異聞 艦隊これくしょん~艦これ~ 横鎮近衛艦隊奮戦録   作:フリードリヒ提督

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どうも、天の声です。

青葉「どうも恐縮です、青葉ですぅ!」

遂に作者が待ちかねた章の更新です!

青葉「どういう事なんですかそれは・・・。」^^;

そう言う事でしょうに。俺としても一刻も早くやりたかったんだけど、逸る心を押さえてここまで書き連ねた訳です。ストーリー上重要な描写しかないのよね。

青葉「成程・・・。」

では今日の解説に移りましょう。


今回解説するのは、前章で登場し活躍した「大発動艇(だいはつどうてい)」です。

大発動艇は一言で言うと、「発動機(内燃機関)を装備した上陸用舟艇(しゅうてい)」の事です。

事の起こりは1915年2月19日から約11ヶ月に渡って戦われた「ガリポリの戦い(英側呼称:ダーダネルス戦役)」がきっかけでした。

協商軍(英連邦他)は陸海空3軍を結集した大規模上陸作戦をこの時世界で初めて行った訳ですが、この時上陸に使ったのはカッターボート(大人数でオールを漕ぐボートの事)や(はしけ)(荷物を積載する為に使われる動力を持たない平ぺったい船)であった為、防御力や機動力に欠けていました。

この戦訓からイギリスは、世界初となる上陸用舟艇である「Xライター」を開発します。これは装甲付自走艀と言った塩梅のもので、揚陸作業の際道板を艇首から繰り出せる構造となっており、実用実績良好だった事から、近代的上陸用舟艇の必要性を世界に認知させる結果になりました。


―――さて、これを受けて黙ってないのが日本でした。

日本はイギリスと同じ島国であった事と、大正十二年帝国国防方針に於いて在比(フィリピン)米軍を仮想敵にした事から、他の列強よりもこの上陸用舟艇に強い関心を持ちます。その様な経緯で開発されたのが大発動艇と小発動艇でした。

大発動艇、通称『大発』は艇首が前にぱたんと倒れて歩板になる形式になっており、積載重量11トン、歩兵70名、馬11トン、戦車/車両1両を搭載出来るとされていました。特徴として、船底を見ると艇首側がY字型に割れており、正面から見ればあたかも双胴船の様に見える形状です。

これは浜にのし上げた時に転倒しない様に設計されたもので、更に艇尾に錨を設けた事で、少し沖合に錨を落とし、満潮を待って錨を引くとバックするなど、細かい設計がされています。設計にも見るべき所がある(実際アメリカが参考にしている)一方で、これが無ければ太平洋戦争は戦えないと言われるほど重要な陰の立役者でもあります。

太平洋戦争に於いては上陸作戦で必ずと言っていい程使用された他、海軍は十四メートル特型運貨船として港湾での荷役や艦と陸の往来などに使用しました。また鼠輸送作戦では、最高速力9ノットにも拘らず駆逐艦が牽引して使用、自走時の最高速力を大幅に超える20ノットを難なくクリアして輸送を成し遂げています。波に非常に強い事の証明でしょう。

一方で、速射砲や爆雷で武装したタイプも存在(武装大発)しますが、こちらは対潜水艦や対魚雷艇で使用されたようで、無いよりまし程度でしたが戦果を挙げるエース級の猛者が相当数いたそうです。

バリエーションとして小発動艇(大発初期型の原型)や、大発を大型化して九七式中戦車を積載出来る様にした「特大発動艇」、将来の新鋭戦車に対応する為の「超大発動艇」、大戦末期に四式中戦車 チトを積載する為に作られた小型揚陸艦型である「試製大型発動艇」、木造化した「木大発」など結構種類があります。


以上ですね。

青葉「お疲れ様です!」

ありがと。

青葉「大発については、重雷装艦や陸軍で作った専用艦で運用されてましたね。」

そうだね、あきつ丸や神州丸(偽装名:龍城丸 艦これ未実装)等がそれに当たるね。あと高速輸送艦扱いの重雷装艦もしこたま積んでたネ。他にも色んな艦に幅広く搭載されたり、陸軍船舶工兵(渡河作戦等を支援する部隊)も運用してたんだよねぇ。

本当にこいつがいなかったら太平洋戦争は外地侵攻もままならなかった事疑いない。

ではそろそろ本編に行こう。私もうずうずして仕方がない。

青葉「アッハイ。」

では、スタートですよ!


敬具
佐野 葵海将補の考案をはたかぜ氏、広瀬 響艦娘艦隊中佐の考案を03-Moonlight氏にして頂きました。この場を借りて厚く御礼申し上げます。


第3部8章~珊瑚海(コーラル・シー)と、魔女(スタンレー)の峰を越えて~

2054年1月後半、横鎮近衛艦隊はラバウル攻略を無事終えてサイパンへと帰投した。だが、戦局の推移はそんな彼らを休ませる程悠長には進まなかった。

 

しかし、この時はまだ、彼らは形ばかりの平穏を得ていた。

 

 

1月23日8時10分 建造棟1F・判定区画

 

提督「ふむ、君が今回の新人か。」

 

「はい、潜水母艦、大鯨です。不束者ですが、どうぞ宜しくお願いします。」

 

提督「うん、宜しくね。」

 

ゴーヤ「潜水母艦でち!」⇐呼んでない

 

イク「潜水母艦なのね!」⇐呼んでない

 

イムヤ「この時を待ってたわ!!」⇐呼んだ

 

ハチ「これで幅広く作戦が出来ますね!」⇐呼んでない

 

提督「どこで嗅ぎつけやがったお前ら!?」

 

大鯨「あらあら・・・。」

 

流石にびっくりする直人である。

 

提督「やれやれ、潜水艦の嗅覚と来たらねぇな全く・・・イムヤ、案内してやってくれぃ。あとの面々は訓練行ってこい!」

 

イムヤ「了解!」

 

3人「「はい・・・。」」

 

ピシャリとそう言い置いて、直人は大鯨に向けて肩を竦めて見せるのだった。

 

大鯨「ハハハ・・・。」^^;

 

これから大変そう、そう思ったのも無理からぬ事だろう・・・。

 

提督「まぁ、こんな賑やかな所だがね、潜水艦達の面倒を見てやってくれ。」

 

大鯨「はい、精一杯務めさせて頂きますね。」

 

 

その、翌日の事であった。

 

1月24日13時18分 中央棟2F・提督執務室

 

 

コッコッコッ・・・

 

 

大淀「提督、大本営から、出頭命令書です。」

 

提督「―――へ?」

 

何も身に覚えがない直人。

 

大淀「次段作戦の打ち合わせではないですか?」

 

提督「そ、そうだろうな・・・。」

 

大淀「・・・腑に落ちませんか?」

 

提督「顔に出てたか?」

 

大淀「それはもう。」

 

提督「そうさな、少し早すぎると思ってな。スパンがだ。」

 

大淀「確かにそうですね・・・。」

 

提督「・・・前線で、何か起こったな?」

 

直人はそのきな臭さからそう推理したのである。結果としてそれは当たっていたのだが。

 

 

その後直ちに身支度を整えた直人は、金剛と伊勢を伴ってバルバロッサに乗り込みサイパンを出立、横鎮敷地内の寮に腰を落ち着けた後、翌25日11時に大本営に出頭した。

 

 

11時24分 横浜大本営・軍令部総長執務室

 

提督「紀伊直人、出頭致しました。」

 

カチリと踵を合わせて敬礼をしながら直人は申告した。

 

山本「ご苦労。すまないな、前回の作戦から間もないのに。」

 

提督「いえ。それよりも、ご用件を伺いたくあります。」

 

山本「そうだな―――実は貴官に、ぜひやって貰いたい事がある。」

 

そう切り出した山本海幕長の声色が変わったのを直人は聞き逃さなかった。

 

山本「―――ポートモレスビー攻略だ。」

 

提督「なんですって―――?」

 

 

・・・ポートモレスビー、パプアニューギニア南部にある都市の名前で、パプアニューギニアの首都となっていた地である。

ここには現在深海棲艦の棲地が存在する為、人が自由に住む事など出来ない土地となっている。前年の第一次SN作戦の時支援した住民は、こうした直接支配に置かれていなかったその他ニューギニア地域の住民達と難民である事に留意されたい。

 

 

山本「実を言うとな紀伊君。攻略したラバウルが、大規模な航空戦の標的になっているのだよ。」

 

提督「・・・つまり、ラバウルが今、ガタルカナルとポートモレスビーの両面から航空攻撃を受けて苦境に立たされている、と言う事ですね?」

 

山本「そうだ。そこで君にポートモレスビー棲地の攻略を命じたい。」

 

提督「―――それについては内容は了解しました。しかし成算はあるのですか?」

 

山本「貴官はこれまで、成算を成立させる戦術を編み出し実行し、それはどうやらこれまでほぼ成功している。しかし、今回ばかりはそれを保証する事が出来ない。」

 

提督「そうでしょうね、ニューギニア島を時計回りに沿って進まなくてはなりませんから。仮に攻略したとして、補給はどうなさいます?」

 

山本「艦娘艦隊がいる、それについては滞りなく行うつもりだ。」

 

提督「成程、それでいいでしょう。ですが果たしてどうやって攻略すればいいのです? ポートモレスビーには敵深海棲艦隊主力の一部が駐在している筈です。更に航空戦力を有するとあれば、海空両面から妨害が行われるでしょう。それに対しどのような対処を行えば宜しいのですか?」

 

山本「それに関しては、ラバウル基地にある全ての設備と、部隊が支援に当たるように要請する。航空軍の航空部隊もいるから、そちらへ頼んで支援攻撃を行うよう手配するつもりだ。」

 

提督「成程・・・しかし俄かには承諾しかねる案件ですな。」

 

山本「そうだろうな・・・。」

 

しばしの沈黙が、室内を支配した。

 

山本「―――どうかね、この際一度持ち帰ってそちらで検討するというのは。」

 

提督「・・・分かりました、そうしてみます。」

 

山本「すまないな、無理難題なのは承知の上だ。しかし、我々にはこうした作戦しか出来ん、許してくれ。」

 

提督「謝らないで下さい。我々の仕事は、こうした困難なミッションを、作戦計画を立案し遂行する事ですから。それに、永納元海将の時に散々やりましたから、もう慣れっこですよ。」

 

山本「・・・そうか。」

 

思い返せば永納時代は酷いものであった。単身フィリピン中部や北マリアナに所在した有力な敵軍を討滅しろと言うのだから中々の難問であったのは事実だ。

 

提督「では、失礼させて頂きますよ。こうなるとやることが山ほどあると思いますので。それでは。」

 

山本「良い返事を期待させて貰う。」

 

直人はすぐさまその場を後にし、急ぎ厚木基地へと取って返しサイパンへと戻ったのである。この時ばかりは、横須賀へと寄る余裕はなかった。

 

 

 1月26日、朝食を終えた直人は直ちに幕僚会議を招集し、昨日大本営で告げられたことについて討議に入る事にした。

7時10分、食堂棟2階にある大会議室に参集されたのは、総旗艦を含む各実戦部隊の旗艦とその首席幕僚、航空隊指揮官、工廠長明石、副官大淀、陸戦隊の指揮権を預かるあきつ丸に加え、オブザーバーとして長波と初春、更にグァムから要請を受けてゲストとして来たワールウィンドとアイダホが集まっていた。

 

瑞鶴「ポートモレスビー攻略!?」

 

提督「あぁそうだ。軍令部は我が艦隊に直接要請と言う形で打診してきたが、今回はまだ決定していない、そこで討議の場を設けた。何か意見があれば言って貰いたい。」

 

瑞鶴「私は反対よ、リスクが大きすぎるわ!」

 

瑞鶴が声を荒げてそう言った。が、少なからず焦燥の念を感じ取った直人がすかさず宥めた。

 

提督「瑞鶴、冷静に考えてくれ。確かにMO作戦に参加したという経緯があるのは理解する。だがあの日と今とは状況が違う。それを考慮しないと駄目だよ。」

 

瑞鶴「うっ・・・そうね・・・。」

 

金剛「―――危険が、相当大きいように思いマース。」

 

榛名「洋上侵攻を行う場合は、パプア半島(ニューギニア東部の大きな半島)を迂回する必要があります。その間妨害を受ける事を考えると、危険ですね・・・。」

 

アイダホ「現在、私達の持つ情報によれば、かの地には有力な艦隊が駐在しているようですが、それはタウンスビルに駐在する駆逐棲姫が指揮する艦隊の一部に過ぎない筈です。本隊は依然タウンスビルにあって、全体の状況に対応出来る様に構えている筈です。」

 

提督「と言う事は、その情報は若干古い、と言う認識で宜しいな?」

 

アイダホ「そうです、残念ながら・・・しかし、前回の渾作戦の際、相当消耗していますから、現在は艦隊の再編に努めている筈です。相対的に弱体化していると見ていいでしょう。」

 

霧島「つまり時期的には今、と言う事ですね?」

 

アイダホ「はい。」

 

ワール「でも、航空部隊に変化はない筈よ。尤も現状、ラバウルとの間で航空戦をしているから、少なからず消耗しているという情報があるわ。」

 

提督「それはそうだろうな・・・。」

 

大和「しかし、敵の戦力はポートモレスビーには限りません。」

 

長門「そうだな・・・ガタルカナルとその周辺、ソロモン諸島に点在する敵基地からの増援を考慮する必要もある。」

 

瑞鶴「うーん・・・。」

 

提督「―――。」(二正面・・・放置すればもう片方は挟撃を図って来る事は間違いない・・・。)

 

大淀「仮に実行するとしても、敵の戦力は莫大且つ、艦砲射撃の及ばない範囲にまで敵の棲地は縦深があります。となれば、艦娘が水上から攻略する事は不可能です、せめて陸上に上がる必要があります。」

 

明石「艤装のまま陸に上がる事は可能です、脚部のものが靴としても機能しますので。」

 

提督「そう言う問題では無かろう、制海権の関係上一斉に上陸していく訳にもいかん。行くとしても一部、となれば、やはり海上機動連隊の出番だろうな。」

 

あきつ丸「そう言う事であれば、お任せあれ、であります。」

 

柑橘類「あきつ丸はそう言うけどよ、問題はそこまでどうやって辿り着くかだぞ。」

 

提督「出撃地としてはラバウルになる。飛行場も使用してよいという事になったから、その辺も考慮してくれ。」

 

柑橘類「なら、俺達が直接支援するって事でどうよ?」

 

提督「それも含めて包括的に検討しよう。まずはやるかやらんかだ。」

 

柑橘類「そ、そうか。」

 

長波「あたしは反対だな、リスクが大きい。」

 

初春「わらわも反対じゃな。」

 

瑞鶴「私は、今度こそと思いたいけど、厳しいと思う・・・。」

 

霧島「私は反対です、危険が大きすぎます。」

 

長門「私は賛成だ。我々第一艦隊の戦艦部隊が舳先を並べるという事であれば、勝算はあると考える。」

 

大和「私は反対ですね。制空権の確保が確約されているとは言い切れません。」

 

柑橘類「そこは俺達が行ってやるって。」

 

大和「常に滞空出来る訳ではありませんよ、柑橘類中佐。」

 

柑橘類「っ・・・。」

 

金剛「私も反対デース、些かチャレンジ精神に過ぎると思いマース。」

 

榛名「榛名は反対と言う訳ではありませんが、難しいのは確かだと思います。」

 

大淀「私は提督の一存に委ねます。」⇐副官

 

明石「私もです。」⇐そもそも工廠長

 

柑橘類「やるってんなら俺は付き合ってやろう。」

 

あきつ丸「あきつ丸は賛成するであります。但し、陸上に無事部隊を揚陸した場合の事ですが。」

 

その後、各自の理由を聴収すると、内訳は大凡こんな所であった。

 

大和/反対・榛名/難色:制空権の掌握に不安がある

金剛&初春&霧島/反対:些か投機性が強い

長波/反対:複数の敵による挟撃を受ける危険性が高い

瑞鶴/難色:作戦海域が広範であり索敵に不安がある

柑橘類/協力的:航空隊の練度には自信がある

長門/賛成:戦艦部隊による制海権掌握が可能である

あきつ丸/賛成:上陸部隊が陸に上がりさえすれば勝てる(確信)

大淀/反対・明石/中立:立場上賛否を明確にせず(明石は実戦部隊ではない)

 

 なんと半数以上が難色を示すか反対するという事態になった。これがどう言う事か、お分かり頂けるだろう。即ち、この作戦には成算が見出せないという事である・・・。

彼ら横鎮近衛艦隊は、成算の無い戦いは絶対にしない。それが、彼らのポリシーであり、彼らの特徴でもあった。だからこそ、直人がこの作戦には難色を示したのも当然の事であった。

 

提督「―――。」

 

ただ、ここで直人が意思表示をする事は無かった。それはその意思表示が、艦娘達の思考を阻害する事を嫌った為であった。

 

金剛「提督はどうお考えネー?」

 

瑞鶴「そうよ、提督はどうなのさ?」

 

提督「・・・今は私が考えを明白にするべきでは無かろう、私が君らを集めたのは、君らの討議を聞く為なのだからな。」

 

初春「―――それもそうじゃな。」

 

提督「但し一つ言えることは、この作戦を仮に実行するのであれば、どの様な策があり、それは成算があるのかと言う事である、と言う事だ。止めるなら止めるの一言で済むだけの事なのだから。」

 

瑞鶴「―――!」

 

長波「成程なぁ~。確かに、その通りだ。やめるのであれば相談する必要はない。」

 

霧島「そう言う事ですか、司令の真意が、少し見えた気がしますが、まぁいいでしょう。」

 

金剛「ワタシ達はワタシ達でやりまショー。」

 

瑞鶴「そうね―――」

 

 

 その後、艦娘達は自分の識見を頼みに様々な議論を繰り広げた。行動時の問題、攻略時の問題、兵站の問題、制海権/制空権の問題、敵の配備状況についての問題などなど・・・

問題が山積し、議論は百出して纏まる所を知らぬまま、その議論も48時間が経過していた。

 

 

あきつ丸「何度も申し上げている通り、地上兵力の展開を完了すれば、ポートモレスビー攻略は可能であります。何なら陸路を経由する事も視野に入れるのも吝かではないのであります。」

 

瑞鶴「その上空援護はどうするのかって話をしてるのよ!」

 

あきつ丸「地上部隊と言う物は、得てして発見が難しいものであります。」

 

瑞鶴「入念な偵察をされたら終わりなのよ?」

 

あきつ丸「上空援護についてはそちらにお任せすると、何度も言っているであります。」

 

瑞鶴「ラバウルから何km離れてると思ってる訳・・・。」

 

あきつ丸「その為に艦隊を出撃させるのでありましょう?」

 

