あの世界の彼がIS世界に来たってよ──更識楯無の波乱万丈な一年──   作:緑化

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四話 ISってのは女しか動かせない? 契約は違うよね?

 

──IS学園上空 高度一万メートル

 

人が地上から見上げる雲すら足元に見える遥かな高さ、そこに人がいた。

 

全身を濃い青色の装甲に包み足場の無い空に佇む、一人の少女

 

その姿はまるで幻想的な蝶を思い浮かべるかのようなフォルムだった

 

 

《今回の任務は直々のご依頼よ。斥候がいるとは言え、くれぐれも失敗しないようにねM》

 

 

耳元から聴こえてくる女性の声を聞き終えてから少女は己の身体を地上へと向け加速した。

 

向かう先はIS学園、目標はとるに足らない男一人だ。

 

どう失敗しろと? 大気を切り裂きながら地上へと加速する少女の口元は歪んだように笑みを浮かべていた

 

 

 

 

──IS学園食堂

 

 

 

「くそ、千冬ちゃんのせいでアイに怒られたじゃないか」

 

 

「ちゃん言うな。お前のせいで私までアイさんに叱られたんだぞ? 休みの日に酒のツマミを作ってくれる貴重な人材なんだぞ? アイさんが怒ってツマミ作ってくれなくなったらどうするつもりだ?」

 

 

 

アイさん、女性46歳。本当に46歳なの?ってぐらい若く見える銀髪オッドアイな千冬のツマミをツンデレぎみに作ってくれるとても良い人の覇王断空拳を顔面と鳩尾(どちらがどちらを受けたかは想像に任せる)を喰らい悶絶しながらも二時間の説教を受けた。

 

その後、もう後はアイさんに任せようと傍観決め込んだ楯無、虚、真耶の三人が座るテーブルの対面にドカッとで着席、速攻で言い争いを始める。

誰だ、この二人を対面で座らせたのは?

 

あいにく運が悪かったとしか言えない

 

 

「知るかそんなこと。ツマミぐらい自分で作れ、この女子力皆無め」

 

 

「なっ!?…… 誰が女子力皆無だ、こう見えてスタイルには自信があるんだぞ」

 

 

「知らねぇよバァカ。スタイル云々で女子力語るな。千冬ちゃんは薄い本で泥酔して親父共にメチャクチャにされちまえ」

 

 

「あぁん?やるか?第二ラウンドでお前をノックダウンしてやろうか?私の右手がお前を倒せと轟き叫ぶぞ?」

 

 

「おぉん?いいのか?俺の右手が闇に染まるぞ?俺に倒されるシーンしか見えませんがぁ?」

 

 

 

──覇王……

 

 

「俺たちマブダチだよな千冬!?」

 

 

「ああ、心の友と書いて心友だとも!?」

 

 

 

………ミテイマスカラネ?

 

 

覇王の足音が去っていく

 

 

 

「……もうやめよう。俺たちは争いたくなんかないんだ、そうだろアスラン」

 

 

「……そうだな、私も熱くなりすぎていた。争いなんかしなくはない、そう思うよキラ」

 

 

 

「「……アスラン/キラ……!!」」

 

 

「誰がアスランとキラですか? 怒られますから、主に運営に」

 

 

 

ガシィっと硬い握手を交わすアホ二人を前に楯無はメタ発言をしていた。

お前らあの二人とは似ても似つかないだろうが。

 

もう誰かこの二人を止めてくれと楯無は右を向く

 

 

「むむぅ、やはりアイさんの料理には深みが…」

 

 

「アイさーん、食後のコーヒーお願いします」

 

 

 

「食後のコーヒーです」

 

 

「「ひぃい!?」」

 

 

 

虚はアイさん(覇王)の料理の味を会得しようと余念がない、真耶は全て任せたと言わんばかりに食後のコーヒーを頼み数秒も立たず人数分のコーヒーを運んできたアイさんに約二名が叫びを上げたが無視する

 

 

 

(もうなんか……いいや……今日は『私服』着ちゃったし…全部忘れてオフにしちゃえ…)

 

 

どうせ後で色々と話しを聞く事になるのだから今日一日ぐらいは好きに休んでやろうと楯無は諦めモードでやけっぱちだった。

 

しかしそれを運命とやらはそれを許さない。

 

コーヒーを一口した対面の彼が何かに気付いたのかガタンっと椅子を倒しながら立ち上がり窓の外を凝視した

 

 

「おい、マジかよ? 場所考えろよ、頭イカレてんのか…!?」

 

 

何を言っているのだろう?

