異聞 艦隊これくしょん~艦これ~ 横鎮近衛艦隊奮戦録   作:フリードリヒ提督

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やぁ、天の声だよ。

青葉「どうも恐縮です、青葉です!」

早速ご報告ですがブログ始めました。艦これを初めとして様々なゲームや軍事系の雑談、小説に関すること等を記事にしております。不定期更新ですが良ければ見て行ってください。ユーザープロフィールにURLを添付しておきますので、そちらからどうぞ。

青葉「特にこれといった話はありませんでしたねー。(すっとぼけ)」

やめるんだそう言う事言っちゃうと見に来ないから。

青葉「アッハイ。」


さて今回は、金剛の特異点についてです。

色々と特異点を持つ金剛ですが、主だったところは3つです。

1つ目は言語能力が同位体の他の金剛に比べて秀でる事。但しこれはかなり不安定なようで、安定して流暢に話せるのはやはり稀です。

2つ目は横鎮近衛の金剛特有の能力『砲塔個別精密射撃』です。
これは金剛の艤装にある4つの砲塔が、それぞれに独立した照準を付ける事が可能になる能力で、最大4目標まで同時に砲撃が可能である事を意味しています。
更にこれを使いこなす為の独自の射撃管制技術をも金剛は習得しています。

3つ目は艤装の特異点『フィット砲の違い』です。
元来金剛型は35.6cm砲系列がフィット砲ですが、この金剛に関してはそのフィット砲がなんと46cm砲と言う、本当に破格の強さを誇ります。
当然艤装がその基準に沿って形作られていると言う事である為、艤装のサイズや艤装浮力、艦娘機関の出力さえも元の金剛とは隔絶しています。

他に見た目の相違として『アホ毛の向きが逆』だったり、何故か薙刀の扱いに秀でたりなど特徴の多い彼女だが、端的に言うと、艦娘としては破格の強さを持つ一人、とも言えるでしょうね。


青葉「まぁ、弱いなんてとんでもないという所ですか。」

そうねー、『弱いとは言わせない。』という強い思いがこの金剛を生み出したと言って過言ではないですし。(中の人が金剛大好き)

青葉「でも最近鈴谷さんにも相当なラブを注いでらっしゃいますよね。」

言うなー!

まぁ、3年以上もの間鈴谷改二は待ち侘びてましたし否定はしないが。指輪もゲットしましたよ、えぇ。

青葉「無課金の執念強い。」( ̄∇ ̄;)

では始めましょうか。

青葉(無理矢理〆た!?)

第2部13章、この章では、登場希望を頂いた“ある方”が遂に登場します。長らくお待たせしましたというとこですね、結構前からお話は頂いていました。出演希望/要請での御登場二人目になります。登場希望の方は常時募集中ですので、お声掛かりがあれば対応致します。

追伸:UA5000突破、ありがとうございます! 今後ともよしなに<(_ _)>

それではどうぞ!


第2部13章~北方海域異常アリ~

5月1日の朝、直人はさっそく事後処理に移った。というのは案の定というか、結構な数のドロップ判定に使用出来る残骸を回収していたからだ。

 

と言っても彼自身は、この抜け目の無さに感心すると同時に多少呆れてもいたが。

 

 

2053年5月1日9時31分 建造棟1F・判定区画

 

明石「終わりました!」

 

と開口一番明石が飛び出してきた。そしてそれに対する直人の反応はいつもの明石に対するそれとは異なっていた。

 

提督「明石、これは・・・」

 

明石「気付かれました?」

 

というのは明石は今、直人の見慣れない艤装を纏っているのだ。

 

提督「ということは・・・明石、やっとか!」

 

明石「はい。工作艦、明石です! 応急修理ならお任せ下さい! 第一線でバンバンサポート、やっちゃいますよ!」

 

提督「おう! 頼りにしているぞ!」

 

遂に工作艦明石、就役の時が来たのである。これは何よりの吉報であった。

 

提督「さて、後の着任報告を聞こうか。」

 

という訳で・・・

 

 

足柄「足柄よ。砲雷撃戦が得意なの! フフッ、宜しくね。」

 

吹雪「吹雪です! 宜しくお願いします!」

 

巻雲「夕雲型駆逐艦、巻雲と言います! 夕雲姉さんと一緒に、頑張りますッ!」

 

明石「以上私含め4名が新着です!」

 

提督「うむ、皆宜しく頼むぞ。」

 

3人「はいっ!!」

 

2053年5月1日、駆逐艦「吹雪」着任――――。

 

この事が後に起こる悲劇の序幕であった事を、彼らはまだ知らない。

 

 

その日の午後、直人の下には豪州方面の戦況に関する情報が入って来ていた。

 

14時37分 中央棟2F・提督執務室

 

提督「ほう、豪州方面の戦局は我が方優勢か。」

 

大淀「はい、敵の超兵器級が複数いるという情報もありましたが、全く姿を見せないそうです。」

 

提督「当たり前だ、我々が沈めているんだからな。」

 

大淀「はい、そうでしたね。」

 

この時直人は、複数の超兵器級が彼らの牙を逃れて南方戦線へ退いている事を知る由もない。

 

提督「兎も角優勢なら言う事はないな、平時業務体制だ。但し、いつでも空襲がある可能性はある。基地航空隊の補充機は?」

 

大淀「地上撃破、被撃墜機共に全て補充してあります。」

 

提督「Хорошо(ハラショー)。では哨戒機と上空警戒機を平時の倍に増やし四直(6時間ずつ)のところ倍の八直(6時間ずつの哨戒を3時間ごとに出す)にして防御を固めておいてくれ。対潜哨戒も厳にせよ、水上と空中の両面から袋叩きにするんだ。」

 

大淀「伝達します。」

 

直人は今後の措置を大淀に指示した後執務の残りを片付けにかかった。すると―――――

 

「さり気なくセリフを取らないでくれるかな?」

 

そう言ったのは秘書艦席に座る響である。

 

提督「ハハハ、たまには使いたくなるもんさ。」

 

響「まぁ、分からない事はないけどね。」

 

短く言葉を交わして響は目の前の書類に目を通す。

 

因みに今日金剛は流石に長期航海と戦闘の疲労で、完全にダウンしていた。ので直人が休みを取らせたのである。

 

提督「しっかしなんだな、資材にも余裕が出て来たってもんだ・・・。」

 

としみじみと噛み締める様に言うのであった。

 

 

が、その思いは2日で消え失せた。

 

5月3日10時04分 中央棟2F・提督執務室

 

明石「大型建造しましょう!」

 

提督「・・・。」( ̄∇ ̄;)

 

大淀「・・・。」( ˘•ω•˘ )

 

金剛「・・・。」( ゚д゚)

 

三者三様の反応。なおこの時の三人の心境はと言うと――――――

 

提督(また始まったよ・・・)ヤレヤレ

 

大淀(何を言ってるんですか・・・)不満

 

金剛(何を言ってるんデース・・・)呆れ

 

てな感じ、直人は早くも諦めている。

 

提督「まぁ念のために聞こう、理由は?」

 

明石「戦力強化です、特に戦艦の火力が――――」

 

大淀「却下です。」

 

明石「あなたには聞いてませんけど!?」

 

提督「はいストップ! 大淀が裁定することじゃないぞー。」

 

間一髪で艦娘の衝突を止める直人。

 

大淀「し、失礼しました・・・。」

 

提督「――――1回だぞ、但し、一発で決めろ。」

 

明石「は、はい!」

 

金剛「イ、イヤテイトク、建造ってランダム性が強いカラ・・・」

 

提督「戦艦レシピだ!!」

 

明石「承りました!!」

 

4000/6000/6000/2000/20の非常にオーソドックスな資材指示を端末で出す直人。

 

 

―――――結果

 

 

10時10分 建造棟1F・建造区画

 

提督「・・・。」

 

明石「・・・。」

 

金剛「・・・。」

 

大淀「・・・。」

 

・・・おや?

 

提督「こ、これは・・・」

 

明石「・・・。」

 

金剛「・・・。」( ̄∇ ̄;)

 

大淀「・・・。」( ̄∇ ̄;)

 

・・・???

 

提督「・・・明石。」

 

明石「な、なんでしょう?」

 

何とも話しにくい雰囲気を破って直人が明石に声をかけた。

 

提督「よくやった!!!」

 

明石「ありがとうございます!!!」

 

建造時間表示器には堂々たる『8:00:00(※結果と残り時間が一緒に表示)』が。

 

 

明石「バーナー、お願いします!」

 

と外から呼びかける明石。流石に屋外退避である。

 

提督「・・・排煙間に合うのあれ。」

 

とその有様を見て言う直人。

 

明石「煙の出にくい混合ガスですから大丈夫・・・と思いたいです。」

 

提督「想像は付いた。」

 

 

という訳で

 

大和「大和型戦艦、一番艦大和、着任致しました!」

 

金剛「ス・・・スゴイデース、ホントに一発で決めちゃったネー。」

 

大淀「そんな事もあるんですね・・・。」

 

提督「着任を歓迎する。横鎮近衛艦隊司令官、紀伊直人だ。宜しく。」

 

直人が握手を求める。

 

大和「はい。こちらこそ、宜しくお願いします。」

 

大和は握手に応じ、しっかと直人の右手を握りしめる。

 

大日本帝国海軍――――いや、世界最強を謳われた戦艦大和。その大和が今着任したのである。

 

提督「んじゃ明石、直々に施設を案内してやるといい。神通と北上にも連絡は入れとくから。」

 

明石「あ、分かりました。」

 

提督「それじゃ大和、また後で。」

 

大和「はい!」

 

 

直人が建造棟前を立ち去ると残された明石と大和は取り敢えず食堂棟から案内と言う事で歩いていた。

 

大和「提督はやはり、お忙しいの?」

 

明石「そうね~、午前中だけかな。忙しいのは。」

 

大和「午後はどうされてるんですか?」

 

明石「んー、その辺ぶらぶらして雑談してたり、たまに釣りかな。」

 

大和「つ、釣り。」( ̄∇ ̄;)

 

直人の生活ぶりに驚く大和でした。実際釣りはたまにしているのだが。

 

明石「まぁ、提督が仕事終わらせるのが早いのもあるけどね。」

 

大和「成程・・・。」

 

別にそこまで怠惰な訳ではない直人、単に束縛されるのが嫌というだけである。

 

 

一方で問題も抱えていた。

 

11時19分 中央棟2F・提督執務室

 

提督「今度は吹雪か・・・。」

 

そう、秋雲に続いて吹雪までもが技量に赤点があるというのだ。但し吹雪の場合運動音痴であるらしい。

 

神通「――――その」

 

提督「分かった、引き受ける。」

 

神通「な、なぜお分かりに?」

 

提督「神通が来たと言う事はそう言う事だろう?」コキコキ

 

神通「御慧眼、恐れ入ります。」

 

特☆別★教☆練 である。

 

提督「金剛、午後の吹雪のスケジュール空けといて~。5日分。」

 

金剛「了解デース。」

 

大淀(・・・あの過酷な訓練に耐えられる人いるんでしょうか・・・秋雲さんは兎も角。)

 

 

14時37分 司令部前訓練水域

 

提督「ふむ、水面に立つ事は出来るんだな。」

 

吹雪「は、はい。一応・・・」

 

提督「・・・訓練水域までどう移動してたんだ?」

 

吹雪「徒歩・・・ですね。」

 

それを聞いた直人は顔を覆って言う。

 

提督「航行する所からかぁ・・・神通。」

 

神通「は、はい?」

 

一応何かあった時にと付いて来させた神通に直人が声をかける。

 

提督「陽炎呼んでこい、至急な。」

 

神通「理由を、お聞きしても宜しいでしょうか?」

 

提督「あいつ確か着任間もない頃航行が赤点だったろ。」

 

理由を伝えるに当たりそれだけで神通には十分伝わった。

 

神通「分かりました、すぐに。」

 

提督「航行の矯正については神通と陽炎に任す。」

 

やはりというか、こういう事は手慣れたものにやらせた方が案外上手くいくものであると直人は思っていた。因みにこの時はストライダーフレームの脚部艤装に12cm単装砲2門、脚部艤装のスロットに4連装魚雷を装着していた。当たり前だが演習弾である。

 

 

その特別教練真っ最中の5月6日、さっさと書類を片付けたい直人の下へ明石がやってきてこう告げた。

 

9時30分 中央棟2F・提督執務室

 

明石「鳳翔戦闘機隊の機種転換が可能ですが、如何致しましょう?」

 

提督「善きにはからえ。」

 

明石「はい!」

 

艤装が出来た事で御機嫌の明石はこの日もルンルン気分で執務室を去っていった。

 

 

――――そんでもって

 

 

柑橘類「おう直人。新しい機体ありがとな。」

 

提督「うむうむ、これからも頼むぞ~。」

 

明石に頼んだ結果機種転換した後の柑橘類隊の装備機体は零戦二二型から五二型甲になっていた。

 

 この機体は五二型に搭載されている20mm機関砲、「九九式二〇粍二号機銃」三型(ドラム給弾式)を四型に変更した事である。この改修により20mm機関砲の装弾数が三型の100発から25発増えて125発となり、弾持ちの悪さが改善されている。

 更に主翼外板を0.2mm厚くして強度を高めたことで、急降下制限速度は元の666.7km/hから740.8km/hに向上した。この急降下制限速度というのは、所謂ダイブ中に出してよいという上限スピードの事である。越えたら最悪空中分解である。

 

因みに艦これのゲーム内に於いて岩本隊の機種転換に挟まって来るのもこの五二型甲である。

 

明石「しかし見事に五二型すっ飛ばしましたねこれ・・・。」

 

提督「まぁええじゃろ、偶然出来ちゃったモンはしゃぁない。」

 

明石「あっ、ハイ。そうですね・・・。」

 

柑橘類「五二型が良かったんだけどなー・・・。」

 

提督「ダイブ速度上がってる上20mmの弾増えてんだろうが文句言わない!」

 

柑橘類「あっ、はい。」

 

性能が上がってるのは確かなのである。代償として五二型に比べ5km/hほど速度は落ちたが・・・。

 

 

5月9日9時47分 司令部前訓練水域

 

5日間猛特訓を積んだ吹雪。んでどうなったかというと・・・

 

吹雪「いっけぇぇ!!」ザザァッ

 

ズドォンドゴオォーー・・・ン

 

提督「うむ。ちゃんと走って撃てるようになったな。」

 

神通「精度も申し分ありませんね。」

 

そう言う神通の視線の先で、吹雪が次々と標的を倒していく。

 

