Fate~友達が戦争に行ってぼっちの君へ~   作:えだまめ。

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第四話 フッ、残像だ。

 

 「……アイリスフィール」

 

 「ええ、分かっているわ、セイバー。さっきの彼はおそらく魔術師。一般人にしては魔力を感じなさすぎた」

 

 聖杯戦争のセイバー陣営たるこの二人は、ミナトが魔術師である事に気づいていた。一般人が浴びる程度の魔力までも消し去ってしまったが故のミス。ミナトが使用した護符は、その効果が強すぎたのだ。

 

 「普通の魔術師ならこんな辺鄙な土地にいないし、そもそも声をかける意味も無い。彼がもしマスターなら、セイバーがサーヴァントという事に気付いた筈。なのに、何のアクションも起こして来なかった」

 

 あの場でアイリがクラス名さえ隠したのはそのためにある。ここにいる魔術師は聖杯戦争の参加者である可能性もあるが、只の魔術師である可能性もあった。聖杯戦争に無駄な介入を許さないためにも、知られる事は防ぎたかったのだ。

 

 「はい。私もいくらかカマをかけてみましたが、マスターとしての心構えも出来ていませんでしたし、彼の周りにサーヴァントの気配を感じませんでした。聖杯戦争とは無縁なのでは?」

 

 「……そうね。魔術師にしても少しフレンドリー過ぎた気もするけど、セイバーがあんなに楽しそうにしているんですもの。悪い人じゃなさそうだわ」

 

 「アイリスフィール。やはり、あなたはどこか勘違いしている。───っ」

 

 セイバーが眉間にしわを寄せる。

 ここからそう遠くない倉庫街の辺りから、明らさまなまでの魔力を振りまいている“何か”がいる。おそらくはサーヴァント。

 

 「この自信……相手はおそらくランサーかライダー。この挑発に乗ろうと思うのですが」

 

 「ええ。迎え撃つわよ、セイバー。清き騎士の戦いを」

   

 

 

 

 「なんだ、ランサーももう来てたのか」

 

 倉庫街に向かった俺は、自分のサーヴァントの気配に気づいた。いくら霊体化していようとも、レイラインが繋がっているため、マスターとサーヴァントはお互いの位置を感知することができるのだ。

 周りにまだ誰も来ていないことを確認してコンテナのかげへと走る。とりあえず、始めの方はサーヴァントの戦いというものを見物してみたいので自分は戦う気はない。

 ランサーも俺の考えを察してか、近づいてくる気配はない。

 結界用の護符に魔力を加え、大規模の魔力、つまりサーヴァントに反応して結界が張るように細工して息を整える。

 

 「まだ時間はあるけど、この時間になって誰もいないってのも考え物だな」

 

 朝から町で挑発を行っていたランサーに、参加者達が気付かないわけがない。

 もしかしたら、全員が他の誰かが戦ってからの漁夫の利を狙っているのだろうか。もしそうなら今を越えても待たなければいけないかもしれないが。

 

 物思いに耽り始めると、ふいにランサーが動き出した。

 ついに他のサーヴァントが来たかと身を少し乗り出すと、そこには、アイリさんとアルの姿があった。

 なぜ二人がここに居るのかと、そんな疑問が浮上する。いや、理由は明白だった。ただ俺が認めたくないだけ。答えはすぐにランサーの口から出された。

 

 「その清澄なる闘気、三騎士クラス……セイバーとお見受けするが、如何に」

 

 「その通り。そういうお前も槍兵に相違ないな?」

 

 「いかにも。名を交わす事さえできぬとは、興の乗らぬ縛りがあったものよな」

 

 ランサーが宝具の短槍と長槍を構えながら言葉をはさむ。それにはセイバーも同意見だったのか、わずかに顔を緩ませる。

 

 (セイバー? アルが?)

