Fate~友達が戦争に行ってぼっちの君へ~   作:えだまめ。

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第一話 召喚の儀

 

 飛行機に揺られること数時間。どういうことか俺の預金はパンパンで、一番の問題と予想していた金銭はまずクリア。先生をボコッた後、聖遺物もしっかり持って日本行きの便に乗りこんだ。

 ロンドンから日本までの道のりは長かった(泣)……! とか言いたかったのだが、直前までの戦闘と、耳を澄ませば聞こえる空気を切る音は俺に睡眠欲を駆り立てて、時々目が覚めても、すぐに二度寝、三度寝と繰り返していくので気づいたら着いてた───みたいな。

 

 気を抜けばまだまだ寝そうな体に喝を入れ、のろのろと歩き出す。過去のことなんてさっぱりなのだが、この名前から察するに、俺は日本人。

 

 西篠湊人

 

 なんで名前だけ覚えてるのかなんて知らないが、知っているものは知っているのだ。同時に日本語も使えている。

 

 なにより故郷味溢れるこの雰囲気。知らず知らずにテンションが上がってきました。

 そう、求めるのは記憶───いや、求めてないけど───日本は俺にどんな影響を与えるのかっ!

 

 

 

 しかし、懐かしの故郷は俺に何を与えるわけではなく、逆に、「俺って何なんだろ……」という不安感を与えてくれた。うわ、マジいらないっ。

 

 出だしからいきなりテンションダダ下がりだが、気を取り直して冬木市へ向かう。

 何分急にきたせいで、ホテルの予約はおろか何処にあるのかもさえわからない。下手をすると今日は野宿にもなりかねないわけで。さっさと宿を探して、観光……もとい、霊脈の下見に行かなければならない。召喚するのに十分な霊脈と、欲をいえば俺の分の魔力を肩代わりできるくらい半端ないモノがあればいいんだけど。……まず無理だろうが。

 

 

 

 

 見つけましたぁぁぁ! いい感じなホテル、その名も『冬木ハイアットホテル』! 行き交う従業員にいちいち暗示をかけていきながらその中身を拝見した!

 これは冬木市の新都にあり、その高さ、なんと地上三十二階。これは、この先建てられるであろう冬木市の高層ビル群も凌駕するのだ!

 そして、冬木市における数あるホテルにおいて、他よりも頭二つは抜けた最高級の設備とサービスを兼ね備えている! 従業員たちも常、それを自負してやまず、利用者さえも満悦、満足、満面の笑み、是非、またここに泊まりたい! なスーパーなホテルなのだ!

 その上、利用者安心、防災面においても、それはそれは素晴らしく───

 

 ~中略~

 

 と言うわけで、ここ冬木市の中で一番のホテルというわけだ!!

 

 そう締めくくって、なに自分に向かってこんなにも解説したんだろう、と気づく。無駄だ。まず無駄だ。

 ……ともかく、我失するほどどストライクなのだ、このホテルは。

 

 そしてさあさあと、喜び勇んで向かった俺は、俺の人生で一番の挫折を味わった。

 

 『すみません。ただいま満室で……。空き部屋はありません』だと……?

 

 ……くそ。ふざけるなあああああ! 俺が……俺がどれだけ楽しみにしていたか……っ!

 ふかふかのベッド。美味しい料理。行き届いたサービス。夜になればライトアップされた都市を見下ろしながら、まだ見ぬサーヴァントと他愛もない雑談───

 

 ───予定していた夢を挙げて、俺は気付いた。

 

 ウェイバーに、会っていない。

 

 俺が日本に来た───聖杯戦争に参加した動機はなんだった? 問うまでもない、ウェイバーに会うためだ。立て続きに起こる非日常に、ついついうつつを抜かしていた。俺はまだ、ウェイバーの居所さえ知らなかったのだ。

 ……俺が参加者になると言う事は、つまりウェイバーと殺し合いするワケ───だよな。

 

 どうしよう、ここまで来てしまったのに。それは嫌だ。

 何が嬉しくて友達と殺し合いをせねばならないのだろうか。

 第一、ケイネス先生と闘ってまで何になった? 報復か、復讐か、敵討ちか?

