あの世界の彼がIS世界に来たってよ──更識楯無の波乱万丈な一年──   作:緑化

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一話 喉元には刃、胸には槍、脳天には銃口、時々、来訪者ですよ

 

 

その日、その場所で、彼は目を覚ました。

目を覚ましたら冷や汗ものな状況だったのだが、そこは無視して辺りを見渡せば、何やらよく分からない人型のような機械が並ぶ場所、格納庫のようにも見えた

 

 

「あー……来たはいいけど、この状況はちょっとなぁ…」

 

 

そう言いながら彼は自身の黒髪を左手で無造作に掻き上げる

 

最近、少し髪を伸ばしすぎたろうか? 流石に瞼を隠す程に放っておいたのは印象が悪かったか?

 

そんな今の状況に似合わない事を考えていると、目前に立つ女性から声が聞こえてきた

 

 

「手を上げてもらおうか」

 

 

万人を震わせるような視線でこちらを睨み付ける黒髪の女性、喉元には女性が持つには、どう考えても可笑しい程の大きさの刀。

どう見ても刀なんだが、目前の女性が持つには余りにも大きく、それは刀と言うよりは大剣と言ったほうが納得できる存在感を放っている

 

 

(…手を上げろ言うてますが、少しでも動いたら斬るって目が語ってますがな)

 

 

どないせっちゅうんじゃいと彼は心中で溜息を吐きながら、視線を右にずらす

 

 

「貴方が何者なのか、詳しく聞かせてもらうわよ」

 

 

次に聞こえて来た声に右を向けば、槍を構える青い髪の少女だ。

黒髪の女性とは違い、両手に機械のような籠手を装備して槍のような物の穂先をこちらの胸に向けている。

 

声色はキツイが見た目や声の感じがどうにも他人な気がしない彼にとって彼女は微笑ましい存在だ

 

 

(この娘もこの娘でヤル気しか感じられないし…勘弁してほしいぜ)

 

 

まぁ、それでも胸に槍を突き付けてるしやめて欲しい。

それはともかく、どっかで聴いたことがある声の少女から視線を左へとずらし、緑髪の眼鏡をした女性へと視線を向ける

 

 

「貴方の人権は保証します、だから投降をしてください」

 

 

そこには見た事もない機械の装甲を纏った女性が、二人の女性より下がった位置でこちらに銃口を向けている。

銃口から察するに狙いはこちらの頭、口径から推測するに軽く人の頭なぞ、地面に落としたゼリーのように粉砕するだろう

 

 

(………デカイ…圧倒的デカさ!…今まで見たこともない程の圧倒的な程の戦力!)

 

銃口とか、そんなことよりもある一点に目がいく。

牛? いや、メロン? くっ、他に大きさを表す単語が欲しいぜ!

 

 

「……これが胸囲の格差か」

 

 

「「あ"あ"ん?」」

 

 

約二名様からの威圧感が増した

 

失言だ、完全なる失態だ!これでは何を言っても相手にしてもらえない。

このパターンは昔から嫌というほどに経験しているというのに。

この思ったことをサラッと口にしてしまう癖はどうにかならんものだろうか?

ここは一つ、この場を納める台詞を

 

 

「いや、二人とも女性はデカさじゃないぜ、大事なのは柔らかさだと思うんだ!」

 

 

「「殺ャア!」」

 

 

問答無用で刀と槍が振るわれました

 

 

「あっぶな!」

 

 

上体を仰け反らせ刀を回避してから続く槍を右足で蹴り上げて逸らしながらバク転で後方へと大きく飛び距離を空ける

 

 

「あっ、待ちなさい!」

 

 

緑髪の女性はそう言うや否や、反射的に銃口を彼に向けて引金を引いた、引いてしまったのだ。

しまったと思う間も無く、緑髪の女性は後悔した『生身の人間にISの武装を使った』のだから

 

しかし現実は違った

 

 

男性は着地と同時に銃弾を『まるで見えているかのように右腕を振るい逸らしたのだから』

 

 

「あっ…やべ…」

 

 

思わず口から声が出た。

見渡せば、三人の女性はこちらを信じられない物を見るような目付きで見ている。

それもそのはずだ、緑髪の女性が撃った銃弾は普通の人間には明らかに防ぐことは出来ない一撃だった。

 

だった筈なのだ。

 

だと言うのに男性は右腕はおろか五体満足で立っている。

 

緑髪の女性は安堵と共に深い息を吐いて、その場に座り込んでしまう。

自身の放った銃弾が相手を傷付けなかったことによる安堵に少し涙目だ。

最悪、死なせてしまうかもしれなかったのだから当然だろう

 

 

「貴様…何者だ?…」

 

 

だがそんな光景を見て、平然としてられる者はいなかった。

黒髪の女性は最大限の警戒と敵意を彼に剥き出し、巨大な刀を握る手には力が入る。

 

当たり前だ、今のを例えるなら戦車が主砲を歩兵に撃つのと同義だ。

 

生身の人間に耐えることはおろか逸らすなど出来るはずも無い、いや、人間としては出来てはいけないのだ

 

 

『それはこの世界にとってはありえない事象なのだから』

 

 

「……あー……なんかきてるぞ?」

 

 

