異聞 艦隊これくしょん~艦これ~ 横鎮近衛艦隊奮戦録   作:フリードリヒ提督

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どーも、天の声です。

青葉「青葉です。」

取り敢えず骨子から書き出してそこへ肉付けすると言う方式で書き進めた結果30ページを超える程度で収まってしまいました。多いのか少ないのか。

青葉「因みに改訂のご予定は?」

筋を壊さない範囲でより分かりやすくはしていく方針です。

青葉「そうですよねー・・・。」


では手っ取り早く解説の方に移りましょう。今回は設定についての放談、資源についてです。(独自解釈を含みます)

イオナは3章で、直人達の使っている艤装がナノマテリアルを含んだ合金で出来ている、としていますが、これは正答です。


何故ならアルペジオに於けるナノマテリアルとは「“構成因子そのもの”」だからです。艦娘達が用いる資源とアルペジオのナノマテリアルの違いはその造られ方にあると言えます。

霧の艦艇を構成するナノマテリアルは、元を正せばただの鉄です。(これでさえ現実の定義ではナノマテリアルとされる。)

霧の艦艇はその船体に中核たるユニオンコアを組み込む事で、その船体構造を部材の構成因子ごと組み替えてナノマシンユニットへと作り替え、そのユニット部材をナノマテリアルで構成する事により、可変性と損傷への即応を可能としているという訳です。

言うなれば霧のナノマテリアルは人為的に造られたものです。


一方艦娘達の使う“資源”は、主に深海棲艦の支配下に置かれ汚染された/されていた地域で、大地から放出された負の因子が自然浄化されて出来た正の因子が、空間中で言わば飽和の様な状態になった結果、資源と呼ばれる“ソレ”の形を取って具現化すると言う、いわば自然発生の様な状態です。

自然発生したナノマテリアルと人工的に作成するナノマテリアルで全く異なるのは言及するまでもないと思います。


今回はこの辺りにしておきましょう。

青葉「具現化、ですか・・・。」

大丈夫この世界魔術も存在する何らおかしくはない。

青葉「アッハイ。」


沢山の閲覧、コメント他誠にありがとうございます。もう何と言いますか、皆さんの御期待に少しでもお応えしたいが為に半ばその心情が強迫観念と化している感はありますが、更新は続けて参りますので、今後とも宜しくお願いします。

では行きましょう、どうぞ。


第2部6章~内洋制圧~

2053年1月7日10時22分 中央棟2F・提督執務室

 

 

秋雲「秋雲着任~、提督、よろしくねぇ?」

 

提督「あ、あぁ・・・よろしく。」

 

どうしてこうなった?

 

ことの発端は1時間半ほど前だった。

 

 

 

 

 

8時57分 提督執務室

 

 

提督「やりますかねぇ~。」

 

大淀「はい!」

 

金剛「OK!」

 

 

バタン

 

 

明石「提督っ!」

 

執務を始めようとしていた直人達の元にノック無しでやって来たのは明石だった。

 

提督「・・・ノックはしような?」

 

勿論咎める直人、少しばかり驚いて姿勢を崩していた。

 

明石「あっ、す、すみません・・・。」

 

提督「いや、いい。それよりどうした?」

 

明石の慌てた様子を悟った直人が姿勢を正して訊いた。

 

明石「いや、それが―――」

 

提督「・・・?」

 

 

 

提督「一つドロップ判定を忘れていたぁあ!?」

 

明石「は、はい・・・すみません・・・。」

 

こんな事は前代未聞である。直人も驚きの余りつい大きな声が出てしまった。

 

大淀「明石さん、しっかりして下さい・・・。」

 

明石「で、でも発注を受けた件で頭が一杯で―――弁解の余地もございません。」

 

提督「あ、いや―――別に叱責する気も無いよ、迷惑かけたのは俺の方だ。その代わり、大至急ドロップ判定をやって貰えないか?」

 

その言葉に対して明石は難色を示す。

 

明石「うーんと・・・準備とか結構時間かかりますし、今急ぎで仕上げてる作業もありますので、少しお待ち頂けないでしょうか?」

 

提督「あー・・・そうなのか。分かった、では待つとしよう、執務もある事だし。」

 

明石「分かりました!」

 

そう言うと明石は急いで執務室を出ていった。

 

提督「急ぎで上げないといけない仕事・・・?」

 

大淀「艤装の修理、でしょうか・・・?」

 

 

 

明石(提督の艤装修理、急いで仕上げなきゃ・・・。)

 

ご明察であった。

 

 

 

そしてその1時間半後、秋雲着任と相成ったのである。

 

明石「では私はこれにて。」

 

提督「うん、ありがとう。」

 

大淀「確か今、訓練の時間でしたね。」

 

提督「そうだな、神通に連絡を入れておけ。秋雲は、早速だが訓練に合流してくれ。配属は追って知らせる。」

 

秋雲「あ、はい、了解です・・・。」

 

若干嫌そうな秋雲であった。

 

提督「はいはい露骨に嫌そうな顔しない、流した汗の分だけ、血を流さずに済むんだからな。」

 

秋雲「はい・・・。」

 

見事に顔に出ていたのだった。

 

 

 

1月7日15時29分 中央棟1F・無線室

 

 

大淀「・・・。」サラサラ・・・

 

大淀はレシーバーから流れてくる本土からの無電―――勿論函数暗号だが―――を素早くメモしていた。

 

大淀「・・・これは・・・。」

 

大淀はメモしながら記憶の範疇である程度解読してみたのだが、その通信文は、軍令部総長からの命令書だった。

 

 

 

15時45分 中央棟2F・提督執務室

 

 

大淀「提督、軍令部から命令書が届きました。」

 

提督「ほう、昨今聞かなかったが来たか。で、上はなんと?」

 

大淀「はい―――」

 

大本営からの命令書はつまりこうである。

 

『セレベス海とその周辺海域に、シナ海から排除した敵艦隊が合流して次第に脅威となりつつある、この為タウイタウイ泊地周辺の制海権が不安定な情勢となっている。

横鎮近衛艦隊には艦隊を出撃させ、同方面にある敵艦隊の中核部隊を掃討し、以って反撃の好機形成に尽力されたし。』

 

提督「―――脅威となりつつある、というのは形だけだな。セレベス方面の敵はそう脅威ではない筈だ。大方暴れ回り過ぎていい加減邪魔になったと言う所だろう。」

 

大淀「いえ、その件についてなのですが・・・」

 

言いにくそうにしながら大淀が言う。

 

大淀「“サンベルナルディノの悲劇”を、お覚えでらっしゃいますか?」

 

提督「忘れるべくもない・・・。」

 

「それで?」と直人の目が言っていた。

 

大淀「その際、残敵掃討に当たられた呉鎮近衛艦隊の報告書なのですが・・・。」

 

提督「・・・隠すな、話してみてくれ。」

 

そう直人が言うと意を決して大淀が話す。

 

大淀「は、はい。残敵掃討を行った呉鎮近衛艦隊は、約半数程度を、取り逃がしたようなのです・・・。」

 

直人は水戸嶋が失態を犯した、と考えかけてそれを改めた。何かしら事情があって追撃を“諦めた”という事にした。水戸嶋の作戦立案は水も漏らさない、その事を彼は知っていたからだ。

 

提督「・・・大体1600から2000隻程度か。」

 

大淀「レイテには1個艦隊が残っていたと言いますから、そう言う事になります。」

 

これはその時撃沈した旗艦播磨が言っていた事でもある為確度は高い。

 

提督「だが、なぜこの時期にレイテの艦隊が・・・まさかっ―――!」

 

いまいち呑み込めなかった直人もここで気づく。

 

大淀「はい、どうやらこの残党が東南アジア方面艦隊の残党軍と組んだようなのです。」

 

提督「―――成程そういう・・・、確かに脅威だな。」

 

その脅威性を認識した直人は、指令を受けるかどうかを考え始めた。

 

提督「ふーむ―――ん? 大淀、ではそのレイテから脱出した敵は、いままで何処にいたんだ?」

 

大淀「それが、行方が知れなかったのです。水戸嶋元帥も急遽追討軍を出そうとしたようなのですが、航空偵察結果も思わしくなく、強行偵察を行おうとしましたが当時マニラにいたパラオ分遣艦隊が行動しており断念した、とのことです。」

 

その答えに直人は顔を少ししかめて言った。

 

提督「成程な・・・まぁ、尻拭いをするついでに敵も潰して来いという事か。厄介な仕事だな・・・。」

 

大淀「ですが誰かがやらなくてはならない事です。」

 

それは分かってはいるのだが・・・と返す直人、ここでひとつ気になった事があった。

 

提督「で? その残党共の基幹艦隊の旗艦は?」

 

大淀「ペーター・シュトラッサークラスの超兵器級だったそうですが、今は恐らくル級eliteが指揮を執っているのではとのことです。」

 

提督「・・・ペーター・シュトラッサーと言えば――――」

 

ペーター・シュトラッサー級の超兵器級深海航空母艦は以前、グァム沖海戦に於いて増援に現れた深海棲艦を率いていた超兵器級である。水戸嶋がこれを撃沈している。

 

大淀「―――もしや・・・。」

 

提督「フッ・・・水戸嶋め、ひょんなところで繋がりおるな。」

 

大淀「呉鎮近衛艦隊があの時沈めた超兵器が、今回討滅対象の艦隊の旗艦だった。とすれば、いなくなった理由に説明が付きます。」

 

提督「時を超えた置き土産、という訳か。ふむ、少し考えて答えを出そう。」

 

大淀「返信はどうしますか?」

 

提督「・・・。」

 

直人は目を閉じ腕を組んで考えた。確かに送るべきなのだろうが、何度も交信するのは機密保全上好ましくない。が、礼儀に則ると言う意味では送らない訳にもいかない―――。

 

提督「――――いや、送らないでおこう。」

 

結局直人は送らない事にした。

 

大淀「宜しいのですか?!」

 

提督「―――良くない。」

 

そう、よくない。

 

大淀「えっ、で、では・・・。」

 

提督「だが、上司への礼儀よりは、我が艦隊の機密保全を優先すべきだと思う。」

 

大淀「は、はい・・・分かりました、そのように。」

 

大淀もそれを理解し引き下がった。

 

提督「俺が奴の尻拭いねぇ・・・ふむ、どうしたものか・・・。」

 

2割ほど「やだねぇ・・・」と考えながらも真剣に考え始めるのだった。

 

そうして直人が思案し始めて二日が経った頃、提督執務室のドアを叩いた者がいた。

 

 

 

1月9日14時18分 中央棟2F・提督執務室

 

 

提督「ようやく書類が片付いて来たな。」

 

大淀「そうですね・・・。」

 

金剛「大変デシター・・・。」

 

 

コンコン・・・

 

 

提督「ん・・・? 入っていいぞ!」

 

 

ガチャッ・・・

 

 

執務室のドアが開く音がする。

 

金剛「oh・・・。」

 

提督「・・・?」

 

金剛の反応に首を傾げる直人。

 

間仕切りの向こうから現れたのは――――

 

 

 

神通「提督、少しだけ、お時間宜しい・・・でしょうか・・・?」

 

不安がちに姿を現したのは、訓練担当の神通だった。

 

提督「珍しいな・・・あ、いや、執務は終わってる、構わんぞ。」

 

神通「では――――」

 

その次に発した言葉に直人は考えさせられたのである。

 

 

 

提督「秋雲が、ねぇ・・・。」

 

神通が相談してきたのは、秋雲の戦闘技能についてであった。

 

神通「正直、あの子を戦闘に出すのは・・・。」

 

提督「・・・少し、手並み見させてくれるか?」

 

神通「わ、分かりました。」

 

提督「・・・。」チラッ

 

金剛「・・・。」(`・ω・´)b

 

以心伝心、と言う間柄になるのにあまりに短すぎる気がしないではない。

 

 

 

14時29分 司令部正面水域

 

 

秋雲「・・・。」(汗

 

提督「さて、腕の程を見せて貰おうか?」^^

 

プレッシャーをかける直人。

 

秋雲の正面には訓練に使う射撃標的用ブイが5つ、秋雲は当然完全武装、特別に雷の電探までも借りてきている。直人と神通は脇に控えている。念の為直人も対潜艤装装備+帯刀で来ている。

 

秋雲「ほ、本当にやるの・・・?」

 

神通「二言は無いですよ?」

 

秋雲「あ、はい・・・。」

 

緊張している秋雲である。

 

提督「・・・。」^^

 

秋雲「ぁ・・・。」

 

この時ばかりは直人の笑顔が心に突き刺さる秋雲であった。

 

秋雲「わ、分かった・・・。」

 

そう応じ、秋雲は主砲を構える。

 

 

ドオォォーーーン

 

 

提督「ハズレ。」

 

 

ドオォォーーーン

 

 

提督「ハズレ。」

 

神通「・・・。」^^;

 

秋雲「あ、あれ・・・?」

 

 

ドオォォーーーン

 

 

提督「ハズレ。」

 

 

ドオォンチュィィィン

 

 

提督「惜しい。」

 

これはヒドイ。

 

秋雲(そろそろまずい・・・。)

 

 

ドオォンチュィィィン

 

 

提督「惜しい。」

 

神通「は、ははは・・・。」

 

秋雲「・・・。」(焦

 

 

 

この後、更に5射するものの、2、3掠めただけで全てハズレ。

 

この日はそこそこ風も強く波が荒いとは言っても、ご丁寧に釣り下げ式バラストもつけた球形ブイなので左右の動揺は少なく上下に揺れる程度である。

 

それでこれとは流石に直人も目を覆った。

 

神通「あの・・・提督・・・?」

 

その様子に不安になった神通が思わず言った。

 

提督「磨けば光る宝玉ならいいがな・・・。」

 

神通「そ、そうですね・・・。」

 

提督「うし、なんとか俺がやってみよう。」

 

神通「宜しいのですか・・・?」

 

そう言うと直人が言った。

 

提督「やるだけはやるさ。」

 

因みに直人は座学を教えるのは得意だが、実技だと別問題と言う一面を持つ。

 

秋雲が戦えるようになるかは半々だった。

 

 

 

提督「もっと腰据えて撃て秋雲!! そんな事で敵を沈められるか!!」

 

秋雲「は、はいいぃぃぃーー!!」

 

 

ドォンドォンドォン

 

 

まぁとどのつまりはスパルタ教育になる。

 

 

ダァンズドオォォォーーー・・・ン

 

 

提督「お?」

 

秋雲「あ、当たった・・・?」

 

提督「当たったな。」

 

当たったようです。

 

提督「まぐれだろうがアタリはアタリだ続けていけぇ!!」

 

秋雲「は、はいっ!!」

 

実際日本海軍はスパルタ教育が中心であり、必然的に上官の部下への当たり方が強くなる訳だが、そうすると堪ったものでは無いのは、兵卒と士官(上官)に挟まれた軍曹や曹長と言った、分隊長クラスの兵である。

 

