けっこう難しいですね
考えて過ぎて知恵熱が......。
そんなこんなで第3話です。
一夏は零落白夜で《銀の福音》の攻撃を弾き返していた。その後方には一隻の船がある。
国籍不明。密漁船のようだった。
「なにをしている! 犯罪者などを庇って!」
「ダメだ! 見殺しにはできない!」
着実に防げてはいたものの、やがて零落白夜のエネルギーが切れて刀身が消える。
「しまった!」
一夏に飛来するエネルギー弾を箒が寸前で防いだ。
「犯罪者など放っておけ! そんな場合では────」
「箒!!」
「っ!」
一夏の剣幕に言葉が詰まる。
「どうしたんだよ。力を手にしたら弱いやつのことが見えなくなるなんて......」
「......わたしは」
そこでようやく気がついた。手にした力を自分はまた昔のように暴力に変えてしまったことに。
『篠ノ之! 織斑を回収して撤退しろ!』
オープンチャンネルを通じて千冬の声が響く。
箒は機能を停止した白式を抱える。すでに紅椿のシールドエネルギーも底が見えていた。
─────ピピッ
「......近くにIS反応?」
(ようやく増援が─────)
『油断するな! 追撃が来るぞ!』
「っ!?」
箒は息を飲んだ。《銀の福音》の36の砲身から放たれた高出力エネルギー弾。自分のシールドエネルギーも底を尽きかけている。まして一夏を抱えたままでは回避しきれない。
万事休す。箒に打つ手はない。
そのとき《銀の福音》と箒たちの間を巨大な閃光が遮った。
───────ゴオォォォォォォォォッ!!
遅れて咆哮のような爆音。斜め上から放たれたそれは《銀の福音》の攻撃をかき消し、海面をえぐる。
「こういう時に格好のいいことが言えればいいんだろうけど、」
放たれた方角には一機の黒いIS。
「どうにも僕はそういうことが苦手らしい」
○
「...復旧はまだか?」
千冬の苛立ち混じりの声に、モニターの前で情報の収集に当たっていた真弥は一瞬ビクリとする。
「いえ、それがまだ......」
某旅館に置かれた臨時作戦本部。
戦闘区域で電波障害が起きてから5分が経過していた。
二人からの映像データも回線も途絶え、最後に確認できた映像では不意な閃光が、レーダーには高速接近する機影と高熱源反応が確認されて以降、未だ状況が掴めないでいる。
衛星のカメラすら一時的に麻痺したままだ。
「......いったいなにが起きている?」
「現状、あちらになんらかの介入があったとしか......」
そのとき、真耶のモニターに内部からと思われる通信が入った。
「織斑先生。学園本部からの緊急通信です!」
「学園から?」
『おお繋がったー! ちーちゃん!』
千冬は目頭を揉む。
「束...どうして学園の緊急通信用のコードを知っている?」
『それより大変だよ大変!』
そう喚きたてる束にため息をついた。
「現場の電波障害ならすでにこちらも把握している」
『ふぇ? 電波障害?』
千冬は少し肩すかしをくらった。
束のことだから、海上での戦闘は様々な方法で確認していただろう。彼女が持つ技術力からすべてとは言い切れないが、いくつかの方法は麻痺しているはず。当然それは束も把握しているものだと千冬は思っていた。
「レーダーや回線、急なフラッシュで衛星カメラも麻痺している。お前も状況はモニターしていたのだろう?」
『ああ、一応してはいたんだけどね! ちょっとトラブっちゃって、ただいま束さんはウサギ丸の消火活動中だよ!』
回線越しに微かだが消火器らしき空気音が聞こえてくる。
「トラブル? お前の船がか?」
束はISを設計者。船や紅椿のフィッティング程度に使う機材ではそうそうトラブルなど起こり得ない。それに消火活動とはまた事だ。
『説明すると長くなるんだけどね。でも今起きてる電波障害とも無関係じゃないと思うんだよ』
「......わかった。話してみろ」
現状を把握するのは最優先事項といえるし、なによりあの束の口調に余裕が感じられない。そんないつになく重々しい様子に千冬はやや身構えた。
『ちーちゃん、魔法ってあると思う?』
「......切るぞ」
『まじめな話なんだってば~!』
○
マナの打ち込まれた海水が蒸発し、周囲の潮の匂いが一層濃くなった。
阿九斗はIS乗り二人の安全を確認すると《銀の福音》と相対する。
(皮肉なことだけど、なかなかにしっくりくる)
阿久斗は軽く拳を握る。
飛行速度は生身と比べるべくもなく、なにより阿九斗の弱点でもあったマナのコントロール性は格段に向上していた。
「君たち! 下がるんだ!」
《白式》を抱えた箒が答える。
「私たちの後方に船が! 早く退避させなければ!」
阿九斗は後方の船をセンサーで捕捉した。
(中型の漁船か。しかし逃げるには速度が遅すぎる)
「彼らは密漁者です! でも見捨てることは────」
「それを聞いて安心したよ」
阿九斗は船の周囲に魔方陣を張った。《銀の福音》から放たれた攻撃がそれによって弾かれる。
「力を持つ人間が、君のように使い方を見失わずに戦えるなら、この世界にもまだ救いようがあるさ」
阿九斗は《銀の福音》に向かってマナを集中させる。
(あの速度で動かれたら、よほど大口径で放たない限り当てるのは無理だ。しかし守りながら戦うとなればさっきのように火力で押し通すわけにもいかない。船を巻き込んでしまう)
考えて出た結論は、
「撃って駄目なら、殴るしかないか」
阿九斗は海に潜ると同時に《銀の福音》の背後に展開した魔方陣に自分の姿を投影させる。
大和望一郎との戦いに使った手品だ。よほどの馬鹿が相手でない限り、近接戦で通用するのは一回きり。だが、
───────ドドドドドドドッ!!