瑞鶴「私達に出来るのは敵艦隊の排除よ、それが優先なのは自明の理だって事くらいわからない?」

 

あきつ丸「我々に与えられているのはあくまでポートモレスビーの攻略の筈なのであります。敵艦隊の排除は必ずしも重要ではないと考える次第であります。」

 

瑞鶴「そ、それは・・・。」

 

柑橘類「はぁ~・・・やれやれ、せめて空挺(くうてい)部隊が使えりゃぁな。」

 

瑞鶴「・・・ん?」

 

あきつ丸「・・・!」

 

金剛「あっ・・・。」

 

提督「―――空挺・・・。」

 

柑橘類「えっ・・・?」

 

この時、彼らの思考に、空挺部隊は存在していなかった。しかし、あるではないか。彼らが有する、最も高い戦略機動力を有する部隊は、空挺部隊ではなかったか。

 

提督「中佐有難う。もしかしたら行けるかもしれん。」

 

柑橘類「お、おう・・・。」

 

 この時点までに、大方の問題は解決出来る見通しがあった。しかし二つ程まだ残っていた。即ち挟撃のリスクと、地上兵力展開の問題である。

この内後者の問題は、解決する見通しが立った事になる。

 

あきつ丸「空挺降下であります。かつて欧州では、夜間に空挺降下を敢行した例もある筈であります。」

 

瑞鶴「夜間か・・・低空から侵入すれば、行けるかもしれないわね。」

 

柑橘類「対空砲に関してはどうする?」

 

金剛「私達の出番ネー!」

 

大和「はい、艦砲射撃で混乱させておけば、対空砲火はぐっと密度が落ちる筈です。」

 

長波「だけどまだもう一つ問題が残ってるぜ、敵の挟撃についてはどうするよ?」

 

提督「―――一つ、考えがないでもない。」

 

長波「えっ、どう言う事だよ提督?」

 

提督「・・・俺が、囮になるという事だよ。」

 

金剛「―――!!」

 

瑞鶴「危険すぎるわ!」

 

提督「だが、俺がこの身を差し出さずに囮になれる者が、果たしてこの艦隊にいるかな? 艦娘達ではその所属を明らかにしない限り効果はない上に、囮であると主張しているようなものだからな。」

 

瑞鶴「でも、何も提督さんが危険を冒す事なんてないじゃない!」

 

提督「フッ―――そう心配するな。策なら、あるぞ。」

 

瑞鶴「えっ―――!?」

 

そう、彼には秘中の策があった。その正体については、いずれ分かるだろう。

 

提督「心配してくれるのは嬉しいけどな、ありがとう瑞鶴。まぁ、その辺は俺の担当だ、任せて貰おうか。」

 

僅かに笑みを覗かせて彼は言い切った。

 

霧島「―――では、全ての問題は、クリアしうる訳ですね・・・。」

 

提督「結論から言えばそうなるだろうな。我々はもう、あの頃の帝国海軍ではないのだから。」

 

軍事常識は、年月と共に変化する。だが艦娘達の認識は流石にそこまで対応出来る訳ではないのだ。大問題に見えるようなものでも、確かに問題だが解決不可ではない問題も多いという訳である。

 

提督「やろう、この作戦。早速編成作業に取り掛かろうじゃないか。」

 

一同「「はいっ!」」

 

 この時全ては決した。あらゆる問題点を洗い出した事により、成算を見出した横鎮近衛艦隊は直ちに部隊編成を開始したのであった。

ポートモレスビーは、北と東側をオーエンスタンレー山脈に、西と南側を海に囲まれた要害ではあるが、市街の北側に平坦地があり、飛行場の適地となっている。

帝国陸軍はニューギニア北部から山脈越えのルートによる攻略を企図して失敗に終わっているが、今日の情勢下に於いて、彼らは彼らなりに活路を見出しつつあったのである。

 この報は直ちに軍令部に向け報告され、中央も認知する所となる。

「成算の無い戦いはしない」横鎮近衛艦隊がその寄る辺としていたのは、「成算を見出す知略」と「それを可能にする戦備」であったと言えるだろう。ない物ねだりをしないだけの備えを持つ横鎮近衛艦隊ならではこそ、今回の作戦は成立したと言える訳である。

 

 

 部隊編成自体は、原案が21時10分頃には完成し、その翌日に完成、急速訓練が開始された。訓練が必要であった理由については、作戦中に順次後述していく事にしよう。ここでは長くなる為述べない。

しかし一つだけ言えることは、それだけ大規模な編成変更を行ったと言う事でもある、と言う事だ。

 

 

2月1日午前11時、重巡鈴谷はラバウル基地へ向けて出港した。艦隊編成自体は既に終了しており、それが次の通りとなった。

 

~作戦本隊~

 

第一水上打撃群(水偵38機)

旗艦:金剛

第三戦隊第一小隊(金剛/榛名)

第八戦隊(鈴谷/利根/筑摩)

第十一戦隊(大井/北上/木曽)

第十四戦隊(摩耶/羽黒/神通)

独水上戦隊(プリンツ・オイゲン/Z1)

第一航空戦隊(翔鶴/瑞鶴/瑞鳳 180機)

第二水雷戦隊

 矢矧

 第四駆逐隊(舞風/野分)

 第十駆逐隊(夕雲/巻雲/長波/清霜)

 第十六駆逐隊(雪風/天津風/時津風/島風)

 第十七駆逐隊(浜風/谷風)

 第十八駆逐隊(霞/陽炎/不知火/黒潮)

 

第一艦隊(水偵33機)

旗艦:大和

第一戦隊(大和/長門/陸奥)

第四戦隊(高雄/愛宕)

第五戦隊(妙高/那智/足柄)

第七戦隊(最上/熊野)

第十二戦隊(長良/五十鈴/由良)

第四航空戦隊(扶桑/山城/伊勢/日向 96機)

第五航空戦隊(龍驤 43機)

 第一水雷戦隊

 阿賀野

 第六駆逐隊(暁/響/雷)

 第八駆逐隊(朝潮/大潮/満潮)

 第十一駆逐隊(初雪/白雪)

 第二十一駆逐隊(初春/子日/若葉/初霜)

 

第三艦隊(水偵18機)

旗艦:瑞鶴(霧島)

第三戦隊第二小隊(比叡/霧島)

第六戦隊(古鷹/加古/衣笠)

第十三戦隊(球磨/川内/那珂)

第二航空戦隊(蒼龍/飛龍 146機)

第三航空戦隊(赤城/加賀 180機)

第六航空戦隊(飛鷹/隼鷹/祥鳳 180機)

第七航空戦隊(雲龍 51機)

 第十戦隊

 大淀

 第二駆逐隊(村雨/五月雨/夕立)

 第七駆逐隊(漣/潮)

 第十九駆逐隊(磯波/綾波/敷波)

 第二十七駆逐隊(白露/涼風)

 第六十一駆逐隊(秋月)

 

上陸船団

旗艦:あきつ丸

千歳・千代田(ともに水上機母艦艤装)

第一海上機動連隊(約3000名弱・戦車20両)

 

~陽動部隊~

旗艦:重巡鈴谷(紀伊元帥座乗)

第十五戦隊(阿武隈/多摩)

臨時第一駆逐隊(睦月/如月/皐月/文月)※第三十/第二十二駆逐隊より各2隻抽出

 

 

 このラバウルへの移動の間、彼によって編成を命じられた空挺部隊は、引き続き訓練を行っていた。訓練を行う空挺部隊の中には、叢雲や深雪、電、時雨、天龍と龍田の姿もあった。

訓練が必要なのはここに一つ理由があった訳だが、それだけでない事は後で明らかになる事だろう。

 更に、前回の作戦からの短い間に、8隻が改造されているのだが、その一覧が次の通りになる。

 

翔鶴:無印⇒改 二式艦偵を追加・その他機種を一段階更新

瑞鶴:無印⇒改 二式艦偵を追加・同上

雲龍:無印⇒改 二式艦偵を追加・同上

瑞鳳:無印⇒改 二式艦偵を追加・同上(以上4艦全て2段階目)

足柄:無印⇒改

白露:無印⇒改

夕雲:無印⇒改

巻雲:無印⇒改

 

翔鶴艦戦隊(熟練):零式艦戦二二型/再編して岩井隊に

瑞鶴艦戦隊(熟練):零式艦戦二二型甲/再編して岩本隊に

 

また龍驤が機種3段階目から4段階目になり、僚艦に追い付いている他、千歳と千代田の艦攻も3段階目から他の機体と同じく4段階目(流星)になっている。つまりこの戦いは、新型艦爆である流星の初陣と言えることになる。

 

余談ではあるが、鳳翔艦戦隊(柑橘類隊)も機種が更新され、3段階目(零式艦戦五二型丙)になっている。

 

 

 2月5日7時23分、重巡鈴谷はラバウル港の東に浮かぶ島、デューク・オブ・ヨーク島の東岸にその錨を降ろした。ラバウル直接入港をしなかった理由は、そのフォルムがラバウル港内では悪目立ちしてしまう事から、佐野海将補が配慮をした結果であった。

 丁度停泊地の近くに、ラバウル第1艦隊の司令部も置かれていた。

 

 

11時12分 ラバウル基地司令部・司令官室

 

 様々な指示の伝達が終わった所で、直人は一度ラバウル基地司令部に出頭する。ラバウル基地司令部は、横鎮近衛艦隊が仮設基地を設けたラバウル旧港ではなく、その東にある松島港と呼ばれていた、旧日本軍が港にしていた地に建てられていた。

この様に旧軍の足跡を辿る様にして、日本艦娘艦隊の基地は存在していた。

 その司令官室に出頭した理由は、種々の打ち合わせの為であった。

 

提督「わざわざ時間を作って頂き、ありがとうございます。」

 

佐野「いやぁ、私は普段は暇な方でね、全部部下に任せているものだから、書類の決裁と面会位なんだが、その面会者も、こんな場所だと、中々ね。」

 

提督「あぁ、そうでしたか。」

 

苦笑しつつそう応じた直人である。

 

佐野「今回の作戦、中々勇気のいるものだと思うけど、私に出来る事なら、なんなりを言って欲しいな。そのつもりで来たんだろう?」

 

提督「そうですね、差し当たってお願いしたい事は二つです。」

 

佐野「伺いましょう。」

 

提督「一つは、ラバウル近郊にある飛行場に、我々が持つ航空隊を一時受け入れて頂きたいのです、差し当たっては400機ほどになってしまうのですが・・・。」

 

佐野「中々多いねぇ・・・すぐには無理だが、少し日を開けてくれるかい? 目途が経ったら連絡するよ。」

 

提督「感謝します。」

 

佐野「それで、もう一つは何だい?」

 

そう問われると、直人はこう答えた。

 

「ラバウルに在地する空自軍航空部隊で、上陸日の日中に敵地爆撃をお願いしたいのです。」

 

佐野「成程ね、素直に我々を頼ってくれるのは嬉しい事だね。じゃぁその辺の打ち合わせに入ろうか。飛行場については今すぐ急ピッチで進めさせるよう手配しよう。」

 

提督「感謝いたします、佐野海将補。」

 

佐野「他ならぬ、君の頼みだからね。」

 

 

その、午後の事だった。

 

15時14分 デューク・オブ・ヨーク島沖・重巡鈴谷

 

提督「対空戦闘用意! 抜錨急げ!」

 

明石「機関、規定出力まであと2分!」

 

副長「―――!(揚錨完了まであと50秒!)」

 

対空戦闘用意を告げるラッパが響き渡り、甲板がにわかに慌ただしくなる。敵の空襲である。

 

明石「敵方位106度から110度、機数約150機と推定! 大空襲です!」

 

提督「ガタルカナルからの長距離便だ、戦闘機はいない筈。」

 

前檣楼見張員

「“ラバウル基地から戦闘機が上がります!”」

 

提督「むっ・・・。」

 

 双眼鏡でその方角を見ると、ジェット戦闘機が数機上昇しているのが見えた。空自軍が主力とする戦闘機、F-35A6機と、F-3戦闘機4機である。空襲機を要撃する為にスクランブルをかけたものである。

 

提督「空自の航空部隊か、ご苦労な事だねぇ。」

 

明石「私達艦娘の領分だと思っていましたが・・・。」

 

提督「そう言う事もないよ、ほら、ラバウル基地の艦娘艦隊も続々と艦載機を発進させている。」

 

明石「えっと・・・あ、本当ですね。」

 

提督「二段構えの防空体制か、成程確かに合理的だね。」

 

明石「あれが例のF-3戦闘機ですか・・・。」

 

興味津々で眺める明石。

 

 自衛隊が開発した3番目の戦闘機、F-3[通称:心神(しんしん)]は、先進技術実証機X-2を原型機に持つ、日本の第5世代ジェット戦闘機である。F-2までとは異なり支援戦闘機と言う肩書を捨てているが、これはF-2支援戦闘機とF-15J/DJイーグルの後継機として開発された為である。

高いステルス性能と大型の機体を持ち、設計の際にはX-2をベースにF-35とF-2戦闘機を参考にしている為、第5世代の中では格闘戦性能に優れ、また航続距離も比較的長い。

また機内隠蔽式のペイロードも可能なだけ確保した事により多様な任務への対応が可能となっており、防空戦闘から対地・対艦戦闘まで、幅広い任務をこなす事が可能な戦闘機である。

 制式採用されたのは2032年の事であり、戦争勃発に伴って生産促進が為されていたが生産数は84機に留まっている。その貴重なF-3が、ラバウルには2個小隊8機が展開しているのである。

F-35Aに関しては1個飛行隊に相当する4個小隊16機が展開している。他方には三菱重工製F-35Jも存在するが、ラバウルには配備されていない。

 

提督「―――うちらの飛行場には意地でも来ない部隊だから安心していいぞ。」

 

明石「くっ・・・。」

 

悔しそうに歯噛みをする明石。

 

提督「・・・電波吸収剤くらいなら考えてやろう。」

 

明石「ホントですか!?」

 

提督「本当に調達出来るかは、知らんぞい。」

 

明石「ですよね・・・。」

 

しかし期待に胸を膨らませる明石なのであった、これはもうメカニックの性である。

 

 

 迎撃に出た空自軍の要撃機は、距離120kmで長距離空対空ミサイル(AAM)を発射して離脱した。これを受けた深海棲艦機は回避する術も防ぐ手段も持たず、瞬く間に数が半減してしまった。

以前深海棲艦にミサイルが通用しないという説明をしていたが、あくまでそれは「深海棲艦それ自体」に対してであるという事の例証だろう。

 これまでの戦いを振り返れば明白な通り、深海棲艦機の性能は、第二次大戦期の航空機に相似している事が明らかになっている。

今回来襲している敵機は航空機型深海棲艦機のB-17後期量産型タイプだったが、それでさえ、F-35やF-3にしてみれば100年以上前のテクノロジーな訳である。一蹴して当然であった。

 

 

提督「おーおー、レーダーの輝点が一瞬で半分くらいになったな。」

 

陸上レーダーのデータを転送して貰った直人は、その様を見て感嘆の声を漏らす。

 

明石「ミサイル・・・。」

 

提督「やめろ。」

 

明石「冗談ですよ・・・。」^^;

 

素で止めに入った直人である。

 

 

 余談ではあるが、素で止めに入ったのには理由もある。と言うのは、日本にはかつて大戦末期に試作していた地対空/空対空ミサイル「奮龍(ふんりゅう)」と言う物が存在しているからである。

無線誘導だが、この内空対空型である奮龍一型は一式陸攻からの投下実験をしているなど、下手をすれば実用化された可能性があるのだ。

 日本の技術水準は太平洋戦争中に劇的に発展し、末期には欧州の水準を超えるものまで登場していたが、この奮龍もまた、遅すぎた新兵器の一つであった。

 

 

 その4日後の2月9日、ラバウルに飛行場が東西2カ所に突貫作業により整備された。東はジェット戦闘機部隊が駐在する為に旧空港跡を転用し修復したもの(大元を言えば横鎮近衛艦隊の抽出防空部隊が駐在する為にざっと修復/整備したもの)だが、西側は新規に造成したものである。

急速造成の為舗装はまだないが、滑走路をメインに急速に行うという。これだけ早期に飛行場が出来上がったのも、ラバウル基地建設隊がまだいた事に依る。

 そしてそれにタイミングを合わせる形で15時19分に一番乗りをかけたのが、サイパン空の航空機、約400機である。

内訳は空挺部隊の輸送機とグライダー(空中挺進(ていしん)連隊所属機)合計136機と、ラバウル空の航空機の中から紫電改四(紫電三二型改)100機、流星改70機、銀河三三型80機、一式陸攻三四型20機、更に指揮官機小隊として四式戦闘機疾風一型乙と一型丙各1機ずつが到着した。

もう少し詳しくすると、ラバウル西飛行場には陸攻隊と空挺部隊を乗せた空中挺進連隊の合計236機が、東飛行場に戦闘機と流星改部隊合計170機が着陸した。これらに対する補給は、ラバウル基地が行う事が既に取り決められている。

 

・・・で。

 

 

2月9日16時10分 デューク・オブ・ヨーク島沖 重巡鈴谷

 

柑橘類「・・・それで?」

 

提督「はい、このザマでごぜぇます。」

 

 艦長室が臨時の羅針艦橋になっていた。8日午後に敵機動部隊から放たれた艦載機群がラバウルを襲い、その際ロケット弾攻撃を羅針艦橋に直撃されたのである。

この為現在修理中と言う有様であった。他にも艦の各所に少なからず空襲による被害が及んでいた為、鋭意修理を急がせている所であった。

 

柑橘類「まぁ、海の上と空飛んでるのじゃ全然図体も機動力もちげぇけどよ・・・。」

 

提督「なんとか作戦には間に合わせる予定なんで大目に見てちょ・・・。」

 

柑橘類「あー、はいはい。」

 

 流石に諦めざるを得ない柑橘類中佐であった。

余りの事態に防空の専門家である秋月と摩耶を付近に出している程なのだからその激しさは察する事が出来よう。因みにこの日もポートモレスビー方面から2回、ガ島方面から1回の計3回空襲があった。まだ少ない方である。

 

 

~重巡鈴谷の外周にて~

 

秋月「敵の爆撃機を迎撃する際にはですね―――」

 

摩耶「ふむふむ・・・」

 

一方で摩耶は独学である為、専門家である秋月に教えを乞うていたのであった。やれやれ。

 

 

で、その夜の事である。

 

 

ザアアアアアアアアアアアア・・・

 

 

 土砂降りの叩きつけるような雨が一帯を襲っていた。丁度このラバウル周辺海域は貿易風が南北からぶつかるエリアであり、積乱雲が発達しやすい環境にある。

その積乱雲は高度1万mまで数時間で急速に発達する為航空機で飛び越える事は不可能である他、雨が降るという事で航空作戦の実行自体が難しくなる。

 

 

20時49分 重巡鈴谷前檣楼・艦長室

 

提督「うへぇ・・・1時間でも遅れてたら収容にかかる時間を考えりゃゾッとしないな。」

 

艦長室の窓から外を垣間見る直人はそう思わざるを得なかった。余程運が良かったのであろう。

 

鈴谷「ジメジメして嫌だよねぇ~・・・。」

 

提督「それでなくとも熱帯はジメジメする言うねん。はぁ~・・・。」

 

鈴谷「よし、それを吹き飛ばす為にも一発シよう!」

 

提督「それ余計にジメジメするどころかヌメヌメする奴や!」

 

鈴谷「アハハッ、いいツッコミだねぇ~。まぁ、流石に今日は大人しく退散するね。」

 

提督「当たり前だ、作戦前にハードな事してられるか。」

 

鈴谷「だね。んじゃ、おやすみ~。」

 

提督「おやす~。」

 

 自重する心も持ってる女―――それが鈴谷。

冗談は置くとしても二日前に襲い掛かって来たのが笑えないオチだったが、更にさも当然の様にご相伴に与ろうとする金剛は何なのかと思わないでもない直人ではあった。

提督と言う仕事はヘヴンではあるが、一つ間違うとこうなるのは別の意味で大変である。皆も気を付けよう(一体全体(ナニ)をどうするの?)

