♚IS学園の大魔王   作:くぼさちや

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お待たせしました!
週1投稿をノルマにしていきたいと思います。
ではどうぞ~


04話 「IS学園の大魔王」

「転校生の紗伊阿九斗くんです」

 

「級友の皆さん、只今ご紹介に与りました、紗伊阿九斗です」

 

 どうしてこのようなことになったのか、それを説明するには少し時を遡らなくてはならない。

 

 

 

 

 

 

「それにしても派手に壊したよね~!」

 

 阿九斗の展開したISの解析を続けながら、束は言った。

 皮肉を含んでか、それとも特に意識せずに言っているのか、いずれにしても阿九斗には耳が痛い言葉だ。

 なんでも、天井を撃ち抜いたときに火災が発生したとかで、あの場にあった機材のほとんどはデッキに運び込まれている。そのため酷使した機体の整備をやその他もろもろを外で行うことと相成った。

 戦闘で大量の海水を一度に気化させたせいで、湿度と海水の温度が異常に高い。辺り一面を濃霧が立ち込めていて数メートル離れた束の姿もわずかな影が見える程度だ。

 今こそ落ち着いたものだが、爆発からしばらくは波も荒れていたに違いない。 

 それをこの蒸し暑さの中、遠路遥々スクラップ寸前の船で助けに来てくれたのだから阿九斗も頭が上がらないわけだ。

 

「本当にご迷惑をおかけしました」

 

「ああ、全くだ」

 

 どこからともなく聞こえた声は束の柔和なそれと違う、凛と透き通った声。それに続くように濃霧を掻いて船体が姿を現す。

 

「専用機持ち6名で探索すること20分。見つけたと思いきや海の底とはな」

 

「あっ! ちーーちゃーーん!」

 

 霧に隠れて全体は見渡せないものの、大きさは束の船と同じくらいに見える。

 束は全力で助走をつけ、その船に飛び乗った。

 

「ふん!」

 

 ガシッ、という軽い打撃音と束のうめき声が聞こえたが、ケーブルに繋がれたまま動けないでいる阿九斗には向こうの様子が見えない。

 

「あの、束さん?」

 

 問いかけるまでもなく、すれすれまで接近した船の上で顔面を鷲掴みにされている束の姿が見えた。

 今の声の主だろうか、「ちーちゃん」と呼ばれたその女性は“沿岸警備隊”と書かれた船体に似合わず、緑のジャージとラフな服装。それでいながら擦りきれるような緊張感を纏っていて、見ていて自然と気が引き締まる。

 奇想天外な束と並べるとまったく正反対の雰囲気だった。

 ウサギ丸に降り立つと、引きずられるように束も続く。

 

「もー! ちーちゃんは容赦ないなぁー!」

 

「えっと、あなたは?」

 

 束の手を借りながら阿九斗はISから一旦降りる。

 

「IS学園で教員をやっている、織斑千冬だ」

 

「...IS学園っていうと、確かIS操縦者を育成するための教育機関でしたか?」

 

「ほう、一応の知識はあるようだな。なら話が早い」

 

 知識といってもISについての束の説明で軽く触れた程度だ。それより話が脱線したときに度々名前の出た「ちーちゃん」なる人物についての方が余計な意味で知っている。

 そのとき阿九斗が聞いた印象と若干の相違があるのも、長年親しい束だからこそわかることがあるからかもしれない。

 

「束から話は聞いている。正直、お前についてすべてを信じるとまではいかないが、まあいい。ひとまずそれは置いておこう。問題にするべきはそこではないのだ」

 

 うんざりした様子で千冬は続ける。

 

「実のところ、国籍不明のISというのは簡単な問題ではない。性能が高ければなおさらだ。1時間ほど前に上層部に本作戦での断片的な映像データや戦闘データを報告したところ、各国が貴様とそのISは自国の所属であると主張してきている」

 

「なっ!?」

 

(そんな馬鹿な!?)

 

「ISでの戦闘は初めてだろうから分かるまいが、お前の落とした機体、《銀の福音》はアメリカの最新鋭機でな。数あるISのなかでもトップクラスの性能を誇っていた。それをほぼ単独で撃破、この意味がわかるか?」

 

 阿九斗は黙ってうなずく。

 それこそこの事件で最新鋭機を失ったアメリカはその損失を埋めようと躍起になるはずだ。暴走した《銀の福音》を自国の機体で破壊したという内輪での話で通せば、多少強引な方法をとってきてもおかしくはない。

 

(僕だけならまだしも、束さんにこれ以上迷惑はかけられない。でもどうすれば)

 

 当然のことながらこの世界に身寄りはない。

 そんな中で世界中から狙われては、もとの世界に戻るどころではなくなってしまう。

 

「そこで一つ、提案がある。紗伊阿九斗、IS学園に入学する気はないか?」

 

「僕をIS学園に、ですか?」

 

 阿九斗にとってそれは意外な提案だった。

 今聞いた話からして、阿九斗の存在はどう考えても邪魔でしかないはずだ。仮に迎え入れたとして、それで状況が改善するとも思えない。

 

