異聞 艦隊これくしょん~艦これ~ 横鎮近衛艦隊奮戦録 作:フリードリヒ提督
青葉「スクラップ量産して何言ってるんです。あ、どもー恐縮です、青葉です。」
スクラップ・・・そうなんだけども、確かに技量不足だけど。ベテランの零戦の強さ思い知ったけども。
青葉「そうでしょう?」エッヘン
お前は艦艇だろうが。
青葉「零戦は海軍ですよ?」
うぬー、まぁいい。
今回からは折を見て史実の解説をさらっとしようと思う。(毎回ではなく劇中で触れた際に解説するのであしからず。)
青葉「・・・うごご。」
今回は一応以前(11章参照)やっていた真珠湾攻撃を含む開戦時の動きについてだ。
1940年暮れ頃から連合艦隊司令部では、「もし南方資源地帯を確保するのであれば、アメリカ太平洋艦隊を行動不能にする必要がある」と考え始めていた。41年に入った後に立案された作戦構想で真珠湾攻撃作戦が入れられたのは、そう言った意見あっての事だ。
ではもし真珠湾奇襲攻撃が無ければどうなっていたか。
太平洋艦隊はハワイを出てマーシャル諸島を始め太平洋を暴れ回る事が予期され、南方資源地帯の確保にも影響が出る事が予想されており、海軍―――特に連合艦隊ではこの点を危惧していた。
このためGF(Grand Fleet=連合艦隊の略)司令部では真珠湾を先制して叩く事を目的として作戦を立案していた。立案者は時のGF長官、山本五十六である。彼は自らの職を賭し、強い意志でこの作戦を実行に結びつけようとした。第一航空艦隊編成もそうした背景に依る。
しかし大本営海軍部では航空機による戦艦攻撃は効果が薄いと見ており、中々賛同を得られなかった。しかし41年半ば頃と推定される(ここは私の知識の浅さ故か)が、この頃に山本の強い働きかけによりようやく認可された。
こうして空母6隻・航空機350機による真珠湾攻撃作戦が動き出した。この任に当たる画期的部隊、「機動部隊」第一航空艦隊の指揮官には、水雷出身の南雲忠一中将が指名された。南雲は生粋の水雷屋で航空部隊の指揮経験は初めてであったが、艦隊運用には定評があった人物である。
一方陸軍では南方作戦を主導する考えで、海軍がその支援に当たる事になっていた。この支援部隊には、フィリピン攻略支援に第3艦隊(高橋伊望中将指揮 重巡摩耶 軽巡2・1個水雷戦隊他)、マレー方面には第2艦隊(近藤信竹中将指揮 重巡13隻・2個水雷戦隊)が充てられる事になった。
第二艦隊は南方作戦全般の支援が任務であり、第一航空艦隊から第四航空戦隊(龍驤及び特設空母春日丸=後の大鷹)が分遣、航空支援を実施する事になっていた。
青葉「因みに私達第六戦隊は、第一艦隊指揮下で瀬戸内海にいました。戦艦部隊の殆どはお留守番ですね。」
実はあまり知られていないが、太平洋戦争で初めて落とされたのはイギリス極東軍のPBY-5カタリナ飛行艇なのだが、その日付は12月7日未明、開戦1日前だったことをここに特筆する。
(以下日本時間)12月8日午前1時30分、日本陸軍第25軍は英領マレー半島北端コタバルへ強襲上陸、太平洋戦争の火ぶたが切って落とされる。続いて午前3時25分には真珠湾攻撃が奇襲成功という形で開始され、米太平洋艦隊は大幅な戦力ダウンを余儀なくされた。
この初動で敵に先んじた日本軍は南方作戦で破竹の勢いで進撃し、12月10日にはマレー沖海戦で英新鋭戦艦を含む東洋艦隊主力を撃滅、その後日本軍は、英軍が爆破した250本もの橋梁を修復しつつ1日最大約100kmを走破し、70日でシンガポールを占領する事に成功した。
この間太平洋では米領グァム・ウェーク各島を占領している。
一方フィリピンでは、12月22日にルソン北端アパリに上陸、明けて42年1月2日にマニラを制圧するも、米軍はコレヒドール島の強固な要塞に立て籠もって徹底抗戦を続け、これが為に日本軍は当初45日で制圧するとした計画を大幅に狂わされ、主要部制圧に150日を要する結果を招いた。
マレー作戦終結後、陸軍は引き続いてジャワ・スマトラ・ブルネイなどの制圧を1ヵ月繰り上げて取り掛かる。この際連合国軍ABDA艦隊(米英蘭豪4か国連合艦隊)の出撃を受けてスラバヤ沖海戦とバタピア沖海戦が生起し、何れも日本海軍の勝利に終わっている。
1月11日にブルネイ東部・タラカン上陸とミンダナオ島・ダバオへの海軍による空挺降下で始まった蘭印作戦は、21日には海路タラカンより同じくブルネイ東部・パリクパパンへ転進上陸、次いで24日にセレベス島ケンダリーへ海軍が上陸し飛行場を制圧した。
2月14日にはパレンバンに対する陸軍の空挺降下が実施され、ほぼ無傷の状態で油田が制圧されるなど陸海軍陸上部隊も快進撃を続け、3月1日に始まったジャワ攻略戦は、オランダ軍の降伏により僅か9日で終了した。スラバヤ沖・バタビア沖の海戦もこの時のものである。