提督「――――だが実働部隊のそれには及ばんな。」

 

神通「言わないお約束ですよ・・・。」

 

提督「まぁそうだな。」

 

直人は神通に同意してその様子を眺めていた。結果から言うと一応矯正には成功したと言えよう。だが言ってしまうとこれは、Lv-の所をLv1にしただけの事、先は長い。

 

 

5月9日10時21分 キスカ島第3歩哨塔

 

アッツ・キスカと言ったアリューシャン列島の西端に当たる島々は、SN作戦以来人類側が前哨基地として進駐し続けていた。

 

兵士A「暇だなぁおい。」

 

兵士B「全くだ、こんなクソ寒い所でずっと海を睨む仕事なんだからな。」

 

下士官「お前達、私語は慎め!」

 

ここ、第3歩哨塔はキスカ島北東部沿岸に位置する、島内10カ所にある監視塔の一つである。

 

兵士A「はぁ~・・・ん?」

 

兵士B「どうした。」

 

兵士A「おい、あっちの方見てみろ、方位37。」

 

兵士B「あぁ・・・?」

 

言われた兵士が双眼鏡でその方角を見てみる。

 

兵士B「・・・あれは――――敵機だ!!」

 

それは、長い戦闘の始まりでもあった。

 

 

提督「キスカに敵襲!?」

 

その報告を聞いたのは10時47分の事である。

 

大淀「現在も敵襲は継続中で、基地施設に被害も発生しているとの事です。」

 

提督「戦況は?」

 

大淀「敵は中爆及び重爆を中心にした大規模な編隊ですが、戦闘機の護衛はないそうです。一方我が方はキスカ島沖合で哨戒中だった艦娘部隊、とりわけ空母部隊が戦闘機を出し徹底的に応戦していますが、それでも何分、数が――――。」

 

提督「そうか・・・。」

 

報告を聞いた直人は、「来るべきものが来た」と感じていた。

 

人類の影響圏の中で、とりわけキスカ島は突出している。“出る杭は打たれる”とはよく言われるが、出ている杭を打ちにかかる事は何一つ可笑しい事ではないからだ。

 

一応直人がいるここサイパン島も突出している地点でこそあるが、ここの場合はまだ小笠原諸島がある。硫黄島や父島などに人員も配置されている上、その防護は横鎮近衛や横鎮所属艦隊の役割である。

 

提督「しかしここからでは・・・何も出来んな。」

 

そう、サイパンからキスカ島まではざっと5000km弱を隔てている。空路で駆け付けようとすると積み荷があってはまず到達不可能である。

 

大淀「続報を待ちましょう。」

 

提督「そうだな、大本営も黙ってみている訳ではあるまい。もしかしたらこれは俺にお呼びが掛かるかもしれんな――――そうだ、横須賀の青葉を呼び出せ!」

 

大淀「はい!」

 

言うなり大淀と直人は1階に走るのであった。

 

 

10時52分 中央棟1F・無線室

 

提督「何? キスカ空襲についての情報は流れていないだと?」

 

青葉「“はい、私も幌筵からのリークで知ったばかりなんです。”」

 

青葉のSNS式情報網の威力が絶大であると分かる一幕だが、青葉の言う通り内地ではどこであってもこの情報は流れていない。幌筵泊地と戦場となったキスカ島、大本営の内部でのみ事態が推移していたのだ。

 

提督「情報統制か?」

 

青葉「“だと思います、幌筵からの通信も、大本営に向けた基地で使われている基地間通信用暗号電文が主です。”」

 

大淀「と言う事になると、一般の部隊では解読は無理ですね。」

 

青葉「“それどころか回線も別のものが使われているので、受信すら出来ないと思います。幌筵から大湊に送るのについても、択捉島と千歳の通信所を経由する必要があります。その段階で握り潰されている可能性もありますね。”」

 

実は基地間と艦隊が使う暗号帳と回線は別々に用意されており、周波数帯が異なる以上基地間通信を艦隊側で受信する事は出来ないし、逆も然りなのだ。では艦隊の動向をどの様に把握するかというと、後で通信ログと報告書を艦隊から出させる方式なのだ。回りくどいが上の動向を艦隊に知られない様にするにはいい方法である。

 

提督「――――分かった、忙しいのにすまなかったな。」

 

青葉「“いえ! またいつでも御用立て下さい! サービス営業なんてアナタだけですからね?”」

 

提督「その言葉がどれ程有り難いか。ではまたな。」

 

青葉「“はい!”」

 

青葉は通信を切る。

 

提督「・・・よし、艦隊に第三種戦闘準備態勢だ。」

 

戦闘準備態勢指示は、艦隊がすぐに実働体制に移る為の準備態勢を指示して置く為のものだ。

 

第三種は一番軽いもので、鈴谷への各種物資積み込み、艤装への実弾装填準備、水上哨戒の防備艦隊への移管、甘味処の一時閉鎖が主な内容だ。

 

 因みに第二種だと一部艦娘部隊の鈴谷への乗艦もしくはサイパン周縁部展開、水上哨戒の全廃及び空中哨戒の大幅強化、並びに遠征部隊の全部隊差し戻しに繰り上がる。

 第一種では第二種から更に全艦娘の鈴谷乗艦ないし洋上展開、基地航空部隊の対艦艇攻撃即時実行可能な態勢の確立、最大哨戒範囲の航空哨戒となる。

 

大淀「何かしらあると、お思いですか?」

 

提督「普通こう言った敵襲の情報はすぐに来るし内地でも言う筈だ。それがここまでタイムラグがあった事を考えると、余程混乱していたか、後回しにされていたかの何れかだろう。」

 

大淀「・・・わかりました。」

 

こうして横鎮近衛艦隊は緊急に戦闘態勢を整えにかかった。訓練を継続する一方で哨戒を強化し、直ちに作戦行動に移れるよう準備をし始めたのである。

 

 

一方キスカ島の戦況はと言えば、11時37分には敵機の空襲が止み、基地にそれなりの損害が出ている事が判明したが、それよりも人的被害が甚大である事が発覚した。

 

 その後の12時11分、キスカ島は有力な敵の艦砲射撃とロケット弾攻撃の洗礼に見舞われた。これにより、キスカ島に碌な建物は存在しなくなり、キスカ島からの通信はその一切が途絶えた。

しかしこの頃周辺にいた各艦隊が救援し、その艦載機部隊が敵の上陸船団と思われる補給艦ワ級からなる大船団を徹底的に攻撃した為、キスカ島侵攻の意図は挫かれたものと見え、12時55分に敵艦隊は後退した。

 

こうして間一髪キスカ島の危機は去ったと見られたものの、味方の攻撃は敵輸送船団に集中していた為、敵の主力が再び体勢を立て直してくる事は予想された。キスカ島には4000人程度の人員が駐留していたが、約半数が死亡、もう半数の何割かは負傷していた。最前線という現実が如実に表れていたと言えよう。

 

 

5月14日午前9時44分、直人の下に命令が打電された。それは直人が予想したものであったが内容は予想を超えていた。

 

~中央棟2F・提督執務室~

 

提督「何? “キスカから残存兵員を後送しろ”だと?」

 

大淀「はい、大本営はキスカを放棄し、アッツ島に防衛ラインを敷く構えのようです。」

 

提督「・・・成程、言いたい事はよく分かった。即ち鈴谷を使って幌筵泊地に人員を輸送しろという訳だな。だがキスカは敵の動向を掴むにはいい場所だ、しかしながら敵の一度の攻撃を受けただけで撤収するとは解せんな。防備が不十分だったのか?」

 

大淀「補給線を縮小したいというのであれば、分からない話ではありませんが・・・。」

 

幌筵からキスカまで約1550km、これを鈍足の輸送船で踏破するというのは並大抵の話ではないのは確かである。

 

提督「――――そうか、人員の被害の大きさでさしもの山本海幕長も鼻白んだと見えるな。」

 

大淀「た、確かに、今回の攻撃で死者数は全体の約5割になっていますが・・・。」

 

直人の推測は的を射ていたが、実は実際の所その両方であった事を直人は戦後になって知る事になるのである。

 

提督「・・・で、作戦の概説は?」

 

大淀「はい、こちらに。」

 

提督「うむ。」

 

直人は大淀からそれを受け取るとざっと目を通した。

 

提督「・・・成程、鈴谷で運べという所は俺の予想通りだな――――待て、この一文を読んでみろ。」

 

大淀「は、はい―――?」

 

大淀は言われたとおり、直人が手繰っていた書類三枚目の指さされた部分を読む。そこは作戦に当たっての補給に関する条項の一文であった。

 

大淀「“(イ)貴艦隊が作戦開始前に補給を行うに当たり、その補給港を幌筵泊地と定める。(ロ)貴艦隊への補給に際しての一切の指揮を、泊地司令部に代わり『幌筵第914艦隊』が行うものとする。また作戦に際しての後方支援に関しても同艦隊の所管とする。(ハ)幌筵泊地は貴艦隊に対する補給物資その他の『幌筵第914艦隊』への供給について全責任を持つものとする。” これは・・・。」

 

提督「――――嶋田め、上手く逃げやがったか。」

 

 

 これも彼が戦後に知る所になる事だが、この補給に纏わる部分に関して、この時彼の知らない裏で密かな応酬が繰り広げられていた。

 攻撃翌日の13日正午頃、作戦部隊である横鎮近衛艦隊の名義上の上級組織である横須賀鎮守府が、大本営からの決定を受けて幌筵泊地に対しこの作戦に関しての協力要請を打電していた。

しかしその返答の内容は『我が泊地には当該作戦に対する協力の意思並びに余力無し、代わって大湊警備府に対して打診されたい。』という、にべも無く拒絶する内容であった。

 

~横鎮本庁・長官執務室~

 

土方「奴め、大本営の決定を反故にするつもりか!」

 

 海自軍自衛艦隊司令長官を兼ね、嶋田の上官にも当たる土方海将はこの返電を聞いて驚きと怒りを隠せなかった。

 

土方「幌筵の嶋田に打電しろ、“この作戦書は軍令部作戦課及び軍令部総長の決定事項である。もし貴官が仮にこれを反故にするとあらば、即刻命令無視の容疑で拘束し、軍法裁判の開廷を申告する”とな!」

 

通信参謀「ハッ!!」

 

 

~幌筵泊地司令部~

 

嶋田「な、大本営の決定事項だと――――!?」

 

 この事を知った嶋田は拒否した事を後悔した。個人的に直人の事を忌避していたことに端を発しており、その私情が、ともすれば自身のキャリアにも傷を負いかねない事態を惹起(じゃっき)しつつあったのである。

 

嶋田「グッ・・・な、ならば土方海将に打電しろ、“当泊地は補給物資提供に関して全責任を持つ。しかしながらその指揮に責任は持たず。”とな――――」

 

 

先の電文から一転した態度を取った嶋田であったが、土方はそれだけで十分であった。

 

土方「――――全く、勝手な事だ。結構、幌筵泊地司令部に了承した旨打電。幌筵泊地の全提督をリストアップし適任を探せ。」

 

 

という経緯で浮かび上がったのが、『幌筵第914艦隊』なのだ。

 

提督「この艦隊の指揮官の名はなんというんだ?」

 

大淀「既に照会しましたところ、提督名は『レオンハルト』となっています。」

 

提督「ほーん? “レオンハルト”ねぇ・・・俺の記憶にはないが、まぁ良かろう。直ちに出港準備だ、艦隊の序列も再編して貼り出しておこう。」

 

大淀「分かりました。」

 

直人はさっそく各艦隊に対し演習完了後速やかに鈴谷に乗艦するよう命令を出した。それまでの時間の間に、直人は編成表を組み上げて艤装倉庫前に貼り出して置いたのだった。

 

 

今回出撃する艦隊は次の通り

 

第一水上打撃群

旗艦:金剛

第三戦隊第一小隊(金剛/榛名)

第八戦隊(鈴谷/利根/筑摩)

第十一戦隊(大井/北上/木曽)

第十四戦隊(摩耶/羽黒/神通)

第二航空戦隊(蒼龍)

第二水雷戦隊

 矢矧

 第二駆逐隊(村雨/五月雨/夕立)

 第八駆逐隊(朝潮/大潮/満潮)

 第十駆逐隊(夕雲)

 第十八駆逐隊(霞/陽炎/不知火/黒潮)

 雪風(十六駆)

 

第一艦隊

旗艦:陸奥

第一戦隊(陸奥)

第二戦隊(扶桑/山城/伊勢/日向)

第四戦隊(高雄/愛宕)

第五戦隊(妙高/那智)

第七戦隊(最上/熊野)

第十二戦隊(長良/五十鈴/由良)

第五航空戦隊(千歳/千代田/龍驤)

 第一水雷戦隊

 川内

 第四駆逐隊(舞風)

 第六駆逐隊(暁/響/雷/電)

 第十一駆逐隊(初雪/白雪/深雪)

 第二十一駆逐隊(初春/子日/若葉)

 

第一航空艦隊

旗艦:赤城

第三戦隊第二小隊(比叡/霧島)

第六戦隊(古鷹/加古)

第十三戦隊(球磨/多摩/那珂)

第一航空戦隊(赤城/加賀)

第六航空戦隊(飛鷹/隼鷹/祥鳳)

 第十戦隊

 阿賀野

 第七駆逐隊(漣/潮)

 第二十七駆逐隊(白露/時雨)

 第十九駆逐隊(磯波/綾波/敷波)

 第十二駆逐隊(叢雲/島風)

 

※大和(第一戦隊)・足柄(第五戦隊)・巻雲(第十駆逐隊)・吹雪(第十一駆逐隊)の4名は訓練の為今回は残留とする。

 

 

今回の出撃から第一艦隊は旗艦が陸奥に変更となった。直人から見ても経験を積んだと判定した為で、彼の中では予定していた人事であった。

 

が、これに異議申し立てをした艦娘がいた。

 

~中央棟2F・提督私室~

 

吹雪「なんで私だけ残留なんですか!!」

 

それはなんと吹雪であった。

 

提督「いや書いたろ。訓練未了だからって。」

 

吹雪「提督とやったあの訓練は何だったんですか?」

 

提督「基礎中の基礎、普通の艦娘なら建造されたてでも出来る。射撃技量は兎も角としてもな。」

 

吹雪「でも私だって戦えます!」

 

提督「艦隊草創期なら兎も角いまどき着任した艦娘達は皆この段階を踏んでるんだ! だいいち、大和だって残るんだ、子供じゃないんだから少しは分別を弁えてくれ!」

 

吹雪「ここに居たって、司令官のお役には立てないじゃないですか!」

 

