思って寮の玄関前を通ったときだった。

 

(あそこにいるのはボーデヴィッヒさん...いや違うな)

 

 見たところIS学園の生徒ではないようだった。

 歳は阿九斗よりいくつか下で、白いドレスにプラチナブロンドの長い髪が腰のあたりにまでかかっている。目を閉じているのと白いステッキを持っていることから、恐らく盲目の身なのだろう。

 エレベーターの前でボタンの位置を探っている右手が揺れていた。

 

「......これでいいかな?」

 

 阿九斗はそっと少女の手を取るとそれをボタンの場所まで持っていく。指先がボタンに触れ、扉が開いた。

 すると扉の方を向いたまま、少女が口を開く。

 

「はじめまして。1年1組、紗伊阿九斗さんですね」

 

「え? そうだけど、君は?」

 

 急な挨拶に阿九斗は驚いた。

 こうして近くでよく見ると、やはりラウラに似ている。

 独特の髪色や小柄な体格がそう思わせるのか。しかし、少女が纏うそれは軍人であるラウラのような張り詰めたものとは違がった意味で、歳不相応なほどに落ち着いた雰囲気を醸し出している。

 

(でも、どうしてだろう。彼女はどこか......)

 

 単に容姿とは別に阿久斗はラウラに近いなにかを覚っていた。

 しかし次の瞬間、それどころではない事態に阿久斗の思慮は吹き飛ぶことになる。

 

「はい、私は束様の指示で参りました、クロエ・クロニクルと申します」

 

「.........は?」

 

 

 

 

 

 

 この時間に人と出くわすことはまずないのだろうが、阿九斗は念のため、誰にも見つからないように周囲を警戒しながらクロエを連れて自室に引き返した。

 窓際のベッドにクロエを座らせると、それと対面する形で阿九斗は向かい側のベッドに腰を落とす。

 

「...さて、それじゃあ話の続きだけれども、君は誰なんだい?」

 

「はい、私は束様の指示で参りました、クロエ・クロニクルと申します」

 

「うん、それはさっきも聞いた。そうじゃなくてね」

 

 クロエは小首をかしげる。

 

「えっと、君は束さんから僕に会うように言われてきたのかい?」

 

「はい、その通りです。午前5時にエレベーターの前で手を振っていれば必ず話しかけてくると束様から聞き及んでおりました」

 

「ああ、そうなんだ......」

 

 たしかに阿九斗はこうした人助けを率先して行う性格をしているし、阿九斗の他にこんな朝早くから外に出ている生徒も少ない。しかし、それをこうも便利に利用してこられると、阿九斗自身、複雑な心境だった。

 

「それで、僕はなにをすればいいんだい? 束さんからここに来るよう言われたってことは僕にもなにかしらしなくちゃいけないことがあるんだろ?」

 

 すべてのISのコアを破壊し、ゼロに戻す。それが束の目的だ。

 阿九斗はそれに賛同し、世界の変革に協力すると約束して学園に在学している。

 そして、その束から人が送り込まれたということは、近いうちになんらかの行動を起こすということなのだろう。無論、阿九斗もそれに参加ことになる。

 

(ここにきて僕も、本格的に覚悟を決めなくちゃならないみたいだ。国力の要ともいえるISを消し去ろうともなれば、恐らく僕らは世界を敵に回して戦うことになる)

 

 しかし、そんな阿九斗の思いとは裏腹に、クロエの返事はなんとも拍子抜けたものだった。

 

「細かな指示はいくつか出されていますが、『まずはIS学園にいるあっくんのところで待ってて』とのことでしたので、今は束様の指示待ちです」

 

「......そうなの?」

 

「はい、ですので、しばらく私はこちらでご厄介になります。IS学園では阿九斗さんの私生活に合わせ、最大限意に沿って行動するよう指示を受けていますので」

 

 そう言ってクロエは鼻先をぐいっとつき出すようにして阿久斗に顔を向ける。

 

「それは束さんが言ったの?」

 

「はい」

 

 阿九斗は少し意外に思った。

 自分の知っているあの常軌を逸っしたマイペースぶりからは、他人に指示を出す姿があまり想像できない。

 なにより、束は他人に対して細々とした気遣いをするタイプではないと思っていたが、聞く限りでは阿久斗の生活を尊重するよう配慮してくれている。

 