蘭印作戦によって日本の南方作戦は終了し、他方面では42年2月6日にラバウルのオーストラリア軍が降伏、ビルマ方面では5月下旬までに全ビルマを制圧、42年4月にはセイロン沖海戦が生起している。このセイロン沖海戦についてはその時になれば解説させて頂く。
以上がおおよその日本軍の動きだが、その行動範囲は空前の規模であり、日本が戦前に策定した大東亜共栄圏のほぼ全域を手にしていることからも、日本の快進撃ぶりが伺えるが、この事が軍上層部の慢心を生んだとも言えるだろう。
青葉「それがミッドウェーに続きソロモンの敗戦になった訳ですね。」
ソロモンの戦いにはお前も参加してるな、サヴォ島沖に。
青葉「うぅ・・・反省してます。」
よろしい、尺押してるんで本編いくか。
青葉「そ、そうですね。」
ではどうぞ。
2052年10月16日13時01分 厚木飛行場
土方「・・・。」
厚木飛行場の格納庫前で、土方海将とその付き添いの男は、直人の到着を待っていた。
「もうそろそろですかね?」
土方「そう焦る事も無かろう。航空管制の都合もあるのだし。」
「は、そうですね。」
付き添いの男は、肩に一等海佐の階級章を付けている。
髪はベージュにかなり近いブロンド、額を半分隠す程度に切り揃えられた前髪と、短めに刈り揃えられた後ろ髪、黒い瞳のその眼差しは、どこか緊張している様に見て取れた。
土方「もうヤツには暫く会ってないだろう?」
「えぇ、2年ちょっと前に飲んだくらいですから。」
土方「そうか、楽しみだろう?」
「積もる話もそれなりにありますから。」
土方「そうか。お、来たか。」
いよいよ直人の乗る連山改が、その爆音を響かせて厚木飛行場へと降り立とうとしていた。
提督「土方さん!」
土方「おぉ! よく来てくれた。」
手早く連山改を格納庫に入れているのを脇目に、直人は土方海将と対面した。
「よお直人。」
提督「お? 大迫さん、久しぶりですね! なんでここに?」
直人が大迫さんと呼んだ男は、気さくな調子で質問に応じた。
大迫「まぁ軍令部総長の代理だよ。あの方は御多忙でらっしゃるからな。」
提督「成程、確か次席幕僚になっていたんでしたっけ? 永納海将の。」
大迫「そんなところだな。」
提督「そうでしたか。何にせよ、また会えてよかった。」
大迫「あぁ!」
直人と大迫は、固く握手を交わした。
伊勢「お知り合いなんですか? 提督。」
提督「あぁ、紹介しておこうか。彼は
大迫「ハハハ、紹介ありがとう。君達艦娘の事は聞き及んでいるが、こうして艦娘と対面したのは初めてだ、会えて嬉しいよ。」
大迫は伊勢に手を差し出す。
伊勢「あぁ、そうなんですか。此方こそお会い出来て光栄です。」
伊勢はその手を握った。
軍令部総長次席幕僚とは、とどのつまり軍令部総長の副官と同位の重職であることを、伊勢も把握したのだ。
土方「感動の再会はその辺にして、車が回してある、続きはそっちにしてくれ。」
提督「あ、はい。分かりました。」
苦笑する直人は、土方海将の後に続いて足早に厚木飛行場を後にした。
14時58分 厚木→横須賀 車中
提督「全く・・・こんな時期に・・・」
土方「そうぼやかんでくれ、すまないとは思っている。」
提督「いえ、土方さんが悪いんじゃないでしょう? どうせまたぞろ幹部会が・・・」
土方「いや、今回は軍令部だ。」
提督「・・・なんですって?」
直人は耳を疑った。
土方「パラオ沖で、派手にやったらしいな。」
提督「あー、言われてみれば。で、やったのか?」
後部座席に座る直人は隣に座る伊勢に聞いた。
伊勢「いや、なんで私に聞くんです、半分提督がやったんでしょう?」
提督「俺は半分の指揮しかしてないからもう半分はお前らだぞい?」
伊勢「え、あぁ・・・えぇまぁ、やりましたね。」
伊勢は苦笑して言った。
土方「うむ。それが大本営上層部に知れたんだ。主に5年前の関係者連中だ。」
提督「今回の作戦はそれが原因でしたか。如何にパラオ防衛が重要とはいえ、浅慮でした。」
土方「別に詫びることは無い。元帥の艦隊無くしてパラオ防衛は無かった。」
提督「それはそうですが・・・。」
直人は表情を曇らせる。
土方「紀伊元帥、君が負い目を感じることは無い。悪いのはいつでも上の連中なのだからな。」
大迫「実はその作戦立案者が、今日横鎮司令部に来る予定らしい。」
提督「立案者・・・?」
直人はふとそう聞いた。
土方「そう、今回の作戦はある人物の進言を、永納総長が容れた結果実行が決定された。その立案者が今日、私に会いに来ることになっている。」
提督「成程。一度その立案者とやらの顔を拝んでみたいものですな。」
大迫「ま、決まってしまった以上やるしかない。それが軍人としての筋だ。」
