野獣先輩のIS学園物語   作:ユータボウ

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いいだろお前成人の日だぞ(意味不明)。

あ、そうだ。最近アーイキソタイプ・ブッチッパーとかいうクッソ汚い名前のゲームが始まったみたいですね。とりあえずこ↑こ↓にアーイキソタイプ・ブッチッパーのキャラや設定は使いませんので、ご理解オナシャスセンセンシャル。


10話 クラス対抗戦前

「先輩~~~~~~!!」

 

 そんな叫び声と共に鈴音が1030号室にやって来たのは、野獣と楯無が夕食を終えて一息ついていたところであった。予期せぬ突然の来客に困惑した二人だが、しかし当の鈴音がその目に涙を溜めていることに気付くと、すぐに真剣な面持ちとなって彼女を招き入れる。

 

「おっ、大丈夫か大丈夫か?」

 

「先輩~……」

 

 いいよ、来いよ! 胸に飛び込んで胸に! とばかりに広げられた野獣の腕に、鈴音は嗚咽を漏らしながら勢いよく飛び込む。暫しの間野獣に抱かれていた彼女だが、やがて落ち着いたようで、ゆっくりと彼の下から離れていった。その後、差し出された楯無のハンカチで涙を拭うと、そのままチーンと鼻をかんだ。

 

「ちょっ……えぇ……」

 

「それでRN、こんな時間に何かあったんすか?」

 

 自らのハンカチに鼻水が染みていく光景に絶句する楯無を放置し、野獣はまだ目の赤い鈴音に問い掛ける。それを受けた彼女は先程起こったことを思い出したのか、酷く憤慨した様子で一気に捲し立て始めた。

 

「ねぇ聞いてよ先輩! 一夏の奴、あたしと交わした大切な大切な約束を間違って覚えてたのよ! 何が『料理の腕が上達したら酢豚を奢ってくれる』よ! あぁもう、人が勇気出して言った約束なのに~!」

 

 金切り声を上げながら怒りのあまり、手にしたハンカチを両手で引っ張る鈴音。耐えられなくなったハンカチがブチブチと音を立てて千切れようとも、彼女はお構い無しだった。代わりに持ち主である楯無がその場に膝をつき、「やめてちょうだいよ……(絶望)」と小さく呟きながら項垂れたりもしていたが。

 一方、鈴音の話を聞いた野獣は、「え、何それは……」と顔をしかめた。一夏が約束を間違えて覚えていた、ここまではまだ彼も分かる。問題はその内容だ。

 

「──つまり、RNが昔言った『料理の腕が上達したら毎日私の酢豚を食べてくれる?』って約束を、ICKが間違えて覚えてたってことでOK? OK牧場?(激寒)」

 

「う、うん。そう……」

 

 恥ずかしそうに下を向く鈴音から話を聞き、正確な経緯を理解した野獣は、思わず「ウッソだろお前……」とクソデカ溜め息を溢した。一夏が間違えて覚えていたのは、あろうことか鈴音の愛の告白だったのだ。いくつか疑問点はあるが、彼女の怒り様も納得出来るというものである。

 その後、溜め込んでいた鬱憤を盛大に吐き出した鈴音は、「あんな奴、クラス対抗戦(リーグマッチ)でボコボコにしてやるんだからっ!」と決意を固め、勇ましく部屋を出ていった。まるで嵐が去った後のように静まり返る1030号室、ごろりとベッドに転がった野獣は「これもう分かんねぇな」と嘆息する。

 

「……いくつか言いたいことがあるんだけど」

 

 そう言いながらフラフラと立ち上がるのは、あまりのショックに一時現実逃避をしていた楯無である。その手には真っ二つに千切られたハンカチが握られていた。

 

「これどうするのよ高かったのよ? ハンカチィ! 大事に使ってたのよ、これ!? 貴方見てよこれ!? この無惨な姿──」

 

「俺にキレられたってどうしようもないんだよなぁ? じゃけん、買い直しましょうね~(他人事)」

 

「あぁもう滅茶苦茶だわ……」

 

 嘆くようにそう呟いた楯無は倒れるようにベッドに身を投げ出した。

 

「はぁ……。それにしても女の子からの愛の告白を忘れてるなんて、織斑君もちょっと酷いわね。これは流石に凰さんが可哀想だわ」

 

「というか、毎日酢豚をってどういうことなんですかね……? そこは普通、味噌汁だと思うんですけど(名推理)」

 

「ストレートすぎるからじゃない? そういうことを言うの、恥ずかしいに決まってるわ。まぁ、告白するってこと事態、結構な勇気が必要だとは思うけれど……」

 

