♚IS学園の大魔王   作:くぼさちや

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阿久斗に釘を刺されたのが効いたのか、思ったより早く書き上がりました!
今度こそ、一夏と簪が戦いますぅ~



21話 「黒い鏡の専用機」

「よろしく......お願いします」

 

 構えた薙刀の黒い巨大な刃が、午後の西日を受けて妖しく光った。

 次の瞬間、空気が破裂したかのようなスラスターの点火音とともに、簪は地上を滑空し、一夏に突進した。

 

(なっ! スピードが速い!)

 

 真正面から繰り出された突きを一夏は寸前でかわす。

 追撃を行わず一夏の横をすり抜けた簪は、ハイパーセンサーで《白式》を捉えたまま、素早く振り返った。

 ホバリングで体勢を立て直すと、反対方向への噴射で砂塵が舞う。

 

「うっ...」

 

 突進の勢いを押し殺してさらに加速。牽制にプラズマ砲のスカーレットガンナーを放ちつつ、簪はブレードチェーンソーで一夏に肉薄した。

 

(なんて出力だよ。一撃が重い!)

 

 その攻撃を雪平でまともに受け止めた一夏は、そのままつばぜり合いで押し負けて体勢を崩しながら距離を取る。

 戦局は簪に有利かと思われた。しかしその表情からは焦りの色がうかがえる。

 

(機体の出力をうまく制御できない......この前はあんなに思い通りに動いたのに、どうして!)

 

 初太刀の突きも想定外のスピードで流れた機体を静止することも困難だった。

 進んできた方向とは逆方向にスラスターを吹かせ、無理矢理ホバリングの体勢を取ってみれば、今度は初太刀以上の出力で一夏に向かって加速していく。

 出力調整があまりにピーキーな《黒鉄》を簪は扱いきれずにいた。

 

(直線的な攻撃が多い...? だったら飛んで後ろを取る!)

 

 何度か刃を接するうちにそんな様子を感じ取ったのか、一夏は出力を上げて飛び上がった。それを追うように簪も高度を上げる。

 

「はあっ!」

 

「うっ...」

 

 アリーナの上空で数回の衝突、雪平とブレードチェーンソーが刃を交える。

 ここから簪は徐々に押され始めていた。

 

「なるほどな。直線で動けば簪さんの方が速いけど、空中でなら俺と《白式》の方が上だ!」

 

「さすがに、気づかれた......」

 

 簪は息を飲んだ。

 一夏は縦横無尽に動き、雪平を振るった。

 立体的な操縦能力が求められる空中での接近戦は《黒鉄》の操作性の低さが浮き彫りになる。

 直線軌道においては出力が速度に直結する。それは旋回軌道も同じではあるが、こちらは最終的に操作性がものを言うのだ。

 

(スラスターの出力はこっちが上なのに、《白式》の動きに対応しきれない...!)

 

 ここでは《白式》に軍配が上がった。

 スカーレットガンナーやコイルガンのアスタロトを撃つが全て避けられる。というよりは、そもそもの命中精度が良くない。ハイパーセンサーで狙いを定めても、その通りに弾が飛んでいかないことがほとんどだった。

 動く標的を相手に、まともに当てられたものではない。

 

「そこだっ!」

 

「くっ...! まだ!」

 

 接近され、大上段から振り下ろされた雪平をブレードチェーンソーで受け止める。

 両者の刃が火花を散らせる中、一夏は叫んだ。

 

「いくぜ! 零落白夜、発動!」

 

「っ!」

 

 つばぜり合いの状態から一夏が雪平を振り上げると、実体剣の刀身がシールドバリアを無効化する、非実体剣に切り替わった。

 

(早く距離を! このままじゃ負けちゃう!)

