異聞 艦隊これくしょん~艦これ~ 横鎮近衛艦隊奮戦録   作:フリードリヒ提督

54 / 66
やぁ皆、本当に久しぶりだね、天の声だよ。

青葉「どうも恐縮です、青葉ですぅ! お久しぶりです!」

前章では途中スランプに陥ってしまい、申し訳ありませんでした。率直に言うと、「これが五月病か」と思いました。

青葉「6月の初め頃まで続きましたね。」

スランプ後に小説を書こうとするとゲームの時間を多く使い過ぎていて、泣く泣くアズレンを今プレイしていません。

青葉「単純にする事(出来る事)が無いだけですよね?」

そうとも言う。どんなイベントが来ても報酬取れるだけの必勝態勢は整えてある訳で、それだけにマンネリ化してモチベが続きませんハイ。

青葉「ゲームあるあるですねー・・・。」

(別ゲーの話すな!by作者)←分かる人には分かる新喜劇風

艦これの進捗についてですが、何とか春の食材は集めきって装備は2つとも手にしました。先制対潜はかなり楽になったと思います。

青葉「これまでの対潜装備とは比較になりませんからねー。」

そうだね、これまでのイベント攻略の条件と比較するとこれは一つのアドバンテージにもなり得るので、有効活用したい所やね。

さて、今日の解説に行こう。今日の解説は「非水上型超兵器」についてだよ。


非水上型と呼ばれるカテゴリーは、艦艇の形を取らない超兵器に与えられたカテゴリーになる。即ち航空機や地上車両などの事を指す。

実はこれにも意外と種類がある。例えば前章でもお披露目したアルケオプテリクスが代表例で、12インチ砲と対14インチ砲防御で「空中戦艦」の異名を欲しいままにしていた事は述べた通り。

他にもドイツの飛行型超兵器「フォーゲルシュメーラ」は、ジェットエンジンでホバリングしながら移動し、尻尾のような構造の先に付いた大口径レーザーで攻撃を仕掛けてくるというもの。これは完成前に終戦となってお蔵入りになっている。

ドイツのもう一つの飛行型超兵器「ヴリルオーディン」は文字通りの円盤型飛行物体で、レーザーや実弾を織り交ぜた多彩な攻撃手段と、とんでもなく速い速力が見込まれたがこれも製作途中で終戦。

そんな中でドイツの送り出す事の出来た非水上型超兵器は二つ。

一つは超巨大列車砲「ドーラ・ドルヒ」。160cm口径と言う規格外の火砲を多数の気球を用いた弾着観測射撃で運用する専用の超兵器と言う贅沢ぶりで、大きい物好きのヒトラーもご満悦の品。連合軍からは「隕石投射機(メテオモーター)」の異名で呼ばれてもいた。イギリス本土砲撃の他にバルジの戦いやライン防衛線、セヴァストポリ攻略でも使用され、絶大な威力を発揮したのだが、ハノーファーの戦いで遂に破壊されてしまった。

もう一つは超巨大陸上戦艦「スレイプニル」で、80cm砲を全周砲塔として搭載した他、強力で多種多様な兵装と強力な装甲板を備えていた事で知られる。この為艦砲では破壊出来ず、ノルマンディー上陸作戦の際はこれを前に艦艇も多大な損害を出しているものの、唯一、足回りの弱さと足元に攻撃出来ないと言う弱点を衝かれてシェルブール近郊で擱座、行動不能となった。

計画のみで終わったものとして、ソ連の超兵器「ソヴィエツキー・ソユーズ」もこの部類に入る。これは驚きの衛星型超兵器であり、実用化されたら手も足も出なかった所なのだが、極秘裏のプロジェクトであった事から間一髪のところで国連の「宇宙条約」成立を以って実用化は打ち切られている。

が、ソ連も立派に超兵器を作って実戦投入もしている。それが「ジュラーヴリグ」である。第二次大戦中ソ連が実用化したこの唯一の超兵器は、3ローター対地攻撃ヘリと言う凶悪な代物であったが、日ソ戦の際日本海で戦艦三笠と遭遇した際は対地攻撃を主務としていたと言う事も手伝ってか手も足も出ず一方的に撃墜される運命を辿り、日本海軍最後の勝利を献上する羽目になっている。

最後に、超兵器の研究開発は、1947年度国連決議による「超兵器機関利用に関する平和利用及び軍縮条約」によって、全ての国がそのプロジェクトを放棄している。大国の中で唯一批准も署名もしなかったソ連も、冷戦期の1972年5月にアメリカと結ばれた「第一次戦略兵器制限交渉」で、アメリカに対する切り札として低予算で細々と続けられた超兵器開発の芽を完全に断ち切られた事から、今日に至るまで“新たな超兵器”は出現していない。少なくともその筈である。


以上です。

青葉「・・・最後の一文なんですこれ・・・。」

なんでしょうね?

青葉「いや意味深すぎるでしょう!? 青葉気になります!」

まぁ、御想像にお任せすると言う事で。

青葉「しかも全投げ!?」

その方が皆も面白いやん?

青葉「それは・・・まぁ。」

と言う事で、本編行っちゃいましょう。スタートですよっ!


第3部10章~海軍休日(ネーバルホリデー)

2054年3月10日15時05分 甘味処『間宮』―――

 

大淀「―――空母棲姫が、亡命を求めています! 提督を頼ってです!!」

 

提督「何ッ!?」ガタッ

 

間宮「まぁ!」

 

横鎮近衛艦隊にはやたらと捨て犬が寄ってくる、と言っても過言ではない位、サイパン島には深海棲艦との縁があるようで、しかも今回はその中でも特大のものだった。

 

深海棲艦の姫級の中でもかなり上位に入ると目されているその一柱である、空母棲姫がサイパンに来たと言うのだ。しかも亡命を求めてである!

 

提督「どういう事なんだ!? 奴は限りなく中枢に近いと思っていたが・・・。」

 

大淀「分かりません。ですが空母棲姫は、私達の普段使っている常用回線を使って交信を行い、正式な形で申請をしてきました。」

 

提督「無碍にすれば非礼に当たる、か。やれやれ、選択の余地はなさそうだ。だが―――」

 

大淀「・・・?」

 

提督「このパフェ食ってからだ。これは後には出来んぞぉ?」

 

大淀「た、確かにそうですね、それまでに入港の手続きと面会の準備を済ませておきます。」

 

提督「任せた。」

 

スイーツが好きなら、それが理解出来る。その方法で大淀を一旦退けた彼は、改めて思う存分に間宮特製スペシャルパフェを堪能したのであった・・・。

 

 

15時40分 中央棟2F・貴賓室

 

空母棲姫―――アルウスは、直人の執務室の隣である貴賓室に通された。

 

空母棲姫「ほう、思っていたほど派手ではないな、調度品も落ち着いた物を用いている。」

 

大淀「提督は、余り派手さを好みませんから。」

 

空母棲姫「戦場とは別、と言う訳か。」

 

大淀「・・・。」

 

 

コンコン

 

 