 

だが亮輔の表情が焦った物で楯無はふと窓の外を見た。

 

楯無がそれを目撃出来たのはただの幸運だった。

 

自らが所有するISが放つアンノウン警報と窓の外からこちらへ一直線に突っ込んでくる人型

 

 

「全員伏せろぉ!!」

 

 

亮輔の叫びが食堂に響き渡る。

 

その声に反応出来たのは二人、楯無と千冬だけだった。

 

楯無は隣の虚を庇うべく押し倒し、千冬もまた真耶を庇うべくその体を引き寄せる。

 

何事かと訳が分からない生徒達が亮輔へと目を向けた瞬間にそれは食堂へと飛び込んできた。

 

突如吹き荒れるソニックブームに抵抗も出来ず食堂はまるで台風でも起きたかの様な惨状と化した。

 

炸裂して床に散らばるガラス、食器、椅子とテーブルも様々な食堂内を吹き飛んだのだろう、ちゃんとした形をした物の方が少ない

 

 

「一体…なにが……IS…!?」

 

 

顔を上げた楯無が見たのは食堂の中心にISを纏った女性が、いや、少女が居た。

 

まるで蝶のようなフォルム、それを見た楯無は独自に手に入れた、第三世代ISの情報を思い出した。

 

あれはまさかサイレントゼフィルス!?

 

何故イギリスの第三世代のISが此処に!?

 

何故? どうして? 様々な情報、様々な事情を知る楯無は現状を見て困惑した。

 

何が最善手か? 虚ちゃんをこの場から逃がさないと! 他の生徒は? 先生や食堂の人達は!?

 

虚は無事、真耶先生も織斑生徒が庇った、後は一般生徒だが……酷い、少なからず怪我をしてる生徒は見て取れる。

 

吹き飛んだガラスの破片や突撃してきたISのせいで怪我をして血を流す生徒もいる、それに寄り添い涙を流す数も多く、楯無一人ではどうしようもない

 

 

 

(怪我人が、多い… どうしたら…)

 

 

ISが居る限り救助など無理だ、動いた瞬間にISの能力で亡き者にされる

 

 

「おおぉ!!」

 

硬直状態だと楯無は思った、誰もが動けない状態でただ一人、亮輔だけは動いた。

 

サイレントゼフィルスがそれに気付きライフルに備えられたブレードを振るが、頭の上を向い掠っていく凶器など問題ないとばかり屈んで避ける

 

 

「ふっ!」

 

 

息を吐くと同時に飛び上がる形での右足蹴りをサイレントゼフィルスの腹部へと放ちその身体を浮かす。

 

続け様に空中で身体を捻りながらの左脚蹴りでサイレントゼフィルスを食堂の外へと蹴り飛ばす。

 

蹴り飛ばしたせいで壁が一枚ダメになったがご愛嬌だろう

 

 

「千冬、真耶! 怪我人を運んで治療しろ! アレは俺がやる!」

 

 

そう言うや亮輔はサイレントゼフィルスを追い窓の外へと飛び出して行った。

 

その光景を見て驚愕したのは誰か? 千冬か? 真耶か? 楯無か? いや、その場に居た誰もがその光景に驚愕せざる得なかった。

 

生身の人間がISを蹴り飛ばすなどと予想の斜め上すぎる

 

 

 

「……! 真耶、更識! 怪我人を医務室へ運ぶぞ! それと怪我をしてない者が居るなら手伝え!」

 

 

 

誰もが唖然としている中で一早く正気へと戻った千冬が周りへと指示を放つ、それにより正気へと戻った真耶と更識、一部の生徒、そこに騒ぎに気付いた他の教師達に他の生徒が集まり怪我人を医務室へ運ぶ作業が始まる。

 

その最中、一人の教師が千冬の元へと駆け寄り彼女へと何かを伝える。

それを聞いた千冬は驚きの後に苛立ちを隠すこともせず、教師へと後を頼むと言い早足で歩き出す

 

 

「真耶、更識! 二人は私についてこい!」

 

 

千冬に呼ばれた二人は怪我人の搬送を周りの者に頼んだ後、彼女の元へと走り、横に並ぶ

 

 

 

「いったい何処に行くんですか織斑先生!?」

 

 

「急がねばならないようだから結果だけ先に伝える。現在、IS学園は正体不明の連中に襲撃されている」

 