 

 その瞬間、《黒鉄》のスラスターが一気に点火し、瞬時加速にも劣らない勢いで後方へ下がった。一夏の零落白夜が空を切る。

 

「「えっ......」」

 

 しかしそのスラスターの勢いを殺し切れず、簪はアリーナの地面に背中から突っ込んだ。

 盛大に砂煙が上がり、《黒鉄》の姿が一瞬、一夏の視界から消える。

 

「おい! 大丈夫か?」

 

「うう......」

 

 背中の痛みにうめいて、閉じた目を開けると《黒鉄》を中心にアリーナにちょっとしたクレーターができていた。

 

「どうしてこんな......これじゃあ量産機の方がまだ動ける」

 

 初めて乗ったときの操縦性があまりにもよかっただけに、今の扱えなさの意味がわからなかった。

 焦れば出力の加減が利かず、迷えば安定性を失う。動揺すれば姿勢の制御すらできなくなり、当たらないと思った弾は狙い通りの弾道すら描かない。

 それはまるで自分の心のような、そう思った瞬間、簪はあることに気づいた。

 

「まさか...この機体は、わたしの心を写しているの?」

 

 その結論に答えるように、《黒鉄》の制御はわずかながら落ち着きを取り戻しているようだった。

 たしかに初めてこの機体に乗ったとき、簪は自分でも驚くほどに冷静さを保っていた。

 絶対防御が無効化されていたにもかかわらず、頬をゴーレムの剣が掠めても動揺することすらなかったのだ。

 

「簪さん! 大丈夫か!?」

 

 オープンチャンネルに一夏の姿が写った。

 

「大丈夫...ちょっと痛いけど、何か掴めそうかも。もう一度お願い」

 

 簪はその場から立ち上がり、ブレードチェーンソーを構え直した。

 

(《黒鉄》はわたしと同じなのかもしれない。戦うことにすら臆病で、いつも自分にできることすらできずに動けなくなる)

 

「すぅ......はぁ...」

 

 目を瞑り、深呼吸をして気持ちを切り替える。

 

(彼は強い。技術や知識とは違う。誰かのために戦うことを恐れない、阿久斗と同じ心の強さを持ってる。それはわたしにはない力。だからこそ!)

 

────ドッ

 

 簪を中心にエネルギーの波が波紋のように広がった。ゆっくりと目を見開き、上空にいる一夏と《白式》を見据える。

 

「わたしは一夏に勝ちたい!」

 

 そのエネルギーは本来ISが発揮することのない力、マナによるものだった。

 

(相手はほとんど素人とはいえ専用機持ち。機体の制御もできずに勝てる相手じゃない。冷静に、集中して、自分にできる最善を尽くす......)

 

 すると今までの動揺、焦り、そのすべてが嘘のように思考が澄んでいく。

 

(なんだよあれ? 簪の機体からエネルギーが溢れてるのか?)

 

 ハイパーセンサーが認識する機体性能には何の変わりもない。しかし、明らかな《黒鉄》の変化を目の当たりにして、一夏に緊張が走った。

 

「この不思議な感覚、あのときと同じだ。今ならわかる。今のわたしならこの機体の性能を十分に引き出せる......」

 

 簪は機体を上昇させ、一夏と向かい合う形で姿勢を取った。

 

「お待たせ。もう大丈夫」

 

 普段の自信なさげな様子をまったく感じさせない、余裕ある表情。

 

(......気のせいか? なんだか簪さんの様子まで変わったような)

 

 ふと疑問を持ったものの、戦うことに集中しようと一夏は頭の片隅に追いやった。

 

「力を貸して...《黒鉄》」

 

 簪自身でも、聞こえるか聞こえないかの小さな声で呟く。

 そして一夏が雪平を構えると同時に、簪は行動に出た。

 あえて押されていた接近戦で挑み、横凪ぎに払ったブレードチェーンソーを一夏は後ろにのけ反るようにして避ける。しかしすぐさま流れるように繰り出された突きが眼前に迫り、反応の遅れた一夏はまともにそれを食らった。

 

(ぐっ! なんだ!? さっきまでとは動きがまるで違う!)

 

 頭を撃ち抜かれたような衝撃が一夏を襲った。装甲のない場所への攻撃によって絶対防御が発動し、大幅にエネルギーが削られる。

 

「まだまだぁっ!」

 

 どうにか体勢を整え、一夏は再び簪に斬りかかった。

 

「ケルベロス、全砲門解放......」

 

 《黒鉄》の背部から撒き散らすように48発のミサイルが放たれる。バラバラの方向に放たれたそれは簪の意思に反応して進路を《白式》に向けた。

 

(誘導ミサイルか...? いや、動きがおかしい)

 

 一夏は回避しながらミサイルとの距離を測った。それらはまるで生き物のようにそれぞれがまったく違う軌道を描きながら一夏を追尾する。

 

(ダメだ、避けきるには数が多すぎる。こうなったら雪平で全部落とすしか)

 