 挙句の果てに聖遺物まで盗んで、途中から目的を見失っているじゃないか。

 

 でも。欲望を優先したがる自分が本当に嫌になるが、この参加権も今更ながら手放すのが惜しい。

 そう思い、右手の甲に視線を落とした。

 

 ───令呪。

 

 おそらくフライト中に発現したのだろうが、いつのまにかあったこの痣。

 これは、聖杯戦争の参加資格。この痣を持つかどうかがサーヴァント召喚の鍵なのだろう。しかし、鍵は大切ではあるが譲渡も可能なモノ。書物によると、監督役である聖堂教会に頼めば、令呪を引き取ってもらえるらしい。詳しい所までは頭に入っていないが、令呪を譲ればそのまま参加資格を失い、その時点で脱落。その後は聖杯戦争終結まで、中立でもあり安全な教会の保護下という話だ。

 

 選択として、それも有りだ。

 ウェイバーが参加するのは確定している。ここで令呪を捨て、ウェイバーの手助けに徹するのも、可能性としてはある。

 

 ……いやしかし、であればこそ。サーヴァントを持っていた方が良いのだろうか。全七騎のサーヴァントの内、二騎を所有する───それは大きな強みだ。内部分裂でもしない限り、最後の最後までその優位性は揺らがないだろう。願いをもったサーヴァントなんてのも、令呪を一つ使ってやればそれで従う。

 

 「我がサーヴァントに告ぐ、自害せよっ!」

 

 とかしてしまえば、たとえ叛旗を翻そうが何だろうが終いである。それで全て丸く収まるし。サーヴァント以外は。

 まぁ、それだとサーヴァントがあまりにも不憫でもある。先の事を今考える必要もないか。あくまで可能性の話だし。

 

 

 ……それよりも。

 

 

 「どこに泊まるんだよーーーっ!」

 

 叫ぶ。ああ、叫ぶとも。このどうしようもない焦りを乗せて。

 一度だって野宿した事もない俺に、いきなり慣れない外国で野宿だなんて世間的に酷過ぎやしないか。

 

 本音を言うなら、泊まれなかった事への腹いせなのだけど。。

 さすが首都なだけあり、ホテルは完備しているから泊まる所はいくらでもある。それでも文句を言うのは、やっぱりここに泊まりたかったんだ、って事なんだぜ……。

 

 こうなったら仕方ない。近代的な新都ではなく、情緒溢れる深山町にいくか。あっちならきっと空き部屋があるはずだ。

 ここには無い日本文化伝統の畳と障子を味わってやるぜ!

 

 

 

 

 と言うわけで、魔術師ならば誰もが忌避するような開放的なつくりをした一般的な日本の宿にチェックインし、さっそく霊脈の探索に───ではなく、ずっと気になっていた聖遺物を見ることにした。

 ロンドンを発つ前から気になっていたが、あの先生が用意した聖遺物とは一体どんなものなのか。想像はつかないが、何処か偏屈そうなイメージではある。ウェイバーに奪われた聖遺物の代わりらしいが、どうなることやら。

 興奮で思うように動かない両手を使いながら、箱に巻かれたラッピングを解いていく。乱雑に巻いたせいか、絶妙に絡み合ったリボンは簡単には解けず、俺の精神を蝕んでいく。

 

 「もうちょい、マシに巻けばよかった……」

 

 口に出さずにはいられない苛立ち。過去の自分を恨みながら、ぶつぶつと作業を続けること五分。ついに、もはや嫌がらせ(トラップ)の域にあったリボンを解き、中身を手に取る。まだ紙で周りを覆われているが、さきほどの罠に比べればこんなもの、赤子のお絵かきだ!

