あの世界の彼がIS世界に来たってよ──更識楯無の波乱万丈な一年── 作:緑化
そこはIS学園の一室。
ホテルのスイートルームかと見間違いそうになる一室、織斑千冬は目の前の光景に頭を悩ませていた
ガツガツ! ムシャムシャ! ずずっー! 真耶ちゃーん これと、これと、あとこれ追加ね、大至急、三分ね!
「…おい」
皿、皿、皿、もいっこオマケに皿。
丸テーブルの上には山のように積み上げられた皿。
テーブルを挟んで対面に座り、現在進行系で食事をする男が作った皿の山だ
「……おい」
真耶ちゃーん、更に三セット追加ー なに? そんなに食べられるのかって? やだなぁ、食べられるわけないじゃーん! 嫌がらせだよ! 嫌がらせ!
「おい! 話を聞け!」
ガシャン!とテーブルの上に積み上げられた皿が揺れるぐらいの勢いで千冬がテーブルを叩く
「なしたの、そんな怒って? あ、千冬ちゃんも食べる? 腹減りは怒りやすくなるしね。真耶ちゃーん、このデザート7選ってやつ追加ー 」
「誰のせいだ、誰の!? 真耶、私にはコーヒーだ! 40秒で用意しろ」
無理ですよー!と後輩の泣き声が聴こえてくるが無視する。
現在、IS学園のこの一室では突如としてIS格納庫に現れた男を拘束して尋問をしている最中だった。
だったのだが、いざ尋問を始めようという時に限ってこの男の腹の虫が盛大に鳴り響き尋問の邪魔をする
じゃあまずはお前のなまぐぎゅるる!!
出身はどぐぎゅるる! アオーン! わん、わん! ハングリー!!
……てへ
バカにしてるのか!?
お、お腹の虫なんですよー! 仕方ないじゃないかー!
思わず男の顔面を綺麗な右ストレートで殴ってしまったが自分は悪くないと千冬は思う。
そんな訳で全く話が進まないので仕方なく男に食事を摂らせることにしたのが現状である
「でだ、話を戻すぞ。ああ、もう食いながらでいいから答えろ」
千冬の言葉に両頬を膨らませる程に料理をほうばりながらこくこくと頷く男。
リスか貴様は?と思ったが、まだリスの方が愛嬌があると千冬は溜息を吐いて、もはや名ばかりの尋問を再開した
「一応、先ほどまでで聴けたことを再確認させてもらう。貴様の名前は宮武 亮輔。出身は知らないが暮らしてた場所はミッドチルダ? 年は千を超えてから数えてない……だったか?」
千冬に問われ男、亮輔が先ほどと同じ状況でこくこくと頷く
「よし、殴られ足りないか?」
その顔はバカにしてんのか?と亮輔を殴ろうと腰を上げた瞬間、彼は慌てて口の中にあった物を咀嚼して飲み込んだ
「まって! ちゃんと話しするから、腰を下ろして!」
どうどうと両手で待ったをかけてくる亮輔に思う所はあったが、ならばよしと千冬は腰を椅子に下ろす
「では話の続きだ。むしろ本題と言った方がいいか。貴様はどうやってあの場に、いや、この学園に入った?」
「土管ワープって待って待って! フォークおいて! 目を狙わないで!……って言っても実際そうとしかいえないしなぁ。千冬ちゃんは転移って判る? あ、ちゃんとした話だからフォークはおいてください」
「……転移、か? それは離れた場所に人や物を送るような意味で言っているのか?」
「そそ、その転移。ただ俺の場合は次元を超えるって意味合いだけどね。ワープって言えば何となくは判るっしょ?」
「……そんな技術が出来たとは聞いたことがないが?」
「そりゃそうでしょ。この世界の技術じゃないんだから」
あっけらかんと言う彼に千冬は表情を剣呑な物へと変えて行く
「……どういう意味だ?」
「単純な話しだよ『俺はこの世界とは別の世界からやってきた』それが答えさ」
彼の話しはこうだ。
自分はこことは違う別の世界の日本で生活していた。
その日本は他の別次元の世界とも交流が出来る技術が確立された世界だった。
そしてそれを可能としたのが、千冬達の世界で言えば御伽噺に出てくる魔法と言う技術だった。
ただ彼の世界では魔法は高度な科学技術として認識されており別段、不思議な物ではないのだと言う
「高度な科学は魔法と似たりってね。この世界だって石器時代とかには火を起こすのだって一苦労だったでしょ?」
今でこそ火を起こす、着けるなどの技術は普遍化され、それこそ百円ライターでですら簡単に出来る。
それと同じだと彼は言うが千冬にはそうは思えなかった。
何故なら別世界への移動だ、火を起こすとは話しの規模が違いすぎる。
それこそSF映画の世界だ。
だが千冬には頭ごなしにその話しを否定する気にはなれなかった。
何故ならISなんていうオーバーテクノロジーがこの世界にはあるからだ。
