♚IS学園の大魔王   作:くぼさちや

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ずいぶん長くなってしまいました。
インフィニットストラトスはアニメでしか見ていなかったので、更識簪の個性を掴むのに苦労が......
「こんなの簪じゃねえ‼」
と思われる方がいらっしゃいましたら、今後の参考に是非ご意見頂きたいと思っています。
では、どうぞ~




05話 「勇気を出して一歩前へ」

  

 季節が夏だからまだよかったのかもしれない。

 外気を遮断する壁があるとはいえ、冬なら廊下のベンチで一晩明かすなんて訳にはいかなかった。

 

「一夏。もう起きてるかい?」

 

「ああ、ちょっと待っててくれ!」

 

 電子錠のロックが外れる音とともにドアノブが回る。

 

「毛布ありがとう。昨夜は起きててくれて助かったよ」

 

 阿九斗は借りていた毛布を一夏に返す。

 あのあと急な剣幕におもわず部屋から逃げてきてしまい、結局帰るに帰れなくなった阿九斗は起きていた一夏に毛布を借りて廊下で寝ることにした。

 なにかしら行き違いがあったのか、昨日のルームメイトの騒ぎ方から考えると、事前に阿九斗が来ることを知っていた様子はない。

 

「それにしても、転入初日から大変だったな」

 

「まあ、今晩までになんとか釈明できればいいんだけど」

 

 どうにかできなければ今晩も寝床はない。

 こうなってしまうと変な噂が立つ前に学校で事情を説明したほうが良さそうだ。

 

「昼間のうちに一度会ってちゃんと話をしておきたいんだけどね。ただ先生の話から4組ってことは間違いないんだけど名前も聞いてないし、顔も暗くてよく見えなかったんだ」

 

「そっか、なら千冬姉に聞いてみたらどうだ? 寮長をしているから部屋のこともわかると思うぞ」

 

 

 

 

 

 

「......ということなんですが」

 

「なるほど、そうだったか」

 

 HR前の職員室。

 ひとまず阿九斗は一夏の助言通りに千冬のもとへ事情を話しに行った。

 

「それは災難だったな。紗伊の部屋割りについては山田先生に任せていたんだが......さて」

 

 そういって千冬は視線を移す。真耶はまるで蛇に睨まれたカエルのように微動だにしないでいたが、千冬につられて阿九斗までが視線を向けると、プレッシャーに耐えきれず謝り始めた。

 

「すみません! すっかり言い忘れてしまって!」

 

「まあ、そういうことのようだ」

 

 溜め息をつきながら千冬は寮の名簿と思しきファイルをパラパラとめくる。

 

「ルームメイトの名前は更識簪。前にも話したと思うが、4組の生徒だ。先にあちらの担任から事情を伝えさせておこう。お前は1時限目が終わってからにでも行ってこい」

 

 

 

 

 

 

 先んじて話が通っているならさすがに悲鳴をあげられるようなことはないだろう、と思いたい。

 教室を覗くと中の視線が一斉に阿九斗へ向いた。

 校内に二人しかいない男子生徒はどうしたってよく目立つ。しかしその目線には1組のそれと比べてかなりの温度差があった。

 

(しまった...恐れていた事が......)

 

 その場の誰もが阿九斗の来訪に警戒していた。かつての経験でわかる。

 夜遅かったものの、どうやら騒ぎを聞きつけた生徒がいたようで、響き渡った悲鳴と部屋から走り出す阿九斗、そして頑なに事情を話したがらない簪の様子を見て、4組の生徒たちはおかしな誤解をしたようだった。

 

「あいつでしょ? 更識さんのシャワーを覗いたっていう男子」

「私は夜這いだって聞いたわよ」

「サイテー、男ってこれだから」

 

 そんな話し声がいたるところから聞こえてくる。四方から注がれる視線は魔術学院とはまた違う、恐怖というより軽蔑の視線だ。

 そして多数の視線のなかで一人だけ見覚えのある顔があった。

 

(来てみるまで自信がなかったけど、恐らく彼女で間違いない)

 

 一見したときは気付かなかったが、かなり整った顔立ちをしている。気付かなかったのは各顔のパーツに特徴的な点がなかったからだろう。地味ながらずっと見続けて良さに気づく、そういう顔だった。