 

 そして、紙も取り去った先にあったのは、一つの箱。聖遺物はこの中だろう。もうここまでに迫った興奮が今にも噴き出しそうだ。膨れ上がる期待をそのままに俺は箱を開ける。中には───

 

 「……な、何これ……?」

 

  

 

 バックルが一つ入っていた。

 

 

 

 バックル。そう、バックルだ。何の変哲もない、ただのバックル。

 

 「───ハッ! まさか、先生が中身を入れ替えていたのか!? いや、それは無いな。まず、そんな暇は無いし、必要もない。ってことは、そもそもこれは聖遺物でもなんでもない!? そんな、馬鹿な……っ」

 

 ひとしきりテンパって、これに規格外の神秘が宿っていることに気づく。

 神秘とは年月とともに蓄積される霊的なものだ。ただのバックルに宿るわけがない。つまりこれは、本物の聖遺物。

 かなりホっとした。

 

 「しかし、聖遺物が見た目ただのバックルとか……。先生が見ても驚いただろうぜぇ……」

 

 ねぇ、見知らぬ宅配業者さん。俺に感謝するといい。今回、俺が聖遺物を奪うという形で、貴方の身の安全は確保されました。もしロードがこれを見ていれば、きっと社会的制裁を加えられていたことでしょう。……あの先生が気付かないとも思わないが。

 

 色々、弁明も兼ねた独り言を考えて、そろそろと思う。

 まだ日は暮れていないが、油断していると気づいたら暮れてた、なんてことにもなりかねない。俺はまだ霊脈探しに行かなければならないのだ。

 召喚の手助けもできるような霊脈。そんなものがあるとは思えないが、見つけた中で一番の霊脈を使ってやれば良い。

 

 

 

 

 霊脈探しのために、深山町……新都、と移動していく。

 その最中、ついつい主旨がズレて店に寄ったりしたが、これでまだ見ぬサーヴァントとのデート(?)コースも決まった。一押しは駅前のアイスクリーム屋さんで、相手が女性ならなお嬉しい。

 

 しかし、女の英雄なんていただろうか。ジャンヌ・ダルク……とかか? ……ああ、ダメだ。ジャンヌ・ダルクしか思いつかない。

 そもそも、聖遺物を使うのに確率とか考えるの無駄か。何千分の一の確率で、女性とかまず奇跡だし。諦めよう。

 ほんの少しブルーになったが、無視できるレベルだ。てか、無視できなくてどうする。

 

 ところで、探していて気づいたが、ここ冬木市には霊脈が多い。その霊脈の規模を勘定に入れなければ、だいたい三十はあっただろうか。たかが“市”の大きさにしては、この数はかなり多い。

 

 その中でも、特に大きな規模の霊脈は4つ。遠坂邸、聖堂教会、柳洞寺、冬木市市民会館。遠坂邸の遠坂とは、マキリ、アインツベルンと並ぶ聖杯戦争における御三家の一つだ。宝石魔術を得意とする遠坂は、聖杯戦争の開催地を。錬金術のみを探求するアンツベルンは、聖杯の製作を。現在では間桐と名をかえたマキリは、令呪を作ったとされる。彼らは始まりの御三家として、冬木市の霊地を独占しているのだろう。必然的に、敵である遠坂邸周辺での召喚はできない。同じく、聖堂教会での召喚も控えた方が良いはずだ。中立の教会の周りで召喚していて、変に目をつけられても困りものだ。人の集まりかねない市民会館も却下。

 

 と、なれば残るのは柳洞寺のみ。そしてここは、他三つより抜きんでた霊地でもある。俺のいう“召喚の手助けもできる霊脈”。柳洞寺ならば、自信をもって合格点をあげられる。というか、先に挙げた四つの全てが十分な霊脈なのだ。何だかんだで使えないだけで。

 ともかく、決行は夜。霊脈探しが思いのほか早く済んだので、今日中にできそうだ。深夜一時過ぎ辺りでいいだろう。それまでに準備も終えてしまおう。

 