提督「いい加減にしろ!!!」

 

吹雪「っ!!!」ビクッ

 

直人が大声を上げる。

 

提督「良いか吹雪。戦場で戦う事は大事だ、お前の言う“俺の役に立つ”という目標にもかなうのだろう。だがお前は艦娘として生まれてからまだ、戦場を知らん、戦う術を知らん、戦いというものを知らない。そんな奴を連れて行ってなんになる? むざむざ敵にスコアを献上させる為に未熟な艦娘を―――未熟なお前を連れて行く事を、お前自身が上官である俺に強制するのか?」

 

吹雪に指をさして直人がまくしたてた。

 

吹雪「私だって元は軍艦です!!」

 

提督「軍艦の戦争と、“艦娘の”――――“人間がする”戦争は根底から違うんだ。軍艦なら鉄材を使って修理すれば何度でも走れる。当然だ、命などありはしない。だが艦娘は違う。お前は今や、人間とほぼ変わらない存在だ、“命を落としたら終わり”なんだぞ?」

 

吹雪「それは―――」

 

吹雪がそう言われて俯く。

 

提督「死ぬのは怖くない、という奴はたまにいる。確かに、“七生報国”という言葉もある。だがそう言った艦娘はこの言葉を履き違えている。七生報国とは『七度“生き抜いて国”に報いる』という意味であって『七度“生き返って”国に報いる』という意味ではない。俺は例え、深海棲艦に勝たねばならないとしても、一人の艦娘とて、その大義と引き換えになどしたくないんだ、分かってくれ。」

 

吹雪「―――分かりました、司令官。言いつけに従います。すみませんでした。」

 

提督「分かってくれたならいいんだ。まだ機会はいくらでもある。時が来れば、お前も前線に出る事が出来る。今は押さえてくれ、いいね?」

 

吹雪「はい、司令官。」

 

言い聞かせるように直人は言い、吹雪は直人の部屋を出て行った。

 

提督「・・・やれやれだな。まぁ、分からんでもないが・・・。」

 

直人は嘆息したが理解もした。それはかつての自分を見ているような気がしていたからだ。

 

“誰かの為に何かをしたい”

 

我武者羅にただそれだけを成そうとして成し遂げきれなかったのが彼という存在であったならば、吹雪のその気持ちが、酷く危なっかしく見えたのも当然だっただろう。何故ならば、その先に待つのは悲惨なまでの挫折と徒労感、そして全くと言っていい程報われないことへの虚脱感と、満たされなかった想いが残した心の穴であったからだ。

 

吹雪のそれは、まっすぐで、真っすぐで、真っ直ぐで。その素直すぎる程の実直さが故に、彼はかつての自分を、吹雪の中に見たのかも知れなかった――――。

 

 

5月15日15時27分、幌筵に深夜入港する為時刻調整を行っていた直人の座乗する“鈴谷”が、ようやくドックを離れ、サイパン島を出港した。

 

~司令部前訓練水域~

 

吹雪「・・・行ってしまいました。」

 

大和「そうね・・・。」

 

残された防備艦隊と残留組の4人は、訓練水域まで見送りに出ていた。

 

足柄「勝つ為にも訓練は最初に必要だもの、仕方ないわね。」

 

大和「えぇ、次の機会にと、提督は約束してくれましたから。私達はせめて、鳳翔さんたちとここを守るお手伝いをしましょう。」

 

吹雪「――――はい。」

 

阿武隈「なんで私は今回も置いてけぼりなんですかー!!!」プンスカ

 

鳳翔「阿武隈さん、落ち着いて下さい・・・」ドウドウ

 

阿武隈は貴重な司令部を守る戦力である、と、直人が聞いていたら言われそうなもんである。が、この扱いの差である。(阿武隈はここまでまだ実戦経験ほぼなし)

 

因みに夕張に関しては制号作戦(対霧迎撃戦)の折、サイパンに来寇した霧の艦艇と交戦した経歴はあるのだが・・・。

 

 

それが起きたのは5月20日、幌筵に向かう途上であった。

 

日本本土から東方に大きく離れた大海原を、鈴谷はただひたすらに幌筵へ直進していた。

 

~21時34分~

 

提督「さて、そろそろ寝るかね~・・・。副長さん、後は頼める?」

 

副長妖精「!(お任せ下さい)」ビシッ

 

今回の出撃から新たに任命した副長妖精。やっぱり艦娘にばかり依存させるのは些か無理があるのだった。

 

見張妖精「“右舷前方雷跡! 雷数4、本艦に向かう!!”」

 

提督「なんだと!?」

 

直人が右前方の海面を見ると、確かに白い航跡が4本、鈴谷に向かって伸びていた。

 

提督「いかん、面舵一杯急げ!!」

 

副長「――――!(“おもぉーかぁーじいっぱーい急ーげーっ!!”)」

 

副長妖精が特徴的な海軍式の復唱で操舵室に命令を伝達する。

 

提督「右舷防水隔壁全閉鎖! 注排水ポンプ用意急げ!!」

 

対浸水防御を施すよう直人が妖精達に指示を出す。

 

提督「躱せるか・・・?」

 

艦が重々しく回頭し始める。魚雷を回避する時は魚雷と平行になる様に舵を切るのが基本である。

 

提督「――――ダメか、総員対ショック防御、衝撃に備え!!」

 

直後―――――

 

 

ズドオオンズドオオオオオォォォォーーーー・・・ン

 

 

提督「うあああっ!!」ドシャァッ

 

鈴谷は右舷艦首と中央部に1本づつ魚雷を受けた。

 

提督「ひ、被害状況を!」

 

少しして各所から次々と被害状況が報告されてきた。

 

「“1番砲バーベットの一部に衝撃で損傷、旋回不能、揚弾機も故障です!”」

 

「“艦首船倉に浸水発生!!”」

 

「“右舷中央部防水隔壁内に浸水!”」

 

「“右舷中央部外板の一部が脱落しています!!”」

 

「“右舷発進口のハッチ接続部に歪み発生、開閉不可能です!”」

 

「“第二兵員室付近に浸水! 但し、防水隔壁により兵員室内に浸水なし!”」

 

提督「よし、損傷個所の復旧及び排水を最優先とする、水線下の損害を食い止めるぞ!」

 

副長妖精「――――!!(右傾斜5度!)」

 

提督「左舷注水区画に500注水! 針路復元!」

 

副長「!(はいっ!!)」

 

提督「クソッ、敵潜めぇ――――!」

 

悪態をついて直人は自己修復機能を起動するのであった。

 

因みに間違って認識している人がいるかもしれないのでここで解説しておくが、自己修復機能は霧の艦艇から技術を譲り受けたものだが、そのやり方は全く異なる。

 

ズバリ、『妖精さんが損傷個所に行って鋼材を使って修理を行う』のである。霧の艦艇のように自動修復なんてな具合には行かない中々に難儀な代物だったりするのだ。兵隊(妖精)さんよ、ありがとう。

 

 

5月21日1時58分、千島時間2時58分、暗夜の幌筵島に重巡鈴谷は、指定された岸壁にその身を預けた。そこは幌筵島の南端部にあり、幌筵泊地の司令部からは最も離れた場所だった。

 

提督「そして、ここが幌筵第914艦隊司令部、という訳ですかいな。」

 

明石「そう、みたいですね~・・・。」⇐眠い

 

眠そうな明石さん。

 

提督「だから言ったろ昼間の内に寝て置けって・・・。」

 

一方存分に昼寝をしたおかげであんまり眠くはない直人。

 

「お待ちしていました、あなた方が今回ご協力させて頂く艦隊の方ですね?」

 

提督「そうだが、貴官は?」

 

直人は声をかけてきた女性――――艦娘に尋ねる。

 

F914大和「この艦隊で秘書艦を務めています、大和と申します。提督がお待ちになっています。」

 

※F914=Freet No.914・第914艦隊の略

 

提督「――――分かった、案内してくれ。」(しまった、制服よく見りゃ大和だった。)

 

まだ大和の着任から日が浅いとよくある弊害ではある、ついでに今真夜中で月も出ていないのでよく見えなかったのである。

 

 

2時43分 幌筵第914艦隊司令部・提督執務室

 

F914大和「こちらです。」

 

案内されて司令部棟の執務室に通された直人。明石は取り敢えず鈴谷に帰してやっていた、余りに眠そうだったからではあるが。

 

提督「失礼する。貴官が今回協力してくれる提督で宜しいか?」

 

直人は回転いすに座してもったいぶって背を向けている男に言った。

 

「如何にも、私が――っ!」

 

提督「なっ・・・?」

 

男が振り向いて目が合った。

 

提督「“アイン”!!」

 

アイン?「“ナオ”! ナオじゃないか!!」

 

F914大和「あの・・・お二人は、お知り合い・・・?」

 

アイン「知り合いも何も、こいつは俺の幼馴染だよ!」

 

聞いて驚け、幌筵第914艦隊司令官レオンハルトとは、紀伊直人の幼馴染だったのである。

 

提督「お前がどうしてこんな所へ・・・」

 

アイン「ナオこそ、あんな御大層な船を作って貰えるとは、見違えたぞ! “近衛艦隊”ともなればやはり格が違うな。」

 

提督「―――!」

 

アインの言葉に直人は驚いた、今確かに『近衛艦隊』と言ったからである。

 

アイン「あぁ、安心してくれ。土方海将から事情は全て聞いてある―――万事、任せて貰おうか。勿論口外しない、緘口令も出してあるからな。」

 

提督「それなら安心したよ、アイン。流石、相変わらず仕事が早い。」

 

直人は親友の変わりなさと仕事の早さに舌を巻きつつ感謝に堪えなかった。

 

アイン「大和、少し席を外して貰えるかい?」

 

F914大和「は、はい、分かりました。」

 

アインが人払いをする。大和が執務室から出ると、アインが切り出した。

 

アイン「しかし土方海将から聞いた時は驚いたぞ。4年前に日本に帰って来たが、てっきり1年前に死んだと思っていた―――。」

 

提督「まぁ内地ではそう言う事になってるだろうな、公式の場に偽名で出てる位だ。それだけ俺達の艦隊は機密性が高いんだよ。言ってしまえば俺は今や、生きた幽霊なのさ。」

 

アイン「そう考えると、何やら珍妙な気分で不思議だな。」

 

提督「まぁ、そうだろうな。足の付いた幽霊なんて希少どころの騒ぎじゃねぇぞ~。」

 

アイン「全くだな。」

 

などと冗談を交わしつつ、二人は久しぶりの再会を喜び合っていた。この二人は11年もの間、交友が絶えていたのであるから、当然と言えるだろう。

 

因みにアインと直人はこの時共に23歳(満年齢)、11年前となれば、二人が12歳の時と言う事になる。

 

 

5月21日(水)8時27分 重巡鈴谷前檣楼・艦長室

 

提督「―――。」パチッ

 

あのあと3時頃に艦に戻った直人が目を覚ました。

 

提督「ん~・・・8時半前か。」

 

コンコン

 

金剛「“テイトクゥ~、急がないともうすぐ9時デスヨ~?”」

 

モーニングコールが来てしまった辺り起床が遅い。

 

提督「あぁ、そうだな。すぐ行く。」

 

そう言って直人は体を起こし、第一種軍服を着用していく。

 

 

そこから食堂に降りて祥鳳謹製の朝食を摂ると、早くも時計は9時前に、時間が経つのは早いなぁと彼は呟いたという。

 

 

9時02分 岸壁・タラップ前

 

提督「ようこそアイン、我が“浮かべる城”鈴谷へ。」

 

出迎えに出ていた直人が迎えたのはレオンハルト――――アインであった。

 

アイン「お邪魔するよ。しっかし大きいな。」

 

提督「そうだな、排水量1万2000トン強、明石達が知恵を絞った労作だ。性能は保証できる。」

 

アイン「明石はそっちの艦娘かい? 大したもんだ・・・。」

 

明石「お褒めに与り光栄です。」

 

提督「じゃ、早速中を案内しよう、付いてきてくれ。」

 

アイン「あぁ。」

 

直人が彼を鈴谷に呼んだ理由は、親友の誼と箝口令を事前に敷いてくれた事に対する礼も兼ねての艦内見学であった。

 

 

 鈴谷の構造は上甲板(3F)と最上甲板(4F)については実艦に準拠している。

前甲板上に3基の主砲を、1・2番を同じ高さに、3番砲塔を2番砲塔の後ろに背負い式で、全て艦首方向に向けて装備、後甲板に2基の主砲を艦尾方向に背負い式で配置している。

 また艦中央部最上甲板に片舷2基、計4基の12.7cm連装高角砲を備え、その一段下の艦中央部後部寄りに、この時は4連装の61cm魚雷発射管を片舷2基の合計4基備え、自発装填用の魚雷も搭載している。また各所に多数の対空機銃が設置されている。

 

 上部構造物については外見は同じだが、中身が異なる。主に煙突と前檣楼である。

前檣楼は高射装置を初め外付けの各種機材が揃っているが、羅針艦橋を除くと艦橋内にあるのは発令所(命令を各所に伝達する部屋)と操舵室のみであり、艦橋基部にある筈の第二缶室煙路もない。この為本来の煙路の場所には艦長室(直人のプライベートルーム)がある。

 また煙突については、通常動力に依らない艦娘機関による稼働である為排煙が必要なく、よって完全なダミーと化している。(それでも機関室用吸気口としての役割が与えられている為一様に無駄とは言いにくい。)

 

 

~中甲板中央通路~

 

 タラップで上がってくる際にこの鈴谷の場合航空甲板のすぐ後ろの後甲板、4番砲塔の辺りに出る。ここからの場合、航空甲板の段差の所に扉があり、中に入ると左右両舷の後部発射管の所に出る。

そこを通り過ぎて前部発射管の所まで来ると、前部発射管が挟むように後檣楼の基部があり、その傍にある開口部の階段から中甲板(2F)中央通路に降りられるのだ。

 

提督「ここが鈴谷の中央通路だ、この真下は丁度機関室になっている。」

 

鈴谷「おっ、提督じゃ~ん、お客様?」

 

提督「そんなとこだよ。」

 

鈴谷「なら、お邪魔しちゃ悪いね~、それじゃ!」

 

気さくに笑って鈴谷が去っていく。どうやら艦尾側の兵員室に戻っていくようだ。

 

アイン「今の子は?」

 

提督「あいつは鈴谷、一応この重巡と同じ名を持つ艦娘さ。」

 

アイン「成程。」

 