 大人しげな様子も相まって、なんだか妙に悪いことをした気分になる。

 しかし、今後の寮での生活がかかっているのだ。友好的とはいかないまでも、せめてまともに話ができる程度には関係をつくっておきたい。

 

「昨日は驚かせてしまった。もう寝ているようなら起こすのは忍びないと思って。ごめんよ」

 

 近くの生徒に廊下まで呼び出してもらおうかと思ったが、断られるのは目に見えている。やむなく警戒の視線を全身に浴びながら阿九斗は教室に入っていき、簪の席まで来ると釈明を始めた。

 

「いい。気にしてないから...」

 

 そう言っても顔を伏せたまま先程から阿九斗と目も合わせようとしない。そこから感じられる、この人とうまくやっていけるのだろうか一抹の不安をグッと堪えた。

 怖がられている様子はないが、さて。

 

(どうしよう......)

 

 そう思ったのは簪の方だった。

 すでにさまざま噂が飛び交う中で担任から詳しい話を聞いたのが今朝のHR前。クラスメイト全員にちゃんとした事情を説明することもできず、拍車がかかる噂を止めることもできないまま今に至っている。

 話では1時限目の終わりにこちらへ来るということだったので、それを含めきちんと会って謝るつもりが、こうして逆に阿九斗に謝らせてしまった。しわのついた制服を見るに、あのあと阿九斗がどう寝たのか想像に難くない。

 

(ちゃんと、謝らないと...みんなの誤解を解くためにも、今ここで......)

 

 それに昨夜はプライベートな趣味を見られた羞恥心と、急な入室に驚き思わず大声をあげてしまったが、あの場できちんと話ができていれば阿九斗に要らぬ迷惑をかけることもなかったのだ。

 

「......本当に、気にしてないから」

 

 結局、謝るタイミングを完全にのがしてしまった。

 もともと人と話すのは得意ではない性格もあってクラスメイト全員を相手に誤解を解くことはもちろん、こちらこそごめん、と言えばいいだけのことすら簪にはできないでいた。

 そんなことを知るよしもない阿九斗はどうにかして打ち解けようと話を切り出す。

 

「......ならよかった。それじゃあもし都合が合うなら今日の昼食を一緒にどうかな?」

 

「......うん、平気」

 

 ぎこちなくも返事を返す。阿九斗は精一杯の笑顔で言った。

 

「じゃあ、授業のあと食堂の前で待ってるから」

 

(よし、何とか約束を取り付けた。そこでまたきちんと話しをしよう)

 

 すると、ちょうどそこで2時限目の予鈴が鳴った。

 “紗伊阿九斗が更識さんを口説きに来た”という新たな噂を生み出して。

 

 

 

 

 

 

「自己紹介がまだだったね。僕は紗伊阿九斗」

 

「......更識簪」

 

 昼食を運んで席に着き、まずは自己紹介。それから一向にやり取りが進まない。

 

( ( ......沈黙が重い ) )

 

 軽い冗談でも言える性格であればまだよかったかもしれない。かといっていきなりはじけるというのも無理な話だ。何よりそういうことに向いていないことは阿九斗自身が一番よく知っている

 

「おお、阿九斗じゃないか。そっちも昼飯か?」

 

 その沈黙を破ったのは阿九斗でも簪でもない。偶然通りかかった一夏だった。

 

「ああ、よかったら君も一緒にどうかな?」

 

 一夏の社交的な性格は阿九斗も理解している。彼ならうまく会話を転ばせてくれるかもしれないという期待があった。

 

「いいのか? じゃあ遠慮なく─────」

 

 昼食の乗ったトレーをテーブルに置く。

 この時、一夏に向けられた険悪な簪の表情に一夏も阿九斗も気づいていなかった。

 阿九斗に謝らなければならないという気持ちと平行して、簪のなかで一夏に対する憤りが膨れ上がる。

 

「私、そろそろ......」

 

 気づいたときにはその場から立ち上がっていた。

 まだほとんど手をつけてない食器を手に持つと、阿九斗の静止を振り切るように列の間をすり抜けていく。

 

「どうしたんだ?」

 

