自分でハードル上げすぎて更新にけっこう根気が必要な今日このごろです。
というわけで31話 どーーーん!!
コンスタンツ学院の敷地内に望一郎はいた。
手には身の丈ほどもある大剣を軽々と携え、上空で伊賀忍軍と戦闘を繰り広げている紗伊阿九斗を地上から見上げている。
しかしそこにいるのは阿九斗の記憶によって再現された存在ではなく、亡国機業からのサイバー攻撃としてダイブした現実世界の望一郎である。
「手っ取り早くシステムを乗っ取って済ませたかったけど、束も手強い。まさかあんな隠し球を用意しているとはね。電脳世界特化のISにそれを操るドイツのアドバンスド、おかげで見事に主導権を学園側に奪い返された」
なら次に取るべき手段は、紗伊阿九斗に攻撃を絞って無力化することだ。
そう考えた望一郎は空に向かって目を細めた。遠くの空では巨大な飛行空母が阿九斗に向かって特攻を仕掛けているのが見える。飛行していた阿九斗とピーターハウゼンに船体が直撃するとそのまま地面に突っ込んだ。衝突の瞬間、衝撃音と砂煙が周囲に広がる。
望一郎は持っていた大剣を地面に投げた。
大剣は反発する磁石のように地面と平行に浮くと、望一郎はその上に飛び乗り、地面を滑走するように墜落した空母に接近する。
そして現場のそばまで迫ったとき、望一郎の目に信じられない光景が映った。空母が青い光を発したかと思うと途端にその船体が浮き上がったように見えた。しかしそれは浮いているのではなく、船の下、そこにいる一人の人間の手によって持ち上げられていたのだ。
「なんと馬鹿けた...」
間近で見ていた望一郎は思わず呟いた。
横たわっていた全長300メートルを越える空母が持ち上げられてビルのように直立したかと思うと間を置かずして投げ飛ばされる。上空にいた大勢の伊賀忍軍を巻き込みながら空母は再び落下し、圧倒的な質量とそれによって巻き起こされた気流の渦に飲み込まれていく。
一瞬にして数百の軍勢を圧倒した阿九斗はゆっくりと息を吐き切り、そばにいた望一郎に目を向ける。
「やあ」
挨拶でもするように、そう声をかけたのは望一郎。
「大和望一郎......」
阿九斗のその言葉に望一朗は眉間にシワを寄せる。文化祭襲撃のときに追跡してきた楯無によって自分の面は割れている。もし亡国機業の後ろ盾にいるのが望一郎であることが明かされていたとしても、ワールドパージによって現実世界の記憶が無い阿九斗にはわかりえないはずだからだ。
そのまま軽い足取りで瓦礫を踏み越えながら近づいてくる望一郎に阿九斗は身構えた。
「名状しがたい世界だ。凄惨的過ぎて、正直僕の趣味じゃないよ」
「その意見には同意するよ。僕自身、この力を禍々しいとすら思う。だけど概念でしかないシステムのために人を殺し戦争をするような正しさを許容する訳にはいかない」
「なるほど、その様子では君は現実世界の記憶を完全に失っていると見て良さそうだね」
「......? なんの話だい?」
「こちらの話さ。ただ現実世界の記憶にブロックをかけられた君は、いわば物語の登場人物としての役割を演じているだけに過ぎない存在だ。なのに解せない」
望一郎は右手を開いた。その動きに反応したように地面に寝かせられていた大剣が浮き上がり、望一郎の手に収まる。
「どうして君は、僕の名前を知っている?」
そのまま大剣を振りかざすと、切っ先からソニックブームのように空間を切り裂きながら斬撃が迫っていく。
阿九斗はそれを両手の平で挟み込むようにして受け止めた。かなりの熱が発生しているのか、手の間では煙が音を立てて吹き上がる。やがて空間の歪みが阿九斗の手の中で収まった。
(ホジスン式完全切断を防いだ。いや、切り裂いた空間を両手の圧力だけで無理やり押さえつけたのか。なんにしても電脳世界とはいえ、攻撃の理屈もわからずにできることじゃない。彼はこの技術を知っているのか?)