提督「さて、階段を下りて艦首側を見た時、すぐ左手(中甲板左舷側)にあるのがブリーフィングルームだ。その前が医務室、後ろが屋内訓練場になってるんだ。」

 

因みに以前にも述べたが、屋内訓練場は真上が魚雷発射管なので、誘爆したら最初に吹き飛ぶ場所でもある。

 

アイン「屋内訓練場って、格闘の練習でも?」

 

提督「そうだよ?」

 

アイン「――――。」(;゚Д゚)

 

流石に唖然とするアイン。

 

提督「因みに右舷側は左舷側と同じく三部屋あるが二部屋空室なんだ。因みに一部屋は鋼材保管庫。修理用のね。」 ※実際には空室の所に艦内工場があります

 

アイン「艦娘の修理も出来るのかい?」

 

提督「なにせ明石がいるしね。」

 

自分も出来る、とは言わなかった直人である。鈴谷の自己修復機能についてもだが。

 

提督「で、この中央通路の艦首側の突き当りが、鈴谷の食堂になってるんだ。」

 

と言って直人が食堂の押戸を開ける。

 

熊野「あら提督、言ってらしたお客様ですね?」

 

提督「そうだね、10時に全員集めるから。」

 

熊野「分かりました、お伝えしておきますわね。」

 

アイン「へぇ、広いね。」

 

提督「でしょ? ここ本来はボイラーの排煙路なんだよね、いらないから潰して食堂にした訳。」

 

アイン「いらないって、てことはこの船は――――?」

 

明石「企業秘密です☆」 ※艦娘機関4基で稼働しているが企業秘密である

 

アイン「アッハイ。」

 

明石に企業秘密と先に言われてしまった直人は若干苦笑しつつも言葉を続けた。

 

提督「この階層は後部に兵員室を下甲板と合わせて二層、前部は左舷側が病室になっているが右舷側は用途が決まってない。」

 

※実際には艦首錨鎖甲板の直後の中甲板に巨大艤装の格納庫があり錨鎖甲板の下にカタパルト格納部があります。

 

アイン「空き部屋多いねぇ。」

 

提督「今後に発展の余地が残されてていいんだよねこの方が。」

 

アイン「一理ある。」

 

提督「んじゃ、次は下甲板を案内しようか。機関室は見せんからな。」

 

アイン「はいはい。」

 

直人はアインを連れて再び歩き出す。

 

 下甲板(1F)は中央部両舷に一列だけ兵員室が、中央部は最下甲板までぶち抜いて艦娘機関が鎮座しており、後甲板両舷の4番砲塔直下が、艦娘発着口のハッチになっている。また艦娘発着口付近には両舷に艤装格納庫が存在している。

この下甲板の高さまでが水線上に出ている状態で鈴谷が浮いている。

 因みに下甲板艦首部はスペース割り当てが一切されていないが、アンダマン諸島から捕虜を運ぶ際に使われていた。

 なお本来機関で一杯一杯の下甲板中央にも兵員室を置けた理由は、艦娘機関になった事で機関容積(特に幅)が小さくなったからである。故に艦底部の船倉区画等にも余裕が出来ている。

 

 最下甲板(地下1F)は機関室が中央部を大体占拠しており、主砲バーベットの一番下が最下甲板にある事から主砲弾薬庫がこの階層にあり、また高角砲の弾薬庫もある。因みに機銃弾薬庫は上部構造物各所に機銃弾薬格納箇所が設けられている。

艦中央部の余剰スペースは水中防御区画に割り当てられており、機関への浸水を出来るだけ食い止める様になっている。

 一方最下甲板の空いたスペースは鈴谷自身の燃料タンクになっている為、この階層は艦底部への連絡以外で余剰スペースが存在していない。

 

 艦底部(地下2F)は字が示す通り「艦の底」である。

大体が船倉(艦底倉庫)と水密防御区画、応急注排水区画とに割り当てられており、余剰スペースはやはりない。艦首付近にソナーがあることと、重量バランス調整用のカウンターウェイトがある位である。

 この艦底部艦底倉庫も捕虜収容に使われていた。

 

 

9時55分 重巡鈴谷・ブリーフィングルーム

 

提督「あらかた案内終わった所で総員集合させましょうか。“全艦に伝達、5分以内にブリーフィングルームに集合! 駆け足!!”」

 

マイクを通じて全艦放送で伝達する直人。因みにアインは直人が勿体ぶって控室(鋼材保管庫)にいる。

 

 

5分後、というよりその1分前に全員集合していたのだが、10時丁度に会議が始まった。

 

提督「さて、今回の作戦に際し幌筵第914艦隊が協力を行うことになったのは既に航行中に口頭にて伝えた通りだ。今回集まって貰ったのは、同艦隊の司令官を紹介する為である。アイン、入って来てくれ。」

 

と扉に向かって言うと、ちゃんと扉の前で待っていたアインが入室してきた。

 

金剛(いやに親し気デスネー。)

 

那智(何者・・・?)

 

鈴谷(さっきも見たし聞いてたけど誰なんだろ。)

 

提督「こちらが今回協力してくれるレオンハルト提督、階級は少将だ。」

 

アイン「初めまして。本名は一応二つあって、狭山(さやま) 尚孝(なおたか)と、アイン・フィリベルト・シュヴァルツェンベルクと言う。提督としてはレオンハルトで通している。宜しく。」

 

提督「彼は俺の小学校時代の幼馴染でね、日本人の母とドイツ人の父のハーフなんだ。その証拠に、日本人とは随分雰囲気が違うだろう?」

 

直人が言う様に、アインは随分と父親に似たらしく、瞳は青色で、髪は黒髪で背中まで伸ばして後ろで一本に結わえてある。鼻の形などところどころに日本人っぽさは残っているものの、全体的に面長でフェイスラインもすっきりした印象がある。身長も父親に似て高い184cmもあり、直人より12cmも背が高い。(直人は172cm)

 

金剛「提督の幼馴染でしたカー、それなら納得デース。」

 

提督「まぁ、金剛の言う事は間違ってないだろうね。多分上もそう言う判断で彼を引き込んだのだろう。我々は機密性を重んじなければならない存在だからね。」

 

金剛が言いたいのは、アインを選んだ理由である。

 

“直人の幼馴染”が提督をしていたという偶然、それが、直人とかつて関係があった人物と言う土方海将の目当てに適っていた事が、今回の再会の一助になっていたことは事実である。これまで協力してきた相手はその尽くが、直人とかつて関係があった人物であったからである。

 

提督「まぁ、気になる事があれば“なんでも”聞いてみるといい。以後北方戦域での補給には恐らくこのレオンハルト艦隊から後方支援を受ける事にもなるだろうしな。」

 

アイン「ま、嶋田司令官があの態度じゃ、1回では終わらなさそうではあるな。」

 

金剛(今――――――)

 

鈴谷(“なんでも”って――――――)

 

青葉(言いましたね――――――?)

 

ダメな連中がそのワードに釣られて来た様だ。

 

提督「以上会議を終わるが、各艦隊と水雷戦隊旗艦、空母部隊指揮官と、初春・利根・霧島は残る様に。あと祥鳳、残る奴とアインと俺の分の昼食、後で運んできて。」

 

祥鳳「分かりました。」

 

提督「うん。では解散。」

 

直人は各艦娘に解散を告げた後もブリーフィングルームに留まった。直人に呼ばれた艦娘達も同様である。

 

提督「さて、残って貰った訳だが、ここからは大まじめな話だ。」

 

と直人が残っている面々に切り出した。

 

提督「今回キスカからの撤退を行うと言う事で作戦の骨子が決定しているが、正直に言うと俺はこの作戦に関してキスカからの撤収は“必要性が無い”と思う。」

 

アイン「?」

 

金剛「どういう事デース?」

 

提督「理由は敵が退いたという点だ。上陸作戦をやるのであれば、本来上陸軍と予備部隊を別個に用意する筈だが今回に関しては1週間以上を経てもまだ再攻撃の気配さえない。えらく大本営も尤もらしい理由を付けたもんだが、補給線については護衛の強化で十分補いがつく問題だ。現状船舶総数からして、“ひっ迫している”とは考えにくい。」

 

霧島「ですが、1500kmもの海上輸送路を完全に防御する事は――――」

 

提督「それは、“昔の常識”だ。」

 

直人は霧島の言った事を一刀両断した。それに対しその場にいた面々は揃って首を傾げてしまった。

 

初春「・・・どういう事じゃ?」

 

提督「お前達、艦娘が一体何人いると思ってんだ。」

 

霧島・初春「・・・あっ。」

 

そう、5月中旬(下旬入りかけだが・・・)と言えば、提督の数が200万人を超えた時期である。各地の基地で漸くちらほらと、「これ以上の受け入れは不可能」と聞こえてきた時期でもある。

(実際には14年4月と言うと既に一杯一杯であった。ゲームでの同時期における基地の数と少し違う事を留意すべし)

 

仮に艦隊総数を200万として、各艦隊に100隻いるとすれば総数なんと2億隻に達するのである。(実際には各艦隊の保有隻数の違いから若干減るが大凡この程度だったと言われる。

 

これを現在ある12基地で等分したとして1基地辺り165万人程度の艦娘が少なくとも存在し、北方方面への対処を担当する基地は幌筵の他大湊警備府がある為、ザックリ320万以上の艦娘が常時いる勘定になる。更に遠征任務として各所の海上護衛に来る他の基地の艦娘達も動員すれば、十分守り抜く事は可能なのである。

 

提督「旧海軍なら兎も角として今の俺達がこの長大な海上輸送路を守れない訳はない。それだけの密度で護衛する事が可能なんだ。であるならわざわざ輸送路を潰さなければならん理由が分からんからな。」

 

霧島「確かに、そうですね・・・。」

 

利根「では、お主は一体どうしたいのじゃ?」

 

提督「流石、言い質問だ利根。」

 

利根の質問に直人はにやりと笑ってから言う。

 

提督「俺が考えるのは至極単純、キスカ島を防衛する、ただこの一点のみだ。併せて大本営に対し今後の対応策をレポートとして提出する。だが当面すべき事は、アッツ及びキスカ島の防備を強化するためにも、まずは制海権を再び掌握し勢力圏を押し返さなければならないと言う事だ。」

 

アイン「そんな事が、出来るのか!?」

 

提督「まぁ任せて貰おう。だが、お前にも手伝ってもらうぞ、アイン。」

 

アイン「と、言うと・・・?」

 

直人はサラッとアインを巻き込んだ上で告げる。

 

提督「レオンハルト艦隊にはキスカ周辺の制海権を全力で取って貰う。敵がここを将来的に攻略しようと図るならば、敵はキスカに向け艦隊を派遣して来る筈だ。それらも含め、キスカ周辺の敵を一掃して貰いたい。」

 

アイン「そ、それは構わないが・・・お前達はどうするんだ?」

 

提督「俺達はアリューシャン列島線を北に抜けベーリング海南端に到達、そこで後退した敵揚陸艦隊を捕捉、これを撃滅する。」

 

金剛「・・・やるのデスネー?」

 

提督「あぁ、可能なら。」

 

アイン「―――――?」

 

提督「今回はその作戦の成否について検討したい。今日と、明日にかけてな。」

 

と直人が言うと、一同が頷いて賛同した。

 

アイン「・・・成程な。」

 

霧島「分かりました、お付き合いしましょう。」

 

陸奥「えぇ、そうね。」

 

赤城「可能性は全て、出し尽くしてみましょう。」

 

金剛「異論無しデース。」

 

提督「良かった。では早速始めようか――――」

 

直人達は早速、作戦の検討に取り掛かったのであった。

 

 

この時検討したのは

 

・敵の出方と目的

・敵の出現する方角

・敵艦隊の迎撃の可能性とその際想定される戦力、及び予想される構成

・敵側の潜水艦の有無

・キスカ周辺の敵勢力分布

・アリューシャン列島線に分散する敵の戦力及び構成

・敵揚陸艦隊主力の位置

・レオンハルト艦隊の展開可能な艦隊数

・横鎮近衛艦隊のレオンハルト艦隊との連携

・戦場への所要到達時刻

・作戦に於ける必要事項

・両艦隊の離脱タイミング及び合流時刻と収容地点

・敵艦隊出現時における出現想定とそれに対する対応

・敵に対する対応に於いてどの様な手段が考えうるか

・敵主力との会敵方法とそのパターン想定

・敵主力に対し会敵パターン毎に取るべき戦術

・追撃戦を行う事が出来るケースとその場合に於ける追撃手段

・作戦失敗時のパターンとそれに応じた処置と撤退方法

・これらの作戦において必要な補給物資の種類と数量

・発生し得る作戦パターン毎の損害想定

 

―――の、全20点である。

 

以前にも直人が語っていたが、作戦立案とは、これら多数の条件が絡まり合う戦場に於いて、あらゆる可能性を想定し、その上の最悪の可能性までもを見透かした上でその場合に於ける対処をも想定するものなのだ。それが上記を見ただけでもお分かり頂けると思う。

 

更に複数のパターンが想定される場合はそれぞれに対処や対抗策などを盛り込んで作戦を立案する。それこそ水も漏らさぬようにしなければ、碌な作戦案とは言えないのである。妥協などしたら負けなのであって、希望論や即製案など論外である。

 

 

これらの検討が完了したのは漸く、5月22日18時の事であった。丸々24時間以上を費やした計算になる。それだけ検討に値する情報があったと言う事になる。で、結論はと言うと――――

 

 

5月22日18時03分 重巡鈴谷・ブリーフィングルーム

 

提督「結論から行けば、この作戦は実行できる。それで宜しいな?」

 

アイン「あぁ。」

 

霧島「はい。」

 

アインと霧島に続き一同揃って首を縦に振った。

 

提督「よし、ではその旨大本営に打電、その方向でこちらも作戦準備だ。但し、大本営の認可が下りるかは不明だから、撤収作戦の線でも準備を進めておく。」

 

アイン「分かった。こちらも第一から第七までの各艦隊の出撃態勢を整える。ま、必要になる事を祈ろう。」

 

提督「まーったくだ。でないとこれだけ手間暇かけた甲斐がない。」

 

直人は半ば本気でそう言っていた。

 

提督「俺が普段のんべんだらりしてる時間を自ら作戦立案に当たったんだからな!」

 

アイン「サボりたがりも相変わらずなんだね・・・。」

 

金剛「それでもちゃんと仕事をするのは、テイトクの良い所ネ。」

 

提督「褒めてもなんも出んぞ~。」

 

金剛「期待してないデス♪」

 

提督「・・・フッ。」

 

金剛「フフッ♡」

 

霧島(また始まった・・・)

