♚IS学園の大魔王   作:くぼさちや

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皆さん覚えていらっしゃるでしょうか?
いや、忘れてますよね(汗)
ほんのちょーーーっとずつ書いていたのがようやく完成しました!
では、どうぞ~


19話 「事件後の朝の事件」

 

 

「とりあえずクロエはどこかに隠れて」

 

 ガチャリ、とドアノブが回る音がして楯無の足音が聞こえてくる。

 思い出してみればクロエを連れて引き返したあと、部屋の鍵を開けたままだった。

 

(いや、だからって返事も待たずに入るだろうか?)

 

 クロエを隠そうにも玄関から部屋までは目と鼻の先、そうこうしているうちに部屋に入ってこられれば一貫の終わりだ。

 それならクロエが隠れるまでの間、どうにか時間を稼ぐまでのこと。

 阿久斗は慌てて玄関へ駆けた。クロエが盲目であることからうまく隠れられるか心配でならなかったが、そこは祈るほかない。

 

「会長、おはようございます。どうされたんです? こんな早くに」

 

「おはよう阿久斗くん。実は話しておきたいことがあって...あら、まだランニングに行く前だったの? いつもならもう帰ってるころと思って来たのに」

 

 ジャージ姿のままの阿九斗を見て、軽く核心に触れてくる楯無。それでも阿九斗は慣れたもので、いつも通りの様子を崩さない。

 

「ここ最近いろいろありましたからね。少しは身体を休めようかと。それはそうと、お怪我の具合はどうですか? 襲撃者の尾行中に負傷されたと織斑先生から聞いていましたが」

 

 これについては実際、本気で心配していることだった。

 楯無はどうということはないと言わんばかりに首もとに張られたガーゼを指でつつく。

 

「平気平気、かすり傷だから心配しないで」

 

 楯無はVサインとともに、ウインクを飛ばして笑う。

 見たところ本当に軽傷であることに阿九斗は安堵すると、意識をクロエの方へと向けた。

 

(よし、順調だ。このままもう少し会話が進めば、隠れるには十分な時間が稼げる。)

 

 阿久斗は心のなかで拳をグッと握りしめる。

 

「それで話というのは、やはり先日の学園祭襲撃のことですか?」

 

「ええ、そうよ。一応阿九斗くんにも話しておこうかと思って......」

 

 ふと、なにかに気づいたように言いかけた楯無の口が止まった。

 

「......あの、会長?」

 

 そっと阿九斗に近寄って鼻先を突きだし、スンスンと阿久斗の首もとの匂いを嗅ぐと、その表情が豹変する。

 

「.........わたしの知らない匂いがする」

 

「は?」

 

「.........女、ね.........」

 

「いや、会長?」

 

 

 

 

 

 

 

「......... 女 な ん で し ょ ぅ」

 

 

 

 

 

 

 勘がいいにも限度というものがある。

 言葉だけなら嫉妬で言動が行き過ぎてしまった、いわゆるヤンデレ発言に聞こえなくはない。

 しかし、楯無の口調は阿九斗をからかうときのそれで、表情は新しいおもちゃを買ってもらった子どものようにキラキラしている。

 

「な、なんのことですか? あの、会長? いったいなにを......」

 

「...うふふ♪」

 

 楯無が一歩進むごとに気圧されたように阿久斗は一歩下がる。興味津々、意気揚々と迫る楯無に阿九斗はただ黙って後ずさるしかなかった。

 

(クロエはうまく隠れられたか? いや、それ以前にあの杖で辺りを探っていては物音がしないとも限らない)

 

 阿九斗は目の前の楯無を見た。

 杖で探る程度の音ならまだ誤魔化しが利く。しかし、なにか物を落とされればどうだろう、今の彼女がそれを聞き逃してくれるとは思えない。

 

─────ガシャン

 

「うっ」

「...あらぁ?」

 

 音の重さからして、落ちたのはベットに放りっぱなしにしていたタブレット端末か、あるいはキャビネットの上に置いていた置時計か。

 いずれにしても案の定、阿九斗の危惧していたことは現実のものとなった。

 

(どうする...? どう誤魔化す...?)

 

 阿九斗は緊張にゴクリと息を飲んだ。

 

「......隣の部屋が、その...騒がしいですね?」

 

 その瞬間、楯無の疑惑の眼差しが確信に変わった。

 

「わたしねぇ、隠し事するのは好きだけど、隠し事されるのは大嫌いなのよね♪」

 

 楯無は目を細めた。顔では笑っていても、それは以前アリーナでの腕試しに見せた、あの凍てつくような眼差し。

 実力行使の意思をその瞳が物語っている。

 

(それはただのワガママなんじゃ...というか、なんでこんなことにばかりにこの人は......)