ノックの音と共に、大淀が扉を開けると、案の定ノックをしたのは直人であった。

 

提督「―――久しぶりだね、アルウス。こうして、戦場以外で会う事になるとは思わなかったが。」

 

空母棲姫「あぁ、全くだ。これも何かの腐れ縁と言う奴かも知れん。」

 

提督「確かにな。」

 

鳳翔「失礼します。」

 

すぐ後ろに控えていた鳳翔が声を掛ける。

 

提督「おう、飲み物か。」

 

鳳翔「はい、お持ちしました。」

 

提督「さて、紅茶でも飲みながら、じっくり話をするとしよう。愛媛産の茶葉だ、最近の日本紅茶は美味いぞ。」

 

空母棲姫「お気遣い感謝する。」

 

直人が席に着くと、鳳翔が紅茶を入れて退出する。貴賓室には直人と大淀、アルウスとその副官たるル級改Flag「インディアナ」のみが残った。インディアナの識別点としては、米海軍の将官用軍帽を被り、左胸に略綬(りゃくじゅ)を2段に付けている。因みに略綬とは、その軍人が受賞した勲章などを簡潔に示す際に用いる特殊なリボンである。

 

提督「―――それで、我々に対し、亡命をご希望と言う事だったが。」

 

直人が本題を切り出した。

 

空母棲姫「・・・その通りだ。私と、ここにいるインディアナ、そして私の麾下部隊である58TF、5680隻のそちらへの亡命を希望する。」

 

提督「部隊ごとの亡命は今では最早珍しい事でないからいいとしても、貴官らはこれからどうするつもりだ?」

 

空母棲姫「出来れば、講和派への参加を希望する。」

 

提督「・・・成程。大淀、アイダホに連絡を取ってくれ。」

 

大淀「直ちに。」

 

そう言って大淀が貴賓室を後にする。

 

提督「―――しかし因果なものだ。深海の擁護者であった筈の貴官まで、擁護してきた体制を捨てる事になると言うのは。」

 

空母棲姫「勘違いしないで欲しい。元々私は、深海に於ける政略の類に関心は無い。ただ命令に従って来ただけなのだ、よって人類に対する執着もない。我々は軍人であり、ただ命令に沿う事が主命であった筈なのだ。だが、その功績は報いられるべきものだ。その功績が、徐々に深海全体にとって当然のものと言う事になりつつある。」

 

提督「・・・失礼だが、我々が勝ち過ぎている、と言う事か。」

 

空母棲姫「―――端的に言えば、そう言う事だ。貴官らが連勝する毎に、我らの上層部―――だった者達は、深海全軍に対し大勝利を求めている。そしてその要求は次第に実態を無視し、多少の勝利は深海にとっては取るに足らない“当たり前のもの”と言う評価しか与えられなくなりつつある。武人として、それがどれ程の屈辱であるか、貴官には理解出来るだろう?」

 

提督「・・・そうだな。他者に評価される為に戦っている訳ではないが、軍事的功績に対する評価と言うものは相対的なものだ。そして軍人と言うものは、かつての主君と騎士の時から本質は変わらない。功績に対して恩賞が与えられるからこそ、主君は騎士から忠誠を集められる。恩賞を与えない主君は、部下からも見放され倒される運命だ。」

 

空母棲姫「私もそう思う。」

 

提督「その点で私は恵まれない存在なのだろう。我々は、常世では鬼籍の身、上からの恩賞など貰えないが、それを不断の支援によって頂いている身だ。」

 

空母棲姫「そうだったのか・・・お互い、恵まれざる身の上だな。」

 

提督「全くだ。だが私は今の身の上にはそれなりに満足しているつもりだ。少なくとも十分以上の支援と、提督と言う枠を超えた優先裁量権を頂いている身だ、その期待には応えなくてはなるまい。それも武人としての在り方だと思う。」

 

空母棲姫「―――貴官は立派な武人だ。貴官の在り方を是非、深海のお歴々の前でも披露して貰いたいものだと心から思う。」

 

提督「そこまで言われると恐縮の限りだが、それが出来れば、この戦争はもっと早くに終わっているか、或いはより良き、フェアプレーに則った正々堂々たる戦いになっただろうと思う。」

 

空母棲姫「そうだな、今の深海上層部は、あれでいて敵を作り過ぎた。表向きは従順でも、裏で舌を出す連中は大勢いると言う事を彼らも知っているが、その数と、その秘匿性が高過ぎる事から手をこまねいているだけなのだ。

つまり彼らは、内なる敵がどこに居るかが分からないと言う事。またいつ何時、大粛清が始まらないとは、最早言えんのだ。そして私もそうなった時は、恐らく粛清されるだろうと言うのは、想像に難くない。

 私は些か負けすぎた、徐々に立場も発言権も失い、上からの信任も地に堕ちつつある。故に、亡命を決意したのだ。」

 

提督「―――その際、部下に累を及ぼさぬように、その部下も連れ立ってきた、と言う事だな。いや、貴官も立派な武人であり上司だ、貴方の人柄に触れる事が出来て、私も光栄に思う。

深海にも貴官の様な武人がいる事を知れただけでも、今日この席を持った甲斐があったと言うものです。」

 

空母棲姫「初期の頃に生まれた者は兎も角、ある時期を境に深海が“心”と言うものに触れてから生まれた個体は、メンタリティに於いて貴官ら人類に相応に近くなっている。そうした過程に於いて、武人然とした者達が出てくるのもむしろ自然な事だろうと思う。

私だけでなく、そうした者達が少ないながらも、深海にはまだまだいると言う事を、心に留めて欲しいと願う。」

 

提督「よく分かりました。深海棲艦隊と戦う身として、その事を深く心に銘記しましょう。戦場に於いて、戦う相手に敬意を表する事は、罪ではない筈です。」

 

空母棲姫「私もそうして、対峙した者達と戦ってきたつもりだ。」

 

 

コンコン・・・

 

 

提督「入れ!」

 

大淀「失礼します。提督、アイダホさんと連絡がつきました、偶然近傍の海域にいたとの事で、アルティさんと一緒に間もなくお見えになります。」

 

提督「分かった。」

 

空母棲姫「アルティも加わっていたのか・・・。」

 

提督「あぁ、そうだな。」

 

空母棲姫「久しく会っていないな、元気にしていたか?」

 

提督「そりゃぁもう。元は横鎮預かりだったものを引き取って捕虜収容所の所長を頼んでいたのだが、講和派深海棲艦が来たと言うもんで、その捕虜達と共に合流して行ったのさ。」

 

空母棲姫「そうだったのか・・・いや、元気そうだと言うのは良く分かった。」

 

提督「向こうにいた時からの知り合いだったのか?」

 

空母棲姫「あぁ、友と呼ぶべきなのだろうな。奴が亡命したと聞いた時は驚きもしたし、寂しくもなったし、憤りを覚えもした。だが今こうしてここに来てみると、奴の気持ちも分かるような気がするのだ。」

 

提督「そうか・・・。」

 