 

川内(はいはい・・・)

 

初春(こやつらは・・・)

 

アイン(仲睦まじいようで何より・・・)

 

呆れかえる一同であった。

 

 

横鎮近衛艦隊からの作戦変更の申し出と献策は18時42分に大本営に届いた。しかし大本営からの返答は『速やかに検討する』との事であり、その間に直人は十分な休息と作戦準備を並行して行う事にしたのだった。

 

~19時02分 重巡鈴谷・羅針艦橋~

 

提督「なーんっで上の連中は相も変わらず行動遅いかなぁーーー!!」ギャース

 

明石「―――――。」( ̄∇ ̄;)

 

その返電を受け取った直人も不満を露わにしていたのだが、前述の決定を下してひとまず引っ込む事にしていたのである。迅速な作戦行動を好む彼が、この大本営の返答を不服としない訳が無かったのである。

 

 

だがその大本営も“速やかな検討”という文言は守り、検討した結果が届いたのは翌日早朝の事である。

 

―――――5月23日4時30分 重巡鈴谷・羅針艦橋

 

提督「返信が来たというのは、本当かい・・・?」

 

言いながらふらふらと現れる直人。実は意外と朝が弱く、10分程度動けないのである。

 

副長「――――――?(・・・大丈夫ですか?)」

 

提督「これが大丈夫そうに見えるかい・・・?」

 

副長「―――――。(――――朝弱いんですね。)」( ̄∇ ̄;)

 

提督「うむ。」

 

無茶苦茶眠そうな直人。それもその筈例え千島の最北に近いと言ってもまだ夜明け前である。

 

提督「んで返答の内容は――――っと。」

 

直人がサークルデバイスを貼りながら、届いたばかりだという返信文をデバイス上に出す。

 

提督「ん~・・・成程? こちらの顔を立てて来たか。」

 

返答の内容はズバリ、“貴艦隊の進言を是とする”というものであった。

 

大本営は直人の献策を検討・再考の結果、艦娘艦隊の投入で、北方航路の護衛問題が解決できると判断、直人の発案したキスカ防衛案を採る事にし、直人にその発令を改めて指示してきたのである。

 

言ってしまえば、直人は独断でも作戦変更できるだけの権力を持ちながらも、敢えて大本営に伺いを立てて大本営の顔を立てた。今度は大本営が直人の献策が有益であったと認めて考えを改め、そして直人の顔を立てる事でその礼としたのである。

 

提督「顔を俺が立て、大本営の考えを改める事を勧めた。それが正しいと見るやその礼として俺の顔を立てるか。これであいこだ。」

 

副長「――――――?(艦隊に、出動準備を指示しますか?)」

 

提督「いや、今は良そう。今は取り敢えず、ゆっくり休ませてやろう。何より、俺ももう一寝入りしたい・・・。」

 

安眠していた所を叩き起こされた直人はまだ眠気が覚めておらず、緊急の作戦でもなかった為そのままもう一度艦長室へと戻ったのであった。

 

副長「・・・。(もう一寝入り、か、私も寝直すかな・・・。)」

 

副長妖精もそう思い、艦橋の隅にある自分の布団(妖精さん用)に潜り込むのであった。

 

 

7時11分、直人が漸く復活した。

 

~羅針艦橋~

 

提督「“全艦に伝達、そのまま聞け。我が艦隊はこれより、レオンハルト艦隊と共同してのベーリング海突入作戦を実施する。直ちに作戦実施準備に入れ!”」

 

明石「いよいよ、ですね。」

 

提督「あぁ。」

 

明石「勝ちましょう、提督。」

 

提督「勿論だ、勝って帰る。」

 

直人はその決意を新たに、遥か北の海を見据えるのだった。

 

提督「アインにも連絡を――――」

 

副長「――――――!(6時半過ぎに入れさせて頂きました!)」

 

提督「・・・なんて優秀なことか。」

 

ピリリッ、ピリリッ・・・

※サークルデバイスへの呼び出し音です

 

提督「こちら鈴谷。」

 

アイン「“直人か、そっちの副長から話は聞いている。遅番の艦娘の手は借りたがな。”」

 

提督「ハッハッハッ、まぁそうなるな。そう言う事だ、首尾は?」

 

アイン「準備は始めている、8時頃には準備が整うだろう。」

 

それを聞いた直人は満足げに頷いて言った。

 

提督「宜しい、8時半に出動しよう。」

 

アイン「そのつもりだ。」

 

こうして作戦が実行に移された。全ての可能性は出し尽くした。あとは天に委ねるのみである。その先に何が待とうとも、彼らは立ち向かわなければならないのである。

 

 

8時半に出動しようと言いあった二人だったが、細かな準備ミスが見つかったりレオンハルト艦隊側の出動の遅さから遅延し、8時37分、鈴谷はもやいを解いて抜錨した。なお、この遅延で直人が再び苦い顔をしたのは言うまでもない。

 

 

5月24日早朝、全速で航行し続けたレオンハルト艦隊先鋒が、30艦娘ノットでキスカ島周辺海域に到達した。踏破距離1542km、所要時間19時間半という速さである。

 

この先鋒隊を務めたのが、F914第三艦隊及びF914第六艦隊である。

 

F914飛龍「全機発艦!」

 

F914金剛「突入デス!」

 

F914神通「最大戦速、迅速に海域を制圧します!」

 

第三艦隊は二航戦及び第三戦隊(金剛型)の高速空母打撃部隊、第六艦隊は神通が指揮する軽巡1駆逐艦5から成る水雷戦隊である。

 

F914島風「島風、砲雷撃戦、入ります!」

 

島風を先頭に全艦がキスカ島を取り巻く様に展開を開始する。

 

 

レオンハルトは残りの主力部隊が5時間差で展開する予定で、それまでの間、泣いても笑っても戦艦4空母2軽巡1駆逐艦5の戦力でキスカを守り抜かなければならなかった。

 

しかし今回それは問題にならなかった。何故ならその時間差を埋めるが如く突入して行った奴等がいるからである。

 

 

6時32分 アリューシャン列島西部北方・ベーリング海

 

提督「艦隊全展開、迅速に勝負を決めるぞ!!」

 

一同「“了解!!”」

 

突入コース1490kmを、最高速に近い35ノットで一跨ぎに踏破した重巡鈴谷が、ベーリング海に到達し艦娘達を吐き出そうとしていたのである。

 

明石「提督も無茶をなさいますねぇ・・・。」

 

提督「いつもの事じゃ、気にするでない。」

 

明石「そうでした。」

 

いつもの事である。

 

金剛「“金剛、行きマース!”」

 

提督「行ってらっしゃい! 明石、偵察機は?」

 

明石「はい、3機全機共に予定コースに。」

 

提督「結構だ。」

 

直人は鈴谷の水偵を発進させて索敵を試みていた。ここに艦娘艦隊の索敵を合わせるのである。

 

千歳「“航空母艦千歳、出ます!”」

 

提督「行ってらっしゃい! 期待してるぞ。」

 

千歳「“はい!”」

 

サイパンを発つ前、千歳は空母への改装工事を受け、新たに空母としての艤装を手に入れていた。発進するなり千歳は零戦を先頭に艦載機を発進させ始める。その中には今やほぼ全ての母艦に搭載されるようになっていた天山艦攻が21機も含まれていた。

 

提督「全く、五航戦の改修段階に合わせたもんだから機材調達が大変だったゾ。」

 

明石「何とかなってよかったですよ・・・。」

 

提督「ほんとだよ・・・。」

 

実は、五航戦所属空母は千代田のせいでかなり上位の艦載機を持っていたりする。というのは―――――

 

千代田航

装備1(21):零式艦戦五二型 (4段階目)

装備2(9):彗星一二型 (4段階目)

装備3(6):天山一二型 (3段階目)

 

という構成になっているのだ。同じ空母部隊にいる龍驤と比べると雲泥の差である。と言っても龍驤も機種転換は受けていて、

 

龍驤

装備1(9):零式艦戦二一型(熟練)

装備2(24):九九式艦爆二二型(和田隊)(対空+1 爆装+7 命中+2 回避+1 索敵+1)

装備3(5):天山一一型(熟練)(雷装+9 対潜+4 命中+1 索敵+2) 

 

と、こうなってはいるので天山はちゃんと積んでいる。と言っても全て2段階目の艦載機である為、同じ航空戦隊内で共同行動が難しいというとんでもない状態に陥っていた。そんな中で千歳を改装した為、最大水準に合わせる直人の方針に沿った事から千歳も零戦五二型を搭載している。

 

 

提督「まぁ搭乗員は基地からの配置転換で何とかしたけども・・・。」

 

ボーキサイトが派手に逝ったのは想像に難くないだろう。尤も十分余力は残していたが・・・。

 

 

7時27分、東進する横鎮近衛艦隊を迎撃すべく早くも敵が繰り出してきた。

 

明石「金剛一番機より“テ連送”です!」

 

提督「金剛の一番機と言うと北に直進した筈だな。」

 

明石「そうですね・・・。」

 

今回直人は北東(範囲90度・開角3度)と東(範囲80度・開角2度)に索敵を放って敵の出方を探っていた。作戦を検討する際、敵が打って出て来る方角は、恐らく北と東からで、アリューシャン列島線の敵はキスカに向かうと判断していた為、南東方向の索敵は行っていない。

 

索敵は北東方向に向けて金剛の一水打群と扶桑の第一艦隊が、東に向けては赤城の一航艦が、各々に艦攻と水偵を放っていたのだ。

 

明石「続いて蒼龍2番機よりテ連送です。」

 

提督「北に二つか、予想の範疇だな。」

 

赤城「“本艦1番機と古鷹機よりテ連送です、提督。”」

 

提督「よし、発見した索敵機に伝達、詳細知らせ。」

 

赤城「“了解!”」

 

金剛「“OKデース!”」

 

直人が冷静に断を下した、直後であった。

 

後部電探室「“本艦前方多数の反応確認!!”」

 

提督「なんだと!?」

 

直人は今回から電探の探知を妖精に任せていたが、その内後部に装備されている13号対空電探が敵機を探知した事を伝えてきた。

 

明石「赤城1番機より、“敵は多数の空母を含む機動部隊”と伝えて来ました! あっ、古鷹機から“眼下の敵は複数の軽空母を有す”です!」

 

提督「古鷹機と赤城1番機のラインは全く別だ。とすると正面に敵空母部隊が二ついるぞ。」

 

明石「そう・・・ですね。」

 

提督「北の敵の内容が知れてから対応を決めよう。」

 

直人はそう締めくくって状況を見据える直人。

 

提督「想定の範囲内だな。」

 

と満足そうに呟いた。

 

 

金剛及び蒼龍機の報告は、金剛機が戦艦を軸に、空母を交えた水上打撃部隊、蒼龍機が軽空母クラスを軸にした護衛空母部隊であると伝えてきた。この事から、北と東の敵は各個に連携していることが明らかとなり、直人達の方針も定まった。

 

提督「今回の敵の布陣は作戦想定A1-3に該当するものと判断する。この対処法に則り、一航艦は航空攻撃を以って東方の敵機動部隊と交戦せよ。第一艦隊と一水打群は北上して敵艦隊を空海両面から壊滅に至らしむるべし! 但し、深追いは禁ずる。敵が退くと言うなら退かせてやれ。」

 

陸奥「“了解!”」

 

金剛「“OK!”」

 

赤城「“了解しました。”」

 

提督「さぁおっぱじめるぞ!」

 

隼鷹「“直衛戦闘機隊、交戦開始したよ!”」

 

提督「分かった、空母部隊は順次攻撃隊と迎撃隊に割り振って艦載機を出せ!」

 

一々注文が難しいのは何とかならんかこいつは。

 

横鎮近衛艦隊はその全ての敵と相対する形で前進、相対速度を生かして一気に距離を詰めにかかった。上空では既に敵の第一次攻撃隊と、艦隊直衛戦闘機との空戦が始まり、それをすり抜ける様に敵の攻撃隊が殺到してくる。

 

提督「全く相変わらず人気だな、俺達は。」

 

20から数えるのをやめて直人が言った。

 

明石「言ってる場合ですか!?」

 

提督「わーってるよ。主砲仰角上げ、弾種:通常弾、炸薬:榴散弾、信管:近接、諸元送れ!」

 

直人は今回に合わせて局長に頼み事をしていたのだが、それが鈴谷への近接信管の装備と、零式通常弾に榴散弾仕様を追加して欲しいという要望であった。

 

※近接信管とは

端的に言えば電波を発信して目標との距離を測り、設定距離以内であると信管を作動させ炸裂する様にする信管。アメリカでは当初「VTヒューズ」「マジックヒューズ」と呼ばれていたもので、第二次大戦後期に於いて日本機の損害増大の一因となった。

 

この要望の結果、鈴谷主砲は対空射撃に対応出来るようになり、より効果的な弾幕を張る事が出来る様になったのである、強化の手回しが早すぎる気がしないではない。

 

高射装置妖精「“諸元伝達終わり!”」

 

「射撃始め!!」

 鈴谷の前部6門の主砲が次々と20.3cm砲弾を吐き出す。今回は堂々たる艦隊戦である為、三式弾を全て降ろし、零式榴散弾を代わりに装備、主砲を155mmから203mmに換装したのだ。

敵の先頭集団付近に、6輪の花が咲く。およそ綺麗さとは無縁の、殺戮の大輪が瞬間咲き誇る。それに呑まれ、多数の敵機が一飲みに墜ちてゆく。

 

提督「敵は絶え間なく来るぞ! なんとしても近寄らせるな!」

 

主砲測距室「“了解!”」

 

鈴谷主砲の対空射撃管制は、高射装置から主砲測距室に諸元を伝達して行う。なので割と砲術班は暇が無かったりする。

 

比叡「対空戦闘用意!」

 

霧島「用意よし!」

 

赤城「撃ちー方始め!!」

 

比叡「撃てぇッ!!」

 

 

ドドドドオオオオオォォォォーーー・・・ン

 

 

一航艦が対空戦闘に突入し、いよいよ戦闘は序盤から激化の様相を見せる。

 

金剛「北の敵まで約50kmで射程圏内デス、一気に行きますヨー!」

 

一水打群「「はいっ!!」」

 

一水打群がその最大戦速で空母を分離して突入する。

 

提督「で、その分離した空母は俺が預かると。」

 

蒼龍「“御厄介になります♪”」

 

何故かルンルンの蒼龍である。

 

提督「プレッシャーかけられる俺の身にもなってくれよ・・・トホホ・・・」

 

どうにもこうにも途方に暮れてしまった直人なのであった・・・。尤も、それが役割なだけに不満はない。鈴谷に艦娘などより遥かに防空能力があるのだから、とやかく文句など言う余地もなかっただろう事は明らかだが。

 

提督「宜しい、やってやる! かくなる上は一機たりとも投弾させるものか、撃ちまくれええ!!」

 

空母4隻の護衛、プレッシャーの掛けられ方にとうとう半分ヤケクソになって命じる直人であった。

 

 

この後、4次9波に渡る波状攻撃を、鈴谷ほぼ単艦でマジで食い止めやがりました。

損害は、ゼロである。(⇐!?)