 

 

一方、甲板に開いた破孔から漏水して来る雨水を必死に汲み出す妖精さん達の姿が随所で見られたそうな・・・。

 

 

~鈴谷下甲板艦尾部・臨時第一駆逐隊士官室(キャビン)

 

睦月「退屈にゃしぃ~~!!」

 

如月「あらあら・・・。」

 

一方睦月は完全に暇を持て余していた。色々と持って来てはいたのだが、それらにも飽きていた様子。

 

文月「でももう、そろそろ寝る時間だよ~?」

 

睦月「そ、それもそうだね・・・。」

 

皐月「明日、他の駆逐隊の子を集めてレクリエーションをやる事にしようよ!」

 

睦月「そうするにゃし! じゃぁ、今日はもう寝るのね。」

 

如月「そうね~。明日皆で、何をするか考えましょ?」

 

睦月「うん。おやすみにゃし!」

 

3人「「おやすみ~。」」

 

 

一方、サイパン島の艦娘寮三号棟では・・・

 

 

~艦娘寮三号棟1F・休憩スペース~

 

 

ザアアアアアアアアア・・・

 

 

卯月「退屈ぴょん~~~!!」

 

三日月「まぁまぁ・・・。」

 

弥生「落ち着いて・・・。」

 

 こっちでは卯月が暇を持て余していた。実は鈴谷出港後の3日後から熱帯性低気圧が停滞し、連日の雨で外で遊ぶ事も出来ず、やる事は警備任務だけの状態が続いていた為、常にハイテンションの卯月が不満を鬱積させるのは時間の問題でさえあった。

更に言えば、普段なら悪戯を軽く仕掛けている相手でもある提督が出撃で不在なのはよくある事だとしても、それを押さえて付き合っている睦月や皐月までもが出撃メンバーに加わっているのだから、残留メンバーで付いて行ける者がいないのは当然の事でもあった。

 

ましてや、睦月型を指揮する七水戦の旗艦が名取とあっては、尚の事である。

 

長月「やれやれ・・・まさかこうまで雨続きとはな・・・。」

 

菊月「日本本土だと今度は寒気だ、ままならないものだな・・・。」

 

 現在司令部に残っている駆逐艦は、非公式に在籍する荒潮を除いて全6隻、艦娘全体でも10隻程度になっている。警備が手薄になる事もそうだがとにかく静かなのである。

尤も、卯月と睦月が鬱積させているものはベクトルが若干違うものでこそあったが、“暇を持て余している”と言う一点に於いて共通していたと言えるだろう。

 

そこで睦月型残留組で小会議となった訳だが、駆逐艦寮にはそもそも睦月型の5人しかいなかったのである。

 

卯月「なんでこんなに雨続きぴょん? てるてる坊主も下げてるのに・・・。」

 

三日月「ちょっと珍しいのは確かね・・・。」

 

菊月「司令がいなくなったら今度は雨か・・・。」

 

長月「・・・もしやとは思うが、司令官は晴れ男だったりするのか?」

 

菊月「―――長月もたまには埒の無い事を言うんだな。」

 

長月「どう思われてるんだ私は・・・。」

 

因みに望月は一足先に寝ている。

 

卯月「こうなったらうーちゃん主催で不在の4人と司令官の裏写真の闇取引を・・・」

 

三日月「闇取引にせず普通に取引しなさい。」

 

卯月「じゃぁそうするぴょん。」

 

長月「そう言う問題か?」

 

菊月「そもそも何処からそんなものを・・・。」

 

卯月「それはもうとある筋だぴょん。」

 

三日月「青葉さんでしょう?」

 

卯月「何故それを知ってるぴょん!?」

 

三日月「それを利用しているのは“あなただけじゃない”のよ卯月?」

 

卯月「・・・。」ゾッ

 

長月・弥生・菊月

「「・・・。」」⇐絶句

 

人には人それぞれ、色んな一面がある。そう言う事であろう。

 

卯月「・・・で、何故にそれを利用してるぴょん?」(焦)

 

三日月「どこかの誰かさんが、しきりに悪戯をしますからね。」

 

卯月「うぐ・・・。」

 

弥生「卯月、イカサマの天才。」

 

弥生がそう論評する様に、実は卯月はイカサマの天才と言う一面を持つ。当人にしてみれば悪戯の延長線上だった訳だが、カードゲームだと多用するので結構始末に負えない存在でもあったりする為基本相手にされたりしないのである。

 

卯月「余計な事は言わなくていいぴょん!」

 

弥生「でも、UNOでもやる・・・。」

 

卯月「うぐぐ・・・。」

 

長月「そんな事だから敬遠されるんだぞ。」

 

菊月「同感だな。ドッジボールの時など、相手の足元にバナナの皮だぞ、危険行為だ。」

 

卯月「そ、それについてはやり過ぎたと思ってるぴょん・・・。」※被害者は夕立

 

三日月「まぁ、明日こそ雨が止む事を祈りましょう?」

 

長月「それが賢明だろうな、ここで話し合っても雨は止まん。」

 

卯月「それしかないぴょん・・・。」

 

結局のところ、卯月の痛いとこを突かれまくっただけに終始しちゃったのである。これもまぁ日頃の行いと言う奴である。

 

 

因みに余談ではあるが、この時潜水艦部隊もトラックへと進出し、新たに旗艦となった大鯨の支援の下、イクの統率でウェーク島方面への通商破壊を行っていたのだった。

 

 

2月10日9時18分 ラバウル基地司令部会議室

 

この日直人は、関係各所の指揮官級を集め、作戦の最終調整に入っていた。

 

提督「参集頂いた事にまずは感謝致します。作戦決行は明日と既に決定しておりますが、その前に、内容確認と最終調整を行います。」

 

佐野「大切な事だね、早速始めよう。」

 

提督「はい。まず明日の夜明け前を期して、ラバウルに展開中の航空部隊の総力を挙げて、ポートモレスビーの敵軍を叩きます。勿論1度きりと言う性質のものではなく継続して実行し、敵地上戦力、特に高射砲陣地を、こちらの地上戦力投入までに極力叩きます。」

 

柑橘類「俺らの領分だな。」

 

提督「それに呼応する形で我が艦隊も出撃し、陽動部隊は東に、本隊は南回りに西へ向かいます。この間ポートモレスビーや豪北方面から敵艦隊が出撃するでしょうが、これを実力で排除します。」

 

金剛「お任せデース!」

 

提督「突入に成功した後は艦砲射撃と艦上機による空襲で以って敵の抵抗力を粉砕し、しかる後に夜間突入と言う形で、輸送機部隊とグライダー部隊を突入させます。そしてその降下に合わせる形で陸戦隊を強襲上陸させ、敵の混乱を助長します。」

 

あきつ丸「承知、であります。」

 

提督「陸戦に当たっては苦戦が予想されますが、出来得る限り迅速に制圧し、その後事をラバウル基地にお任せするという形になります。」

 

佐野「南東方面を全面的に預かる身だからね、引き受けさせて貰うよ。」

 

提督「ありがとうございます。今回の作戦、各所の連携が鍵になりますが、もう一つ、我が艦隊の出航を悟らせ、かつ私の囮部隊が気付かれる時期を出来るだけ遅らせる必要があります。」

 

佐野「君達の艦隊が意図するところを、出来るだけぼかす為だね?」

 

提督「その為にも一度潜水艦による警戒線には引っ掛かっておく必要がある訳ですが、その為に適当だろうというのが、ブーゲンビル北西にある哨戒線である、と言う事でいいのですよね?」

 

佐野「目下ラバウルに一番近い警戒ラインは、恐らくそこだろうからね。」

 

提督「分かりました。ではポートモレスビー方面は基地の佐野海将補と実戦部隊を金剛、サイパン航空部隊は柑橘類中佐に率いて頂きます。」

 

柑橘類「了解。」

 

金剛「OK。」

 

佐野「うん。」

 

提督「囮部隊は私が率い、ソロモン方面へ陽動をかけます。」

 

佐野「策がある、と言っていたね。期待させて貰うが、出来れば、楽に帰って来てくれ。」

 

提督「お任せ下さい、私も佐野海将補と同じく、面倒事は嫌いですから。なるべく、楽に勝ちたいものです。」

 

佐野「そうだね。」

 

提督「今回の作戦内容について、各隊ともに異存無しと言う事で宜しいですか?」

 

それに対して、反論の声は上がらなかった。

 

提督「今回の戦い、成算は充分あります。あとは敵が、如何に邪推してくれるかでしょう。各部隊の奮戦を期待させて頂きます。」

 

直人はそう締めくくって、最終調整は終了した。

 

 

2月11日午前4時53分 ポートモレスビー棲地

 

 

ウ~~~~~~・・・

 

 

港湾棲姫「何事ダ!」

 

「敵デス! 港湾棲姫様!」

 

港湾棲姫「空襲・・・何故来ルノダ・・・?」

 

情勢の変化と言うものに、この港湾棲姫「ポートモレスビー」は鈍いらしかった。

 

港湾棲姫「来ルナ・・・来ルンジャナイ・・・!」

 

そしてその知らせを、憎らし気に噛み締めるポートモレスビーの姿がそこにはあった。

 

 

柑橘類「敵の反応は鈍い、今の内に敵陣に一撃を加えるぞ!」

 

菅野【オウ、任せて貰おうか!】

 

 菅野 直(デストロイヤー かんの)を含む紫電改四50機は、柑橘類中佐の陣頭指揮の下、ポートモレスビー棲地に250㎏爆弾2発を抱いて突入していた。敵に夜間迎撃機の姿が確認出来ない事も察知しての事であった。

紫電改四では航続距離的にもギリギリであるが、増槽装備の上で戦闘をしないなら関係無いし、帰りは軽くなるので辻褄は合わせられる訳である。

 共に突入した一式陸攻・銀河の陸攻隊と併せ、第1回の攻撃は完全な成功に終わり、高射砲陣地10、トーチカ7、航空機多数の地上撃破を報告した他、基地施設と思しき構造物に甚大な被害を与えたものと推測されたが、如何せん暗かった為正確な報告ではないと但し書きは付けられた。

 紫電改四の搭乗員の中には、持ってきた増槽を投下せずに爆弾を投下した後、弾薬庫を目ざとく発見し、増槽を叩きつけて戻って来た剛の者も存在した。しかも報告によれば、その増槽が弾薬を直撃して大爆発を起こしたというから面白い。

 

 

9時50分 ラバウル第1艦隊埠頭

 

提督「この補給が終われば、我が艦隊もいよいよ出撃だな。」

 

「げ、元帥閣下!」

 

提督「?」

 

呼び慣れない感じに思わず振り向くと、そこにはラバウル第1艦隊司令である広瀬 響中佐がいた。

 

提督「広瀬中佐か、律義に見送りに来てくれたのかい?」

 

広瀬「え、えぇ、まぁ・・・。」

 

提督「あと、その閣下は止してくれ。自分でも笑えて来てしまう位に違和感がある。“元帥”でいいよ。」

 

広瀬「わ、分かりました。」

 

提督「まぁなんにせよ、ありがとうな。」

 

広瀬「元帥は・・・凄いお人だと、聞きました。きっと、多くの戦いを、け、経験していらっしゃるのでしょう?」

 

提督「・・・そうだな。多くの戦いに身を投じてきた。戦禍(せんか)に巻き込まれた事もある。多くの勝利を得、多くの仲間達とのかけがえのない思い出を得て・・・多くを失ってきた。」

 

広瀬「・・・元帥、どうか―――ご無事で。今度の任務は、もの凄く危険な任務だという事は、僕にも分かります。ですから、どうかご無事で・・・。」

 

提督「・・・あぁ、安心しろ。必ず戻って来るからな。」

 

彼は幼い中佐殿に、そう約束したのである・・・。

 

 

11時22分、艦娘艦隊と重巡鈴谷は、二手に分かれラバウル基地を出撃する。万全の上にも万全を期した、横鎮近衛艦隊の作戦『MO作戦』が開始されたのである。

 

 

が、その2時間後、横鎮近衛艦隊が偶然傍受したのは、とんでもない緊急電報であった。

 

13時29分 重巡鈴谷前檣楼・羅針艦橋

 

提督「何!? トラック泊地が襲われている!?」

 

「“こちら、トラック泊地司令部。現在トラック環礁が大規模な空襲に晒されている、救援を乞う、救援を乞う。こちら、トラック泊地司令部。現在―――”」

 

提督「―――いかん、トラックが今敵手に落ちたとしたら・・・!」

 

 悪寒に近いものを、彼は感じ取った。トラックの陥落は、ラバウルの孤立とサイパンの窮地と、二つの危険を孕んでいたからだ。

更に直人にとってはもう一つ、折悪くトラック泊地には、横鎮近衛艦隊所属の潜水母艦である大鯨がいるのである。そこへ大規模な敵の襲撃があったと言う。直人は酷くその安否を案じ、作戦の中止を検討した。

 

 

しかしそれを追う形で大本営から緊急通知電が送られてきた。

 

提督「―――トラック泊地は心配せず、自己の作戦を続行すべし、か。山本海幕長直々に送って来たのだ、嘘ではあるまい。やれやれ・・・。」

 

この様な電文を送ったのは、山本海幕長が彼の性格を察しての事であった。この様な事態になれば、直人は作戦を中止しかねない、となれば大本営としては制止しなければならない。それ程までに今回の作戦は、今後の戦局全体にとって重要なのだった。

 

提督「参ったな、お見通しとは・・・。」

 

そして直人はやはり、頭を掻いて苦笑するのであった。

 

 

 横鎮近衛艦隊(重巡鈴谷)出港の報せは、その日の午後には既に察知されていた。と言うのは、ラバウルに空襲があったからである。

その際写真偵察を行った機が齎した写真により、ラバウル基地内にあの良く目立つ水上艦の姿が認められなかったからであった。

 

 

そして、鈴谷が敵の哨戒線に引っ掛かったのは夕刻になってからであった。

 

17時04分 ブーゲンビル島北方沖

 

聴音員妖精「“敵潜水艦の推進音を聴知!”」

 

提督「占めたぞ、この早期で見つかるのは都合がいい。」

 

阿武隈「や、やっぱりちょっと怖いなぁ・・・。」

 

提督「今は外洋コースに向かってる所だから、空襲の心配はないと思うがね、広い海でこの船1隻探し求めるのは無理があるからな。」

 

阿武隈「そっかぁ・・・そうだよね。」

 

提督「・・・どーした阿武隈、待ち望んだ実戦だぞ?」

 

そう、実は阿武隈の初陣である。(警備行動中の遭遇戦闘を除く)

 

阿武隈「なんでそれがこんな地味で危険な任務なのー!?」><

 

提督「地味で危険で(めんどうくさくて)も重要な任務だ、文句を言わない。」

 

阿武隈「う~・・・。」

 

反論が出来ない阿武隈であった。

 

 

そしてこの知らせで上へ下への騒ぎになったのは深海側であった。

 

 

~ガタルカナル棲地~

 

飛行場姫「何!? あの巡洋艦が東へ向かっている!?」

 

へ級Flag「ハイ、潜水艦ノ哨戒線ニ引ッ掛カッタヨウデス。」

 

飛行場姫「一体どこへ・・・何処へ向かうつもりなの・・・。」

 

ヘ級Flag「敵ハ航空部隊ノ行動範囲ヨリモ外側ニイマスノデ、空襲ハ無理デス・・・。」

 

飛行場姫「様子を見るしかないか・・・。」

 

歯噛みをするしかないロフトン・ヘンダーソンであった。

 

 

~タウンスビル棲地~

 

駆逐棲姫「何? ブーゲンビルの北に、例の巡洋艦がいるのか?」

 

ネ級elite「その様です。」

 

駆逐棲姫「飛行場姫様が青くなっておられるだろうな・・・いや、赤くかな?」

 

ネ級elite「それは兎も角としましても、これを機に敵軍が何らかの動きを見せつつあることはどうやら確かなようです。」

 

駆逐棲姫「そうね、ポートモレスビーが昨日から猛爆されている。何かの前兆と捉えた方が良さそうね。セーラム、各艦隊に出動の準備をさせて置いて。」

 

ネ級elite「了解しました。」

 

タウンスビル棲地では在泊艦隊が臨戦態勢へ入ろうとしていた。しかし哨戒で分散していた為に時間を要する事になる。

 

 

~ツラギ泊地~

 

南方棲姫「ほう、例の船が、こちらに向かってくるというのか?」

 

リ級Flag「マダ決マッタ訳デハアリマセンガ・・・。」

 

南方棲姫「なんにせよ、可能性があるなら、備えるにしくはないからな。ノーザンプトン、直ちに出撃準備をしておけ。」

 

リ級Flag「ハッ!」

 

ツラギ泊地はこの仮説が正しいなら彼らの攻勢正面であるだけにこの処置は適切であった。が、その仮説が誤りである事は読者諸氏には御理解頂けているだろう。

 

 

 2月13日早朝、横鎮近衛艦隊主力はポートモレスビーへ徐々に接近していた。

パプアニューギニア南岸、マガリダ沖で、深海棲艦隊と艦娘艦隊が最初の接触をする事になる。この前日に既に発見されていた艦娘艦隊は、その迎撃に出たポートモレスビー棲地の戦艦部隊と接敵した形になる。

 

 

6時19分 ニューギニア南岸・マガリダ沖

 