 

襲撃、その言葉に二人は少なからず驚きはしたがやはりと思う。

 

食堂にISが飛び込んできた時点でそうではないかと思っていたこともある

 

 

「私と真耶はこのまま警備室へと向かう。更識、お前は学園正門に向かい襲来者どもを制圧してこい。ISの使用も許可する」

 

 

「命令は了解です…あの人は、どうするんですか?」

 

 

亮輔をこのまま一人であのISと戦わせるのか?と言葉で問わずとも視線が訴えてきていることを千冬は理解していた

 

 

「応援はやりたい所だが人手が足らんだろうな。だからお前の手が空いたら後は好きにすればいい」

 

 

「! 分かりました、直ぐに向かいます!」

 

 

そう言って楯無は千冬達とは別の道へと走っていく。

その後ろ姿を見送り千冬は小さく笑うとすぐに表情を引き締め直す

 

 

「急ぐぞ真耶。どこの連中かは知らんが目に物を見せてやる」

 

 

 

「はい!」

 

 

その姿は正に世界最強と呼ばれるに相応しい威風堂々とした佇まいを見せ、横を歩く真耶もまた普段の彼女からは想像も出来ない程に頼もしい風貌であった

 

 

(応援…か…果たしてどちらが必要になるやら…)

 

 

千冬には何故か確信があった。亮輔には応援など要らないと。

 

一日にも満たない僅かばかりの付き合いしかないと言うのにどうしてここまであの男を信じてもいいと思えているのだろう。

 

現存する全ての兵器を過去の物に変えたISを前にしても、あの男なら。

 

昨日、謎のISを切り倒したあの男ならばと

 

 

「更に驚くようなことが起きそうだ」

 

 

呟くように吐いた言葉は千冬以外には聞こえてはいない。

 

事実として千冬の確信は当たる。

 

千冬、いや、あの篠ノ之 束、世界すら予想もしない形で亮輔は驚くようなことをやってのけるのだから

 

 

 

 

 

 

 

 

ガギィン!!と鉄と鉄が激しくぶつかる音が響く、それは二つの人影がぶつかる度に出す音だ

 

 

「ちぃ!…」

 

 

舌打ちが溢れる。弾かれ空中を落ちていく身体を、大きく縦に回転させて地面へと降り立つ亮輔。

 

見上げれば空中に浮かび、こちらを見下ろすサイレントゼフィルス。

 

面倒な相手だと亮輔は率直な感想を抱く

 

 

(食堂に突っ込んで来た時からそんな気はしてたが浮けるのか)

 

 

注意深く亮輔は相手を観察する。

 

滞空の為にスラスターを吹かしてないことからスラスターは移動に使う為の推進力替わり。

 

滞空している技術は予想するに重力をカットもしくは反発させて対象を浮かせているのだろう

 

 

(ロジカルドライブとかそっち系か?)

 

 

 

自分の知る似たような技術を思い出すが現状で技術の正否は関係ない。

相手は重力に縛られない、そのせいで自分は上を制空権を取られている、これが重要だ。

 

戦いにおいて相手の上を取るというのは圧倒的アドバンテージだ。

 

地を走る戦車が空を行く戦闘機に主力を譲り渡したことから、それは明白だ

 

 

(しかし妙だな…どうして上がらない?)

 

 

相手がその気なら更に上昇してこちらが手を出せない位置から攻撃すればいいだけだ。

 

しかし相手はそれをしない、何故か? パワードスーツの異常? いや、違う。武装の射程? 相手の武装は見るからにレーザー系だ、大気の影響を受けて威力の減衰はあるだろうが圧倒的アドバンテージを捨てる理由にはならない。

 

どうにも腑に落ちない………いや、常に思考しろ、戦いにおいて思考を放棄することは死に繋がる。

 

ならば何だ? ここまで手に入れた情報を、今も手に入れ続けている情報を整理し、予想を立てろ

 

 

(そういやぁさっき蹴った時に変な感触があったな……あの感触はシールドぽかったような……エネルギー関係か!)

 

 

 

食堂でサイレントゼフィルスに二度ほど蹴りを入れたがその時に総じて蹴りの威力を阻害されているような感触を確かに感じた。

 

あの時、亮輔は少なくとも相手を昏倒させる気で蹴りを放ったがそのシールドのせいで現在もこうやって対峙しているのだとしたら?

 

そのシールドを生み出す元があのパワードスーツの原動力であり、武装やスラスターにも同じく使われているのならば?

