異聞 艦隊これくしょん~艦これ~ 横鎮近衛艦隊奮戦録   作:フリードリヒ提督

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どうも、天の声です。

青葉「青葉ですぅ!」

昨日(15年9月25日(金))のアップデート、非常にリアクションに困るアプデでした。なんで村田隊2つ・・・うごごご・・・

青葉「流石に意外でしたね。」

うん。艦攻と艦爆の比率を考えて彗星(高橋隊)(翔鶴艦爆隊長高橋赫一の直接指揮部隊)が来ると思ったんだが、まさか加賀さんに回す気じゃないでしょうな? いつの話になるやら。(´・ω・`)

青葉「た、確かにそうですね・・・。」

コンバート改造をやる条件もLv88ときた。まだ75だよ。

翔鶴「すみません、私が至らないばかりに・・・。」

いえいえ、翔鶴さんの責任ではありませんから気にしないで下さい。

青葉「アイエエエ!? ショウカク=サン!? ショウカク=サンナンデッ!?」

という訳で作者の中の人の鎮守府から翔鶴さんをお連れしちゃいました。今日のゲストです。

翔鶴「翔鶴型航空母艦、翔鶴です。」

青葉「んな無茶苦茶な・・・。」

だってしょうがないでしょう、まだあっちには着任どころか影さえないもの。メタく言えば13春イベ終わってるのになんでおらんのん? と言われても止む無し、作者は参加してませんし。

青葉「まぁそうですけども。」

翔鶴「でも、高橋さんの部隊が実装されてないのも、少し意外でしたね。」

そう、それですよ。もしかすると次のイベント報酬かな?と期待しておきましょうか。

翔鶴「はい。それまでは錬成と改造ですね。」

でしょうな。さて、今回はゲーム内容から抜粋しようと思ったんですが意外に解説する事が無くなって来てます。(探してはいます。)

そんな中でも今回は家具について、ご説明しましょう。

まぁこれは単純な話です。ポイントカードと一緒で、頑張るとだんだん増えていって貯めると交換できると言う様な品物です。

翔鶴「確かに単純ですよね。」

余りややこしくすると提督達がコイン集めする意欲なくすししょうがない。

青葉「まぁそこでしょうね。」

・・・流石に短いんで、少し長めの解説を。ダメージと轟沈についてです。

青葉「なんだか重い話題ですねぇ。」

まぁね。作者の中の人も着任2週間で21隻を沈め、その21隻目がバグで、沈んだのがあの雪風であった為に心がポッキリと音を立てて折れたそうです。

青葉「当時から金剛スキーじゃなかったんですね。」

今と違って当時はかなりのレア艦だった雪風をそれはもう大切に扱ってたみたいです、はい。

青葉「さようで。」

話題を戻しまして、深海棲艦との交戦で負ったダメージは基本的に自然に完全治癒する事はありません。そりゃ大事ない程度までは何とかなりますが、これは深海棲艦も同様です。

また彼女達を構成する概念それ自体は『艦の魂の転生体』であるものの、体の構造自体は『人間と瓜二つ』なので、いくら頑丈だとは言っても深海棲艦との戦闘で体の一部を失う事はあります。戦場に送られた兵士たる者の必然ではありますが、艦娘とて同じなのです。例え傷付いても五体満足でいられるなんて甘い幻想はない訳です。

少し残酷な表現になりますが、例えば腕が千切れかけているという事であれば不思議な事に再生できますが、切断されてしまっている場合は直せません。一から艤装として義手や義足を作る事は出来るみたいですが、その発想に至る前に退役か否かです。

青葉「戦場の現実たるやそんなものですよね。」

そうです。それに精神的な苦痛を受ける事だってままあると思います。それまで同僚として、友人として、親友として戦ってきた仲間が目の前で沈んだとあれば、その苦痛たるや想像を絶するでしょう。現実はゲームほど甘くはない、という事ですかね。

翔鶴「そうですね・・・私達もあの戦いで頑張り抜きましたが、最後まで相手に並び立つことはありませんでした。」

翔鶴さんと瑞鶴は訓練期間もそうですが、タイミングと相手が悪かったとしか言いようがないですよね、真珠湾とコロンボ沖では運が良かったという事ですかね。ただそこで運を使い果たしてしまった、と言うのが正しいのか・・・。

翔鶴「先立つ者と残る者、どちらが幸せなんでしょうね・・・。」

青葉「・・・。」

湿っぽい話題はやめっ! そんな湿っぽい話題は裏でやりましょ裏で!

翔鶴「は、はい。すみませんなんだか・・・」

いえいえ、いいですよ。それにしても一つ言えるのは、高速修復剤って凄い。

翔鶴「あれ中身なんなんでしょうか・・・?」

大淀さんに聞きに行ってもらったんですが、妖精さん曰く、『本人の精神的な意味でも知らない方がいい』だったそうです。

青葉「えぇ・・・ま、まぁいいです。」

だね。という事で、今回のゲストは作者鎮守府から、作者艦隊新一航戦旗艦翔鶴さんでした。

翔鶴「ありがとうございました。」

こんな感じで時折ゲストが来るかもしれません。お楽しみに。(前回は通りすがった紀伊元帥だったな・・・。)

前章はやりたかっただけのネタにお付き合い頂きありがとうございました、そしてすみませんでした。この章から本筋に戻します。という事で始めて行きましょう。

光ある所には必ず闇の側面が付き従う、そんな事を改めて再認識させられるお話です。

翔鶴「それでは、スタート! です。」


第1部4章~艦娘艦隊、光と影~

2052年6月11日、日曜日。

 

横鎮近衛艦隊はいつも通りの賑やかさである。

 

ところがこの日は何処か少しだけ違っていた。その端緒は提督執務室に始まる。

 

 

 

午前10時3分 中央棟2F・執務室

 

 

提督「~♪」サラサラッ

 

朝潮「えっと・・・」カリカリ

 

その日直人は、何時ぞや朝潮に言ったことを実現させてやっていた。そう、金剛達が司令部南方海域戦から戻って来た時、『手伝いなら後日でいい』と言ったその言葉である。

 

無論朝潮は喜んだが一人だけむくれた艦娘もいた。

 

金剛「ムゥ~~~~・・・」

 

それは執務室の応接テーブルの椅子に腰かけていた金剛である。

 

金剛(テイトクを取られたみたいで納得がいかない・・・。)

 

ま、こんなところである。

 

提督「よし、こっちは終了っと。」

 

だがしかし。

 

大淀「お預かりします。」

 

朝潮「お願いします。」

 

提督(敵わん・・・。)

 

事務処理能力が互いに向上し続けている為二進も三進もいかないのであった。

 

朝潮「お疲れ様です、司令官。」

 

提督「そっちこそ、ありがとうね。」

 

朝潮「いえ、お力になれて私も嬉しいです。」

 

提督「そっか、いずれ朝潮や皆の力になれたらいいな、何てのは俺の高望みかな。」

 

そんな事を呟く直人、これは彼の本心でもあった。

 

朝潮「いえ、そんな事はないと思います。」

 

提督「・・・そっか。」

 

朝潮「まぁ、そう言う事でしたら、皆さんの為に一つ、お力を貸して頂けませんか?」

 

提督「ふむ? 珍しいね。何かな?」

 

急にそんな事を切り出され、朝潮が言うという事に対する物珍しさも手伝って、気になった様子。

 

朝潮「叢雲さんの事なんですが、実はあまり駆逐艦の皆と口を利かないんです。」

 

提督「叢雲か、確か横鎮に行ったときこちらに配置された艦娘だったな。」

 

朝潮「このような事をしてお怒りになるかも知れませんが、気になって叢雲の経歴を調べてみたんですが・・・」

 

 

コンコンコン

 

 

朝潮「――っ、どうぞ!」

 

叢雲「失礼するわ。」

 

