野獣先輩のIS学園物語   作:ユータボウ

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 アーイキソタイプ・ブッチッパーの早すぎる終了に涙が出、出ますよ……。(あれ作った人達が何をしたかったのか)これもう分かんねぇな。

 あのゲームのシナリオ見てて思ったことは、やっぱり暴力ヒロインは個人的に駄目だってことですかね。理不尽に制裁されるのはいや~キツイっす……。


15話 ランチタイム

 朝からドタバタ騒ぎに巻き込まれかけ、実習の始まる前から余計な疲労を味わった一夏と野獣。しかし、初めこそ一夏が訓練機のラファール・リヴァイヴに乗った真耶の突撃を受けるというアクシデントこそあったものの、肝心の実習自体は特に問題なく進行していった。専用機持ち達が先頭に立ち、それぞれの個性を発揮させて行われた訓練は、生徒全員がISの基本動作を行ったところで終了を迎えた。

 

 そしてお昼休み。午後からは午前中の実習で使用したISの整備訓練を控えている一夏を筆頭としたいつものメンバーは、現在屋上にて輪を作って各々の昼食に手を伸ばしていた。その中には転校生であるシャルルの姿もある。

 

 ちなみにこの昼食会、本来ならば箒が一夏と二人きりでと提案したものであったが、「せっかくだから皆も誘おう」と相変わらずの唐変木ぶりを発揮した一夏によって大人数になったという経緯がある。そのため、自らの思惑が台無しになった箒はがっくりと項垂れ、偶然とはいえライバルの抜け駆けを阻止出来たセシリアと鈴音は、この時だけは一夏の鈍感具合に賛辞を送ったという。

 

「一夏、これあげるわ。あと先輩にも」

 

「おっ、サンキュー……っと、酢豚か! 鈴の酢豚を食うのって久しぶりだなぁ」

 

「ありがとナス! ええ素材やこれは……(恍惚)」

 

 差し出された酢豚の入ったタッパーを、一夏と野獣は感謝の言葉と共に受け取る。それを黙って見ている箒とセシリアではない。片や早朝からわざわざ用意した弁当を、片やバスケットから自作のBLTサンドを手にした二人は、ずいっと身を乗り出して一夏との距離を詰めた。

 

「一夏! お前のために作った弁当だ! 受け取れ!」

 

「一夏さん! 私もサンドイッチを作ってきましたの! 宜しければ如何ですか!?」

 

「お、おう……あ、ありがとな……」

 

 二人の纏うあまりの気迫に思わず冷や汗を流し、苦笑いを浮かべる一夏。そんな彼を興味深そうに眺めているのは、このメンバーの中では新参者であるシャルルだ。その隣には酢豚を咀嚼する野獣が座っている。

 

「あの……僕って本当に同席して良かったんでしょうか?」

 

 そう遠慮がちに尋ねたシャルルに、野獣は微笑みを返した。

 

「そんな遠慮しなくていいから(良心)。CRLはファミリーみたいなもんやし」

 

「ふふっ、ありがとうございます。田所さん」

 

 そう言ってはにかんだシャルルに、野獣は「CRLも美味そうやな~ホンマ」と冗談混じりに手を伸ばす。当然シャルルはそれを「冗談はよしてくれ(ため口)」と断るが、程よく緊張が解れたが故にその顔には笑顔が浮かんでいた。肩の力が抜けて自然体となったシャルルに、野獣は満足そうに一度だけ頷いた。

 

「あ、あの……田所さん」

 

「ん?」

 

 そんな二人のもとにやって来たのは先程まで向こう側にいたセシリアである。その手には小さなバスケットが収まっており、中にあるBLTサンドがチラチラと顔を覗かせていた。

 

「も、もし宜しければお一つどうでしょうか? 勿論、デュノアさんも」

 

「いいっすかぁ?」

 

「ありがとう、オルコットさん。じゃあ一つ貰うね?」

 

 そう言って二人がバスケットから取り出したBLTサンドはトマト、レタス、ハムから成るオーソドックスなものであった。しかし形が整い、挟まれた具もよく見えるBLTサンドは非常に高い完成度を誇っており、その見事な出来映えは手に取った二人の食欲をそそった。

 