 迎撃すべく一夏は雪平を構えると、四方八方から迫るミサイルの中で一番近くのものに視線を向けた。

 

「今っ!」

 

 簪はアスタロトの照準を、放ったミサイルの一つに合わせた。

 

「絶対に当てる......そう思えば当たる!」

 

 そう言って打ち出された弾は簪が思い描いた通りの弾道を描き、ミサイルに命中した。

 爆発したミサイルが他のミサイルを巻き込んで誘爆し、熱波と閃光の壁が一夏を囲う。

 

「ぐあっ!」

 

 命中したわけではなく、誘爆に巻き込まれただけである以上、削られた《白式》のシールドエネルギーは微々たるものだったが、視界は爆発によるフラッシュで完全に封じられた。

 

(まずい! このままじゃ狙い打ちされる!)

 

 とにかくその場で停止しないことだけを念頭に一夏は闇雲に高度を上げる。

 しかし《黒鉄》から照準を合わせられていることを示す警告音が、一夏の耳をつんざいた。それからやや遅れてスカーレットガンナーの紅いプラズマが《白式》を貫く。

 

(戦ったばかりのときは動きが単調だったのに、今じゃこんだけの武装をフルに使いこなしてくる。どうなってるんだ?)

 

 対して、遠距離武装が一切ない一夏はどうしても動きがパターン化してしまう。ジリジリと追い詰められ、残りのエネルギーは1/4を下回った。

 視界の端でシールドエネルギーを示すゲージが赤くなる。

 

(エネルギーの残りが少ない! こうなったらあれをやるしか!)

 

 一夏は雪平を担ぐように構えると、スラスターのエネルギーを再度取り込み、単一仕様能力を発動する。

 

「零落白夜! 発動!」

 

 瞬時加速と零落白夜の併用、一夏の決め手だ。

 

「うおおおおおおおっ!」

 

 トップスピードで接近する一夏に、簪はブレードチェーンソーを右脇に構えた。

 

「悲鳴共振......」

───────キィイィイィイィイィイィンッ!

 

 冷淡にも聞こえるその一言と共に、刃が紅く染まり、悲鳴のような甲高い振動音をあげる。

 

(この音、ゴーレムを倒したあの能力! まずい!)

 

 そう思っても、瞬時加速中は軌道を変えられない。

 カウンターを狙う簪に真正面から零落白夜で突進する。

 

「くっ! 行っけえええええっ!」

 

 たとえ零落白夜の一撃がシールドバリアを無効化できても当てられなければ意味がない。そして薙刀と剣ではリーチに差がある。

 

「これで、決める!」

 

 簪は柄の一番下を片手で持ち、それを頭上で回して軽く遠心力をつけると、一夏と《白式》を凪ぎ払った。

 

 

 

 

 

 

「うーん、途中まではよかったんだけどなぁ」

 

 勝敗は簪の勝利という形で幕を下ろし、日が傾き始めたアリーナで一夏はため息をついた。

 優位を一瞬で挽回されたような試合内容から、一夏もそれなりに落ち込んでいるように見えたが『今後の戦いに活かす』と意気込むと、普段通りの笑顔を取り戻した。

 

「強いんだな、簪さんって。全然敵わなかったぜ」

 

 簪はとんでもないとばかりに、何度も首を横に振る。

 

「そんなことない。わたしなんてまだまだで、最近になってようやく強さがなんなのかってわかって、それで」

 

 うまく喋れず、不器用に話す簪をじっと待つように一夏は優しく見つめた。その視線に気づいた簪は緊張の糸が切れたように、ゆっくりと、たしかに言葉を並べた。

 

「織斑くんに勝てば、少しは本当の強さに近づけるかなって、そう思ったの」

 

 こうして一夏に勝ったとしても、まだまだ及ばない。それでも簪が追い求める強さは以前よりはっきりと輪郭を帯びていた。

 

(わたしには、目標にしてる人がいる。その人と同じ強さを持って、同じ場所に立って、その人のために戦いたいって思えるから)

 

 簪は待機状態の《黒鉄》を見た。指輪に嵌め込まれた黒い結晶は夕陽の光に照らされてなお、妖しく冷たい輝きを放っている。

 

「阿久斗...」

 

「ん? 阿久斗がどうしたんだ?」

 

「なっ! なんでもない!」

 

 真っ赤に染まったその顔は、夕陽かそれとも。

 




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