噂をすれば影が差す、正に然り。

 

提督「む? どうした。」

 

叢雲「ちょっと設備の不備を見つけてね。修理は誰に頼めばいいのかしら?」

 

提督「うーん・・・うちだと明石かな、暇な様子だったら局長もOKかな。分からんけど。」

 

叢雲「そう、ありがと。」

 

提督「・・・叢雲。」

 

叢雲「何かしら?」

 

目つきを険しくする叢雲に対し、直人は怯まず続ける。

 

提督「今丁度、お前が駆逐艦達と口を利かないと聞いてな。何かあったのかと心配してたところなんだ。」

 

叢雲「・・・提督と言うのは、誰でもそう言う詮索が好きなのかしら?」

 

提督「・・・提督全員がそうではあるまい、人は人それぞれの為人と言うものがある。俺は単純に心配しているんだ。」

 

叢雲「そう。別に何でもないわ。それじゃ。」

 

 

バタン

 

 

提督「あっ・・・。」

 

否応なく扉を閉めた叢雲に、直人は出掛かった言葉を飲み込んだ。

 

 

 

叢雲「・・・。」

 

“そうよ、なんでもない。これは私の事、昔の話だから。”

 

そう言い聞かせ、叢雲は執務室の扉を背に歩き出した。

 

 

 

提督「・・・。」

 

朝潮「・・・。」

 

提督「・・・何かあるね。」

 

そう確信付けるに彼女の態度は十分すぎた。

 

直人は更に、叢雲の衣服の乱れにも気づいていた。なんというか、適当に、取り敢えず着ていればいいという体で着ている様に見て取れたのだ。

 

朝潮「えぇ。彼女の目は常に、怒りと悲しみの色を代わる代わる湛えています。でも、さっきの彼女は、悲しみに満ちた目をしていた・・・。」

 

提督「あぁ。彼女の過去に絡む事なら、厄介だぞ。」

 

心の傷とはそう容易く癒える事はない。その事を彼は良く知っていた。彼の危惧もそれに端を発していたのである。

 

大淀「・・・提督なら―――」

 

提督「え?」

 

思わず声を発する直人に大淀がこう言った。

 

大淀「―――提督なら、何とか出来る筈だと思います。それが、提督としての、務めですから。」

 

提督「・・・はぁ、誠に無責任極まるが、なぜか踏み込む勇気が出た。何とかして見る事にしよう。」

 

その時直人の前に黒い影が舞い降りる。

 

提督「龍田か。」

 

龍田「そうねぇ。」

 

提督「ふむ。話は聞いていたな?」

 

龍田「勿論。」

 

どうやらずっと聞いていた様だ。

 

提督「いい機会だ、お前に辞令を申し渡す。」

 

龍田「・・・。」

 

龍田は黙って聞く。

 

提督「軽巡洋艦龍田を、只今より第8特務戦隊旗艦に任命する。編成は一任する。」

 

龍田「諜報を初めとする隠密任務を主任務とする部隊ね?」

 

提督「最初の任務は既に決まっている。」

 

龍田「叢雲とその近辺の事情調査ね?」

 

提督「ご明察だ。」

 

その慧眼に心底感服して言う直人。

 

龍田「後編成は決まってるわ。望月・満潮・球磨・青葉の4隻を頂けるかしら?」

 

提督「非正規艦隊だ、任務ある時にだけ貸し与えるだけだぞ。」

 

龍田「そうね。出撃と出撃の間にしか動けないわねぇ。」

 

提督「性質上の問題だ、そこは勘弁してくれ。」

 

龍田「そうね、わかってるわ。それじゃぁ、早速声を掛けてくるわね?」

 

龍田はそう言い残して執務室を発つ。

 

提督「健闘を祈る。」

 

『察しのいいことだ、話が早くて助かる。』と本気で思った直人である。

 

直人は、叢雲との今の関係を何とかする為の手掛かりを得る為動く事にしたのである。それは単に彼の益を考えただけではなく、それが土方海将から彼女らを託された意味だと考えていたからである。

 

 

 

2日間の調査の結果、意外と簡単にボロは出た。

 

叢雲はかつての司令部で心に傷を負い、それが癒える事無く転属してきたという事。駆逐艦の皆や、横鎮で関わりのあった者からの聴取により、どうやらその傷によって敢えて距離を取っているらしい事も分かった。

 

そして、彼女と五十鈴がかつての司令部でも同輩であったことが判明した。

 

 

 

6月13日19時21分 中央棟2F・提督執務室

 

 

提督「ふむ、意外に脆かったな。ありがとう龍田。」

 

龍田「いえいえ、私が得意なのは、どちらかと言うと諜報だから、気にしなくてもいいわよぉ?」

 

そう謙遜して見せる龍田、彼女なりの照れ隠しでもあったが、動員したのは青葉だけ、策こそ授けたが龍田は何もしていないのだから半ば当然だっただろう。

 

提督「どうやらそうらしいな、認めざるを得んだろう。ところで、編成に挙げた艦娘達は乗ったのか? 話に。」

 

直人は龍田の報告書をめくりながら訊いた。

 

龍田「じゃなければ、その情報はもう少し遅く入って来たでしょうねぇ。」

 

提督「・・・そうか。もう休んでいいぞ。」

 

龍田はその言葉を受け、提督の私室を後にした。

 

提督(乗ったのか、意外だったな・・・。しかし、妙だ―――)

 

妙、と言うのは、報告書によれば判明したのは叢雲と五十鈴についての事だけ、『何があったか』までは判明しなかったと言うのだ。

 

これについては如何せん短期間での調査であった為に、プロテクトの硬い範囲に手が届かなかったのが実際の所であった。或いは、龍田が敢えて手を伸ばせぬよう短期で報告書を纏めた可能性もあった。

 

提督「・・・“そこ”で、何があったか、か。だが、“何か”が、確かに“起こった”事は、間違いないな。」

 

報告書に記載された叢雲と五十鈴の旧所属艦隊名。

 

『横須賀第2912艦隊』。指揮官はレオネスクと言う偽名であった。

 

提督となる際、何と名乗るかは提督個人の自由とされており、故にこうしたペンネームが溢れている。これもそのひとつであった。

 

 

 

直人が調べるべきと踏んだのは、そのレオネスク艦隊で何が起きたのか。

 

そして未だ心を閉ざす叢雲は素直に答えまい、とするなら問うべきは一人。

 

しかし答えてくれるか否かは、これからの深慮遠謀にかかっていた。

 

 

 

6月14日(水)午前11時2分 司令部裏ドック

 

 

提督「~♪」

 

直人は、時を忘れようと釣りに興じていた。

 

提督「~♪」

 

穏やかな風が吹き、波が足元の岸壁に砕ける。空は快晴そのもの、このところだんだんと暑さが目立ってきていた。台風がそうこないのが幸いか。

 

※台風は普通マリアナ諸島の南で出来ます。それが来ると日本列島周辺直撃弾着コースです。

 

突然ぐぐぐっと勢いよく竿がしなる。

 

提督「おっ、なんかかかった! そぉぉぉれえええぇぇぇ!」グオオッ

 

 

ザバアアァァァァァーーーーン

 

 

いきゅう「・・・?」

 

提督「・・・え?」

 

?「!?」

 

その場の空気が凍りつく。ついでに背後から眺めていた何者かも驚く。

 

提督「え―――なに・・・この・・・なに・・・?」

 

いきゅう「・・・きゅ?」

 

なにこれ可愛い。

 

なんだか、イ級をぬいぐるみにしたらこんななんだろうなってのが釣れちゃった。多分深海棲艦だけど。

 

提督「・・・ふむ、逃がしてやろう。」

 

直人はかかった釣り針を外してやり、結局リリースしたのでした。

 

 

 

提督「ふぅ。妙に愛嬌のある深海棲艦だったな。ま、たまにはいいのかな。」

 

