♚IS学園の大魔王   作:くぼさちや

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いつの間にかワールドパージで7話書くとか(汗)
ヨソウガイデス(●ꉺωꉺ●)


32話 「捨て身の活路」ワールドパージ編Ⅶ

「......私のこと、知ってるのね」

 

「まあ、それなりにね」

 

 学園の代表候補生であり、先の襲撃でも戦いに加わって無人機を撃破したのだから当然その情報は亡国機業側にも届いているのだろう。ましてや、機体のベースこそ倉持技研が開発したが、それを第三世代型足り得るため必要な特殊武装を考案したのがこの男なのだ。

 今簪が乗るこの機体が本来の専用機《打鉄弐式》とは全くの別物であるということもひと目でわかることだろう。

  

「ただ君はわかっているのかい? 仮想可視化した他の存在と違って僕の攻撃はそのまま電子的なサイバー攻撃だ。意識がデータ化された今の君が僕に殺されれば現実の君も無事じゃあ済まない」

 

「関係ない...私は阿九斗を助けるためにここに来たの。今さら安全策に逃げるなんて馬鹿けてる」

 

「そうか、なら引き下がってくれと頼んでも無駄だろうね。仕方がない」

 

 望一郎は大剣を縦に振るう。簪の目の前で望一郎の姿が歪んで見えたがそれは違った。正確には簪と望一郎の間の空間そのものが歪んでいた。

 それがなんなのかは簪にはわからない。センサーにも反応はない。しかし明らかになにかが目前に迫ってきている。 

 

「っ!」

 

 簪は咄嗟に真横に飛び退いた。するとさっきまで簪がいた位置から見てちょうど真後ろにあった瓦礫が真っ二つに割れる。

 

「ソニックブーム...? 違う、もっと別のなにか......」

 

「ISに乗ってるんだ。これくらい避けられたところで驚きはしないよ」

 

 簪は望一郎を中心に円を描くようにホバリングした。常に敵に対しての位置を変えながら左右に二門ずつ搭載されているアスタロトの照準を望一郎に合わせた。一瞬、砲門内部のコイルに電流が流れ、強力な磁気を発して砲弾が打ち出される。

 しかし、その攻撃に合わせて望一郎は大剣を振るった。剣の軌跡がそのまま風のようにコイルガンの射線を通り過ぎると砲弾が真っ二つに切れる。驚くべきことに切断の瞬間、なんの衝撃音も聞こえなかったのは、砲弾そのものが硬度に対して一切の抵抗もなく切り裂かれたということだ。

 

「ハイパーセンサーでも攻撃が確認できなかった...」

 

「これは攻撃というより現象に近い働きだからね。特別に講義するなら、この技術は剣の切っ先に合わせて空間そのものにズレを作り出している。空間自体はすぐに元に戻るが、それによって結合がズラされた物質は元に戻らない。そういう理屈さ」

 

「ゴーレムⅢに搭載されていた絶対防御を無効化する剣、あれもこの技術で...!」

 

「君は作成途中の専用機を自分で組み上げたんだったね。さすがに鋭い」

 

 望一郎はなおも大剣を振るった。次々と空間の歪みが簪に押し寄せてくる。

 簪はホバリングから一気に上昇、その攻撃を避けながら射撃を行うが、次元切断はアスタロトはもちろん荷電粒子砲であるスカーレットガンナーすらも切り裂いた。赤い雷が望一郎と簪のちょうど中間の位置で拡散し、散っていく。

 その後も中距離での攻撃の差し合いは続いた。簪はアスタロトとスカーレットガンナー。望一郎はホジスン式完全切断による斬撃。どちらの攻撃も当たれば相手にとって致命傷になる。一定の距離を図ったままでの神経のすり減るような持久戦だった。

 

(こっちの攻撃がまったく届かない...全部打ち消される上に、打ち消した攻撃がそのまま襲ってくる。一瞬でも回避を止めたら負けちゃう) 

 