大量のエネルギー弾は囮の虚像になんの反応も示さず、水中にいる阿九斗を正確に狙い撃ってくる。
水中に姿を眩ませても、阿久斗のISに搭載されたハイパーセンサーはしっかり《銀の福音》の位置を捕捉したままだ。同じものが向こうにも付いているなら視覚による騙し討ちは通用しない。
(くそっ!)
阿九斗はそのまま潜水して相手の真下を取ると一気に浮上し、距離を詰めた。
腕にマナを集中させ、拳を叩きつける。2発、3発と食らわせたところで装甲に亀裂が入る。
(───このままっ!)
4発目を繰り出す寸前で《銀の福音》は身を翻して距離を取った。
「そう上手くは勝たせてくれないね」
しかし活路は見えた。マナを用いた打撃は通用する。それに船がある程度遠くまで逃げられれば爆発力のあるマナの放出で一気に勝負を決められる。
「......そろそろいい頃だ」
○
「白式、紅椿、共に回線が回復しました」
「よし、繋げ」
再びモニターに映像が戻り、回線が復旧した。
『こちら織斑です。千冬姉?』
「作戦中だ、織斑先生と呼べ」
『すみません......織斑先生』
まったく、といった様子でため息をつく。
「それで、今そちらの状況は?」
『作戦は失敗しました。駆けつけた援軍が戦闘に入って、俺たちは密漁船の避難誘導に当たっています』
「......援軍、か」
複雑な面持ちで答える。援軍と言い切るには束の話は些か現実味に欠けたのだ。
理屈として存在する魔法、異世界からの転移、二人目の男性IS操縦者、魔法によるものと思われるISの突然変異やそれをやってのけた魔王。
何から何までが信じがたい。
しかし回線より数分早く復旧した衛星カメラからの映像を見ると、確かにその機体には通常のISとは異なる点が多く見受けられた。
「了解した。指定ポイントまで誘導した後、近隣の海上保安隊に誘導を引き継ぎ帰投しろ。幸い《銀の福音》は同座標で戦闘を続けている。今補給を済ませて出撃すれば再度接触が見込めるはずだ」
『えっ? でも援軍が来るまで時間が稼げたなら、もう俺たちは......』
「その援軍についてだが、こちら側の送り出した機体ではないのだ。今は詳しい説明を省くが、今作戦において想定外の介入であることは間違いない。なんにせよ、現状で味方とは断定できないものに任せる訳にはいかん」
千冬は間を置いて言う。
「作戦続行。《銀の福音》はお前たちが破壊しろ」
○
阿九斗は魔方陣を展開し、マナを集中させる。
(回避不能な大口径。それでいて破壊可能な威力を維持して、放つ!)
「はぁあああああっ!!」
──────ゴオォォォォォォォ!!
膨大なマナが《銀の福音》を包み込む
確かな手応え。近接戦で推し測った耐久力から、必殺といっていいだけの破壊力を叩き込んだはずだった。
────ピピッ
【敵IS、セカンドシフトへの移行を確認】
阿九斗が勝利を確信した瞬間、白銀の閃光がマナをかき消すかのように広がった。
次回「銀の福音戦:後編」
これくらいの文字数でやっていこうと思います。
評価(重要!)、感想のなど、お待ちしております。
ではまた~