金剛「ファイア!」

 

大和「撃ち方始め!」

 

轟雷を束ねたような砲声と共に、例の如く最大砲戦射程3万を誇る金剛と大和が口火を切る。低速戦艦部隊は基本として空母と船団を守る形で布陣している一方、高速艦艇は突撃を開始している。そして頭上を、慌ただしく発艦した艦載機部隊が飛ぶ。

 

響「―――ポートモレスビー爆撃が開始されたみたいだね。」

 

そう言って響が指差した先を暁が見る。

 

暁「ホントね、煙が・・・。」

 

響が指さした方向には黒煙が立ち上り始めており、その本数は増加傾向にあった。

 

雷「あそこが目的地なのね。」

 

暁「頑張って辿り着かないと!」

 

雷「そうね!」

 

 この時ポートモレスビーの敵航空部隊は、連日の空襲に加え横鎮近衛艦隊に対し2度の航空攻撃を失敗した事で大幅に弱体化、制空権は艦娘艦隊側の手に落ちつつあった。

が、艦隊戦の上空で航空戦が勃発、艦隊航空隊同士の熾烈な制空権争いが始まっていた。

 

瑞鶴「行きなさい虎徹(こてつ)、あんたの力を見せるのよ!」

 

 先頭を切って突っ込んだのは新たに零戦二二型を受領した瑞鶴航空隊である。その中に小隊長となった岩本機があった。(零戦二二型(付岩本小隊))

岩本小隊を含む母艦航空隊は、横鎮近衛艦隊ではスタンダードな構成たる2機1小隊であるが、この時岩本小隊は別小隊と共に4機編隊のコンビネーション戦法を試していた。

 この方法は2機小隊の時に取れる戦法と比べて複数機の敵を追う事が出来る他に、不意の急襲にも対応可能となっている。一対多数の戦闘により強くなっていると言えるだろう。多勢に無勢はまた別の話である。

 岩本機はピンクの桜マークが描き込まれているから割と判別しやすい。ただ、機体を更新した事を差し引いても少し数が多くなったようだ。

 

その岩本小隊の奮戦も含め、制空権争いは拮抗していた。

 

加賀「どうにも数が多い様ね・・・。」

 

赤城「空母の数もそろそろ増やし時と言う事なのかしら・・・。」

 

飛龍「出来たら苦労しないと思うけどねぇ・・・。」

 

蒼龍「この作戦終わったら増えてたりして!」

 

加賀「戦闘中よ。」

 

蒼龍「はい・・・。」

 

雲龍(新空母・・・私の妹達も、いずれ来るのかしら・・・。)

 

秋月「敵機接近、やらせはしません!」

 

 秋月の長10cm砲が、すり抜けてきた敵爆撃機を叩き落とす。長10cm砲こと九八式十(センチ)高角砲の特徴として、その高い発射速度が挙げられる。

揚弾筒(ようだんとう)の能力の限界まで連続射撃した場合毎分15発の連射が可能であり、また八九式12.7cm連装高角砲と比べて射程・射高共に1.3倍以上で、かなり高性能な一品となっている。

 

更に秋月の特性として、爆撃機の迎撃に秀でている事もあって、秋月の防空能力は圧巻の一語に尽きた。

 

瑞鶴「流石秋月ね、やるじゃない!」

 

秋月「ありがとうございます。」

 

 秋月の本来想定した戦闘である艦隊防空戦闘であるから、活躍するのはまず当然としても、非凡な才覚を持つだけにその活躍ぶりは一層際立っていたとも言えるだろう。その証拠として、この時敵の航空攻撃は一度として艦隊に投弾出来なかったのである。

 

 

 久しくやっていなかった戦艦同士の撃ち合いと言う形は取っていたが、その実は一方的な戦闘(ただのいじめ)に終始した。

当然の事だが、戦艦では空母に勝つ事は出来ないのである。空海両面から叩きのめされた敵艦隊に勝ち目などある筈もなく、敵主力は壊滅的打撃を受け遁走した。

 

 

一方で、鈴谷はと言うと・・・

 

 

7時00分 ツラギ島北方海域・重巡鈴谷

 

提督「艦隊出撃、プランA発動!」

 

多摩「“多摩、行くにゃ!”」

 

睦月「“臨時第一駆逐隊、行くにゃし!”」

 

提督「カタパルト1番、瑞雲、射出せよ!」

 

艦隊が出撃し、ガタルカナル偵察のため瑞雲が放たれる。

 

提督「しかし全く見つからんとは運のいい話だな。見つかるものだと思っていたが航空哨戒すらないとは。」

 

副長「“―――。(本当にそうですな。)”」

 

実の所これには理由があった。ガタルカナル棲地の哨戒機はこの所、ブーゲンビル方面の海上に哨戒機を嫌と言うほど飛ばしていたからである。言い換えれば、哨戒活動がザルだっただけである。

 

提督「しかしここからは南下が続くから、見つかるリスクが高まるだろうね。」

 

そう、現在針路は180度、ガ島から見ても真北にいる為、哨戒機や哨戒艦に見つかる危険性は高くなっていく訳だ。

 

提督「艦隊、展開次第予定の陣形に。」

 

多摩「“了解にゃ。”」

 

展開した6隻の艦娘は、鈴谷を挟むように3隻づつの単横陣を組んだ。左翼は阿武隈・睦月・如月、右翼は多摩・皐月・文月が配されている。そしてこの6人はそれぞれ見慣れない物体をワイヤーに繋いで牽引していたが、これが彼の言っていた“策”の正体であった。

 

提督「―――。」

 

副長「――!(これは・・・!)」

 

提督「これが、私の用意した策だ、副長。」

 

重巡鈴谷のレーダーパネルには、200を超える光点が瞬いていた―――!

 

これが、彼の言った策、“霊力偽装ブイ”である。

 

 

10か月前(第2部9章)、2053年3月2日、大迫一佐と食事を共にした時彼はこう言った。

 

「霊力偽装ブイを80個、曳航用フックを4組―――」と。彼は送られてきたブイを基にして追加生産し、その個数を倍以上にした訳である。

 

 

実際には横鎮近衛艦隊の艦娘の隻数は200隻には到底満たない数でしかない。しかし敵がその事を知る術などないのだ。要するに彼の狙いは、主力がそこにいる“と見せかける”事、つまりただのプラフに敵を引っ掛ける事にあったのである。

 

提督「上手く行くといいがね。」

 

副長「―――。(上手く行く事を祈ってますよ。)」

 

 この霊力偽装ブイは艦娘がいないと稼働出来ない。と言うのは、このブイは艦娘の艤装を解体した部品を再構成して作られている為であり、霊力を流さないと効果を発揮出来ない為であった。

艦娘達が曳航しているブイの数は35×6で210個、これは睦月型で曳航/作動出来るギリギリのラインであるが、これがまた巧妙に作られたデコイなのである―――。

 

 

所変わってガタルカナル棲地では、苦悩するロフトン・ヘンダーソンの姿があった。

 

飛行場姫「どちらだ・・・どちらに来る・・・!」

 

 ポートモレスビーに敵が現れた事は知っている、猛爆されている事も知っていた。しかし潜水艦の通報によれば、横鎮近衛艦隊母艦である鈴谷は東へ向かっていると告げている。

西ではなく東なのだ。もし仮に判断を誤れば、ポートモレスビーは敵の手に帰するかもしれない。となれば、悩むのは当然の事だった。

 

飛行場姫「敵の巡洋艦はまだ発見出来ないのか!?」

 

「マダノヨウデス、飛行場姫様・・・。」

 

飛行場姫「くそっ・・・!」

 

じりじりと身を焼かれるような思いに囚われるロフトン・ヘンダーソン。決断が遅くなればなるほど、事態は悪化する一方であった。

 

 

9時40分 ルンガ岬北方165km海上

 

後部電探室「“対空電探感あり、12時の方向に敵機、機数僅か!”」

 

提督「敵の哨戒機だな、どうやら発見されたようだ。」

 

副長「―――?(大丈夫なのでしょうか・・・。)」

 

提督「それらしくアピールして、退くぞ。」

 

副長「―、―――。(了解、戦闘機隊全機射出!)」

 

そう、この時鈴谷は航空巡洋艦となっていた。その甲板上には10機の二式水戦改が並べられていたのである。連続射出によって水戦隊を放つ鈴谷。

一方ガタルカナル棲地偵察成功の報告が、先に発進させた瑞雲からは既に届いていた。敵主力は棲地内にあって動く様子が無いと言う。

 

提督「あとは、敵が乗ってくれば成功だな。」

 

 

9時43分 ガタルカナル棲地

 

飛行場姫「敵艦隊がこの棲地の北方にいるだと!?」

 

へ級Flag「ハイ、巡洋艦ヲ含ム敵ハコノ北方160km付近マデ迫ッテイマス!」

 

飛行場姫「やはり例の巡洋艦はこちらに来るつもりだ、ポートモレスビーへの攻撃は陽動であったに違いない。直ちに航空隊と艦隊を出して迎撃させろ!」

 

へ級Flag「ハッ!」

 

「報告! 敵ニ接触シタ哨戒機ガ撃墜サレマシタ!」

 

飛行場姫「これで決定的になったな、私を討ち取らんとしたのだろうがそうはいかんぞ!」

 

飛行場姫は、直人の策を看破したと考えた。

 

 

9時44分 重巡鈴谷

 

副長「―――、―――――。(偵察機より入電、敵が動き始めたそうです。)」

 

提督「よし、戦闘機隊を収容次第直ちに撤収する。急げ!」

 

副長「!(ハッ!)」

 

提督「全艦対空戦闘用意! 対空、対水上見張りを厳とせよ!」

 

 直人は会心の笑みを浮かべてはつらつと命令を下す。何故敵が艦隊がいると言う報告を受けたのかには理由があり、それは霊力偽装ブイが光学的な走査(カメラなど)を受けた場合、艦娘がいる様に見せる効果がある為である。

これは深海棲艦が航空機を介して情報を得た場合も同様であり、その現場に行くと何もない訳で、つまり的に幽霊を見せると言う事なのだ。因みにこの手品を最初に見破ったのは明石である。つくづく優秀である。

 

しかし本番はここからであった。

 

提督「全艦予定通りラバウルへの離脱ルートに乗せろ! 皐月と文月はブイを切り離せ!」

 

皐月「“了解!”」

 

文月「“は~い!”」

 

この時既に、深海棲艦機はガタルカナル棲地を飛び立とうとしていた。このままもたもたしていてはやられると判断した直人は、すぐさま全速力でラバウルへ帰投する事にしたのである。

 

 

睦月「お、重いにゃしぃ・・・。」

 

如月「そ、そうね・・・。」

 

全速力で引っ張るには流石に重く感じられるらしい35個連繋ブイなのであった。旧式艦だから、と言うのはこの際置いておこう。

 

多摩「普段お休みしてる分、ここでしっかり働くにゃ!」

 

阿武隈「なんでこんな地味な任務なのぉ~!!」

 

神も仏もあったもんではない、そうつくづく思う阿武隈なのであったとさ。

 

皐月「その分、しっかり僕達が守らないとね。」

 

文月「頑張るよ~!」

 

気合も入ろうもんだし文月も気合が入っているのだが、声のトーンのせいでいまいち乗り切らない一同なのであった。

 

 

 その40分後、ブイを切り離した海面に敵機が来襲、ブイを徹底的に攻撃して満足げに帰投した。実はこのブイ、一定時間は起動しっぱなしで放置出来る物である為、その虚像にまんまと騙された形になる。

 この様なハッタリを続けながら鈴谷と6人の艦娘達は西へ西へと逃れる事になる。

 

 

15時01分、横鎮近衛艦隊艦娘部隊は、ポートモレスビー沖にその威容を並べる事になった。敵艦隊は完全に封じ込められ、挟撃の心配すら、直人の陽動戦術によって排除されていた。

 

金剛「到着、デスネー。」

 

瑞鶴「うん・・・あの日は、ここまで届かなかったもんね。」

 

祥鳳「そうですね・・・それを思うと、少し感慨深いですね。」

 

青葉「あの日は、途中で引き返しちゃいましたもんね。」

 

衣笠「そうね、でも、今回は違う。もう目の前よ。」

 

古鷹「100年以上になるんですね、あの作戦から・・・。」

 

加古「なんていうか、早いねぇ~。」

 

 しれっと青葉がいる理由については、作戦への同行を本人が希望した事に依る。MO作戦と言う事で、本人も思う所があったのだろう。

 まぁ本人に言わせると―――

 

青葉「空挺降下作戦なんて一大スペクタクル、撮らない訳にはいきませんよ!!」

 

と言う趣旨の事を直人にも話している。

 

大和「1942年5月ですか・・・確かに、100年は経ちましたね。」

 

長門「だが、その歳月が、私達を・・・あの作戦に参加した者達を、ここまで導いたと思えば、それは一つの運命かも知れんな。」

 

陸奥「新たな仲間達と共にね。」

 

 

オイゲン「暑い・・・。」

 

レーベ「そうだね・・・。」

 

ドイツ生まれのこの二人は、特に行動範囲が北海やドーバー、北大西洋に限定されていた事から暑さに耐性が無かったりした。寒い所なら何とでもなったのだろうが。

 

響「タオル、使うかい?」

 

雷「冷えピタもあるわよ!」

 

オイゲン「ダンケ・・・。」

 

レーベ「助かるよ・・・。」

 

こういう時、日本語を勉強してきて良かったと心底思った二人なのである。まぁ、一応2人とも半袖ではあったのだが。

 

 

金剛「対地艦砲射撃、用意ネー!」

 

号令一下、艦娘達の砲門が、一斉にポートモレスビーを指向する。

 

 

港湾棲姫「来ルナト・・・イッテイルノニ・・・。」

 

相対するは港湾棲姫とその取り巻き。決戦の火蓋が、今落とされる―――

 

 

金剛「ファイア!」

 

大和「撃て!」

 

瑞鶴「全機、突撃!」

 

 

 その瞬間、想像を絶する轟音が、ポートモレスビー沖にこだました。数百門宛の艦砲が、ほぼ同時に火を噴いたのである。

更にほぼ時を置かずポートモレスビーに配備されている沿岸砲台がこれまた一挙に火を噴いた。届かない訳ではなくむしろ両者共に射程圏内だったと言う事である。

 その音は、空中を進撃する母艦航空隊からも聞こえたほどだったと言う・・・。

 

 

赤松「今回は高射砲と陣地潰しねぇ・・・出番あるんかねそいつぁ。」

 

一方機上で不満たらたらの松っちゃん。それもその筈、敵艦隊も敵航空部隊も壊滅的打撃を受けていて、念の為と言う理由で出撃して来たのであったのだから。

 

「“前方、敵機!”」

 

赤松「本当か!?」

 

だが心配せずとも出番はあった。敵の稼働全機が、最後の抵抗をする為飛び立ってきたからである。しかも相手は航空機型のP-38ときている。最後まで温存され抜いた、ポートモレスビーのとっておきがここで飛び立ってきた訳である。

 

赤松「こりゃぁ大物だ、気合い入れていけ!」

 

無線で僚機にそう言い渡すと、赤松貞明率いる加賀戦闘機隊が、高所優位を占める為に上昇を始めた―――。

 

 

15時30分 ラバウル西飛行場

 

この時ラバウルは時ならぬ喧騒の中にあった。飛行場に並んだ輸送機が、一斉にエンジンをスタートさせ、辺りはその暖機運転の爆音が響き渡っていた。次々に滑走路に整列して行く輸送機に、妖精達が乗り込んでいく。その中に数人の艦娘の姿もあった。

 

天龍「いよいよ本番だな。しかしこんな形で実戦参加の機会が巡って来るとは思わなかったぜ。」

 

龍田「あら、空の神兵ならぬ“空の艦娘”、いいじゃない♪」

 

言葉の響きが気に入っているらしい。

 

電「だ、大丈夫でしょうか・・・。」

 

一方心配性の電。

 

深雪「大丈夫だって、深雪様が付いてるんだからよ!」

 

時雨「まぁ、夜間降下の本番だからね、不安になるのもしょうがないさ。」

 

叢雲「シャキッとなさいな、特型の名が泣くわよ?」

 

電「は、はい、なのです。」

 

出来るだけしゃんとするよう心がけよう。そう心に決める電なのであった。

 

 

~同刻・ポートモレスビー沖~

 

白雪「そろそろ、輸送機が発進する頃ですね。」

 

初雪「ん、そだね~。」

 

白雪「無事に成功するでしょうか・・・。」

 

初雪「まぁ、あの二人がそう簡単に・・・とは思えないけどね。」

 

白雪「叢雲さんは兎も角、深雪さんが心配です。」

 

初雪「深雪かぁ・・・まぁどっか楽天なとこあるし。それより早く終わらせて帰りたい・・・。」

 

白雪「はぁ~・・・。」

 

 

この時第六駆逐隊は、第十一駆逐隊と入れ替わりに艦砲射撃に参加している。

 

暁「沿岸砲台が多いわね・・・。」

 

雷「大丈夫よ、中々当たるもんじゃないわ!」※それ艦載砲の話や。

 

響「―――!」

 

暁(敵弾―――! でもこれなら躱せる!)

 

響(やらせはしない―――!)

 

 

ドゴオオォォォーーー・・・ン

 

 

暁「えっ―――!?」

 

雷「何―――!?」

 

響「―――っ!」

 

暁の眼前で崩れ落ちる響。

 

暁「ひび・・・き・・・?」

 

雷「な、なんで・・・。いや、兎に角後送しないと! 暁、頼める?」

 

暁「わ、分かったわ。言いたい事は山ほどあるけど、今はそれどころじゃないわね。」

 

 

15時35分、予定通り輸送機隊は離陸を開始した。先遣隊は司令部小隊(2個分隊編成)に加えて、挺進中隊2個と挺進工兵小隊からなる総計約380名で構成されていた。

 

 

一方、本当に彼らの動きを看破した者が深海側にいた―――。

 

 

15時22分 タウンズビル棲地東110km・コーラルシー諸島南側

 

駆逐棲姫「何、航空攻撃が全て空振り?」

 

ネ級elite「そう言う訳でもない様なのですが、航空攻撃を行った航空部隊が口を揃えて、“巡洋艦はいなかった”と言うそうなのです。」

 

駆逐棲姫「逃げられたのかな・・・。」

 

ネ級elite「そう考えても差し支えないと思われますが・・・。」

 

正確に言えば、逃げられた、のではなく「逃げてる真っ最中」なのだが。

 

駆逐棲姫(もし仮に例の巡洋艦・・・噂では「鈴谷」とか言うらしいあの巡洋艦の行動がガタルカナル攻撃を意図したものならば、逃げる理由にはならない筈。そもそもポートモレスビーにはラバウルの艦娘艦隊が来ていると上は分析しているし、ガタルカナル沖には大艦隊が―――ん!?)

