野獣先輩のIS学園物語   作:ユータボウ

16 / 19
 三ヶ月ぶりの初投稿です。


16話 発覚

 シャルルがIS学園に転校してきて五日が経過した、ある土曜日のこと。一夏を初めとする専用機持ちはアリーナにて、いつもと同じようにISの技能訓練を行っていた。

 

「一夏のISは近接武器しかないんだよね? 遠距離からの射撃戦を仕掛けてくる人と戦うのであれば、やっぱり射撃武器の特性は理解しておいた方がいいと思うんだよね」

 

「あっ、そっかぁ……(納得)」

 

 まだ操縦者としては素人の域を出ない一夏に対し、彼でも分かりやすいように丁寧な説明をしていくシャルル。これまで説明の仕方に癖のある面々からしか教えを受けてこなかった一夏にとって、シャルルのやり方はまさに彼が求めていたものであった。そうなれば必然的にやる気も上がる。これまでで一番の集中力を発揮した一夏は、一言も聞き逃すものかとシャルルの声により一層耳を傾けた。

 

 そして、そんな二人からやや離れたところではセシリア、鈴音、そして訓練機を使う箒の三人が、野獣一人を相手に実戦形式での訓練を繰り広げていた。三対一という、一見すると野獣が圧倒的に不利な状態にいるように思われるが、しかし実際に苦戦を強いられているのはセシリア達三人の方であった。

 

「動くと当たりませんでしょう! あと鈴さん! 私の射線上に入らないでください! 鈴さんごと撃ちますわよ!?」

 

「ちょっと箒、邪魔! そこにいられたらあたしが攻められないでしょうが! どきなさい!」

 

「ええい! 無茶を言うな!」

 

 各人が好きなように動くそこには、連携という単語は欠片も見当たらない。それどころか、お互いに足の引っ張り合いすら起こる始末。この様子には思わず野獣もはぁぁぁ~…………と、クソデカ溜め息をつかざるを得なかった。

 

「あのさぁ……三人共、動きがバラバラ過ぎるんだよね。俺一人倒せないとか情けない有り様、恥ずかしくないの? こんなんじゃ訓練になんないよ~(棒読み)」

 

「い、言いましたわねぇ!」

 

「田所さんとはいえ、今のは聞き捨てなりませんよ!」

 

「あぁムカつくっ! 三人に勝てる訳ないでしょ!」

 

 野獣の安い挑発に三人は見事に乗せられ、単調だった動きが本人達の気付かぬうちに更に単調になってしまう。それを見逃す野獣ではない。「馬鹿野郎お前俺は勝つぞお前!」と身構えるや否や、一番接近していた鈴音の懐へと一気に潜り込んだ。

 

「ちょっ!? 速──」

 

双打(そうだ)()

 

 突然のことに避ける暇すらなく、掌底の直撃を受ける鈴音。吹き飛ばされ、勢いのままに地面を滑っていく彼女に箒は思わず声を張り上げた。しかしそこに意識を取られた箒は、長刀を手に突っ込んでくる野獣への対応が僅かに遅れてしまう。

 

「オルルァ!!」

 

「しまっ……ぐっ!?」

 

「ちょっと()当たんよ~」

 

「うぁあああ!?」

 

 初撃は辛うじて防ぐことが出来たものの、続く連続攻撃は流石の箒も捌くことが出来ない。袈裟に一閃、凄まじい速さで振り抜かれた一撃に、とうとう彼女も倒されてしまった。膝をつき、悔しさを噛み締める箒。そして勝者である野獣は最後に残ったセシリアへ、サイクロップスのバイザー越しにその鋭い眼光を向けた。

 

「くっ……やはりヤバい、ですわ(冷静)」

 

「さぁ、代表候補生解体ショーの始まりや」

 

 ニヤリと野獣は不敵な笑みを浮かべ、浮遊するセシリア目掛けて地を蹴る──が、その動きを途中でピタリと止めてしまった。いきなりの中断に何事とセシリアは首を傾げるが、その謎はすぐに氷解する。野獣が動きを止めた直後、ピットからある人物が現れたからだ。

 

「おい」

 

 その人物──ラウラ・ボーデヴィッヒは、シャルルと訓練中だった一夏に向かって口を開いた。

 

「私と戦え。専用機があるのだ、出来ないとは言わせんぞ」

 

「嫌だよ(即答)。お前と戦う理由がない」

 

「貴様になくとも私にはある。第二回モンド・グロッソ決勝戦、あの時のことを忘れた訳ではあるまいな。貴様さえいなければ教官は、大会連覇という輝かしい栄光を手にしていたのだ。私は……貴様を認めない」 

