野獣先輩のIS学園物語   作:ユータボウ

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 (戦闘描写)ぬわぁああああああああああああん疲れたもぉおおおおおおおあおおおおおおおん!

 (戦闘描写)すげーキツかったゾ~


6話 代表候補生VS野獣

「お待たせ」

 

「あら、逃げずに来ましたのね」

 

 ピットから飛び出して指定の位置まで移動した野獣に、専用機のブルー・ティアーズを展開するセシリアはふふんと鼻を鳴らした。しかしそんな彼女の態度にも野獣はどこ吹く風だ。ISを纏うという感覚に馴れようと何度も手を開いたり閉じたりを繰り返す。

 

「最後のチャンスをあげますわ。私が一方的な勝利を掴むのは火を見るより明らか。敗北した後の醜態を晒したくなければ速やかに降参しなさい。今なら許さないこともなくってよ?」

 

「そういうのはチャンスって言わないゾ」

 

 野獣がそう答えた瞬間、ISが無数の情報を叩き出した。バイザーに隠された彼の目が細くなる。

 

 ──警戒。敵IS、射撃モードに移行

 

 ──警戒。セーフティのロック解除を確認

 

「そうですか……なら──お別れですわね!」

 

 キュイン、とエネルギー兵器独特の発砲音が響いた。野獣はそれに反応して素早く機体を旋回させる──が、実弾よりも遥かに高速で飛来した閃光は、サイクロップスの右肩を綺麗に捉えていた。直撃を受けた装甲が跡形もなく弾け、その衝撃に煽られた野獣はアリーナの地面へと墜ちていく。

 

「オォン! アォン!」

 

 クッソ情けない悲鳴を上げながら、それでも体勢をすぐに立て直す野獣。しかしそんな彼の元へ次々と新たな砲撃が降り注いだ。ドォン、ドォンと地面が爆発と共に抉られて土煙が立ち込める。それを見ていたピットの一夏達は思わず野獣の名を叫ぶ──が、次の瞬間に彼等が見たのは土煙の中から華麗に飛び出したサイクロップスの姿だった。

 

「Foo~↑(賞賛)。やりますねぇ!」

 

 そんな彼の手には一本の長刀が握られている。恐らく、土煙の中で咄嗟に呼び出したサイクロップスの武装なのだろう。「ちょっと()当たんよ~」と呟いた野獣は、その刀で以て襲い来るレーザーの雨を一撃、また一撃と斬り払った。蒼い閃光が刃に裂かれて消える度に客席からは歓声が上がる。

 

「このブルー・ティアーズに近接武器を使おうなんて、笑止ですわ!」

 

「おう撃ってこい撃ってこい! いいよ、来いよ!」

 

 攻撃を思わぬ手段で防がれ顔をしかめるセシリアと、不敵な笑みを浮かべながら攻撃を防ぐ野獣。二人の試合は、まだ始まったばかりだ。

 

 

 

     △▽△▽

 

 

 

 その頃、ピットでは野獣を見送った四人がモニターより試合を観戦していた。レーザーを刀で防ぐという荒業をこなす野獣に真耶は思わず「はぇ^~すっごい……」と呟き、白式に乗り込んで初期化(パーソナライズ)最適化(フィッティング)をしている一夏もまた「すげぇ……」と小学生並みの感想を溢す。

 しかしそんな中で険しい表情を作っているのは箒だ。最後の一人、千冬は特に顔色を変えぬままじっとモニターを見つめており、野獣の一挙一動をひたすらに観察している。

 

「あの……織斑先生、田所さんは大丈夫なんでしょうか?」

 

「……何故そんなことを聞く?」

 

 意を決したような箒の言葉に、千冬は試合を見ながら返事する。

 

「敵の攻撃を刀一本で防ぐ田所さんは凄い腕前です。しかし、このままではいずれ押し負けてしまうのでは……」

 

 そう、箒の言う通り野獣は全ての攻撃を捌き切れている訳ではなかった。避け損なったレーザーは僅かだが確実にサイクロップスのシールドエネルギーを削っており、試合開始から八分程が経過した今では既に150以上のエネルギーがなくなっている。対するセシリアのブルー・ティアーズは未だに無傷、戦況は明らかに彼女の方が有利だったのだ。