 

ここでギアリングが気付く。

 

駆逐棲姫「セーラム、航空隊の戦果は確実なものなの?」

 

ネ級elite「いえ、大半は不確実との事です。」

 

駆逐棲姫「―――しまった、私達は罠に嵌められたわ! ガタルカナルはプラフよ!!」

 

ネ級elite「では―――!」

 

駆逐棲姫「ポートモレスビーに艦隊を出し、母艦と恐らくは僅かな艦娘だけを引き連れて、例の巡洋艦の指揮官はガタルカナルへと出てきたに違いないわ! それこそが囮だともっと早くに気付いていれば―――!」

 

ネ級elite「ギアリング様、直ちに向かいませんと!」

 

駆逐棲姫「そうね、全艦針路を北へ! なんとしても防ぐわよ!」

 

ギアリングは直ちに艦隊進路変更を伝達し、ポートモレスビーへと向かう事にしたのであった。しかし距離的にはむしろ遠ざかっていた事から、タイミング一つにしてもギリギリである上、1100km以上先の海域に到達する事が出来るかどうかという問題点もあった。

 

 

16時30分には、グライダー部隊がラバウル東飛行場を発進した。その頃の事である。

 

~ポートモレスビー沖~

 

瑞鶴「敵艦隊、動いたわよ!」

 

攻撃隊を指揮しながら敵港湾の様子を探っていた瑞鶴は、無事その目論見を達した。敵艦隊が余りにも激しい対地砲撃を前に、堪え切れずに出撃して来たのである。

 

金剛「一水打群集結デース! 迎え撃ちますヨー!」

 

鈴谷「“八戦隊了解!”」

 

矢矧「“二水戦了解!”」

 

オイゲン「“ドイツ戦隊了解!”」

 

北上「“十一戦隊了解~。”」

 

摩耶「“十四戦隊了解、少し時間をくれ。”」

 

 各戦隊旗艦が応答し、一斉に動き始める。

この時一水打群各艦は対地砲撃を第一艦隊と交代し、展開中の艦隊外縁部に分散して敵襲警戒に当たっていたのだが、金剛の命令を聞くなり直ちに艦隊前面に向けて集結行動に転じた。流石の練度と言うべきか、その動作とコース取りには無駄がない。

 

 

出撃してきた敵艦隊―――とは言うもののその実は主力を失った敗残の寄せ集めとも言うべきものであり、少数の戦艦と重巡、それに空母がいる程度である。

 

金剛「OK、集まったネー?」

 

オイゲン「皆さん準備は出来てます!」

 

金剛「Very pretty(大変結構)! デハ、行きますヨー!」

 

鈴谷「よぉっし! ここで一気に決めちゃおう!」

 

矢矧「二水戦、突撃します!」

 

オイゲン「援護します! abSchießen(アプシーセン)(撃て)!」

 

レーベ「feuer(フォイヤー)(斉射)!」

 

金剛「主力各隊、私に続いて下さいネー! open firering(オープンファイアリング)(射撃開始)!」

 

摩耶「撃てーっ(テーッ)!」

 

 常に艦隊の先陣を担い続ける精鋭艦隊、第一水上打撃群。この日も敵艦隊に対する切り込みをその一手に担い、勇躍正面からの中央突破を図る。特段に速力を重視して編成された金剛の手持ち戦力は、鍛え抜かれた精鋭揃いである。

しかも今回は西欧の友人たるドイツから派遣された精鋭の艦娘まで参戦と来ている。負ける要素は、およそ見当たらなかったと言っていい。その戦いは短い時間ながらも激しく戦われたが、正に文字通り快刀乱麻の大立ち回りを敵の眼前でやって見せたのであった。

 

 

港湾棲姫「クッ・・・!」

 

苦戦を強いられるポートモレスビー、麾下(きか)戦力は次々と消耗し、組織的戦闘を行えなくなった部隊が増えていく。勿論補充と後送、予備部隊の投入は出来るが、それですら対処出来るかどうか怪しい所があった。100隻を越す艦娘による艦砲射撃は、猛烈を極めていたのである。

 

港湾棲姫「マダダ・・・増援サエ来レバ・・・!」

 

しかし実際には向かっているのは駆逐棲姫の艦隊だけで、他の艦隊は愚直にもソロモン方面から鈴谷の追撃に向かっていたのであった・・・。

 

 

そしてそんなタイミングで来ると言えば碌なもんではないのは常である。

 

 

16時49分・・・

 

 

Victor(ヴィクター)*1へ、こちらGLORI(グローリー)-1、目標上空へ到達、これより攻撃する”

 

“Victor了解、予定通り攻撃せよ”

 

“GLORI-1、諒解(ラジャー)

 

オーエンスタンレー山脈を飛び越しラバウル基地から飛来したのは、2機のF-3戦闘機であった。内蔵ウェポンベイには計8発の空対艦ミサイルが収められている。この2機は横鎮近衛艦隊からの要請に基づき支援を行っているその一環である。

 

「GLORI-1よりGLORI-2へ、予定通り攻撃せよ。目標、敵対空砲陣地。」

「GLORI-2、諒解」

 

1番機は右へ、2番機は左へ分かれ、強襲の構えを取る。アフターバーナーを用意し、F-3戦闘機が持つ自慢の射撃管制装置(FCS)を起動し、ウェポンベイを開放する。

 

「GLORI-1、FOX-1!」

 

 1番機が8発の空対艦ミサイルを放つ。2番機もそれに続く。その数瞬後、放たれた16発のミサイルは、各個別々の目標に向かって飛翔する。F-3戦闘機のFCSは、最大8目標まで同時攻撃を行う事が出来る能力を持ち、放たれたミサイルはその全てが、敵対空砲陣地を正確に爆砕した。

 その時には既に残った対空砲陣地が気付いて火を噴き始めたが、そこは流石日本の最新鋭戦闘機、アフターバーナーで急速にマッハ2.7へと到達し、対空砲火をものともせず洋上へと抜けたのである。

 

“GLORY-1、RTB。”

 

“GLORY-2、トレース。”

 

“GLORI-1よりVictor、攻撃終了、RTB”

 

“Victor、諒解。”

 

 南海に航空自衛軍の凱歌が響く。攻撃を終えたF-3戦闘機 心神は、針路を北北東に向けて高度を上げ、帰投して行った。

確かにミサイル攻撃は深海棲艦に対してはそれほど効果がある訳ではない。しかしこうした地上攻撃では、依然として効果を発揮すると言う事である。そして深海棲艦では、第5世代のジェット機を捕捉する事は不可能なのである。

 

 

提督「いやぁ・・・静かだねぇ。ひょっとすると撒いたか?」

 

皐月「“ど、どうだろうね・・・。”」

 

一方でソロモン諸島の北側では、鈴谷が6隻の艦娘を護衛に引き連れて、西に向けて突っ走っていた。ここまでに受けた攻撃も無く、間もなく夕暮れ時と言う頃である。

 

前檣楼見張員

「“左前方に敵影!”」

 

提督「・・・。」

 

皐月「“・・・。”」

 

提督「・・・なんか、すまんかった。」

 

睦月「“所謂フラグと言う奴にゃし。”」

 

提督「せやな。砲撃用意、先制の一撃で決めるぞな。」

 

阿武隈「“了解!”」

 

 一応この囮部隊の旗艦を務めている阿武隈が応え、6隻の艦娘達が突撃態勢を取る。普段は司令部防備艦隊にいるとは言っても、平時は実戦部隊を相手に訓練を重ねてきた艦娘達である。実力にはそれなりの自負もあったと言う事だろう。

 

提督「1番から3番砲塔、射撃用意。こちらは太陽に向かっているからそこが不安要素だがな・・・。」

 

これは少し言えば分かる話、太陽に向かうと言う事は、反射光が進行方向に反射してしまうと言う事である。

 

 

 鈴谷が遭遇したのは、ブイン泊地から出た深海棲艦隊の哨戒艦隊、約40隻である。普段哨戒艦隊でも100隻単位なのだが、横鎮近衛艦隊がラバウルを占領した際に散々反撃を行った挙句、逆侵攻によって大打撃を受けた為にこのような惨めな状態になっていた。

元々は3000隻以上からなる艦隊だったのだが、その数は大幅に減って910隻にまで減少していた。これでも再編した後の数なのであるが。ここまで聞いた人は「南東(ソロモン)方面にはどんだけの深海棲艦がいるんだ!?」と思われたかもしれないが、それもその筈。

 深海棲艦隊南西太平洋方面艦隊、その総数なんと49万4000隻(概算&人類側の試算+ラバウル占領前の数値)とも言われている。

※括弧の中に書いてある内容でお察しだが、本当はもっと多い。

 

 

提督「主砲、撃ち方始め!」

 

20.3cm(8インチ)連装砲が、敵艦隊に向け火を噴く。鈴谷の砲撃は第一射、第二射は外すが、第三射が敵を夾叉、第四射で遂に命中弾を送り込む。

 

提督「砲術班! 弾着修正甘いよ何してんの!」

 

射撃指揮所「“返す言葉も御座いません!”」

 

提督「阿武隈! 訓練の成果を今見せてみろ!」

 

阿武隈「“了解! わ、私だって、やる時はやるんだから!!”」

 

提督(聞こえてるんだよなぁ・・・言わぬが仏か。)

 

 

まぁ、ほんの深海棲艦40隻程度で6隻の艦娘をそもそも止められる訳がないのだった。また、第一射を送り込んだと同時に混乱に陥った為、幸い無線は打たれなかった。こういう所でもラッキーだったと言える。

 

 

提督「思ったより少なかったな。」

 

安堵の息をつきながら直人は言った。実は鈴谷自体はコースすら変えていないのだから、スケジュールには寸分の狂いもない。

 

阿武隈「“まぁあれくらいなら、楽勝です!”」

 

提督「おう、お疲れ様。」

 

地味な任務だと思っていたら、初実戦で幸運にも手頃な戦闘が起こってくれたのだった。やったな、阿武隈。

 

 

20時10分 ポートモレスビー

 

 ポートモレスビーの町は最早見る影さえなくなっていたが、その市街地跡は今、深海棲艦の拠点と化していた。が、それすらも見る影はもうない。

港湾棲姫とその取り巻きはまだ砲撃対象になっていなかったが、それはもう時間の問題であり、海岸沿いの地域は赤々と燃え上がり、日が暮れても燃え続けていた。

しかし、艦砲射撃は止む様子を見せず、継続的に行われ続けていた。と言っても戦艦部隊は流石に弾薬が無くなり、重巡以下の艦艇が引き続いて、一時間に発射する弾数を決めて行っていた。

 赤く染まるポートモレスビーは、棲地内であるにもかかわらず遠方からも黒煙と炎の明かりで視認する事が出来た。

そしてそれを目印に迫る編隊がある。

 

 

柑橘類「やれやれ、ここまでせにゃならんとはな・・・。」

 

柑橘類小隊が先導するその編隊は双発機の編隊だったが、爆撃機の類ではない。柑橘類小隊も、その周囲に14個小隊28機の戦闘機を従えていた。

 

柑橘類「夜間航法の出来る搭乗員を急いで育成して楽をしたいもんだぜ、たまったもんじゃねぇ。」

 

またしても柑橘類中佐は、夜間航法が出来ると言う理由だけで夜間飛行をする輸送機隊の先導を任されたのであった。拡大が早過ぎた余波が訓練の遅延と言う皮肉な所にツケとして回ってきた訳である。

 

 

~第一空中挺進連隊1番機機内~

 

全輸送機56機の先頭を飛ぶ一〇〇式輸送機二型は、4つある輸送機部隊の一つである第一空中挺進連隊の隊長機であり、同連隊は挺進第1中隊135名を輸送している。

 

電「・・・緊張して来たのです・・・。」

 

天龍「まぁ、実戦だからな。しかも今回は初めてこなす類の任務だから、緊張しない方が無理だな。」

 

ガラにもなく緊張しているようだ。

 

深雪「電、深呼吸だ。」

 

電「はい・・・ふぅ・・・大丈夫です、行けるのです。」

 

深雪「よぉし、もうすぐだ。もうすぐ深雪様達の出番だぞ。」

 

電「はいなのです!」

 

実戦を前に、部隊の士気は上がっていた。

 

 

そして20時19分・・・

 

 

「“降下開始!!”」

 

 

海軍特設空挺隊挺進第1中隊が、ポートモレスビー市街地北の平坦地に高度1000mから降下を開始した。第2中隊を運ぶ第二空中挺進連隊がこれに続く。投光器の光が地上から投げかけられるものの、対空砲火はごく僅かだった。

 

 

港湾棲姫「ナンダ! ナニガ起コッテイルノ!?」

 

 予想だにしない事態に狼狽するポートモレスビー。爆撃機でもない編隊が、何かを投下して去っていくのだから、ただ戦う事しか知らない深海棲艦には奇異に映ったのは仕方がない。

空挺降下と言うものを編み出した人類ならではの戦術と言う事は言えていた。この為に空挺降下を受けた深海側では混乱状態になっていた。加えて夜間で戦力不明と言う事がそれに拍車をかけている。

 3人の艦娘を含む挺進第1中隊は、平素の訓練成果を遺憾なく発揮して、隠密降下によって極小範囲への降下投入を無事成功させた。

挺進第1中隊は、最初に編成された小規模な空挺隊を改編して出来た部隊である為、練度は今回投入される部隊では最も高いのである。これらは挺進第2中隊などの後続を誘導する役割も兼ねている。

 

 

ターンターン・・・タタタタタタ・・・

 

 

天龍「敵が体勢を整える前に前進するぞ、続け!!」

 

電「電、行くのです!」

 

深雪「突撃だァ!!」

 

艤装を身に付けた艦娘達を先頭にして、第1中隊が前進を開始する。周辺にいる敵深海棲艦の地上部隊は警備中の僅かな数しかいなかったが、それによって察知された事は確かだった。

 

 

港湾棲姫「ト、トニカク迎撃ナサイ! ココガ正念場ヨ!」

 

情報が錯綜する中で港湾棲姫は迎撃命令を発するが、情報の錯綜が混乱を増長して行ったのは、いつの時代でも変わりない事であった。

 

 

20時28分 ポートモレスビー沖合

 

あきつ丸「上陸第一波、前へ!」

 

空挺降下によって混乱した敵棲地に対し、待望の上陸作戦も始まった。散々空襲され砲撃され尽くした地上には、満足な沿岸陣地は残っておらず、舟艇に対する反撃はほぼ無かった。

 

千歳「上陸作戦に参加するのは初めてですが、成程、これは壮観ですね。」

 

千代田「本当はこっちの艤装、水偵運用が本職なんだけどなぁ・・・。」

 

千歳「まぁまぁ・・・。」

 

実際大発運用艦と言う点から見てこの2隻が最適であるのは事実なのであるが、確かに本来水偵運用が基本なのだ。それを大型のクレーンやウィンチを生かした陸戦隊輸送に転用したまでの事である。どちらも“運ぶ”事は共通している。

 

最上「撃て!!」

 

熊野「撃ち方、お始めなさい!」

 

 

ドドドドドオオォォォーー・・・ン

 

 

最上と熊野が砲撃を放つ。上陸作戦に呼応して上陸支援砲撃が行われているのだ。

 

金剛「弾薬が尽きてなければ・・・ム~・・・。」

 

榛名「まぁ、今回は仕方がないですよ・・・。」

 

金剛「こうなったら副砲だけでも・・・」

 

榛名「何かあった時の為に残して置いて下さい姉さん。」

 

金剛「退屈デース!」

 

榛名「その方がいいのですけどね。」

 

金剛「榛名はいつも正論デース。」(-ε- )

 

榛名「そうでないと姉妹が纏まりませんから。」

 

金剛「うぬぬ・・・。」

 

姉妹のまとめ役は意外な所に居たりするもんである。

 

鈴谷「あの~・・・」

 

金剛「ン~?」

 

鈴谷「私の出番は?」

 

金剛「第一艦隊の後デース。」

 

榛名「今は休憩して下さいね?」

 

鈴谷「は~い。」

 

そんなこんなで暫く砲撃は第一艦隊がやっていく事になるのであった。

 

 

 

天龍「そこだっ!」

 

 

ドオォォンズドオオォォーー・・・ン

 

 

 数千メートル先の敵を砲撃で制圧する天龍。空挺部隊に艦娘を編成した理由は、相手が深海棲艦である事ともう一つ、砲兵としての役割を担わせる為でもある訳である。これは艦娘にしか出来ない役割でもある訳だ。

 

天龍「流石に敵が増え始めたな・・・。」

 

オートマトンタイプの深海棲艦が増え始めたのを見て天龍が言う。

 

深雪「だけど仲間も多いから、何とかなりそうだぜ。」

 

 深海側が地上戦力として運用しているタイプの深海棲艦にはいくつか種類があるのでここで紹介して置きたい。

 1つ目は四足歩行タイプ。銃火器と見られる武装を所持する他、爆発物や重火器を運用する個体も存在している。

 2つ目はオートマトンタイプで、曲面を主用した形状に銃火器や小型の迫撃砲と見られる武装を持つタイプがある。

 3つ目は小鬼(通称:トロール)と呼ばれる超小型の深海棲艦の地上型に属するもの。群体と言う特色を持つ砲台小鬼はこの部類に当たるが、他にも群体の特性を持つものとして駐屯地小鬼と呼ばれるものもある。

 駐屯地小鬼は一種のコロニーを形成する役割を持つ深海棲艦であり、四足歩行やオートマトンタイプの陸戦戦力をサポートし、その拠点を整備する役割を担っている事が確認されている他、棲地内における基地建設にも従事しているようだ。

そうした特性の為固有の武装は対空機銃程度のものであり、砲台小鬼と異なり殆どの個体は非武装である。

 3つ目は兎も角、前2つは艦娘側で言う妖精さんに相当する程度の実力である為、何とか耐えられる訳である。

陸上行動可能な深海棲艦が現れた時が考え所だが、そこは天龍ら艦娘の出番である。

 

電「一つ一つは弱いですが、数が多いのです。でもなんと言うか、普通の深海棲艦に比べると、もの凄く真っ直ぐと言うか、なんというか・・・。」

 

天龍「“意志を持つ”、と言う訳では無さそうだな。」

 

深雪「なら、心置きなくやろうぜ!」

 

電「はいなのです!」

 

心置きなくやるには、ちょっと数が多くなり始めていたが、それでも臆さず防御線を張る第1中隊。第2中隊が既に降下を開始していたが、装備をかき集め態勢を整えるのに時間がかかるのである。

 

 