提督「ですね、諦めましょう。」
大迫「それにしても、お前が提督だの元帥だの呼ばれる様になるとはな。」
提督「いやぁ、私の存在は極秘中の極秘扱いですからね。新聞にも載りはしませんよ。」
謙遜、というより少し困った表情で直人は答える。
大迫「それでも元帥号なんてそう貰えたもんじゃないぞ? もっと胸を張っていいんだ。」
提督「俺には不釣り合いな代物だと思ってますがね。役目を終える時になれば、早々に退役したいものです。」
土方「それは困るぞ、君は戦後もやるべきことは多いのだからな。」
提督「まぁ、こうなるよな・・・。」
露骨に嫌そうな顔を作って見せる怠惰提督であった。
土方「本土滞在中は以前使って貰った部屋を使ってもらう。今回は伊勢も同室の方が良かろう。その辺配慮したまえよ。」
提督「うぬっ・・・はい。」
ボディガードという直人の随員、その性質を重視したこの土方の発言は、実際に現実として実行される事になる。これには流石に反論出来ないのも確かであった。
直人はこの後横鎮司令部に到着、その足で司令部寄宿舎へと向かい、割り当てられた部屋で暫く住み込む用意を整えていった。
15時26分 横鎮本庁・艦娘艦隊寄宿舎209号室
提督「全く・・・なんでこうなった。」
ベッドにシーツを掛けながら、直人はぼやく。
伊勢「ま、まぁまぁ・・・そう言わないで―――私じゃ、ダメですか?」
提督「はうっ!? い、いや・・・そう言う意味では・・・。」
伊勢の一言は直人にクリティカルヒットしたが、金剛が聞けば激昂では済まされないだろう。因みにこの場合、自分が同室では不安か、と言う事である。
伊勢「ならいいじゃないですか。」
因みに伊勢にもそう言う気持ちが無い訳ではないものの、どちらかと言えば尊敬の念が強かった。要するに、「本当は信頼されていないのでは」という不安から出た一言であった。
提督「お、おう・・・。」
直人からすれば初の男女同室であった為、どぎまぎしているのが本音であった。金剛とだってここまでは来ていない。(つまり関係の発展が中途半p(ズドォーン
インターホンが鳴ったのは、そんな時だった。
ガチャッ
提督「はい、209号室。」
オペレーター「“石川少将、土方海将がお呼びです。至急貴賓室までお越しください。”」
提督「分かりました。」ガチャッ
伊勢「どうしました?」
提督「土方さんからお呼び出しさ。ちょっと行って来る。」
伊勢「はい。行ってらっしゃい!」
伊勢に見送られて直人は部屋を出たのだった。
伊勢「そう言えば、提督は金剛さんとも相部屋は・・・成程。」
そして去った後に合点のいった伊勢である。
15時32分 横鎮本庁2F・貴賓室
コンコン
土方「入りたまえ。」
提督「失礼します。」
直人が貴賓室に来た時、土方は来ていた来客者と話し終わった様子だった。
直人は土方の向かい側のソファに座る。隣にはその来客が座っている。ソファに挟まれたテーブルの、直人から向かって右側に壁には壁掛けテレビが設置され、ニュースの映像が流れていた。
アナウンサー「“今回大本営から提出され認可された出兵計画に関し、防衛省幹部に取材を行いました。”」
シーンが切り替わり取材の映像が流れる。
幹部F「私はこの作戦の賛否に関しては反対です。この時期に攻勢をかける必要性は皆無ですし、なにも海上自衛軍に航空自衛軍、二つの軍の主力を投じる必要があるのかが疑問です。」
土方「役者だな、この幹部Fというのは、この作戦に強硬に賛成を唱えていた幹部の最先鋒だ。」
提督「ですが機嫌取りだとしてもこの言動は正しいでしょう。この作戦、勝てるとは思えない。そう思う方が間違ってる。」
「なんですと!?」
直人の隣に座っていた来客が鋭い剣幕で勢い良く立ち上がる。
短く切り揃えられた黒髪に、縦長でどこか卑屈っぽさを漂わせる人相である。背もそこそこ高い。
提督「―――失礼だが貴官は?」
唐突だったので驚いた直人は、兎に角名を訊いた。
「
土方「石川君。今回の出兵案を作成したのが、ここにいる賀美二佐なんだ。」
提督「ほう。」ギラッ
彼は軽く鋭い眼光を向けるが、賀美二佐は気にも留める様子は無かった。
賀美「残念ですな。少将は今回の出兵案に反対のようだ。」
提督「―――今の海軍と空軍の戦力、それに艦娘艦隊の練度では不可能だ。」
賀美「貴官の率いる防備艦隊の練度を以てしてでもですかな?」
提督「1個艦隊程度で戦は出来ん。他の艦隊の支援もあってこそ、我々は最大限のポテンシャルが発揮出来るのだ。」
そもそも防備艦隊は本来鎮守府司令部直属として後詰めや予備兵力と言った役割を担う艦隊である。練度こそ高けれど外征は滅多にない。
賀美「グァムやパラオ沖の一戦では貴方の艦隊だけで戦局を優位に運んだではありませんか?」
提督「それは――――」