但し、敵機が余りに分散し過ぎて1ウェーブごとの機数が少なかったのが理由なのでその辺りは考慮すべきである。

 

その間に金剛らは既に敵艦隊へと迫り、一航艦は逆撃を食らわせて残存した敵機の帰る場所を無くしたのである。

 

~9時25分~

 

提督「よし、一航艦に続いて前進だ。我々の目当ては雑兵ではないからな。」

 

明石「はい。」

 

副長「――!(了解!)」

 

直人は東進を命じた。既にこの頃金剛らは敵艦隊と接敵、これを圧倒していた。護衛空母部隊はとっくの昔に一水打群と第一艦隊による先制攻撃を受けて行動不能になっていて、航空反撃は受けていない状態である。

 

 

~鈴谷北方・敵別動隊所在海面~

 

金剛「ファイアー!」

 

榛名「撃て!!」

 

摩耶「いけぇっ!!」

 

敵の水上打撃部隊と正面から殴り合う一水打群。

 

矢矧「突入開始、全力で行くわよ!!」

 

夕雲「主力オブ主力の夕雲型、行くわよ!」

 

陽炎「夕雲に負けるな、古参の意地を見せてやるわよ!」

 

十八駆「「応ッ!!」」

 

朝潮「私達も負けてられませんね、各艦続け!」

 

八駆「了解!」

 

二水戦が次々と突撃を開始、更に後方から第一艦隊が砲撃を開始する。

 

扶桑「全主砲、射撃始め!」

 

山城「斉射!」

 

陸奥「撃てぇッ!!」

 

 

ドドオオオオオォォォォォーーーー・・・ン

 

 

タイミングがほぼ同時であったため多数の砲声が一つに重なるように響き渡る。

 

川内「出番ないかな?」

 

雷「少し遠いわね・・・。」

 

初春「已むを得んのう。」

 

一方で口惜しそうにする一水戦の面々であった。史実でも大体こんなもんだったが。

 

長良「遠すぎて撃てないわね。」

 

五十鈴「またしても・・・。」ムムム・・・

 

由良「射程が欲しいわね・・・。」

 

一方でまだ8インチ砲の配備が間に合っていない第一艦隊の軽巡メンバーも、一水戦同様一発も撃てずにいたのであった。第四戦隊の高雄型、第五戦隊の妙高型、第七戦隊の最上型は次々と遠距離射撃を行っている。

 

 

因みにだが、遠距離射撃の宿命として、命中率が低いと言う欠点がある。しかし、突入支援という名目が立つのであればそれは非常に有効な手段となる。だいいち対応に迷い静止するようであれば当たらぬ訳はない。今回もそうした不運な敵艦が次々と討ち取られていた。

 

 

~9時37分~

 

提督「北の交戦域では我が方優勢、東では数度に渡る空襲により空母級80以上を撃沈、4倍以上の数を大破させ敗走させつつあるか。些か空襲部隊の戦果は過大ではないか?」

 

赤城「“そうでしょうか・・・?”」

 

提督「あのな、部下の顔を立てたいのは分かるが、過大報告はいかん。あとで厳しく精査せよ。いいな?」

 

赤城「“はい、分かりました。”」

 

航空攻撃では確かに、各搭乗員の目視で戦果を計っている所はある。その基準となるのが、目視で確認できるもの、例えば水柱や被弾で立ち上る煙、火柱などである。

 

これを一人が見て、即ち戦果確認を行う誘導機が計測しているならいざ知らず、対空母戦ではそのような余裕がない為、攻撃に参加した搭乗員が目視で確認したものを信用するしかないのだ。故に、“視た”ものを“なかった”ことにする事が出来ない者は、日本海軍でも多かった。

 

提督「――――攻撃観測機を必ずつけられたらいいんだがな・・・。」

 

明石「二式艦偵もありますけど・・・。」

 

提督「・・・そうだな、次からは必ず艦偵に観測させよう。」

 

直人はそう心に決めた。彼が今回これを過大戦果としたのは、これまでの報告がある程度敵の規模報告に沿ったものだったからだ。もしかすると勝利の連続で搭乗員たちの気持ちが、知らぬ間に緩んでいたのかもしれない。

 

提督「・・・。明石、五航戦に連絡、“艦偵を出して東方海面を索敵せよ”と。」

 

明石「はい。」

 

二式艦偵は、彗星の試作機を転用して開発された艦上偵察機で、快速性で鳴らし、その性能を生かして大戦末期の索敵に於いて彩雲と共に活躍していた。

 

因みにその開発の経緯が、彗星の試作機が試験中空中分解してしまい、艦爆として使えないと判断されてしまったのだが、通常飛行に支障は無かった為、偵察用の機材を爆弾槽に装備した機体なので、一種の急造品だが、搭乗員からの評判は良かったと言われる。

 

横鎮近衛艦隊では二航戦の蒼龍や、五航戦の飛鷹・隼鷹・祥鳳が搭載している。隼鷹も無事改造を受け、4スロ目に二式艦偵を積んでいるのだ。

 

提督「これで見つかると、いいんだがな・・・。」

 

二式艦偵の航続距離は1500km、母艦が定位置にいるとして、その索敵距離は色んな要素を差し引くと700kmしかない。母艦が前進し続ける為今回は850kmの索敵が出来る訳だが。

 

明石「見つからなかったら、どうしますか?」

 

提督「もう一度、探すまでの事。」

 

明石「ですよね・・・。」

 

索敵の反復は大事である。艦これアニメでも吹雪が翔鶴と瑞鶴に二段索敵を命じたシーンがあるが、小沢艦隊はマリアナ沖海戦の際これを更に進めた三段索敵を実施して効果を上げているのだ。こうした徹底された索敵が、敵艦隊の早期発見につながるのである。

 

 

その後10時11分には、キスカ島沖に大和を基幹とする主力艦隊と機動部隊が到着し、キスカ島の防備を強化する為展開を開始する。

 

~10時32分・キスカ島沖~

 

F914大和「とりあえず今は、静かね。」

 

F914瑞鶴「そうね、前衛部隊が周辺にいた水雷戦隊を纏めて蹴散らしたって言うし、案外楽に行ってくれるかも?」

 

F914大和「だと、いいけれど・・・。」

 

F914赤城「“索敵機より、敵艦見ゆ!”」

 

F914瑞鶴「そうはいかなかったかぁ~。」

 

F914大和「そうね、全艦隊、戦闘用意!」

 

F914「「“了解!!”」」

 

10時33分、レオンハルト艦隊が、東方から接近してくる戦艦部隊及び敵機動部隊との間に戦端を開いた。直人が予測した、列島線の敵はこちらに来ないと言う予測は当たっていたのである。むしろレオンハルト艦隊排除に動いてきたのだ。

 

が、その陣容はレオンハルト艦隊の大和を筆頭とする強力な陣容を相手取るには余りにも不足し過ぎていた。というのは、やってきた敵は戦艦10を軸とした水上打撃部隊(小規模)と、それにくっついてきた護衛の軽空母3とその護衛と言う、余りにも小規模なものだったからだ。

 

 

一方で幌筵島のレオンハルト艦隊司令部では・・・

 

10時36分 F914司令部・執務室

 

アイン「東から敵!?」

 

任務娘「はい、そのように報告が。」

 

その報告を大和から受け取ったアインは、直人の正確な予測に舌を巻いた。

 

アイン「ナオは凄いな、ここまで正確に敵襲を予想するとは。」

 

その敵襲のある方角、やってくる敵の規模や後世までも、直人は的確に予想して見せたのだ。直人の持つ分析能力と全体を俯瞰して見る戦略眼、常人には出来ない芸当である。

 

アイン「大丈夫かな・・・直人の言った通りの作戦を、指示して置いたけど・・・。」

 

そこはやはり直人の受け売りではあったが、それが出来る事もまた、彼の非凡さであった。

 

 

10時43分 アッツ北東380km付近海域

 

金剛「“敵艦隊、撃破デース!”」

 

提督「流石だ、仕事が早い。」

 

この時一航艦は既に敵の掃討を終えており、鈴谷も既に突破に入っていた。赤城らは第一撃で空母を徹底的に潰した為、そこから先は赤子の手をひねるかのような状態であったらしい。

 

金剛「“全速で追いつくネ!”」

 

提督「急いでくれ、既に次の索敵機は出してある。」

 

この時鈴谷は金剛がいる地点から南南東少し左に逸れた位置だ。距離に関して言えば少し離れてしまった為、合流には少し手間がかかる訳である。因みに突入開始地点からその位置までは真東に120km程である。

 

金剛「“提督も仕事が早いネー。”」

 

提督「お互い様だな、兎に角急いでくれ、何時どこに敵発見の報があっても可笑しくない。」

 

金剛「“OK!”」

 

金剛は通信を切る。

 

金剛「皆! 急いで鈴谷と合流するヨー!」

 

金剛は周囲の艦娘達にそう告げると、急遽最大戦速で合流地点を策定して南下を始めたのだった。

 

 

が、直ちに鈴谷との合流を果たさんとした金剛が、しかしそれを果たす事は遂に出来なかった。

 

11時27分、祥鳳の二式艦偵2番機から、敵発見の報告「テ連送」が送られてきたからである――――。

 

~重巡鈴谷では~

 

提督「敵に超兵器がいるだと!?」

 

赤城「“はい。”」

 

提督「そんな情報は今まで無かったのに・・・」

 

祥鳳の二式艦偵は確かに敵超兵器を捉えていた。が、直人の下にはそれまで敵超兵器が北太平洋の外れにいるなどという情報はついぞなかったのだからこの驚きぶりも当然と言えた。

 

赤城「“恐らく、我々が初発見です。”」

 

提督「そうだろうな・・・敵のタイプは?」

 

赤城「“今照会させています。”」

 

提督「判明次第知らせろ。」

 

直人はそう言い起き通信を切った。

 

提督「―――青葉!」

 

青葉「“なんでしょう?”」

 

と応答した青葉の通信からは波の雑音が随分混じった。

 

提督「・・・ちょっと待て、お前今どこにおるん。」

 

と聞くと青葉は言った。

 

青葉「“敵艦隊からちょっと(20km程度)離れた所ですね。”」

 

提督「おまっ・・・」

 

青葉「敵超兵器級はデュアルクレイター級と思われます!」

 

提督「言いたい事からやって貰いたかったことまで全部バレてるし・・・。」

 

青葉「“フッフフ~。”」

 

完全に一枚上手だった青葉であります。

 

提督「分かった、ありがとう。」

 

青葉「“どういたしまして! では離脱します!”」

 

提督「うむ。各艦隊に伝達、発見せる敵艦隊はデュアルクレイター級超兵器級深海棲艦を含むものと判明せり! 一航艦は航空攻撃を実行せよ、残りの艦隊は直ちに発見海域へ急行されたし!」

 

直人は兎にも角にも対処する事それ自体を強いられていたが故に、対応する為の態勢を築き上げる必要に迫られていたのだ。それが如何に予想外の事態であったかはこの際論外である。敵がいるならば、対処せねばならないのだ。

 

赤城「“攻撃隊、出します!”」

 

提督「了解! 金剛、戦場まで何分で着ける!」

 

金剛「“30分で間に合わせるヨ!”」

 

提督「分かった、多少遅れても構わんが急げよ!」

 

金剛「イエスサー!」

 

提督「各所へ、対空戦闘用意!」

 

副長「―――――!(対空戦闘用意を為せ!)」

 

明石「ちょ、超兵器相手に連戦ですか!?」

 

提督「何を言うておるか、既に経験済みの事ではないか!」

 

明石「そ、そうですが・・・」

 

狼狽する明石に直人はこう言い放つ。

 

提督「安心しろ明石、我々は敗れなどせぬ。今回も勝って帰るだけの事よ。」

 

明石「・・・分かりました。」

 

提督(ま、勝つかどうかはさておいても――――だがな。)

 

直人はそれを敢えて言わず、明石を勇気づけた。いや、それは彼自身にも向けられていたのかもしれない。そうでもしなければ、直人の性格からして到底やってられない事は事実であった。

 

祥鳳「“提督、敵は全速で正面からこちらに向かってきます!!”」

 

提督「何――――?」

 

その報告は、直人にとっては僥倖であった。わざわざ近寄っていく手間が省けたからだ。が――――

 

提督「後部電探室、全周走査!!」

 

後部電探室「“了解!!”」

 

それから2分して・・・

 

後部電探室「“本艦より68度方向感あり、敵の触接機です!!”」

 

提督「やはり見つかっていたか・・・雲の中か?」

 

後部電探室「“どうやら雲に出入りしているようです。”」

 

なんと、直人達は知らぬ間に見つかっていたのである。航空機も神出鬼没である為見つけるのも一苦労なのだ。

 

提督「道理で気づかん訳か。赤城!!」

 

赤城「“なんでしょう?”」

 

提督「方位156度方向に敵触接機を発見した、直ちに排除して貰いたい。」

 

赤城「“了解致しました。”」

 

赤城は相応当すると、直ちに上空に展開していた戦闘機隊の一部である8機を156度方向に向け飛ばせた。

 

赤城「“いつからいたんでしょうか・・・。”」

 

提督「分からんが・・・電探探知を怠った結果だろう、島風は何も見つけていなかったのか?」

 

島風「“だってめんどくさかったんだもん・・・。”」

 

提督・赤城「・・・島風(さん)?」

 

流石の直人も、怒った。

 

島風「“・・・ごめんなさい。”」

 

提督「罰として戦闘が終わったらサイパンに帰るまで“毎日”鈴谷の掃除番な。」

 

赤城「“お貸しします。”」

 

島風「“そ、そんな提督―――”」

 

提督「問答無用。」ピシャッ

 

島風「“あぅ・・・はい。”」

 

まぁ、残念ながら当然であった。因みに、鈴谷の総床面積、かなーり広い。作者自身計算できる資料がないのでよく分からないが、東京ドームの半分程度はあるのでは無かろうか。毎日というのは中々地獄である。