 だが、その来援が来るのにはさして時間を必要とはしなかった。第2中隊の降着と展開により橋頭保を完全に確保した空挺隊は、20時45分にその本隊であるグライダー部隊の降下誘導を開始したのである。

次々と降下を開始するグライダー部隊は降着地点10km手前で切り離されており、仮設の誘導機材を目印に次々と降着して行く。

 

龍田「もうちょっとこっち~♪」

 

ちょっと楽しそうに誘導する龍田。ちゃんと正確に誘導している。

 

時雨「なんとかうまくいってるね。」

 

叢雲「えぇ、ここまではね。これらを使って、敵本陣まで突破出来るかが問題よね。」

 

時雨「大丈夫、海岸からも味方が上陸してる。行けるさ。」

 

叢雲「そう願いましょ。」

 

そう言い合う2人の前に降着したグライダー、ク7-Ⅱ滑空機からは、重火器中隊の九七式曲射歩兵砲が降ろされていた。他にも二式軽戦車や九二式歩兵砲など、重装備の荷下ろしが各所で行われている。

 

叢雲「それにしても、話を聞いた時は役に立つと思えなかったけど、まさか出番があるとは、この世は分からないものね。」

 

時雨「確かにそうだね。艦娘を空から投入するっていう発想も、中々思いつくものじゃないよね。」

 

叢雲「海を走るだけが能じゃないって事ね、私達は。」

 

時雨「あの日とは違うんだって事を、本当に思い知らされるねぇ。」

 

叢雲「私達が人の体を持つだけで、こんなに変わるものなのね・・・。」

 

逆説的に言うと、船が人の姿を取る事自体が、本来はあり得ない事なのであるが・・・。

 

 

その頃ポートモレスビー港はと言うと・・・

 

 

20時53分 ポートモレスビー沖

 

あきつ丸「上陸部隊より通報、第一波上陸、成功であります!」

 

長門「おぉ、やったな!」

 

陸奥「えぇ! これで上手く行くかもしれないわ!」

 

最上「やったぁ!」

 

熊野「お見事ですわ。」

 

子日「子日達が頑張って砲撃した成果だね!」

 

若葉「あぁ、悪くないな。」

 

初春「ここからが本番じゃな、あきつ丸よ。」

 

あきつ丸「然りであります、初春殿。これより上陸第二波及び、戦車隊の揚陸を準備するであります。」

 

初霜「ここから、ですね。引き続き支援します。」

 

あきつ丸「お願いするであります。千歳殿、千代田殿、お二方も準備をお願いするであります。」

 

千歳「分かったわ。」

 

千代田「了解よ。」

 

揚陸船団は引き続く上陸第二波の準備を開始する。海岸線ではすでに銃撃戦が展開されていたのであるが、どうやら確実に前へは進んでいるようだ。

 

 

と、その時であった。

 

「“各隊へ、状況報せ。こちら重巡鈴谷、各隊へ、状況報せ。”」

 

金剛「!」

 

鈴谷「へ?」

 

瑞鶴「!?」

 

大和「提督!?」

 

 

~ブーゲンビル島北東沖~

 

提督「驚いてる暇あったら報告報告。全くいつまで経っても変わらないんだから・・・。」

 

なんと、ブーゲンビル沖からポートモレスビー沖に通信が繋がったのである! 有線や中継通信ならば兎も角としても、遠隔地との無線通信は現状ジャミングで使用不可な筈なのであるが・・・。

 

提督「佐野海将補も随分と気が利くね、全く。」

 

直人の元へ、艦娘部隊から報告が入り始めた事で彼はそう思った。

 

 実はこの事の裏にはまたしてもラバウル基地がある。彼は佐野海将補に対し、ラバウル基地の航空部隊による支援を要請していたのだが、それは航空機による攻撃支援のみであった。

が、佐野海将補はそれだけだと不便すると考えたのか、なんとラバウルにたった1機しか派遣されていない空自所属の電子戦機「EC-2B」を飛ばし、敵の広域ジャミングを打ち消して見せたのである。

 EC-2Bは「電子戦機」と呼ばれるカテゴリに属する機体の一つであり、それ以前に運用されていた電子戦機の後継機として配備されたEC-2を、戦争勃発に伴い機体更新の余力が無くなった事から新型の開発を打ち切って性能向上を行った機体である。

因みに元々のモデルは国産輸送機「C-2」だ。試験中の時期にお茶の間に上った事もある機体なので名前を知っている人も多いだろう。

 電子戦がどう言ったものかと言うと、敵の通信やレーダー等にジャミングや妨害(これらを電子攻撃(EA・ECM)と言う)を行ったり、敵の電子攻撃を打ち消したりする(これを電子防護(ED・ECCM)と言う)など、目に見えない所でしのぎを削る戦いである。

地味だが現代の戦闘では重要な要素である。自由に電波が使えなくなると色々困るからである。

これまででも直人は散々それで困った事態を引き起こされていた訳だが、こうして見ると、電波が自由に使える事がいかに重要か、得心も行くだろう。

 

 

そうして直人が得たここまでの推移を大まかにまとめると次の通りになった。

 

1.航空攻撃は大凡予期の通り成功、敵陣地及び施設に対し甚大な損害を与えたものと思われる

2.敵艦隊による挟撃は無し、在ポートモレスビーの敵艦隊は艦娘艦隊の攻撃で壊滅

3.在ポートモレスビーの敵航空部隊は空襲により壊滅、飛行場は砲撃により使用不能に

4.上陸部隊は第一波が成功、現在第二波の上陸作業中、現在優勢

5.空挺部隊は橋頭保を確保し全部隊が降着を完了、現在装備と陣形の再編成中

6.敵残存部隊は当初の予測を下回るものと見られ、抵抗は予期した程ではないものの予断を許さない

 

提督「取り敢えずは我が方有利と言う所だな。失敗すれば空挺部隊は生きて戻る事は出来んだろうから、ここで気合を入れ直さなくてはなるまい。」

 

あきつ丸「“迅速な攻略に全力を尽くすであります。”」

 

提督「だが急ぐ余り味方に過大な損害を出させる事だけはするなよ。」

 

あきつ丸「“承知したであります。”」

 

提督「その他の艦隊に関しては、必要があれば追って指示する。当面は制海権を確保しつつ、地上支援を行う様に。必要とあらば陸戦も視野に入れる事、以上だ。」

 

金剛「“了解(ラジャー)!”」

 

瑞鶴「“了解!”」

 

大和「“はい!”」

 

提督「さて、私はのんびりとラバウルに戻るとしますかね・・・。」

 

 この時点で鈴谷は、敵の追跡と迎撃の手をまんまと潜り抜け、艦娘達を収容して巡航速度で夜陰に紛れ、ラバウルへと向かっていたのだった。これも彼らの予定の行動であった。

ただこの時横鎮近衛艦隊側でもラバウル基地でも、駆逐棲姫の率いる艦隊が北上している事は察知していなかった。そして直人自身、そこまで早く敵にこの策が看破される事は無いと考えていたのである。

 

 

その状況整理の間にも状況は推移し、遂にこの時が来た。

 

21時22分 ポートモレスビー郊外

 

天龍「全く、壮観だな。」

 

 天龍が眺めているのは、グライダーにより降下投入された二式軽戦車の車列である。横一列に10両が整列している。更に1両辺り妖精陸戦要員3人がつき従っていて、機動展開用の九四式六輪自動貨車が3両附属する。

更にそれらの後方に、山砲中隊の九四式山砲10門が準備万端で砲門を連ね、その両脇には重火器中隊の九二式歩兵砲と九七式曲射歩兵砲4門づつが、その正面に展開する挺進中隊の火力支援を行えるように布陣している。

 

これだけでも戦車10両、火砲18門、兵員638名と言う兵力である。

 

天龍「空挺戦車隊の実力、見せて貰おうか。全隊、前進!」

 

 天龍の指揮の下、空挺部隊は一斉に前進を始める。先頭を受け持つのは挺進工兵小隊45名で、擲弾筒分隊3、機関銃分隊1の構成の中に一〇〇式火焔発射機を各分隊1基ずつ装備し、簡単な工兵機材を持つ部隊である。進路上の障害物を排除する役目を担っている。

 

叢雲「じゃ、一番槍は頂くわ!」

 

天龍「おう、頼むぞ。」

 

挺進工兵小隊と共に叢雲が全部隊の先陣を切って突入を始める。槍の切っ先を煌めかせ、文字通りの一番槍を切っていく。

 

電「では、行ってくるのです。」

 

深雪「そうだな、行こう!」

 

天龍「気を付けるんだぞ。」

 

電「ありがとうございます。」

 

 挺進第1中隊に電、第2中隊に深雪が随伴し前進を開始する。挺進戦車中隊には龍田が同伴して前進を始めている。この4つの部隊が前衛の主力を担う為、それぞれに艦娘を付ける訳である。

 

天龍「機関銃中隊と速射砲中隊は、いつでも要請に即応出来るようにすぐ後ろを付いて行け! 重火器中隊と山砲中隊は火力支援だ!」

 

天龍も各個に指示を出していく。速射砲中隊には時雨が付けられている。天龍は空挺部隊の指揮官として全般指揮を担当する事になっており、司令部小隊と共に後方にいる。

 

21時22分、空挺部隊は中枢部に向けて突入を開始したのである。

 

 

 一方、上陸第一波の方は既に第一線の敵陣地を突破、第二波と戦車部隊の上陸を待ちつつ橋頭保の確保に全力を挙げていたが、21時33分に第二波の一部と戦車部隊が上陸を完了し、上陸部隊も八九式中戦車と九五式軽戦車を先頭に前進を開始した。

 ここで使用されている戦車について少なからず解説をせねばなるまいと言う事で簡潔に説明をさせて頂く事をお許し頂きたい。

 

 

 八九式中戦車 イ号は、日本軍が初めて制式採用した中戦車であり、日本が遅ればせながら始めた戦車開発の結果生まれた兵器である。ガールズ&パンツァー(ガルパン)に登場する事で知っている人も多いだろう。あのカモさんチームが使用する車両である。

 主砲は短砲身の57mm砲で、歩兵支援を主眼として作られた事から対戦車能力は低く、対米戦開始時には旧式化していたものの後継の九七式中戦車の数が足らず、大戦の後半まで使用された。

 

 九五式軽戦車 ハ号は、八九式「軽戦車」(最初は軽戦車だったが再分類で中戦車に)の後継車として作られた車両であり、財政難の日本にとって主力の戦車になる筈だった戦車である。こちらもガルパンに登場し、劇場版に於いて知波単学園の車両(福田車)として登場する。

 主砲は37mm対戦車砲(制式名:狙撃砲)を改造した37mm砲で、日本初の対戦車戦闘を考慮したものだったが、能力は低かった。しかし最初から最後まで運用され、かつ日本で最も多く生産された戦車となった。

 

 二式軽戦車 ケトは、上述のハ号の改良型として開発された九八式軽戦車 ケトが不満足な形に終わった事から開発された車両であり、途中から空挺戦車として運用する事も想定されて作られた戦車である。上記2車両に比べると著名度が低い。

 主砲はハ号と同じ37mm砲だったが、7年の間に少なからず改良され、能力は上がっているが所詮は37mm砲だったと思われる。実戦経験はなく、配備された第一挺進集団がフィリピンへ向かった際も本土に残り、結局本土決戦に向け温存された中で終戦となった。

 

 

ここまで読んだ人は「もっとまともな戦車はないのか?」「チハどこー?」と思われるだろう。答えは「ない」である。正確にはまだこの艦隊の開発区画が捻り出してないだけの事なのであるが。

 

 

21時47分 ポートモレスビー郊外

 

 

ドォォー・・・ン

 

 

 二式軽戦車の37mm砲が火を噴き、敵の陸戦兵器が撃破される。中枢部に向け南へと向かう特設空挺隊は、戦車による機甲突破と、その穴を埋める歩兵投入、敵の機動を阻止する砲兵の阻止砲撃により、全体を優勢に進めていた。

 

龍田「どきなさぁ~い? 貴方達に用はないの!」

 

龍田槍も今宵は一層煌めいて見える。まぁ身も蓋もない事を言えば、視界確保の為に照明弾を天龍が撃っているだけなのだが。

 

龍田「―――あらぁ?」

 

龍田がふと見ると、その先には砲台小鬼の沿岸砲型個体がいた。あれだけの砲撃を耐え抜いた個体がいたのである。

 

龍田「私じゃ手に余るわねぇ。天龍ちゃ~ん、砲台小鬼の沿岸砲がいるわ、支援をお願いするわね。」

 

天龍「“分かった、速射砲中隊を向かわせる。”」

 

龍田「助かるわ~。」

 

 こんな時でも口調が中々崩れないのは流石と言うか肝が据わっている龍田である。

そしてその速射砲中隊は存外すぐに来た。と言うのも、戦車隊のすぐ後ろを速射砲中隊が後続していた為、数分で到着出来たのである。

 

 速射砲中隊が保有する火砲は一式機動四十七(ミリ)砲である。この砲は日本初の本格的対戦車砲である九四式三十七粍砲の後継砲で、輓馬牽引(ばんばけんいん)だった九四式に対し、自動車牽引を前提とした事から正式名に「機動」の文字が盛り込まれている。

付随する九八式四(トン)牽引車“シケ”に牽引されて来た47mm砲は、到着早々敵のに砲を指向し、短時間で展開を終えるとすぐさま連続砲撃に入る。

 

 

ドガアアアアアア・・・ン

 

 

龍田「!?」

 

しかしその間に、二式軽戦車一両が砲撃によって爆散してしまう。

 

龍田「沿岸砲に撃たれたみたいねぇ・・・。」

 

しかし一方の速射砲中隊も、連続射撃によってものの数分で砲台小鬼(沿岸砲)を沈黙させてしまったのである。

 

龍田「あらあら、意外とやるわねぇ・・・。」

 

感心したのも無理はない話で、47mm砲はその全てが敵個体の弱点を正確に狙撃して撃破したのだ。実際に運用された際も弱点射撃が基本だったように、である。

 

龍田「これは負けてられないわね~♪」

 

余勢をかって周囲の敵に砲撃する一式機動47mm砲に負けじと、龍田も14cm砲を撃ち込みながら突入するのだった。

 

 

22時33分 ポートモレスビー海岸部

 

夕立「よぉーし! みんな突撃するっぽい!」

 

22時33分、全ての上陸部隊を揚陸し終え、橋頭堡を確保した陸戦隊も本格的に攻撃前進を開始した。第一目標はポートモレスビー港及び、ポートモレスビー旧市街南側の一角である。こちらも数人の艦娘が支援に入る態勢を取る。

 

日向「航空戦艦日向、参る!」

 

伊勢「日向、余り突っこみ過ぎないでよ。」

 

日向「心得ているさ。」

 

伊勢と日向がなぜひょっこり出て来たか、理由は簡単で弾薬が切れているからである。逆に言えば、艤装さえ外してしまえば普通の剣士である為、艤装を海岸であきつ丸に預けて陣頭指揮に来たのである。

 

川内「いや~、陸の上での戦いも久しぶりだねぇ~。」

 

そしてきっちり川内もいる。

 

川内「夕立、あまり遠くに行っちゃダメだよ~。」

 

夕立「分かってるっぽい!」

 

川内(本当に大丈夫なのかな・・・。)

 

伊勢「いつも元気だよねぇ夕立は。ま、それがいい所かな。」

 

 元気いっぱいな夕立だが、だからこそ少し心配になる川内。既に周囲は敵だらけであり気が抜けない状況なのだが、夕立はそれをものともせず、砲撃によって確実に前線を押し上げていく。

因みに言って置くと魚雷は投げる物ではないし投げたって爆発しないので使えないのだ。

 

 

一方航空支援も先刻から始まっていたりする。

 

 

~ポートモレスビー沖合~

 

龍驤「また夜間航空戦かいな~・・・。」

 

瑞鶴「こんな暗い中で航空機を飛ばすのも中々大変なんだけど・・・。」

 

瑞鳳「おまけに棲地のど真ん中・・・。」

 

龍驤「意外と慣れると簡単なもんやで。棲地の真ん中っちゅうのにはノーコメントやな。」

 

かれこれ数時間赤色海域に居座り続けている艦娘艦隊、幾度かの実戦を経て脚部艤装の耐腐食防護やコーティングも信頼性が強化されているから多少は問題にならないとはいえ、気になる要素でもある。

 

赤城「私達はもう何度かやってますからねぇ・・・。」

 

加賀「実戦経験は私達の方が上ですから、経験はそれなりに積んでいると言う所かしら。」

 

瑞鶴「ぐっ・・・!」

 

経験の差を持ち出されると反論出来ない瑞鶴であった。頑張れ瑞鶴! そして熟練搭乗員達による夜間攻撃は、敵の縦深防御陣地全域に渡って隅々まで行われ、そこへ陸戦隊による攻撃が集中する事になる訳である。

 

 

オイゲン「こんな戦い方があったんだね・・・。」

 

レーベ「うん・・・本国では、とても想像もつかない様な戦い方だね。」

 

オイゲン「私達も・・・あんな風に戦えるのかな?」

 

レーベ「ハハハ・・・どうなんだろうね。」

 

オイゲンの単純な疑問に対し、苦笑しつつそう返すレーベなのであった。

 

 

22時40分 ポートモレスビー港付近

 

伊勢「敵も態勢を立て直し始めた・・・チャンスは今しかない、向こうが態勢を完全に立て直す前に突破するよ! 第二大隊、前進!」

 

戦闘の状況から敵が防衛線の再構築を行いつつある事を見抜いた伊勢は、それを阻止するべく直ちに攻撃命令を出す。

 

日向「よし、行こうか。」

 

伊勢「お願いね。」

 

日向「あぁ。」

 

伊勢「さて、このまま港を押さえないとね。」

 

第一海上機動連隊第二大隊は、ポートモレスビー港の制圧を任された部隊である。一応連隊編成である為この部隊は4個大隊から編成されている。

 

 

22時42分 ポートモレスビー旧市街

 

 

タタタタタタタタ・・・

 

 

川内「激しいね・・・。」

 

夕立「真正面からはちょっと厳しいっぽい・・・。」

 

旧市街の瓦礫に身を潜める2人。因みにこちらは陸戦の専門要員と言う訳ではない為、連隊から余剰の装備を貰って戦っている。

 

川内「それにしても、正面に機関銃なんて・・・。」

 

そう、実は機関銃陣地正面に出てしまい動けなくなっていたのである。

 

夕立「そう言えば、貰った装備の中に、テキダントウ(?)があるっぽい!」

 

川内「よし、それ使おう!」

 

夕立「じゃぁお任せするっぽい!」

 

川内「OK!」

 

 川内は夕立から受け取った八九式重擲弾筒(じゅうてきだんとう)(別名:ニーモーター)を、瓦礫にストックを当てて構える。

この八九式重擲弾筒は分隊支援火器として日本軍で広く使われた日本の歩兵用装備である。これのおかげで日本歩兵は他国と同等の火力を持っていたと言って差し支えない位重要な装備である。

モノとしては手持ちの迫撃砲(モーター)で、木の枝や地面、がれきなどのしっかりとしたものを支えにして構える。アメリカでは別名「ニーモーター」とも呼ばれたが絶対に太ももを支えにしてはいけない、太ももの骨が砕け散ります。

 

川内「狙いにくいなぁ・・・ここかな?」

 

ドン! と言う低く重い音と共に、砲口から入れた榴弾が飛び出していく。そして・・・

 

 

ドォォ・・・ン

 

 

川内「やった、当たった!」

 

夕立「凄いっぽい!」

 

川内「やってみるものだね~。」

 

扱うのは当然初めてだが一発で当てて見せたのだった。そして陣地内にあった機関銃は見事に破壊され、残った敵のオートマトンが前進してくる。

 

川内「まぁ頼ってた火器が破壊されたら自動兵器はそう来るか。」

 

夕立「まぁ任せるっぽい。」

 

そう言って夕立が構えたのはバズーカ型の武器だった。

 

―――試製四式七(センチ)噴進砲(ふんしんほう)、これも日本で試作されていた対戦車兵器で、口径7.4cmの噴進()穿甲()榴弾(だん)(対戦車ロケット弾/弾種:対戦車榴弾(HEAT))を使用する。相手が四足歩行型もいるが装甲されたオートマトンである為、一応有効である。

 

夕立「えーっと・・・発射!」

 

 

シュゴオォォォォーーー・・・

 

 

夕立の放ったロケット弾の行方は・・・

 

川内(おっ?)