そう言った事情もあり特に大型艦ではすこぶる風紀が悪かった。特に酷い加賀ではギンバイや私的制裁などはごく普通に行われていたと言うから凄まじいものである。

 

他にも訓練の余りの厳しさに自殺や逃亡者も続出した、と言う話もある程であることからも、日本海軍のスパルタぶりが伺えるであろう。

 

 

 

そうこうしているうちに5日程が経った。

 

直人はこの間、重要な書類を全て終えていた為に執務を大淀と金剛らに任せ、秋雲に付きっきりで特訓をつけていた。

 

砲撃、雷撃、対空戦闘と言った基本的な攻撃基礎訓練から、昼間遠距離雷撃、夜襲訓練などの実践的な訓練まで幅広い訓練メニューを秋雲はこなした。

 

結果はと言うと・・・

 

 

ダアァァンダアァァンダァンドゴオォォォォーーーン

 

 

提督「・・・ふむ、3、4発に1発は当てる様になったか。三流にはなったが・・・。」

 

秋雲「ど、どうです・・・?」

 

提督「三流だな。」

 

秋雲「え・・・。」

 

そう、静止目標に対し命中率1/4~1/3と言うのは、艦娘としては言わば三流クラスの戦闘力と言えるのだ。

 

一流と言えるのは、一撃で命中させるか2発で当てるかするレベル、二流は2から3発で命中させる。が・・・

 

提督「当てるのはいいが散布界が広すぎる。」

 

秋雲「は、はははは・・・。」

 

乾いた笑いしか出ない秋雲であった。

 

提督「笑ってる場合か。どうやら秋雲は、艦娘でありながら戦闘には向かないと見える。」

 

苦々しい口調で言った。

 

提督「何か得意な事とかないのかい君は・・・。」

 

頭を掻いて言う直人だったが、それにシャキッとして答えたのは当の秋雲だった。

 

秋雲「絵とか書くのは、得意です!」

 

提督「・・・。」・・・

 

絵、ねぇ・・・。

 

得意満面と言う様子の秋雲だったが、直人から見ればその時は特に参考にもならない特技だった為、余計に頭を悩ます羽目に陥っていた。

 

 

 

1月14日17時37分 食堂棟1F・食堂

 

 

提督「へぇ、最近『横鎮広報』が不振、ねぇ。」

 

青葉「はい、一時期はその話題性で売れていたんですが、最近徐々に売り上げが下降線みたいで・・・。」

 

直人は食堂で、この日偶然来ていた青葉と話をしていたのだが、その話題が青葉の出す新聞に及んでいた。

 

そもそも直人がなぜここにいるのかと言うと、直人はこの時期、暇な時間になると一人食堂にたむろする事が多くなっていた。それも真摯な表情で、今後の方針を思案しているのだった。

 

提督「なにか、策はあるのか? 売り上げ回復の。」

 

青葉「広報部全員で日々考えてはいます、でも妙案が無くて・・・。」

 

提督「妙案、ね・・・。」

 

直人は少し考える。

 

提督「話題性・・・ね、それを生む手段としては、どんなことがあり得るかな・・・。」

 

青葉「そうですね・・・例えば漫画とか、でしょうか・・・。」

 

提督「漫画、か・・・漫画?」

 

そのワードが、直人の脳内で引っかかった。

 

青葉「どうかしました?」

 

提督(漫画・・・絵・・・秋雲・・・・・・ふむ。)

 

直人は一つ策を思いついた。それは、青葉と直人、双方にとって利益となり得るものだった。そして直人は青葉にこう言った。

 

提督「ひょっとすると、解決するかもしれんぞ。」

 

青葉「―――――?」

 

 

 

1月15日9時11分 中央棟2F・提督執務室

 

 

提督「駆逐艦秋雲を、青葉直属とする。」

 

青葉「えぇっ!?」

 

秋雲「ど、どういうこと・・・?」

 

その辞令は、昨晩の内に作られた正式なものとしても残っている。

 

提督「つまり、横須賀へ出向だな。」

 

秋雲「な、なんで!?」

 

その疑問に直人は答えた。

 

提督「一つは、戦闘に向かない者を無理に戦わせる事は出来ないと言う点、今一つは、お前、絵が得意だと言ったな?」

 

秋雲「う、うん・・・。」

 

提督「その才幹を、青葉の為に役立ててやって欲しい。これが理由だ。」

 

実際にはその才能の程を見た訳では無かったのだが、得意と言うならやらせてみよう、と言う腹積もりであった。

 

秋雲「一体何の役に・・・」

 

青葉「ありがとうございます、提督!! これで新聞の記事にも華が加わりますね!」

 

提督「だといいのだがね。応援しているぞ、青葉。」

 

青葉「はい!」

 

ここまで聞いていると、秋雲にも事の次第がおおよそ理解出来て来た。

 

秋雲「新聞の紙面を飾る仕事、ですかね・・・?」

 

提督「そう言う事だ、適材適所は人事の基本、そうだな? 大淀。」

 

大淀「その通りですね、提督。」

 

この点については、艦娘にとって非の打ち所の無い正論であった。

 

秋雲「ふーむ・・・了解! 引き受けるよ!」

 

提督「あぁ、頼んだぞ。青葉、お前も頑張れよ。」

 

青葉「恐縮です! 青葉、もっと頑張りますね!」

 

こうして一つの問題が片付いたのであった。

 

 

 

青葉と秋雲が退室した後、直人は大淀と話をしていた。

 

提督「問題一つ、解決だな。」

 

大淀「はい。」

 

提督「あとは―――」

 

直人は、執務机の正面にある、秘書艦席を見遣って言った。

 

そこに本来座っている筈の金剛の姿はない。椅子もすっかり冷え切っている。

 

大淀「きっと金剛さんなら大丈夫です、作戦の成功を、祈りましょう。」

 

提督「そうだな・・・。」

 

 

 

ここから時系列を遡るが、1月14日19時47分、会議室で作戦ブリーフィングが開かれていた。

 

提督「では状況を説明する。」

 

一定の緊張感が張り詰められた会議室で、直人は直人は作戦説明にはいった。

 

提督「先日大本営より、セレベス海方面制海権確保を行う様にとの要請が入った。現状セレベス海にはその外縁部に、タウイタウイ泊地が存在するが、そのセレベス海の制海権が敵に帰する危険が出てきた。」

 

初春「む? ならばそのタウイタウイ泊地の艦隊に任せて置けばよいのではないのかの?」

 

提督「いい事を言った。だがそれが不可能な状況だったのだ、我々がここに来るまでは、な。」

 

初春「ふむ?」

 

初春は要点を得なかったが、直人は説明を進める。

 

提督「元来この海域には、インドネシア方面の深海の大勢力が所在し、その旗艦に超兵器級深海棲艦、ペーター・シュトラッサークラスが在泊していた。タウイタウイ艦隊はこれが為にセレベス海に出る事さえおぼつかぬ情勢にあったし、泊地自体もこれまで何度も空襲を受けている。」

 

初春「なるほどのう・・・。」

 

換言すれば、このペーター・シュトラッサー率いる深海極東艦隊が、その有り余る大兵力を持て余す事なく、タウイタウイ泊地に対しかなりの圧をかけ続けていたが為に、セレベス海の制海権争いでは艦娘側がかなり不利な立場に置かれていた訳である。

 

提督「だが、突如としてこの旗艦たる超兵器が姿を消した。厳密にはグァム沖で戦没したとみられるが、このことが発覚したのはつい最近と言っていい。のだが、気付かなかったのにも理由はある。」

 

ここで菊月が意外な事を口にした。

 

菊月「フィリピン沖で敵が温存した戦力、か?」

 

誰から聞いたんだと思いつつ直人は続ける。

 

提督「あぁ、そうだ。それがセレベス海の敵勢力と合流し、タウイタウイに対して幾度となく圧をかけてきたが為に気付くに至らなかった、と言うのが実態のようだ。だがリンガやパラオ艦隊と数戦交えており、敵が消耗して来た為その圧迫が緩まった事で、その事実が発覚した、と言う次第らしい。」

 

霧島「提督、いいですか?」

 

そこへ挙手したのは霧島だった。

 

提督「どうぞ。」

 

霧島「では。今回は残敵掃討作戦、と言う事になるでしょうか?」

 

提督「残敵ではない、現に敵はまだ基幹戦力と、主力艦隊のほぼ全力を残しているからな。言ってしまえば、敵の増援が来ない内にセレベス島周辺から、敵戦力を一掃してしまおうと言う具合だな。」

 

霧島「それでは今回も全力編成ですか?」

 

提督「いい質問だが制号作戦で膨大な出費をした分、我が艦隊にもあまり余裕があるとは言い難い。それに敵も主力は残存しているが、取り巻きは殆どが既に潰滅している。よって今回は、精鋭部隊を中心に固め、少数の艦隊で出撃する。」

 

これまでは全艦隊を以って圧倒するスタイルを取り続けてきたが、この時期それをする理由も、その余力もないが為の措置であった。実際損傷艦の修理もまだ万全とは言えなかった。

 

提督「では編成を発表する。」

 

直人がその編成表の紙を開く。艦娘達は固唾をのんで直人に視線を集中する。

 

提督「第一水上打撃群、金剛・榛名・蒼龍・羽黒・摩耶・鈴谷・筑摩・大井・木曽、及び一水戦川内以下六駆・十一駆・二十一駆。」

 

これに驚いたのは、第一艦隊の面々であった。

 

扶桑「一体どういう・・・?」

 

山城「第十一戦隊は第一艦隊の指揮下の筈です!」

 

そう、驚いたのは他でもない、編成表では第一艦隊麾下と定められている筈の第十一戦隊(軽巡大井・木曽)が、第一水上打撃群所属になっているのだ。

 

提督「あぁ、すまない、これを期に前回編成表にいなかった者も含め編成を刷新する事にしたんだ。そこも含め説明するから聞いて置いてくれ。」

 

直人がそう言うと先程起こったざわめきも短い間で終息した。

 

提督「第一艦隊第十一戦隊は第一水上打撃群へ転出、一航艦第十戦隊旗艦球磨は多摩と共に第十三戦隊を編成して第一艦隊へ転出、後任に長良を充てる。あと鈴谷と筑摩で第八戦隊を編成する。」

 

扶桑「そう言う事でしたか・・・では異存はありません。」

 

提督「うん。次いで新規編入だが、第十三戦隊として一航艦から転出する多摩に代わり那珂を一航艦へ、隼鷹を六航戦に、三航戦に龍驤を配し名称を五航戦に変更する。また二水戦指揮下に十六駆を編入する。」

 

神通「・・・成程、あくまで形式上、ですね?」

 

提督「そうだ。作戦部隊は先程の一水打群に加えて、第一艦隊より第二戦隊第一小隊、第一艦隊二水戦から二駆、第一航空艦隊より一航戦、一航艦第十戦隊から七駆と十九駆を暫定的に一水打群の指揮下に編入する。」

 

とどのつまり編成表は次のようになる。

 

 

第1水上打撃群

旗艦:金剛

第三戦隊第一小隊(金剛/榛名)

第二航空戦隊(蒼龍/飛龍)

第十一戦隊(大井・木曽)

第十四戦隊(鈴谷・筑摩)

随伴:羽黒・摩耶

第一水雷戦隊

川内

第六駆逐隊(響/雷/電)

第十一駆逐隊(初雪/白雪/深雪)

第二十一駆逐隊(初春/子日/若葉)

 

応援部隊

第二戦隊第一小隊(扶桑/山城)

第一航空戦隊(赤城/加賀)

第二駆逐隊(村雨/五月雨/夕立)

第七駆逐隊(漣/潮)

第十九駆逐隊(磯波/綾波/敷波)

 

合計

戦艦2隻・航戦2隻・空母3隻(飛龍欠員)・重巡3隻・軽巡2隻・雷巡1隻・駆逐艦17隻

 

提督「以上の戦力を金剛に預ける。」

 

金剛「了解デース!」

 

提督「第一水上打撃群の任務は、可及的速やかにセレベス島周辺に遊弋する深海極東艦隊残存部隊を捕捉、これを撃滅ないし撃退、或いは崩壊へと至らしめるにある! 各員の奮戦に期待するや切である!!」

 

金剛「イエスサー! 第一水上打撃群、出撃しマス!!」

 

提督「うむ、健闘を祈る。それと飛龍、君には基地航空隊から長距離偵察隊を編成し、セレベス方面への偵察を行って貰いたい。キ91なら可能なはずだ。」

 

飛龍「了解!」

 

提督「うむ、では一同解散して宜しい。」

 

一同「はいっ!」

 

一足先に出た一水打群の出動艦娘に続き、残留艦娘達も会議室を後にする。

 

 

 

提督「・・・はぁ。」

 

少し疲れた様子の直人。

 

大淀「お疲れ様です、提督。」

 

「貴様が出撃せぬとは、珍しい事もあったものじゃのう。」

 

提督「!」

 

そう言ったのは初春であった。

 

初春「一体どういう風の吹き回しかえ?」

 

提督「俺が動くのに使う燃料も弾薬も不足では、どうにもなるまい・・・。」

 

口惜しそうに言って見せる直人。

 

初春「なるほどのう、それは致し方ないのじゃ。」

 

提督「と、言うのが表向きの理由さ。」

 

初春「む・・・?」

 

口調を戻して言う直人に初春が疑問の視線を送る。

 

提督「今まで散々暴れ回ったが、そろそろあいつらにも経験を積ませてやらねば、と思ったのさ。俺に依存されても困るしな。」

 

初春「ほう・・・最もじゃの、結構結構。ホホホホ・・・」

 

そう言いながら初春は扇子を広げて扇ぎながら、会議室を立ち去って行ったのだった。

 

 

 

提督「上手くやってくれるかね、金剛達は。」

 

大淀「きっと、上手く行くと思います。」

 

昨晩出撃した金剛達第一水上打撃群は、一路セレベス海へと韜晦していた。

 

これを追う様に15日午前6時57分、サイパン飛行場から18機のキ-91戦爆が発進、途中6機が故障で引き返し、残った12機がセレベス海を目指して飛行していた。

 

提督「艦隊の当該海域到達は明日、だったな?」

 

大淀「はい。」

 

提督「そうか・・・とりあえず、無事に戻って来てくれる様に、祈るだけだ。」

 

大淀「はい・・・。」

 

直人は、遠い洋上にいる艦娘達に、思いを馳せるのだった。

 

 

 

2053年1月15日9時59分 司令部裏ドック岸壁

 

 

提督「・・・。」ザッ

 

神通「そこ! 動きが鈍っていますよ!!」

 

白雪「は、はい!」

 

直人はこの日、どういう風の吹き回しか訓練風景の視察に来ていた。

 

大淀「今のところ、訓練の方は滞りなく進んでいますが、人数の増加によって一人の手にはどうにも余るようでして・・・」

 

提督「ほう、と言う事は教官の増員が必要か?」

 

大淀「はい、こと航空戦に関する限りは、神通さんは専門ではありませんから。」

 