「IS学園特記次項。『本学園においてその生徒はその在学中において、ありとあらゆる国家、組織、団体に帰属しない』。つまり最低でも2年半は国の揉め事から巻き込まれずに済む」

 

 千冬の表情がほころんだ。

 

「なに、ここに来る方法があったなら帰る方法もきっとあるはずだ。腰を据えて、ゆっくりと探していくといい」

 

 強みのある言葉に阿九斗は千冬なりの優しさを感じていた。そのとき感じた印象が束から聞いていた千冬の印象に近いものだったのだ。

 

(確かにこのままここにいては束さんに迷惑をかけてしまう。それに本来、学生である僕にとって勉学は責務だ。IS学園という環境でこの世界について学べば、なにか元の世界に帰るための手がかりが得られるかもしれない)

 

 視線を向ける阿九斗に束はこくりと頷く。

 

(聞かなくたって平気さ! 束さんなら世界中からでも君をかくまってみせるよー!)

 

(......束さんもそう思ってくれているのか)

 

 阿九斗は誤解に気がつかぬまま、柔らかに微笑んだ。

 

「わかりました。今後、学園でお世話になります」

 

 まさかのくい違いに束はズテッとこける。

 

「うむ、入学手続きはこちらで済ませておく。貴様は身一つで来るといい。ではまた、学園で会おう」

 

 船が去ったあと、阿九斗は束に向き直った。

 

「ありがとうございます。入学を許して頂いて─────」

 

「あーくんのドあほー!」

 

「ぐえほっ!」

 

 華麗な束のドロップキック受けて、編入当日に至る。

 

 

 

 

 少し考えればわかることだった。

 ISはただ一人の例外を除いて、女性にしか扱うことができない。ならばその操縦者育成のための教育機関は結果的に女子校同然になるのは自然なことだ。

 

(もう少し考えを巡らせていれば気の持ち方があっただろうに、弱ったな......)

 

 人前で話すことは得意な阿九斗だったが、こうもプレッシャーをかけられるとたじろいでしまう。

 世界で最初の男性操縦者が見つかったのがつい最近であるということを考えれば、人によって認識が多様化していることは十分にありうる。その存在を快く思わない連中もいるだろうし、とくにこの学園においては皆ISの専門知識や技術を学びに来ているのだから、中には複雑な思いを持っている生徒もいるはずだ。

 

(しかし、僕は昔から善を成そうとしているのだし、事実、自己意識として悪いことをしたことはない。きちんとした行動をすれば理解は得られるはずだ。とすると、やはり最初の印象が肝心だろう)

 

 咳払いを一つして、自己紹介に入った。

 

「級友の皆さん、只今ご紹介に与りました。紗伊阿九斗です。ご覧の通り、男性の身でISを動かしたことから急な編入となりましたが、これからの学園生活で共に学び、皆さんと良い思い出を作っていければと思っています」

 

 以前の経験を踏まえ、あえて短くマイルドにまとめる。

 例のごとく小難しい話をして、それが裏目に出てしまっては目も当てられない。実際問題、魔術学院では魔王の噂が先行していたために、自己紹介で思わぬ誤解を生んでしまったのだ。

 しかしここは異世界。成り行きで入学したとはいえ、阿九斗はここでの平穏な学園生活を期待していた。

 

(─────どうだ?)

 

 わずかな沈黙。

 そして次の瞬間、ダムが決壊したかのように歓声があがった。

 

「二人目の男子! 1組でホントよかった!」

「しかも長身で誠実!」

「ちょい悪な顔で紳士的なところがまたいい!」

 

「騒ぐな! 静かにしろ!」

  

 千冬が制するが、阿九斗は内心感激していた。

 

(真意をきちんと受け止めて貰えることがこんなにも嬉しいことだとは!)

 

 学園に二人しかいない男子生徒だ。好奇の目で見られるのは仕方のないことだろう。しかし見た限りでは阿九斗に対して嫌悪感を抱いている様子は全くない。それどころか歓迎すらされていると言っていい。

 こぼれそうな涙を押さえて、阿九斗は席についた。

 

 

 

 

 

 

 午前は実習訓練だった。

 阿九斗が使用したISは束いわくISの定義上不完全な点が多く見られたらしい。

 そのため必要な機能を搭載し、さらに幾重にもリミッターを設定した状態で後日送られてくるそうだ。

 

「俺は織斑一夏。よろしくな」

 

「ああ、こちらこそよろしく」

 

 お互いに握手を交わす。阿九斗は彼に社交的な印象を持った。

 《銀の福音》との戦闘に参加していたIS乗りの二人は阿九斗と同じ1年1組で、名前は織斑一夏と篠ノ之箒。

 教室に入ったとき、ひときわ驚いていた一夏だったが、阿九斗自身もまさかこんな形で再会するとは思ってもみなかった。

 

「まあ、話はあとにして急ごうぜ。実習のときは女子が着替え始めるから」

 