深海のメンタリティは人類に近いと言うアルウスの発言は嘘ではない。直人がそう思ったのはこの時であった。

 

 

10分程して、アルティとアイダホが貴賓室に姿を見せる。

 

アルティとアルウスは再会の握手を交わし、各々席に着く。

 

アイダホ「改めて、私が講和派深海棲艦隊戦闘部隊を管理している、北方棲姫様の副官、アイダホと言う。」

 

アルウス「空母棲姫、アルウスだ。」

 

アイダホ「講和派深海棲艦隊―――我々の勢力に参加する、と言う事だったが、我々に付く以上、強硬派の連中と刃を交える事になる。その事について思う所があるならば、辞退される事を勧めるが、どうだろうか?」

 

アルウス「強硬派・・・そうだな、今の彼らに、思う事は余りない。いい加減、彼女らには頭を冷やして貰おうと思う。」

 

アイダホ「そうですか・・・いや、それならば、我らはあなたを歓迎します。」

 

アルウス「ありがとう。微力を尽くさせて貰う。」

 

アイダホ「空母棲姫様が加わって頂けるなら、非常に心強く思います。」

 

アルウス「早速、非礼を承知で一つ伺いたい事があるのだが。」

 

アイダホ「伺いましょう。」

 

アルウス「失礼ながら、今の講和派は求心力を欠いているように思うのだが。中心に北方棲姫、実戦部隊を貴官やアルティが統率する現時点での首脳陣の構築は悪くはないが、精神的に円熟しているとは到底言えない北方棲姫様では、些か求心力に欠くし、軍事上の実績に縁遠い指揮官が多いと見受ける。」

 

アイダホ「いや、耳の痛い話です。」

 

アルウス「そこでこうしてはどうだろう。恐らく貴官は私に最高指揮官への就任も打診に来たのだろう?」

 

アイダホ「御推察の通りです。」

 

アルウス「そこで私はその打診を快諾する、そしてそれを全世界に向け大々的に公表する。同時にグァム沖で演習もやろう。要は全世界的に講和派深海棲艦の勢力を、今一度知らしめると同時に、亡命者で構成される講和派の結束を強化する訳だ。」

 

アイダホ「しかしそれは、敵の大規模攻勢を招きはしないでしょうか・・・?」

 

アルウス「それがあるならば、とっくの昔に大規模な波状攻撃をやっているだろうさ。きっかけなど、私を待たずに済んだ筈だしな。」

 

提督「我々が今ここにいる、艦娘艦隊がこの世存在するそれだけでも、奴らにはきっかけ足り得る、と言う事だな?」

 

アルウス「そのせいで、我々の同胞が多大な苦労を掛けさせている事については詫びて置くが、それは兎も角としても、私が今この様な形で表に出た所で、敵が攻撃してくるリスクは余り考えなくていい。トラック方面で散々痛めつけられた直後と言う事もある。」

 

この時のアルウスは、ガ島北方沖で直人ら近衛艦隊が16TFを撃滅した事については情報を得ていないので、16TFの話が引き合いに出ていなかった。が、直人は敢えてそれを口に出さなかった。

 

アルウス「少なくとも私が実戦部隊の長に付いたと知れば、穏健派や中立派と呼ばれるような者達も起つ気になる者が出る筈だ。要するに、相応に実績のある者に、自ずと皆付いて行きたがる者であると言う心理を利用するんだ。」

 

アルティ「それでいて戦力の増強にも繋がる・・・。」

 

提督「一石二鳥のいい見本だな。外野は大人しく見守らせて貰うとしよう。」

 

他人事の様に言う直人である。まぁ実際他人事ではあるが。

 

アルウス「どうかな、この案は。」

 

アイダホ「やってみましょう。それからでも遅くはありません。強力な友軍もいますし。」

 

アルウス「決まりだな。改めて、宜しく頼む。」

 

アイダホ「こちらこそ。」

 

アルウスとアイダホ、盟友となった二人が握手を交わす。暫くして、それぞれが思い思いに貴賓室を後にするのであった。

 

 

3月11日10時51分 中央棟2F・提督執務室

 

大淀「さぁ、ラストスパートですよ!」

 

提督「うへ~・・・」

 

直人はこの時、執務に精を出していた、と言うよりは追われていた。

 

金剛「ファイトデース提督ー!」

 

提督「おーう・・・。」

 

逃げ道は存在しなかったが、

 

明石「提督! ドロップ判定完了です!」

 

提督「ほい来たいきましょう―――」

 

大淀「ダメです。明石さん、着任された方をこちらにお呼びして下さい。」

 

明石「あ、分かりました・・・。」

 

提督「大淀ォ・・・。」

 

大淀「仕事をして下さい仕事を。」

 

最後の光明さえ潰される辺りが何とも言えない所である。

 

 

そんな訳で・・・

 

 

「うち、浦風じゃ! よろしくね!」

 

「私、綾波型駆逐艦『朧』。よろしく。」

 

「霰です・・・んちゃ、とかは言いません・・・宜しく。」

 

「私が鳥海です。よろしくです。」

 

提督「うむ、宜しく頼む。高雄、四姉妹集結、まずはおめでとうと言わせて貰う。4人をあちこち案内してやってくれ。」

 

高雄「分かりました、提督。」

 

直人はそう短く挨拶を済ませると、高雄が鳥海ら4人を連れ立って執務室を去った。

 

提督「・・・しょうがねぇな全く。」

 

大淀「早く済ませて下さい。」

 

提督「分かった、分かったよ。」

 

実を言うと、提出期限ぎりぎりの書類が数枚あるのである。急き立てられているのはそのせいであった。

 

 

コンコン・・・

 

 

提督「どうぞ!」

 

榛名「失礼します。提督、お茶をお持ちしました。」

 

提督「おぉ。ありがとう、頂こう。」

 

金剛「Thanks(ありがとう)!」

 

榛名「それと、白雪さんから電文が届いたと言う事で、これをお預かりして来たのですが・・・。」

 

大淀「ちょっと見せて下さい。」

 

榛名「あ、はい。」

 

榛名が大淀に電文を手渡し、大淀がそれに目を通すと、内容は既に解読された後であった。

 

大淀「提督、これを。」

 

提督「うん。・・・うん?」

 

そこに記されていたのは次のような内容であった。

 

 

“発:横須賀鎮守府

  軍令部

宛:横鎮近衛艦隊司令官

 

・本文

柱島第444艦隊より演習の打診あり。

貴艦隊、状況知らせ。”

 

 

提督「演習の打診、だと?」

 

大淀「珍しいですね・・・。」

 

提督「それよりも、だ。何故我が艦隊に演習の打診が来るんだ、おかしいと思わんか。」

 

大淀「あっ、確かにそうですね。」

 

提督「至急青葉に知らせて、この艦隊の事を調べさせよう。」

 

大淀「返答はどうしますか?」

 

提督「返答は・・・そうだな。ありのままを伝えておこう。」

 

大淀「分かりました。」

 

そこまで話して直人は茶飲みに手を伸ばす。

 

提督「ズズ・・・おっ。榛名、いい腕だよ。玉露だね。」

 

