「うぅ……」
先程の休み時間で箒と再会した一夏は、二時間目終了時点で既にボロボロとなっていた。それは何故か、IS学園とは名前の通りISについて学ぶ場所であり、授業も当然ISについての専門的なものとなっている。いくらISを動かせるとは言えども、ほんの一ヶ月前まではごく普通の中学生に過ぎなかった一夏には、その授業はあまりにも難しすぎたのだ。
「おっ、大丈夫か大丈夫か?」
そんな彼の元にやって来たのはもう一人の男性操縦者、野獣だ。自分とは対照的な余裕綽々と言わんばかりのその態度に、一夏は机に突っ伏した状態のまま顔だけを彼の方へ向ける。
「先輩……俺もう駄目かもしれません。全然理解出来ません……」
「えぇ……(困惑)。こんなのまだ初歩の初歩なんですがそれは……」
大袈裟に呆れ返った野獣を一夏は恨めしそうに見つめる。なんとこの野獣、大学では男であるにも関わらずISについて学んでおり、更にそこで優秀な成績を修めて院にまで進んだ程の男なのだ。はっきり言って、このクラス内でもトップレベルの知識を持っていると言っても過言ではない。
加えてISを学ぶ環境というのはこの学園に関わらず男が少なく、野獣のいた大学でも講義次第では男が野獣しかいないということも多々あった。異性だらけの環境にやたらと適応するのが早かったのは、こういった事情が絡んでいたりもするのである。分からないところは後で野獣に聞こう、一夏は声に出さずにこっそりと決心した。
「ていうか、入学前には参考書をひたすら読んどけって言ったじゃんアゼルバイジャン」
「まぁ……そうだけど……(しどろもどろ)」
一夏はチラリと机の隅に置かれた参考書に目をやる。さながら電話帳のごとき分厚さを誇るそれは、一夏が間違えて捨てようとしていたのを、ゴミ出しに行こうとした野獣が寸前で発見した物である。その時野獣に「そんなことしたらCHYに怒られちゃうだろ!」と叱りつけられたのは、一夏にとってなかなかに苦い記憶だ。
「ちょっと宜しくて?」
「「ん?」」
そんな時だ。いきなり横から声を掛けられ、素っ頓狂な声を上げる一夏と野獣。そんな二人の視線の先には金のロールがかった髪でややつり上がった碧眼を持つ少女が立っており、見るからに不機嫌ですというオーラを放っていた。
「なんですのその返事は? この私に話し掛けられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるのではなくて?」
「……悪いな。俺、君が誰か知らないし」
大袈裟に声を張り上げた少女に一夏は顔をしかめる。野獣に至ってはこの時点で「そう……(無関心)」としか反応せず、早くも関わらないことを決めたようだ。そんな二人の態度は少女の神経を逆撫でし、更にその声を荒らげさせた。
「知らない? イギリスの代表候補生にして入試首席の、このセシリア・オルコットを!?」
「おう(誇らしげ)」
信じられないと言わんばかりにポージングする少女、セシリア。しかし一夏はそんな彼女の様子などまるで気にも留めず、隣で「なんで知る必要なんかあるんですか(無関心)」と呟く野獣へと視線を移した。
「あの、先輩」
「おっ、どうした?」
「代表候補生って……なんですか?」
その一言を切っ掛けに、ガタガタガタッとあちこちで音が響いた。何名かの生徒達がずっこけたのである。質問をした一夏は至極真面目そうな表情をしており、そんな彼に流石の野獣も「ファッ!?(驚愕)」と驚きを露にする。セシリアもまたその額に青筋を浮かべて、怒りの余りプルプルと震えながら凄まじい剣幕で一夏を怒鳴り付けた。
「あ、あなた! 本気で言っていますの!?」
「な、なんでそんな怒ってんだよ?」
訳が分からずに本気で困惑する一夏。実際には代表候補生など、ISに関わる者なら常識とも言える単語なのだが、そんなことを彼が知る由もなかった。首を傾げる一夏を見かねた野獣は溜め息と共に助け舟を出す。
「ICK、代表候補生ってのは国家IS操縦者の候補のことだゾ。読んで字の通りだって、はっきり分かんだね」
「あっ、そっかぁ……(納得)」
「そう、エリートなのですわ!」
バァン!(大破)とセシリアは手を机に叩き付け、その後一夏をビシッと指差す。因みに当の本人はセシリアの姿を、ポーズが様になっているなぁ程度にしか思っていなかったりする。
「ふん、ISについて何も知らないくせによく入学出来ましたね。まぁでも、私は優秀ですから。泣いて頼まれれば教えて差し上げてもよくってよ。何せ私は入試で唯一教官を倒したエリートですから」
「やだよ(即答)。お前に教えてもらうくらいなら先輩に頼むさ……って、入試ってあのISを動かして戦うやつか?」
「それ以外に何があると言うのですか……」