何故その事を知っているのか、と考えかけて、恐らくは大本営の中枢にいるのだろうと思い至る。そして反論しようとしたが
賀美「それとも、少将でなければ勝利は齎せませんかな?」
賀美は直人の発言を遮った。
提督「・・・。」
直人は一つ息をつく。
土方「分を弁えろ賀美二佐。用件は済んだだろう、早く退室したまえ。」
そう言われた賀美二佐は、黙って土方海将に敬礼すると、足早に去っていった。
土方「あれが、永納海将のお気に入り、作戦主任参謀殿だそうだ。」
提督「やりにくい性格ですね。」
土方「そうだ。話を戻すが、今回の出兵に関し、横鎮近衛には予備兵力となってサイパンで待機してもらいたい。」
提督「なんですって!?」
直人はその言葉に驚いた。当然自分にも作戦区域が割り当てられると思ったからだ。
土方「よく聞くんだ。この作戦は少なからず失敗する。その時、後詰めとして味方の退却を援護する兵力が必要なのだ。横鎮はその役目を負わされている。時が来るまで、辛抱してくれ。」
土方は直人に頼み込んだ。それは、土方の先見の明であったろう。
提督「―――いや、そこまで仰られるのでしたら異存はありません。」
土方「そうか・・・。」
土方海将は安心した面持ちでそう言った。
提督「しかし、戻ったら大目玉を食らいそうです。」
土方「そうだろうな、先の戦いでの活躍は聞き及んでいる、士気も高まっておるだろうが、何とか抑えて貰いたい。」
提督「了解しました。」
コンコン
土方「入りたまえ。」
氷空「失礼します。」
その顔は、どれだけ経とうが忘れられぬものだった。
提督「水戸嶋!」
氷空「おぉ、直人か! 貴官も到着していたのだな。」
提督「・・・貴官“も”? 他に誰か――――」
「おっす! 我らが旗艦殿♪」ニカッ
「やぁ、久しぶりだね。」フッ
提督「
親しみを込めた声で、直人は言った。
泉沢「俺はいつでも元気さ。」
浜河「勿論。この5年間一度も会わなかったから、どうしてるかと思ってた所だったんだ。」
泉沢と呼ばれた方は、茶髪の前髪を逆上げしてまとめており、つり上がった眉毛、快活な瞳と笑みが、活発そうな印象を与える青年。背丈は直人より少し低い程度か。
浜河と呼ばれた方は直人より若干背が高く、泉沢とは対照的につり下がった眉毛と少しおっとりした瞳、一見大人しくて知的な印象を与える顔立ちをしている。髪は黒髪のショートヘア。
提督「でも、なんでここに?」
土方「泉沢は佐世保、浜河は舞鶴の近衛艦隊司令官なのだ、紀伊元帥。」
提督「なっ・・・!?」
初めて聞く事実に驚く直人。
泉沢「そーゆーこと!」
浜河「驚いたかい?」
提督「そりゃぁ驚くさ―――俺達4人揃って近衛艦隊の司令官だなんて。」
直人を含む近衛艦隊司令官は、揃って巨大艤装を使用できるのだ。それはかつてこの4人が、ある計画の実働部隊であることを意味している。
浜河「今回の出兵、僕達3人も前線に出る事になったんだ。艤装は勿論出せないけれど、一応海軍の艦に積んで持って行くみたいだね。」
提督「そうだったのか・・・。」
そう言いつつ心中で嘆息する直人である。
泉沢「俺達は割り当てられた護衛艦から陣頭指揮って事になってるらしい。暴れてやりたいんだがなぁ。」
提督「いやダメだって。」
泉沢「わーってるよ。消化不良になりそうだって事だ。」
提督「凄い分かる。」
こんなやり取りが、彼らの日常だった。気付けばこんなやり取りもいつ以来だろう、と思いを馳せる直人である。
氷空「俺と泉沢は、MI方面への侵攻に同行することになった。」
浜河「僕はSN本隊だね。」
提督「俺だけ総予備・・・。」orz
土方「おいおい・・・そう落ち込まんでくれ。」
泉沢「おおう・・・ドンマイな、その分バックアップ頼むぜ。」
提督「おう・・・。」
やはり煮え切らない直人だった。
提督「そ、それは兎も角です、土方海将。」
土方「ん? 何かね。」
直人は土方に、単純な質問をぶつけた。
提督「海将はこの作戦を、支持しているのですか?」
土方「・・・我々は軍人だ。艦娘艦隊、大本営だって形の上ではそうだ。我々は命令に従わねばならん。違うか?」
提督「は。失礼しました、軍人としては、失言でした。」
失言であったと陳謝する直人に土方は訂正を入れる。
土方「いや、それと支持するとでは意味合いが違う。だが命令であるならば、我々は出向いて戦わなければならん。例え、どんなに馬鹿げていようともだ。」
提督「私はこの作戦には賛成出来ません。しかし、土方海将が参加せよと言うならば私はやりましょう。予備でも我々は遊撃部隊です。尻拭い、などとは言いませんが、その位の事をする準備はしておきますし、非常事態時には戦線加入も予想してはおきます。ですが大本営の命令には従えません、あくまで海将の命令であるからです。」