望一郎は小さく息を飲む。
「もう一度聞くけど、君とは初対面のはずだが?」
「そうだったかな? 僕の記憶じゃこれが三度目だ」
阿九斗は手にマナを集中させて打ち出した。球体の形をとったマナが一直線に望一郎へと飛んでいくが、それを避けようともせず次元切断によって打ち消す。そのまま阿九斗に迫った空間の切れ目を今度は体勢を反らすことで躱す。
正確には望一郎の動きから大剣の軌道を読み、振り下ろされる前に自身の身体を切断される空間から外したのだ。
「なるほど。君が言うように三度目というのも、いよいよ信憑性を帯びてきた。この切断方法は現実世界でも存在は愚か、そもそも理論すら発見されていないはずなのに、君は初見で僕の攻撃を攻略している」
「そういうあなたもいよいよわからない。まるでさっき戦った時とは別人のような振る舞いだ」
まるで本当に自分と対峙したことがあるとしか思えないほど、目の前の阿九斗は望一郎の戦い方を知り過ぎている。
空間ごと対象を切断するホジスン式完全切断は攻撃そのものが視覚しにくい上に、その切断方法から物理的な方法では受け止めることもできない。阿九斗のように切断した空間そのものを押さえつけることで相殺することは可能でも、それは空間を切断するという方法を看破して初めて発想できるというものだ。
「君の記憶では僕と君はさっきも戦っていたと?」
「違うかい?」
望一郎は徐々に状況を理解し始める。しかしそれでも納得できないでいたが、望一郎は首を振って思案を止めた。
「まあいい、どのみち君をここで殺すことに変わりはないんだ。この際難しいことは抜きにしてひとまずの目的は遂行させてもらう」
望一郎は阿九斗に向かって突進した。それに合わせて阿九斗は反射的に後ろに飛び退き、距離を取る。しかし先程まで振りかぶられていた大剣が今はすでに振り下ろされていた。
次の瞬間、阿九斗の身体の前面から放射状に血が噴き出す。
「ぐあっ!」
見てみると阿九斗の右肩から左の脇腹にかけて一直線に切り裂かれていた。
望一郎は大剣から滴り落ちる血を軽く振るって落とす。次元切断ではなく、直接大剣の刃で切られたのだ。
「......剣が見えなかった」
「次元切断に頼らなければこれくらいのことはできるさ」
望一郎は縦と横に二回、素早く大剣を振るった。十字を描くように迫る二つの次元切断が阿九斗に迫った。躱しきれず、腕二本だけでは相殺しきれないその攻撃を左右の拳でマナを操作し、空間を圧縮して打ち消す。が、それでは完全には防げないようで身体の端々が小さくも鋭く切りつけられる。
そのまま連続して放たれる次元切断による斬撃が立て続けに阿九斗を襲った。どうにか防ぐもののマナによる修復も間に合わず、ひたすら気力を消耗していく阿九斗はついに片膝を地面についた。
「もういいだろう。次の一撃で終わりにさせる。学園のシステムはそのあとにでもゆっくり奪わせてもらうことにするよ」
「......なんの話をしている?」
そんな阿九斗の問いを気にするでもなく、望一郎がもう一度接近して高速の斬撃を繰り出そうとした時だった。
「なっ?」
即座に足を止めた。いきなり突き上げるような地響きが起こったのだ。
『あなたに阿九斗様を殺させるわけにはいきません』
短調でどこか感情が欠落したような声がその場に響いた。
それによって望一郎はその地響きの正体を察知したのか、阿九斗から距離を取った。すると地面が割れ、おびただしい数の魔獣が湧き出て波のように押し寄せる。それらはまるで阿九斗の姿を覆い隠すように広がり、やがて望一郎に向かっても攻撃を始めた。
「それも君の《黒鍵》の能力かい? まったく、この電脳世界という舞台においてはルール無視に近い干渉をしてくれるね」
空を仰ぐと、虚空に向かって今状況を観察しているであろう人物に向かって言う。
『そのためだけに私はここにいるのです。この電脳世界において他の追随を許さないポテンシャルを発揮することが私の存在意義を築いてくれます』