 必要なのは魔方陣を書き得るほどの大量の血。

 こんなものがそこいらでホイホイ買えるワケが無い。まず、何処で手に入れられるのかも分からない。困った。手詰まりだ。ここにきて二回目の挫折を味わった。

 

 時刻は午後十時。時間はあると言っても、もたもたしているとすぐに刻限になりそうだ。

 物事には余裕を持って行動するのが一番。だから、一時間前には準備を完了していたい。

 本当はこんな焦って召喚することもないのだが、正直な所、俺も一体どんなサーヴァントが出てくるのか、そろそろ気になって仕方がない。明日に繰り越すなんてのもとんでもない話だ。

 さぁ、考えている時間も惜しい。どうにか手っ取り早く血を手に入れられないだろうか。

 

 

 

 

 結局、血は民家で飼っていた鶏のものを使った。鶏が盗まれる、という事件を小耳に挟んで思いついた手段だが、その人には悪い事をした。

 暗示をかけたので後には引かないだろうが、俺の善(偽善にあらず)心が痛むのは確かだ。

 

 場所は柳洞寺。もう魔法陣も書き上げ、いますぐ召喚を行える状態だ。

 時刻は深夜零時二十三分。予定通りとはいかなかったが、十分といっていい。残りは準備に不備がないか確認しながら時間を潰していく。もしこれで不備があったりしたら、大量の血と人払い、魔方陣を描くための手間を、明日もう一度しないといけないのだが。うん、死ねる。

 

 しかし俺の懸念は杞憂に終わり、結局不備が見つかる事はなかった。

 聖遺物も魔法陣の手前に置いてある。後は一つ、詠唱を行うだけ。

 

 「緊張……か。思えば、思えば久しく味わっていないな……」

 

 緊張を紛らわすように、意味もなく一人寂しく独り言を呟く。……サーヴァントを召喚すれば、こんな事ともおさらばである。

 

 「……さてと、始めるか」

  

 大きく深呼吸し、覚悟を決める。魔力の感じも普段通り。ヘマさえしなければ、出来る。

 

 「───素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公」

 

 「降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

 

 「閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)

  繰り返すつどに五度。

  ただ、満たされる刻を破却する」

 

 「――――告げる。

  汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

  聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

 

 「誓いを此処に。

  我は常世総ての善と成る者、

  我は常世総ての悪を敷く者」

 

 「汝三大の言霊を纏う七天、

  抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

 

 詠唱を言い終えたと同時に、今まで吸い上げられていた魔力が迸った。

 途端に風が生まれ、地面に野生する草を揺らす。

 魔方陣は煌々と輝き、ここに、規格外(サーヴァント)が呼ばれようとしていることを示唆させる。

 風はいつしか突風へと変わり、木々をも揺らし。魔法陣からは靄が立ち上り、そこに稲妻のごとき火花を散らす。

 魔方陣の輝きも、今まさに最高潮に達した時、地を震撼させたような轟音とともに霊力が破裂した。

 

 ───それは、魔方陣から。

 風は止み、魔方陣の輝きも消えた。魔方陣を描いていた血は黒ずんでいる。

 

 「問おう、汝が我を招きしマスターか?」

 

 靄の向こうから発せられるその声は、召喚の成功を雄弁に物語っていた。

 晴れる靄とともに、その姿が映し出される。

 引き締まった肉体は、影からでも見て取れた。筋肉がついていても繊細さを感じさせるそれは、まるでモデルか何かのようだ。装甲は肩のみ。全身には機能性を重視したのか、タイツのような軽装備。

 その顔は、まるでありきたりな御伽話に出てくる騎士のように整った顔立ちをしている。

 

 「サーヴァント、ランサー。召喚に応じ参上仕った。応じがないので、無礼を承知で聞き返しましょう」

 

 「あなたが、私のマスターか?」

 

 ここに、聖杯戦争第六番目のサーヴァント。槍兵(ランサー)が召喚された。

 

 

 

 

 

 




多分ここ辺りから死んでいきます。主に作品自体の質が
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