ご馳走は兎ですか? Is The Dish a Rabbit? 作:蓮兎
最後の客が帰り、店員達がチノの煎れてくれたコーヒーを飲みながらくつろいでいると、ポケットに入れてあったココアの携帯電話がなった。
「もしもし、お母さん?どうしたの?」
「もう夏休みでしょ。帰ってくるのいつになるか聞きたくてね」
「えっ?帰らなきゃなの?」
「あら、今年は帰らないつもりだったの?」
いつ帰省するのか尋ねる母親に驚きの声を上げたココア。毎日が楽しすぎて帰省する計画が全く頭になかったようだ。
「えーと。半ばに長期休暇を貰ってるから、そこなら帰れるけど。あっ!店長がお母さんたちによろしくってそういうことだったんだ~」
「あらあら、まったくうちの子は」
「あはは。じゃあ8月の始めらへんに帰るね」
どうやら帰省する事を考えていなかったのはココア本人のみだったらしい。あきれた様子の母親に苦い笑いを返すとココアは帰る予定を告げる。
そんなココアは母親から驚きの情報を告げられる。
「それならよかったわ。新しく雇ったバイトを紹介出来るわね」
「えっ?新しく雇ったの!?お母さんの眼に適った人がうちに来たの?」
「ええ。礼儀正しくて、落ち着いた子よ。ココアとは大違い」
「むぅ。女の子?可愛い?」
「残念。男の子。ココアとは同い年よ。パティシエ希望で優秀な子よ」
「え~男の子じゃもふれない!」
不満気なココアに同意する母親も残念そうだ。
「そうなのよね~そこが惜しいのよ。でも彼が作るお菓子は美味しいわよ。きっとココアがすぐに夢中になってしまうぐらい。」
「むむみ。お菓子」
「彼は夏休みまではうちで働いてるから。楽しみにしておきなさい。チノちゃんたちにもよろしくね」
「うん。じゃあね、お母さん」
喫茶店が閉店後すぐにお母さんと会話していたココアを横目に、リゼとチノが話し合いをする。
「ココアはいつも明るいな」
「そうですね。明るすぎると思いますが」
「ははは。そうだとしても見ていて笑顔になれるから良いよ」
「あのすぐに抱きつく癖が無くなれば普通にいい人なのですがね。そう言えばリゼさんは今年の夏はどうするのですか?」
お盆を両手で抱えた状態のチノが小首を傾げて尋ねると、カウンターに寄り掛かるようにしてコーヒーを飲んでいたリゼはリゼらしい答えを返す。
「ん?はとこに誘われたサバゲーの大会に一緒にでるが?」
「リゼさんはどこまで行ってもリゼさんです」
「そう言うチノはどうなんだ?」
「私はマヤとメグと夏課題を終わらせる予定です。その後はプールなどに行って遊びます」
こちらもいつも通りと言っていいだろう。マヤがいろいろと遊びに行こうと言いだし、チノとメグで計画を立てたのだ。
「そうか。楽しそうだな。プールのときは誘ってな。」
「はい。ココアさんも誘って、みんなで行きましょう。」
「そうだな。楽しくなりそうだ」
お互いの夏休みの予定を聞き会った後、チノはふと疑問に思った事をリゼに尋ねてみた。
「そう言えばリゼさん。リゼさんのはとこってどんな方ですか?リゼさんはあまり身内について教えてくれませんから」
「そうか?まあ変人だよ。誰よりもお菓子作りに熱を上げている変人」
「変人さんですか。お菓子作りならパティシエさんですか?美味しいお菓子は羨ましいです」
「そうだな。あいつは私より1つ年下だけど、いろんなところで修行していると聞いている。今はお菓子について粗方教わったから、新しい発想を取り入れるとか言ってパン屋で働いてるといっていたな」
「ココアさんと同い年ですか。リゼさんのはとこがどんな方なのか見てみたいですね」
「そ、そうか。夏休みの終盤なら空きがあるって言っていたから呼んでみるとするよ」
「本当ですか。お菓子、楽しみです」
すると、電話が終わったのか、ココアが突入して来た。
「チ~ノちゃん、リ~ゼちゃん何の話し?」
「リゼさんのはとこのお菓子のお話です」
「?リゼちゃんのはとこはお菓子いお話?」
「いや違うぞココア。普通に夏休み何するかを話してただけだ」
「あっ。そうなんだ~。私は8月の始めにうちに帰ることになったよ。お菓子食べるんだ~」
「ん?ココアさんの家はパン屋さんでは?」
「アルバイトの人に作って貰うんだって~」
「そうでしたか。楽しんできてください」
「うん!チノちゃんも!」
ココアがチノに抱きつく。
「1人で勝手に行ってきてください」
チノはココアから視線をずらして言う。
「リ~ゼちゃ~ん。チノちゃんが冷たい!」
いつもの光景にリゼはそっとため息を吐いて、いつも通りの日常を過ごす。
「ココアちゃん!」
ラビットハウスに突然のお客。
「千夜ちゃん?どうしたの?そんなに急いで」
「ココアちゃん、これを見てください!」
千夜が取り出したのは最近老若男女に人気の料理雑誌、キラキラタイム。
そこには数ページに渡ってベーカリー保登について書かれていた。それも最初の方のページにだ。
「ここ、ココアちゃんのところですよね!」
「そ、そうだけど。どういうこと?」
「ココアさん。凄いです。今大人気のキラキラタイムにこんなに載るなんて。ココアさんの作るパンは想像以上に凄かったようです」
「そうだな。ココアも店の手伝いをしてたみたいだがし、ココアのパンはここのパンと同じぐらい美味しいだろうしな」
「えへへ。って違うよ!確かに私も教え込まれたけどまだまだお母さんにもお姉ちゃんにもお兄ちゃんたちにも勝てないからそこまでじゃないよ。でもなんで急に人気になったんだろう?」
「なんでもSNSで話題になって食べに来たら美味しくて、お客が増えたみたいです」
「でも、SNSなんてやっている人いないよ。たぶん」
「お客さんか誰かが話題に上げたのでしょう」
「そうだね」
「でもいいな~ココアちゃん。うちの甘兎庵も話題にして欲しいな~」
「ラビットハウスもです」
「そう言っても私知らないもん」
「そうだな。ここで言っていても意味がない。来てくれるお客さんを大切にしていこう」
「うん。リゼちゃんの言う通り、お客さんを大切にね」
ベーカリー保登の話しは終わり、また違う話しに変わっていった。