「確かに仮想世界の全体像を把握し、こうして事象を操作できる君の専用機はもはや神といっていい。しかしそんな君もIS学園のシステムそのものを相手取るようなことになれば手に負えないはずだ」
望一郎は縦横無尽に大剣を振るった。
次々に空間ごと切り裂かれていく魔物の軍勢、その奥に人間特有の肌色が埋もれていることを見とめた。そこへめがけて望一郎はとどめとばかりに次元切断の挙動に入る。
「それに、ここで彼を仕留めれば外部から集中させたサイバー攻撃を君に移すことができる。内と外から攻撃を受ければさすがの君もシステムを守りきれない。違うかな?」
『確かにそうでしょう。ですので阿九斗様は私たちが全力で守らせていただきます。あなたにここのシステムは落とさせません』
「私たち?」
その言葉の意味を吟味する間もなく、望一郎の後ろからなにかが飛んできた。
切り払うようにそれを打ち落とすと音を立てて鋼同士がぶつかる。それは簪が投げた日本刀だった。
「伊賀忍法、乱れ月影!」
続けざまに真上からマナで作り出した三体の分身とともに絢子が斬りかかる。計四刀のソハヤノツルギによる攻撃を大剣の影に隠れるように望一郎は防ぐと深追いすることなく絢子は距離を取った。
「服部さん、それに君はさっきの......」
服部絢子に続いて簪に目を向ける。
阿九斗を背にして立ちふさがった簪は弾き返された日本刀を拾い上げると、切っ先の高さを望一郎の喉もとに合わせて構え直す。同様に絢子もソハヤノツルギを上段に振り上げるような形で構えた。刀身が虹色の光を発して内在するマナを引き上げていく。
「阿九斗...助けに来たよ」
視線を望一郎から外さずに簪は言った。
それに対して阿九斗わけがわからないような顔をしていたが、マナによる修復で全身の傷口から未だマナの光の消えない身体に鞭を打ってその場から立ち上がる。
「君は学院の生徒だろう? それなら下がっていてくれ。僕の戦いでこれ以上周囲の人を傷つける訳にはいかない」
無理をして笑う阿九斗に簪は首を横に振るった。
「彼もこれ以上僕の攻撃を防ぐだけの力は残っていないだろう? お嬢さんたちもそこをどいてほしい。僕はエムやオータムのように殺戮を好むような趣味はしてなくてね。電脳世界とはいえ、殺しは最低限で済むに越したことはない」
その場から一歩前に出る望一郎。明らかな敵意を込めて踏み出されたそれに動じるでもなく、簪と絢子は立ちはだかった。
クロエは神殿から《黒鍵》を通じて二人に伝える。
『服部様は阿九斗様を連れて距離を取ってください。簪様は大和望一郎の対処をお願いします』
「...わかった」
その言葉に応じるように簪は待機形態の《黒鉄》に意識を集中させ、展開する。機械的なデザインの黒い指輪からマナが溢れ、簪を包み込むと《黒鉄》の装甲が顕になった。
絢子はISという今まで見たことのない異形な装備を目にして驚いた様子だったが、これなら任せられると悟ったのだろう。
「阿九斗、ここは一旦引くぞ!」
すぐに阿九斗を抱えてその場から離れ始めた。その後ろをクロエの生み出した魔獣が後に続き、望一郎の攻撃を塞ぐようにして壁を作る。
ある程度まで距離が開けたことをISのハイパーセンサー越しに確認した簪は望一郎に向き直った。
「あなたのような人がどうして...?」
「ほう、君も僕のことを知っているのかい?」
簪はブレードチェーンソーを構え、油断なく望一郎を見据えながら話した。
「アイリス社第三世代型兵器開発顧問、大和望一郎。一度でもIS工学を学んだことのある人なら知らない人はいない。世界で初めて第三世代型ISの基礎理論を提唱して、ビットを始めとした第三世代兵器のほとんどをデザインした人物......」
「その通り。さらに言えば多目標への個別同時照準システム、通称マルチロックオンシステムの技術提供を倉持技研に行ったのも、それに対応した弾道ミサイル“山嵐”を考案したのも僕だ。もっとも、それはあまり君の役には立たなかったらしいがね、更識家のお嬢さん」
評価値とりあ8目指します
乞うご期待(●ꉺωꉺ●)