 

「ふむ……確かにこのままでは野獣の負けだな。お前の言う通りだ篠ノ之」

 

 しかし、と千冬は台詞を区切る。

 

「そんなことはあいつも分かっているさ。見ろ、試合が動くぞ」

 

 はっとなってモニターへと視線を移す箒。そんな彼女が見たのは、攻撃を防ぎながら一直線にセシリアへと向かっていく野獣の姿だった。

 

 

 

     △▽△▽

 

 

 

「くっ、止まりなさい!」

 

 声を荒らげライフルを連射するセシリア。しかし、自分へと一直線に向かってくる野獣はまるで止まる気配を見せない。バイザーによって顔の上部が隠されている男が凄まじい剣技を披露しつつも、確実に近付いてくるその様子はかなり不気味であった。ゾクリと、セシリアの背中に悪寒が走る。

 

「こんな男相手には使うまでもないかと思いましたが……見せて差し上げますわ!」

 

 そんな自信に満ちた言葉と共にブルー・ティアーズの装甲の一部が本体から分離し、野獣を取り囲むようにして襲い掛かる。ブルー・ティアーズ搭載の第三世代兵器、ビットだ。その数は、四基。

 

「さぁお行きなさい、ティアーズ!」

 

「行きすぎィ!」

 

 独特の発砲音と共に降り掛かる無数のレーザー。三百六十度、上下左右のあらゆる方向から放たれたそれは、サイクロップスの装甲を次から次へと剥ぎ取っていく。刀で防ぎ損ねた攻撃が被弾する度に、野獣から「逝く逝く逝く……!」と悲痛な声が上がった。サイクロップスのシールドエネルギーが凄まじい勢いで減少していく。

 だが野獣もやられっぱなしではない。被弾しながらも必死でサイクロップスを操作し、なんとかビットの形成する包囲網から逃げようと空を駆けた。そんな彼を逃すまいとビットは野獣を追い掛け、徐々にアリーナの壁側へと追い詰めていく。セシリアがふっと笑みを作り、野獣も万事休すかと思われたその瞬間──、

 

 

 

 ──サイクロップスのバイザーから放たれた一撃が、一基のビットを撃ち落とした。

 

 

 

「なっ……!? 遠距離攻撃ですって!」

 

「出そうと思えば(したり顔)」

 

 墜ちていくビットには目もくれぬまま、野獣は好機とばかりに動きの鈍ったビットを更にもう一機撃墜する。一瞬の間に半分ものビットが失われたことに客席はどよめき、またセシリアは目を見開いて驚きを露にした。しかしそこは代表候補生、すぐに意識を切り替えると残ったビットの操作に集中し、隙あらば接近しようとしていた野獣を牽制する。

 そんな戦いが二十分は続いただろうか。お互いに一歩も譲らない攻防は、野獣が三基目のビットを破壊したことで大きく変化する。弾幕が減ったことによりセシリアは野獣を思うように止められなくなり、段々と危うい場面が増えてきたのだ。「動くと当たらないだろ!」と叫びつつも果敢に接近を試みる野獣。しかし、彼は一つだけ忘れていることがあった。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「かかりましたわね」

 

 ニヤリと、セシリアが笑った。それと同時に腰部分に装着されていた装甲が動き、砲口が野獣へと向けられる。彼はすぐに「あっ……」と己の失態に気付くがもう遅い、一度動き始めた体はすぐには止まらないのだ。

 

「ブルー・ティアーズは合計で六基ありましてよ!」

 

 自信に満ちた言葉と共に放たれる二発のミサイル。それは寸分違わず野獣のサイクロップスを捉え、着弾する。ドォォン、と視界すら揺らす程の爆発と爆風、そして──、

 

 

 

「ンアッー!」

 

 

 

 野獣のクッソ情けない叫び声が、アリーナに木霊した。

 

 

 

     △▽△▽

 

 

 

「先輩!」

 