「いや、それが僕にもさっぱり......」

 

 

 

 

 

 

( ......ああ、ダメだなぁ...私)

 

 整備科の倉庫で簪は一人、自分の情けなさに落ち込んでいた。

 

(せっかく誘ってくれたのに、あんなことを。絶対嫌な子だって思われた)

 

 4組での阿九斗の評判は酷いものだった。

 その全てはただの憶測でしかないものだったが、その原因は簪にあるといっていい。にも関わらず、それを止める勇気すらなかった。

 簪は自身の専用機、《打鉄弐式》のディスプレイを展開する。

 プログラムの起動をボンヤリと眺めながら、今後の寮での生活に憂鬱な思いを馳せた。

 

 

 

 

 

 

 フロアが違うこともあって、あらぬ噂の横行は幸い4組だけに留まっているようだった。

 いつもと変わらぬ1組の雰囲気に安堵する一方で、今阿九斗が思うところは別にあった。

 

(教室のときとは、どうにもなにかが違う)

 

 昼食の一件で、阿九斗は簪の行動を不可解に思っていた。

 朝の段階ではぎこちないながらも事情を理解し合えていたはずだった。

 しかし、一夏が来た途端のあの変わりぶり。なにか自分の知らない要素が絡んでいるように感じていた。

 

「沙伊、次の問題に答えてみろ」

 

 阿九斗自身も自覚しているところではあるが、考え事をするとどうも周りが見えなくなるらしい。

 

「...返事をせんかこの馬鹿者が!」

 

 午後最初の授業で阿九斗の頭頂部に出席簿が叩き付けられる。そこでようやく自分が問題に当てられていることに気づいた。

 

「す、すみません」

 

「私の授業を聞き流すとはいい度胸だ。お前にはこの範囲の宿題をやろう。放課後、職員室まで来るように。いいな?」

 

 阿九斗の返答を聞くこともなく千冬は授業を再開する。

 そして放課後、職員室まで来た阿九斗に前置きもなく言った。

 

「織斑から聞いたが、食堂でひと悶着あったそうだな」

 

 宿題というのは呼び出すための方便だったのだろう。

 

「ええ、どうもわけがわからなくて」

 

 ふむ、と千冬は考え込んだ。

 

「紗伊、代表候補生とは何か説明してみろ」

 

「各国家から選出された国家IS操縦者の候補生、ですか?」

 

「まあ、端的に言えばそういうものだ。補足するなら代表候補生にはデータ収集のため、国から専用のISが支給される。しかし、更職簪は日本の代表候補生でありながら専用機がないのだ」

 

 千冬によるとその理由は一夏の登場が大きく関わっているらしい。

 

 簪の専用機《打鉄弐式》は日本の倉持技研が開発を進めていた。ところが世界初の男性操縦者である一夏のデータ収集のためにその専用機《白式》の開発が優先され、現在では未完成のままだった《打鉄弐式》を簪一人で開発しているという。

 なるほど、阿九斗の感じた違和感はそれなりに的を射ていたらしい。

 

「......それで、その《打鉄弐式》は今どこに?」

 

 

 

 

 

 

 整備棟の分厚い鉄扉を開ける。白熱灯に照らされた倉庫に夕日が差し込んだ。

 千冬の話では放課後はいつもここで専用機の設計に没頭しているらしい。

 

「更識さん?」

 

 阿九斗の声に簪は振り返る。

 その表情は教室のときや、食堂のときとは違う、どこか居たたまれない表情。

 

「......なにしに来たの?」

 

 そのやや震えた声に阿九斗は穏やかな口調で答えた。

 

「織斑先生から話を聞いたんだ。《打鉄弐式》の開発についてね」

 

 簪はうつむいたままなにも答えない。

 阿九斗は何本ものケーブルに繋がれた《打鉄弐式》を見る。

 

「一夏に対して思うところがあるのは仕方のないことだ」

 

 ISがどれほどの性能を持っているのか、阿九斗自信身を持って知っている。だからこそ、それを作り上げるだけの負担がどれほどのものか想像もできない。そしてそれに注がれる簪の思いも同様に。

 