「大胆な告白は女の子の特権って、それ一番言われてるゾ。ぼかしまくって本当の気持ちが相手に伝わらなかったら、それこそ本末転倒もいいとこなんだよなぁ」

 

「あっ、そっかぁ……(納得)」

 

 本人がいないことをいいことに、鈴音へのダメ出しをし続ける野獣と楯無。結局このやり取りは、楯無がシャワーを浴びるべく浴室に消えるまでされていた。

 

 

 

 その翌日、クラス対抗戦(リーグマッチ)の日程表が貼り出され、その一回戦が一組対二組──すなわち、一夏対鈴音であることが決定した。

 

 

 

     ▽△▽△

 

 

 

「ぬわぁああああああああああああああん疲れたもぉおおおおおおおん!」

 

「チカレタ……」

 

 第二アリーナの更衣室にて、身に付けついた濃紺色のISスーツを脱ぎながら、一夏と野獣は大きく息をついた。

 クラス対抗戦(リーグマッチ)の相手が決定して以降、一夏は野獣やセシリア、時折混ざる箒と共に、ISの訓練を毎日のように行っていた。その内容は素早く動くための機動訓練から、実力を高めるための実戦形式まで多岐に渡る。数ヶ月前までただの学生であった一夏には、こなすだけでも精一杯ものであった。「やめたくなりますよ~特訓~」と愚痴を溢してしまうのも、仕方のないことだろう。

 

「全く、まさかいきなり鈴が相手になるなんて……。俺、鈴に勝てるかなぁ?」

 

「代表候補生で専用機持ちってことは、少なくともCCLAと同格ゾ。今のままじゃ負ける確率の方が高いっすね」

 

 ハンガーに掛けていた白の制服に袖を通しながら、野獣は冷静に一夏と鈴音の実力差を予想する。鈴音は一夏達と別れて中国に戻り、そこから一年というとてつもなく短い期間で代表候補生にまで上り詰め、更には五百個にも満たないISコアを使用した専用機まで任されている程なのだ。そんな彼女が弱い訳がない。いくら一夏に零落白夜という一撃必殺の切り札があるとはいえ、現状では敵わないというのが野獣の判断であった。

 

「ま、焦ったってどうなる訳でもないし、試合までの時間で頑張るしかないじゃんアゼルバイジャン」

 

「……確かに、そうですね。ありがとうございます、先輩」

 

「じゃあ俺、IS整備して帰るから」

 

「はい。お疲れ様でした!」

 

 ご満悦な表情を浮かべたまま、そそくさと更衣室を後にした野獣は、そのままアリーナ内にある整備室へと足を運んだ。誰もいないだろうと思い込んでいた野獣は、「おっ、開いてんじゃ~ん!」と大声を上げながら扉を開ける。

 

 そこで彼は、水色の髪に赤い瞳をした、眼鏡を掛けた少女と目が合った。

 

「ひっ……!」

 

「あっ……(察し)」

 

 少女の口から漏れた小さくも明らかな悲鳴に、野獣は瞬時に自らの失敗を悟った。思わずピタリと動きを止め、自分はどうすべきなのかをすぐさま考え始める。

 少女からすればいきなり扉が開くと同時に、怪しい男が大声と共に入ってきたのだ。怯えられるのも当然のことである。このままでは最悪、通報されなねない。

 どうにかして誤解を解かなければ、待っているのは元世界最強(おさななじみ)からの制裁だ。竹刀で容赦なくバシバシとしばかれ、挙げ句「掴んだら×2だぞ! 掴んだら×2!」とまで言われるのは懲り懲りであった。

 

 1145143643649318931919810回にも及ぶ脳内シミュレーションを、僅か数秒のうちにこなした野獣。彼が取った方法とは──、

 

 

 

     ▽△▽△

 

 

 

 更識簪は困惑していた。あまりに予想外のことが連続して起きたことで、脳が現状の整理することに大きく時間が掛かってしまっていたのだ。だが、それも漸く落ち着きを取り戻し、徐々に今に至るまでの経緯が理解出来るようになってくる。

 

 

 

 簪がこの整備室にいる理由、それは『とあること』から製作計画が凍結してしまった専用機を、自らの手で完成させるためであった。しかし、ISを完成させるということはそう簡単なことではない。それがたった一人ならば尚更のことで、事実簪は思うように作業が進まず、心には焦りと苛立ちが募り始めていた。

 

 そんな時だった。一人の男が大声と共にこの整備室に現れたのは。

 

 簪はその男を知っていた。世界でたった二人しかいないISを動かせる男、その片方にして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そして、親友のクラスメイト。