神通も空母艦娘の訓練に関しては、鳳翔に意見を聞いている面も強いようである。

 

提督「確かに神通は砲雷屋だからな・・・だが鳳翔に任せる訳にもいくまいと思うが・・・。」

 

大淀「恐れながら提督。」

 

提督「む?」

 

急に畏まった大淀に直人は疑問を覚えた。

 

大淀「鳳翔さん以外の何者が指導しても、一部の艦娘は納得がいかないかと思われます。」

 

提督「・・・。」

 

これは道理である。

 

赤城が指導したならば「どうせなら鳳翔を」となるであろうし、仮に瑞鶴がいたとして指導しようもんなら「何故後輩に指導されなければならないのか」ともなろう。

 

大淀が言うのはその点であり、この点の問題を払拭するには鳳翔を航空戦教練教官に付けるしかない、と言う事であった。

 

提督「・・・あとで打診しておこう。」

 

大淀「ありがとうございます。」

 

提督「勘違いはするなよ、あくまで打診するだけであって、命じる訳ではない。鳳翔さんも日頃何かと忙しいのだしな。」

 

厨房を任せているだけに、鳳翔は毎日多忙を極めていたのだ。

 

「お話は伺いました。」

 

提督「!」

 

気付けば神通が直人の傍らに来ていた。

 

神通「差し出がましいようですが・・・」

 

提督「ん? 話してみるといい。」

 

躊躇いがちに言う神通に直人はそう言った。

 

神通「は、はい。では・・・鳳翔さんがお忙しいのは、提督が“毎日”厨房を任せていらっしゃるから、ですよね?」

 

提督「・・・成程、神通の言は聞くべき価値を含むようだ。もう少し具体的に聞こう――――。」

 

 

 

1月15日10時23分 食堂棟1F・食堂

 

 

鳳翔「私が、航空戦教練を、ですか?」

 

その打診を受けた時、鳳翔は意外そうな顔をした。

 

提督「そうです、鳳翔さんなら内海で沢山の新人搭乗員育成を行ってきた。適任だと、思うのだが・・・。」

 

鳳翔「ですが、私厨房のお仕事がありますし・・・」

 

まぁ当然の切り返しであっただろう。しかし直人はそれを問題としなかった。

 

提督「いえ、その懸念は無効です、鳳翔さん。」

 

鳳翔「はい・・・?」

 

提督「無効というのはつまり、厨房の担当を艦娘の持ち回り制にしようと思っているんです。」

 

これは神通の提案であった。そしてこれは十分に実現性を含むものだった。

 

満潮の例にみられる様に、艦娘達にも料理の出来る者がいる事が、その証明である。

 

鳳翔「持ち回り制、ですか。」

 

提督「えぇ、鳳翔さんに毎日多大なご苦労をお掛けした事には常々悪いと思っていたんです。でも、艦娘達にも料理が出来る子達はいますし、それをこの際利して、鳳翔さんのご負担を、少しでも減らそうと言う訳です。」

 

鳳翔「そう言う事でしたか・・・。」

 

鳳翔が思案顔になる。

 

提督「鳳翔さんにはその担当の艦娘達の監督と、食材の管理を、引き受けて頂ければと思います。これだけでも、かなり楽になると思います。」

 

監督して貰う意味は、諸提督らには既にお分かりの事と思われる為ここでは敢えて述べない。

 

鳳翔「・・・分かりました。そう言う事でしたら、お引き受けしましょう。」

 

提督「良かった・・・ありがとうございます。」

 

ホッとした直人に鳳翔は言う。

 

鳳翔「多分私がご指導して差し上げないと、万人が納得しないでしょう?」

 

提督「・・・!」

 

お艦の慧眼に改めて敬意を払う直人であった。

 

 

 

その後直人は再び訓練の視察に戻ったのだが、この日直人の目の前で驚くべきことが起こった。

 

それは司令部防備艦隊の砲撃訓練中に起きた。

 

 

 

11時26分

 

 

ドォォンドォォン・・・

 

 

皐月(司令官が見てる・・・頑張らなくちゃ!)グッ

 

神通「次、皐月さん!」

 

皐月「はい! 行きます!」

 

射撃標的は横並びに5つ、これを標的の列と平行に航走し、砲撃を行うと言う方式で行う。

 

提督(さて、どうかな・・・?)

 

 

ドォォンズドオォォンズドオォォンズドォォンズドォォンズドォォン・・・

 

 

提督「―――――!?」

 

皐月「えっ・・・」

 

皐月の放った砲撃は命中率100%、しかも全て爆砕すると言う芸当をやってのけたのだ。

 

神通「よく出来ました。」

 

皐月「や、やったぁ!!」

 

提督「―――やるねぇ・・・。」

 

因みに大淀はこの時もう無線室に戻っている。

 

なおこの男、曲芸射撃なら命中率は9割台に乗せている。が、艤装での砲撃は艤装の照準モジュールに頼っている節が強い。

 

提督「―――ほんとに、大したもんだな・・・。」

 

そう呟く直人の心境は少々複雑でもあったが。

 

 

 

12時27分 食堂棟2F・食堂

 

 

皐月「あっ、司令官!」

 

提督「お? おぉ、皐月か。」

 

皐月に呼び止められ振り向く直人、その表情はいつも通り少し笑っている。

 

皐月「司令官、ボク今日の訓練で、砲撃用の的に全弾命中させたんだ! 見ててくれたかい?」

 

提督「あぁ、見てたとも・・・上達したな、皐月。」ポンポン

 

皐月の頭を軽く叩く直人。

 

皐月「へへっ。これ位出来なきゃ、ここを守り切れないからね! まだまだ、頑張るよ。」

 

提督「・・・そうか、そうだな・・・。」

 

皐月を戦場に送り出したくない直人の想いに反して、皐月は皆の帰る場所を“護る為”にその才覚を目覚めさせていく。

 

彼の想いは、至極複雑であった。

 

提督(全く、どうしたものか・・・。)ポリポリ

 

そう心の中で苦笑する直人であった。

 

 

 

1月17日9時05分 中央棟2F・提督執務室

 

 

大淀「提督、第一水上打撃群より入電です。」

 

提督「聞こう。」

 

大淀「“午前8時58分、我ミンダナオ島北東海面に進出せり、セレベス海突入予定は、一一二八時”、とのことです。」

 

直人が今回留守番の理由、それは鈴谷が建造中であるからであった。これが完成しない事には、直人も出撃するつもりが無かったので留守番を買って出ていたのだ。

 

提督「・・・そうか。いよいよだな。」

 

大淀「はい、吉報を待ちましょう。」

 

提督「・・・。」ポリポリ

 

頭を掻く直人。直人にとってこの選択は間違いではないにせよ、彼自身に相当な忍耐を強要する事になった感は否めない。

 

彼は元々前線指揮官に向いた気質であり、後方からあーしろこーしろと命じる事には向かないタイプの指揮官である。である為今回の作戦に関する限りは、金剛にその全権が委ねられていた。

 

 

~ミンダナオ北東沖~

 

金剛(提督のお手を煩わせることは無いデース。油断せず、戦況を見極める、いつもと同じデス・・・。)

 

鈴谷「金剛さん! 索敵飛ばす?」

 

金剛「飛ばしまショー! 各艦1~2機の水偵を射出して下サーイ!」

 

扶桑「は、はい!」

 

榛名「索敵範囲はどうしましょう?」

 

金剛「・・・デハ、20度間隔、2段索敵デス。」

 

榛名「はい!」

 

直人が後方で心配からくるイライラに苛まれていた頃、出撃した艦隊は手際よく索敵機を発艦させていた。

 

蒼龍「母艦航空隊はどうしますか?」

 

金剛「・・・出撃態勢で待機デース。」

 

蒼龍「はい。」

 

金剛「敵を発見次第、航空攻撃で一撃を加えマス、なのですぐに出られるようにしておいて下サーイ。」

 

赤城「分かりました。」

 

金剛は素早く指示を飛ばしていく。

 

金剛(提督、見ていて下さいネー。)

 

 

 

提督(金剛の手腕、見せて貰おうか。)

 

直人は実戦を通して、艦娘の指揮手腕を見せて貰うつもりでいた。今回たまたま金剛の番だっただけの事である。

 

 

コンコン、ガチャッ

 

 

陽炎「司令!」

 

提督「・・・入って良いとは・・・まぁいいか。」

 

頭を抱える直人だったが。

 

陽炎「いいじゃない細かい事は。哨戒十班、出動します!」

 

提督「うむ、気を付けてな。」

 

直人はそう言って、陽炎を送り出す。

 

大淀「最近皆さんはっちゃけてきましたね・・・。」

 

提督「オマエモナー」

 

そういう大淀がそんなことをいう方が一番はっちゃけていると思うのは彼だけだろうか。

 

提督「しっかしまぁ・・・」

 

直人が背もたれにもたれかかり、頭の後ろで腕を組みつついう。

 

大淀「?」

 

提督「秘書艦いない執務って、結構大変だ。」

 

大淀「・・・はぁ。」

 

結局のろけが出る直人であった。

 

 

 

それで呼ばれるのが・・・

 

 

 

朝潮「お呼びでしょうか。」ザッ

 

並外れた事務処理能力を持つ駆逐艦、朝潮であった。

 

大淀(まぁ、らしいといえば・・・)

 

提督「うむ、さっそく本題だが、金剛不在の間、秘書艦代行をして貰いたい。」

 

朝潮「私が、ですか・・・?」

 

提督「そうだ、頼めるか?」

 

朝潮は少しだけ躊躇った後言った。

 

朝潮「はい! 謹んで御受けします。」

 

提督「ありがとう、助かるよ。」

 

艦娘にとってこの申し出は、本来願っても無い栄誉である。それだけ提督の信任を得たと言う事を指し示すからであるから、尚更であろう。

 

世の中にそれを理解しない提督が多過ぎる事もまた事実ではあったが、少なくともことこの艦隊内に於いては、その価値は何物にも勝る栄誉であり続けていた。

 

 

 

戦闘が開始されたのは11時35分、7分前の28分にダバオ南方から西向き(反時計回り)に突入した艦隊より、索敵機からの報告に基づいて先行した一水戦の川内と麾下の第六駆逐隊によってその第一撃が放たれる。

 

それを本隊が知ればすぐ後方に控える金剛ら高速打撃戦隊が急行して迅速な展開を行い痛打を加える。体勢を崩したところで、先行して予め展開した水雷戦隊の駆逐艦部隊が左右から魚雷と共に突進しこれを混乱させる。

 

そして満を持して第二戦隊の戦艦部隊が突入し、その火力を以って敵を圧し、先立って攻撃を加えた高速打撃戦隊が後退する敵を追撃してこれを潰走に変える。これが直人の考えた、「水上打撃群」という編成体系理論の全貌である。

 

本来これには、初動として艦隊接敵前の航空攻撃が付くのだが、今回の相手は哨戒中と見られる水雷戦隊だった為、航空攻撃を出す事はしなかったのだ。

 

 

 

11時59分 中央棟2F・提督執務室

 

 

提督「そうか、最初の戦闘は快勝か。」

 

大淀「その様です、被害は殆ど無いとのことです。」

 

直人はその報告に会心の笑みを浮かべる。

 

提督「それは何よりだ―――俺の理論が、立証されたか。」

 

大淀「いえ、航空攻撃を行わなかったようですのでそこまでは。」

 

提督「む、そうなのか。」

 

少々残念そうにしていたが落胆はしていなかった。

 

提督「ではもう暫く待つ事にしよう。恐らく5時間以内に決着が付くはずだ、俺の理論が正しければ、な。」

 

大淀「はい。」

 

提督「いよいよ始まったか・・・奮戦に期待しよう。」

 

直人は自分が戦いたい欲を抑えながら、昼食を取りに席を立ったのだった。

 

 

 

12時18分 セレベス島ケンダリー沖

 

 

ル級elite「ホウ? マカッサル海峡*1カラ機動部隊ガ突入スル、ト?」

 

チ級「ハイ、ソノヨウデ。」

 

ル級elite「ヨシ、デハソノ動キニ合セテ少ズツ動クトスルカ。」

 

チ級「ハッ。」

 

 

 

ここでセレベス島に付いて少し触れておこう。

 

セレベス島(現:スラウェシ島)は、インドネシアの領土の一角を為す島で、ヒマラヤ造山帯と環太平洋造山帯がぶつかる地点という地政学上、特徴的なK字型の島である。日本の様に山が多く平地が少ないのだが、太平洋戦争前にはオランダ領東インドの一部となっていた。

 

戦争が始まると蘭印作戦序幕であるセレベス北部・メナドへの海軍陸戦隊による上陸/空挺降下を発端として陸戦が各地で発生、全島が制圧され、蘭印方面制海権確保の一翼を担う重要拠点となった。戦争が終わるとインドネシアの独立に伴って、インドネシア共和国の一部となった。近年までイスラム系過激派組織によって政情不安となっていた事でも知られる。

 

今回セレベス海に来たのは別段この島の深海棲艦勢力圏からの解放が目的ではない、その敵の制海権安定にドデカい楔を打ち込む事こそが、その主目的である。その為にこそ、敵基幹艦隊に打撃を与える必要があるのだ。

 

金剛(まずは捜索デスネ、昨日の偵察ではセレベス海一帯の敵情しか掴めてないデース。)

 

鈴谷「偵察機、一度戻す?」

 

金剛「ン・・・そうデスネ、戻しマショー。」

 

鈴谷「OK!」

 

因みにこの時第一水上打撃群は南南西に進路を取っている。マカッサル海峡の入り口東端を目指す形になる。

 

理屈は簡単、タウイタウイ泊地に接近し過ぎないようにする為である。それともう一つ、くまなく探していては時間が無い事が挙げられる。

 

そもそも今回は基幹艦隊撃破が目的で、取り巻きの雑魚に構っていられない、というのが本当の所であった。

 

因みにこの時直人はというと、後方で戦力の増強策を取っていた。

 

 

 

12時21分 食堂棟1F・食堂

 

 

大淀「母艦搭載機の機種転換・・・ですか?」

 

提督「んむ・・・むぐむぐ、ゴクッ・・・」

 

直人は大淀と会食していたのだが、その時話題としてそれを切り出したのは、直人がふと思い至ったからであった。

 

提督「手始めに六航戦から始めていこうと思う。全機種1段階進める。あと飛鷹と祥鳳はもう改装できる筈だ。」

 

六航戦旗艦飛鷹や祥鳳も、既に数度の実戦を経験し、その都度に戦果を挙げているし、明石からも打診はあった為、これを期にまとめて改装する事を考えついたのだ。

 

大淀「そうですね・・・それについては分かりましたが、隼鷹さんはどうしますか?」

 

提督「隼鷹は着任して日も浅い、今回は、搭乗員の習熟を理由に見送るとしよう。機種転換をするにも、一種の勘がある程度培われていなければ、乗りこなす事は容易ではない。マニュアルの相違もそうだが、それぞれの機体によって運動特性も性能も異なるのだからな。」