榛名「ありがとうございます、その通りです。」

 

提督「後ろで金剛は渋そうにしてるがね。」

 

榛名「あら。」

 

金剛「見ちゃ嫌デース!」

 

提督「―――フフッ。」

 

榛名「・・・。」ニコッ

 

その和やかな光景に、直人は思わず笑った。それは紛れもなく、平和で平穏なひと時であったと言えるだろう。

 

 

~2日後~

 

 

3月13日15時26分 サイパン飛行場

 

 

パラパラパラパラパラパラ・・・

 

 

提督(突然すぎて吃驚(びっくり)するんだがなぁ・・・。)

 

サイパンに1機の海自所属のヘリが降り立っていた。

 

 

ガララララッ

 

 

提督「お久しぶりです、土方海将。」

 

直人が敬礼しながら言う先には、ヘリから降り立つ土方 龍二海将の姿があった。

 

土方「やぁ、最近本土に顔も見せて無かったからな、こっちから会いに来た次第さ。」

 

提督「御足労をおかけしました。」

 

土方「なに、第4護衛隊の南洋巡視のついでだよ。“かが”(DDH-184)から飛んできた次第だ。」

 

青葉「提督、お久しぶりです! 横鎮新聞最新号もお持ちしましたよ!」

 

提督「なんだ、お前もか!」

 

土方「君が例の艦隊について彼女に調べさせ始めたと聞き及んでね。こちらへ来るついでにその報告を彼女にもさせてあげようと思ったのだ。」

 

青葉「私はそのお誘いに一枚乗らせて貰った訳です。」

 

提督「成程、まぁひとまず、司令部へ参りましょう。」

 

土方「そうだな、そうしよう。」

 

青葉「はい!」

 

土方海将が訪れた理由は、二日前に送られてきた電文の事についてであった。なので青葉も同行して来たと言う訳だった。ただ、司令部に向かう途中土方海将が漏らした所によれば、青葉は意外な事に護衛艦に乗るのは初めてだったらしく、あちこち取材して回っていたそうである。

 

青葉が便乗してきた護衛艦「かが」は既に艦歴にして49年になる超老朽艦となっており、戦争の影響を受けて改修に改修を重ね、まだ現役に留まっているオンボロ船となっていたのだったが・・・。

 

また、大本営からも代表として軍令部次長 宇島 一海将も同席するが、今回宇島海将は山本海幕長へ報告を行うだけなのでとりわけ発言する訳ではない事を前書きさせて貰う。

 

 

15時42分 中央棟2F・貴賓室

 

提督「で、早速お尋ねしたい事が色々とあるのですが・・・。」

 

土方「そうだろうな。その辺りも含めまずは青葉からの報告を聞いた方がいいだろう。」

 

提督「そうなのか?」

 

青葉「話の流れで言えばそうなります!」

 

提督「では頼む。」

 

青葉「はい。“柱島第444艦隊”と言うのは、柱島泊地新設が先日決定したのに伴い、第三技術研究所所属の研究艦隊が、正式に艦娘艦隊へと昇格されて出来た艦隊なんです。」

 

提督「つまり元は正規の艦娘艦隊では無かった、と言う事か?」

 

青葉「はい、更に“研究艦隊”とは言っても、その内実は研究用に三技研が保有していた艦娘をただ単純に艦隊として呼称していただけのようです。」

 

提督「と言う事は、実戦経験も―――」

 

青葉「それについてはそれなりにあるようです。研究結果の実地試験も同時に行う部隊だったとの事です。」

 

提督「・・・成程な。」

 

青葉の説明で、艦隊の内容については理解出来た。だが―――

 

提督「しかしなぜ、我が艦隊に依頼が?」

 

土方「その柱島第444艦隊の司令官が、三技研所長の小松(こまつ) 英翔(えいと)なのだ。」

 

その名を聞いた直人は、膝をポンと叩いてこう言った。

「小松所長が・・・! 成程、ならば我々の存在も知っている筈ですね。」

 

土方「得心したかね?」

 

提督「それはもう。」

 

土方「で、どうするね?」

 

提督「そうですね・・・生憎と交流戦の機会は、我が艦隊ではそうそうあるものではありません。喜んでお受けするとお伝えください。」

 

土方「分かった、そう伝えよう。」

 

提督「小松所長には、随分とお世話になりました。尤もあの頃は、小松所長も一介の研究員でしかありませんでしたが・・・。」

 

土方「今や立派に所長を務めてくれているよ。様々な新機軸を考案させ、実用化に取り組んでいる。」

 

提督「そういえば、吉田 晴郷海将はお元気ですか?」

 

土方「あぁ、舞鶴で元気にやっているようだ。7年前は三技研の所長だったな。」

 

提督「あの方にも随分とお世話になりましたから。」

 

土方「機会があれば会える時もあるだろう。三技研の方にはちゃんと伝えておく。そちらもオーダーを纏めて向かってくれ。」

 

提督「分かりました。」

 

土方「それとこれは小松所長からの伝言だ。『提督も戦闘に出て欲しい』との事だ。」

 

提督「はぁ・・・分かりました。」

 

土方「では、我々はこれで失礼するよ。」

 

提督「分かりました、お帰りもお気をつけて。戦闘機隊を護衛に付けます。」

 

土方「ありがとう、では頼むとしよう。ではな。」

 

提督「ハッ!」

 

直人は土方海将を正門まで見送ると、その足で明石の元へと向かうのであった。

 

 

16時10分 造兵廠建屋内

 

明石「成程、そんな事が。」

 

提督「なんとかならんかな?」

 

なんとか、と言うのはさっきの伝言の件についてである。

 

明石「・・・実はこの所ご多忙でしたから機会を逸してしまっていたのですが、ちょっとお見せしたいものがあるんです。」

 

提督「見せたいもの?」

 

明石「はい、あの一角にかけ布されているものがそうなのですが・・・。」

 

明石が指差した先を見ると、随分と大きめのものが、シートに覆われて安置されている。

 

提督「あれは・・・?」

 

明石「提督に内緒で、提督の為に作って置いたものです。お役に立つと思います。」

 

提督「ほう・・・。」

 

そう言って明石が合図をすると、妖精達が数人、そのシートを勢いよく取り払う。そこから現れたのは、大型の艤装だった。

 

主砲は5基、形状と砲身の長さと太さから、41cm砲であると分かる。連装5基10門が、長門型の艤装をより骨太にしたものに4基マウントされ、更にパワードスーツの様なアームにもう1基の主砲が取り付けられていた。

 

明石「参考にしたのは長門型に加えて、昨年12月に正規採用された古鷹改二の艤装図面です。その腕部主砲マウントをベースに戦艦用にリモデルして5基の主砲を装備する事が出来ました。」

 

目を輝かせながらまくし立てる様にそう言う明石に対して直人が口を挟んだ。

「ちょっと待て、と言う事はこの艤装、まさか・・・。」

 

明石「そうです、提督。あなたの汎用艤装です。」

 

提督「これを・・・。」

 

 