いや良くない、絶対

 

五十鈴「よくないでしょ貴方・・・。」

 

・・・セリフ取られた(シクシク

 

提督「おう五十鈴。さっきから何やってたのそこで。」

 

五十鈴「何の事かしら、たまたま見かけたから、来てみただけよ。」

 

提督「・・・そうか。そう言う事にしておこう。」

 

珍しく直人が背後の気配に感づいていたのは、先程五十鈴がいきゅう(?)を見て動揺したからであろう。

 

五十鈴「隣、いいかしら?」

 

提督「構わんさ。」

 

五十鈴は岸壁に座っている直人の隣に腰を下ろす。周囲には僅かだが、海鳥の鳴き声がしていた。

 

生き物とは環境の変化に聡いものであるらしく、この所サイパンにも海鳥が散見される様になってきていた。島の大地には再び緑が溢れようともしている。

 

提督「・・・皆とは、上手くやれてるのかい?」

 

五十鈴「まぁ、なんとかね。向こうにもいた子がいるし、付き合い方に困る様なことも、特にないわ。」

 

提督「だといいんだけど。実はこの間、ちょっと小耳に挟んだことがあってね。」

 

五十鈴「どんな?」

 

提督「お前と一緒に来た叢雲が、他の駆逐艦達と話したがらないと言う話を聞いてね。」

 

五十鈴「変ね―――私とはよく話をしてくれるんだけど・・・。」

 

提督「そうか・・・いや、俺もその話、と言うより報告を受けて心配してるところなんだ。何か、事情があるんじゃないか、とね。」

 

五十鈴「・・・艦娘達はそれぞれに悩みや不安を抱えてるわ。叢雲もそうなんじゃないかしら。」

 

ビンゴ、過去に何かあったことは間違いないな。

 

提督「そうさな・・・まぁ、あまり人見知りとかそう言う事をされても、周りが今度は遠ざけてしまうだろうね。よろしくない事だ。」クイッ

 

言いつつアジを釣り上げた直人。

 

五十鈴「それもそうね、今度一言言っておくわ・・・。」

 

提督「あぁ、頼む。」

 

五十鈴「・・・。」

 

提督「これも後でアジフライにして貰おうか・・・五十鈴、もうすぐ昼時だけど、アジが何匹か連れたんだ、あとでフライにして食べないか?」

 

と誘うと

 

五十鈴「ホント? じゃぁ頂くわ。」

 

と五十鈴が笑顔で言った。

 

提督「そうか、じゃぁ後で頼まなきゃな。」

 

言いながら針から魚を外しクーラーボックスの中に放り込む。

 

五十鈴「・・・提督。」

 

提督「んー?」ヒュン(これで最後かなっ

 

五十鈴「提督は、なんでこんな私を使ってくれるの?」

 

提督「ん? どういうことかな?」

 

五十鈴「提督は毎朝の訓練にも、戦闘にも私を連れていってくれる。どうして?」

 

提督「・・・それはさ五十鈴。」

 

直人は言葉を選び、そして続ける。

 

提督「お前が俺達艦隊の、“家族”であり、“仲間”だからで、“戦友”だからさ。」

 

五十鈴の顔をしっかりと見据え、微笑んでそう言う直人。その言葉に、嘘偽りなどなかった。

 

五十鈴「でも・・・私達は“兵器”なんでしょう?」

 

提督「いや、お前は兵器なんかじゃぁない。“俺と”同じ人間さ。」

 

五十鈴「え・・・?」

 

五十鈴は直人が、自分のみを指してそう言った事に疑問を覚えた。

 

提督「大体さ、」ガシッ

 

五十鈴「わっ。」

 

直人はそれを誤魔化すかのように、少し乱暴に五十鈴の頭をわしゃわしゃしてやる。

 

提督「こんな傍から見たら幼馴染にしか見えないような兵器が世界のどこにある?」^^

 

五十鈴「やっ、ちょっ、やめてよぅ!」><

 

そう言われてようやく手を放してやる直人。丁度竿先が揺れていた。

 

五十鈴「まぁ、そう言われると答えはノーね。」

 

提督「あぁ。お前は人間で、普通の人よりちょっと強くてカッコいい、正義の味方の女の子さ。それを世の中の大人は一丁前に怖がって、それでそんな事を言うんだ。艦娘は兵器だ! ってね。俺はそうは思わないよ。」

 

おもしろおかしく語るような調子で直人は世の大人を両断する。

 

五十鈴「ふふっ。そんな口ぶりだと大体分かりきっちゃってるけど、理由も聞いておこうかしら?」

 

提督「五十鈴みたいな可愛い子が、兵器だとは思えないからさ。」ニッ

 

五十鈴「ちょっ・・・! は、恥ずかしい事言わないでよ!?」

 

提督「ハッハッハッ、まぁそういうことさね。」

 

さらりと口説いてる様にも聞こえるが、そのつもりはない。

 

提督「さて、いこうか。」(なんで昆布・・・

 

最後に掛かったのは何故か昆布であった。

 

五十鈴「えぇ、行きましょ!」

 

直人は五十鈴と共に、クーラーボックスを持って食堂に向かった。

 

その五十鈴の目は、どこかなにかを吹っ切った感じがあった。

 

 

 

~食堂~

 

 

トテトテ・・・

 

 

提督「鳳翔さん!」

 

鳳翔「あら提督! 五十鈴さんも。」

 

五十鈴「こんにちわ!」

 

鳳翔「また釣りをしていらしたんですか?」

 

提督「あぁ、うん。そこのドックの前不思議な事にアジしか釣れないんだ。」

 

鳳翔「あら、釣り具がアジを釣るのに特化されてるとは仰らないんですね。」

 

バッサリと切って捨てる鳳翔さんである。

 

提督「なぜばれたし。」

 

鳳翔「ふふふっ。アジフライですね?」

 

提督「うん、五十鈴の分も頼めます?」

 

鳳翔「承ります。でも、ちゃんと残さず食べて下さいよ? 残したら拳骨です。」

 

二人「ハイ・・・。」

 

鳳翔さんには頭の上がらない二人でした。

 

 

 

鳳翔「たまには内火艇を使ってマグロの一本釣りでもやって来てくれませんか?」ニコッ

 

提督「無茶言わんで下さい・・・。」(((;゚д゚)))ブルブル

 

放蕩息子に無茶振りする母親の構図がそこにはあった。

 

 

 

6月14日午後3時19分 司令部北・演習場

 

 

ここに移転して此の方、幾つか増えた物もある。

 

その一つが司令部の北側に造営された演習場で、ランニング用野外グラウンドと体育館のほか、射撃訓練場も完備している。本土からわざわざ作業員を呼びつけて作らせたものだ。

 

但しここだと陸地の上の為実弾が使えないと言う欠点があるが、それを除けば最良の訓練場所である。但し直人の銃火器用射撃場まで完備しちゃったが。

 

 

~演習場・屋内射撃棟~

 

提督「・・・。」カチャッ

 

射撃位置についている直人、構えるのは14インチバレルDE。

 

機械起倒式のターゲットは全て倒された状態である。

 

 

ブーッ、ブーッ、ビィィーーーッ

 

ガシャガシャガシャガシャ・・・

 

ダァンダァンダァンダァン・・・

 

 

ブザーを合図に次々と人型の的が起き上がる、その急所を的確に捉え撃つ直人。と言ってもど真ん中には当たらない事の方が多い。

 

 

ビィィーーーッ

 

 

提督「ふぅ。」ガチャガチャッ

 

ワンセットを終え、マガシンを抜きながら背後のテーブルに戻る直人。

 

二つのロングテーブルを合わせた大きなスペースの上には、直人の持つ火器が所狭しと並んでいた。

 

デザートイーグルはさにあらず、他にも沢山の銃を持っている。

主なものを列挙すると次のようになる。

 

 