氷空「―――直人・・・。」
土方「・・・全く。相変わらず我儘が過ぎるな。5年前より多少はマシになったようだが。」
提督「すみません、流石にこれは私の我儘です。土方海将が私を首席幕僚に指名したとあっては、出ない訳には行きません。この上は、最善を尽くします。」
土方「うむ。」
泉沢「俺も直人には賛成だな。」
浜河「そうだね。例え何年経っても、君の号令無くしては、どうにも締まらないらしい。」
氷空「フッ、そうだな。そうらしい。この作戦は馬鹿げている、そんな作戦を立てた大本営に従うのは、少々気が進まんのでな。」
土方「お前達・・・。」
提督「おう・・・マジかよ・・・。」
直人は若干戸惑いを覚えた。いつの話だと言う気後れが彼にはあった。
土方「全く、紀伊元帥。何時ぞやの様に、ビシッと言ってやれ!」
提督「土方海将まで・・・はぁ、仕方がない。」
直人は諦観した後、一拍置いて言葉を発する。
提督「よし! この戦い、全員揃って生き抜くぞ!!」
3人「おう!!」
彼らは改めて決意を固める。それは余りにも、悲壮な決意だった。
10月8日10時02分 大本営大会議場
土方「さて、臨席する将校各位には既に承知の事と思うが、先の南方方面遠征計画案が既に大本営並びに防衛省によって決定された。まず部隊編成を後方主任参謀を務める、大迫一佐から説明してもらおう。」
土方の第一声によって幕僚会議が始まる。
大迫「ハッ。まず総司令官は大本営総長である、
参謀長は横鎮司令長官土方海将ですが、土方海将麾下の兵力は全て予備兵力として本土に残留します。作戦参謀
実戦部隊として
その他含めた総動員数、艦艇179隻、航空機822機、人員総数32万0294名、艦娘艦隊は動員数96万2351個艦隊、艦艇総数107万1267隻。」
唸り声や感嘆の声が随所から漏れ出す。艦娘艦隊は勿論の事、これだけの遠征作戦は、日本の四方を守る自衛軍でも初めてであった。
土方「この遠征軍の具体的な作戦案は、まだ立案されていない。今回の会議はこれを決定する為のものである。各官の活発な提案と討論に期待する。」
賀美「総長閣下。」
発せられた声にその場の耳目が集中する。
賀美「作戦参謀賀美二等海佐であります。今回の遠征は我が自衛軍
言い終えて賀美作戦参謀は着席した。
提督(能書き垂れるだけか、さっさと提案でも出せばどうだ。)
少しでも早く終わらせたい直人は心中でその様な事を思う。
小澤「総司令官にお尋ねしたい事がある。」
そう発言したのは
小澤「我々は軍人であるからには、行けと命令があった日には何処へでも行く。それが例えば深海棲艦の本拠を叩けと言うのなら、尚更だ。しかしそれには、周到な準備が欠かせない。まずこの遠征の戦略的目的をお聞かせ願いたい。」
戦略上の目的は、作戦行動の際最も重要なポイントである、その点小澤海将の発言は正論だった。
永納「作戦参謀、説明を。」
永納総長は、白いちょび髭蓄えたダルマ、以上。
賀美「ハッ。んんっ。」
呼ばれた立案者、賀美作戦参謀が咳払いをして起立する。
賀美「大軍を以って敵地奥深く侵攻する。それだけで愚昧な深海棲艦共の心胆を寒からしめることが出来るでしょう。」
小澤「では侵攻するだけで、戦わずして退くという訳か?」
賀美「そうではありませんが、作戦主眼はあくまでも、“人類の”失地回復にあります。敵襲時には高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変に対処する事になろうかと思います。」
小澤「今少し具体的に言ってくれ。余りに抽象的過ぎる。」
北村「要するに、行き当たりばったりと言う事ではないかな?」
そう言ったのは初老の提督、リンガ泊地司令官
恰幅の良い体付きと、鼻下に白い髭を蓄え、一見した印象は優しい好々爺と言った方が相応しい。御年69にもなる老骨の名将と名高い提督でもある。
賀美「他に何か?」
北村海将補の発言に目つきを険しくしつつ賀美作戦参謀はそう言った。
浜河「一ついいですか?」
土方「湯浅少将、どうぞ。」
これは舞鎮近衛・浜河元帥の偽名だ。
浜河「侵攻の時期を現時点に定めた理由を、お聞かせ願いたい。」
賀美「戦いには、期と言うものがあります。それを逃せば結局運命そのものに逆らう事になります。」
浜河「つまり今が我々が攻勢に出る機会だと?」
賀美「攻勢ではありません、大攻勢です!」
賀美は机を叩きそう断言する。確かに規模だけを見れば大攻勢と呼べた。
賀美「大兵力を以って人類の失地を回復しつつ敵の拠点を奪取し、近い将来必ずや行われる大攻勢を行う橋頭保を確保する。さすれば敵は狼狽し為すところを知らないでしょう。第2次大戦以来で最大の艦隊が長蛇の列を成し進軍するところ、勝利以外のなにものも、あり得ないのです。」