 

大淀が食しながら頷く。

 

提督「一航戦は戻り次第準備、それが完了したら、一航戦の機種転換の完了を待ってすぐに。その他も一戦隊ごとに順次行う。」

 

大淀「では慣熟訓練は如何しますか?」

 

提督「そうだな、1週間あればいいだろう。」

 

大淀「分かりました、その方向で取り計らいます。」

 

提督「頼むぞ、そろそろ敵も本腰を上げてアジア方面に戦力を集中し始める筈だ。これまでの様に、旧式機材でも一定の戦果を挙げられると言った事は少なくなるだろうしな。」

 

 これまで主に小型空母隊は、九六式艦戦が制空隊の主体であった。零戦に勝るとも劣らない機動力を持っていたが、この機体が装備する機銃の口径は僅かに7.7mmであり非常に貧弱であるばかりか門数も機首固定の2門しかない。その上母艦搭載機としては航続力にも欠ける。

これに比べれば大型空母や鳳翔搭載の零戦二一/二二型は非常に優秀で、20mm2門と7.7mm2門の武装と軽快な運動性能、1000kmを超える作戦行動半径など素晴らしいの一語に尽きる。半面防御がごく貧弱ではあるが、搭乗員が優秀であれば問題にならない。

航空戦力の強化は、今後の海戦を勝ち抜く上で必要欠くべからざる重大な要素であることは、戦闘機の性能差からも目に見えて明らかであろう。

 

大淀「勿論承知しています。これに関しては、万全を期します。」

 

提督「手間をかけるな。」

 

大淀「これが仕事ですから。」

 

実際大淀と金剛は、二人で分担して艦隊内の事務関係を一手に担っているのである。その内の金剛が艦隊運用全般、大淀は後方で戦略物資の管理、情報の伝達など後方事務の一切を担う。

 

一方の直人は艦隊の頭脳の中枢として鎮座して艦隊の運用方針や戦術的指揮、戦略方針策定などを行う。

 

ここで重要なのは直人はあくまで頭脳の『中枢』であるに過ぎない点である。

 

提督「俺達の戦いは、始まったばかりなんだ。恐らくこれまでの道のりは、ほんの序幕に過ぎないだろう。それだけ、苛烈な戦いが幕を開けるって訳さ。」

 

大淀「・・・提督。」

 

提督「なんだ?」

 

大淀の声の調子が変わる、深刻な、憂いを含ませた声で大淀は言う。

 

大淀「我々は、勝てるのでしょうか・・・?」

 

提督「・・・。」

 

これは、誰にも答えの出せない命題である。

 

深海との戦いは早くも長期化の構えを見せていた。これは深海棲艦が、怒り任せに突っ込んでくるような知恵の無い存在ではない事を如実に示していた。

 

今地球の海洋で起きようとしているのは、深海棲艦と人類の、大洋を二分する戦乱の、ほんの幕開けに過ぎなかったかもしれない。

 

提督「我々は、恐らく“負けはしない”。」

 

大淀「・・・。」

 

提督「だが同時に、勝利と呼べるものを得られるかどうか、という確証も、これもまた“ない”。」

 

大淀「・・・成程・・・。」

 

 『負けはしないが勝ちもしないだろう』と言うのが、この時からずっと続く直人の本音であった。勝利とは、ただ屈服させたと言う事ではなく、『どの様な過程を通って勝ち得たか。』と言う部分に尽きる。

例えば日露戦争の例にある様に、確かに日本は海上に於いては日本海海戦のほぼ無血の完全勝利、陸では奉天会戦の勝利によって講和会議が開かれたとはいえ、この時に至ってもロシアの軍備は未だ膨大であった。こと極東陸軍はその主力が北方へ退避したとはいえ、反撃の構えは十全に出来る状態にあった。だがロマノフ王朝はバルチック艦隊の壊滅に、それ以上の大打撃を受ける事を恐れて戦意を喪失していたので、講和のテーブルに付く事を承知したのである。

一方の日本陸軍は攻勢の限界点に達しており、兵員武器弾薬の損耗も著しく、貧弱な兵站で何とか食い繋ぐと言う有様であったから、講和のテーブルに付く他は無かったのである。これが勝ちと言えようか。

 一般的に日露戦争は日本の「勝利」とされるが、筆者は誤りだと思う。精々両者グロッキーによる引き分けがいい所だろう。事実ロシアは戦争の余力はあったが日本の国力は既に払底し、講和条件に於いても日本側の賠償請求は遂に認められなかったのである。

 

提督「我々は既に十分過ぎる程、艦艇と兵員を失い、艦娘達を多く沈め過ぎた。血は既に、流れ過ぎている。この上で戦争を継続したって、誰も勝ちとは認めないだろうし、勝ちまで持って行く余力は、今のところはない。」

 

大淀「そうですわね・・・敵の総兵力さえも判然としない中で、そんな余力が我々にあるとは思えません。」

 

提督「そうだ。だからこそ我々は力を増強しなくてはならん。際限なく、何処までもな。」

 

大淀「はい。」

 

 

 

午前13時13分 セレベス海南部

 

 

金剛(なんてことを、今頃考えてるデショウネ。)

 

流石金剛、お見通しである。

 

この時金剛らは、セレベス島北西部の小都市、トリトリのほぼ真南の方角にいた。

 

加賀「敵機来襲! 迎撃出します!」

 

金剛「お願いしマース!」

 

加賀の通報に金剛が素早く対応する。

 

蒼龍「さぁて、迎撃しますか!」

 

蒼龍がいの一番に矢を番えて放つ。

 

一航戦も次いで艦載機を放ち始める。

 

金剛「迎撃機発進次第針路九〇、両舷全速でここを離れマス!」

 

榛名「えっ!?」

 

赤城「収容はどうするんですか?」

 

金剛「ゴロンタロ北方沖で拾いマショー。」

 

この言で納得した赤城。

 

赤城「分かりました。」

 

そして得心の行った艦娘もいた。

 

摩耶「・・・成程、そう言う事か。」

 

羽黒「ど、どういう事でしょう?」

 

羽黒は摩耶に問い返した。

 

摩耶「奴さんの艦載機は足が短い、しかも戦爆連合だから足も遅い。それを利用して迎撃機で足止めをし、その間に逃げるのさ。」

 

金剛「ザッツライト! 逃げますヨー!」

 

その言に川内が苦笑して応じる。

 

川内「は、はははは。分かったよ、でも締まらないねぇ。」

 

金剛「フフッ、私も同感デース。でもこれが最善手デス。」

 

苦笑いを浮かべてそう言う金剛だった。

 

 

 

金剛の目論見は図に当たっており、艦隊は一撃も受けぬまま離脱に成功していた。

 

川内「航空反撃はしなくていいの?」

 

ふと思った川内がそう言うと、金剛は少し思案顔になった後言った。

 

金剛「蒼龍サン!」

 

蒼龍「・・・あ、はいっ!」

 

少し遅れて蒼龍が応じる。

 

金剛「敵機の来襲した方角は分かりますカー?」

 

蒼龍「えぇ、方位221度方向から直線ルート、マカッサル海峡方面からと思われます!」

 

金剛「デハ、攻撃隊を。」

 

赤城「え、なぜここで?」

 

得心の行かない赤城に金剛が言う。

 

金剛「赤城サン、敵機の機種は何でしたカ?」

 

赤城「えっ・・・確か――――」

 

言葉に詰まった赤城に代わって加賀が代弁する。

 

加賀「確か、艦上機。来た方角にはジャワ付近まで陸地は皆無よ。ボルネオ島の敵は全て掃討された事が確認されてるわ、セレベスからなら直進した方が確実で早い。」

 

ここから導かれる結論は一つ。

 

蒼龍「・・・敵の機動部隊。」

 

金剛「―――――。」コクリ

 

金剛は頷く。

 

金剛「迎撃の進捗は?」

 

赤城「既に殆どが失敗を悟って離脱して行きます。」

 

金剛「デハ攻撃隊を。今すぐ、予備の戦闘機も全て出して下さい。」

 

蒼龍「!!」

 

普通迎撃用の戦闘機は全力で編成する事はしない。それをすると、再三の攻撃となった場合対処出来ないからであり、また攻撃隊を出す際に護衛が付けられないからだ。尚且つ多少の消耗にも対応出来るよう、空母には必ず常用機の他に補用機と言う枠で予備の機体は装備している。

 

艦娘もこれに倣っている。その数は、装備スロットごとに、多くても1割半。

 

しかし今出せば、敵本隊を発見した場合に於いて航空攻撃が迅速に出来ないばかりか、戦闘機の余力をかなり削ぐ事にも繋がりかねなかった。しかも予備まで出すとあればそれは、空いた傷口を塞ぐ術を失うと言う事でもあった。

 

金剛「そうでないと、数が。」

 

流暢な口調に豹変する金剛の口調は、毅然たるものだった。

 

蒼龍「・・・了解。全力発艦させます。」

 

金剛「お願いしマス、艦爆艦攻の予備機は残して、OK?」

 

蒼龍「承知しています♪」

 

微笑んでそう言う蒼龍、金剛も失敗の無い様念を入れているのが分かればこそ、蒼龍もそのように、気楽に振舞えるのだった。

 

敷波「敵襲! 左舷前方43度40分、距離9000!」

 

金剛「編成は!?」

 

綾波「えっと・・・」

 

綾波が敵影に目を凝らすがそれよりも早く、夕立が報告した。

 

夕立「重巡級3、軽巡級11、駆逐艦80以上!」

 

木曽「多いなぁ・・・。」

 

そう呟く木曽。

 

大井「その為に、私がいるのよ。」

 

木曽「大井・・・。」

 

重雷装巡洋艦は片舷20門の発射管を持っている。

 

雷巡には固有能力が備わっているのだが、それは「魚雷発射管5つから魚雷を“2連射”出来る」と言うものだった。

 

これは両舷合わせ40門の魚雷発射管を再現したものであるようだったが、普通魚雷は霊力によって具現化し構成されるのが当たり前であり、その発射後の弾頭再構築(所謂再装填)には時間がかかるのだ。

 

しかし雷巡はそのタイムラグを限定的ながら克服した唯一の艦種とも言える訳だ。無論2連射すると通常より再装填に時間が余計にかかるのだが。

 

大井「やっと出番ね?」

 

大井は金剛に言う。

 

金剛「露払い、お願いするデース。」

 

金剛はそれに応えた。

 

大井「よーし! 酸素魚雷、20発2連射! やっちゃって!!」

 

シャシャシャシャッとこ気味良い音を立て魚雷が次々と海中に放り込まれていく。射角差は遠距離である為1射目は4度間隔、2射目は8度間隔で放ち、更に魚雷装備の全艦がこれに倣って酸素魚雷を放つ。

 

重巡羽黒・摩耶8門、鈴谷・筑摩6門、川内4門、更に特型(9射線)11隻・白露型(8射線)3隻・初春型(6射線)3隻を加え、大井の40射線を含むと合計で217射線もの膨大な多角度扇状雷撃が行われた。

 

 

ズドオオォォォーーー・・・ン

 

 

敷波「うっ!?」バッ

 

敷波に至近弾が降り注ぐ。

 

磯波「敷波さん!?」

 

敷波「大丈夫・・・!」

 

川内「十九駆を先頭に、全艦突入!」

 

鈴谷「援護! いっくよー!」

 

金剛「ファイアー!!」

 

態勢を整えた高速打撃群が、イの字で敵の頭を抑える形を保ちながら砲撃を繰り出す。

 

敷波「敷波、突撃します!!」

 

綾波「綾波、突撃します!」

 

夕立「夕立、突撃するっぽい!」

 

響「第六駆逐隊、突撃態勢。」

 

雷・電「OK!」

 

川内「一水戦、突入!!」

 

漣「ktkr!」

 

潮「っ、はい! 突撃します!」

 

初春「フッ・・・見事じゃのう。」

 

初春が金剛の采配に感嘆している所、若葉が割り込んできた。

 

若葉「初春! 行こう!」

 

初春「分かっておるわ、急かすでない。」

 

子日「いっくよ~! 子日、突撃の日~!」

 

軽いノリで子日が突撃していく。

 

初春「元気な奴じゃのう。ホホホ・・・。」

 

木曽「初春、何時までも居残りを決め込もうとするな、行くぞ。」

 

初春「そうじゃな・・・征くぞ、突撃じゃ!」

 

木曽「フッ・・・オウ!!」

 

殿を初春と木曽が固める形で水雷戦隊は突撃を開始した。

 

因みに先程の雷撃に木曽だけは参加していない。これは、彼女の魚雷発射管の口径が533mm(酸素魚雷である93式は610mm)である事による。

 

空母部隊は発艦作業と退避を並行する形でセレベス島の沿岸に移動していた。

 

最早何ら憂いの無くなった態勢下で、敵の周囲に水柱が幾重にも屹立した。

 

金剛「・・・突撃でトドメ、ネー。」

 

榛名「はい。」

 

先制雷撃によって敵戦力の過半以上は沈んでいた。世界最高の性能を誇る93式魚雷3型(炸薬量780㎏)を48ノットもの高速で、しかも34ノットで迫る敵快速部隊に対し対向速度82ノット(約151.9km)で叩きつけられては、到底かなわない。

 

しかも逃げ場を予め封じられていたのでは逃げようが無かった。最早残るは、艦隊とは呼べず、散り散りになって敗走する敵だけであった。

 

金剛「砲撃中止デース。」

 

鈴谷「ふえっ? いいの?」

 

金剛「無駄撃ちは避けマショー。」

 

接敵僅か4分で敵を撃滅し、残敵掃討段階に入った事を確認した金剛は、司令部にその旨打電すると同時に、進撃を続けた。一方で母艦航空隊は既に編隊形勢を終えて敵に向かって飛び去っていた。

 

 

 

13時52分 サイパン島司令部

 

 

~中央棟2F・提督執務室~

 

この頃になると、マカッサル海峡方面への索敵攻撃(※)の結果に関する情報も含め、続々と司令部に情報が送られてきていた。

 

※索敵攻撃

敵がおおよそいるであろうと思われる方位にフル装備の航空隊を発進させ、発見出来れば、即座に攻撃に移る戦法。

爆弾や魚雷を抱いて索敵をも同時に行う為索敵できる範囲も狭く、また憶測に基づいた攻撃である為必ずしも成功すると決まっている訳ではない為、不確定要素が大きい攻撃法である。索敵が重要視される航空戦に於いては言わば外道とも言える戦術である。

 

提督「そうか、索敵攻撃を成功させたか。中々金剛も慧眼と言えるだろうな。」

 

大淀「しかしこの機動部隊の情報は、昨日の偵察ではなにも・・・。」

 

提督「恐らくスラバヤにいる深海極東艦隊に付随していた奴が、マカッサル海峡から来たのだろう。」

 

大淀「成程・・・。」

 

大淀は納得したように頷いた。

 