 

 確かにランサーは二人組の片割れ、アルに向かって問いかけた。だが、そんな筈はない。もしアルがサーヴァントならマスターの俺が気付く筈だ。

 まさかと、透視を行うと脳裏には紛れも無いセイバーの情報が映し出された。

 

 (……マジか……)

 

 俺は声を出さずに驚愕した。

 あの少女はどこか人を惹きつける雰囲気を持っていたが、まさかサーヴァントだったなんて。冬木に来て初めて交友関係を築けたと喜んでいたのに。

 だが、一番の問題は相手がマスターだと言うのに接触してしまったということだ。何一つ情報は得ていないどころか、自分の情報だけは与えていたような気がする。

 第一戦からの失態。それは、自分達を不利にするのに十分だろう。駆け引きが上手くない俺はウェイバー以外のマスターとは極力関わりあわないつもりだったのだが……。

 何かしなければならないと思いながらも、ここで俺が出て何ができるわけでもない。

 

 しかし、俺はそこで考え直す。俺がマスターだというのが知れたとしても、ランサーのマスターであるとまでは分からない筈。それは確実だ。

 なら特別何かをする必要はない。当初の考えのまま身を隠し続けていればいい。

 

 眼前ではすでにサーヴァント同士の戦いが繰り広げられていた。サーヴァントの戦いを見てみたいなどと思っていたが、その一挙一動は目で追うのさえ難しい。

 両者が鍔迫り合いをする度に空気が震え、空を切った槍がその余韻だけでコンテナを傷つける。

 

 「セイバーよ、その聖剣の秘匿。俺の槍の前では意味などないぞ」

 

 「破魔の槍か……!」

 

 ランサーのその言葉の通り、破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)がセイバーの剣と打ち合うたびに突風が吹き、黄金の輝きが漏れる。必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)と鍔迫り合っても何も起こらない。ただ、紅槍と打ち合う時のみ。

 

 それによって気付けたことがある。

 セイバーの剣は、柄も刀身も見えない。ランサーの槍が残像を残すのに対し、セイバーのそれは“見えない”のだ。いくら超人の域にあるサーヴァントといえど、残像も残さないのは有り得ない筈だ。セイバーの【筋力】は、ランサーのそれとほとんど変わらない事からもそれは窺える。

 

 ランサーの紅槍と打ち合った時だけ光が漏れる。それから分かることは……セイバーは『剣を魔力によって見えなくできる』宝具かスキルを持っている、と言う事だ。

 ランサーが槍を構えたとき、セイバーは何も持っていないように見えたが、既にあの時得物を手にしていたと言う事か。

 

 見た所、セイバーとランサーは互角に戦っているようだが、ランサーは既に全ての宝具を露見させている。

 不可視の剣がセイバーの宝具なら兎も角、もしそうでなかったら、何の情報の開示も行っていない彼女らは長い聖杯戦争で考えると有利だといえるだろう。事前にアイリさんやアル……セイバーとの邂逅も偶然ではなく仕組まれたものだったのか?

 あの二人組、話してみれば良い人にも思えた。いや、それさえも俺から情報を得るための罠か。

 

 こちらがきれるカードはきった。この戦闘を見ているものは必ずいる。まだ互いに情報が少ない中で俺達はおいしい獲物だろう。例え、三騎士クラスのランサーといえど。

 最弱といわれるキャスターがやられれば、自然、次に狙われるのは俺達だ。残り全員のサーヴァントから狙われるかもしれない。同盟でも組まれて集中砲火を喰らえばひとたまりもない。

 だから、せめてその危険性を少しでも下げるためにここで奴等を仕留めておきたい。

 

 ランサーはもう敵の剣の間合いを見て取ったかもしれないが、見えないよりも見えた方がやりやすいはずだ。

 “膜”は万能だ。指定したものをまるごと結界内から消し去ることができる。おそらくセイバーの剣を見えなくしている何かも、その可能な範囲内だ。

 

 「審判───」

 