・DE 14インチバレル .357マグナム仕様×2

・シグ・ザウエル P229

・OSV-96(B32装甲貫通弾)

・M82A2 バレット・カスタム

・PGM ヘカートⅡ・マイナーカスタム

・M200 kiiCustom

・H&K HK53-2 ×2

・H&K HK416(グレネードランチャー付き)

・ベレッタM92F×2

・IWI UZI・ロングバレル(サブレッサー装備)×2

・M39 EMR“kii Custom”

・H&K G3A3・マイナーカスタム

 

 

弾薬費だけで馬鹿にならないが、これだけの銃を持つ理由は、様々な状況に即応する為である。室内突入一つ取っても、敵が多い場合と少ない場合とで銃を使い分けるのである。広いか狭いかでも使い分けるし、まぁ様々という事だろうか。

 

因みにアヴェンジャー改は砲台と言う扱い上、また巨大艤装と30cm速射砲は艤装と言う扱い上除外してあります。またこれ以外にもまだまだあるが直人はこれだけしか使う気はないらしい。

 

 

 

提督「何を撃つかな・・・。」

 

直人が自分の気分にお伺いを立てていると・・・

 

 

ドォンドドォォォーーーンドドドォォォォーーーー・・・ン

 

 

提督「ん? 爆発音? ここじゃ実弾は使えんはずだけど・・・。」

 

直人はその音が気になり、射撃場のドアを開けて屋外演習場を見てみた。

 

 

時雨「はっ!」ボボボボォォォォォーー・・・

 

 

ドガアアアァァァァァァーーーーー・・・ン

 

 

提督「時雨か。」

 

時雨の背後に魚雷型のミサイルが次々現れては標的に向けて飛翔する。

 

それは霊力にあらず、魔力で世界へと干渉し、世界から秘匿し放つ一撃。

 

時雨「はぁ・・・はぁー・・・。」

 

提督「魔術の鍛錬かい?」

 

時雨「提督! 提督こそ何を? ここは艦娘の訓練場じゃぁ?」

 

提督「ほれ。」クイッ

 

直人は自分の背後にある射撃場を親指で指差す。

 

時雨「え・・・あぁ、射撃場があったんだね、どうりで銃声がしてたんだ。」

 

納得した様子である。

 

時雨「ところで、なんで魔術って分かったの?」

 

訝しむ時雨がそう聞く。

 

提督「知らんかもしれないが、俺も魔術師でな。魔力の気配は分かる。」

 

実は案外直人が魔術師である事は知られていなかったりする。

 

『魔術は秘匿しなければ神秘を失う』という決まり文句を、律儀とは言えないが守っている為である。魔術の素養のある時雨には薄々感づかれちゃいる様ではあるがそれ以外には実はバレていない。

 

直人が見せているのはあくまでも魔術によって生じた『結果』であって魔術工程を見せている訳ではない。ので、ただの手品と思われているのだ。

 

時雨「提督もだったんだ、どんな魔術?」

 

提督「あ、えっと・・・」

 

時雨「私の魔術はバレてるんでしょう? なら教えてくれないと。」エッヘン

 

・・・ハメられた・・・久々にハメられたぞ!!

 

提督「・・・まぁ俺が見れば、時雨の魔術が投影って分かるけども。それも六拍だろう?」

 

時雨「ただ僕の場合どうやらこういう魚雷型ミサイルが一番上手くいくかな。」

 

提督「左様で・・・。まぁ俺はこんなんだけどね。トレース・・・。」コオオッ

 

直人はその場で模倣錬金をしてみせる。模倣するのは時雨が投影したミサイルである。

 

大気中に放散された魔力を伝って構造を解析すると言うテクニックを使い、模倣錬金は完全な完成を見た。

 

時雨「投影、じゃないね・・・?」

 

提督「何だと思う?」

 

時雨「・・・これは実物と同じ、まさかっ、錬金術?」

 

提督「正解だね。最も俺の場合は白金が一番上手く造れるし、その造形も巧く造れる。例えばこれだな。コール!」ヒュッ

 

さらに直人は魔法陣を展開して格納している剣を1本空中に射出する。

 

提督「よっ・・・と。プラチナソード、錬金して作ったものさ。」

 

時雨「凄い・・・霊力を纏ってるんだ。」

 

提督「うん、だから深海相手にも使える。時雨のそれは霊力と魔力の集合体だろう? あとナマクラじゃないぞ。」

 

時雨「分かってるよ。そうだね、これは魔力と霊力を使って編み上げた模造品さ。と言ってもオリジナルなんてない、強いて言えばこれがオリジナルって訳さ。」

 

提督「ふむ・・・ちょっと魔術回路を診せてくれるかい?」

 

時雨「え? うん、いいよ。」

 

提督「では失礼するよ、少し痛むかもしれんが、我慢してくれ。」

 

そう言いつつ直人は時雨の背中に回り込み手を当てる。

 

提督「・・・いくよ。」(暖かい。やはり艦娘も同じ人間なんだな。)

 

直人は改めてそう思った。

 

時雨「うん。」

 

直人は時雨の魔術回路に魔力を通していく。

 

時雨「・・・っ!」

 

提督「・・・!!」

 

な、なんだこれは!? 魔術回路、145だと!? しかも霊力回路とバイパスが繋がっている・・・艦娘ならでは、か。

 

直人は心から驚嘆した。彼女の魔術の素養は、艦娘と言う分を超えていたのだから。

 

提督「・・・成程ね。霊力を魔力へと変換し、それを魔術回路に通して魔術を行使する訳か。属性附与の為の回路まであるとは驚いたな。素養はその辺の魔術師より遥かに高い。凄いね。」

 

時雨「ありがと。提督はどんなもんなの?」

 

提督「まぁメイン60本、サブ12本にまぁあとはぼちぼちってとこか。」

 

時雨「じゃぁ僕の勝ちだね。」

 

提督「霊力回路なら140本あります、全魔力変換も出来るのでその辺は侮らないで頂きましょう。」

 

時雨「うむ~・・・。」

 

流石に唸らざるを得ない時雨であった。

 

提督「んじゃ俺は戻るわ。ごゆるり~。」

 

時雨「あ、うん。またね。」

 

提督「またな~。」

 

右手を挙げて屋内射撃場に戻る直人だった。

 

時雨「・・・・・・何者?」

 

紀伊直人元帥閣下であらせられます。(違うそうじゃない)

 

 

 

その後一通りの火器を撃って感触を確認した後、直人は車輪付きウェポンラックにせっせと銃を入れてささっと射撃場を後にした。

 

そんな事ばかりしてる場合でもないからである。

 

 

 

午後4時2分 中央棟1F・無線室

 

 

提督「えー、全館に連絡、只今より集合訓練を開始する。全艦完全装備の上ロータリーに集結、始めっ!!」

 

 

~金剛の部屋~

 

金剛「いやちょっ!?」

 

榛名「そんなっ!?」

 

比叡「トランプ中なのに!?」

 

霧島「急ぎましょう!」

 

金剛「ラジャー!」

 

比叡「ひええぇぇぇぇぇぇぇっ、まずい、まずいですううぅぅぅぅーーー!!」ドタバタ

 

 

~島風の部屋~

 

島風「集合訓練かぁ、行くよ連装砲ちゃん!」

 

連装砲ちゃん「きゅっ!」バッ

 

島風「私の魚雷! ナイスタイミング! じゃぁいっくよー! 私がいっちばぁぁぁーーーん!!」バビュン

 

 

~望月の部屋~

 

長月「早く行くぞ望月!」

 

望月「うへぇ~~い・・・」

 

 

~球磨の部屋~

 

球磨「早く来るクマ!」

 

多摩「嫌にゃぁ~・・・」ウジウジ

 

球磨「シーツに包まってる場合じゃ無いクマ! 早くするクマ!」

 