 

 名前は──田所浩二。

 

 その男が、目の前にいる。

 

 予期せぬ突然の遭遇に簪は──勿論、大声に対する驚きもあって──思わず悲鳴を上げていた。そしてその悲鳴を耳にした彼が、自分へとさながら野獣のごとき眼光を向けた時、簪は悟った。

 

「(駄目……犯される……!)」

 

 ここは整備室、つまりは人気のない場所である。そんなところに男女が居合わせればどうなるか、簪の頭はすぐさま答えを弾き出した。自分は獲物で相手は野獣、そう思った彼女は恐怖のあまり涙を浮かべ、疎遠になっている姉に助けを求めようとまでした。

 しかし、次に野獣がとった行動は、そんなことを考えていた簪を混乱させるに十分なものだった。野獣は素早く簪へと体を向けると、そのまま綺麗に頭を垂れたのだ。そこに謝罪の言葉まで加えて。

 

「すみません許してください! なんでもしますから!」

 

 

 

 現状を把握し、自分の想像が早とちりであったことを理解した簪は、まず第一に安堵の息をついた。少なくとも相手にはこちらに危害を加える気はないようだ、と。

 次に彼女を支配したのは、なんと怒りの感情だった。先程まで募っていた焦りや苛立ちの矛先が、せっかくの作業を邪魔されたという、八つ当たりにも近い形で野獣へと向けられたのである。

 

「(この人はなんでもするって言った。なら……!)」

 

 言質は取った。簪は普段はしないような意地の悪そうな笑みを浮かべると、ふんと鼻を鳴らして腕を組んだ。

 

「じゃあ……とりあえず犬の真似してよ」

 

「……え?」

 

「犬だよ。ヨツンヴァインになるの。あくしてよ」

 

 予想外の言葉に野獣はすっとんきょうな声を上げるが、しかしなんでもすると言った手前、拒否する訳にもいかない。「しょうがねえなぁ(悟空)」とぼやきながらも、野獣は整備室の床に手を付いて四つん這いとなった。簪からの命令は、終わらない。

 

「ふふっ……馬鹿じゃないの……。ねぇ、ワンワン鳴いてみてよ」

 

「ワン、ワン」

 

「ふふふふっ……! 三回だよ、三回」

 

「ワンワンワン!(迫真)」

 

「~~~~~~~っ!」

 

 ゾクゾクと、簪は沸き上がる快感に体を震わせる。これまで誰かを見上げることばかりだった彼女にとって、誰かを見下すという行為は滅多にないことであり、故にそれに伴う優越感は未知のもので、かつ少なくない刺激となっていた。数分前までの不機嫌さなど忘れ、すっかり上機嫌になった簪は、その後も野獣への命令を続ける。

 

「よし……回ってみてよ」

 

 四つん這いのままグルグルとその場で二回程回る野獣。しかし簪は首を傾げる。

 

「う~ん……なんか犬っぽくないなぁ……?」

 

「クゥ~ン……(子犬先輩)」

 

「あはは~! 凄い凄い! 今の子犬そっくりだったよせんぱ~い!」

 

「うん、確かに。今のは似て……た……?」

 

 突如聞こえたのほほんとした声に簪の動きが止まる。どうして? いつから? そんな言葉を飲み込みながらギチギチと首を回した先にいたのは──予想通りの、そしてこの場に絶対いてほしくなかった人物。

 

「やっほ~。かんちゃん、せんぱい」

 

 布仏本音。更識の家に生まれた簪に仕える従者にして、数少ない親友。そんな彼女が、ほにゃりと柔らかな笑みを浮かべて、四つん這いである野獣の上に乗っかっていた。

 

「いや~、それにしてもかんちゃんにこんな趣味があったなんて、私知らなかったな~。お姉ちゃん達にも教えてあげなくちゃ(使命感)」

 

「あっ、おい待てぃ(江戸っ子)。NHHNSN、それは死体蹴りになるからやめて差し上げろ(申し訳程度の心遣い)」

 

「うっ……ぁあああああああああああああ!?」 

 

 顔を真っ赤に染め、叫び声と共に脱兎のごとく整備室から飛び出す簪。数分後、大切な専用機を置き去りにしたことに気付き、時間が経ってから戻るも、待ち伏せていた二人に捕まって弄り倒されるのはまた別の話である。




KNZSちゃんに犬の真似するよう言われるとかご褒美なんだよなぁ……。でも、作者としては犬の真似をしてもらう方がいいゾ。

のほほんさんは渾名なので全部TDN表記です。

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