 絶対美味い。そんな確信と共にセシリアお手製のBLTサンドを口に運ぶ野獣とシャルル。口を開け、がぶりと豪快に頬張った二人は、ゆっくりとそれを味わい──、

 

「ヌッ!?」

 

「っ~~~~~!?」

 

 口の中に広がった強烈な()()に目を見開いた。

 

 甘い。とにかく甘い。何故普通のBLTサンドがこれほどまでに甘いのかと、口には出さないものの困惑する野獣とシャルル。しかしそんな二人など構うものかとばかりに、ガムシロップ顔負けの甘味はねっとりじわじわと口内を蹂躙していく。

 

「ど、どうですか? 私、こういうものを作ったのは初めてでして……その、上手く出来ているでしょうか……?」

 

 上目遣いで恐る恐る尋ねてくるセシリアに、野獣達はどう答えたものかとお互いに目配せを繰り返す。ここでこのBLTサンドを不味いと切り捨てるのは簡単だ。しかし真実は時に人を傷つける。ましてや今は作った本人が目の前にいるのだ。はっきり「不味い」と言ってしまえばセシリアを傷つけることは勿論、自信を失った彼女が今後一切料理をしなくなってしまう可能性もある。

 

「むぐっ……! んぐっ……!」

 

「んっ……! ぅ……うっ……!」

 

 甘すぎるBLTサンドの形をした何かを野獣達は噛み締め、喉の奥へ押し込んでいく。これは楽しいランチタイムなどではなく、最早苦行だ。時間を掛け、ようやく口の中が空っぽになった二人は、大きく深呼吸をしてからその表情に笑みを貼りつけ、告げた。

 

「非常に新鮮で、非常に美味しい(優しい嘘)」

 

「ご、ご馳走さまでした……(震え声)」

 

「うふふっ、良かったですわ! さぁ、まだまだたくさんありますので、どんどん召し上がってくださいまし!」

 

 野獣達の感想に気分を良くしたのか、セシリアは二人にバスケットをずいっと差し出してくる。彼女からすれば善意からの行為なのだが、二人にすればたまったものではない。シャルルなど涙目寸前だ。野獣も当然これ以上は勘弁願いたいため、やんわりとその好意を断る。

 

「いやもう……十分堪能したよ……」

 

「あらそうですの? では次は一夏さんに──」

 

「先輩、シャルル……って、おおっ! 美味そうなサンドイッチだな!」

 

 箒と鈴音という幼馴染み組から逃げるようにやって来た一夏は、バスケットに入った見た目だけは完璧のBLTサンドに目を輝かせた。その様子にこれからの展開が予想出来た野獣とシャルルの口から、「あっ……」と小さく声がこぼれる。

 

「セシリアが作ったのかこれ? 美味そうだな~!」

 

「え、えぇ! 私の特製ですわ! 一夏さんもお一つ如何ですか?」

 

「いいのか? それじゃあ遠慮なく!」

 

 ありがとな、と何も知らない一夏は感謝を口にしつつBLTサンドを手に取り、ぱくりと食する。しかし最初こそ変わらなかった一夏の顔色だが、口を動かすにつれて徐々に青くなっていくのが外野の二人には分かった。今頃彼の舌はあの暴力的な甘さに成す術なく襲われているところだろう。それでも黙って食べ続けるのは、セシリアを傷つけまいとする彼の意地故か。

 

「どうですか? お口に合いましたか?」

 

「ん……そ、そうだな……。ま、まぁいいんじゃないか? 俺はこういうの好きだぜ、うん」

 

 額に脂汗を滲ませながら、精一杯の笑顔と共に答える一夏。完食したことに細やかな達成感に抱く彼であったが、直後に差し出された追撃(おかわり)にピタッとその動きを止めた。

 

「も、もう一夏さんったら……! す、すすす好きだなんて……そ、そこまで仰るなら、もっとたくさん差し上げますわ! さぁ、どうぞ!」

 

「え……いや……あの……」

 

「ICK君もうここは完食しよう!」

 

「完食って……ちょっ!? 先輩!?」

 

 いつの間にか後ろに回り込んでいた野獣に拘束され、一夏は思わず声を張り上げた。すぐさま彼は抜け出そうと身を捩るが、単純な腕力で劣るために逃れることは出来ない。そうこうしているうちにも、BLTサンドは目前まで迫ってきている。

