怒濤の第4話です。
どうぞ~
「戦闘区域に高エネルギー反応!」
モニターの前で真耶が叫ぶ。レーダーには攻撃対象である《銀の福音》を中心に強力なエネルギー反応を示していた。それも徐々に膨れ上がっている。
「例のISか?」
さらに解析を続ける。
「いえ、これは...《銀の福音》のセカンドシフトです!」
○
(これは...いったいなにが?)
白銀の閃光は巨大な球体に形を変えた。その中心で《銀の福音》の左右4対の光の翼が大きく羽ばたいているのが見える。
全体の形状も先程までと大きく変わっていて、装甲の厚みも増した。
視界の端で敵機の推定出力が凄まじい勢いで書き換えられていく中でふと、その光が揺らぐ。
(────来る!)
渦巻き状のビームが展開した阿九斗の魔法陣に衝突する。口径が広く、威力も先ほどまでのエネルギー弾の比ではない。
「くっ...」
なんとか耐え凌ぐも、出力に押されて弾き飛ばされた。そこから間髪入れずに無数のエネルギー弾が降り注ぎ、阿九斗はどうにか距離をとって回避する。
それから防戦一方の戦いが続いた。
○
『織斑、篠ノ之、聞こえるな?』
「こちら織斑、聞こえてます」
「私も大丈夫です」
千冬は本部で補給を行っていた二人にオープンチャンネルで連絡を取る。
『たった今状況に変化があった。《銀の福音》はセカンドシフトを果たし、事前に渡したスペック情報はもう役に立たん。よって本作戦は専用機持ち6名であたってもらう』
「セカンドシフト!?」
声をあげたのは箒だった。
セカンドシフトとは本来、戦闘経験の蓄積によって操縦者とISとの同調が高まり、はじめて発生する形態変化だ。無人機である《銀の福音》には起こり得るはずがない。
『詳細は不明だが、当初のスペック以上の性能が予想される』
もともと分の悪い作戦だったが、相手がセカンドシフトを果たし、その性能が未知数ともなれば早期決着は見込めない。素性も得体も知れないとはいえ、その紗伊阿九斗という男は未だ敵機と戦闘を継続しているのだ。
ならばその間に充実した戦力を整えて作戦にあたれば、勝率はぐんと上がる。
『すでにオルコット、鳳、デュノア、ボーデヴィッヒの4名はハッチで待機している。補給が完了次第、合流しろ。くれぐれも無理はしてくれるな』
「「了解!」」
○
ビーム砲の回避に回れば、雨粒のようにエネルギー弾が降り注ぎ、それを防御すれば高出力のビーム砲で押し負かされる。
どうにか隙を見つけて反撃しようにも、エネルギー弾と高出力のビーム砲の処理でうまくマナを練ることができない。
さらに飛行速度もあちらの方が早く、得意の接近戦闘に持ち込むこともできなかった。
戦局は完全に覆った。その手数と高い攻撃力に阿九斗はじわじわと追い込まれていく。
(このままじゃらちがあかない。せめて一発でも当てられれば...)
阿九斗は多少の被弾を覚悟で動きを止め、防御を捨てて両腕にマナを集中させる。するとそれを察知した《銀の福音》はエネルギー弾の連射から高出力ビーム砲にシフトした。
(なっ!)
真正面からの直撃。
そのまま阿九斗を海中深くまで押し込めていく。
迂闊だった。勝ちを急いで戦法を見誤った。しかし、そう後悔している今でも活路を見出すことができない。方法があるとすれば、ただ単純にマナを放出する以外の広範囲への攻撃か、着実に命中させられるだけの精度の高い攻撃。
(あの速度に対応できる攻撃手段なんて僕にはない。そもそも僕はマナのコントロールが下手だったから力で押し通す戦いしかできなかったんだ。高速で動く相手に遠距離から器用に攻撃を当てるような真似、到底僕には......)
単純な戦いしかできないなりに、使える手札は切った。
(いや、待てよ)
それはほんの思いつきだった。しかしこの絶対的不利のなかではこれ以上にない切り札。
(あるじゃないか、まだ一つだけ残された手が!)
阿九斗はそこに確かな光明を見た。
拳を開き、周囲の海水にマナを浸透させる。
学園長から学んだ数少ない技術の一つ、『化勁』。
(対象の勁を変質させ、さらにそこへ自分の勁を加える。理屈だけはわかっているけど、どうにも僕は化勁を間違って覚えたみたいだ。でも、今は使えるならそれでいい)
勁で重力の作用を反転させ、マナを浸透させた大量の海水を持ち上げるように浮遊させる。
「学園長が見たらきっと笑うだろうね。覚え違いが過ぎる。けれど、そんな出来損ないだって使いようさ」
再び現れた阿九斗に《銀の福音》はエネルギー弾での攻撃を開始する。空中に浮き上がった海水を貫いて被弾するが阿九斗は不敵に笑った。
「それくらい、いくらでも食らってやろうじゃないか」
攻撃を避けないとみた《銀の福音》は高出力ビーム砲に切り替え、阿九斗に放った。
(きた!)