「俺も倒したぞ、教官」
ピタッと、その一言で教室内の時が止まった。周りで聞き耳を立てていた生徒達は思わず動きを止め、セシリアは驚きの余り目を見開いてポカンと呆ける一夏を見る。「たまげたなぁ……」と一人遠い目をしているのは野獣だ。余談だが野獣はその入試で
「わ……私だけだと聞きましたが?」
たっぷり十秒程の時間が経過しただろうか。ショックで震えながらも声を出したのはセシリアだ。何かの間違いであってほしい、そんな彼女の切実な願いは一夏の「女子の中ではってオチじゃないのか」という、無慈悲な一言によって脆くも崩れ去った。
その直後に鳴り響くチャイム君迫真の音色、結局セシリアは「後でまた来ますわ! 逃げないことね!」と捨て台詞を残し、そそくさと自分の席に戻っていった。一体何がしたかったんだと本気で思った一夏は隣を向くが、野獣の姿はそこにはなく、いつの間にか自分の席で授業の用意をしている。相変わらずよく分からない男だった。
「席につけ、授業を始めるぞ」
教室に入ってきた千冬の言葉に教室内の空気が締まる。それを感じ取った一夏もまた、今度こそと意気込んでシャープペンを手に取った。
「あぁ、そういえば授業の前にクラス対抗戦に出る代表者を決めなくてはな」
クラス対抗戦。代表者。聞き馴れない単語に生徒達は首を傾げた。そんな中で野獣だけが一人、「あっ……ふ~ん」と悟りを開いたかのような表情を浮かべているが、それに気付けたのは教卓に立っている千冬だけである。果たしてその頭の回転の速さはどこから来るのだろうか、千冬は内心で舌を巻く。
「代表者とは文字通り、このクラスの代表者だ。分かりやすく委員長とでも言うべきか。クラス対抗戦ではその代表者達が実際にISを使い、その実力を測るものだな。現時点ではそこまで差はなかろうが……我こそはという者はいるか? 自薦でも他薦でも構わんぞ」
他薦でも構わない、その言葉に飛び付いたのはごく一般の生徒達だ。誰もが挙って手を上げ、そして一夏と野獣の二人を推薦していく。世界でISを動かせる男がいるのだ、これを使わない手はないというのが彼女達の考えである。
しかしこうなることを予想しており、「しょうがねぇなぁ(逃れられぬ
「待ってください! 納得いきませんわ!」
その生徒、セシリアは金切り声を上げて一夏と野獣の二人を睨み付ける。周りから空気読めよと言わんばかりの視線が突き刺さるが、そんなことはお構い無しに彼女は口を開き、怒濤の勢いで反論を始めた。その際に例のポーズを決めることも忘れない。
「そのような選出は認められません! 男がクラス代表なんて恥さらしもいいところですわ! このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間も味わえと言うのですか!」
セシリアの台詞は止まらない。最初は聞き流していた生徒達からも、次第に「やべぇよ……やべぇよ……」と不安げに呟く者も出てきていた。
「クラス代表は実力トップの者がなるべき、そしてそれはこの私ですわ! 大体こんな後進的な国で暮らすこと自体、私には耐え難い苦痛で──」
「あっ、おい待てぃ(江戸っ子)」
これ以上は聞くに堪えないと、野獣がガタッと席から立ち上がる。その顔は怒ったような、それでいて呆れたような風になっており、その目から放たれた鋭い眼光は真っ直ぐにセシリアを捉えていた。普段温厚な野獣からはあまり想像出来ない表情だ。教室中の視線が集まる中、野獣は「あのさぁ……」と仰々しく肩をすくめてクソデカ溜め息を吐き出す。
「代表候補生が他の国馬鹿にするようなこと言って……恥ずかしくないの?(正論)。そんなに文句あるんだったらさっさとイギリスに帰って、どうぞ(半ギレ)」
「っ……!」
予想外なその強気の発言にセシリアは怯む。そこに「そうだぜ」と便乗して立ち上がったのは、既にクラス代表として推薦されていた一夏だ。彼もまた珍しく苛立っていたようで、立ち上がった際に椅子がガタンと大きな音を立てる。
「イギリスだって島国じゃないか。それにイギリスは飯が不味すぎるんだよな、それ一番言われてるぞ」
「なっ……!? あなた達、私の祖国を馬鹿にしますの!?」
「先に言い出したのはそっちなんだよなぁ……(揺るがぬ真実)。頭にきますよ~!」
一夏と野獣の二人、そしてセシリアが互いに火花を散らし合う。やがて痺れを切らしたセシリアがバァン!(三回目)と机を叩き、「決闘ですわ!」と宣言した。当然二人はそれを承諾、来週の月曜日にアリーナを貸し切り、ISバトルを行うことが決定されたのだった。
ホモは優秀、はっきり分かんだね
迷ってんのは野獣に専用機持たせるか持たせないかってとこなんだよな~。どうすっかな~俺もな~