 

 阿久斗は肩幅に足を開いて身構えた。

 IS学園の寮といえど、けして広い玄関ではない。阿九斗ほどの長身で道を遮ればそう簡単に突破されはしないはずだった。

 

「甘い甘い...フフッ♪」

 

 ふと、全身の力が抜けたように楯無の姿勢が前のめりに落ちた。獲物を捉えた狩人の瞳が一瞬、水色の前髪に隠れたかと思うと、阿九斗の視界から楯無の姿が消える。

 “縮地”と呼ばれる日本の古武術の技法の一つだ。

 

「まずい!」

 

 それがどういう原理かは阿久斗もわからなかったが、目の前から姿が消えたということは、少なくともその場から移動したということだ。

 それだけを一瞬で判断した阿九斗は咄嗟に後ろに飛び退く。

 

「まだまだね。阿九斗くん♪」

 

「なっ!?」

 

 その声は阿九斗の耳元で発せられたものだった。反射的に視線をそこへ向けると翻った制服の裾がかろうじて捉えられる。

 阿九斗は苦し紛れに楯無の背中に手を伸ばすが、その手が届くより先に距離を離されてしまう。

 

(ダメだ、完全に抜けられた!)

 

 早々に見つかってしまったと阿九斗は思った。

 しかし、どう説明したものかと悩むより先に楯無の声が耳に入る。

 

「あら? ホントに誰もいないの?」

 

(...え?)

 

 それを聞いて阿久斗も部屋に戻るが、ベッドの上にあったはずのタブレットが床に落ちているだけで、クロエの姿はどこにも見当たらない。

 

(タブレットが落ちた時点ではまだ隠れられていなかったのだろうけど、この短い間にどうやって......)

 

 阿久斗はタブレットを拾うとそれをまじまじと見つめる。単純に置き所が悪いせいで落ちたのか、しかしそれにしては落ちるタイミングが良すぎた。

 

「なにもない...わけはないわよね。さっきの阿九斗くんの慌てようからして~」

 

 疑わしげな楯無の視線から逃げるようにわざと顔をそらす阿九斗。

 そのまま目を合わせないでいると、これ以上問い詰めても無駄と思ったのか、楯無はつまらなそうに口元を尖らせる。

 

「まあいいわ。で、話っていうのはこの間の襲撃者についてよ」

 

「まさか、もう襲撃者の正体がわかったんですか?」

 

「ええ。というより、正体自体はかなり早い段階からわかっていたの。それこそ織斑先生は学園を襲撃してきた時点で見当がついていたでしょうしね。むしろ、その勢力ついてはそれなりに学園側も警戒した上で体制を敷いていたわ」

 

「......なるほど」

 

 楯無の口振りからすると、どうやらその勢力による学園祭襲撃はある程度予想できていたようだ。そうした体制の中で襲撃者は学園内部、それも《白式》を持つ一夏のすぐ近くまで侵入を果たしてみせた。

 ISを所持していることからも分かることだが、相手がただ者ではないことは明らかだった。

 

「それで、あの連中はなんなんですか?」

 

亡国機業(ファントムタスク)。第二次世界大戦中に設立して以来、50年以上もの間、暗躍しているテロ組織よ」

 

「テロ組織、ですか?」

 

 楯無は頷いて立体スクリーンを展開する。

 そこには阿九斗が交戦した無人機を含め、合計4機のISが映し出されていた。

 

「今回の襲撃で使用されたISは全部で4機。そのうち、構成員が搭乗していた《アラクネ》と《サイレントゼフィルス》は、いずれも強奪された機体よ。」

 

(強奪...それも国から第三世代の最新鋭機を......)

 

 阿九斗がとりわけ注目したのはイギリスの第三世代IS、《サイレントゼフィルス》だった。

 現在、国のパワーバランスの要とすら言えるIS、それも最新鋭機ともなれば、イギリスは警戒を厳にして管理を行なっていたはずだ。

 

「学園側は襲撃を受けるとして、考えられる襲撃対象の候補を3つに絞ったわ。その中で最も可能性の低いとされていたのが一夏くんと《白式》、次が学園の中心部にあるシステム管理室、そして最も可能性が高いとみられていたのが阿九斗くんとその専用機である《魔王》よ」

 

「しかし、実際に標的にされたのは一夏だった」

 

「その通りね。そう考えてみれば、阿九斗くんが無人機の迎撃にあたったのは結果的に功を奏したといえるわ。とはいえ、もし亡国機業の狙いが予想通り阿九斗くんだったら、愚行もいいところだったけどね。ターゲットが1人で向かってくるだなんて相手からすれば嬉しい誤算だわ」

 

「考えなしだったわけではありませんでしたが、軽率だったと思っています」

  