多摩「嫌にゃぁ~~動きたくないにゃぁ~~~。」バタバタ

 

だめだこりゃ。

 

 

 

午後4時6分 司令部前ロータリー

 

 

島風「いっちばぁーーん! って、あれ?」

 

鳳翔「ふふふっ。」

 

島風「えぇぇぇぇぇぇ~~~~!?」

 

提督「鳳翔に負けちゃったかぁ、島風もまだまだ磨きが足りないようだな。」

 

一番はまさかの鳳翔さんであった。

 

金剛「フィニーッシュ! って、鳳翔サン!?」

 

榛名「は、早い・・・。」

 

提督「お前ら鳳翔さんに負けるのは流石にないぞー。島風までってのが意外だったけど。」

 

無茶振り乙。

 

金剛「いきなり過ぎますヨー!!」

 

提督「じゃなきゃ訓練になるか?ww」

 

金剛「うぐっ・・・。」

 

但し正論だったりもした。

 

 

 

この訓練した結果分かったのは、相当弛んでいるという事だった。

 

流石に放任し過ぎたかと唖然としつつ、直人は思考を張り巡らすのだった。

 

 

 

6月も半ばを過ぎた6月17日。珍しく曇り空の鎮守府では、いつも通りの猛訓練が実施されていた。

 

 

ドーンドー・・・ン

 

 

神通「陣形を崩さず、落ち着いて狙い撃ちなさい!」

 

白雪「はっ、はいっ!!」ドオォォォーーーン

 

扶桑「主砲、斉射!」ドゴオオオォォォォォーーーーン

 

山城「続きます!」ドドオオオオオォォォォーーーーン

 

 

 

ザバァーーーンザザザバァァァ---・・・ン

 

金剛「フフーン。即席部隊とは一味違うとこ、見せてあげるネ!」

 

羽黒「はいっ!」

 

摩耶「おうよっ!」

 

蒼龍「そうね。」

 

木曽「ま、任せとけ。」

 

金剛「ファイヤーーーー!!!」

 

 

ドドドドドドドドォォォォォォーーーーーーーーー・・・ン

 

 

この日はどうやら第1水上打撃群と神通の即製訓練部隊との実戦演習だったようです。

 

艦娘がまだまだ少ない横鎮近衛艦隊に於いて、常設部隊と言うのは希少価値が高い。故に練度は桁が違う。

 

現在常設されているのは、金剛を旗艦とする海空戦部隊である第1水上打撃群と、『夜討ち朝駆け上等』の川内を旗艦とし、拘禁解除までの暫定旗艦として夕立を擁する夜戦部隊、第1水雷戦隊の二つである。

 

機動部隊と通常の艦隊はまだ新設されてはいない。後者に関しては扶桑が旗艦に内定してはいるものの、艦艇不足と言う有様だった。

 

ここで常設となった第1水上打撃群の編成を紹介しておくべきであろう。

 

 

第1水上打撃群 旗艦:金剛

 

・砲撃部隊:金剛・榛名・羽黒・筑摩

・空襲部隊:蒼龍・飛龍(喪失)・飛鷹・祥鳳

・護衛部隊:摩耶・加古・天龍・龍田

・雷撃部隊:木曽・大井

合計:14隻

 

 

これを見れば分かる通り、1個艦隊による敵陣粉砕を意図したものである。ただ飛龍が戦列復帰していない為、戦力不足感は否めない。(それを埋めるため臨編体制になっている)

 

更に駆逐艦がいない分は水雷戦隊を護衛として補い、第1水雷戦隊とこの艦隊とで第1艦隊を編成する。

 

言わば鎮守府の主力である第1水上打撃群、その練度はお墨付きである。

 

 

 

~1時間後~

 

神通「くっ・・・!」

 

伊勢「やっぱり・・・強いね・・・。」

 

白雪「流石司令官に常設のお墨付きをもらっただけ、ありますね・・・。」

 

陽炎「あれ何気にヤバイでしょ。」

 

黒潮「離れたら熟練の航空機、近づけば正確な砲撃、言うて近寄ったら今度は刀と槍っちゅうのはなぁ・・・。」

 

不知火「正直、勝てる気がしませんね。」

 

陽炎「編成に確か飛龍さん入ってるんでしょ? 艤装全損で抜けててまだこの実力・・・加わったらどうなるの・・・?」

 

サンベルナルディノの惨劇に匹敵する損害が出ます。

 

補足すればサンベルナルディノは敵にとっても惨劇であった。その敵の被った打撃に匹敵するレベルの攻撃を叩き付けられるのが第1水上打撃群である。

 

雷「・・・確実に轟沈艦でるわよ冗談抜きに。」

 

陽炎「だよねぇー・・・。」

 

黒潮「なんでおるん・・・。」

 

しれっときた雷。

 

雷「いやいや、後方待機命じられてたのよ。司令官の指示でね。」

 

不知火「そういえば、この演習もそうでしたね・・・。」

 

ワール「そーゆーこと。金剛達凄まじい練度なのよね、だから医療班が待機してる訳。さ、具合悪い人言ってね。」

 

まぁ、数名搬送されました。

 

 

 

叢雲「この鎮守府何なのよ・・・前の鎮守府とはまた別の意味でおかしいわよ・・・。」

 

五十鈴「お疲れ様、叢雲。」

 

何気にその即席部隊に参加していた五十鈴と叢雲。

 

叢雲「五十鈴・・・。」

 

五十鈴「強いわねぇ、やっぱり。紀伊提督の教え子だって言うじゃない。凄いわよねぇ。」

 

叢雲「・・・そうね。」

 

五十鈴「私も、あんな風に強くなれるかな?」

 

叢雲「あれは水準がおかしいわよ。神通さんの訓練だけなら、この短期にあそこまで強くなってないわ。あの司令官の猛訓練とやらが、余程きつかったのね。」

 

叢雲の見る目は確かだった、第一水上打撃群の艦娘の大半は、直人との特別訓練を潜り抜けた猛者達である。

 

白雪「叢雲、お疲れ様! 五十鈴さんも、お疲れ様でした!」

 

話をしながら戻る二人の後ろから追い抜きざまに声をかける白雪。

 

五十鈴「お疲れ様!」

 

叢雲「・・・。」プイッ

 

無言でそっぽを向く叢雲。同じ型の艦娘とさえも、未だ心を開けていない。彼女の過去が、そうさせていた。

 

白雪「・・・ふふっ。」

 

お姉さん肌の白雪は、それがよく分かった。だからこそ敢えて微笑み、そして去っていく。

 

五十鈴「・・・まだ、馴染めない?」

 

叢雲「別に・・・。」

 

五十鈴「提督から聞いたわ。あなた、誰とも話をしないそうね。」

 

叢雲「!!」

 

五十鈴「分かるわ。時々食堂の隅っこで、寂しそうに、でも誰も寄せ付けないような雰囲気で食事をしている、叢雲を見るもの。誰に言われずとも、分かってた。」

 

叢雲「・・・。」

 

五十鈴「叢雲の考えてること、私にもよく分かる。私だってあの提督の『被害者』なんだから。」

 

諭すように言う五十鈴。

 

ドックの先で直人に言われたことは、彼女の心に波紋を作った。

 

かつての提督に『兵器』として『道具』として扱われ続け、蔑ろにされてきた彼女に、新しい提督は『お前は人だ、兵器ではない』と言う。

 

艦娘は、確かに兵器ではある。しかし同時に、意思を持つ生き物でもあり、人である。

 

その思考の矛盾点は、彼女に疑問を投げかけた。『自分達は何なのか』と。

 

その考えに至った時、彼女は進みだした。そして、未だ進みだせないでいる同輩がいる。諭さずには、いられなかったのだろう。

 

叢雲「・・・じゃぁ、私はどうすれば!? 心を通わし合った仲間は、皆沈んでいった!これ以上、大切なものを失う悲しみを味わえと言うなら、いっそ・・・!」

 