 

夕立(いったっぽい?)

 

 

ズドオオオォォォォーーー・・・ン

 

 

川内「流石!」

 

夕立「やったぁ!」

 

約400m先の敵オートマトンに見事命中、一発で倒したのである! 嬉しすぎて夕立も語尾にぽいが付かなかった。

 

夕立「よし、後は一気に片付けるっぽい!」

 

川内「そうだね!」

 

そう言って二人は、装備している九九式短小銃を構えるのであった。

 

 

 22時47分、敵が体勢を立て直すより早く浸透した戦車隊が、敵が立て直そうとした第二線陣地を食い破って各所で寸断していた。

そこへ更に中隊単位の攻勢が加わった為、状況は徐々に各個撃破の様相を呈し始めたのであった。

そこから約1時間後の23時36分、ポートモレスビー港が完全に制圧された。

 

 

~ポートモレスビー郊外~

 

天龍「全部隊、敵中枢部へ突撃だ!」

 

一同「「“了解!”」」

 

空挺部隊はそれと同時刻、敵中枢部への突撃を開始していた。“攻撃”ではない、“突撃”である。(ここは重要)

 

港湾棲姫「来ルトイイワ・・・。」

 

 目指すは港湾棲姫・ポートモレスビーの首である。これを討ち取りさえすれば、この棲地は消滅し、徐々に艤装が消耗している沖合の艦隊も何とか行動できるようになるだろう。

正面には僅かに残った駆逐艦級の深海棲艦と小鬼級深海棲艦、更に多数の四足歩行型陸兵とオートマトンが集結している。

だが上空には横鎮近衛艦隊の航空支援があり、条件としては多少の差異はあるがほぼ互角と言ったところではある。但し地上戦力で劣勢である。

 

深雪「行くぜお前ら! 火力で圧倒してやれ!」

 

 深雪の号令一下、挺進第2中隊が機関銃とロケット弾を浴びせかける。挺進中隊も試製四式七糎噴進砲を装備している訳である。

が、極一部に、それを一回り大きく噴進砲である、試製九糎空挺隊用噴進砲を装備している。単に大型化した上で空挺部隊に対応する様にしたものである為大まかには変化はない。

 が、威力は確かであり、次々とオートマトンや砲台小鬼が撃破され、更に後方から歩兵砲の連続射撃が続く。更にそれに合わせる形で、7両まで数を減らした挺進戦車隊が突入し、随伴歩兵と挺進工兵小隊がこれに続く。

そして拓かれた道を目掛けて挺進中隊が各小隊毎に前進、突破口を拡大しながら戦線を押し上げていく。

 

龍田「陣形を保ちなさい? 崩れたらその時が最後よぉ~。」

 

電「は、はいなのです! え、えっと・・・第3小隊は10m後退、第4小隊は時計回りに30度方向を変えながら少し前進して援護してあげて下さい!」

 

 電も不慣れな陸戦指揮をなんとかこなしていく。実際、少しでも連携が崩れた時が最後、圧倒的な物量差で戦線が崩壊してしまう事は目に見えていた。例え相手が二方向に戦力が分散し、かつ航空支援を受けている状況であってもである。

空挺部隊の欠点は、装備が軽装備にならざるを得ない事である。航空機(大体の場合は輸送機)で人員と装備、物資を投入すると言う関係上、そのキャパシティは限定的である事は言うまでもなく、それ故に運べる装備の量はたかが知れている。

 大型グライダーの投入で軽量砲や6トン級の小型戦車投入が関の山である事を考えれば、これが本格的な戦闘には大きな欠点である事は読者諸氏にもお分かり頂けるであろう。

 

電「主砲、発射なのです!」

 

 

ドドォォーーン

 

 

 その欠点を埋める存在が艦娘であった。一番小型の火器である対空機銃でさえ7.7~40mmという、並の小銃から重機関銃や小型の戦車砲クラスと言ったものと同等の口径の物を連射出来る上にそれを複数持ち、かつその主砲はどう小さくしても8cm、突き詰めれば51cmと言う巨砲までもを複数門運用出来る。

空母を投入すればその艦載機運用能力を用いて陸上航空基地にさえなれる訳で、しかも艦娘の特性である人型と言う点がこれらの利点を完全にバックアップしてくれる。

即ち兵器としての小ささと機動力が、これらの利点を後押ししているのである。しかもその防御能力は普通の兵士とは段違いに高い。勿論限界点はあるが、それでも脅威的なのはまず間違いない。

 

叢雲「全く、凄い光景ね。」

 

龍田「同感だわぁ。私達がいなかったら、今頃この子達はどうなってたのかしらねぇ~?」

 

叢雲「良くて壊滅的打撃でしょうね。」

 

龍田「下手にすれば全滅よねぇ~♪」

 

叢雲「ぞっとしないわね・・・ていうか、なんで嬉しそうなのよ。」

 

龍田「その時は他人事だもの~。」

 

叢雲(一番ゾッとしないのこの人だわホント・・・。)

 

龍田の本性が顔を見せた瞬間であった。それはさておいても、燃料弾薬満載の艦娘達がいるおかげで、空挺部隊はその戦線を押し上げる事が可能になっていたのだった。

 

 

23時56分、艦娘艦隊はポートモレスビー港への入港を果たし、地上に上がった事により赤色海域による侵食から解放された。それと同時に、ポートモレスビー港内から敵棲地中枢部に対する砲撃が開始された。

 

矢矧「撃て!」

 

矢矧の号令の下、弾薬の残っている艦娘達が一斉に射撃を開始する。

 

初春「今回は、どうにも裏方が多いのう。」

 

陽炎「そう言う任務だもの、仕方ないわね。」

 

暁「どんな任務でも、レディは完璧にこなして見せるものなのよ?」

 

熊野「フフッ、よく言いましたわ。頑張りなさい?」

 

暁「勿論よ!」

 

夕雲「―――フフッ、これは気合を入れないと、MVPを取りそびれるかもしれないわね。」

 

 

漣「(´Д`)ハァ…今回そんなに目立って無いなぁ・・・。」

 

潮「漣ちゃん・・・。」( ̄∇ ̄;)

 

雷「まぁまぁ、これからまだまだいくらでも、チャンスはあるわよ!」

 

漣「そのポジティブさが羨ましいですなぁ~。」

 

因みに駆逐艦の中でもこの3人は弾薬切れである。他にも数人いる。尤も、雷は響を追走しようとした敵を食い止める為に多く弾薬を消費した事が原因だったが。

 

 

あきつ丸「なんとか、スペースは確保できたでありますな・・・。」

 

金剛「お疲れ様デース。」

 

金剛とあきつ丸がいるのは、上陸した海岸である。ここには上陸した際に揚陸した物資が集積されている為、物資基地となっており、第3大隊が周辺警備に駆り出されている。既に上陸した海上機動連隊は内陸部に向け進軍を開始している為、俄かにここも忙しくなりつつあった。

 

金剛「せめて弾薬があれば・・・ウーン・・・。」

 

あきつ丸「金剛殿には、我々をここまで守り切って頂いただけでも、十分であります。あとは我々にお任せあれ、であります。」

 

金剛「そうデスネー・・・陸の戦いは、あきつ丸さんにお任せしマース。」

 

“餅は餅屋”と言う言葉を、金剛もよく心得ていた。金剛はこの時、あきつ丸と連隊の作戦行動には一切口を出さず、あきつ丸と麾下から派遣した艦娘達の手に委ねた訳である。

 

榛名「姉さん、少し、おやすみになった方が・・・。」

 

金剛「・・・そうデスネ、そうするネー。何かあったら起こして下サーイ。」

 

榛名「はい、必ず起こして差し上げます。」

 

金剛はそう言って、物資集積所の一隅に設けられた仮眠所に向かうのであった。

 

 

―――最早、深海棲艦隊地上部隊に碌な戦力など残っていはしなかった。

 

 初動の混乱で対応が後手に回ったばかりか、主力部隊の海岸侵攻を許した挙句、防御線の立て直しにかかったその努力も空しく、今や南北からの挟撃と言う最悪の形で、棲地中枢部はその猛攻に晒されていたのだった。

艦隊はもういない。飛行場も制圧された。港は最早敵の牙城と化し、市街地には陸戦妖精が群れている。

確かに、空挺部隊を相手取るには十分な戦力だったろう。総数1000名あまり、海上機動連隊と根拠地隊、サイパン航空隊通信隊から選抜した人員によって編成されたそれらの特設空挺隊は、圧倒的劣位の中良く奮戦した。

 しかし、その猛攻は既に限界が近づく中、ポートモレスビー中枢部に最悪のダメージを与えたのは、海上機動連隊3個大隊による突入が開始されたとの報告であった。この連隊は拡充により総数2400名以上と旅団規模になっており、1個大隊を差し出したとはいえ2000名強の兵力を残している。

空挺隊と足しても3000名にしか過ぎないが、艦砲射撃と打ち続く空爆によって消耗しきった敵から見ればとんでもない相手であり、しかもその装備の質は空挺隊の比ではない。

 

日付変わって2月14日3時14分―――

 

天龍「“―――こちら、特設空挺隊司令部。敵棲地の制圧に成功せり! 繰り返す、敵棲地制圧に成功せり!”」

 

勝利の報告が、空挺隊を率いた天龍からもたらされたのである。

 

電「お、終わったのですぅ~・・・。」グデー

 

深雪「流石に疲れちまったぜ・・・。」

 

叢雲「情けないわね二人とも・・・。」

 

深雪「なんで叢雲は立ってられんのさ。」

 

叢雲「鍛え方が違うからよ。」

 

深雪「へー、そいつは大層な事だねぇ、今度教えてくれよ。」

 

叢雲「お断りよ。」

 

深雪「そーかい。」

 

電「ハハハハ・・・。」( ̄∇ ̄;)

 

 

時雨「本当にハードな戦いだったね・・・。」

 

龍田「そうねぇ~。」

 

時雨「兎に角、生存者の数を調べないと。」

 

龍田「あらあら、忘れてたわぁ。そう言えば戦車隊も随分損害を出してしまったみたいだし・・・。」

 

 この後の被害集計により、挺進戦車隊は保有10両の二式軽戦車の半数、5両が未帰還となった。この他に戦闘での犠牲者は空挺隊のみで150名以上に上り、負傷者多数を出し、最早戦闘に耐えられるものでは無かった事が後で明らかになっている。

この他連隊側でも戦死者269、負傷者700以上、戦傷死者がそのうち60名以上にものぼると言う大損害を被っている。

 連隊に属する戦車隊も、八九式中戦車は保有30両の内11両が撃破され、95式軽戦車は保有55両の内27両が撃破された。戦死者と負傷者の数が全体に比べ少ないのは、第3大隊が戦闘加入していなかった事が大きな要因となっている。

砲兵に被害が及ばなかった事が不幸中の幸いであっただろうか。もっとも後方域砲撃を実行する余力が深海側に残されなかった事も事実である。

 

 

提督「終わったか・・・。」

 

その報告を、彼は敵制海権内であるブーゲンビル島の北で副長から聞いた。

 

提督「またしても、艦娘に喪失艦は出さなかったようだな。何よりだ・・・。」

 

副長「―――?(ここからどうされます?)」

 

提督「予定に変更は無しだ。このままラバウルへ戻ろう。」

 

副長「―。(承知しました。)」

 

提督「さて、朝までもうひと眠りかな、外は蒸し暑くて敵わんようだが。」

 

南半球はまだ夏である―――。

 

 

佐野「終わったか・・・それは良かった。もう船団は出ているんだったね?」

 

由良「はい、既にラバウル基地隊から選抜した人員を乗せた高速船が、追いかける形で出ています。明日正午前までには到着するでしょう。」

 

佐野「分かった、では朝までまた寝るよ、おやすみ・・・。」

 

由良「夜分遅く失礼しました、おやすみなさい。」

 

佐野海将補も、ちゃんとやるべき事は弁えていると言う訳である。

 

 

 6時10分、横鎮近衛艦隊全艦に対し帰投命令が下され、艦娘部隊と空挺部隊が、それぞれポートモレスビー港と同飛行場からの撤収を開始した。

被害こそ大きかったが、ポートモレスビーは元の空を取り戻し、朝日がまぶしく水面を照らしていた。海が元の青さを取り戻すまでには時間を要するだろうが、それも、そう遠い水位の事ではない・・・

 

 

一方、重巡鈴谷に耳寄りな情報が入電した。

 

10時26分 重巡鈴谷前檣楼・羅針艦橋

 

提督「そうか、トラック泊地は無事か!」

 

副長「―――。(こちらがその通信文になります。)」

 

パネルで出された通信文はこのような内容であった。

 

“トラック泊地に来寇せる敵艦隊は、その当初の企図たるトラック潰滅の企図を達成出来ず、パラオからの来援を以ってこれを撃退、現在残存艦艇を以って敗走する敵深海棲艦隊を追撃中なり”

 

提督「返り討ちにしてしまったか。」

 

副長「――――。(大鯨についても連絡が入っております。)」

 

提督「見せてくれ。」

 

そう言うとパネルが切り替わる。

 

“提督へ―――

 ご心配をおかけしてすみません。

私は大丈夫ですので、安心して戻ってきてらして下さいね。

                    ―――大鯨より”

 

提督「―――心配してる事もお見通しですかいそうですかい。」

 

そう言いながら彼は照れ臭そうに笑って頭を掻いたのであった。

 

 

12時40分 ニューギニア島南岸沖

 

暁「・・・。」

 

響「・・・。」

 

雷「・・・。」

 

 この時、第六駆逐隊には重苦しい雰囲気が立ち込めていた。暁と響は互いに口も利かないし、その息の詰まるような雰囲気に雷も言葉を発する事が出来なかった。

明るさと献身が取り柄の第六駆逐隊とも思えぬような光景であったと、周囲の駆逐艦娘達も後に語っている・・・。

 

龍驤「―――なんやて!?」

 

瑞鶴「どうしたの?」

 

龍驤「念の為に出してる哨戒機が、敵を発見してもうた!」

 

金剛「えぇっ!?」

 

瑞鶴「嘘でしょ・・・?」

 

龍驤「これが嘘やったら、どない良かった事か・・・。」

 

瑞鶴「うっ・・・と、兎に角、艦載機隊発艦準備! 敵の規模は?」

 

龍驤「―――最悪やな、およそ10万ときよったで。」

 

瑞鶴「・・・えっ?」

 

金剛「・・・逃げるネ。」(滝汗)

 

瑞鶴「・・・そうね。敵の位置は?」

 

龍驤「うちらの南100kmチョイ、ポートモレスビー目指しとるでこれ・・・。」

 

金剛「ラバウルに通報するネ、それと艦載機を出して進撃を遅らせるデース!」

 

瑞鶴「それしかないわね、了解!」

 

 この時点で、まともに戦えるのは空母部隊だけであるが、その空母部隊も補給用の弾薬の8割以上をはたき切っており、あと1回か2回出撃させられるかどうかと言う所に来ていた。

駆逐艦ですらも攻略の段階で保有弾薬を全て使い切っており、戻りの分の燃料しかない。危機的状況であり敵と遭遇する事さえ許されない状態であった。

 

赤城「戦えるのは、私達だけですか・・・。」

 

加賀「まぁ、仕方ない事ね。」

 

蒼龍「まぁ、やっちゃいましょう。」

 

飛龍「えぇ、そうね。」

 

多聞「ここまでやったのだ、勝たんとな。」

 

4人「「ハイッ!」」

 

かくして、MO作戦最後の戦火は、パプア半島の南まで急迫した、敵深海棲艦隊と横鎮近衛艦隊との間で交わされる事となった。

 

 

14時02分 パプア半島南方90km付近

 

駆逐棲姫「対空戦闘! 対空戦闘!!」

 

よりにもよって駆逐棲姫艦隊の上空は曇天、そこへ横鎮近衛艦隊機が急襲をかけた形となった為対応が遅れていた。

 

ネ級elite「くっ、このタイミングで―――!」

 

駆逐棲姫「落ち着きなさい、機数は多くないわ!」

 

ネ級elite「は、はい!」

 

 ところが曇天だからそう見えるだけで実際には184機が上空にいた。因みに駆逐棲姫艦隊は高速での浸透打撃を編成目的としているが、その関係で空母を帯同していない。これが、駆逐棲姫艦隊の弱点となっていた。

但し必要があれば派遣されるらしく、これまで重要な戦いに出撃してきた際には軽空母以上の存在が確認されてはいる。

 

 

赤松「ちぇっ、俺達の仕事は無しか・・・。」

 

加賀「“そんな訳ないでしょう? 早く機銃掃射してきなさい。”」

 

赤松「20mmを使って来いってかぁ・・・仕方ねぇ。」

 

そう言うと赤松中佐は自身の乗る試製雷電改をダイブさせるのであった。

 

 

猛烈な空襲を掻い潜りながら、駆逐棲姫は思案していた。

 

駆逐棲姫(―――敵に察知され、空襲を受けた。と言う事は、ポートモレスビーは、既に落ちている・・・?)