 

あのパワードスーツの見た目からして無限機関など搭載してはいないだろう

 

 

 

(俺の攻撃でエネルギー残量に変化が起きたから様子見してるってとこか? けどだからと言って俺の不利が無くなった訳じゃないじゃん!? アホっか!? こっちはライフ一つで相手はE缶所持と変わらんだろが!)

 

 

 

予想は出来たがだからどうしたというのか、結局は自分が不利なことに変わりはない

 

 

(まぁ、気持ち楽にはなったからいいか……くすねてきたブツは5本…これで相手を戦闘不能にしろか…クソゲーじゃね?…無事に終わったらぜってぇに千冬と真耶ちゃんとあの青髪も追加でバニーガール姿で給仕させたる!)

 

 

 

 

両腕の裾に備えた銀のそれを確かめつつ亮輔は好機を伺うことにする

 

 

 

(なんだこの男…シールドエネルギーを削っただと…)

 

 

 

亮輔を眼下に見下ろしサイレントゼフィルスの操縦者、Mは内心で驚愕していた。

 

食堂での蹴りから先程の衝突までを考えて明らかにMは動揺していた。

 

それは当たり前のことだろう、この世界において─亮輔は知らないが─ISは世界最強の兵器だ。

 

ISが登場してから十余年、既存の兵器は全てISにマトモなダメージを与えることなど稀になった世界で生身の人間が二度も明確なダメージをISへと与えたのだ。

 

それがシールドエネルギーを削っただけでもあり得ないことなのだ

 

 

(こいつは危険だ! 今まで会った、どんな相手よりも!)

 

 

それは確信に近い予感だった。全力で相手がISを装着してようとそうでなかろうと全力で──

 

 

 

「!? なっ!?」

 

 

相手をしなければと思う前に顔面に迫った銀色に輝く物体──亮輔が食堂からくすねてきた食器用ナイフ──を反射的にMは仰け反り避けた

 

 

 

 

「ちっ、やっぱ距離があるから避けるかって…」

 

 

 

額から生暖かい物が一筋流れていくのをMは感じる。まさかと不味いと思うのは同時だった。

 

『顔を隠していたバイザーが二つに分かれて落ちた』

 

 

 

「あれ? お前さんの面どっかで…?……あ、分かった! お前──」

 

 

 

「見るな!見るな! 見るなぁぁ!!」

 

 

 

亮輔が答えを言うより速くMが絶叫を上げてサイレントゼフィルスの全武装が展開した。

 

蝶の羽のようなスラスターから六機のビットが飛び出し亮輔へと迫る

 

 

 

「いきなりブチギレかよ!?」

 

 

 

魔力で身体を強化して慌てて亮輔は走り出す、その背後をビットから撃ち出されたレーザーが焼いていく。

 

一筋でも受ければ、受けた部分を蒸発させるレーザーを背後に亮輔は走る、走る、走る!

 

 

 

「死ね!死ね!死ねぇぇ!!」

 

 

絶叫を上げながらビットと手に持つライフルを乱射するMの攻撃を走り避ける。

 

目の前には壁だ、丁度いいと亮輔は笑い走る速度を上げるとぶつかる瞬間に彼は有ろう事か『壁を斜め横に駆け上がっていく』

 

 

 

「…はっ?」

 

 

余りにも奇怪な光景にMも我が目を疑った。

 

彼はそのままビットの攻撃を壁を真横に走り抜けていく

 

 

 

(キッツゥ! デバイスの補佐が無いとこんなにキツイかい!? つか魔力がガンガン減るぅ!)

 

 

 

壁を走るぐらいは出来ると思っていたのだが、壁が脆すぎる。

 

一歩踏み出す度にコンクリートの壁が豆腐みたいに砕けて走り難いわ背後には自身を焼こうとするレーザーの雨

 

 

 

(何から何まで全部トロくせぇ!! だがあと少し!)

 

 

 

亮輔は魔力で強化した身体能力と周りのズレに強化した感覚の中で心中で毒づきながらも走り抜けていく

 

 

──あと少し、あと少し!