五十鈴「そう言えばあなた、この間の出撃で命令無視をしたって話ね。」

 

叢雲「!?」ハッ

 

 

 

5月29日深夜1時41分 ラモトレックアトール沖

 

 

蒼龍「爆撃成功! 敵超兵器撃滅に成功しました。敵艦隊が泊地から出ます。進路は・・・東北東。」

 

夕立「突撃するっぽい?」

 

金剛「・・・ノーデス。それは恐らく撤退する筈デース。陽動が来ないか、今一度様子を見ます。」

 

叢雲「生温いわね・・・これじゃぁ私達が来た意味がない。」

 

金剛「私達は引き立て役デース。目的を達した後はすぐに引くべきデス。」

 

迅速に目的を達成し、終われば迅速に引く。無駄な長居をしないという判断からすれば、彼女は良将であった。

 

叢雲「でも取り逃がしたら後日に禍根を残すわ!」

 

榛名「電探感あり、敵別動です!」

 

金剛「デハ、もっともらしく慌てて後退しますカー。」

 

叢雲「そんなの認められないわ、私だけでも突撃する!」ザッ

 

金剛「ええっ―――!?」

 

神通「叢雲、戻りなさい!!」

 

叢雲「・・・フン!」ザザザザァッ

 

霧島「叢雲、増速して単独で敵陣に!」

 

金剛「あぁーもう! 援護しマース!」

 

叢雲の暴走により、戦果は多少挙がったものの、代償として叢雲が大損傷を負った、と言う一幕が確かにあったのである。これには援護が積極性を欠いたことも原因となっていた。元々一撃加えたら撤退する予定だった為もある。

 

 

 

叢雲「それが、なんだと言うの?」

 

五十鈴「もう今までとは違うって事よ。前の司令部では容認されてたけど、今は違うのよ。ちゃんと旗艦がいて、ちゃんとした作戦で動いてる。お互いに理解し合い、心を開き、協力し合ってる良い例ね。」

 

叢雲「私はもう提督に“飼われる”のは嫌よ。」

 

五十鈴「この鎮守府の皆は飼われていない、自分で営みを歩んでるわ。それに飼うなんて言うのは、もうよした方がいいわ。私達は動物じゃないんだから。」

 

叢雲「・・・どうしたの今日は。」

 

五十鈴「私も、変わるきっかけを掴んだのよ。提督のおかげでね。」

 

叢雲「・・・。」

 

そう言われて考え込む叢雲であった。

 

五十鈴「さ、早く行きましょ。疲れちゃったし。」

 

叢雲「・・・えぇ。」(・・・司令官、貴方は一体・・・。)

 

考え込む叢雲を連れ、五十鈴は司令部へと戻っていったのだった。

 

 

 

6月18日午後11時20分 司令部~造兵廠の林道

 

 

ザッザッザッザッ・・・

 

 

「うひー、暗いなぁ・・・。」

 真っ暗な林道を一人見回りの為歩く直人。別に幽霊の類を信じている訳ではない。この日は月こそ出ていたが、木の枝葉に遮られて辺りは少々薄暗かった。

「・・・!」

直人が、何者かの殺気を感じ、すぐそばの木の方に振り返る。

「へぇ? 殺気だけで位置まで推し量るなんて、流石って所かしら。」

 

提督「ん? 叢雲、何やってんだこんなところで。」

至極真っ当な質問であった。

「・・・司令官、貴方に聞きたい事があって来たのよ。」

 

「ならそれは明日にして今日はもう―――」

直人のその言葉を遮って叢雲は本題を突き付けた。

「五十鈴に何を吹き込んだの?」

それは昨日五十鈴と話した叢雲が考え続けた事だった。

「―――!」

 

叢雲「昨日話をしたら随分明るくなってたじゃない。どんな詐術かしら?」

 

提督「・・・詐術とは心外だな。話したというならその通りの事を俺は言ったんだが。偽りなど介在させる隙間もない。」

 

叢雲「どうかしら。提督と言うものは信用出来ないわ。」

 

提督「信用、か・・・それならお前達艦娘だって同じことなんじゃないか?」

 

叢雲「何ですって!?」

 

提督「お前と前の司令官との遍歴は既に調べさせてもらった。相互間の連携が取れていなかった事も、どの様に扱い扱われていたかもな。」

 

「―――部下の艦娘をあれこれ嗅ぎ回る、それもあんた達の仕事って訳!?」

見れば叢雲は艤装を完全装備していた。その槍の切っ先を直人の首筋に向け詰問する。

 

提督「見方によってはそうなる。提督は艦娘のメンタルケアも仕事の内だからな。曰く付きの艦娘なら、過去の遍歴や資料には必ず目を通す事も大事だ。」

 

叢雲「・・・なら、私達が何をされて来たのかも知っているという訳?」

 

提督「残念ながら、調べようとしたがそこまでは分からなかった。」

 

「え・・・?」

動揺に襲われ無意識に少し槍を下げる叢雲を見て、直人は言葉を続けた。

「短期間で出来る事には限度があってね、君の提督のしたことはA級機密に指定されてロックが堅い。だから調べられなかった。」

 

叢雲「・・・そうでしょうね、それがお偉方のすることよ。」

 

提督「そうだな、お偉方は保身が第一だからな。二流の権力者しか、今の上層部にはいない。」

 

叢雲「・・・二流?」

直人の発言にふと疑問を覚えた叢雲は問いを返す。

「二流の権力者はどうやってそれを守るかに力を注ぐ、一流の権力者はその力で何を為すかを考える。少なくとも俺は後者たらんとしてるんだけどね。」

 

叢雲「・・・貴方は、本当に前の司令官とは違うのね。」

 

提督「そうさ。叢雲の前の提督はどうやら艦娘弾圧派の提督だったようだ、少ない資料でもよく分かった。」

 

叢雲「弾圧派―――ですって?」

 

提督「さっき叢雲は、“提督は信用ならない”と言ったな。それは人間だって同じことなのさ。」

 

叢雲「・・・。」

 

提督「我々人間と艦娘は邂逅してから日が浅いだろう? 故に恐怖から高圧的に接し弾圧する提督も珍しくはないという事だ。完全に支配下に置くべきとする意見もある。そんな下衆みたいな奴らの意見を代弁すれば、『艦娘は信用ならない。ただの兵器じゃないか。』となるのさ。」

 

叢雲「・・・“あいつ”みたいに、下衆みたいな奴らね、本当に。じゃぁ貴方はどうなの? 司令官?」

 

提督「艦娘について、か?」

 

叢雲「そうよ。」

 

強面で問う叢雲に直人はこう言った。

 

提督「俺はむしろ、好意的な見解を持っている。着任の9日前、今この艦隊にいる金剛に危ない所を救われてね。それ以来、艦娘を友人と見る様になった。」

 

叢雲「友人、ねぇ。艦隊の皆の事を貴方は本当にそう思っているの?」

 

提督「金剛とは既に一線越えちまってるからなぁ・・・思ってないと言ったらそれこそ裏切りだな。」

彼としてはここで包み隠すと大変な事になりそうな場面だが、そのぶっちゃけトークに驚くのは勿論叢雲である。

「い、一線越えてるってアナタ・・・。」

 

「半分なし崩しなのがどうにもアレだけどね。」

肩を竦めながらそう言う直人である。

「俺は艦娘を兵器とは思えない。思う事はない。お前達は同じ人だ。他の人よりちょっと凄い人間なんだよ。他人と違うって言うのはむしろステータスじゃないか。それを押さえ付けようなんて、世の中の大人はナンセンスだと思うね。」

言ってる当人もその大人の一人であるが。

 

叢雲「ステータス、ねぇ―――見方に依ればそうかもしれないけど。」

 

提督「そうさ。だが正直言って俺は叢雲が気がかりでならない。」

 