 

駆逐棲姫がそう推測したのは、来襲機に本来陸上機である雷電が含まれるからだった。ギアリングの記憶さえ正しければ、雷電を艦上運用していた事は無い筈であった。

 

駆逐棲姫(そうなれば、飛行場のある我々が不利、空母もいない我々は―――)

 

度重なる空襲で消耗する事になる―――そう結論付けたのは無理のない事ではあった。

 

ネ級elite「・・・ギアリング様?」

 

駆逐棲姫「退きましょうセーラム、ここは危険になっているみたい。」

 

ネ級elite「―――御意。」

 

 

金剛「反転、デスカー・・・。」

 

瑞鶴「そうみたい。どうする?」

 

金剛「―――逃げの一手ネ、敵に合わせて退くのデース。」

 

瑞鶴「了解。」

 

そもそも、追撃など思いもよらない事なのは確かであった。弾薬もないし、燃料は割とギリギリなのである。更に大破した艦まで抱えて、この上どうして戦えるのか、と言う所であった。

 

 

 その後、2月15日4時23分に重巡鈴谷が、16日9時54分に艦娘部隊が、それぞれラバウル基地の指定錨泊地に帰投、合流した。

艦娘艦隊は響を含む大破艦3、中破艦16、小破未満21隻の損害と、陸戦妖精の1割以上を失う戦いであった。艦載機も、被撃墜と修理不能機を合わせ138機を数えたのだった・・・。

 

 

2月16日15時29分 重巡鈴谷前檣楼・艦長室

 

提督「―――よし、大淀。響をここに呼んでくれ。」

 

大淀「分かりました。」

 

事の発端は、雷と暁が大淀を通じて、ポートモレスビー沖での一連の出来事を報告した事だった。

 

提督(―――真意を聞こうか。俺自身、思う所がないでもないしな・・・。)

 

彼はそう思い、響を呼び出す事にしたのである。

 

 

大淀「提督、お連れしました。」

 

響「失礼するよ―――。」

 

10分後、響が艦長室に来た。響はその艦長室に同型の2人がいた事で用件を悟ったようだ。

 

提督「響、二人から話は聞かせて貰った。」

 

響「・・・そうか。」

 

提督「―――俺が今から言う事は分かっているようだな。お前は暁に対する敵の砲撃に際し、暁が余裕で回避できるにも拘らず、わざわざかばって入り、挙句大破した。そうだな?」

 

響「・・・“余裕で回避出来た”だって? それをどうやって証明出来るんだい?」

 

提督「暁の身体能力だ。同じ姉妹なら知らぬ筈があるまい?」

 

響「能力か・・・言って置くけど、暁の動体視力だって絶対ではない。それは分かるだろう?」

 

提督「当たり前だ。人間だれしも限界はある。」

 

響「その限界を、暁自身が知らないとしたら?」

 

暁「響、アンタ―――!」

 

言い募ろうとした暁を直人は右手を挙げて制止した。その後首を振った事で暁は彼が何を言いたいかを悟った。「言わせてやれ。」彼はそう言いたかったのだ。

 

響「人間は常々自分の限界を見極めていない、或いは見極められない生き物だ。もし暁がかわせると思っても、その実本当は自分の能力を過信しているのであれば、暁は被弾する事になる。」

 

提督「だからその事を考え敢えて守りに割って入ったと?」

 

響「そうさ。もう、誰も失いたくはないからね。」

 

提督「成程、響の言いたい事は分かった。そこには同情の余地がない訳ではない。」

 

雷「―――でも、“同情”は出来ても“称賛”される筋のものではないわね。」

 

提督「そうだな。響は今回の事で二つ罪と言えるものを犯した。」

 

響「・・・それは何だと言うんだい?」

 

提督「一つは必要もないのに自らの生命を危険に晒した事。もう一つは―――」

 

 

“暁の事を信頼してあげなかった事”

 

 

暁「!」

 

雷「―――!」

 

響「・・・。」

 

提督「響はソ連に渡り、艦名を“信頼出来る(ヴェールヌイ)”と改めている。日本語ではその言葉は二つのニュアンスを持つ。

他者からの評価として、“その人を信頼出来る”と言う事ともう一つ、“その人が他人を信頼出来る人である”と言う事だ。今回の行いは決して、ヴェールヌイの名には値しない。むしろ名が泣くだろうな。」

 

響「・・・司令に何が分かるって言うんだい?」

 

その声と瞳には、静かな怒りが込められていた。

 

響「戦い敗れ、寒い異国の地で暮らす事を強要され、誇りとした名も、かつて在った仲間も姉妹も祖国も何もかもを失った。

もうこれ以上、何かを失う事に、私は耐えられない。それがもし、再び巡り合えた姉や妹達であるならば、私は今度こそ、誇りを持って死んで逝ける。」

 

提督「“誇りを持って死ぬ”だと?」

 

響「()()()()()()()()()司令官には分からないだろうね。」

 

提督「―――!」

 

その言葉は、彼を憤慨させるものだった。

 

提督「俺が、何も失って来なかったと言うのか? 本当に?」

 

響「平和な時代に暮らしてきた人間に、何も分かる筈はないだろう?」

 

提督「ふざけるな!」

 

響「―――!?」

 

暁「!!」

 

雷(あ、これ地雷踏んだわね。)

 

嫌なほど冷静の状況を分析している雷である。

 

提督「響、この戦争が、我が国で何年続いているか知っているか?」

 

響「―――?」

 

提督「“9年”だ。始まったのは今から9年前、関東平野が一面焼き尽くされてからの事だ。」

 

響「・・・。」

 

提督「長い戦争の時間の中で、艦娘がいたのはたったの4年、組織化されたのは僅かに2年間だけだ。それまでは為すがまま、本土は大打撃を受けた。人も沢山死んだ。大勢の難民が生まれ、沢山の孤児と未亡人だって生まれたんだ。」

 

響「―――!」

 

実は艦娘は、自分が生まれる以前の戦争の事を知らない。持つのは現世で生きる為の知識と、往時の記憶のみ。歴史の知識を持ち合わせていないのである。

 

提督「俺が何も失っていないと言ったな? そんな筈がないだろう、この国で何も失わなかった者なんて、今の世代には一人だっていない。俺だって、多くを失った。」

 

響「何を失ったと言うんだい?」

 

提督「―――“()()()()()”だよ、響。」

 

響「ッ―――!」

 

普通の生活。皆で笑い合い、はしゃぎ合い、泣いて笑って時には怒って・・・

 

提督「―――三食食って、家族と過ごして、トランペットが吹けるそんな生活。俺の人生は、トランぺッターで終わる筈だったんだ。それが戦争が始まり、俺は巨大艤装のテスターとなり、その未来を喪ってしまった。それも永遠に―――」

 

響「・・・。」

 

彼は最初、国に尽くす事が出来ると大はしゃぎで為すべき事をした。あとから思えば、それは後悔へと変わっていた。しかしそれでも今、彼は忠国と救国の志の元で戦い続けている。

 

提督「確かにお前の言う通り、戦争が始まるまで俺は普通の人間だった。だが戦争でそれは全て変わってしまったんだ。そしてそれからは闘いの日々だ。戦って、戦って、沢山の仲間を失った。ここに来てもまた、吹雪を失った。これ以上喪うのはもうごめんだ! これでも尚、俺が何も失わなかったと言えるか?!」

 

彼の運命とその人生は壮絶だった。その人生は、一市民に過ぎなかった彼の心さえ変えてしまったのであった。当然である。そんな苛烈な運命に、普通の人間が―――その心が耐えられる筈はなかったのである。

 

響「名演説だね、普通の人なら感服するだろうね。お互い、いろんなものを喪って来たんだね・・・。」

 

提督「この世界で何も失ってない奴は、余程幸せだと思うよ? 俺も時々思う事がある。」

 

響「―――一応聞いておくよ?」

 

提督「・・・“今すぐ死ねたら、どんなに楽だろう”、とね。少なくとも、これ以上何かを失わずに済むからね。」

 

3人「―――!」

 

その言葉に響以外の3人は思わず言葉を飲んだ。

 

響「・・・確かに、そうだね。」

 

提督「―――だが、死んでしまったらそれを取り戻す事も出来なくなる。失った物も失ったまま。それは嫌だ。」

 

響「・・・そこまでして、司令官は何を取り戻したいんだい?」

 

提督「俺はそうだな、もう元通りとまではいかないだろうが、それでも“普通の生活”がしたいねぇ。元の日常に帰りたいと思う事がままある。その点響はもう失った物を一つは取り返しているじゃぁないか。」

 

響「・・・?」

 

提督「―――“祖国”だよ。正確には祖国の土だけどね。」

 

響「・・・確かにね。私は日本に帰ってこれているかもしれないね。でもそれはあの日の日本じゃない。」

 

提督「俺も、物心ついた頃の日本が懐かしいよ全く・・・。」

 

 祖国を喪失した響と、平穏な日常を失った直人。ニュアンスこそ異なるが、その意味する所はとどのつまり同じである。

何故なら響は元より戦う為の存在であるから、戦争になれば戦うのは当然だ。だが戦い敗れ、自身が守り続けてきた祖国を離れ遠い異国で異国の命令で任務に就いたのが響であった。

 一方で、戦いと縁遠い平穏な生活から急転直下、戦争の過酷な世界へと追い込まれ、自らも国の命令で戦いの渦中へと身を投じた事によって、自らの運命すらも狂わされてしまった、民間人の一青年がいたとしたら・・・。

 

提督「・・・響、一つだけ言って置く。」

 

響「なんだい?」

 

提督「“何かを守り抜く”と言う意思は、それ自体が非常に珍重すべきものだ。だが、その為に自分を犠牲にする事は決してするな。それは、遺していった者達に、お前が味わったのと同じ思いをさせる事になる。特Ⅰ型の皆は、もうその想いを嫌と言う程味わった。これ以上、お前の姉妹を悲しませるなよ。お前が失って悲しんだように。」

 

響「・・・肝に銘じておくよ。」

 

提督「うん。退室していいよ。」

 

響「分かった、失礼するよ。」

 

そう言って響は艦長室を後にする。

 

提督「・・・やれやれ。これでまた、うかうか死ねなくなったなぁ~。」

 

大淀「当然です、今死なれては私達がたまったものじゃありませんよ。」

 

暁・雷「「そうよそうよ!」」

 

提督「はいはい・・・。」

 

 苦笑しながらそう応じる直人だった。

結局のところ、響と直人は性質的な面で似ていたと言う事が言える。しかしそれは時として危険な思想に人を走らせる。

彼はそうでもないが、響がそうでなかったとしたら、事態はより最悪に近いものだったのかもしれない事を考えれば、直人の言う“全てを守る”と言う考えは、崇高でもあり危険極まりないものなのかも知れなかった。

 

 

その後、ラバウルから引き上げの準備をしている最中の事である。

 

2月18日10時11分 重巡鈴谷前檣楼・艦長室

 

提督「うん、相変わらず、伊良湖の最中(モナカ)は美味しいねぇ。」

 

伊良湖「ありがとうございます。」

 

 

コンコン・・・

 

 

提督「ん・・・入れ!」

 

大淀「失礼します!」

 

艦長室に現れたのは2日前と同じく大淀であった。

 

大淀「あら、伊良湖さん、提督に最中を振舞っていらしたのですね。」

 

伊良湖「はい、大淀さんもおひとつどうですか?」

 

大淀「頂きます。」

 

素直なのはいい事である。

 

提督「ハハハ・・・。ところで、どうしたんだ?」

 

一口頬張りながら直人は聞いた。

 

大淀「大本営から通信文が届きました。」

 

提督「内容は?」

 

大淀「はい。横鎮近衛艦隊は、爾後(じご)の敵の動向に策応する為、現地に留まり向後(こうご)を策するべし。との事でした。」

 

提督「は!? 帰れねぇの今回!?」

 

伊良湖「まぁ・・・。」

 

大淀「そう言う事になります。」

 

提督「待て待て、修理が必要な艦もいるんだぞ、それはどうするんだ?」

 

大淀「ラバウル第1艦隊の施設を用いるように、との事です。」

 

提督「えー・・・?」(;´・ω・)

 

少なからず困惑したのは事実であった。こんな指示は初めてである。

 

提督「ドロップ判定はー?」

 

大淀「以上に同じですね。」

 

提督「・・・。」\(^o^)/オワタ

 

つまるところこれは、ラバウルへの残留指示であった。ソロモン方面の情勢が安定していない事に対する措置であった。一方この2日の間に、ブーゲンビル島の敵は急速にその数を減じていた。と言うのもこれは、深海側がブーゲンビル島方面から戦力を引き抜いていたからだった。

 

提督「てことは何・・・? 次はブーゲンビル占領?」

 

大淀「その位の事はラバウルでやるでしょうね。」

 

提督「まぁ待機だな・・・。」

 

大淀「はい。」

 

提督「うーん・・・伊良湖と防備艦隊は一旦サイパンへ戻そう。」

 

伊良湖「ど、どうしてですか?」

 

提督「補給だよ補給。護衛に第十七駆逐隊も付けるから。」

 

伊良湖「あ・・・分かりました。」

 

大淀「ドロップ判定はどうしますか?」

 

提督「それについても夕張にやって貰うしかない、ご苦労だが運搬を頼めるか?」

 

伊良湖「分かりました、お引き受けします。」

 

提督「うん。では準備が出来次第、サイパンへ発ってくれ。こちらも準備を急がせる。大淀!」

 

大淀「直ちに!」

 

 かくして、伊良湖と十七駆の一時サイパン帰投と、サイパン防備艦隊選抜部隊の動員解除の決定を以って、重巡鈴谷は艦隊を動員したまま、ラバウルへと残る事になった。

ついでに柑橘類中佐のサイパン空は、空挺部隊と共にサイパンへと戻り、艦隊不在の間の防衛に就く事とされ原隊へと復帰して行ったのであった。

 

 

提督「と言う事で暫く世話になる事になった。物資等はそちらへの充当分とは別にラバウル基地が手配してくれるから、それを補充して頂くと言う方向でいい事になっている。」

 

広瀬「は、はい。精一杯務めさせて頂きます!」

 

提督「ハハ、そう硬くならんでいいよ。補給の手間が少し増えるが、頼まれてくれ。あと連絡武官として球磨を置いておくから、何かあったら球磨に言ってくれ。」

 

球磨「宜しくクマ。」

 

広瀬「よ、宜しくお願いします。」

 

提督「球磨よ、前途有望な艦娘達の着任してくる司令部だ、変な事吹き込むなよ?」

 

球磨「一体提督は球磨を何だと思ってるクマ・・・。」

 

因みに言って置くと、ここの球磨は割としっかり者の長女である。

 

提督「アッハッハ! まぁまぁ冗談だ。それでは俺はラバウル基地の司令部にも顔を出さねばならんから、これでな。」

 

広瀬「あ、あの―――!」

 

提督「ん? どうした?」

 

広瀬「その・・・無事の御帰還、改めて、お喜び申し上げます!」

 

提督「・・・ふっ、ありがとうな。」

 

 そう言って直人は颯爽と広瀬中佐の執務室を後にする。まだまだ未熟で若い広瀬にとって、この直人の背中はどれほど大きく、精悍に、頼もしく映ったことだろう。

ただ、当の直人は広瀬に頼らねばならないと言う事については、あのような小さな子にまで国運を担わせて良いものなのだろうかと言う想いも混じって複雑な心境であった。

 

 

佐野「すまないねぇ、紀伊元帥。お手数おかけするけど、宜しくお願いするよ。」

 

提督「これも命令ですからねぇ。」

 

佐野「そうだね・・・我々は民主国家の軍人だ、命令には絶対服従でないとね。」

 

提督「耳が痛とう御座います。」

 

苦笑して応じる。ラバウル第1艦隊に顔を出した彼はその足で鈴谷の11m内火艇を使い、ラバウル基地司令部に出頭したのだ。

 

佐野「さしあたって必要なものはあるかい? あればこちらで手配するが・・・」

 

提督「取り急ぎはありません。伊良湖を往復させれば事足りるでしょう。ただ、これが長期に渡ると何かと問題が出ると思われますので、その際はお願いしたいと思います。」

 

佐野「うん。君の担当海面の手前、早く返してあげたいが、これは私の一存では決められないからね。」

 

提督「大本営の直々のお声がかりですからね。」

 

佐野「君達に対する指揮権を持っていないのもある。」

 

提督「確かにそうですね。」

 

佐野「まぁ、今はまだ何もない所だが、ゆっくりして行ってくれ。」

 

提督「そうさせて頂きます。尤も、敵がゆっくりさせてくれるかと言う問題もありますが。」

 

佐野「まぁ全力を尽くすとしよう。君達のおかげで、随分と楽になったからね。」

 

提督「そう言って頂けると、恐縮です。」

 

佐野海将補と紀伊直人、この二人も案外と似た者同士かも知れない一面があるようである。

 

 

―――ポートモレスビー攻略は、辛うじて成功に終わった。

 

 艦隊戦での勝利、航空撃滅戦での勝利、地上戦での勝利を手にし、ポートモレスビーを陥落させたところまでは良かったが、今一歩で作戦は完全に失敗する所であった。

駆逐棲姫はあの時、一挙に殲滅を期するべきだったのである。

しかし試製雷電改を見た駆逐棲姫は、それが航空基地からの攻撃であると錯覚して、全艦隊に反転を命じ、タウンスビルへと戻ってしまったのである。後に駆逐棲姫ギアリングは、この判断は誤りだった事を認めると同時に、当時の所謂“例の艦隊”に対する情報の無さに言及している。

 結局のところ、戦争とは正確な情報を掴み得る者が勝利するのである。これは近代以降常識となってきた戦争のやり方であった。であるが故に諜報とは基本であり、それを如何に行いうるかが非常に重要な訳だ。

そして南東方面には今、横鎮近衛艦隊主力が、重巡鈴谷や提督と共にそこに在った。

大本営の命令で進出を命じられた彼らは、ラバウルで自分達が出来る事をなるべくやろうと、既に訓練も始めていたのであった。

 

 2054年は、めまぐるしく勢力図が塗り替えられた年であり、激闘の連続だったと公式戦史も記述している。しかしそれらは近衛艦隊の活躍があった事を一文たりとも記述していないのだった―――。

*1
ラバウル管制塔のコールサイン




艦娘ファイルNo.124

大鯨型潜水母艦 大鯨

装備1:12.7cm連装高角砲
装備2:毘式40mm連装機銃

第一潜水艦隊待望の潜水母艦として着任した艦娘。
特異点は特に無く、潜水艦達のお母さん的な存在である。
敵のトラック環礁襲撃の際はウェーク方面への通商破壊を支援する為トラック泊地付近に進出していたが、トラック泊地艦隊の必死の防戦により辛うじて難を逃れている。

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