 これが生身での戦いであったなら望一郎相手に一秒と持たないだろうと、簪は思った。ホジスン式完全切断。それは人体ではとても避けきれないほどの速度と、高い切断力を備えていた。なにより電脳世界とはいえ、ISに乗った簪のスピードに望一郎は見事に対応している。

 

「ありえない......生身でISと渡り合うだなんて」

 

「それは僕自身の技術もあるが、結局のところは武器そのものの性能によるところが大きい」

 

 絶対防御すら切り裂く攻撃が次々に飛んでくる。依然としてセンサーに反応はなく、肉眼でそれを避ける度に簪は身のすくむ思いだった。

 

(どうすればいいの? なにも手がないわけじゃない...けど、これで失敗したら......)

 

 そんな思考を遮るように次元切断が迫ってくる。これまでと比べてまるで紙一重の回避、空間の歪みが簪のすぐ目の前を通り過ぎていく。

 表情が青ざめたのは一瞬、しかしそれはすぐさま決心の色に変わった。

 

(やるしかない...!)

 

 間髪入れずに次の次元切断が飛んでくる。

 簪はわずかにその切断面の延長線上から機体の位置を外すと、瞬時加速で一気に距離を詰めた。放たれた次元切断を掠めていくほどに際どく、それでいて無駄のない回避。一瞬にしてトップスピードで接近してくる簪に望一郎は笑ってみせた。

 

「気でも狂ったのかい? 瞬時加速中は回避なんてできないだろう」

 

 再び大剣を横に振るう。加速中の簪と望一郎の間で空間が上下に裂けていくのが見えた。

 簪は強引に機体の軌道を曲げた。螺旋を描くように機体をロールさせ、次元切断をダッキングするように掻い潜る。望一郎の瞳が驚愕に見開かれた。

 瞬時加速は一瞬にして機体のトップスピードを引き出す加速技術だ。直線でしか移動できない代わりに爆発的な加速を生み出す。しかし、その状態で無理な軌道変更を行うと機体に大変な負荷がかかるだけでなく、操縦者にも骨折などの危険を伴う。

 だからこそ、それは完全に望一郎の意表を突いた。

 

「ちぃ!」

 

 望一郎は大剣を振りかぶった。しかしそれは次元切断とは挙動が異なる、素早く足を踏み込んだ実体剣での攻撃だった。

 一方で、簪にはブレードチェーンソーを振り抜く余力はない。無茶な軌道によって機体はもちろん、簪の肉体そのものも悲鳴をあげている。できたのは、望一郎に向かって刃を向けながら突進するだけだった。しかし、触れただけでも十分に効果を発揮する奥の手が簪にはある。

 振り下ろされる大剣に合わせて簪はわずかにブレードチェーンソーの位置をずらした。するとそこへめがけて刃が衝突した瞬間、望一郎の大剣が音を立てて弾かれた。

 

「...っ!」

 

 そのまま後ろに下がる望一郎。衝撃が腕まで伝わったのが、痺れの走った右腕をかばうように左手で押さえつけている。

 

「......極至近距離での一太刀だ。ハイパーセンサーによる警告より僕の刃が届くほうが早かったはずだが、まさか肉眼で僕の攻撃にカウンターを合わせてくるだなんてね」

 

「ここに来るまで、あなたと阿九斗の戦いをずっとISのハイパーセンサーで見てた。阿九斗の目でも追えないほどの超高速の一撃。クロスレンジでの戦いになれば必ずこっちに切り替える。それさえ予測できればあとはタイミングを計ってあなたの大剣の軌道上にブレードチェーンソーの刃を置くだけ......」

 

 簪がかろうじて握っているブレードチェーンソー、それはプラズマによる熱と高周波振動を帯びて赤い光を放っていた。

 

「それがゴーレムⅢの装甲を破った“悲鳴共振”か。確かに凄まじい威力だ。切りつけたこっちの刃が損傷している」

 

 望一郎が携える大剣には大きくヒビが入っていた。

 刃そのものも、内部は精密機械なのだろう。亀裂の入った白銀の隙間からは切断されたチューブや細かい金属部品のようなものが火花を散らしている。

 