叢雲「・・・どういう意味?」

 

提督「自覚はあるんじゃないか? 命令無視があった件なら既に聞き及んでいるぞ。」

 

叢雲「あれはっ!」

 

「金剛の意見は正しい。無闇に戦果を拡大せず、窮鼠と化した敵を追い詰め過ぎず、敵に合わせて引くのは戦理に適っている。だがお前はそれを無視し大損害を出させた張本人でもある。」

直人の言葉に、叢雲は言葉も無かった。事実であったからだ。叢雲が猪突しなければ、損害も幾分軽く済んだ筈なのだ。

「この艦隊はお前がいた艦隊とは違う。秘密艦隊だからこそ、艦隊の統率には気を使うんだ。」

 

「秘密艦隊―――。」

 叢雲は改めてその言葉を噛み締める様に呟いた。勿論、叢雲も彼女の今の立場は聞かされてはいる。だがその重みまでは理解出来ていなかったのだった。直人はその様子を見て言葉を重ねた。

「そう。お前も艦籍簿上は五十鈴と一緒に退役か精神病院送り扱いになってる筈だな。」

 

「―――と言う事は、提督も・・・?」

 

「さっき言った着任9日前に戦死した扱いだろうな。小さな哨戒艇の艇長として。」

 

「―――!」

 叢雲が再び言葉を失った。直人は自分が、世の人々から“死んだ”と思われている事を、誰にも語った事が無かったからだ。龍田や川内は勿論承知している事だが、固く胸の内にしまったまま、殆ど誰にも告げてはいない。

「俺は鬼籍に入る事を()()()()()()()、お前達を率いて戦っている。向こうにしてみれば、俺は正に地獄の悪鬼には違いないが、世の人間からすれば、既に死んだはずの幽霊に過ぎん。」

 

「―――私は、提督の事、何も知らずに・・・。」

 叢雲はその事実に衝撃を受けた様だった。叢雲も相応につらい経験をしてきたが、彼はその言の葉に乗った不本意さを飲み下して戦場に立っていたのだという事を、叢雲はこの時初めて知ったのだった。気づけば叢雲も、手にした槍を下ろしていた。

提督「―――いっその事、今ここで聞いてしまおうか。」

 

「・・・?」

その言葉で叢雲が訝しみ、直人は真顔になる。

「・・・お前がいた鎮守府で、一体何が起きていたんだ?」

 

「―――!!」

それは、叢雲が最も伏せておきたかった、しかし直人にとっては知る義務のある情報だった。

 

提督「こんな時間にここに来る者などいないだろうしな。」

 

叢雲「そんなこと言える訳・・・!」

 

提督「昨日の内に五十鈴にはある程度話を聞いてるんだ。叢雲、お前が何を気にしているのかも既に明白なんだよ。」

それでも尚、何が起きていたのかまで辿り着けなかったことは事実としても、彼には確信じみたものがあった。それを聞いて叢雲は諦めた様に口を開いた。

「・・・レディの秘密を他人から聞き出すなんて、サイテーな上卑怯ね。」

 

「目的の為に布石は惜しまないと言って欲しいね。」

悪びれず言う直人だった。

「はぁ―――もういいわ、私の負けね。いいわ、話してあげる。よーく聞くのよ?」

叢雲が語るのは、彼女の誇りと名誉と威信、その全てを蔑ろにされつつも、何一つ彼女に為す事無かった、一人の提督不適合者(直人曰く)の話だった。

 

 

彼女が前の鎮守府に着任したの4月23日のことである。

 

艦隊名と艦隊番号(2912艦隊)は別で、艦隊の名は第31遊撃艦隊と言った。

 

指揮官はレオネスク、階級は少将、初期選定した秘書艦は五月雨であった。

 

彼女はこの鎮守府に11人目として招かれた。

 

叢雲「あんたが司令官ね? ま、精々頑張りなさい?」

 

レオネスク「君が叢雲か、どうやら君は組織の上下がなっていないようだな。ここに来た以上その辺りはしっかり弁えておくことだ。」

 

叢雲の着任挨拶は、むしろ悪印象を与えてしまったらしく、この日から彼女にとっての地獄が始まった。

 

 

 

5月1日

 

 

バチン

 

 

叢雲「うぐっ!!」ドサァァッ

 

レオネスク「なんだその口の利き方は、上官に対して減らず口を叩くとは、何事か!!」

 

 

ドムッ

 

 

叢雲「カッ・・・ハァッ・・・!?」

 

容赦なく叢雲の脇腹に蹴りを入れるレオネスク。

 

この鎮守府は半ば、彼の暴力によって抑圧されていると言って良く、その扱いも残酷を極めた。

 

レオネスク「まだ分からぬというなら、お前のその体に焼け火鉢を当ててやってもいいんだぞ?」ギロッ

 

叢雲「・・・っ!」

 

レオネスク「分かればいい。」ツカツカツカ・・・

 

叢雲(こんなっ・・・こんなことって・・・!!)

 

五十鈴「大丈夫? 叢雲。」

 

そんな彼女に唯一優しく接してくれたのは、同じようにおざなりに扱われていた五十鈴であった。

 

彼女は所謂、五十鈴牧場に駆り出されていたが、その損傷の修理もまともにされる事が無く、沈めない程度に放置されている状態であった。着用している制服さえ滅多に予備を出してもらえず、その服はボロボロになっているのが常であった。

 

このような状態であったから、司令部は恒常的な無秩序状態で、かつ無気力が全体を重く支配していた。故に、自ら沈む事を選んだ艦も多く出ていた。

 

そんな中、持ち前のポジティブさで心を支えていた五十鈴は、この重圧に押し潰されきれていない、数少ない艦娘であり、叢雲の理解者でもあった。

 

叢雲「あ、ありがと・・・なんとか、大丈夫よ・・・。」

 

五十鈴「掴まって?」

 

叢雲「え、えぇ・・・。」

 

叢雲にとって、五十鈴は最後の希望であっただろう。

 

そして叢雲は、普段提督に蔑ろにされている恨みを、敵と戦う事で慰めてきた。

 

 

 

5月3日 南西諸島沖

 

 

叢雲「こちら旗艦叢雲、涼風大破、撤退許可求む。」

 

レオネスク「“撤退は許可しない、現海域に踏みとどまって戦闘を続行せよ。”」

 

 

プツッ

 

 

叢雲「そんなっ!!」

 

叢雲は天を仰いだ。この世は100年以上前から何一つ変わっていないのかと。

 

涼風「叢雲―――!」

 

叢雲「大丈夫、沈めさせたりなんかしない。あんな奴にこれ以上沈めさせるものですか。」

 

涼風「いや、いいんだ・・・戻ってもあんな目に遭うだけさ。気まぐれで殴られるんじゃぁな・・・それなら、いっそここで―――」

 

叢雲「そんな―――っ!!」

 

叢雲はこの日、結局この涼風を救う事は出来なかった。

 

敵重巡級の凶弾によって斃れたのである。

 

 

 

レオニダス「フン、役に立たん駒だな。次の駒は役立ってくれるんだろうな・・・。」

 

叢雲「・・・。」

 

この司令官は、沈めた艦の事を悼む事もしない。むしろ駒の様に扱い沈めば新しいものに変えればいいと思っている。

 

しかし反論する事は出来なかった。すればまた暴力の乱打が自分を襲う。

 

『恐怖による支配』、これがこの司令部の実情だった。

 

訓練もしなければ補給も殆ど無い、されても補給を甘んじて受ける者も少ない。

 

司令部の誰もが次々と廃人化して行き、任務担当官も既に逃げ失せ、彼女達に明日はない、と残った誰もが感じていた。

 

 

 

だが、唐突にその終わりは来た。

 

 

 

5月17日

 

 

土方「突入だ! 艦娘と非戦闘員は全員保護、提督は生かして捕えろ! 抵抗する者は射殺も辞さぬつもりで行け! 繰り返すが提督は殺すな、よいか!」

 

憲兵団「「はっ!!」」

 

 

ドカドカドカドカドカドカ・・・

 

 

5月17日、逃げおおせ、横鎮本部に逃げ込んだ任務担当官の証言に基づき、土方海将が直々に、横須賀鎮守府憲兵団の内の3個中隊336人を指揮し、第31遊撃艦隊司令部を検挙するため出動したのである。

 

叢雲「な、なにが・・・?」

 

土方「む? 君はここの艦娘かね?」

 

叢雲「貴方は?」

 

土方「私は横鎮司令長官、土方だ。君たちの保護と、ここの提督の逮捕に来た。もう安心していい。」

 

叢雲「・・・ありがとう―――!!」

 

 

 

同じころ五十鈴を初め、辛うじて意志を残していた数人の艦娘も保護された。

 

 

 

~執務室~

 

 

バタン!