 そう言って一夏教室を出る。阿九斗もそれに続いた。

 本当に急いでいるのもあるが、彼とはしなければならない話もある。更衣室で着替えている途中、阿九斗は意を決して尋ねた。

 

「話というのは福音の暴走の件かい?」

 

「ああ、まだお礼言ってなかったからさ。ありがとな。お陰で助かったよ」

 

 ありがとう、なんて久しく言われていなかった。いつも行動が裏目裏目に出てしまい怖がられてばかりいたせいか、どうにもくすぐったく感じる。

 

「まあ半分はそれが理由だな」

 

「ならもう半分は?」

 

 一夏は苦笑混じりに言った。

 

「千冬姉の授業に遅れると大変だからさ」

 

 それにつられて阿九斗も自然と笑っていた。

 

「なるほどね。それは聞いてよかった」

 

(彼とはどうやら気が合いそうだ)

 

 

 

 

 

 

「大天災と名を轟かせた束にしては、随分と調整に手こずったようじゃないか」

 

「うーん、ま~ね~!」

 

 学園の敷地内にある竹林に千冬と束はいた。

 公の場での運用を考慮して阿九斗の使用していたISを解析すると次から次へと問題が浮上したのだ。

 なにせ、あの場に置いてあったISとは別物と言っていいほど変質している。外部の装甲はもちろん、内部にまで束の知らないシステムが組み込まれていた。

 もともと未完成で動くはずのないISだった。

 拡張領域は『不明』と表示されたスロットによって埋め尽くされていてナイフ一つ装備出来ない。《銀の福音》のコアを阿九斗が量子変換したというが、いったいどこに収納していたというのか。

 さらに束が搭載する前だった絶対防御はあるはずもなく、これでは《銀の福音》との戦いにおいて、シールドバリアを貫通した攻撃を生身で受けていたことになる。

 そしてもう一つ、これが束を悩ませた最大の理由。ISを起動させていたであろう動力源がどこにも見つからないのだ。

 

 もはや男性云々の話ではない。物理的にこれを動かす仕組みが謎のままなのである。

 

「出力調整や絶対防御の搭載は問題ないよ! 動力炉も一応入った!」

 

 しかしこれでは以後どのような不具合が起きるか予想できない。

 《銀の福音》戦後、束が解析したスペックデータを見て千冬は眉をひそめる。

 

「しかし、データを見る限りではとても福音を破壊した機体とは思えんな。武装も絶対防御もないとは」

 

 仮に動力があったとしても標準的なISの性能には程遠い。あるべき機能を積み損ねた第一世代以下の未完成機だ。

 

「考えられるとすれば、沙伊の話していた『マナ』か」

 

「機械の動力が魔法だなんてナンセンスだよね~!」

 

 待機状態のISが入ったアタッシュケースと調整後のスペックデータを受け取って千冬は頷く。

 

「うむ、この性能であれば問題あるまい。紗伊にとっては不満だろうがな」

 

 

 

 

 

 

 ISの知識については、この世界の一般常識のレベルまでどうにか詰め込んだ。 

 そうやって牛歩にも劣るゆっくりとしたペースではあるものの、少しずつ新しい環境に身体を慣らしていく中で、今は事前に渡された参考書を用いて学習を進めている。

 

(授業についていけるようになるまではしばらく時間がいるだろうな)

 

 教科書の入ったカバンを手に学生寮への帰路につきながら、今後の学園生活に思いを馳せていた。

 急な編入で1組のフロアの部屋が用意できず、しばらくは4組の生徒と同室する旨を聞いて少し寂しく思ったが、これから授業でいつでも会えるのだから気にする程のことではない。それに他クラスの生徒と面識を持てる良い機会だ。

 そう思うと、自然と阿九斗の足取りは軽かった。

 

(417号室...ここか)

 

 寮内の自習室で遅くまで勉強していたせいで、時計を見ると時刻はすでに22時を過ぎている。

 同室の生徒はもう寝てしまっているかもしれないと考え、音を立てないようにキーを差し込むと案の定、部屋のなかは暗かった。

 こんなことならもっと早く切り上げるべきだったと思いつつ玄関を進んでいく。すると暗い部屋のなかでうっすらとディスプレイの光に照らされた同室者の存在を認めた。

 水色の髪にハーフフレームの眼鏡をかけた女子生徒はアニメーションが再生されているディスプレイを食い入るように見ている。

 

 繰り返しになるが、ISはただ一人の例外を除いて、女性にしか扱うことができない。ならばその操縦者育成のための教育機関は結果的に女子校同然になるのはごく自然なことだ。

 ならばルームメイトも当然のことながら女子生徒と当たることになる。

 

(僕としたことが...肝心なことを失念していた。それにタイミングもあまり良くない......)

 

 一度出直そうと思い至った瞬間だった。何かの気配を察したようにふと顔を向けた女子生徒と目が合う。

 

「いっ...」

 

 女子生徒は息を飲む。

 

(まずい...これは本当にまずい.......!)

 

「嫌ああああーっ!」

 

 これが紗伊阿九斗と更識簪のファーストコンタクトだった。

 




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