まるでプロパガンダか何かを喧伝するかのように、自信に満ち誇らしげな様子で説明を続ける賀美作戦参謀だったが、直人は更にアンチテーゼを突きつけていく。
提督「しかしその作戦では補給線が余りに長くなり、通信、更に連携にも支障をきたし、また大きな負担ともなろう。更に敵は戦力の集中投入を行い細長い側面を突く事によって、容易に我が軍を細切れに分断する事さえ可能なのだ。」
賀美「なぜ分断の危険を強調するのか小官には理解致しかねます。我が軍の隊列に割り込んだ敵は前後から挟まれ、集中砲火によって撃滅される事は疑い有りません。敵はパラオに派遣した雑多な混成軍が無残に敗れ去った事で士気も低下している事でしょう。その敗残兵共に何程の事が出来るでしょう? 石川少将の言われる事は取るに足らぬ危険です。」
彼に対して希望的観測を並べる賀美作戦参謀だったが、それで止められる様な男ではない。
提督「取るに足らぬというには、この作戦プランは余りにも常軌を逸している。MI方面やAL方面への陽動攻撃は置くとしても、SN方面に対する攻勢に際し、トラック棲地に対する攻撃とその占拠が含まれていないのはなぜか、その理由をお聞かせ願いたい。」
賀美「トラック棲地に駐在するのは敗残兵共の集合体である為、例え行動したとしてもさしたる脅威とはなり得ないものと将官は理解しております。」
提督「いや、この棲地にいるのはれっきとした正規の艦隊だ、我々は一度これと交戦した事があるが、その統率の取れている事、敵ながら素晴らしいと言わざるを得ないのが正直なところだ。これらがもし進撃途上で迎撃に出てくるのであればいざ知らず、それをやり過ごして補給路を断ち、兵糧攻めにするような事があれば、この大規模な侵攻軍はたちまち明日の食糧にも補給物資にも窮乏する事になり、自壊を招く事は、恐らく必定だと小官は懸念する所だ。」
賀美「我が軍が局地優勢を確保し逆にトラック棲地の動きを封じさえすれば、奴等は泊地から出る事もままならず孤立する事でしょう、少将の仰る事は、あり得ない空想に過ぎないと言ってもいいでしょう。」
提督「この程度の想定を空想と断じるとは驚きだな。深海にも頭の切れる者がいる事は考慮の内に入れるべきだ。更に敵は陣容の厚みを利してこちらよりも遥かに多い戦力を、一挙に複数投入する事で我が軍を各個撃破する事も可能なのだ。これらの点を考慮に入れた上で今一度慎重な作戦立案をすべきではないか?」
土方「石川少将、君が深海側の知能を評価しているのは分かるし、前線の事に精通しているのも分かる。だがそれは推察に過ぎんのではないか?」
提督「それはそうです。しかし最悪を想定するのが作戦と言うものです。敵が我が方を上回る、最悪の状況を想定するのは当然でしょう? それに、敵が犯した以上の失敗を我々が犯せば、彼らが勝って、我々が敗れるのです。」
作戦立案は常に予測し得る最悪の状況に立って立案すべきもの、仮説や憶測の上に立案した時、それは破綻という最悪の結果を招く。
賀美「それは予測にしか過ぎませんな石川少将。敵を過大評価し必要以上に恐れるのは、武人として最も恥ずべき所。ましてそれが味方の士気を損ないその決断と行動を鈍らせるとあっては、言わば敵を利する事となりましょう、どうか注意されたい。」
北村「賀美二佐! 今の発言は上官に対し礼を失しておるぞ!」
机を強打し北村海将補が怒鳴りつけた。
賀美「どこがです?」
だが賀美二佐は飄々たる物言いである。
北村「貴官の意見に賛同せず慎重論を唱えたからと言って利敵行為とは何だ! それが節度ある発言と言えるか!」
賀美「私は一般論を申し上げただけです、一個人に対する誹謗と取られては甚だ迷惑です。それに艦娘艦隊の少将が上官ですと? 冗談も甚だしいですな、北村海将補。」
北村「何―――!?」
平然とそう言う賀美作戦参謀。今度は直人が机を叩く番だった。
提督「貴官は何を言っているのか分かっているのか! 二佐と言えば旧海軍では中佐相当の筈。その身にありながら艦娘艦隊少将の地位にある者を誹謗するのか!」
賀美「貴方方の様なエセ軍人を司令官だなどと重用する時点で間違いなのです。艦娘は我々軍人が運用してこそ意味を持つのに、民間から徴用され分不相応な指揮権を振るい、あまつさえ自衛軍士官に上官を気取るつもりですかな?」
あざ笑うように堂々と言って見せた賀美作戦参謀。最早何を言っても無駄だと悟り、直人は口を閉ざした。
自衛軍と艦娘艦隊は艦娘艦隊関連法案で、対等の立場を持つと明記されている。にも拘らず自衛軍の一部では艦娘艦隊を格下に扱いあざ笑う一派がいる事も事実だった。
泉沢「貴様ぁ・・・!!」
「喧嘩を売る相手を間違えた、彼は艦娘艦隊と自衛軍が対等とは思ってもいなかった。」直人はこの時それを思い知った。隣で鬼の形相をしつつも必死に抑え込んでいる泉沢を横目に見やり、直人は嘆息した。