 

 

レオネスク「誰だ!」

 

横鎮憲兵団第1中隊指揮官

「横鎮憲兵団だ。レオネスク少将、貴官を逮捕する、取り押さえろ!」

 

レオネスク「なにっ!?」

 

レオネスクは慌てて執務机から銃を取り出そうとしたが―――

 

憲兵A「やああっ!!」

 

 

カチャアアァァァン

 

 

憲兵B「大人しくしろ!!」

 

「離せ、離せぇぇぇぇ!!」

銃を力ずくで払い落とされ、床に俯せの状態でレオネスク提督は取り押さえられた。

 

憲兵C「16時11分、レオネスク提督、確保!」

 

ガチャッ

 

レオネスク「くそぉっ―――!!」

 

横鎮憲兵団第1中隊指揮官

「恨むなら、愚行に走った自分の身を恨む事だ。連行しろ。」

 

部下達「はっ!」

 

こうして、艦娘達に不当な扱いを続けた提督が一人、敢え無く御用となった次第である。

 

 

この日の16時17分、完全制圧は完了した。

 第31遊撃艦隊はその後、艦隊が機能を喪失していた事もあり止むを得ず解散となった。当時45隻程度いた艦娘の殆どは廃人化しており、まともな艦娘は十指に入るほどしかいないという惨状であった。

この事件は直ちに報道管制され、事件そのものも大本営の手で機密の名の元に隠匿された。無論幹部会の仕業である。

 レオネスク提督は突入した横鎮憲兵団第4大隊第1中隊の本部部隊によって連行・収監され、近いうちに艦娘艦隊基本法第七編~艦娘保護/生活管理基本要件~に基づいて起訴され、軍事裁判が行われるだろう。

その麾下に在って廃人となった30隻以上の艦娘は解体・退役の上精神病院送りとなり、念の為面会謝絶となった。最も、廃人に取材をしたところで無駄であったろうが。

 残った10隻に満たぬ艦娘達の過半は人間不信に陥っており、横須賀鎮守府の預かりとして保護される事になった。このような事の後であった分、彼女達が人間不信に陥るのは半ば当然としても、五十鈴や叢雲の様に辛うじてその一歩手前で踏みとどまったケースはあった。

 叢雲の性格を考えても、レオネスク提督の扱いは彼女の尊厳はおろか、心にも大きな傷を刻み込んだ事は明らかで、彼の下で失われた艦娘達の事を忘れる事が出来ず、故に心を閉ざしてしまったのも、半ば当然というものであった。当の直人とさえ、着任以後殆ど必要以上の口を利かなかった程であったのだから。

 人間不信になった艦娘を土方が直人に殆ど宛がわなかったのは、土方海将の直人に対する一種の気遣いと言う面もあったのかもしれない。幾ら直人が融和派であったとしても、その方法が無ければどうしようもないからである。

 

 

6月19日午前0時5分 司令部~造兵廠の林道

 

「そんな事が・・・。」

相槌を打ちながら彼女の話を聞いていた直人は、全てを理解した。

「今となっては軽い昔話みたいだけどね。」

 

「―――昔話として埋もれさせるのは、余りいいとは思えないな。」

少し考えていた直人が呟くようにそう言った。

 

叢雲「え?」

 

提督「確かに悲しい出来事だが、忘れるのは更につらいと思うぞ? どうせならこの戦いが終わったら、艦娘の人権を擁護する運動でも起こせばいい。その記憶を使ってね。」

 

叢雲「・・・面白い事を考えるのね、司令官は。」

 

提督「発想の転換と言う奴さ。それに、コミュニケーションはしっかり取った方がいい。その方が互いを理解しやすくなる。」

 

叢雲「でも―――心を通わせ合うと、失った時が辛いわ。」

 

提督「安心しろ、俺は誰一人沈めさせはしない。例え艤装を破壊されても俺がそうさせない、その為に俺がいる。提督とは本来君ら艦娘を守る存在だからな。」

 

叢雲「・・・本当に?」

 

提督「笑いたい時に笑え。怒りたい時に怒り、泣きたい時泣き、悲しむ時悲しめ。心はより豊かな方がいいに越したことは無いんだからな。」

 

一度言葉を切って彼は続ける。

「この艦隊では皆自由だ。訓練もしっかりやってるのはもう分かると思うが、それさえ除けば皆が好きに過ごしていい場所なんだからな。」

 

叢雲「・・・ありがとう。少し楽になったわ。これより先、この槍は、貴方の為に。」

 

提督「ふっ、期待させてもらうよ。」キリッ

 

叢雲「当然よ、この叢雲様は無敵なんだから!」

 

提督「そうだな、“今の”叢雲なら天下無敵だな!」

 

 

ハハハハハハハハハハハハ・・・

 

 

二人の笑い声は、夜空の隅々に染み渡る様に響き渡ったのであった・・・。

 

 

6月19日午前8時 叢雲の部屋

 

 

白雪「叢雲、起きなさいってば!」ユサユサ

 

叢雲「うぅ~~~・・・ん。」

 

 朝寝坊の叢雲を起こしに来る白雪。叢雲が起きてこない事が分かると、起こしに行くのはいつの間にか白雪の役目になっていた。今日の総員起こしの時起きてこなかったのである。既に訓練も始まっていた。

 

白雪「もう・・・。」

 

叢雲「今何時よ・・・?」

 

白雪「もう8時よ!」

 

「嘘ッ!? 大遅刻じゃない!!」ガバッ

 慌てて起きる叢雲、白いレース付きワンピに薄手の水色の半ズボンと言う格好だった。訓練開始は7時半という事を考慮すると、大遅刻である。大目玉は、最早覚悟せねばならない所であった。

「はぁ・・・だから言ってるじゃないの・・・。」

溜息をついて言う白雪。

「ありがとう白雪、すぐ支度するわ!!」

 

「――――!」

その言葉は、今まで何度起こしに行っても口にしない言葉だった。最も話すらしなかったのだが・・・

「えっと制服は確か・・・あ、あった!」ガサゴソ

 

白雪「・・・フフッ。」

 

叢雲「―――どうかしたの?」

 

白雪「いえ? 別に。」

 

叢雲「―――そう。」

 

白雪は恐らく、いや確信を持って言えるが、嬉しかったのだろう。

 

妹が心を閉ざし続けていた、だがそれを初めて開いてくれたのだから。

 

叢雲「さ、行きましょ!」

 

指ぬきグローブをはめながら微笑みを浮かべて言う叢雲、その制服は、今まで取り敢えず着ていた、と言う風だったのが、この日はしっかり着こなしている。

 

白雪「えぇ!」

 

白雪は叢雲を追って部屋を飛び出した。

 

 

 

唐突な叢雲の印象変化に戸惑った艦娘もいたが、それも一時の事ですぐに解消された。

 

だがこの後遅刻したことを神通に散々怒られた叢雲なのであった。


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