IS、正式名称はインフィニット・ストラトス。
宇宙空間での活動を主体とした篠ノ之 束が作り出したマルチプラットフォームスーツ。
そして千冬はその篠ノ之 束をよく知っている。
あんな天才(天災)が世の中には居るのだ、SF映画みたいな世界があっても可笑しくはないのだろうとは思う。
思うのだが、だからと言ってはいそうですかと納得も出来ない。
何せ、目の前の彼が何の目的でここに来たかは定かではないのだから
「……話しは分かった、納得はしてないがな」
だろうねと苦笑した彼は真耶が先ほど持ってきたデザート7選の一種であるモンブランにフォークを刺して食べた。
亮輔としては寧ろあっさりと理解してくれたぁ程度の認識だ
「だが、それなら何故ここに来た?」
「事故」
「…なに?」
これまたあっさりと言い切った亮輔に千冬は聞き間違いかと思った。
料理を運び終わって隣に座っていた真耶もまた目を点にしている
「事故なんだってばぁ、元々はこの世界じゃなくてクラナガンのミッドにって、ああ、クラナガンってのは俺のいた世界の首都みたいなもんでミッドってのはミッドチルダっつって地名だね。んで、仕事が終わって出先から我が国に帰ろうーって矢先に転移事故、気がついたら此処でしたってわけ」
体質もあるんだろうけどねーと軽く話している亮輔に千冬と真耶は頬が引き攣るような感覚を覚えた
「それじゃつまりなんだ? お前はその転移とやらの事故で此処に来てしまっただけの異世界人だと?」
「YES!」
脱力、こう言う他なかった。
彼の話しを全面的に信用する訳にはいかないが、それでも話しをするに彼は嘘を言っているようにも見えない、色々と引っかかる所はあるにしても今の所は一応は無害だ。
そう判断した千冬は盛大に脱力していた、学園の一大事かと思えば結果はスケールのデカい迷子。
千冬の顔からは、もうやってらんねぇっといった感じが隠すことなく出ていた
(部屋に帰ってビールが飲みたい)
そんなことを思う始末である
「けど事故ってことは帰る手段とかはあるんですか?」
真耶から出て来たその質問に、言われてみればその通りと千冬は思った。
転移などと言うトンデモ技術がある世界の住人にしろ、今回のことは事故なのだ。
彼にとっては思いもしないことだったろうし帰る手段はあるのだろうか?
「あるよ」
これまた軽い返答だった
「よし、帰れ。今すぐ帰れ」
「ひっどぉ!」
シッシッと存外に手を振る千冬に亮輔が声を荒げるが、そんなことは知ったことではないといった態度の千冬。
もはや千冬の中で亮輔の警戒度はかなり低い。
この短い間でここまで警戒度を下げたのは偏に彼の人となりからなのか単純に一つ話せば五はボケが返ってくるから相手をするのが面倒になったのか、後者のような気もする
「帰るにしても時間が掛かるんですー 帰れるならさっさと帰ってますー」
少しイジケたような物言いに多少イラっときたので彼が残していシュークリームを奪い一口で平らげる。
ぎゃー!俺のシュークリーム!
うむ、美味い、普段甘い物はあまり食べないがこいつから奪う食べ物は何でも美味そうだなどと鬼のようなことを考えながらシュークリームを飲み込む。
隣で後輩が苦笑しているが気にはしない
「それで時間が掛かるっていうのはどうして何ですか? 話しを聞いている感じではすぐにでも帰れそうな印象でしたが?」
「うっうぅ……魔力が足りないんだよぉ…」
あとは任せたとばかりの態度の千冬から尋問からただのお話し会へとシフトした現状を真耶が引き継ぐ形で質問すると又もや彼の口からはファンタジーな要素が飛び出した
「魔力? 魔力って魔法を使うエネルギーみたいな物でしょうか?」
「そうだよ、その認識で間違いない」
真耶の疑問に亮輔は千冬を睨みつけながら答える。
千冬は素知らぬ顔でコーヒーを飲んでいるが
魔力、それは亮輔の世界において超常たる力である魔法を行使する為のエネルギーだ。
魔法は確かに亮輔の世界でも高度な技術としての認識ではあるが、何も人類全てが使える力ではない。
先天的に身体の内部に魔力を精製することの出来る器官、リンカーコアを持つ者のみが魔法を扱えるのだ。
それ以外ではこちらの世界と同じく科学技術によって人々は暮らしている。
ざっくりと言えば魔法を使える者たちの力を科学技術で再現している世界なのだ。
だから車も普通に道路を走るし、一般家庭が使うエネルギーだってこちらと大差ない。
大元が魔法かそれ以外かの違いだ
「転移には莫大な魔力が必要になる、魔力に関しては俺は他の奴より多いから問題ない。けれど転移するには座標が必要だ。あとそれ以外にも細かい調整が必要になるんだよ」