そんな彼女達の心中を無視して彼は上を見上げる。

 

瞬間だった、格納庫の天井を突き破って何かが現れた

 

 

「な、なに!? いったいなにが!?」

 

 

青髪の少女、更識は突然の来訪者に驚きながらもその手に持つ武器を構える。

 

モクモクと立ち込める粉塵が徐々に晴れた先に居たのは全身が真黒な大きな人間だった。

 

天井に開いた穴から零れる月明かりを浴びて佇む、その姿は幻想的ではあったが嫌な程に不気味でもあった

 

 

「貴方の知り合いかしら?」

 

 

突然の来訪者を警戒しながらも後ろに立つ男性へと問い掛ける

 

 

「いや、あんなスタァ〜ズとか言って人を散々、追いかけ回してガトリング砲ぶっぱしそうなバイオな知り合いはいないなぁ……あ、敵にはいたかな?」

 

 

「それはある意味で知り合いと言っても差し支えなさそうだけれど?」

 

 

嫌な知り合いだなぁと男性が溜息を吐くのを横目に更識 楯無は対面、来訪者を挟む位置にいる黒髪の女性と緑髪の女性に視線を送り、二人は更識の視線に気付くと頷いた。

 

現状、訳が分からないことの連続だが、どう考えても目の前の来訪者が一番の危険要因である。

 

これを放っておくのはどう考えても危険だ、故に三人は男性のことは一旦、保留にして来訪者を先にどうにかすることを決めた

 

 

「貴方は隠れていなさい、あれは私たちが…「いや、そうもいかんでしょ」…はい? って、ちょっと!」

 

 

相手をする、そう言おうとした更識の肩を軽く叩きながら男性が、これまた軽い足取りと飄々とした態度で来訪者の前へと歩み出た。

 

更識も残る二人の女性も何故か彼の行動を止められない。

 

何故かは分からない、だが彼なら不思議と大丈夫なのではと感じてしまっていた

 

 

「狙いは俺だろ? 『不思議の国のアリスちゃん』」

 

 

 

言うや否や、来訪者はフルフェイスまで隠された、瞳を赤く光らせ彼に右拳を振るった。

危ない!そう言おうとした更識だったが次の瞬間には決着が着いていた。

剣客同士が交差したかのように彼と来訪者はその立ち位置を変えていた。

厳密には彼のみが動いた形だが、更識にはそれが映画のワンシーンのように見えた

 

 

「おせぇよ、デクノボウ」

 

 

彼が呟いた後には結果が動いた。

 

右拳を振るった体勢の来訪者と右手を振り抜いたような体勢の彼。

 

ズルリ、と来訪者の身体が斜めにスライドしたかと思うとゴトンと地面に来訪者の上半身が落ちた

 

 

ーーークルダ流交殺法 黒技(こくぎ) 昏武(グラム)ーーー

 

 

そう呟きながら彼は右手の手刀を血糊を払うかのように振るう。

後に残るのはバチバチと放電を放つ来訪者の機械の切断面。

誰もが言葉を発せず来訪者を見た後に彼を見た。

 

そこには月明かりに照らされ、この世の者とは思えない、美しさ、神秘的で、幻想的な、彼が佇んでいた

 

 

「……あ…」

 

 

その姿を見て更識は胸の高鳴りを感じた。

初めての感覚だった。

 

後に更識 楯無はこう述べる。

 

一目惚れとは正にこういうものなんだと。

 

顔が紅潮していくのが分かる、彼の姿、横顔、訳が分からない程に、更識は恥ずかしくて彼から視線を逸らししまう。

 

こちらを振り返り、笑う彼の姿が余りにも……

 

 

 

更識楯無はその日、男と出会った。

 

それが彼女を今までの人生すら平穏だったと思えてしまうぐらいの男と。

 

ナチュラルボーントラブルメーカーと呼ばれていた男との出会いは果たして何を経験させ、何を得ることになるのか

 

 

 

 

 

「ふっ………ぐぎゃあああ!? 右手が痛いぃ!! カッコつけて他人の技なんかやるんじゃなかったぁぁ!! 」

 

 

 

こちらを振り返り笑う彼の姿が余りにも……あれ?

 

 

「………え?」

 

 

しかし、そう思うのは後々の話であり、今のところは右手を押さえながら地べたを転がる彼に目を点にするにしかなかったのだ

 

 

 

 

 

これが始まり、後に彼がもたらした発想を中心とした、技術のパワーフローは、ISという力を持って太陽系の外まで進んでいくことになる

 

 

 

 

 

「うっぎぁぁ!! そっと立たせて! ボインの君!! 我が右手は今やガラスざいっいぎゃああああ!? おい! 残姉! 優しくあつかえや!!」

 

 

「ボ、ボイン!? どこ見て言ってるんですか!?」

 

 

 

「だ、誰が残姉だ!? 私はこう見えてかなりの良姉だぞ!」

 

 

「ぐぎゃあああ! 突き飛ばさないでくれるかな、ボインの君! あと嘘つけやぁ!! 滲み出る残姉臭がハンパないわぁ!! つかこの世界、魔素が少なすぎんだろぅ!!」

 

 

 

なる筈……だといいなぁ……

 

 

 

 

 

 

 

 

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