「......確かに僕らにはすれ違いがあったのかもしれない。でもお互いにきちんと向き合って話せばわかりあえると思ってる。事実僕にはその意思があったし、だからこそ教室まで君に会いに行ったんだ。一夏に対して憤る気持ちもわかる。それも含めて僕は君のことを理解したい」

 

 阿九斗は心の思うままに話しを続けた。

 

「もし君が僕にもう一度チャンスをくれるなら、僕は君の気持ちに応えたい。寮の部屋で待ってるよ」

 

 そう言って阿九斗は整備棟を後にする。

 残された簪は胸にじんとしたものを感じた。人との関わりに臆病になって、その上誘ってくれた昼食の場であんなことまでしてしまった。それでも阿九斗は自分のことを理解したいとここまで話しをしに来てくれたのだ。

 そんな阿九斗が簪には眩しく見えた。

 

(私も...今度こそ応えたい。紗伊くんの思いに相応しい人間でありたい)

 

 簪はディスプレイの電源を落とすと機材も片付けぬまま駆け出していった。

 

 簪が向かったのは寮内にある4組用の厨房だった。

 袖を捲くり、材料を揃えて調理に入る。

 

(沙伊くんは臆病な私に手を差し向け続けてくれた。私も精一杯の思いを込めて......)

 

 型に生地を流してオーブンで焼き上げる。

 作ったのは簪が得意とするカップケーキだった。急なことでプレーンしか作れなかったが、丹精込めて作った簪の自信作だ。

 それを適当な大きさの紙袋に詰めて丁寧にラッピングしていく。

 

(...できた!)

 

 

   

 

 

 

 切らせた息を整えながら、寮の部屋の前に立った。意を決してノックしたあとドアを開けて玄関を進んでいく。

 

(このカップケーキを渡して、今度こそ謝ろう)

 

 簪の使っていたベッドの反対側に阿九斗は座っていた。

 簪の足音に気づいてか、すぐにこちらを向き視線が重なる。

 初めて会ったときとは逆の状況に簪は一瞬立ち止まった。

 

 勇気を出して一歩前へ。

 

「その...これっ!」

 

 小さめの紙袋を阿九斗に手渡す。

 

「昨夜は......大声あげてごめんなさい」

 

 このとき、阿九斗はようやく本当の意味で簪とのすれ違いに気づいた。

 彼女も自分と同じように悩んでいたのだ。どうすればいいかわからずに、つい素っ気ない受け答えになった簪を見て阿九斗は勝手に拒絶だと思い込んでしまった。

 思えばそれが簪の気持ちを切り出すきっかけをつぶし、ここまで引きずってきてしまったのかもしれない。

 

「ありがとう。開けていいかな?」

 

 簪は黙って頷く。

 丁寧に包装されたラッピングを外すとカップケーキが一つ。

 

「更識さんが作ったの?」

 

「...お菓子作りは得意だから。材料がなくてプレーンしか作れなかったけど」

 

「それは気が合いそうだ」

 

 カップケーキの入った紙袋をテーブルに置くと、阿九斗はかわりにリボンの飾りが付いた小さな袋を取り出し簪の手に置く。中には綺麗な小麦色に焼かれたクッキーが入っていた。

 

「親愛の印としてね。1組の厨房を借りて作ってきたんだ。もっとも、あり合わせの材料じゃあ砂糖とバターで味付けした簡単なのしかできなかった」

 

 そう言う阿九斗はどこか楽しそうだった。

 

「...同じだね」 

 

「たしかに、そうだね」

 

 まっすぐな阿九斗の眼差しに一瞬目をそらしながらも、やがてしっかりと見返す。

 

「これからもよろしく」

 

 阿九斗の言葉にかすかな予感を感じて簪はそっと目を閉じた。

 

(次に目を開けたとき、きっと私はこの人のことを好きになってるだろう)

 

 高鳴る胸をおさえて目を開ける。

 そこには変わらず阿九斗の笑顔があった。その暖かさに張り詰めていた心が氷解するように自然と微笑みが浮かぶ。

 

「うん......! これからもよろしく、阿九斗!」

 

 

 




最終話まで書き上げたらリメイクを出すのもいいかなと思い始めました。
評価(重要!)、感想お待ちしております。
ではまた次回~
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