「田所さん!」

 

「田所君!」

 

 爆発の煙で姿が見えなくなった野獣へ、ピットに控えていた一夏、箒、真耶の三人は思わず彼の名をもう一度叫ぶ。そんな中でも冷静だったのは、恐ろしいまでの鋭い眼光でひたすらに試合を観察していた千冬だ。もくもくと立ち込める黒煙に彼女は僅かに表情を綻ばせ、誰にも聞こえぬようにポツリと呟いた。

 

「漸くか……馬鹿者め」

 

 やがて黒煙は徐々に晴れていき、

 

 その中から、輝く銀が現れた。

 

 

 

     △▽△▽

 

 

 

 ──初期化と最適化が終了しました。確認ボタンを押してください

 

 頭の中に流れてくるメッセージ。野獣は迷わずに従ってすぐさま確認ボタンを押した。それと同時に彼の纏っていたサイクロップスが粒子化し、そして一次移行(ファースト・シフト)を終えた真の専用機として野獣に再び装着される。

 それは銀だった。先程のような曇ったような色ではない、正真正銘の銀色だ。目元を覆うバイザーに変化はないが、大きく変化したのが腕部と脚部である。そこには先程までにはなかった銀色のガントレットとグリーブが合わさっており、シルエットとしては『肘及び膝から先がゴツい人型』という、どことなく異形なものになっていた

 にも関わらず、当の本人は「いいゾ~これ」と大層ご満悦のようである。それもその筈、操縦者たる彼は分かっているのだ。この腕と脚の意味が。その使い方が。そして──この試合を勝つ方法が。

 

「なっ……一次移行ですって!? あなたまさか、今まで初期設定だけのISで戦っていたと言いますの!?」

 

「勝負はまだまだこれからだゾ。俺の実力見とけよ見とけよ~!」

 

 ──YOUR FIRST TARGET

 

 ──CAPTURED

 

 ──BODY SENSOR

 

 ──EMURATED,EMURATED,EMURATED

 

 頭に流れ込む情報を受け止め得意気な野獣は、驚くセシリアには目もくれずスラスターを噴かして一気に加速した。速い、先程までが嘘のような速度だ。正気に戻ったセシリアもすぐさまライフルのトリガーを引くも、止まらずにアリーナを駆け抜ける野獣には当たる気配もない。やがて彼女は当たらないことに焦れ始める。そしてそんな一瞬の隙を突き──野獣は懐へと潜り込んだ。

 

「くっ……!」

 

 しかし、近い。スラスターの出力が思いの外強かったせいか、野獣はセシリアに接近しすぎてしまったのだ。これでは得物である刀は振れない。そのことに気付いたセシリアは勝ち誇ったように笑みを浮かべた。

 

 

 

 しかし、彼女は知らなかった。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということを。

 

 

 

「──双打(そうだ)()

 

 ドッ、と。セシリアの腹部に野獣の放った掌底が突き刺さった。得物を用いない格闘という想定すらしていなかった攻撃に彼女の思考は停止し、また受けた衝撃によって動きは目に見えて遅くなる。鈍く、じわりじわりと押し寄せる痛みは、今まで彼女が経験したことのない痛みだった。

 

 そんな決定的な隙を、目前の男が見逃す訳もない。

 

「──散華連打(ちかれた)

 

 野獣の腕が、脚が、連続してセシリアのこめかみや顎といった人体の急所、そして関節部分を捉える。最早、その連続した打撃はピットに佇むある一人を除いて目視することすら出来なかった。何が起こったのかすら分からず誰もが呆然とする中、セシリアはISを展開したままゆっくりと墜ちていき……試合終了を告げるブザーだけが喧しく鳴り響いた。

 

『セシリア・オルコット、戦闘続行不可能。よって勝者──田所浩二』

 




 絶対防御は絶対じゃないって、それ一番言われてるから(圧倒的矛盾)

 野獣が最も得意とするのは迫真空手を応用した至近距離での格闘戦です。サイクロップスの力とかその辺も含めて次回の一夏戦で詳しく書きますのでお楽しみに

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