 

 糾弾するかのようなラウラの物言いに、一夏はそっと目を伏せた。第二回モンド・グロッソ決勝戦、その裏で起きた自身の誘拐事件を、一夏は一秒たりとも忘れたことはない。己の無力さ故に起きた、拭い難き記憶だ。

 

「……それでも、俺はお前とは戦わない。そのことと今とは関係ないだろ」

 

「ふん、腰抜けが。ならば戦わざるを得ないようにしてやる!」

 

 そう言うや否や、ラウラの駆る黒塗りのIS──シュヴァルツェア・レーゲンの肩部に装備されたリボルバーカノンが火を噴いた。凄まじい速度で飛来するその弾丸は、寸分違わず無防備な一夏の顔面へと迫る。

 

 だが、それが一夏に届くことはなかった。

 

「こんなところでいきなり発砲するなんて、随分と気が短いみたいだね。ドイツ少女は暴力のことしか考えないのかな?(偏見)」

 

 一夏の前に立ち、リボルバーカノンの弾丸をシールドで弾いたシャルルは、その手にアサルトカノンを取ってラウラと相対した。音もなく一夏の前に出たこと、弾いた弾丸が周りの者に当たらないよう、適切なシールドの角度を即座に導き出したこと、そして本来ならば一秒程度は掛かる武器の展開を一瞬でやってみせたことから、彼が如何に高い技量の持ち主かが分かるだろう。それでも、ラウラの表情は一つとして変わることはない。

 

「どけ。フランスの第二世代機(アンティーク)ごときが調子に乗るなよ」

 

「あんまりこの機体を舐めないことだね。作られたばかりの第三世代機(ルーキー)よりはずっと速く動けるよ」

 

 お互いに煽り合い、静かに睨み合うシャルルとラウラ。一発触発の空気を漂わせる二人に、専用機持ち達だけでなく、アリーナにいる全員が緊張感にごくりと唾を飲んだ。と、その時だった。

 

『そこの生徒、何をしている! 学年とクラス、出席番号を言いなさい!』

 

 スピーカーからアリーナの監視する教師の声が大音量で響き渡り、緊迫していた空気を打ち消した。外野の干渉に興が削がれたのか、ラウラは小さく舌打ちをし、最後に一夏と、そして野獣をその赤い右目で睨んだ。

 

「織斑一夏、田所浩二、貴様らは必ず私が潰してやる。覚えていろ」

 

 そんな捨て台詞を残し、ラウラはアリーナから去っていく。やがて彼女の姿が完全に見えなくなると、どこからともなく安堵の息がこぼれた。

 

「ふぅ……。一夏、大丈夫?」

 

「あ、あぁ。ありがとな、シャルル」

 

 アサルトカノンを拡張領域(バススロット)にしまい、一夏に振り返ったシャルルは、いつも通りの人懐っこい笑みを浮かべる。間もなくそこに現れた野獣も、二人を心配するように「おっ、大丈夫か大丈夫か?」と声を掛けた。 

 

「ドイツ少女怖いな~。とづまりすとこ」

 

「今日はもう上がろっか? あんなことがあったし、そろそろアリーナも閉まる時間だしね」

 

「おっ、そうだな。色々と勉強になったよ。本当にありがとう、シャルル」

 

 気恥ずかしさを感じながらも率直な気持ちを口にした一夏に、シャルルも「ならよかったよ」と笑顔を返した。

 

 

 

     ▽△▽△

 

 

 

「ぬわぁああああああああああん疲れたもぉおおおおおおおん!!」

 

「チカレタ……」

 

 アリーナ内にある更衣室に入るなり大声を上げた一夏に、次にやって来た野獣が控えめな声量で呟く。そんな疲労困憊な二人の様子に、後ろから続いて現れたシャルルは苦笑を浮かべた。

 

「もうキツかったですね今日は~」

 

「あぁもう……すっげぇキツかったゾ~」

 

「なんでこんなにキツいんですかねぇ……もぉ~……」

 

 やめたくなりますよ~、特訓、と。愚痴をこぼしながらそそくさとISスーツを脱ぎ始めた一夏に、野獣が「どうすっかな~俺もな~」と便乗する。あっという間に脱ぎ捨てられた野獣のISスーツは激しい特訓のせいか、汗でびしょびしょになってしまっていた。

 

「シャワーでも浴びてさっぱりしましょうよ」

 

「浴びようぜ早くもう」

 