 詠唱を唱え、そのまま円を一気に倉庫街を覆うほどに肥大化させる。

 後はセイバーの剣を隠しているモノを無くせ、と宣言するのみ。

 

 「っ、主!」

 

 「えっ……」

 

 瞬間、戦闘によって壊れかけていたコンテナが、ついに限界を迎え崩れ落ちた。

 そしてそれは、俺の上に───

 

 「くっ……、うぐぁあああっ!!」

 

 咄嗟に横に跳んで避けたが、右脚を潰された。

 動けない。今の悲鳴で俺の居場所もバレてしまった。この場の、サーヴァントにもマスターにも。

 

 脚からは止めどなく血が流れ出す。

 血溜まりができているはずの俺の足元には、サーヴァント召喚の魔方陣が描かれていた。

 なぜ?激痛と血の抜ける感覚で朦朧とする頭で、それが俺の血によってできていることを確認した。

 魔方陣が輝く。ランサー召喚の時を思い出させる。否、これは正しくサーヴァントの召喚だ。

 稲妻とともに俺の総身に魔力が走る。これは───

 

 

 

 

 セイバーとの戦いが長引くなか、コンテナの裏から魔力の流れを感じた。それが、己がマスターの仕業によるものと分かったのは、レイラインによって魔力の乱れを感じ取ったからだ。

 俺が気付くのと同様に、セイバーもそれに気付いたようだ。

 

 魔力の波動が倉庫街一体に広がり、サーヴァントの卓越した聴覚によって詠唱をを聞き捉えたその時、戦闘の余韻によって崩壊しかけていたコンテナが崩れ落ちた。

 

 「っ、主っ!」

 

 今からではいくら霊体化しようとも間に合わない。ただ声を上げマスターに危険を伝えることしかできなかった。

 主は咄嗟に右に避けて真上から潰される事は無かったが、分かる。完璧に避けきれずダメージを受けたのか、レイラインがサイレンの如く喚き散らし主の命の危機を知らせていた。

 

 言葉を発する前に行動することが先だと、主のもとへ駆けようとして、急な魔力の爆発に足が止まる。

 

 「なっ!?」

 

 

 

 

 衛宮切嗣は驚愕していた。

 急にランサーが声を上げ、コンテナが崩れ落ち、そこからサーヴァントの召喚と酷似した魔力の流れを感じたからだ。そこは丁度、自分と舞衣弥の眼の死角。

 手に汗が滲むのが分かる。

 

 (あり得ない……)

 

 原則、七騎全てのサーヴァントが召喚されていなくては戦闘を行ってはならない。仮にそれを破ったならば、監督役の聖堂教会から罰則をもらうことになる。

 そして昨日、全てのサーヴァントが召喚されたと教会から報せを受けた。それは自分だけでなく、他の参加者全てに行き届いている。

 セイバーとランサーが何の邪魔もなく戦闘を行えていたことからも、周知の事実であったはずだ。

 なのに何故、今になってサーヴァント召喚が行われるんだ……?

 

 その事態に困惑しているのは、なにも衛宮切嗣だけではない。

 ここから離れた橋の上で戦いの様子を見ていたウェイバーも。

 アサシンと共感知覚の魔術を行い戦闘を盗み見していた言峰綺礼も。

 綺礼から戦況報告を受けていた遠坂時臣も。

 皆、同様に驚愕を抱いていた。

 

 しかし、召喚は滞りなく進められている。

 マスター達はサーヴァント召喚の報せが間違いであった可能性を拭いきれず、何も行動を起こせない。この異常事態にマスターからの指示がないセイバーも、マスターの存在を感知できないランサーも戦いを続けられようはずもない。

 

 魔方陣に稲妻が落ちたかと思うほどの膨大な魔力が迸った。

 サーヴァントの気配。サーヴァントはサーヴァントの気配をかぎ分けることが可能であり、マスターならサーヴァントのステータスを見取ることが可能である。

 

 ───そこには確かにサーヴァントが召喚されていた。

 

 

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