「厳密には『おやつは500円までだよ』『寄り道しちゃダメだからね』『あっくんの言うことちゃんと聞くんだよ』とのことです」

 

「それを指示と取るのはどうかと思うけど......」

 

 子どもを初めての遠足に送り出す母親のように右往左往する束の姿が容易に想像できた。

 どうやら束はクロエに対し、母親のようなポジションをとっているようだった。もっとも、クロエも同じように思っているかというと、それはまた別らしい。

 現に〝あっくんの言うことちゃんと聞くんだよ〟という束の言葉を〝最大限意に沿って行動する〟といった捉え方をしている。

 

(なんにしても、彼女とは長い付き合いになりそうだな)

 

 阿久斗は軽いため息とともにその場から立ち上がった。

 

「わかったよ。寮長の織斑先生には僕から事情を話しておくから」

 

「それは困ります」

 

「え? なんでさ」

 

「せっかくの潜入がバレてしまっては今後の行動に支障をきたすからです」

 

「......え? ちゃんと許可は取っているんだよね? 今潜入って」

 

 クロエは無表情のまま親指をグッと立てて返す。

 しかし無表情に見えたそれも、単純に目を閉じていたせいで表情が読めなかっただけかもしれない。

 

「...ああ、そうなんだ」

 

「はい」

 

 そんなクロエに阿九斗は深いため息とともに頭を抱えた。

 ただでさえ亡国企業による学園祭襲撃を受けて教師陣はピリピリしている。こんな状況で誰にも見つからないように人一人かくまうなど、そう簡単にできることではなかった。

 

(もうこの時点で、僕の私生活に思いっきり干渉しそうなんだけどなぁ......)

 

 少なくとも寮の部屋にいれば見つかることはないだろう。しかし、束からの指示が出るまでずっとここに閉じ込めておくわけにもいかない。

 それにクロエの食事の確保も必要になってくるが、購買や学食で毎度二人分の食事を調達しようものなら、遅かれ早かれ怪しまれる。

 どうしたものかと阿九斗は大いに悩んでいたが、

 

「どうかなさいましたか?」

 

「...いや、なんでもない」

 

 そんなことをクロエが知るよしもない。

 

「そうでした。大事な要件がもう一つ」

 

 思い出したようにクロエはポケットに手を入れる。やがて大型のロケットランチャーを引っぱり上げるように取り出すと片膝をついて構えた。

 

「......間違えました」

 

 取り出したロケットランチャーをポケットに押し込み、再び中を探る。

 

(......え、今のは?)

 

 それを見ていた阿九斗の視線に気付いたのか、クロエは淡々と説明を始めた。

 

「入れたものを瞬時に量子変換して収納できるポケットです。そのため、このサイズには収まりきらないような大きさや重さのものでもコンパクトに持ち運ぶことができます」

 

「へぇ、それは便利だね。なんでも入れられるの?」

 

「はい、もっともISのそれと同様にスロットには限界があります。以前、束様が天体すら収納できるポケットを目指して制作を進めていたそうですが、途中で断念されたそうです。いわば三次元以上四次元以下のポケット、名づけて『三.五次元ポケット』です」

 

 いろいろと言いたいことはあったものの、それより興味が勝ったらしい。阿九斗は自身の顎に手を当てる。

 

「ふむ、でも量子変換であれば、わざわざポケットに手を入れなくてもISの装備みたいに瞬時に手元に出すこともできるんじゃないかな?」

 

「はい、技術的には可能です。ですがあえてポケットから取り出すことに夢があると束様はおっしゃっていました」

 

「...そうなんだ」

 

 阿九斗にはその意味がさっぱりわからないでいたが、そもそも束の言動を理解することが所詮無理なことなのだと一蹴して、考えを放棄した。

 

「そういえばもう一つ要件があるんだったね。続きを頼むよ」

 

「はい、束様が阿九斗さんに直接話されたいことがあるそうで、こちらを預かって参りました」

 

 両手の肘がポケットに隠れるほどまで突っ込んでようやく取り出されたのは、ウサギをモチーフにしたと思われる白いフレームのディスプレイ。子ども向けの絵本のようにデフォルメされ、大きく開いたウサギの口が画面になっている。