 

提督「・・・。」

 

明石(えげつない・・・。)

 

飴と鞭は使い様である。

 

 

12時40分 キスカ北方沖280km

 

島風「――――敵艦隊電探で発見!!」

 

赤城「すぐに通報を!」

 

島風「はーい!」

 

 

提督「敵艦隊発見? 確かか?」

 

島風「“嘘じゃないってばー!”」

 

思わず問い返した直人に島風が反論する。

 

提督「距離は?」

 

島風「“3万くらいかなぁ・・・?”」

 

提督「分かった。」

 

赤城「我が艦隊の触接機も確認しています、間違いないでしょう。」

 

提督「よし、全艦戦闘態勢!」

 

島風が汚名を返上し、横鎮近衛艦隊は戦闘態勢に入った。いよいよ、ここからが本番である。

 

提督「全艦に伝達、砲撃は敵超兵器に集中せよ、雷撃及び航空攻撃で雑兵共をかく乱する方法で行く。」

 

金剛「“ツマリ、戦艦部隊は敵超兵器を?”」

 

提督「そう言う事だ、但し軽巡と駆逐艦は除く、思う存分暴れてこい。」

 

矢矧「“フフッ、そう言うことね。”」

 

川内「“よぉーし、頑張っちゃうからね!”」

 

張り切る水雷戦隊の面々。だが直人はあえてこう言った。

 

提督「無理はするなよ~。」

 

川内「“分かってるって!”」

 

矢矧「“心得てるわ、全員連れ帰ってみせる。”」

 

それを聞いて直人は頷いて言う。

 

提督「宜しい、その意気だ。金剛、いけるな?」

 

金剛「“まだ遠巻きにしてるケド、いつでも行けるネ!”」

 

提督「扶桑はどうか?」

 

扶桑「“合流は既に終えています、照準も付けてあります。いつでも、お命じ下さい。”」

 

提督「Хорошо(ハラショー)! では始めようか!!」

 

金剛「“了解ネ! 突撃前進デス!!”」

 

扶桑「“交戦開始!”」

 

後に、『第一次アリューシャン海戦』と回想された戦いは、12時52分、その本戦が始まった。一方でキスカ島沖では―――――

 

 

~同刻・キスカ周辺海域~

 

F914榛名「敵艦隊の排除、完了しました。」

 

F914大和「そうね、では作戦想定通り、このまま警戒に移りましょう。」

 

F914榛名「分かりました、伝えますね。」

 

レオンハルト艦隊では、榛名が大和に報告を終えて戻っていく所であった。

 

F914赤城「“どうやら北でも始まっているようですね。”」

 

F914大和「えぇ、こちらでも時折“防備艦隊”の通信が入って来るわ。」

 レオンハルト艦隊側では、司令官であるレオンハルトこと狭山尚孝と任務担当官、そして大和を除いて、彼らが近衛艦隊である事を知る者はいない。箝口令と言ってもその秘密を知る者に限られ、残りには直人達が『石川好弘少将指揮の横鎮防備艦隊』であると伝えているのだ。

 ついでに直人の顔を見たのはレオンハルト艦隊では現状大和のみという徹底ぶりでさえある。とは言っても、これについては顔を合わせる暇さえなかった事が理由として挙げられる訳だが。

 

F914叢雲「それにしても、共闘するのに顔も見せないだなんて・・・。」

 

大和の直属部隊に属する叢雲が言った。

 

F914大和「それだけ今回の作戦が、緊急性を要したと言う事。次の機会には、石川提督に顔合わせをして貰えるようお願いしてみましょう。」

 

F914叢雲「えぇ、そうね・・・。」

 

F914響「どんな人なのか、気にはなるね。」

 

肩を並べる立場として、やはり相手の指揮官については興味があるようだ。

 

F914摩耶「そういうもんかねぇ・・・?」

 

そうでも無いヤツもいるようだが。

 

 

12時54分 キスカ北方沖

 

扶桑「撃て!!」

 

 

ズドドドオオオオオォォォォォーーーー・・・ン

 

 

扶桑と山城が先陣を切って、息を合わせた同時砲撃を披露する。

 

陸奥「撃てっ!!」

 

 

ズドドドオオオォォォーーー・・・ン

 

 

陸奥がその巨砲を轟かせる。

 

 

金剛「ファイアー!!」

 

 

ズドドドオオオオォォォォーーー・・・ン

 

 

扶桑たちに続き突撃を開始した金剛が第一射を放つ。

 

矢矧「二水戦突撃、我に続け!!」

 

川内「一水戦突入、手柄立てるよ!!」

 

筑摩「八戦隊前進、水雷戦隊を援護します!!」

 

妙高「五戦隊、前進します!!」

 

最上「七戦隊続くよ!!」

 

第一艦隊と一水打群の高速艦艇が続々と攻撃前進を始める。

 

 

・・-・・() ・・-・・() ・・-・・()

 

提督「ト連送、第二次攻撃隊が突入を開始したか。」

 

明石「どの程度戦果が挙がるでしょうか・・・。」

 

提督「爆撃受けながら言う話でもないと思うがね。」

 

 

ドドドドドドドドドドドド・・・

 

 

提督「ええい、デュアルクレイターか・・・。」

 

明石「中型機も混じってますが普通の艦載機も混じってますね、敵にも空母が・・・?」

 

赤城「“いえ、空母は報告にありません、殆ど軽巡と駆逐しかいないようです。”」

 

提督「となると本当に脅威なのはデュアルクレイターだけか。」

 

 

クレイター75「ナンナンダ・・・オマエタチハ・・・ナンデ来タンダヨォ!!」

 

デュアルクレイターの武装は、双胴船体と航空甲板、乾ドックを有する特徴的な艤装を再現している。

が、武装は独立しており、双胴の胴部が各個に左右にあり、それが中央で四つ足の肉体部分で、艦首部分で顔を挟み込むように接続され、その背には飛行甲板、更に尻尾の先に乾ドックを模したような口がある。

 

人型を取った本体のその姿は頭から短い二本の角が生えたショートボブのカ級と言う感じである。戦後分かった事だが、どうやら深海は新しいタイプの深海棲艦を生み出す場合デザインを使い回していたと言う事であるらしい。その為デュアルクレイター級も非常にカ級によく似ているのだ。

 

 

金剛「思っていたより取り巻きの反撃が弱いですネ。」

 

榛名「確かに、私も気になっていたのですが・・・。」

 

30分程交戦を続けていた金剛らがその事に気付いた。

 

どうやらデュアルクレイター75率いる深海棲艦隊は反撃が来ると思っていなかったようで、そのせいか敵の迎撃も稚拙極まっていた。

 

矢矧「“今までに比べたら、大分楽ね。”」

 

金剛「デュアルクレイターを沈めるまでが勝負、雷撃お願いしマース。」

 

矢矧「“周囲の敵艦も巻き込むのね?”」

 

金剛「当然デス。」

 

金剛は敵超兵器に対して雷撃を指示する。同じ指示は第一艦隊旗艦の陸奥も川内に出していた為、意図せずして二個水雷戦隊が同一目標に指向したことになる。

 

 

提督「―――ほう? 偶然の一致、という奴だな。」

 

通信状況とチャートを同時に見ていた直人は、行動の一致に気付いていた。

 

明石「以心伝心、という感じですかね?」

 

提督「どちらかというと、やはり超兵器は厄介だと言う見解に立ったのだろう。」

 

実はここまで全力砲撃を続け、命中弾も出したのだが、全体として実はデュアルクレイターに深手を与える事は出来ていない。一つは超兵器級自体の装甲が強固である事、8インチクラスの方では限界があったのも事実だが、それ以上に相手の速力が高い事が理由で、戦艦クラスの主砲が命中しづらいのだ。

 

提督「超兵器って何かと速力が速いからな。普通に40ノットなんて超えて来るから油断も隙もあったもんじゃぁない、ならば魚雷で足を止めると言う発想になる訳だな。」

 

明石「なるほど・・・理に適っていますね。」

 

提督「ビスマルクの時にやれた、シュトルムヴィントにだってやれた、なら、デュアルクレイター相手に出来ない事は無い筈だからな。」

 

シュトゥルムヴィントは快速で鳴らしたドイツの超兵器巡洋戦艦3隻のネームシップなのだが、竣工した時から機関不調に悩まされ続け、最後は待ち伏せていた潜水艦の魚雷によって航行の自由を奪われて撃沈されたのである。なんというべきか、中々運の無い事である。

 

提督「砲戦射程まであと10分だ、砲撃戦に備えて置く様に。」

 

相当な機数を動員していたであろう激しい空襲は既に鳴りを潜め、漸く鈴谷が戦列参加と言うところまで漕ぎ着けていた。鈴谷に損害は一切なかったが、一航艦に多少の損害が発生している。

 

副官「―――――!(全艦、砲撃戦に備え!)」

 

明石「漸く撃てますね!」

 

提督「嬉しそうに言うんじゃありません。」

 

明石「あ、はい。」

 

直人は明石を軽く窘めると、再び状況の推移に注意するのであった。

 

 

一方でキスカ島沖では状況が再び動いていた。

 

F914大和「全主砲、薙ぎ払え!!」

 

新手の敵と交戦中のレオンハルト艦隊、20分程前に、“北方から”敵艦隊が接近し、そのまま交戦に入ったのである。

 

F914瑞鶴「一体どこから空母クラスなんて湧いたのよ!」

 

F914叢雲「普通に考えると、北方で交戦中の敵部隊の残党、かしらね。」

 

F914摩耶「アタシもそう思うがなぁ・・・。」

 

この叢雲の予想は的中していた。この時現れたのは、デュアルクレイター75の揚陸艦隊を援護すべくキスカ北方で遊弋していて横鎮近衛艦隊一航艦が正面から第一撃で撃ち破った、敵空母部隊の片方だったからだ。

 

敗残兵となった彼らはどうやらアリューシャン列島方面におり、キスカに向かった深海棲艦隊と合流するつもりであったようだが、あまりにも遅すぎたと言うべきであろう。

 

F914霧島「“突撃します!”」

 

F914摩耶「ま、いつも通り戦うだけだけどな。」

 

F914大和「えぇ、そうですね。」

 

レオンハルト艦隊は全く動じることなく、この新手の敵と戦闘を行っていたのだった。

 

 

提督「まぁ、しぶといのは事実だ、長期戦は覚悟しようか。」

 

明石「はい。」

 

当の直人達はキスカ島でそんな事が起こっていることなど知る由もない。

 

提督「撃て!!」

 

 

ズドオオオォォォーーー・・・ン

 

 

鈴谷の主砲が号砲する。20.3cm連装砲艦首3基のうち、射角の関係で2番砲塔を除いた2基4門が射撃を開始する。最上型の主砲塔は1番砲塔と2番砲塔が段違いではなく、同じ高さで装備されていた為、2番砲塔が正面に撃てないと言う欠点を抱えていた。

 

明石「・・・10インチ砲持ってきた方が良かったでしょうか・・・。」

 

提督「むしろ強度を強化して3連装砲を背負いで2基積んだ方がいいだろうと思うが。」

 

明石「技術的にかなり難しいですね、艦の幅が何より足りません。」

 

提督「む、そうか・・・なら仕方ない。お、そうだ、3番砲塔と4番砲塔は3連装に出来んか?」

 

明石「バーベットの直径を変えなければなりませんので、やはり難しいかと。三連装化については、随分検討しましたから――――」

 

 

ズドオオオォォォーーー・・・ン

 

 

提督「―――ま、いいか、今後じっくり考えましょ。」

 

明石「そうですね。」

 

そもそも、最上型の船体が8インチ連装砲に合わせて作られている為、元から無理と言われれば無理なのだが・・・。

 

 

13時44分 キスカ北岸沖

 

F914加賀「敵艦隊、逃走します。」

 

F914大和「追撃戦に移行します、高速艦艇、前へ!」

 

F914金剛「“了解!”」

 

F914神通「“了解!!”」

 

F914天龍「“オウ、任せとけ!!”」

 

第三・第六・第七艦隊が、大和の命を受けて北に逃げ出した敵を追い始める。

 

F914蒼龍「私達はどうするの?」

 

レオンハルト艦隊の二航戦が旗艦である大和に指示を仰いだ。

 

F914大和「あなたたちは残って航空隊を。」

 

F914蒼龍「了解!」

 

大和の手際の良い指示を聞き、蒼龍と飛龍が攻撃隊を準備する。

 

F914大和「追い付けるかしら・・・。」

 

大和は一抹の不安を抱いていた。

 

 

一方キスカの北方にいる横鎮近衛艦隊は、デュアルクレイターの足を鈍らせる事に成功していた。

 

提督「撃ちまくれ! 足の鈍った超兵器など、武装が豪華なただのデカブツに過ぎん!! 油断なく仕留めろ!!」

 

金剛「“イエスサー!!”」

 

陸奥「“了解!”」

 

直人が艦娘達を鼓舞し、鈴谷が砲弾を吐き出す。

 

提督「いい加減勝負を付けたいが、まだまだ、そうもいかんか。」

 

金剛「“砲撃、敵超兵器に命中!!”」

 

その瞬間、敵艦隊の中央に巨大な火柱が立ち上った。

 

提督「あれはっ――――!?」

 

直人はそれをその立ち上った瞬間から目にした。

 

明石「弾薬庫に被弾した・・・?」

 

神通「“敵超兵器、爆発、大炎上中です!!”」

 

その時超兵器から距離1万2000まで距離を詰めていた神通が報告してきた。

 

提督「よし、トドメを刺すんだ、攻撃方法任せる!!」

 

神通「“はいっ!”」

 

金剛「“了解ネ!!”」

 

直人が断を下した。

 

 

金剛「雷撃用意! 大井サン、北上サン、お願いシマース!!」

 

大井・北上「了解!!」

 

デュアルクレイターは洋上で完全に停止していた。金剛はそれを見て取り、大井と北上に対し雷撃処分を指示したのである。

 

金剛「各艦に伝達、残敵の掃討を開始せよ!!」

 

摩耶「“分かった、任せろ!”」

 

神通「“了解!”」

 

蒼龍「“攻撃隊を発艦させるわね!”」

 

陸奥「“了解♪”」

 

赤城「“分かりました、すぐに。”」

 

金剛が追撃命令を出す。数分後、デュアルクレイター75に複数の水柱が屹立し、それが消えた時、その姿は洋上から消え失せていた。

 

 

――――それが、13時57分の事であった。

 

 