 

 

自身を狙い撃たれるレーザーに少しづつだが身体を焼かれていく、それがどうした、今更痛みで止まると思うなよ

 

 

 

「もういなくなれぇ!!」

 

 

絶叫が聞こえたと同時に最大火力による一撃が目の前に放たれた

 

 

 

「甘い…んだよぉ!!」

 

 

 

爆風に包まれる視界、身体を焼く熱風、だがこの身体は、足は壁を踏み砕き一直線に空へと突き進む。

 

爆風から抜けた先には驚愕に染まった少女の顔

 

 

「おぉらぁ!!」

 

 

 

右手に持った食器用ナイフをMの顔面に向けて突きを放つ

 

 

 

 

「……なっ…!?……」

 

 

 

しかしその一撃はMに当たる寸前で止められる、それどころか全身がワイヤーにより絡め取られ動かない

 

 

 

「おいおいMよぉ、こんな相手になに手こずってんだよ?」

 

 

 

 

辛うじて動く首から上を動かして声のする方を向けば、そこには相対していた少女とは違い蜘蛛を想像させるパワードスーツを纏った女性が宙に浮いていた。

 

二人目! このタイミングで余りにも悪すぎる

 

 

 

 

 

「か、ぐがぁああ!?」

 

 

 

 

だがまだ抜け出すなら遅くはない! そう判断し身体を拘束していたワイヤーを切ろうと食器用ナイフを振ろうとした瞬間に電流が流れ肉が焼け血が沸騰する。

 

電流が収まった後には身体からプスプスという音と肉の焦げる臭いがする

 

 

「あん? まだ死んでないのか? タフだなこいつ」

 

 

「オータム、その男は危険だ。早急に始末しろ」

 

 

「はぁ? おいおいなんだビビっちゃったわけ? 相手はISも使えない男だろ、何をビビる必要があるんだよ?」

 

 

 

ワイヤーに絡み取られ吊るされている亮輔の頭を掴み顔を上げさせるオータム

 

 

「不用意に近づきすぎだバカが!」

 

 

 

右逆手に持った食器用ナイフをオータムの右腕に振り下ろし突き刺す

 

 

「ぐあっ!? こっのクソが!」

 

 

思わぬ反撃を受けたオータムは激昂し亮輔をワイヤーで振り回し投げ飛ばす。

亮輔の身体は近くにあった格納庫のシャッターをブチ破りながら格納庫内部へと消えた

 

 

「あのクソが! ただの男の分際でこのアタシに傷を付けやがって! ?」

 

 

「だから危険だと言っただろう」

 

 

「うるせぇ! Mは下がってな、あの男は絶対にアタシが殺す!」

 

 

「……好きにすればいい」

 

 

Mの言葉を聞き右腕に刺さっている食器用ナイフを抜き取り捨てるとオータムは怒りに満ちた顔で格納庫へと自身のISであるアラクネを向かわせた

 

 

 

「……いっつ…ここ…は…?…」

 

 

格納庫内部へと投げ飛ばされた亮輔はうつ伏せに倒れながらも辺りを見渡す。

 

そこは昨日、亮輔がこの世界に転移した格納庫だった。

 

天井にぽっかりと空いた大きな穴、その真下には未だ昨日の夜のままにIS ゴーレムが亮輔に斬り倒された状態で置いてあった。

 

周りにkeepoutの文字が書かれた黄色いテープがある事からこの格納庫は一時的な封鎖をされていたのだろう

 

 

「…またこことはね」

 

 

何と無く笑えてくるなと考えながら立ち上がろうとして左足の感覚が無い事に気付いた。

 

視線を左足へ向ければ膝から左足が曲がってはいけない方向をしていた

 

 

「……こりゃアカンな」

 

 

他にダメになった箇所は無いかと身体の内に流れる魔力を探る。

 

全身が箇所によりけりだが電流によるダメージで中度から重度の火傷。

投げ飛ばされシャッターにぶつかったダメージで左腕と左足は骨折、右足の甲と複数箇所の骨に罅割れ、額も割れたらしく盛大に血を流して右の視界を赤く染め上げている

 

 

「盛大にやられたなぁ」

 

 

他人事のように自己判断を終えた亮輔が次に行ったのはズルズルと右腕と右足だけで這いずりゴーレムの元へ向かうことだった。

 

今の状態では一人で立ち上がるのも辛い、取り敢えず何かを支えにして立つことしたのだ。

 

その支えにゴーレムを選んだのは単純に一番近かったからだ

 

 

「よぉ、昨日ぶり。立つ前に少し休ましてくれや」

 

 

息も切れ切れにゴーレムへと辿り着いた亮輔は返答が返ってくる筈もないゴーレムへと軽口を叩き、ゴーレムの上半身へと背中を預けて座る

 