―――戦艦“紀伊”。

 

 八八艦隊計画に於いて、1号艦(Nagato)型2隻、3号艦(Kaga)型戦艦2隻、5号艦(Amagi)型巡洋戦艦4隻に続く高速戦艦、9号艦型戦艦のネームシップである。

性能としては、加賀型と天城型を組み合わせ、天城型のネックだった装甲の薄さと、加賀型のネックだった足の遅さを見事に打ち消した、完璧な性能バランスと言える高速戦艦となる筈であった。

 

しかしながら1920年命名の紀伊と同型艦“尾張”は、翌年のワシントン軍縮会議の卓上で“撃沈”され、起工される事は遂に無かったのである。

 

その後その名は、マル4計画で建造された大和型戦艦4番艦「111号艦」の艦名に予定されていたとも言われている。

 

 

明石「八八艦隊計画構想で夢半ばに敗れた戦艦を、提督にお贈りします。存分に、お役立て下さい!」

 

提督「―――ありがとう明石。ありがとう! これで心置きなく、いつでも出撃できる。」

 

明石「はい!」

 

直人は感慨の余り、自身の新しい艤装である戦艦紀伊を思う存分に眺めていたのであった―――。

 

 

その後オーダー表を金剛らに作らせている時の事である。

 

 

3月15日17時32分 中央棟2F・提督執務室

 

提督「・・・。」

 

提督は時折、執務室に籠って一人考え込む癖がある。そうして考えを纏める訳だ。

 

 

コンコン・・・

 

 

そこへ何者かが扉をノックした。

 

提督「どうぞ。」

 

直人は大淀かと思い招き入れる。

 

「失礼します・・・。」

 

提督「―――早霜だったか。」

 

早霜「はい。」

 

現れたのは大淀ではなく早霜であった。一体何事かと思い、直人は訝った。

 

早霜「お取込み中でしたか?」

 

提督「いや、そう言う訳ではないが・・・。」

 

早霜「では、少し、お時間頂いても?」

 

提督「あぁ、勿論だとも。なんだい?」

 

早霜「実は私、ちょっとした特技がありまして。お役に立てるんじゃないかと思うのですが・・・。」

 

提督「特技か。まぁうちの艦隊には色んな特技とか異能を発揮する者は多くいるが、早霜はどんな特技なのかな?」

 

早霜「私は・・・“霊感”が強いんです。」

 

それを聞いた直人は途端に梯子を外された気分になった。

 

提督「・・・霊感だって?」

 

早霜「信じて頂けないかもしれませんが、それだけではないんです。」

 

提督「と、言うと?」

 

直人はひとまず、話を最後まで聞く事にした。

 

早霜「私の霊感は、手を繋ぐ事で“他人に伝播する”みたいなんです。」

 

提督「・・・どうしてそれが?」

 

早霜「この間、白雪さんと手が触れた事があって、その手が離れた後、白雪さんが不思議そうに辺りを見回したんです。それで聞いて見たら、“吹雪さんがいたような気がした”って・・・。」

 

提督「まさか・・・。」

 

早霜「その、まさかだったようなんです。」

 

提督「・・・。」

 

早霜「提督、私と手を繋いで頂けませんか。会いに・・・来ている方が見えるようです。」

 

提督「・・・分かった。」

 

直人は自身の席を立って、早霜の左隣に立った。そして―――

 

早霜「行きますよ・・・。」

 

提督「・・・あぁ。」

 

早霜と直人が、手を繋いだ。

 

するとどうだろう。直人が座っていた更に後ろの空中に、確かに“それ”はいた。

 

提督「吹雪―――吹雪なのか!?」

 

吹雪?「“司令官、やっと気づいて―――!”」

 

それは、不思議としか言いようがなかった。彼の目に、確かに吹雪の姿が映っていたのだから。

 

提督「やはり、無事だったんだな・・・。」

 

吹雪?「“はい、ちゃんと生きてます、司令官。今はどこかに囚われて、意識を失っているようなんですけど・・・。”」

 

提督「そうか・・・それを聞けただけでも、安心したよ。」

 

吹雪?「“司令官・・・必ず、助けに来て下さい。私、信じて待ってますから―――。”」

 

提督「あぁ・・・あぁ! 必ず助けに行く。たとえどんなに遅くなっても迎えに行く! だから―――!」

 

吹雪?「“嬉しいです、司令官。ずっと忘れないでいてくれて、私は本当に嬉しかったんですよ? ですから、きっと来るって、信じてます―――。”」

 

そう言い残して、吹雪の霊は消えた―――。

 

直人の目からは、自然と涙が零れていた。

 

早霜「・・・幽体離脱、のようなものだったみたいですね。」

 

そう言われると、直人は袖で涙を拭いながら応えた。

 

提督「・・・お前が言うなら、きっとそうなのだな。艤装から肉体が形成されないから、どこかで生きていると言う事は分かっていた。まさかこうして会いに来ていたとは、全く気付かなかったが・・・。」

 

早霜「―――絶対、助けましょう。私も、お手伝いしますから。」

 

提督「ありがとう早霜。俺も全力を尽くすと約束するよ。」

 

早霜「はい―――!」

 

直人には失うものは最早ない。失わないと決めたのだから、失うものなどある筈がない。彼はそう信じていたのであった。だからこそ、彼は不退転の覚悟を決めた。どんな困難をも全員で乗り切り、必ず吹雪を救い出すと言う“決意”をである・・・。

 

 

その翌日、金剛は直人にオーダー表を提出した。同日直人は、全艦隊に休暇と一時金の給付を行った。

 

結局演習のオーダー表は横鎮近衛艦隊でも最も濃いエッセンスを凝縮したものになっていた。

 

即ち・・・

 

 

水上打撃部隊 旗艦:金剛

榛名・摩耶・鈴谷・大井・北上・浜風・浦風

 

水雷戦隊 旗艦:神通

最上・夕立・時雨・天津風・雪風・島風

 

機動部隊 旗艦:瑞鶴

翔鶴・赤城・加賀・秋月・皐月

 

全21隻

 

 

3月16日10時20分 中央棟2F・提督執務室

 

提督「・・・成程な。因みに皐月起用の根拠は?」

 

金剛「過去の成績と、戦歴ネ。」

 

提督「戦歴・・・成程。だがそれなら文月と組ませた方がいいのではないのか?」

 

金剛「今回は柱島周辺海域が舞台デスカラ、余り多過ぎるのも考え物デース。」

 

提督「確かにそうだな。宜しい、裁可しよう。」

 

金剛「ありがとうございマース!」

 

提督「そう言えば相手のオーダー表が分からんな。」

 

金剛「そうなんデース、なので悩みマシタ・・・。」

 

提督「そうだな・・・まぁ、行けば分かるだろう。先方もそのつもりだろうし。」

 

金剛「ところで・・・本当に提督も・・・?」

 

提督「そうだぞ。」

 

金剛「巨大艤装を使うんデスカー?」

 

提督「使わんよ?」

 

金剛「ヘ!?」

 