「この一撃でクロエちゃんはそっちのプログラムに侵入できたはず。今頃は阿九斗の記憶も戻って必ずあなたから学園のシステムを守ってくれる......」

 

「なるほど、捨て身で活路を開いたわけだ。だけど今の君は満身創痍で戦える状態じゃない。それも見越した上での行動ならこのまま僕に殺される覚悟は決まっているわけかな?」

 

 望一郎はもう一つ、武器を転送した。同じく大剣の形を模したものだったが細部の形状がやや異なる。しかし、それも同じく次元切断を生み出すものであるなら、状況はむしろ圧倒的不利に立たされたことになる。

 

「......」

 

 簪は無言のまま、自身の専用機の状態を見た。 

 コイルガンを内蔵した左右の浮遊ユニットは加速した本体の軌道について行けずに置き去りになって墜落している。機体の複数箇所にあるスラスターもスパークを発してただの一つもまともに動くものは残っていなかった。

 なにより簪自身、身体中の骨に鈍く響くような痛みでまともに立っていることすらできず、地面に膝をついている。

 戦闘の続行は不可能だった。

 

 

 

 

 

 

「傷の具合はどうだ?」

 

「どうやらあの次元切断というのが厄介みたいだ。剣で直接切られた傷の方がずっと深かったのに、その他の細かな切り傷だけが一向に治らない」

 

 校舎の外れ、地理的には納骨堂に近い場所にある森の中で阿九斗は絢子とともに息を潜めて隠れていた。次元切断によって付けられた傷は異様なほど治癒が遅く、ただ横になっているだけでも気力を消耗する。

 

「それでも時間をかけて治ってはいるようだな。お前の目的はスハラ神を殺すことだと聞いた。それは本当なのか?」

 

「ああ、そうだよ。僕は.........っ!」

 

 地下宮殿を出る直前に襲ったノイズが再び阿九斗の思考を掻き乱した。

 

(目的...? それは神を殺すことだ。いや、違う? なんだ...なにかが......)

 

 頭痛に耐えるように、頭を抱えて自分の記憶を辿る。

 

「......行かないと」

 

「阿九斗?」

 

「すべて思い出した。すぐに学院に戻らないと、簪さんが危ない!」

 

『いえ、その必要はありません』

 

 その声はクロエのもの、しかしさっきまでの声とは違い、すぐ近くの木々の間から確かに聞こえてくる。

やがてその間を縫ってクロエが姿を見せた。

 

「クロエ、君もこの世界に来ていたんだね」

 

「ええ、もっともこの姿はあくまで空間に私の姿を投射したもの。本体はスハラ神の神殿にいます。今の私は映像だと思ってください」

 

「この世界における実体はないってことか。それで、簪さんを助ける必要がないって言うのはどういうことなんだい?」

 

「簪様が亡国機業にダメージを与えたことで、私もいくつかの機能が実行可能になりました。今の私の《黒鏡》なら簪様をこの場所まで転送できます」

 

「わかった。すぐに彼女を転送してくれ」

 

 

 

 

 

 

「君の健闘は讃えるよ。もっとも僕も構っている暇はないからね。ここで終わらせてもらう」

 

 大上段に構えた大剣が簪の瞳に映った。次元切断の挙動だ。

 避けられない。というよりも避ける気がなかった。

 

(阿九斗、ごめんね。この世界からちゃんと助けてあげられなかったけど、阿九斗なら必ずIS学園に戻ってきてくれるって信じてるから)

 

 そのとき、簪が膝をついた地面に魔法陣が描かれる。それは絢子が簪に武器を貸し与えた時に出したものと同じ、転送円と呼ばれるものだった。

 

「えっ?」

 

「なに!?」

 

 そのまま地面に沈んでいくように魔法陣の中に簪の姿が消えていく。

 望一郎が大剣を振り下ろすが間に合わない。簪の消えたあとに裂けた空間の歪みが通り過ぎていった。

 

 

 

 

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