転移は言葉だけ聞けば簡単に聞こえてしまうかも知れないが、それは盛大な間違いだと言える。
まず転移する為の魔力が多い、まずここから敷居が高いのだが転移には更に座標が必要になる。
行きたい場所の座標と自分が今いる座標だ。
亮輔の場合は行きたい場所、クラナガンのミッドチルダは何度も行っているから分かるのだが、現在地。
この世界の座標が分からない、これは転移するにあたって無視出来ない要素だ。
簡単に説明するならば、互いの座標が分かっている場合を、世界と世界がトンネルの様な物で繋がれた状態を思い浮かべればいい。
だが今は現在地の座標が分からない、これは言うなれば針の穴みたいな目的地に水の上に浮かべたビート盤から飛んでくぐれと言うに他ならない。
まして転移は現在地から目的地まで自身を魔力という形に分解して、現在地で再構築、再構成する。
知らない世界に飛ぶならまだしも下手したらコンクリートと同一化したり自身を構成する情報体が欠けて四肢欠損、ゼラチン化、自身の消失すら有り得る
「流石にそんな博打は打てんよ…ってどしたね? 二人して真っ青な顔して?」
「自身の消失って……」
「お前の世界の人間はそんな恐ろしいことを平気でやってるのか?」
話しを聞いていて自分がそうなったことを想像してしまったのだろう。
誰だってコンクリート人間やゼラチン人間にはなりたくないのである
「まぁ、博打もそうなんだけど、何よりこの世界は魔素濃度が薄すぎて魔力に変換する量が少なすぎるんだよ」
魔素とはリンカーコアに吸収され魔力を生み出す、大元のエネルギーだ。
魔法が魔力を使い行使されるなら、その魔力を産み出す大元は何か、
それが魔素である。
言うなれば酸素がそれに近い、人が活動するにあたって無視出来ない物の一つが酸素だ。
魔素とは魔法使いが大気に漂う魔素をリンカーコアに吸収し、魔素を圧縮、精製したのが魔力だ。
魔法がエンジンならば魔力はガソリン、魔素はガソリンを作る資源だなのだ。
この世界はその魔素が薄すぎて魔力を精製しようにも足りないのが現状。
それでも微々たる量は精製してはいるが転移を行うに値する量が溜まるのは何時頃になるか、分からない
「しかもさっきの黒いやつぶった切った所為で魔力使っちまうし、残った魔力をやりくりしないとなぁ…散々だよ、ホント」
「そうだ、そのことも聞いておきたい。どうやってお前は『あのISを素手で斬った』?」
「どうと言われても魔力で身体を強化してこう、ズバーン!っと斬りましたのことよ?」
事も投げに言い切る亮輔に千冬は本日何度目か分からない目眩を感じた。
何がズバーン!だ、そんな簡単なことじゃないだろう、しかも何だ? 魔力で身体を強化ってお前らファンタジー人間はそんな事が簡単に出来るというのか?
「……この人外が」
「おおっとぉ、なんか知らんが俺への評価が酷いことになってませんかねぇ? あんなデカイ刀、生身で普通に振ってた千冬ちゃんに言われたくないですぅ〜 普通に考えてそっちの方が人外じゃないんですか〜?」
「……確かに」
「真耶、貴様!?」
まさかの味方からのフレンドリーファイヤーに流石の千冬も少し精神的ダメージだ
「さてと色々と話しはしたんだけどさ、これから俺はどうなるの? まさかこの部屋に軟禁されたりなんかはしないよね?」
「いや、するだろ状況的に考えて」
「!? なして!? おいどんが何をしたと!?」
「不法進入に不法な戦闘、しかも身分を証明できる物が何もない。むしろここで軟禁でも軽いくらいだろう」
「よーし、俺ってば大人しくしてるぞー!」
千冬の言葉から逃げるようにベットへとダイブする亮輔
「そ、それじゃ、今日はここまでということで、また詳しい話しは後日にしましょうか?」
アハハと苦笑いをしながら場を閉めるべく、パチンと両手を合わせる真耶
「寂しいからどちらか一緒に寝ませってあぶなっ!?」
ベットの上にクネクネと身体を動かす亮輔に千冬がフォークをサイドスローで投げ付ける。
あわや眼球に刺さるそれを仰け反り躱す様は芋虫みたいだと真耶は思った
「寝言は死んでから言え」
「それ言外に死ねって言ってますよね?」
「気のせいだな…って何故、服を脱ぐ!?」
「え? だって服着たまま寝れないし……見る?」
「誰が見るか!脱ぐなら脱ぐで私たちが出てからにしろ!」
「フハハ! 解放かーん!! キャストオーフ!!」
(はぁ…今日は徹夜でしょうか?)
パン一で千冬へとルパンダイブを繰り出し蹴りで迎撃される、パン一野郎を見ながら真耶は深い深い溜息を吐いたのだった