提督「戦果として、ヲ級のほぼ全てを撃滅、残りも致命的一撃を負わせて敗走させている。これだけのものはスラバヤの方に所在が確認されていた奴ら位なものだろう。」

 

南西方面に所在する敵機動部隊はこれまでの偵察を集計すると複数あったが、何れも軽空母クラスが関の山で、正規空母クラスを持つのはスラバヤにいた艦隊くらいであったのだ。

 

大淀「まず是とすべきでしょうか?」

 

提督「うん。艦隊は間も無く、北スラウェシ州北端に辿り着くようだ。マナド北西で偵察も放ったようだ。主力が見つかるとよいが・・・。」

 

 

 

14時ちょうど、その報は呆気無くもたらされた。

 

その報を齎した筑摩索敵機4号機に曰く、「マナド南東100km弱の地点に、敵主力艦隊発見。敵空母の存在認められず、戦艦が主体の模様。」

 

 

 

14時02分 マナド北北東・セレベス北端沖

 

 

金剛「デハ・・・行きマショー。」

 

榛名「はい。」

 

摩耶「おう。」

 

羽黒「は、はい・・・!」

 

鈴谷「先陣は、鈴谷にお任せ~♪」

 

ウインクして言う鈴谷。

 

金剛「では、お言葉に甘えマス。気を付けて下さいネー?」

 

鈴谷「もっちろん!」

 

赤城「私も砲戦に――――――」

 

一同「貴方は下がってて!!」

 

総ツッコミを入れられる赤城である。

 

赤城「は、はい・・・。」

 

加賀「・・・はぁ。」

 

流石にため息をつく加賀であった。

 

川内「各駆逐隊、装備の最終チェックは念入りにね、ここが正念場よ!」

 

響・村雨・漣・綾波・白雪・初春

「了解!」

 

今回引き連れてきた6個駆逐隊それぞれの旗艦が応じる。

 

川内(雷撃は後出来て2回、木曽は3回だったわね。大井さんは・・・)

 

大井「魚雷があと半斉射分・・・」

 

川内(・・・。)呆

 

呆れて思考停止した川内である。

 

川内(重雷装艦があと2隻、いや1隻欲しい。)

 

金剛「oh・・・撃ち過ぎですヨ?」

 

大井「そうですか?」

 

金剛「ハァ~・・・。」

 

本人がこれでは最早何を言わんやである。

 

金剛「蒼龍サン!」

 

蒼龍「はい、攻撃隊、いつでも行けます。」

 

赤城「私達はもう少しかかります・・・。」

 

この差は如実に表れる為、金剛は決断した。

 

金剛「蒼龍攻撃隊、発艦して下サーイ。」

 

赤城「!」

 

金剛「蒼龍航空隊と水爆隊で先制、その後で一航戦航空隊で畳みかけマス。いいですね?」

 

赤城「―――はい、分かりました。」

 

加賀「確かに、合理的だわ。航空戦の原則にも即している。」

 

空母よりも航空戦に精通した戦艦とは如何に。

 

扶桑「航空隊、出撃!」

 

山城「全機出撃!」

 

蒼龍「発艦始め!」

 

 

 

こうして、蒼龍から57機、扶桑と山城から23機の瑞雲12型が発進、編隊を組み攻撃に向かった。

 

 

金剛「十九駆と二十一駆は空母と共に北方へ退避して下サーイ!」

 

初春「護衛か・・・承った。」

 

若葉「む・・・。」

 

綾波「分かりました。」

 

赤城「では私達も、準備出来次第航空隊を。」

 

金剛「OK、グッドラックネー。」

 

金剛は、その指揮下から空母部隊を護衛を付けて分離した。

 

これによって、金剛達はその戦闘態勢を整えたことになる。

 

榛名「では、いきましょう。」

 

金剛「そうネ。突撃シマショー。でも榛名の言う通り焦る事は無いデース。堂々と行きマショー。」

 

 

 

この金剛の言葉は、戦術的には敵に逃げる余裕を与える事に繋がりかねない重要な発言だったのだが、金剛は一切気にしていない。

 

なぜなら、敵主力に逃げ出す意思があれば当の昔に雲隠れしている事はこれまでの所要時間からすれば自明の理であり、その手を選ばず逆に布陣したと言う事ならば決戦の意志の表れと取るのが、自然かつ理に適っている。

 

 

 

こうして14時19分、第一水上打撃群は紡錘陣形を組み焦らず堂々と、かつ整然と進撃を開始した。

 

先頭に鈴谷、その後ろ左右に羽黒と摩耶、その二人を挟んで鈴谷の真後ろに金剛、次いで榛名扶桑山城川内と並び、摩耶の後ろ、右列先頭に大井、その後ろに六駆と七駆、左列先頭は木曽で、二駆と十一駆がその後ろに付く。

 

最後尾は筑摩が固め、これらの序列は丁度ラグビーボールを横に寝かせ上から見たような形を取る。密集隊形で火力を集中する突撃陣形である。

 

 

 

14時27分 サイパン司令部中央棟1F・無線室

 

 

提督「まもなく接敵ってとこかな。」

 

大淀「ですね。」

 

 直人の元に「これより突入する」との旨がセレベス海からモルッカ海へ突入せんとする金剛から届いたのは、14時25分の事だった。そこから暗号解読等に2分ほどかかったが。

今では相当タイムラグが無くなりこそしたが、無線通信にはラグが少なからず存在する。しかも現在の様に全空にジャミングがかかっているようでは尚更だ。艦娘艦隊では各基地間の主要地点に電波中継塔を設けて命令を伝達できるようにしていた。

実は隣のテニアン島にも中継塔はある。横須賀からパラオへと送る場合、利島・青ヶ島・中ノ島・硫黄島・北マリアナ諸島ファラリョン・デ・パハロス島・テニアン・・・といった具合で、細かくリレーして命令を伝達するのだ。

 こうした事情もあり伝達速度はどうしても遅くなることが常であった。

 

提督「全く、ジャミングさえなければな・・・。」

 

大淀「全くです。」

 

このネットワークから米国は外れている為、その動静は今日不明のままである。

 

大淀「それにしても、本当に早いですね・・・。」

 

提督「勿論だ、“水上打撃群”、正しくは『水上打撃任務群』と呼ばれる編成形態の本質は『電撃的速戦即決』にある。数隻の空母とそれに追随できる高速戦艦を軸に、重巡、重雷装艦、水雷戦隊で固める。快速性を持った小規模高速機動部隊のことなのだ。」

 

大淀「ですが、なぜ決戦部隊そのものの中に空母を組むのですか?」

 

提督「いい質問だな。この編成形態が他のそれと一線を画する点は、空母機動部隊の形態とはまるきり逆だという一点に尽きる。」

 

・・・つまりどういうことだ!?

という人の為に軽く説明してみよう。

 

 アメリカ空母機動部隊は、正規空母3~5隻に軽空母1~3隻を編成、そこに高速戦艦を0~2隻、更に重巡等の補助艦艇が周囲を取り囲む形態を取る。日本の南雲機動部隊(第一機動艦隊)や第三艦隊(小沢艦隊)も同様のものだ。

だがこの水上打撃群は、空母ではなく戦艦が主力であり、空母はあくまでも「艦隊決戦支援並びに援護」の任務を帯同することになる。要は艦隊決戦を行う部隊だからこそ重雷装艦が編成されているのだ。

では空母を編成する理由と『電撃的速戦即決』という水上打撃群の本質――――この2点を説明する事が出来る理屈が、存在する。

 

それは――――『空母による短期波状攻撃』である。

 

 普通空母艦載機は戦場へ飛来する際、大抵決戦場の数百カイリ後方に下げる為、発艦してから敵艦隊への到達までに時間がかかってしまう。しかもその間に敵戦闘機との交戦などをやっていて余計に遅くなってしまうこともある。

しかしこの問題を解決する方策はいくつか存在する。その一つが『短期波状攻撃』とも呼べる概念である。

この概念ではまず空母は攻撃隊を発艦させると共に、完了次第全速で『敵のいる方向に向けて』突っ走る。こうすることで復路が短くなり、着艦と補給の時間を考慮しても普通より早く送り出せる上に、第2波発艦時は敵との距離が相対的に縮まる為、より早く敵艦隊上空へ到達出来る。反復する事で波状攻撃の間隔を縮められるのだ。

直人が編み出したのはこれを一歩別方向へと進め、「決戦海面付近において敵へ反復攻撃を仕掛けうる戦術的艦隊編成」としての「水上打撃群」である。機動部隊と戦艦部隊の特性を融合し、敵に接近しながら空母が艦載機を放って敵を漸減し、戦艦の砲戦開始後も間断無く艦載機を発艦させて敵撃破を支援する。

こうすることによって決戦前に空母を分離する手間とリスクを省き、かつ短時間で最大限の打撃を敵に与えうる、というのが直人の考えである。無論空母を帯同したまま砲撃戦をやる為空母が砲火に晒されるリスクはある。だがそのリスクを踏まえた訓練はさせていたこともあり、彼をして、何の躊躇もなくこの戦術を採る事を可能としていたのだった。

 

大淀「成程・・・危険ではありますが合理的でもある訳ですね。」

 

提督「そゆこと。空母を主力から分離すると潜水艦に襲われて一網打尽! なーんてこともあり得るからね。」

 

大淀「た、確かに・・・。」

 

提督「しかも波状攻撃自体も、少数兵力による戦闘行動を容易たらしめる為の概念だ。大規模出兵をせずともよくなる、ということでもあるな。」

 

なら何故にこれまでさんざん大戦力を投入したんだ。と大淀が聞くと直人はこう返した。

 

提督「着任して日も浅く訓練も十全とは言えない連中にいきなりやらせたって、この編成形態は意を為さん。大事なのはまず個人の技量、次いでこの編成の意味と用法を理解し、そして創造することだ。」

 

大淀「創造、ですか・・・?」

 

提督「そう、この編成形態はぽっと出の新米に過ぎん。この編成形態に何が出来て何が不可能か、どこまでも突き詰めていけば、新たな姿が見いだせるやもしれん、そういうことさ。」

 

大淀「・・・仰る通りですね。」

 どんなものにも、見つかった時は分からないこと、証明出来ないことが多々ある。ダイオウイカ然り、ヴェーゲナーの提唱した大陸移動説もまた然り。

しかし後々になってデータが集まると、様々なことが判明したり、類推できるようになったりする。人類はそうして日々賢くなってきたし、これからもそうだろう。水上打撃群にしたって、この考え方がどこまで正しいかなど今の時点では誰にも分かりはしない、だが結局そういうものだと、直人は考えていた。実戦データの蓄積によって、彼の正しさが証明出来る様になる日が来ると、直人は信じていたのである。

「さて、柄にもない話はこの辺にしよう。今は対岸の火事を何とかすることが先決だ。最も遠く離れた我々に打てる手はないがね。」

 

「はい。」

お互いに苦笑して言ったのだった。

 

 

 

14時39分

 

 

金剛「ファイアー!!」

 

 

ズドオオォォォォォーーー・・・ン

 

 

紡錘陣前半分である高速打撃部隊の金剛の斉射と共に戦闘は始まった。

 

誰が紡錘陣を維持して戦うと言った! 榛名から前を分離すると丁度鋒矢陣なのじゃいっとな!

 

と言う訳で、七駆と十一駆、川内・扶桑などを残し前半分が一斉に突進していたのだ。

 

紡錘陣形を取っていた理由は、敵が前進して防御陣形を組んできた場合に備えてであって、そうでなければ本来の戦術に立ち返るまでであった。

 

金剛「大井サン!」

 

大井「了解、牽制するわ! 酸素魚雷20発、やっちゃってよ!」

 

大井が魚雷を扇状に放つ。

 

榛名「航空部隊、攻撃開始です。」

 

金剛「OK。川内にGOサインをお願いネー。」

 

榛名「はい。」

 

 

 

川内「分かった。漣! 白雪!」

 

漣「ほいさっさ!」

 

白雪「了解!」

 

漣と白雪は、それぞれ麾下の駆逐艦を率いて左右に散る。

 

川内「筑摩さん、私は左翼に回るわ。」

 

筑摩「はい、こちらはお任せください。」

 

川内「お願いします。」

 

そう言って川内も漣に続く。

 

扶桑「フフッ、元気ねぇ。」

 

山城「それより扶桑姉様。急ぎませんと戦闘が既に。」

 

扶桑「慌てないで、山城。私達の速力じゃ、金剛さん達には追いつけないわ。」

 

山城「それは・・・。」

 

扶桑「気持ちは分かるけれど、焦らず、ゆっくり。ね?」

 

山城「―――はい。」

 

山城からすれば早く戦いたいのは道理であり、扶桑もそれはよく分かった。しかし24.5ノットと30ノットと言う格差はそう簡単に埋められるものでは無い。あくまで後詰めとして扶桑達が存在する以上は、仕方の無い事だった。

 

そもそもこの時、彼女らは一番戦いたがっている人物の事を一時的ながらも忘れていたのだったが。

 

 

 

金剛「第4斉射、ファイアー!!」

 

 

ズドオオォォォォォーーー・・・ン

 

 

榛名「撃ちます!!」

 

 

ズドオオォォォォォーーー・・・ン

 

 

大井「魚雷、2本命中!」

 

敵との距離は魚雷発射時24.000m、36ノットで射出された魚雷は、1.4秒差2段発射で敵艦隊に殺到した。この為、“回避した先に魚雷があった”と言うパターンで被雷したマヌケがいただけの事である。

 

夕立「魚雷発射っぽい!」

 

雷「テーッ!!」

 

砲撃戦の最中に鶴翼の左右を構築した2駆と6駆が魚雷を放つ。

 

羽黒「魚雷、発射します!」

 

鈴谷「いっくよー!」

 

摩耶「発射!!」

 

次いで中央の重巡隊が魚雷を撃つ。

 

鈴谷「突撃ィ!!」

 

羽黒「は、はいっ!」

 

摩耶「オウ!」

 

夕立「第二駆逐隊、突撃!」

 

響「第六駆逐隊、突撃する。」

 

統制された動きから生み出される機動力は、数で勝る敵を翻弄していく。

 

金剛「ワタシ達は、一旦距離を保つネ。」

 

榛名「はい。」

 

15:09時点での金剛と敵先端部との距離、約18.000m。

 

 

 

艦娘艦隊と深海棲艦との戦い――――と言うより人類と深海との戦い――――に於いて、人類側の戦力が海上に関しては、深海のそれを上回った例は皆無に等しい。

 

無論陸上戦闘も何度となく行ったし、その際は人類軍の陸軍部隊と空軍の人員と兵器数にものを言わせて圧倒したとはいっても、実際には質的に五分五分かそれ未満の戦いであったことは否めないし、戦略レベルで見れば失敗であった。

 

これが故に人類は局所的優勢を確保すべく、『戦力の集中投入』によって敵を撃砕してきた。その実行例の極端な例がSN作戦であるとすれば、その長所と短所は自ずから分かるだろう。広範な作戦では使えないのだ。

 

最も問題となったのが艦娘艦隊で、彼らは6隻1グループのタスクフォースを最小単位として戦闘を行う事になる訳だが、数的劣勢は自ずから明らかであり、これを艦娘達個々の戦術によって補っている形である。

 

この為艦隊個艦単位で想定する戦術も様々である。一見多様性に富んでいるように思われるかもしれないが、これには重大な欠陥を抱えているのにお気づきだろうか?