賀美「そもそも、この戦いは世界各地で孤立し飢えている80億の民衆を救済する、崇高な大義を実現する為のものです。これに反対する者は、結果として深海の支配に甘んじる傍観者と言わざるを得ません。小官の言う所は、誤っておりましょうか? 例え敵に地の利あり、或いは想像を絶する新兵器があろうとも、それを理由に怯む訳には行きません! 我々が・・・」
最早彼を止められそうな者はいなかった。
話にならぬと言いたげな者もいればあきれ顔で座っている者、部屋の隅の方に座っている者には寝てしまった者さえいる。
結局この会議は、充てられた3時間全てを賀美作戦参謀の演説に費やしてしまい、完全に流れてしまった。
作戦は当初の予定案通り、実行は11月1日付となった。しかし予定案には作戦の子細は無かった為、その辺りは独自に各基地で詰める事となっていた。
10月18日20時11分 横鎮本庁1F・食堂
提督「はぁ~~~・・・。」グリグリ
直人は溜息をつきながら夕食のスパゲッティをフォークでこねくり回していた。
そんな事をしていると、突然左の方から「シャーッ」という音と共に小箱が滑ってきた。
パッケージには「コーラシガレット」と書かれていた。
滑って来た方を見れば・・・
土方「フッ、食べるか?」
提督「土方さん・・・。」
地味にダンディな登場のし方をされたのだった。
提督「それはもう頂きますとも、大好物ですよ。」
土方「ハハハ、にしてもどうしたね紀伊くん。君がそうして麺類こねくり回してる時は、何かしら考え込んで落ち込んでる時だろう?」
提督「そっ、それは・・・。」
土方の発言は図星であった。
土方「・・・成程、会議の時の話か。」
提督「えぇ・・・。」
土方と直人の間柄は5年来のもので、それ故互いに思う事はある程度分かる。
土方「あれで賀美二佐の為人は分かったろう?」
提督「えぇ、まぁ。自己の才能を示すのに実績ではなく弁舌を用い、他人を貶めて自分をえらく見せ、それでいて自分に才能があると思い込んでいる。独善的でしかも無能とは、処置の施しようがない。」
土方「ハッハッハッ! 部内でもそこまで手厳しく言える者はおらんぞ。それを快活なまでに一刀両断してくれる。あるいはそれがお前の美点の一つやもしれんな、敵も作りやすくはあるが。」
提督「実際それで敵を量産してきましたし。」
土方「因みにどのくらいだ?」
提督「そうですね、5ダース単位じゃないと数え切れませんかね。」
土方「ハハハハッ、そうすると、中々苦労人だな、お前も。」
提督「お互いさま、でしょう?」
土方「そうだな・・・。」
提督「土方さん、明日半日だけここに滞在したいと思います。」
土方「そうか、分かった。出立はいつにする?」
提督「1400時(14時ちょうど)で。」
土方「了解した。」
そうしてその日は土方海将と別れた。
提督「・・・食うか。」
直人は一人、少し温くなったたらこスパゲッティを食すのだった。
10月19日10時07分 横須賀市・戦艦三笠中甲板
直人は土方海将を介し再び戦艦三笠を訪れていた。
戦艦三笠の公開範囲は三笠甲板以上と上甲板・中甲板の後部に限定されており、それ以外の船体内部は公開されていない。
その非公開部への進入許可を、土方海将を介して得たのだ。近衛艦隊司令の権限凄いね、ホント。
提督「過ぎし日の
中甲板中央部は兵員居住区である。遠く去りし日の、祖国の栄光を想って彼は嘆息した。今の我が祖国の、なんと矮小でささやかたる事だろうか、と―――――。
そして今、そのささやかなる祖国の、乾坤一擲の作戦が決行され、恐らく敗れ去るだろう。残るのは無人の荒野か、或いは人艦問わず数多の屍晒す酷寒の水底か。彼は少しも楽観出来ないでいた、そしてそれなのに、彼に出来ることは無い。
総予備として待機命令が土方海将の名で出される事にもなった、最早滅多な事では動く事もままならない状況に陥っていた。
三笠「穏やかなる猛将の、なんと小さき後ろ姿でしょうね。」
提督「!」
ふと気づくと、彼の背後に三笠がいた。
三笠「何が起ころうとしているか、私には分かるわ―――貴方の出る幕は必ず訪れる。それまで辛抱強く、待つのね。」
提督「―――なぜ、言い切れる?」
三笠「それが貴方の定めだから、と言っておくわ。」
提督「それでは説明に――――」
三笠「いいこと? 貴方は信じる道を進むの。そうすれば、道は現れる筈。自分を、信じる事ね。」
提督「・・・そうか、心得よう。」
そう言った後、ふと気づくと三笠の姿は失せていた。
提督「―――何やってんだろうな、こんなところで。帰らねば、在るべきところに。」
直人の気の迷いは、すっかり晴れていた。
10月19日20時21分 司令部中央棟2F・提督執務室