 

「……あー…タバコ吸いてぇ…」

 

 

都合良くそこら辺に落ちていないものかと辺り見れば格納庫の出口に人影が見えた、先程の女性──アラクネ、黒と黄のツートンカラーに背中に八本の装甲脚を持つ装甲を纏うオータムだ

 

 

「見つけたぜクソ野郎! 死んでなくて良かったぜ、なんせお前はアタシが殺すんだからな! このアタシに傷を付けてくれやがった礼はキチンと払ってもらわないとな!!」

 

 

「ちっ…たかが腕に穴が…空いただけだろ……ガタガタ騒ぐなよ」

 

 

こっちは重傷なんだぜと愚痴りながら亮輔はゴーレムに右手をついて右足だけで立ち上がる。

 

魔力もあと僅か、隠し持っていた食器用ナイフも全部落とした。

 

打つ手は少ない、だがそれでも負ける気はないと視線だけでオータムを睨み付ける

 

 

「腹立つ目しやがって…いいぜ、直ぐにその目を絶望に変えてやらぁ!!」

 

 

背にある八本の装甲脚で亮輔をズタズタに切り刻むべく瞬間加速《イグニッションブースト》で砲弾のように迫る。

 

こうなれば辛うじて動かせる左腕一本を犠牲に右拳を叩き込む叩き込むと覚悟を決めた亮輔は右手に残った魔力を集めた瞬間『集めた魔力が吸われたのだ』

 

 

「魔力が…まさか!?」

 

 

「ズタズタの肉片になっちまいなぁ!!」

 

 

魔力を吸い取った物が何か気付いた亮輔が振り向くのとアラクネの八本の足が振り下ろされるのは同時だった。

 

ガギィン!!と音がした、しかしそれは人が切られて出る音では無い

音を出した正体にオータムは顔に驚愕を張り付けていた。

 

亮輔の背後にあった残骸、ただの鉄屑だと思っていたそれが八本の装甲脚から彼を左腕で庇うように守っていた

 

 

「な、なんだってんだいったい…IS…だと? ふざけてんじゃねぇぞ!?」

 

 

即座に後ろへと距離を取るオータム、その視界にアラクネが導き出した答えに信じられないと声を荒げ、八本の装甲脚の先端を亮輔へと向け、装備された砲門から銃弾を吐き出す。

 

しかしそれが亮輔の身体を傷付けることは無い。

 

シールドとゴーレムの左腕が一発足りとも通さないからだ

 

 

「…お前は…」

 

 

背後で響く銃弾の嵐すら聴こえないのか、呆然と亮輔はゴーレムの赤い単眼を見つめていた

 

 

──まけちゃうの?

 

 

声が聴こえた。目の前の鉄の巨人とも言うべき風体のゴーレムからは似つかわしくない幼い少女の声が

 

 

──しんじゃうの?

 

 

姿が見えた。長い長い足元にまで届くような黒い髪。白く透き通るような肌に髪色と同じ黒のワンピースを着た少女の姿が

 

 

──あきらめるの?

 

 

その言葉を聞いた瞬間、亮輔は表情を変えた。ニヤリと笑みを見せる。それは余りにも好戦的な笑みだ、獰猛な肉食中のような笑みだ

 

 

 

「諦める? なにを言ってやがる? 俺はなぁ、諦めるって言葉が大っ嫌いなんだよ!!」

 

 

バンッ!と右手をゴーレムの胸に叩き付ける

 

 

「だからお前にも力を貸してもらうぞ!! 拒否権はねぇから覚悟しやがれ!!」

 

 

──俺はお前と契約する!!

 

 

──はい、我が主《マスター》

 

 

黒髪の少女が溢れんばかりの笑顔で頷いた。

 

その瞬間、溢れん程の青く輝く魔力が亮輔を中心として拡がった。

 

青い輝きは暴風を伴い広がりオータムを吹き飛ばし、格納庫を呑み込むと膨大な力の奔流となり爆発して空に巨大な光の柱を作り上げた

 

 

「…な、なにあれ…?」

 

 

──それは世界中の人間が見ていた

 

──正門で襲撃者を迎撃していた楯無も

 

──警備室のモニターから見ていた千冬と真耶も

 

──日本、イギリス、中国、フランス、ドイツ、それぞれに今は居る未来を歩んでいく少女達も

 

 

「…すげぇ……」

 

 

──その少女達と共に未来を進む少年も

 

 

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