 そう言って阿九斗は頭を下げた。

 もともと千冬からは待機するように指示を受けていた。にも関わらずそれを無視し、挙句に重傷を負ったのだから、事件後の千冬の怒り加減は恐ろしいものであった。

 そうしたことからも、あの時はこうするしかなかったと思う一方で、阿九斗は自身の行いを反省している。

 

「うんうん、素直に謝れるところが阿九斗くんのいいところね。そういうところ、お姉さん好きよ♪」

 

 そう言ってすり寄ろうとする楯無から阿九斗は慌てて距離を取った。

 不満そうに唇を尖らせる楯無に対し、学園祭襲撃の話に戻すという意味でも、適当に質問を切り出す。

 

「そ、そうですか。ちなみにですが、今回の襲撃者について他になにか情報は?」

 

 その言葉に一瞬、楯無の脳裏に望一郎の姿がよぎった。

 

「いいえ、ないわ」

 

 楯無は躊躇なくはっきり答える。

 そして両手を頭の上で組んで軽く背伸びをすると、まるで緊張感など忘れたと言わんばかりにあくびを一つ。

 

「さて、一応伝えるべきことは伝えたわ。忙しい朝に長居するのもなんだし、このあたりで部屋に戻るわね」

 

 まさに嵐のごとく、突然来たかと思えば突然帰っていく楯無。しかし、部屋を出たあと、楯無は扉の向こうに向けて静かな声でこう言った。

 

「簪ちゃんの《打鉄弐式》については、また......」

 

 

 

 

 

 

 楯無が部屋を後にすると、数秒間を置いてから阿九斗は扉の鍵を閉める。

 手元の時計を見ると、時刻は7時をやや過ぎた頃。

 朝食の前にシャワーでも浴びて、今しがた掻いた嫌な汗を流してしまおうかと思ったところで、最初の来客のことを思い出した。

 

「クロエ、もう大丈夫だから出ておいで」

 

 しかし、クロエからの返事はない。

 阿久斗は部屋全体を見渡した後、ベッドの下、ロッカーの中と、隠れられるような場所は一通り見てまわったが、結局クロエの姿はどこにも見当たらなかった。

 

「......クロエ?」

 

 そのとき。

 

「...わっ」

 

「うわっ!」

 

 小声であったものの、突然耳元で発せられた声に阿久斗は驚いて後ろを振り返った。

 誰もいなかった空間が人の形をした陽炎のように揺れるとクロエが姿を現す。

 

「あの方がIS学園生徒会長、更識楯無さんですか。学園生活では上級生との接点はそれほど多くないでしょうに、なにやら親しげでしたね」

 

「あの人は僕の事情を把握しているからね。しかし、それも束さんの発明かい?」

 

「はい、束様が新たに開発に成功したIS《黒鍵》です」

 

 それを聞いて阿九斗は楯無が来る前に束が話していたことを思い出す。

 クロエがヘッドパーツのみを部分展開していたため、機体の全容は見えなかったが《黒鍵》の名にもあるように、そのカラーリングは黒かった。

 

「確か、僕のISのデータをもとにして開発した、生体同期型のISだったかな? 詳しいことは正直、説明を聞いてもよくわからなかったけど」

 

「その通りです。《魔王》と同様、周囲の物質に干渉する能力を備えています。もっとも、今のように周囲の光を屈折させて姿を眩ませるレベルでしか実用可能ではありませんが」

 

「でも、そんなのを持っているならどうしてだい? これを落としたのは君だろう?」

 

 阿九斗はベットの上に戻したタブレットを視線で示す。

 ベッドの下にでも隠れようとしたのなら、落とすようなことも起こり得る。しかし、《黒鍵》の能力を聞く分にはその場から一歩たりとも動く必要はなかったはずだった。

 

「.........」

 

 阿九斗の問いに対して、急にクロエからの返事がなくなった。相変わらず、その表情からはなんの感情も読み取ることができない。

 答えられないのか、あるいは〝聞くな〟という意思表示のつもりなのか、しかしよく見るとクロエの耳がわずかに赤みを帯びている。そのことから阿九斗は一つの結論にたどり着いた。

 

「もしかして、突然のことでかなり焦ってたとか?」

 

「違いますよ?」

 

 即答で返すクロエ。

 

「別に焦っていたわけではないのです。このIS学園でわたしがISのエネルギーを補給する術はないため、ISの使用はもちろん、エネルギーも必要最低限の消費に抑える必要があります。しかし、今回は事情説明の最中で体制を敷く時間がなく、想定外の事態に対して最も安全と言える策を講じただけなのです」

 

 話に整合性は取れている。しかし、今までの会話からは考えられないほど、クロエの言葉数は多かった。

 それに自分が焦っていなかったことを主張するのに必死で、そのどれもがタブレットを落とした理由になっていないことに本人は気づいていない。

 

(なんというか、おかしな子が来ちゃったな......)

 

 

 




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ではまた次回~
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