大淀「それはどういうことですか!?」
司令部に戻り、作戦の骨子を説明した彼は、なぜか大淀から詰問を受けていた。
金剛「そうデース! なんで私達は待機なんデスカー!?」
提督「そう怒らんでくれ、これは命令なんだ。横鎮からのな。」
金剛「私達にも出撃させて下さい! でないとおさまりがつきません!」
提督「今回ばかりは何を言われようと動かんぞ。動かんし動かさせもしない、土方海将の“命令”もあるんだからな。」
大淀「そんな命令、今すぐにでも拒否して下さい提督。そのような事では艦娘達の士気に―――」
大淀の弁にも一理はあった。近衛艦隊は敵に背を向けず闘い続けた。今更それでは―――ということだ。更にはパラオ沖で士気が昂っている事も積極論に拍車をかけさせたことは事実だった。
しかし命令拒否権を引き合いに出した事が直人の琴線に触れた。
提督「いい加減にしろ大淀。俺は確かに以前1度、命令を拒絶した。だがあの時は我が艦隊に、取り返しのつかぬ被害をもたらす危険があったからだ。それに横須賀鎮守府全部隊が総予備となるというのは、作戦基幹の方面配置から決まっている。我々の持つ命令拒絶権は乱用していい性質のものではないし、戦いたいのは、俺達だけではあるまい!」
机を拳骨で叩きながら言う直人。その目の前、執務机の上には、SN作戦の作戦要綱が記された、分厚い書類が置かれていた。
各方面への割り当ては次の様になっていた。大淀達の怒りが、書類のその一点に端を発していたのは間違いないのだが。
SN本隊:リンガ・上海・高雄・パラオ・舞鎮
MI方面(陽動):呉鎮・佐鎮
AL方面(陽動):大湊
総予備:横鎮
大淀「だからと言って命令を順守するという事にはならないでしょう! そもそもこんな作戦は作戦とは言えません、せめて我が艦隊も参戦して、戦局を優位に運べるようにすべきです!!」
大淀のこの発言は一種危険な発言であった。それは、上から下への命令系統の墨守を否定する発言だからである。しかし裏を返せば、正規の命令系統上に無い彼らなればこそ、ある程度は許容される考えでもある。
しかしこの言葉を聞いていた彼はむしろ冷静さを取り戻しつつあった。
「大淀。」
大淀「なんです?」
苛立ちを隠せない声で大淀は言うが、これに対する直人の返答は、至って落ち着いていた。そして静かに、こう言った。
提督「作戦と言うものは、実行するより早く失敗はしないものだよ。」
大淀「―――!!!」
金剛「・・・ナルホド、そう言う事デスカ。」
この直人の一言で、金剛と大淀は納得したのであった。
~ガタルカナル島~
「ナニ? 敵ノ通信ガ活発ニナッテイルダト?」
ヘ級elite「ハイ。ドウヤラ敵ハ、近ク大規模ナ攻勢ヲ行ウヨウデス。」
「確カナノカ?」
ヘ級elite「10月終ワリニナッテ、急ニ敵基地間ノ通信ノ量ガ増エテイマス。」
「成程ナ・・・来襲予想方面ハ割リ出セルカ?」
ヘ級elite「調ベサセマシタトコロ、ドウヤラコチラニ来ルヨウデス。」
「仕事ガ早イナ・・・ヨシ、全物資ト戦力ヲ4ライン後退サセロ。」
ヘ級elite「ト、言ワレマスト?」
「敵ヲ誘イ込ミ、殲滅スル。」
ヘ級elite「・・・分カリマシタ、飛行場姫様。」
飛行場姫「急グノダ。余リ時間モナイヨウダシナ。」
ヘ級elite「ハッ!」
飛行場姫(さぁ・・・どう出る? 艦娘共め。)
ヘンダーソン基地飛行場姫は、艦娘艦隊迎撃の準備を始める。
攻勢の情報は、艦娘艦隊側が、迂闊にも、無節操に、乱発し始めた通信によって、深海側に推測という形で知られてしまったのである。そうなれば徹底的に調べ上げられるのは自然な道理であり、攻勢開始時点で、深海側はこの作戦の大半を既に察知していたと言う。
10月30日に内地から、次いで31日にリンガ・パラオ艦隊がニューギニア南岸・ダレス海峡ルートを通るべく出撃、そして11月1日に、AL方面陽動の大湊警備府艦隊と、SN方面の後詰めである高雄・上海艦隊が、それぞれ投錨地を発った。
~SN本隊~
浜河(どう出てくる、深海棲艦・・・。)
~MI部隊~
氷空(この動きは、恐らく読まれているな、どうしたものか・・・。)
~MI部隊別働~
泉沢(ひと暴れ、してやるか!)
~サイパン島~
提督「いよいよ始まったな。」
大淀「・・・はい。」
提督「この1戦で、今後の全てが決まる。」
金剛「勝てますカー?」
提督「分からない。少なくとも、好ましい結果にはなるまい。」
大淀「そうですね・・・。」
皆、生きて帰れよ。直人はそう念じずにいられなかった。
旗艦と共に出撃した各基地司令官以下、一体何人が生きて祖国の、自分達の基地の土を踏むことが出来るか。その念は、土方海将や大迫一佐も同じであった。
決戦の時は、すぐそこまで迫っていた。