 

「先輩! 何してんすか!? やめてくださいよ本当に!」

 

「暴れるなよ……暴れるなよ……」

 

「さ、口を開けてください? 一夏さん」

 

「くっ、シャ、シャルル! 助け──」

 

「あー今日も学校楽しかったなー。早く帰って宿題しなきゃ(現実逃避)」

 

「シャルルぅうううう!!」

 

 一縷の望みを託したシャルルに見捨てられた一夏に逃げ道は存在しない。そして──、

 

 

 

「ホラ喜べよホラホラホラホラ。ホラクチアケーナ! ホラホラ、ホラホラホラ、ホラホラ、ホラホラ、ホラホラホラ!」

 

「さぁ一夏さん、ゆっくり召し上がってください」

 

「美味しいか? もっと美味しそうに食べろよ~ホラ(鬼畜先輩)」

 

 

 

 地獄の時間が始まった。

 

 

 

     ▽△▽△

 

 

 

 あまりにもレベルが低い。

 

 それがこのIS学園に転校して半日を過ごした、ラウラ・ボーデヴィッヒの感想だった。

 

 ISは兵器。それが軍人であり、ISを運用する軍事組織『黒兎隊(シュヴァルツ・ハーゼ)』の隊長を務めるラウラの考え方である。宇宙開発のためのマルチフォーム・スーツと謳われていようが、兵器として運用されているのであれば兵器なのだ。故に、このIS学園は兵器の使い方を学ぶための場所にも等しい。

 

 にも関わらず、この学園の生徒はそれをまるで理解していない。

 

 この実習のあった午前中、自分達が人殺しの道具ともなりうる物を使っているという意識が、生徒達からは欠片も感じられなかったのだ。中にはISをファッションの何か程度にしか認識していない者もいる始末。何千何万という倍率から選ばれた、それなりのエリートが通う学園と耳にしていただけに、現実に直面したラウラは失望を隠すことが出来なかった。

 

「こんなところに……教官は何故……?」

 

 教官。それはすなわち、織斑千冬。

 

 文字通り絶望の淵にいたラウラを救い出した、彼女にとって神にも似た存在だ。とある事情から部隊で落ちこぼれだったラウラは、当時教官であった千冬の指導によってその実力を伸ばし、隊長の座に返り咲くことが出来たのである。そんな理由からラウラは千冬に絶対の尊敬を抱くようになり、それはついに崇拝に近い次元まで昇華されるに至っていた。

 

「やはり教官にここは相応しくない。あの方にはもう一度ドイツに戻ってもらわねば。だが、その前に……」

 

 そんな独り言を呟き、ラウラはベンチから立ち上がる。その脳裏に過るは、恩師たる千冬の傍に立つ二人の男だ。

 

「織斑一夏……! 田所浩二……!」

 

 ギリリと歯を食い縛り、犬歯を剥き出しにして、ラウラは呪詛を吐くようにその名を口にする。

 

 一人は千冬の栄光を汚した出来損ない。一人は千冬の周りを飛ぶ煩わしい羽虫。

 

 今日出会って、確信した。あれらは千冬には必要ない存在だと。千冬を縛る枷にしかならないと。

 

 排除しなければ。他ならない、自分の手で。

 

 ラウラはそう決意を固めた。

 

「今に待っていろ。貴様らは必ず私が叩き潰してやる……!」

 

 

 

 しかしラウラは知らなかった。

 

 彼女が出来損ない、羽虫と呼んだ二人が、千冬にとってどれだけ大きな存在であるのかを。

 

 彼女が崇拝する千冬が在るのは、果たして誰がいたからなのかを。

 

 そして──彼女が標的と定めた内の一人は、彼女程度では到底敵わない相手であることを。

 

 ラウラは知らなかった。理解しようともしなかった。

 




 話進んでない……進んでなくない? すみません! 許してください!

 ISの二巻は最低でもシャルの場面とタッグマッチの二つが山場かつ見せ場なんで、それ以外はなるべくスムーズにいきたいところさん。チャートという名のプロットをちゃーんと考えつつ、biim兄貴のRTA並みの速度で頑張ります。

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