金剛にとっては想定外の答えだったのか素っ頓狂な声をあげる金剛。

 

提督「まぁ、これについては後で明石の説明を受けて来るといいだろう、お前は事前に知っておくべきだとも思う。」

 

金剛「ウ~ン・・・まぁそう言う事ナラ・・・。」

 

明石の名前を出されると説得力が違う事は直人も分かっていたのでこの時は名前を出したのだった。

 

提督「久しぶりにサーブ340B使うかぁ・・・。」

 

金剛「21人だけですからネー・・・。」

 

提督「艤装が多いけどな。妖精さんに頑張って貰おう。」

 

金剛「また負担のかかる事デスネー・・・。」

 

提督「まぁ、多少はな?」

 

金剛「ネー。」

 

大淀「提督、さっきの話は一体どういう・・・。」

 

提督「お前も一緒に説明受けてこい。」

 

大淀「わ、分かりました。」

 

2度目は付き合い切れないのであった。何より執務中なのだから仕方がない。

 

提督「予定日は18日だったな。」

 

大淀「そうなっております。」

 

提督「よっしゃ。その方向で準備頼むぞ金剛。」

 

金剛「OKデース。」

 

 

16時27分 艤装倉庫

 

皐月「~♪」

 

長月「ん、主砲を換装するのか。」

 

皐月「うん。10cm高角砲にね。」

 

長月「ずっと12cm単装砲を使って来たのにか?」

 

皐月「折角の機会だからね、それに、やっぱりもっと強くなりたいから。」

 

長月「そうか・・・。」

 

皐月としては数少ないアピールチャンスである。直人も同行する今回の演習、見逃す手はない。

 

因みに榛名も今回から、41cm砲に換装して臨むようだ。

 

提督「よっ、皐月。長月も来てたか。」

 

皐月「あっ、司令官!」

 

提督「気合十分、ってとこだな。」

 

皐月「勿論さ、僕の力、見てて欲しいな。」

 

提督「んー、まぁ結局は俺も前に出る事になるからちょっと厳しいかもわからんね。でも後できちんと確認させて貰うから、頑張れよ。」

 

皐月「フフッ、司令官、可愛いね。」

 

提督「お前もなー。」

 

 

翌日―――

 

 

司令部近くのビーチに、早くもちらほらと艦娘達の姿があった。

 

深雪「ヒャッホー!」

 

白雪「こうして遊びに来るのも、いいものですね。」

 

叢雲「そうね・・・。」

 

 

鬼怒「ビーチバレーやろうよ!」

 

長良「そうね、やりましょ!」

 

球磨「球磨型も混ぜて貰うクマ!」

 

多摩「にゃー!」

 

長良「おっ、クラス対決ね、やりましょ!」

 

 

~同じ頃、司令部敷地内~

 

睦月「明日ビーチにでも遊びに行くにゃし!」

 

卯月「うーちゃんも賛成ぴょん!」

 

三日月「たまにはいいですね。」

 

 

香取「休暇と聞いた瞬間、皆さん気が抜けすぎですね・・・。」

 

提督「おや、いいじゃないか。」

 

香取の独り言に反応したのはなんと直人。凄いタイミングである。

 

香取「提督! 提督も何か言って下さいよ。」

 

提督「言わんよ?」

 

香取「えっ?」

 

提督「見たまえ。皆休暇と聞いてのびのびとしている。普段そんな余裕も無いだけに、その貴重な余暇を精一杯楽しもうとしてるんだ。」

 

香取「休暇だからと言って、羽目を外す必要はあるのでしょうか?」

 

提督「俺に言わせれば、余暇にビーチに行けるようになれば一人前だと思うけどね。」

 

香取「はい?」

 

提督「人間、張り詰めすぎるのは良くない。人間も機械と同じ様に、常に緊張しっぱなしでは壊れてしまう。いや、機械ならばそれでも直せるが、人間が壊れたらどうなるか。少なくとも、命は無いだろうね。」

 

香取「私達は―――」

 

提督「艦娘であり、艦娘は兵器であると言いたいのか。」

 

香取「・・・。」

 

提督「艦娘は兵器である前に一人の人間だ。聡明なお前ならば理解出来るだろう?」

 

香取「・・・。」

 

提督「人間、心にゆとりが無いとね。適度に働き、適度に休む。自分の体の限界をちゃんと理解して置かないと。」

 

香取「・・・覚えておきます。」

 

直人特有の思いやりの心、幾星霜を経ても不滅である。

 

提督「と言うか俺も暇だと釣りとか散歩とかしてるしな。」

 

香取「なんと言うか・・・厳しい軍規を敷いていないのは分かりました・・・。」

 

提督「締めるとこだけ締めればいいのよこう言うのはね。よく俺も大淀には怒られてるけど。」

 

香取「・・・。」(;´・ω・)

 

それを聞くとリアクションしづらい香取なのであった。

 

提督「んじゃ、そろそろ出発の時間だ、行ってくるよ。」

 

香取「あ、そうだったのですね。ご武運を。」

 

提督「まぁ、最善を尽くすよ。今回は実戦ではないから、その点気は楽さね。」

 

香取「それでも、油断は禁物です。」

 

提督「当たり前だろう? 人員も最強を揃えた。処置さえ誤らなければ、勝てると信じている。」

 

香取「そうですか・・・。」

 

提督「ではな、暫く留守にするよ。」

 

香取「お気をつけて。」

 

提督「うん。」

 

香取に見送られて、直人は司令部を後にするのである。

 

 

3月17日11時29分、直人と大淀、それに選抜メンバーは、サイパン飛行場からサーブ340B改で飛び立ち、一路厚木に向けてフライトに入った。因みに重量の(かさ)む艤装も一括で輸送する訳だが、そこはそこ、妖精さん達の力を使い、艤装を疑似的に稼働状態にする事で重量軽減の効果を発動させているからひとまとめに輸送できちゃう訳だ。

 

その後一晩を横鎮本庁の寮で過ごした一行は、鉄路を使い呉まで移動する事になった。その使用する路線と言うのが・・・

 

 

3月18日日本時間7時29分 ???車内にて

 

提督「よりにもよって“新幹線”なのかぁ・・・。」

 

そう、新幹線だった。

 

大淀「まぁ、手早く着きますからいいのでは?」

 

提督「と言うか上は端からその腹だったか。」

 

大淀「だと思います。」

 

ここまでで気づいた人、相当詳しい。

 

新幹線には駆逐艦や空母、潜水艦は兎も角として、それ以上のサイズの艤装、特に戦艦級のものを積み込むような場所は何処にもない! が、安心して欲しい。そこらへんは流石戦時で、新幹線用の貨物車両が連結されていて、艤装はまたしてもそちらに積み込まれている。

 

余談だが新幹線路線での貨物輸送は、2018年時点では行われていない。(構想のみ)

 

直人ら横鎮近衛艦隊一行も載せたN400系16+貨物2両編成は、一路西へ向けて時速270kmでひた走るのであった・・・。

 

 