 

『戦闘中の部隊統制が難しい』のだ。

 

ともすれば旗艦の想定外の行動で僚艦を、全体を危険に晒す場合もある為である。

 

この点彼ら横鎮近衛艦隊程、これほど丁寧に統制された艦隊も珍しいのだ。一癖も二癖もあるような艦娘達を戦闘時には組織的に纏め上げ、平時には交流を深めると言った直人のやり方はある種の正解でもあった。

 

そしてその成果は、徐々に発揮されつつあった。

 

 

 

15時17分 モルッカ海戦闘海面

 

 

漣「七駆、展開OK!」

 

白雪「右翼十一駆、いつでもどうぞ。」

 

川内「よーし! 両翼魚雷発射! 七駆は右砲戦用意!」

 

漣「GOサイン(゚∀゚)キタコレ!! やっちゃうのね!」

 

白雪「発射!」

 

潮「砲戦準備・・・!」

 

 

 

時雨「夕立! 突っ込み過ぎちゃダメだよ!」

 

夕立「分かってるっぽい!」

 

時雨が背部から展開した主砲から通常弾頭で砲撃しつつ注意を飛ばす。

 

五月雨「やあぁぁぁっ!!」

 

 

ドォンドォォーン

 

 

電「そこ! なのですっ!」

 

 

ドドオォォーン

 

 

雷「はっ!」

 

 

ドオォォーン

 

 

雷「流石に多い―――っ!」

 

電「っ――――!?」

 

電は直感的に背後から肉薄する敵、ハ級eliteの気配を捉えた。

 

響「電っ!!」

 

響の叫びが飛ぶ。

 

電「まだ――――」ガチャッ

 

電が反転しつつ艤装背部に付けられたアンカーを外す。

 

電「沈めない!!」ブン

 

電がそのアンカー――――それもチェーンで繋がれたそれを投擲する。

 

 

ゴシャァッ

 

 

ハ級elite「ギョワァッ!?」

 

これにはハ級も面食らったらしく一瞬動きが止まる。

 

電「なのですっ!」

 

 

ドオンズドオォォォーーン

 

 

ハ級elite「ギョ・・・ア・・・」

 

か細い断末魔を上げて沈む敵駆逐艦。

 

響「さ、流石電・・・。」

 

雷「そうね・・・。」

 

これには唖然とする二人である。

 

先陣切って突っ込んだ駆逐2隊は既にして乱戦状態に入っていた。そうは言っても高々6隻である上に、味方の砲撃降り注ぐ中で中々豪胆と言わざるを得なかったが、そこは艦隊でも一・二を争う練度を持つ駆逐隊だけに問題はないに等しい。

 

何より金剛もある程度彼女らの勝手は知っていた為、器用な事に乱戦域を若干躱して砲撃を繰り出している。

 

 

 

金剛「我ながら器用な芸当デース。」^^;

 

榛名「私には真似出来ませんね・・・。」

 

流石の芸当に榛名も嘆息した。

 

以前チラリと出てきた金剛の能力「超精密射撃」は、主砲の着弾散布界を天候状態によって前後するが、1/7~1/9に縮小してしまうと言うもの。

 

分かりやすく散布界を1000mと仮定すると、天候が悪くてもおおよそ300mの範囲に砲弾が落下すると言う話になる。当然艦娘の砲はそんな精度な筈がない為、実際には遥かに縮まる事になろうが。

 

金剛「でも、やらないと夕立サン達が困るデショウし・・・。」

 

うーん相変わらずこの中途半端な訛り方ねw

 

榛名「その通りですね。」

 

金剛「サァ、次デース! 第22斉射、ファイアー!」

 

 

ズドオオォォォォォーーー・・・ン

 

 

あんまり撃ち過ぎると徹甲弾が無くなる為多少は加減しているが、それでも22斉射の砲撃を行っていた金剛であった。

 

榛名「主砲、斉射!」

 

 

ズドオオォォォォォーーー・・・ン

 

 

だがそろそろ撃ち過ぎである。

 

 

 

15時20分

 

 

~敵主力艦隊~

 

ル級elite「落チツケ! 隊列ヲ維持セヨ!!」

 

チ級elite「ダメデス! 末端ノ混乱ヲ抑エキレマセン!!」

 

ル級elite「ナニ――――!?」(ちっ、混成部隊である事が裏目に出たか!!)

 

出撃前のブリーフィングの時に述べられたとおり、この深海棲艦の一隊は種々雑多な艦隊を寄せ集めて組織した応急的なものだったのだ。それが空襲からの乱戦に加えて雷撃を受けた事で混乱状態に陥っていた。

 

つまり、余りにも作戦展開ペースの速い彼らの行動に付いていけていないのだ。航空部隊でさえ分散波状攻撃ではなく、基本的には一斉攻撃を行っている為、空襲1回に要する時間は非常に少ないのだった。

 

リ級elite「右舷前方カラ砲撃ヲ受ケテイマス! 軽巡1・駆逐艦2、接近中!」

 

ル級elite「迎撃シロ! 防御ラインノ一部ヲ右ヘ持ッテイケ!」

 

この段階で深海艦隊は半月形に陣を敷いて相対していたのだが、この正面が金剛と榛名の方向から川内ら左翼方向に向いた。

 

 

 

金剛「防御ラインをシフトデスカ。川内は成功したネ。」

 

扶桑「金剛さん、只今到着しました。」

 

金剛「OK。扶桑、ここは預けるネー。榛名!」

 

榛名「はい!」

 

山城「砲撃開始!!」

 

扶桑「撃てっ!」

 

 

ズドドドドオオォォォォーーーー・・・ン

 

 

金剛型比1.5倍の砲力を持つ扶桑型の主砲が、一斉にその火蓋を切った。

 

金剛「チャージ!!」

 

榛名「吶喊!!」

 

同時にそれまで後衛で支援を行っていた金剛らも突撃を開始する。

 

 

 

白雪「突入します、続いて下さい!」

 

深雪「よっしゃー! 腕が鳴るぜ!」

 

初雪「早く帰りたい・・・。」

 

右翼にあって、半月陣の「無防備な腹を見せつけられた」形になった第11駆逐隊も、白雪の合図で突入を開始していた。

 

 

 

鈴谷「おー、成功しちゃったか。」

 

摩耶「川内も中々策士だな。」

 

前衛で砲火を浴び続けていた(と言っても駆逐艦娘達が乱戦に持ち込んだ為ある程度減殺されていたが)重巡部隊は、敵防御ラインシフトに伴う敵の火力分散のおかげで余裕が出来始めていた。

 

羽黒「でも、皆さん大丈夫でしょうか・・・?」

 

正直大丈夫とは言えなかった。

 

 

~2分前~

 

響「くっ・・・!」

 

 

ザバァンザバアァァァーーン

 

 

響はこの時4隻がかりの袋叩きに遭っていた。

 

電「多過ぎなのです!」

 

雷「このままじゃ・・・!」

 

雷も電も救援しようとしたが目前にして阻まれていた。最もこの状況は防御ラインシフトに伴う敵戦隊移動によって生じた結果ではあったが。

 

響「―――――ッ!!」(5隻目――――!?)

 

 

響の背後に現れた新たな敵影――――重巡クラス。

 

 

ドガアアァァァァァーーーン

 

 

響「ぐああああっ!!」

 

響はソレに対応しきれず、一弾を受け吹き飛ばされる。

 

雷「響っ!?」

 

響「くっ・・・まだだ・・・まだ・・・沈まんさ!!」ヨロッ

 

だが敵とも味方ともつかない飛行機の爆音が鳴り響く中、響の周囲には既に10隻以上の敵が取り囲んでいた。

 

響(ここまで・・・なのかな・・・司令官、すまない―――――)

 

 

ズドオォォンドガアァァァァァーーンダダダダダダ・・・

 

 

響「っ!」

 

雷「なに!?」

 

突如響いた爆音と銃声。

 

電「――――味方の攻撃隊なのです!」

 

 

 

ブオオオオオ・・・ン

 

 

赤松「全く、間に合ったかぁ。」

 

駆けつけたのは後発した赤城及び加賀の航空隊だった。

 

一航戦の航空隊は蒼龍航空隊及び瑞雲隊より北方から航空隊を放った為、到着が遅れてしまったのだ。

 

赤松「――――お、嬢ちゃん達は無事か間一髪だな、流石艦爆隊だ。」

 

一航戦航空隊がシフトした敵艦隊正面に殺到、川内らは既に後退していたし、第六駆逐隊はその混乱に乗じて響を護衛し離脱中であった。

 

代わって来るのが戦艦2駆逐艦3であればむしろ戦力的には増大しているが。

 

赤松「きっちり全員連れ帰らねぇと、提督が悲しむだろうしな、そんなしけたツラは見たくねぇ。」

 

攻撃隊を率いてきた赤松中尉はそう呟く。

 

赤松「お? 遅ればせながらお客人かぁ? 野郎共、出迎えてやれ!! 方位117、敵針路279、距離七〇(7000m)!」

 

現れたのは深海棲艦陸上基地から飛び立ったと思われる陸上機部隊だった。

 

攻撃隊護衛に当たっていた一航戦制空隊がこれに掴み掛っていった。

 

 

 

海戦の様相は、拮抗から横鎮近衛のワンサイドゲームに変貌していった。

 

陣形シフトが完了した段階で攻撃隊が敵陣正面中央に殺到、艦爆の一部が響救援に向かった以外は前衛の混乱状態を増長させる事に成功。更に陣形として横鎮近衛正面に突出する形になった敵左翼の端と左翼側方から、それぞれ金剛・榛名と重巡部隊及び十一駆が突入した。

 

突出していた敵の左翼先端部は金剛と榛名の突入に加え扶桑と山城、筑摩からの砲撃支援もありあっさり壊滅、更に重巡3隻に突入され十一駆にかき乱された事で完全に瓦解。同じくして陣形の向きを元に戻そうとした深海艦隊では余計に混乱の度が増しており、それが陣形崩壊に拍車をかけた。

 

更によく踏ん張り抜いていた夕立率いる第二駆逐隊がここで戦果を拡大、敵中央前衛部隊が壊乱状態へと陥るに至り、15時41分に大勢は決し、敵艦隊は退却を始めるも、更に並行追撃を掛けた金剛達により、戦闘は15時57分まで継続されたのだった。

 

 

~15時57分~

 

 

金剛「ストップ! 追撃終了デース!」

 

夕立「え、もう追わなくていいっぽい?」

 

深雪「追撃しようぜ、ここで逃がしちまったら・・・!」

 

鈴谷「そうだよ、まだあんなに残ってるのに、出来るだけ多く沈めないと!」

 

大井「そうです!」

 

これだけの快勝を収めると士気が高まって、この様な意見も出て来る。

 

金剛「NOデース。」

 

金剛はしかしこの意見を抑えた。

 

夕立「うーん・・・分かったっぽい。」

 

鈴谷「!」

 

鈴谷は夕立の言葉に驚いた。訓練でも猪突する傾向のある夕立が、追撃中止命令にあっさりと従ったのだから、当然と言えばそうかも知れない。

 

摩耶「んだよ、やけに大人しいな夕立。」

 

夕立「これ以上追いかけたら、深入りし過ぎるっぽい。敵の増援が来ちゃうかもしれないっぽい。」

 

金剛「そう言う事デース。」

 

夕立「って、吉川艦長が言ってるっぽい!」

 

一同「!!」

 

この時艦娘達は失念していた。

 

夕立には、吉川艦長が妖精として「乗っている」と言う事に。

 

 

 

この夕立の一言で強硬意見が制圧されたこともあり、15時59分に、艦隊は集結して撤退を開始したのであった。

 

この報が司令部に届いたのは、集結完了の4分後のことだった。

 

 

 

16時03分 サイパン司令部中央棟1F・無線室

 

 

提督「そうか、終わったか。」

 

直人はその知らせに満足していた。

 

大淀「艦隊は今、空母から洋上給油を受けているということです。」

 

提督「でなきゃ帰ってこれまい・・・。」

 

実際ギリギリな部分もなくはない。駆逐艦に関していえば、燃料搭載量の関係もあるので、航続力が不足している状態にあった。

 

その点空母は今回の場合戦闘に参加しなかった為、燃料には余力があった。

 

まぁ大型艦から小型艦への洋上補給は、実際よく行われていたことでもあるにはあるが。

 

大淀「それにしても、早かったですね。」

 

提督「言ったろ? 5時間以内でけりがつくと。」

 

大淀「本当にそうですね。」

 

交戦開始から数えて約四時間ほど経過していたが。

 

しかし予測通りに、5時間以内で決着が付いたことに直人は内心密かに喜んでいた。

 

提督「ところでだ大淀。」

 

大淀「はい?」

 

提督「実は、近く大規模な遠洋練習航海をやろうと思っているんだ。」

 

大淀「遠洋航海の、実習と言う事ですか?」

 

提督「そういうことだ。」

 

遠洋航海は現代に於いても、特に中近東から日本に向けての輸送路に於いても行われているし、太平洋を横断するにも衛星から送られてくるGPSを使うなどして、自艦の正確な位置を確認して行うものである。

 

それをGPS抜きで行う艦娘は、ある程度勘に頼っている部分もある為、訓練が欠かせない。

 

逆に言えばGPSなどと言う便利なものが無い第2次大戦期の艦艇は、遠距離航海の際に海図と天測、それに地形を目印代わりにして自分達が今どこにいるかを見極めていたのだ、手間のかかる事ではあるが確度は高い。しかしそれなりに訓練は必要になる。

 

真珠湾攻撃の往路だって、その方法でオアフ島近海まで進出したのだが、それだってちゃんとした訓練を受けた航海士がいてこそである。

 

提督「今回セレベスまで行けたのは、比較的近場である事もそうだが、偶然と言う部分が大きい。万が一ちゃんと辿り着いたと思ったら敵がいない場所にいた、なんてことになったら洒落にもならん。」

 

大淀「で、ですね・・・。」

 

提督「だから遠洋航海の訓練が必要なんだ。さしずめまずは日本近海へ向かわせるルートを考えている。」

 

大淀「ほうほう――――」

 

そこから直人と大淀は、2時間にも渡る激論に突入していったのだった。

 

 

翌18日、直人は遠征部隊のスケジュールを組みつつ、鳳翔が厨房を離れることが出来るよう、持ち回りを誰に任せるかについて思い悩んでいた。

 

 

1月18日10時41分 中央棟2F・提督執務室

 

 

提督「うーん・・・」

 

金剛「フーム・・・」

 