 一夏の提案に全裸となった野獣は荷物の中からタオルを取り出し、早くしろよと言い残してシャワー室に消えていく。そんな彼の後を一夏も早足で追っていった。そして更衣室で一人となったシャルルは、二人が完全にいなくなったことを確認し、やがて大きな溜め息を吐き出した。

 

「本当、疲れたな……」

 

 ポツリと呟いて椅子に腰を下ろしたシャルルは、取り出した制汗作用のあるボディペーパーで、べたつく汗をゆっくりと拭き取っていく。肌を撫でる度に伝わるスッとした爽快感に、固かった彼の表情が僅かに緩んだ。

 

 本当ならばシャルルも野獣達と同様にシャワーを浴びてさっぱりしたい。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。万が一、秘密がバレるような事態になれば、そう考えるだけでシャルルの背中を悪寒が走った。

 

「……大丈夫。バレてなんかない」

 

 シャルルのIS学園生活が始まって数日が経過するが、誰もが彼のことを温かく迎え入れている。比較的多くの時間を共にしている一夏と野獣ですら、自身を不信がっているようには思えないのだ。怪しまれている訳がないと、シャルルは自分に言い聞かせるように言葉を紡いだ。 

 

 自分にはしなくてはならないことがある。

 

 それまでは絶対にバレる訳にはいかない。

 

 世界で三番目の男性IS操縦者、シャルル・デュノアを演じ切らねばならないのだ。

 

 押し寄せるプレッシャーを肌でひしひしと感じながらも、シャルルはあらためて決意を固めた。

 

「……よし、とりあえず今は着替えよう」

 

 頬をパンと叩き、勢いよく立ち上がったシャルルは、淀みない手つきで制服をISスーツの上から着込んでいく。そして彼の着替えがちょうど終わった時、シャワー室の方から「あっつ~……」という野獣達の声が響いた。

 

「ビール! ビール!」

 

「先輩、ここは学校なんですからビールなんて冷えてませんよ。……ん、シャルルはシャワーいいのか? 気持ちよかったぜ?」

 

「いや、部屋の方で浴びるよ。タオルとか着替えとか忘れちゃって」

 

 そう言って小さく笑ったシャルルの表情からは、先程まで差していた暗い影は跡形もなく消え去っていた。

 

 

 

     △▽△▽

 

 

 

「先輩、夜腹減らないですか?」

 

 学園寮の自室に到着し、それぞれが思い思いの一時を過ごしていた最中、ベッドでくつろぐ野獣へと一夏が不意にそんなことを尋ねた。突然のことに一瞬ポカンと口を開けた野獣だったが、すぐに「腹減ったなぁ」と苦笑いを浮かべる。ちなみに、シャルルは部屋に戻るとすぐさま浴室に向かったため、現在はこの場にいない。

 

「この辺にぃ、美味いラーメン屋の屋台のある食堂、あるらしいっすよ」

 

「あっ、そっかぁ……」

 

「行きませんか?」

 

「行きてぇなぁ」

 

「行きましょうよ」

 

 「じゃけん、夜行きましょうね~」と笑顔の一夏に、野獣は「おっ、そうだな」と頷きを返す。が、その直後、ふと何かを思い出したかのように「あっ、そうだ」と唐突に呟いた。

 

「そういえば、シャンプーがもう切れかけてた気がするゾ」

 

「あっ、確かに。てことは、シャルルに悪いことしちゃったな……。替えのやつなら前に買ってきてるんで、今からちょっと行ってきますね」

 

 そう言ってすぐさま替えのシャンプーを用意すると、一夏は早足で浴室へと向かっていった。そして──数秒後、彼とシャルルの叫びが部屋に木霊した。

 

「うわぁあああああ!?」

 

「ちょっ!? えぇえええ!?」

 

 尋常ならざる二人の様子にベッドから跳ね起き、すぐさま浴室へと駆けつける野獣。そこで彼が目にしたものとは、驚愕のあまり尻餅をついて呆然とする一夏と、女性特有の丸みを帯びた肢体を必死で隠そうとする、顔を赤くしたシャルルの姿だった。

 

「──ファッ!?」

 




 一夏、野獣、シャルルを迫真空手部の三人にした時、一夏が野獣先輩のポジションにいる→野獣先輩織斑一夏説。つまりこの作品には野獣先輩が二人存在する……?

 とりあえず、ようやく二巻もいいところまで到着しました。次でシャルルの話、その次でタッグマッチの前辺り、その次でタッグマッチほんへ、って感じですかね。野獣とラウラが組むと一夏達が勝てなくなるので、そのあたりは上手く調整したいところさん。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。