その後、乗り換え等々も挟んで13時52分、一行は瀬戸内海に浮かぶ屋代島(山口県大島郡周防大島町)に(そび)える、大見山の麓に立つ巨大ラボ、第三技術研究所に辿り着いた。

 

提督「遠かったなぁ・・・。」

 

その通りなのだが言い方がすっごく軽い。

 

金剛「いよいよネー。」

 

提督「そうねー。」

 

大淀「お二人はもう少し緊張感をですね・・・。」

 

提督「戦場じゃないしなぁ。」

 

金剛「演習ですカラ。」

 

大淀「はぁ~・・・。」

 

「これはこれは皆様、到着を歓迎します。」

 

提督「―――久しぶりですね、“主任”。いや、今は“局長”ですか。」

 

直人らを出迎えたのは、白衣に身を包んだ三十路前の男性だった。左胸には名札を付け、右胸には略綬(りゃくじゅ)を付けているのが印象的だ。髪型は黒のショートヘア、顔つきにはやや鋭さを感じるが、表情には柔和な笑みを浮かべていた。

 

「お久しぶりです、紀伊元帥。」

 

大淀「提督の名を・・・。」

 

提督「彼が、ここの局長、小松 英翔氏だ。」

 

大淀「!」

 

小松「紹介に与りました、私がここの所長、小松です。まぁ取り敢えず中に、お荷物の準備もあるでしょうし。」

 

提督「そうさせて貰います。皆、荷物を持って屋内に。そこからは係員の指示に従ってくれ。大淀と金剛は俺と来てくれ。金剛の荷物は―――榛名、頼む。俺の荷物は分担して皆で運び込んで置いてくれ。」

 

榛名「分かりました。」

 

神通「はい。」

 

小松「流石は元帥、手際のいい事で。」

 

提督「そう飾らなくてもいいでしょう、小松所長も“元帥”なのでしょう?」

 

小松「鋭い観察眼、ご明察です。」

 

略綬と言うものは、その人が受けた勲章や身分などを簡略的に示すものであり、元帥と言うものは国にもよるが栄典的な側面もあるから、略綬の内に含める場合があるのだ。

 

小松「まぁ詳しい話は、中でしましょう。」

 

提督「ですね。」

 

直人は小松所長に続き、2人の艦娘を従えて研究所の中に入っていくのであった。

 

 

改めてこの研究所について簡単に説明しよう。

 

『海上自衛軍技術研究本部第三技術研究所』の公的名称を持つこの研究所は、通称を『三技研』と言う。

 

主な業務内容は、海上自衛軍で運用する将来兵器及び艦艇の研究模索、艦載兵器の試作とテストで、2050年7月1日付で、艦娘の総合研究が業務に追加され、艤装の新規研究もその中に含まれる為、封印されていた巨大艤装研究も解禁されて、巨大艤装の規格標準化の際に役立てられている。

 

そして、この業務追加に伴い編成されたのが、柱島第444艦隊の前身である『三技研艦娘研究艦隊』なのである。

 

 

14時06分 三技研第三研究室

 

提督「ここに来るのは、何年ぶりかな。」

 

小松「最後にいらしたのは47年の7月の事ですから、大凡7年程ですね。」

 

提督「そうか・・・あの計画からもうそんなになりますか。」

 

小松「時の経つのは、早いものです。」

 

提督「そうですね。そう言えば、今年幾つになられたんでしたっけ。」

 

小松「今年で29です。」

 

提督「そうでした。私も24になりましたよ。」

 

小松「お互い、年を取りましたねぇ。」

 

提督「まだまだ若い、と自分では思ってます。」

 

小松「そうでしょうね、まだ若いです。さ、どうぞ。あの日と同じ部屋が今の所長室なんですよ。」

 

そう言って通されたのが、第三研究室の奥にある部屋である。ここは元々小松所長が第三研究室長だった頃に使っていた部屋でもあるそうだ。

 

提督「懐かしいですね、あの日から変わってない。」

 

小松「そうですか?」

 

因みに後ろに控える艦娘達は物珍しさからか辺りを見回しっぱなしである。

 

小松「さて、まずは、遠路遥々御足労を頂きました事、感謝致します。」

 

提督「いえ。私個人としてはもう少し休みたかった所でしたが、久々の本土と言うのも悪くありませんね。」

 

小松「それは良かった。本日この後演習になりますが、その前にご挨拶の方をと思いまして。」

 

提督「そうですか。こちらこそ、我々としては貴重な機会を下さった事、感謝に堪えません。どうぞお手柔らかにお願いします。」

 

お互い、敬意を込めて試合開始前の握手を交わす。

 

小松「確認ですが、元帥も?」

 

提督「そうです。」

 

小松「それにしては随分と荷物が少ないようでしたが・・・。」

 

提督「それについては、本番までのお楽しみと言う所ですね。」

 

小松「成程。」

 

 

コンコンコン・・・

 

 

小松「どうぞ。」

 

「失礼します。」

 

扉を開けて入って来たのは一人の艦娘である。少なくとも彼は見慣れない艦娘である。

 

小松「紹介します。我が柱島444艦隊の旗艦で、本日の演習艦隊の総指揮を執らせる、秘書艦の大鳳です。」

 

大鳳「航空母艦、大鳳です。本日は宜しくお願いします。」

 

提督「宜しく。そうか、君が艦娘の大鳳だったのか。あぁいや、我が艦隊にはまだ着任していない艦娘ですので。」

 

小松「ほう、それは意外ですね。」

 

提督「まぁ、こちらも紹介しましょう。副官の大淀と、艦隊総旗艦兼秘書艦、今回の演習の当方総指揮を執る金剛です。」

 

直人に紹介された順に頭を下げる二人。

 

小松「宜しくお願いします。」

 

提督「では、早速準備の方に取り掛からせて頂きます。訓練区画を少しお借りしたいのですが宜しいですか?」

 

小松「構いませんよ。」

 

提督「では。」

 

そう言って直人と2人の艦娘は所長室を後にする。

 

小松「―――どうかな大鳳。あの3人は。」

 

大鳳「相当な修羅場をくぐったと言うのが、立ち振る舞いから分かります。」

 

小松「手強そうかい?」

 

大鳳「一筋縄ではいかないと思います。」

 

小松「そうか。指揮についてはいつも通り任せるよ。頼むぞ、大鳳。」

 

大鳳「お任せ下さい。」

 

 

14時17分 三技研水上区域・訓練区画

 

 

ザザザアアァァァァーーーッ

 

 

提督「成程、直進28.8ノットか。」

 

金剛「速いデスネー。」

 

直人は新艤装「紀伊(戦艦)」のテストをしていた。

 

提督「お前には負けるけどなー。ハッ―――!」

 

金剛に言われた世辞をそう返しながら、直人は思い切り飛んで空中で一回転した後、右腕の主砲を射撃して見せた。

 

 

ドゴオオォォォォーーー・・・ン

 

 

金剛「オォ~、アクロバティックネー。」

 

提督「そりゃどうも。さて、行こうか。」

 

金剛「OKネー。」

 

直人は手早く切り上げると、瀬戸内海へと繰り出していく。

 