二人して考え込んでしまったのだった。

 

と言うのは、金剛と直人はお互いに、誰が料理出来て誰が出来ないか、それを把握できていないのだ。これまで鳳翔に任せっきりだった弊害でもあっただろうが。

 

しかしこの時の二人にとっては大きな問題であっただけに、考え込むのも無理からぬことだった。

 

提督「どうしよう・・・鳳翔さんにああは言ったけど、正直誰が料理出来るかまで把握してないんだよね。」

 

金剛「そうデスネー・・・。」

 

提督「あ、そう言えば確か満潮は出来るな。一人決まった。」

 

金剛「え、そうなんデスカー?」

 

読者諸氏、覚えておいでだろうか。

 

劇中の時期的に割と前の事になるが、満潮は以前一度だけ、厨房を借りて荒潮(と御相伴に与った直人)に昼食を振舞っているのだ。

 

提督「美味かったぞ~。」

 

そうニコニコ顔で言う直人。

 

満潮「ちょっと司令官? 何を影であの事をばらしてる訳?」

 

噂をすればである。

 

提督「別に口封じはされてないからね。」

 

満潮「だからってそうペラペラ喋らなくってもいいじゃない!」

 

やれやれ・・・と金剛の方を向くと

 

金剛「・・・~♪」

 

知らぬフリである。

 

提督「・・・やれやれ。それにしてもノックの音が聞こえなかったが、そこはどう説明するのかな?」

 

満潮「・・・!」

 

仮にも上司の、それも執務室なのだからノックは当然である。

 

提督「それに、別に悪意を込めて言ってるんじゃない、むしろ満潮にとっても得な話だよ?」

 

これは事実。

 

満潮「・・・どういう意味?」

 

ジト目で追及を飛ばす満潮だったが直人は揚々として動じない。

 

提督「いやぁね? 今度鳳翔さんに、航空戦教練担当教官になって貰う事にしてね、その代わりの炊事係の人選を考えてたところなのさ。」

 

満潮「それとこれとどう言う――――――」

 

言いかけて満潮も気付いた。

 

満潮「まさか、私が!?」

 

提督「別に構わないだろう? 花嫁修業も兼ねて料理の腕を磨けばね。」

 

そう言う直人の言葉の中程から満潮の顔が徐々に赤くなるのを直人は面白半分で見ていた。

 

満潮「は、花嫁修業って、何の話をしてるのよ!?///」

 

提督「この戦争が終わった後の話さ。お前達だって、戦争が終わったら社会に出る道もある。戦争にしたって、ただ勝てばいい訳でもなし、戦略的な見地から見て、また戦術的な優劣の如何も重要になる。」

 

満潮「―――戦争が、終わった後?」

 

満潮は、その言葉を絞り出すのがやっとと言う様子だった。

 

提督「あぁそうさ。戦争だって、いつまでも続く筈も無し、ちゃんと終わりはある。そうしたらお前達は、自分の道を自分で選択出来る筈だ。」

 

当時の提督達の中で、一般から徴募ないし徴集された提督達には、“戦争”と言う物を理解しているようでそうでない提督達が多く、また艦娘達の知識にも乏しい者が多かった。

 

しかしながら実体験として“戦争”を知る民間人(と言っても公務員ではあったが)と呼べるのは、実際のところ直人を入れてもかなり少ない。そしてその中でも、「この戦争はいずれ終わる」と断言し得たのは直人位なものだったろう。

 

提督「例えどんな形にしろ、この戦いもいずれ終幕を迎える日が来るだろうと俺は思う。例え人類にとって望ましくない、或いは最悪の結果になるにしろ、この戦争が永久に続く物であるという論理は、絶対に成立しない。」

 

満潮「・・・で、何!」

 

提督「もし仮にこの戦いが痛み分けの講和なり、我々の優勢勝ちに終わるなりすれば、我々人類は、君たち艦娘も含めて明日を――――未来を生きる権利を獲得するんだ。そうなった時、君達は不毛な戦いから解放され、平和になった世界で、“自由”を勝ち取ることが出来るかも知れん。そうなれば、社会の仲間入りを果たせるし、自らの生計を立て、“生きる”ことが出来る。素晴らしい事じゃないか。」

 

だが満潮はむしろ食って掛かるのだった。

 

満潮「ちょっと待って、黙って聞いていれば何を言うかと思えば、“痛み分けの講和”? “不毛な戦い”? 何を言ってるの?! 私達は艦娘! 深海棲艦を“滅ぼす”為に生まれた“兵器”なのよ! 私達がやるのは“正義の戦い”なのよ!? それが不毛ですって? “明日を生きる”ですって? 冗談じゃないわ!」

 

金剛「満潮! それが上官に対する態度デスカ!?」バン

 

堪らず金剛が怒鳴りつける。

 

提督「・・・成程、満潮の言いたい事は分かった。では君は平和になった時、どうするつもりだ?」

 

満潮「決まってるわ、自沈するのよ。」

 

提督「!!」

 

金剛「!?」

 

この時金剛は驚愕し、そして直人は満潮が何を思っているのかを理解した。

 

満潮に曰く、「艦娘は深海棲艦を『絶滅』させる為の兵器として出現したのであり、深海棲艦がいなくなれば『自分達も消える』。」と言う事である。

 

提督「成程? 平和な世に兵器は必要ない、確かにその通りだろう。」

 

金剛「提督!?」

 

提督「但しそれは“何も諍いや争いが起らない世”でしか通用しない方便だ。」

 

金剛「!」

 

満潮「・・・。」

 

 成程確かに直人の発言は理に沿っている。

人間と深海棲艦に限らず『人間同士』でも揉め事や紛争が頻発する世の中である。仮に和平を結び終戦となったとしても、その深海棲艦と人間との間に生まれた傷は大きく深い。諍いは絶えないだろう。

 

提督「人間だれしも、自分と相手との違いや、意見の相違から諍いを起こす。この戦争に於いては、単にあちらから先制攻撃を受けただけの事だったが、だからと言って“滅ぼしていい”と言う事にはならん。」

 

深海棲艦を滅ぼすと言う事はこの場合即ち、「一つの生態系を破壊する」事に直結する。それだけ深海棲艦の個体数は膨大なのだ。

 

提督「我々艦娘艦隊は提督も含めてあくまでも『人類の生存権を防衛し確立』する為にこそ戦っているのだ。この事は艦娘艦隊基本法の中に明文化されている。」

 

 

艦娘艦隊基本法――――――

 

 それは、彼ら艦娘達を扱う艦隊司令部の基本的な部分、艦娘の定義から、提督への給与、運用の基本要綱、司令官の裁量の範囲などなどを定めた法の事である。これも含めた艦娘艦隊関連法案が衆参両院で可決され成立したのは2051年の10月の事である。

この法律なかりせば、艦娘艦隊労基法や艦隊司令部不正摘発要綱と言った艦娘艦隊関連法案は成立しない程の重要な法律でもある。

この前文に曰く、『艦娘艦隊は人類が今後生存する為の権利を擁護する軍事組織であり、またその生存圏を防衛し、種としての生存権を確立する為の組織である。』と言う趣旨で、直人の言う「人類生存の権利を防衛し確立する組織」と言う事は明文化されている。

 

提督「そして艦娘艦隊関連法案の中には、艦娘の人道的な保護と人権の保護、及び擁護は明文化されているし、我々提督が無下に艦娘を扱えば、それは提督の座を追われる事にもなる。我々は決して故意に艦娘を沈める事はあってはならないし、艦娘が自決するような事態に追い込んでもいけないんだ。」

 

 つまり艦娘艦隊基本法に於いても、また直人らの近衛艦隊が設立された理由も、直人自身の戦う理由も、つまりは種の存続を賭けた生存競争であり、自分達の明日を「護る」事が念頭に置かれている。

誰も深海棲艦を、この地表から消し去ろうとはしていないのだ。人間達が、その独善と自らの幸福を追い求める余り、数多の生物を絶滅させ、またその淵に瀕しさせたことは、彼らにとって深い薫陶の様な教訓となって、この時代まで生き続けているのだ。

 もし仮に深海棲艦を滅ぼそうとする者がいるとすれば、それは狡猾で狭量で、過去を乗り越える術を知らない復讐者だけであっただろう。それだけ、人類は深海棲艦の力を、知り過ぎる程に知っていた――――。

 

満潮「そんな甘い事だからSN作戦で負けるんだわ。」

 

満潮は先年のSN作戦の事を盾に切り込む。

 

提督「確かにあれは酷い負け戦だった。だがあれは戦争を知らぬ軍政家共に帰せられる罪が多い。我々は民主国家だ。法の下に民衆を弾圧する事はあってはならない。まして粛清など以ての外だ。君達が“艦”として浮いていた時代と、今の時代とでは国の在り様が違う。」

 

 戦後一世紀を経た世界の構造は確かに変遷を遂げてきた。しかし一つだけ変わらなかったのは、日本と言う国が、「国民の権利を擁護し、国民主権の元に政治を行う民主国家」であったことであろう。

満州事変から10年の間に、陸軍強硬派によって民主政治から、その名を借りた軍部独裁政治と化した日本も、敗戦を期に再生を遂げ、それは今もなお続いていた。この事が直人にこう言わしめた事は言うまでもない。

 

提督「もしお前が自決すると言うなら、俺は全力を挙げてそれを阻止する“責任”を負っている。艦娘の生命と権利を擁護し保護するのは、提督の基本的な義務であると法に明文化されているし、俺はその義務を負った、お前の上官だからな。」

 

直人は満潮の敵対的な視線を受け止め、眼をしかと見据えてそう言った。

 

満潮「だけど私達は兵器よ、深海棲艦が居なくなれば、私達の存在理由なんて―――――」

 

提督「理由ならあるぞ。」

 

満潮「え?」

 

思わず首を傾げる満潮に、直人は言う。

 

提督「お前は艦娘である前に、“一人の人間”だからな。」

 

何度も述べている通り、艦娘の本質は、限りなく人間に近い物でありながら一方で人間とは限りなく遠い、そう言う人種である。そうした矛盾を抱えながらも、艦娘達は人々と同じように“生きて”いるのだ。

 

金剛(・・・いつも通り、デスネ。)

 

満潮「な、何を言ってるの!? 私は――――」

 

提督「大体なぁ・・・」ガタッ

 

直人が席を立ち、満潮の正面に歩み寄る。

 

そして直人の両手が満潮のほほに向かって伸びる。

 

満潮「―――――っ!」

 

満潮が思わず目を瞑り力む。

 

金剛「?」

 

 

むにっ

 

 

満潮「・・・?」

 

提督「大体さぁ~・・・」ムニムニ

 

満潮「ふ、ふええぇぇ~?」

 

苦痛を与えられると無意識に思った満潮は当然困惑した。

 

金剛(・・・羨ましい――――。)( 一一)

 

直人が満潮のほっぺをむにむにする。

 

提督「こんなに人間味のある兵器がある訳ないでしょ~?」^^

 

満潮「な、何言ってるのよやめなさいよぉ! やめてってば!///」

 

直人は結局いつもの方便で締めくくったのだった。ほっぺむにむにしながら。

 

満潮「は~な~し~な~さ~い~~~!!」ジタジタ

 

提督「やだ~♪」^^

 

金剛(と言うか妬ましい・・・私もして欲しい・・・。)

 

あんたそんな年じゃないだろ。(←やめい

 

 

 

ひとしきりむにむにした後(満潮が散々ジタバタした後)、直人はおもむろに手を離して、優しい口調で言う。

 

提督「お前達は、自分の意志を持ち、思考を持ち、頭脳を持っている。それは艦娘と言う人々が、ただの兵器を越えた何かであると言う事を示している。違うか?」

 

満潮「そ、それは・・・。」

 

満潮には反論する言葉が浮かばなかった。

 

提督「俺に言わせれば、艦娘達は皆、天の遣わした戦士達だと思う。天におわす海軍100万の英霊達が、1世紀の時の向こうから、我々人類を救う為に手を差し伸べてくれたのだとね。」

 

満潮「フ、フン! おめでたい想像だわ。」

 

提督「そうさ、俺はロマンチストさ。だがそう思わずにはいられない。何しろ―――」

 

満潮「・・・?」

 

直人は言葉を切り、すぐ近くの窓の外を見上げる。雲一つない青空が広がっていた。

 

そして言う。

 

提督「お前達は、我々日本国民に“希望”を教えてくれたんだからな。」

 

 戦後経済大国となった日本も、深海棲艦による主要都市の破壊によって、第一次深海戦争開戦4年でGDP(国内総生産)の実に4割を喪失していた。

政府機構は全て各地に分散され、結果として日本と言う国を統治する日本国政府は、最も統治のし辛い状態に追い込まれていた。

先行きの不安から治安は悪化し、労働者層はその活力と気力を徐々に失いつつあった。亡国の一途を辿る国家と同じことだ。そして人々は求めた。

 

―――人類の生きる希望を。

 

 

満潮「・・・。」

 

「希望」を教えてくれた―――曇りの無い目で彼に言われ、満潮は口に出す言葉も無かった。

 

提督「俺はお前達を率いて戦う身ではあるが、その俺達提督にしたって、最初は先行きに不安を覚えていたのさ。俺達は艦娘達がいるおかげで戦える。人々の明日への希望を切り拓く身分である事を、誇りにさえ思っている。これは俺の本心だよ?」

 

満潮「・・・もういいわ、言うだけ馬鹿馬鹿しくなってきちゃった。」

 

満潮が身を翻そうとする。

 

提督「それはそれとして、何か用があって来たんじゃないのか?」

 

直人はそれが気になり問い質してみると、帰って来たのは些細な質問だった。

 

満潮「あ、いやその、ね。雑品倉庫は何処かなぁって・・・。」

 

提督「なんだそんなことだったか、それなら食堂棟の裏手に併設されてるよ、行けば分かると思う。」

 

満潮「そ、そう・・・ありがと。」

 

提督「・・・!」

 

素直に礼を述べた満潮に、直人は思わず驚いた顔をした。

 

しかし満潮はそれを見る事無く、足早に去っていった。

 

朝潮「・・・満潮が、あんなことを考えていたとは知りませんでした。」

 

そう言って間仕切りの向こうから出てきたのは、秘書艦代理の朝潮だった。

 

金剛「デスネー・・・。」

 

提督「―――聞いていたか。」

 

 朝潮は大淀に処理した書類を届けるついでの用足しに席を外していたのだ。戻ってき他朝潮は満潮とのやり取りを聞き、間仕切りの向こう側で、観賞植物の陰でうまく満潮をやり過ごしたらしい。

では金剛はどこにいるか、実はタウイタウイで秘密裏に補給を受けた後、この時まだ帰投中であり、テレビ通話でパラオ経由で通信していたのだ。

 

画面は、直人の執務机にあるホログラム端末である。

 

朝潮「提督、私は・・・」

 

提督「別にお前が何かした訳じゃ無かろうに。」

 

顔を曇らせた朝潮に直人はそう言った。

 

朝潮「は、はい、それはそうです。」

 

提督「なら結構。だが満潮のあの考えは、ある意味に於いては危険な思想だ。朝潮姉妹の長女として、よく彼女を見てやってくれ。」

 

朝潮「―――承りました、司令。」

 

いつもの顔付きに戻る満潮だった。

 

提督「さて、大分脇道に逸れたな、本題に戻ろうか。」

 

金剛「OKデース。」

 

朝潮「・・・? そう言えば、金剛さんと通信で何を話されているのですか?」

 

実は金剛と通信を繋いだのは朝潮の離席中だったのだ。

 

提督「あぁ、厨房の持ち回り要員の相談をな。」

 

朝潮「持ち回り、ですか。」

 

提督「うん、満潮は決まりとしてあと6人・・・。」

 

金剛「・・・。」ジーッ

 

画面の向こうから直人をじっと見る金剛。

 

提督「―――あ、えーと・・・そうだな、お前の料理も、食ってみたいなぁ。」(棒読み)

 

金剛「お任せデース。」^^

 

流石に空気の読めない男ではない。

 

結局実力未知数の金剛も、この持ち回りに参加する事になったのだった。

 

提督(やれやれ・・・。)

 

金剛「そうだ提督ゥ、比叡も加えるネー。」

 

提督「え、マジで? あいつ相当なメシマズだって専らの噂なんだけど・・・。」

 

これは事実。どの司令部でも比叡は料理が異次元に下手らしい。

 

金剛「うちの比叡なら大丈夫デース、私が保証しマース。」

 

提督「ぬー・・・まぁ、お前が嘘も言うまいな、分かった。」

 

余り気は進まない直人ではあったが、渋々承諾するのであった。

 

金剛「何なら一度毒見ついでに、比叡のディナー食べてみますカ?」

 

提督「・・・うむ、そうしよう。」

 

鳳翔さんの負担を減らす為、直人は腹をくくる事にしたのだった。

 

 

<あとどうしよっか・・・?