その後、核を失った敵艦隊は逃走を開始、それを猛追する金剛隊との間に短いながら激しい砲撃の応酬があり、被害も生じたが、敵のキスカ上陸の企図は、ここに完全に粉砕されるに至った。

 

14時29分、追撃停止命令が直人から出され、横鎮近衛艦隊の戦闘は終結した。

 

その3分後にはレオンハルト艦隊にこの旨が伝えられ、レオンハルト艦隊は抑えの戦力として第四及び第六艦隊を残して撤収した。

 

 

14時41分 キスカ北方沖

 

提督「さて、急いでレオンハルト艦隊を収容に行こう、計画通りにな。」

 

明石「はい! しかし、超兵器級もいたのに呆気なく勝負が着いてしまいましたね。」

 

明石が戦いを振り返って言った。

 

提督「弾薬庫爆発があってこそだ、運が良かっただけの事よ。次はこうはいくまいと思うよ?」

 

明石「そう・・・ですね。」

 

提督「次はどの様な敵が立ち塞がるのか、想像もつかんが、それまでの間、暫し休息だろうな。」

 

副長「―――――。(そうですね、サイパンに帰りましょう。)」

 

提督「あぁ、そうだな。」

 

副長妖精の言葉に頷いた直人は、一路合流地点と定めたアッツ島近海西部に向け、行程450kmを27ノット(50.004km/h)でひた走る。この海戦に関して言えば、直人らの完全勝利に近かったが、相応に損害も発生しているのは事実でもあり、その点まだまだ練度の不足を思い知らされる一戦でもあった。

 

 

21時28分 アッツ島近海西部

 

提督「収容開始!」

 

副官「―――!(収容開始せよ!)」

 

夜になってアッツ島沖に到着した鈴谷は、待っていたレオンハルト艦隊の撤収部隊を収容した。

 

提督「いやー、まさかの戦闘配食をここで食う羽目になるとはな。」

 

明石「海が荒れてましたから途中で・・・。」

 

実はアッツに向かう途中の航路の一部が大荒れの天気になっており、下手をすると針路を逸れてしまう可能性が予想された為、直人が自ら陣頭指揮で大荒れの海を踏破して来たのである。

 

提督「おかげで少し疲れた、レオンハルト艦隊の出迎えに行って今日は寝るとしよう。」

 

明石「お疲れ様でした。」

 

提督「ありがと、早めに寝ろよ~。」

 

明石「分かってますって。」

 

艦娘を大事にするあまり、若干過保護気味な所もある直人なのであった。

 

 

21時41分 左舷艦娘発着場区画

 

F914大和「無事収容、感謝します。」

 

レオンハルト艦隊旗艦、大和は、出迎えに来た直人にそう述べた。

 

提督「うん、これも算段の内だからな、当然の事。あとは万事お任せあって、今はごゆるりと、お寛ぎ頂きたい。」

 

F914大和「はい、ありがとうございます。幌筵帰還までの間、お世話になります。」

 

大和が直人に引継ぎを済ませている間、遠巻きに――――

 

 

F914叢雲「“あれがこの艦隊の提督なのね。”」ヒソヒソ

 

F914摩耶「“あぁ、思ったより普通だよな、見た目は。”」ヒソヒソ

 

F914響「“意外と顔はいいと思うけどね。”」ボソボソ

 

――――直人について話しているレオンハルト艦隊の艦娘達がいたのであった。まぁ提督の顔見せをしていないのだから当然だったが。因みにレオンハルト艦隊用の部屋割りは、艦首の空き部屋を使用する事にしており部屋割りも事前に決まっていたのであった。

 

 

提督「あ、大和が付いてる時ならいいけど、それ以外で余り歩き回ったりしないように伝えておいて? あと、余り詮索はしない様に。」

 

F914大和「分かりました。」

 

これだけは絶対事項である。一応ガスタービン機関と説明する事も出来なくは無いが、余り詮索されても直人にとっては厄介な為、仕方のない措置であった。あくまで彼らの存在とその独自性は秘密でなくてはならないのだ。

 

 

5月24日10時22分 アッツ⇒幌筵 重巡鈴谷艦内

 

この日、航路上は快晴で、波も穏やかな中、鈴谷中甲板ではやっぱり予期された光景が展開されていた。

 

F914皐月「広いねぇ~!」

 

F914天龍「あんまりはしゃぐんじゃねぇぞ。」

 

F914大和「そうですよ?」

 

F914第七艦隊旗艦天龍と大和に連れられて、皐月が艦内探検に繰り出していた。この第七艦隊は天龍と龍田、それに睦月型の皐月・如月・長月・望月で構成される水雷戦隊で、キスカでの戦闘の際主力の護衛部隊として一歩遅れて到着した部隊である。

 

白雪(元気ですね・・・。)( ̄∇ ̄;)

 

そう思いながら白雪は艦首方向に向かう3人に軽く挨拶をしてすれ違うのであった。

 

F914皐月「ねえ、ここは何の部屋なのかな。」

 

F914大和「余り詮索しない様に、とここの艦隊の提督から言われてますよ?」

 

F914皐月「そ、そうだった・・・。」

 

提督「そうだぞ皐月。」

 

その声に3人は一瞬驚いた。が、その声に厳しさは無い。

 

提督「この部屋は艤装を修理する為の修理設備を設けた一種の艦内工場とでも言えばいいかな。この船は艦娘指揮艦として建造されているからね、こうした、艦娘をバックアップする設備が欠かせないのさ。」

 

F914大和「成程・・・。」

 

提督「艦内探検は結構だが、一応妖精達の指示には従ってくれよ? この船にも機密がない訳じゃない。分かったかい皐月?」

 

F914皐月「うん、分かったよ。」

 

提督「宜しい、では、俺は失礼するよ、医務室に用があるんでね。」

 

そう、直人は偶々医務室の前を通りかかった大和たちと遭遇しただけなのである。

 

 

10時26分 重巡鈴谷中甲板・医務室

 

提督「で、負傷者の容体はどうなんだ?」

 

雷「そうね~・・・全員大事無いから、病室に入れておく必要はないわね。」

 

提督「それは良かった。」

 

今回損害を受けた艦娘は下記の通り

大破:なし

中破:夕雲(軽傷)・那珂・磯波(軽傷)・潮・祥鳳

小破:赤城・木曽・羽黒・大潮・陸奥・扶桑・初雪

軽損害:19隻(うち軽傷者4名)

 

損害の少なさは目立つようになってきたと彼自身も思ってはいる。しかし負傷者は兎も角損害を受けた艦艇自体の数は依然多い。彼に言わせれば、正面からの決戦はまだ無謀であった。

 

 

病室を出てすぐに夕雲に遭遇した直人。

 

夕雲「あら提督、ごめんなさいね、初陣がこの有様で・・・。」

 

見ると夕雲は腕に包帯を巻き、額の左側に布をあてがってあった。

 

提督「いやいや、むしろ初陣で無傷で戻れる方が奇跡的な位だし、あまり気にしてないよ。それよりも、命を取られなかった事の方が大事だ。」

 

夕雲「ふふっ、提督は優しいのね。」

 

提督「フッ――――」

 

直人が照れて思わず息を漏らす。

 

提督「そりゃぁそうだろう、お前達はかけがえのない存在だ、大切にしなきゃ。」

 

夕雲「そう言って貰えると嬉しいわ♪」ニコッ

 

夕雲が笑顔を見せて言った。

 

提督「それじゃ。」

 

夕雲「えぇ。」

 

そう言って別れる二人、直人は羅針艦橋に向かおうとしたのだが――――

 

提督「――――って金剛!?」

 

金剛「・・・。」

 

エレベーターに乗ろうとして存在に気付く直人。食堂前のT字分岐の左角にエレベーターがあるが、右の角に隠れていた様だ。

 

金剛「―――夕雲サンと話をしてマシタネ?」ニコリ

 

いや金剛さん笑顔が怖いです。

 

提督「偶々遭遇しただけだっちゅうに。」

 

金剛「にしては随分親し気デシタネ?」

 

提督「誰にもフレンドリーなのは知ってるでしょ!?」ビクッ

 

基本的に誰に対しても遠慮をしない直人なのであの応対はむしろ自然なのだ。

 

金剛「・・・まぁいいデス、前から浮気性ですカラネ~。」ツーン

 

提督「・・・あのな。」ガックリ

 

流石にその発言にはがっくり来る直人、本気で反論した。

 

提督「流石に夕雲が恋愛の対象になる事は無いからな? そういう趣味俺は無いからマジで!」

 

そう、彼はロ〇コンではない、ロリ〇ンでは(大事な事なのでry)

 

金剛「フ~ン? まぁそう言う事にしてあげるネ。」

 

提督「はぁ~・・・。」

 

一気に疲れて溜息しか出てこない直人であった、中々に災難である。

 

 

一応直人の為に注釈しておくと、直人がフレンドリーなのは元来の性分なので今頃直しようがない現実があったりもするので、金剛に睨まれてしまった今回はただのとばっちりとしか言いようがないのである。

 

 

5月25日17時36分、重巡鈴谷は何事もなく幌筵第914艦隊司令部に戻って来た。

 

~埠頭~

 

提督「――――引き継ぎ事項は以上だな、では、我々はこれで。」

 

アイン「もう行くのかナオ。」

 

提督「あぁ、帰りを待ってくれている留守の者達もいる事だし、戻ってやらんとな。」

 

アイン「そうか・・・また、会えるよな?」

 

提督「会えるさ。この戦争が続く限り、何度でもな。」

 

アイン「なら良かった・・・今度一度、ゆっくりと話がしたいもんだな。」

 

提督「俺も心からそう思うよ、積もる話も山とある。」

 

アイン「そうだね・・・じゃぁ、元気で。」

 

提督「あぁ、暫しの別れだ。」

 

往年の親友同士、互いに敬礼を交わし、直人は再び鈴谷に戻っていく。

 

 

~鈴谷前檣楼・羅針艦橋~

 

提督「レオンハルト艦隊所属艦娘の下艦は終わっているか?」

 

戻るなり直人は副長に行った。

 

副長「―――――!(完了しています提督!)」

 

提督「結構。出港するぞ。」

 

明石「はい、両舷前進微速!」

 

17時41分、直人達はそそくさと幌筵を後に、サイパンへと戻っていく航路を取る。滞在僅か5分、一刻も早く戻り、敵襲に備えなければという直人の気持ちが、旧友との語らいに勝ったのである。

 

 

アイン「・・・行ってしまったな。」

 

F914大和「あの・・・よかった、のですか?」

 

アイン「――――何が?」

 

F914大和「その、石川提督を、お引止めしなくても良かったのかな、と・・・。」

 

躊躇いがちに言う大和にアインは言った。

 

アイン「いいんだ、あいつにもきっと、やらなければならん事があるのだろう。」

 

F914大和「・・・そうですね。」

 

埠頭で鈴谷を見送り言いあう二人。寂しさもあったが、この作戦をやり遂げたという達成感が、この時は勝っていたのであった。尤も、彼らにとってもこれが終わりではない、寂しいなどと言っている暇が無い事は事実であったが―――――。

 

 

キスカ島に来襲した敵は、その目的を果たす事に失敗し、大打撃を被って退却した。これが、北方方面最初となる敵の反撃であった事は特筆すべき事柄であったが、これが後々になって更に規模を拡大していくのはむしろ自然な結果であったと言えた。

 

ベーリング海棲地を取り仕切るヴォルケンクラッツァーやリヴァイアサンにとっても、横鎮近衛艦隊出現は想定外であり、今後それを踏まえた上で改めて次善の策を練ってくることは十分考えられる事であったからだ。

 

彼らとて馬鹿ではない、それを人類は、ソロモン諸島をめぐる激しい攻防で思い知らされたばかりなのだから―――――

 

2053年6月1日、重巡鈴谷は役目を終え、再びサイパンに帰港した。それは、次の戦いに向けた一時の休息の時である事を意味していたのであるが、そんな事もお構いなしにして、深海棲艦は新たな一手を打とうとしていたのである。

 

 

 

 

~次回予告~

旧友 狭山尚孝の艦隊と共闘しての作戦を終え、戦いの合間の休息を満喫するサイパン島、しかしそれをいつまでも座して見ているだけの深海棲艦ではなかった。

突如として行われるサイパン空襲、この事が直人をして、新たな局面を到来せしめる重要な決定を下させる事となる。それは余りにも大胆不敵にしてリスクの大きい選択であった――――――!

 

次回、横鎮近衛艦隊奮戦録第2部最終章『西太平洋に日は昇りて』

 

艦娘達の歴史が、また一ページ。




艦娘ファイルNo.96

妙高型重巡洋艦 足柄

装備1:20.3cm(2号)連装砲
装備2:零式水上偵察機

何故か2号砲を初期装備に持参してしまった特異点を持つ艦娘。
どういう性格をしているかは・・・多分次章で分かる筈。


艦娘ファイルNo.97

夕雲型駆逐艦 巻雲

装備1:12.7cm連装砲
装備2:25mm連装機銃

特異点を持たない普通の艦娘、第十駆逐隊に所属する。
萌え袖可愛い。


艦娘ファイルNo.98

特Ⅰ型(吹雪型)駆逐艦 吹雪

装備1:12.7cm連装砲
装備2:61cm3連装(酸素)魚雷
装備3:13mm連装機銃(対空+3)

初っ端から装備が凄い特型駆逐艦24隻の1番艦、今作でも一応主人公に近い。
司令官の役に立ちたいという想いが目立つものの、着任当初は身体に適応出来なかった事による極度の身体能力不足であり、直人が特別に5日間の猛訓練を課してこれを矯正し、“戦力”としてモノにした。秋雲の用に射撃が下手と言う事もない。
鈴谷の幌筵への出立の際には出撃に参加出来ない事を惜しんでいた。


艦娘ファイルNo.99

大和型戦艦 大和

装備1:46cm三連装砲
装備2:15.5cm三連装副砲
装備3:10cm連装高角砲
装備4:零式水上観測機

明石発案の大型建造大和型レシピで一発ドローしてしまったという明石の豪運ぶりを伺わせる事案で着任した超々弩級戦艦大和型の1番艦。
初期に12.7cmではなく10cmの連装高角砲を装備しているという特異点を持っている。
着任直後の出撃には練度不足を理由に同行を認められず、吹雪を諫めて周辺警備に当たっていたが、次章で―――――?


艦娘ファイルNo.89b

千歳型航空母艦 千歳航

装備1(21):天山一二型
装備2(9):零式艦戦五二型
装備3(6):彗星一二型

新装成った千歳の空母仕様。
妹の千代田に仕様を合わせた為その最初から艦載機が妙に豪華になっている。

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