 

「ボタンひとつで瞬時に通信、その名もラビットスイッチ。現存する通信機器で唯一束様とコンタクトを取ることができるテレビ電話です」

 

 そう言ってクロエは無造作にウサギの鼻を押そうと手を伸ばした。どうやらこれがスイッチのようだ。だがしかし、気になることが一つ。

 

「あのさ、そんな大事なことを思い出したかのように言うのはどうして?」

 

「思い出したからです」

 

「ああ...そう、なの......」

 

 それ以上の問答をは避けることにして、阿久斗は大人しくクロエの隣に腰をすえた。

 

「では、電源を入れます」

 

 クロエはラビットスイッチの鼻を押した。

 

『はいは~い! みんな大好き束さんだよ!』

 

 電波の送受信のタイムラグすら感じないほど、瞬時にそこへ映ったのは初めて会ったときと同じ、ファンシーな服装を纏った束。

 ウサギの口が画面になっているせいで、まるで束が捕食されているかのような絵面になっている。

 

『やあ、あっくん! 元気にしてる? 束さんからの専用機、気に入ってくれたかな〜?』

 

「ええ、とても...」

 

 もっとも、機体の名称と待機形態の悪趣味なデザイン、そしてケースから立ち込める瘴気の演出を除いてだ。

 

『ちなみに、あのドライアイスの演出は水蒸気爆発のあてつけだよ!』

 

「.........ああ、ほんと、気づかなくてすみませんでした」

 

 阿久斗はディスプレイの前で頭を垂れる。そして深く息を吸って心の準備を整えた。

 

「それで、僕に直接話したいこととは?」

 

 クロエの話を聞いて拍子抜けしたものの、こうして本人から直接話があると言うなら納得できる。

 阿久斗が固唾を飲んで返答を待っていると、束はにんまりと笑い、派手な決めポーズを取って指を鳴らした。

 すると画面が切り替わり、ISのものと思われるスペックデータが表示される。

 

『ご覧あれ!! 《魔王》のデータを元に完成させた生体同期型IS《黒鍵》! 最大の特徴はなんといっても《魔王》と同様に大気中の物質に干渉することができるんだ! さらにこの《黒鍵》は史上初、仮想空間での運用を視野に入れた設計で───』

 

「ちょっ、ちょっと待ってください!」

 

 突然のことに阿久斗は言葉を制するが、そんなことで束は止まらない。新しいおもちゃを自慢する子どものような口調で阿久斗の知らない専門用語が羅列されていく。

 

「───という訳なのさ! えっへーん! 驚いた?」

 

 言いたいことをひとしきり言い終えると、再び画面に束が映る。確かに驚くほどに束は平常運行だった。

 

「ええ、大まかには。でもそれとこの子を送り込んだことにどういう関係が?」

 

 内容は最近開発に成功したISについての説明だった。

 阿久斗の聞く限り今後のクロエとの行動については触れられておらず、会話の趣旨も掴めない。

 

『しょーがないなー! じゃあもう一回説明するよ!』

 

 画面が黒鍵のスペックデータに戻った。

 

『ご覧あれ!! 《魔王》のデータを元に完成させた生体同期型IS《黒鍵》! 最大の特徴はなんといっても───』

 

「いえ、僕が聞きたいのはそこではなくてですね!」

 

 そこでふと、ひとつの懸念が阿久斗の脳裏をよぎった。

 時間が時間とはいえ、学園祭襲撃の件もある。

 事後調査で教員から聞き取りを受けることもしばしばあり、そのために寮の部屋まで誰かが訪ねて来ないとも限らない。

 そして、そんなトラブルの匂いを嗅ぎ付けたかのように、決まって現れる人物がいた。

 

「おっはよ~♪ 阿久斗くん、もう起きてるかな?」

 

「扉の向こうに反応があります。待機形態のISを確認。機体名は《ミステリアスレイディ》。学園に在学している専用機持ちと思われます」

 

 いつの間に取り出したのか、クロエの持つ端末から伸びたパラポラが音を立てて反応していた。

 

「それさ、もっと早くわからなかったのかい?」

 

 自分の懸念が間違っていなかったことを、阿九斗は身を持って知ることとなった。

 

 

 




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