阿九斗の持ち上げた海水を貫いて命中する寸前に海水が一気に沸騰する。
─────ドゴオォォォォォォーンッ!!
海水の勁を反転させ、それをビームの熱で急激に気化させて引き起こす水蒸気爆発。限りなく自爆に近い捨て身の一撃は圧倒的な熱量をもって《銀の福音》を破壊した。
○
現場へ向かう専用機一同にオープンチャンネルが開かれる。
『戦闘区域にて巨大な爆発を確認! 皆さん衝撃に備えてください!』
「っ!? みんな僕の後ろに!」
遅れて高熱反応の波が押し寄せてくる。それにいち早く前へ出たシャルロットはガーデン・カーテンを最大出力で展開し、6機のISを覆う。
やがて熱波が収まるのを確認すると、シールドを戻した。
爆発のあった方角には先程まではなかった巨大な雲ができている。
『お前たち。全員無事だな?現在状況を確認している。そのまま作戦区域の索敵にあたってくれ』
爆発の影響か、千冬からの回線に若干ノイズが混じっていた。
○
前にも一度覚えがある。
暗闇のなかの浮遊感と上から差し込むほのかな光り。そして腹部への強烈な圧迫。
「ごほっ!ごほっ!」
「いやー君すごいね。さすがの束さんでもあんな深くにいたら水圧で『ゲボエッ』ってなっちゃうよ。もっとも、ISを纏っていなければ。」
阿九斗はデジャブを感じた。
違う点は多々ある。主に自分が強引に持ち出したISを纏っていることや、乗っているウサギ船が半壊していること、そして特筆すべきは束がすこぶる不機嫌であるということだ。
「......助けて頂いてありがとうございます。それであの、できれば離して─────」
「ふん!」
例のごとくいきなりアームを離し、阿九斗をデッキに叩きつけた。しかし今度は以前と違い意図的な悪意をもって。
しかし、阿九斗にも思い当たる節があったのだから文句の言いようがない。
「......天井を撃ち抜いたことは悪かったと思ってるよ」
束はなにも答えない。頬を膨らませたままそっぽ向いている。
船の様子を見ると、特徴的だったウサギ耳は焼け落ち、見る影もない。阿九斗の開けた大穴は縁が溶けていて、全体を見回すとあちこちが焦げや煤で汚れている。
あのあとは大忙しだったに違いない。
「それに手土産もある。君の言っていた量子変換というのをやってみた。もっとも、マナを使った性質変化の応用だから実際のものとは異なるだろうけど」
阿九斗が取り出したそれは、
「ISのコア!?」
束は思わず口を開いた。
知らないはずはない。それはまさしく束が自らの手で造り上げた467のISコアの一つだった
「あの爆発のなかでそれだけが残った。どうやら物理的に破壊できる代物じゃないようだね」
内側にマナを加え、少しずつ造りを分解していく。すると、阿九斗の手のなかで砂粒のように散り散りにこぼれ落ちた。
「...............」
束は表情を変えない。
もともとそうするつもりだったのだ。阿九斗もそれはわかっていた。
「ここは君の世界じゃないよ? 魔王としての使命はここにはない。それでも君はこの世界で変革を起こすの?」
「人々は物語を捨て去った。そしてこの世界は力あるものが自分にとって都合のいい物語を押し通し、人を殺し戦争をする。そんな物語が生まれる度に魔王は生まれ、ありもしない幻想は創造され続ける」
「人は結局、幻想を捨てることはできないってこと?」
阿九斗は首を振る。
「それは僕にもわからない。もし物語の終わりが新たな物語の始まりでしかないなら、人は永遠に争い続ける。でも、まずは終わらせないとなにも始まらないんだ。それに、君には君の物語がある」
幼い頃に交わした約束。みんなを宇宙に連れて行く。そのためのIS。
「ISを、物語を世界にばらまいたのは束さんだよ」
「わかっている。だから決めたんだ。君が天災を引き起こした魔王なら、僕はそれを変革する魔王になる」
残る466のコア、すべてを壊してこの《巨大な物語》を終わらせる。
宇宙に跳ねる一羽のウサギとその仲間たち。この物語を誰もが笑って終われるように。
束はニカッっと笑った。
今までにないくらい、ひまわりのような無邪気な笑顔で。
「なら! これからもよろしくね! あーくん!」
いかがだったでしょうか?
皆さんのご意見や感想、お待ちしております。
ではまた次回~