 

ソウデスネー・・・>

 

あ、そういえば――――>

 

<・・・ほう、それはそれは・・・

 

 

この後3人の話し合いは長々と続き、その様子に大淀も口を挟む事を憚ったのであった。

 

 

 

そんな論議の翌日、直人は司令部から造兵廠への道を歩いていた。

 

この小道は、サイパン南岸の森を傘にする様に作られ、司令部と造兵廠を繋いでいる、双方を結ぶ唯一の人が移動出来る陸路である。

 

直人の頭上は、繁茂する森の木々に覆われ、さながらトンネルの様に巧みに艤装されていた。

 

飛行場から司令部へのルートが地中を通るトンネルになっている事からも分かる様に、施設間の交通を確保する策は万全を期していたのだった。

 

 

 

1月19日午後1時47分 サイパン南岸/森の小路

 

 

提督「・・・。」

 

直人は、この道を歩いている時が一番心が安らぐのだ。

 

木々の間を走る道、そよぐ風に揺られて、天幕の様に頭上を覆う木々の枝が、音を立ててなびく。

 

常緑樹の深緑に包まれた森の中は空気も綺麗で、豊かな自然そのものが、そこには確かにあったのだ。

 

この付近に存在する防備兵器は少ない。これは、この付近一帯に兵器を配備する事で標的となり、森が焼ける事を、直人が嫌ったからでもある。精々存在するのは防空探照灯とレーダーサイト程度である。それらも、森への延焼対策は可能な限りなされている。

 

提督「―――やはり、自然と言う物は良い。ただひたすらそこに在り続け、悠久の時を刻む。しかし往々にして自然は破壊される、それでも尚ここに森があり続けるのは、自然の生命力の証左ではないか――?」

 

誰に言うともなく、直人は呟く。

 

直人もまた、自然界に畏敬を覚える者の一人だった。自然と人間を護る事は、ある一点に於いて同一なのかもしれない、とは後の彼の言でもある。が、それを語るのは、この戦いの終わったそのまた先の事だ。

 

 

 

造兵廠と司令部の間は、徒歩で大体15分程度かかる。司令部が東岸の端辺りにあるのに対し、造兵廠はサイパン島の南岸オブヤンの東1.5kmの沿岸線沿いにあるからだ。直人などにはちょうどいいウォーキングコースだったが。

 

15分かけて造兵廠に辿り着いた時、そのドックの一つは活気に溢れていた。

 

提督「明石ー!」

 

1番ドックの方にいた明石を大声で呼び付けると、明石も気付いてこちらに走ってきた。

 

明石「提督、どうされたんですか?」

 

提督「“鈴谷”の建造進捗はどうかなと思って。」

 

実はあれから、明石に頼んだ旗艦建造は明石と局長に任せっきりで、ドックにも顔を見せていなかったのだ。

 

明石「順調ですよ。提督もびっくりされると思いますから、楽しみにしていて下さいね?」

 

提督「―――?」

 

それを聞いて直人は思わず首を傾げた。

 

局長「マ、竣工スルマデノ、オ楽シミッテヤツダナ。」

 

提督「局長・・・分かりました、そう言う事なら楽しみにさせて頂きましょう。」

 

明石「船体の方は7割完成しています。艦娘用の資材を流用して作ってますから早いもんです。」

 

発注したのが1月5日、そこからキールを置き、船体を組み上げ、19日午後1時の段階で船体7割完成だと言う。1万トン越えの大型巡洋艦の建造速度ではない。

 

提督「そうか・・・いや、そんなに急いでくれるなよ?」

 

明石「分かってますって!」

 

明石が快活な笑みを浮かべて言う。

 

局長「艤装段階カラガ本番ダカラナ。竣工ハ2月上旬ニナルハズダ。」

 

提督「分かりました。いや、邪魔をしたな。」

 

そう言って直人は辞去したのだった。

 

 

 

1月19日18時06分 司令部裏ドック

 

 

提督「そろそろ戻ってくる筈だが・・・」

 

出迎えに出た直人。この時間に戻ると連絡を貰っていたのだ。

 

大淀「・・・見えませんね。」

 

提督「・・・ソウダネー。」(棒

 

流石に時間に遅れる事も無かろうと思っているのか、棒読みである。

 

提督「・・・お、来たな。」

 

金剛「提督ゥー!」

 

勝利を飾った金剛艦隊の凱旋である。

 

提督「お帰り、金剛。」

 

金剛「ただいまデース。」

 

提督「損傷艦は?」

 

金剛「響サンは直ぐにでも。」

 

提督「引き受けた。で、大淀さん? 明石は?」

 

実は呼びつけた明石が遅刻している。

 

明石「すみませーん!」

 

噂をすれば、である。慌ただしく明石が現れた。

 

提督「事前に言ってあったでしょ!」

 

明石「は、はい、それはそうなんですけど、丁度ブロックの溶接作業をやってまして・・・。」

 

実は鈴谷の建造は全溶接でやっている。当時の日本艦艇は鋲打ちで建造したのだが、それだと工期が長くなる。溶接ならば、それこそブロックを積む様に下から組み立てる事も可能なのだ。

 

日本は溶接を大々的に導入した吹雪型が第4艦隊事件で盛大にやらかしてはいるが、それは吹雪型の軽量化策に伴う構造力学的問題が原因なので溶接技術云々は関係無い。が、当時は溶接工法の未熟が原因として鋲打ちに戻しているのだ。

 

提督「いや、別に後回しで来ればいいでしょうに。」

 

明石「そ、それはそうですけど・・・。」

 

その明石の反応を見てやっと、直人は自分の領分の外に出ていた事に気付く。

 

提督「・・・ま、いいや。損傷艦の修理、頼んだ。」

 

明石「はい、お任せください!」

 

雷「響、大丈夫?」

 

響「う、うん・・・なんとか。」

 

そう言う響の足取りは、少々おぼつかず。

 

提督「響、こんなになるまで、よく頑張ったな。」

 

響「司令、官・・・。」

 

響は痛みに顔をしかめながら、それでも微かに笑顔を作って見せた。

 

響は左腕のシールドを吹き飛ばされ、背部艤装は貫通した敵弾で一部欠損し魚雷発射管もダメージを被っていた。右側は主砲が短いアームから宙吊り状態になり、砲塔も大破し機能していなかった。

 

シールドを吹き飛ばされたのは、大破する寸前背後の砲撃して来た敵に咄嗟に反時計回りで振り向いたからだった。

 

服も派手に吹き飛ばされていたが辛うじて原型は留めていた。傷はそこまで深くなかったが、応急処置のみであったためすぐに処置をしなければならなかった。

 

提督「すまないな、響。ゆっくり休んでくれ。」

 

響「ま、流石にこれは、恥ずかしいしね・・・。」

 

そりゃそうだろうと思った直人は雷に声を掛ける。

 

提督「雷、確か被服も雷の担当だったよね?」

 

雷「なし崩しだけどね、アハハ・・・。」

 

提督「響の予備の服、出してやっておいてくれ。」

 

雷「勿論!」

 

雷は実は無傷で帰投している、それを伺わせる様にはつらつと答える雷だった。

 

金剛「後の損傷艦は―――」

 

損傷した艦艇は響以外に、

 

 

中破:摩耶

小破:鈴谷・電・木曽・夕立・敷波

軽微:綾波・村雨・鈴谷・大井・初春

 

 

以上11隻がいた。

 

摩耶は最後の突撃の際敵の最後の悪足掻きをまともに食らっていた。それが深海棲重巡のものだったのがもっけの幸いと言うべきであろう。

 

小破した5隻は何れも艤装の一部に損傷を負っていただけである。但し夕立は魚雷発射管1基を飛ばされ、綾波は主砲の右側を掠られて連装砲の右1門が使用できなくなった。綾波は運が悪かっただけだが、夕立は敵のど真ん中で大立ち回りをしたのだからある意味当然だった。

 

あとの5隻は、至近弾で脚部艤装にダメージを受けたり艤装を掠めたとかその位である。

 

提督「・・・まぁ、摩耶もドックINだ、後の艦は程度の軽い物から順に修理してくれ。」

 

明石「はい。」

 

金剛「それじゃぁおフロ頂きマース・・・。」

 

提督「あぁ、金剛!」

 

金剛「ん? どうしましたカー?」

 

呼び止められ振り返った金剛に直人は言った。

 

提督「無事に帰って来てくれて、ありがとう。それと、皆を無事に連れ帰って来てくれた事も。」

 

金剛「当然デース、提督一人を遺して、沈める訳がないデース。ソレト、ワタシ達は艦娘を使い捨てる事はしない、デスヨネ?」

 

そう聞かされ、直人は心から言う。

 

提督「あぁ、そうとも・・・本当に、ありがとな。」

 

金剛「どういたしましてネ。」

 

そういって金剛は背を向け、手を振って去っていった。

 

提督「・・・。」

 

日没直後の薄暗がりの中で、直人はそれを見送る――――頭を掻きながら。

 

 

 

司令部の敷地には、既にあちこちに明かりがついていた。

 

明石「あのー・・・」

 

提督「ん?」

 

そこに明石が声をかけてきた。

 

明石「ドロップ判定は、どうしますか?」

 

提督「あぁ、それは明日にしよう、お前も昼夜兼行なんてさせなくていいししなくていいから、しっかり休んでくれよ、俺の為に体壊してくれても困るしな。」

 

明石「あ、はい・・・。」

 

”絶対に無理はするな”と言う直人の薫陶は、この後艦娘達の中に徐々に浸透して行くことになる。

 

提督「さて、俺も上がりにするかぁ、適当に食堂に居よう。」

 

大淀「あ、お疲れ様でした。」

 

提督「大淀さんも上がりねー。」

 

大淀「はい、分かりました。」

 

こうして、直人にとって長い5日が終わったのだった。

 

 

 

結果から言えば、この作戦は成功に終わったと言っていい。

 

バンダ海・ジャワ海・セレベス海・南シナ海・タイランド湾の5つの海域からなる南西方面の深海艦隊は既に、ジャワ海とバンダ海の二つに追い詰められていた。

 

その残っていた敵の、2つの海にそれぞれいた主力を潰走させたのだから、それは必然的に艦娘艦隊がその勢力の伸長を図るのには十分な成果だった。これは戦略的に見ても、南西方面における制海権を手中に収めやすくなった事を意味する。

 

横鎮近衛艦隊はサイパンに来て初めての組織的遠征を、直人抜きで成し遂げた。これはこの後の作戦行動の幅を広げる事にも繋がるのである。判定するなら、戦略的勝利SSと言うのが、今回の作戦であった。

 

ただ直人の方はと言うと、ナルカレクシーへの反撃作戦程ではないが、敵主力の撃滅任務に自分が関与できない事に歯痒い思いをしていたのだった。静より動を好む直人にとってこれは半ば当然とはいえ、動く事もその余力も無いではどうしようもなかったのは事実であり、己の無力さが歯痒さを募らせていた事は間違いない。

 

だがそんな心境とは裏腹に、この状況はしばらく続く事になり、解決には建造中の鈴谷完成を待たなければならなかった。

 

 

2053年は、未だその24分の1を終えたのみである―――――――

 

 

 

 

 

―――――次回予告

 

旗艦の完成まで自制する事を決した直人。しかしそこへ、大本営からの再度の密命が入電する。

 

セレベス海の一戦に参加した艦隊を疲労で動員出来ず、苦慮した直人。

 

彼は残余戦力から艦隊を抽出するが、その中には司令部防備艦隊所属である、第7水雷戦隊の名が載っていた。

 

更に密命の指す行く先には、不穏なる影の情報までも存在していたのだった。

 

次回、横鎮近衛艦隊奮戦録 第2部7章

 

『寂寞の千島列島――葛藤と大洋――』

 

艦娘達の歴史が、また1ページ―――――

*1
ボルネオ島とスラウェシ島の間にある海峡。海峡としては幅が広く、最も狭い所で幅が100㎞程もある。ボルネオ島の油田であるパリクパパンはこの海峡に面した地であり、かつて日本海軍が太平洋戦争初期、ABDA連合艦隊に辛酸を舐めたパリクパパン沖海戦の舞台としても知られている。近年では海底油田であるアタカ油田も発見されており、日米の企業が50%づつ権益を有しているが、深海大戦に伴う情勢悪化により、アタカ油田は一時放棄と言う形で操業を停止、無人となっている。




艦娘ファイルNo.84

陽炎型駆逐艦 秋雲

装備1:12.7cm連装砲
装備2:25mm連装機銃

明石がドロップ判定を忘れていたその判定で着任した陽炎型駆逐艦。
戦闘技能は三流程度で、直人の目にも、流石に実戦には堪え得ないと判断される程である。
史実に於いては陽炎型でも抜きん出た航続距離を以って、開戦から南雲機動艦隊の護衛艦の1隻となって活躍したものだが、それを鑑みればお寒い限りである。
その中唯一誇り得たのが絵を書く才能、それも並外れたものであって、直人はそれを買い、青葉の元に在って広報に華を添えるのに貢献している様である。

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