 

演習の想定は、横鎮近衛艦隊による泊地襲撃を、柱島第444艦隊が迎え撃つと言う想定。

 

 

~横鎮近衛艦隊~

 

提督「まず前提として俺が出るのは状況が不利になった時だけだ。それまではお前達自身の力量で判断し行動して貰う。その上で、瑞鶴の空母部隊は後方からのアウトレンジに徹し、金剛と神通は連携しつつ、金剛は正面から牽制、神通は隙を見て側背からの肉薄雷撃だ。但し金剛の本隊主体で戦局を動かしても構わない。」

 

金剛「OK。」

 

瑞鶴「分かった。」

 

神通「了解。」

 

提督「ではミーティングは以上。即席だが、皆頼むぞ。」

 

一同「「“はいっ!!”」」

 

 

~柱島第444艦隊~

 

対する柱島第444艦隊のオーダー表は以下の通り。

 

中核部隊 旗艦:大鳳

霧島・榛名・赤城・加賀・神通・磯風・黒潮

 

右翼打撃部隊 旗艦:長門

陸奥・飛龍・三隈改・秋月・時雨

 

左翼打撃部隊 旗艦:武蔵

飛鷹・龍鳳・川内・吹雪・睦月

 

空母の数ではこちらが圧倒している上、前線の艦娘の数では比較にならない。しかしそこは考えもある・・・。

 

 

大鳳「今回は単純明快です。空母の皆さんは敵の空母を、他の艦で敵の前衛艦隊を突破します。」

 

長門「成程、腕が鳴るな。ビッグ7の力、見せてやる。」

 

武蔵「敵に私に匹敵し得る者はいない。蹴散らしてくれる!」

 

大鳳「相手は恐らく相当な強者揃いです。油断せず、ベストを尽くしましょう!」

 

一同「「“はいっ!!”」」

 

 

両軍士気は抜群に高い。戦機は熟しつつあったと言えるだろう・・・。

 

 

15時丁度―――

 

 

「“これより、横鎮防備艦隊対、柱島第444艦隊の演習を開始する! 作戦目標は、攻撃側、敵艦隊の壊滅! 防衛側は二一〇〇時まで基地防御を成功させる事とする! 両隊、作戦開始!”」

 

瑞鶴「各艦、艦載機発艦!」

 

金剛「艦隊突入、水雷戦隊、フォローミー!」

 

神通「了解!」

 

提督(うん。初手はこれでいい。)

 

 

大鳳「航空隊、発艦始め!」

 

長門「前進! 敵の第一撃を防ぐぞ!」

 

武蔵「長門に合わせて前進するぞ! 各艦続け!」

 

 

小松(お手並み拝見と行こう。)

 

今回の態勢、実は横鎮近衛側が不利である。理由は次の四点。

 

1:水上兵力で相手に対し圧倒的に劣勢である事。

2:航空戦力の練度でこそ勝るが量に於いて劣勢である事。

3:艦艇、特に戦艦の質と量の双方で劣勢である事。

4:横鎮近衛艦隊が攻撃側である事である。

 

一点目は、敵は打撃部隊3部隊を各サイドに展開しているのに対し、横鎮近衛艦隊は打撃部隊が1個部隊のみで、後は機動部隊と水雷戦隊であるから劣勢は避けられない。

 

二点目は、空母の数が横鎮近衛4隻に対し、444艦隊は軽空母も含め5隻いる。おまけに赤城と加賀は完全に被った為、翔鶴型2隻VS飛龍(改二)・龍鳳(改)・飛鷹(改)の3隻で搭載機を比べた場合では数的に不利になる。但し翔鶴型は2隻とも改への改装を済ませている為、差は幾分縮まると見る事も出来る。

 

 

三点目については、戦艦の数からしてとんでもない差で、

 

金剛・榛名 VS 榛名・霧島・長門・陸奥・武蔵

 

で、隻数に於いて2.5倍。更に金剛級2隻で互角の所へつけて、長門級2隻と大和型戦艦1隻がなんと追加で付いて来ている訳である。46㎝砲に最適化されている金剛はさておき、榛名は41cm砲に換装したとはいえ、榛名では未だに貫徹出来る相手ではない。が、ここまで読んで頂いた諸氏には、横鎮近衛に切り札がいる事はお分かり頂けているだろうと思うので敢えて詳述しない。

 

 

 四点目は戦術的な原則が問題となる。

ズバリ、「戦力三倍の法則」である。

 

何かと言うと、攻撃側が防御されている敵の拠点ないし陣地に突入する場合は、最低でも敵に対し三倍の兵力を用意せよと言う、用兵上の原則である。注意すると、たとえ三倍の兵力を用意したとしても、ランチェスターの法則を初めとする各種要素も組み合わさる事になる為、それだけで勝てると言う訳ではない。

 

要するに「準備万端待ち構えてる敵部隊に同じ位の部隊をぶつけたら当然負けるから、より多くの兵力を揃えましょう!」と言う程度のものだと言う認識で良い。

 

 

金剛(距離は4万―――3万5000で砲戦ですね。)

 

武蔵(距離約4万、いつも通り3万5000mだな。これで初撃を完封出来る。)

 

お互い考える事は同じ、そして金剛の砲戦距離はその持つ主砲本来の持ち主である大和級と同等である。

 

 

15時10分 柱島第444艦隊左翼部隊(武蔵隊)

 

 

―――ォォォォォ・・・

 

 

武蔵「この音は・・・?」

 

小松艦隊の武蔵が、小さいが奇妙な音に気付く。

 

吹雪「なんでしょうか・・・?」

 

飛鷹「さぁ・・・?」

 

6隻の艦娘達が疑問に思う中で、音は徐々に大きくなる。それを視認した時、動揺が走った。

 

武蔵「あれは―――敵機か!?」

 

龍鳳「凄いスピードですよ!?」

 

吹雪「迎撃しないと!」

 

襲い掛かったのは、噴式爆撃機「噴式景雲改二」であった。本来、巨大艤装紀伊が搭載している筈のものである。

 

遡る事2日前、サイパンを出発する前の事である。

 

 

3月16日21時19分 艤装倉庫

 

提督「―――。」

 

 

コッコッコッ・・・

 

 

「あっ、提督。なによ、こんな時間に呼び出したりなんか。」

 

提督「来たな瑞鶴。」

 

瑞鶴「えぇ、来たわよ。」

 

提督「別にやましい事ではないんだ、と言うか、重要な事だ。」

 

瑞鶴「ふーん?」

 

提督「―――これを。」

 

瑞鶴「これは・・・?」

 

直人が手渡したのは、1本の艦載機発艦用の矢であった―――

 

 

~15時00分~

 

―――頼むわよ。

 

瑞鶴「行きなさいッ!」

 

 

ヒュッ―――ゴオオオオオオ―――ッ

 

 

瑞鶴「うっ―――!?」

 

発艦直後、強烈なブラストを受ける瑞鶴。流石に思わず面食らって言う。

「やっぱりと言うか、これはきついね・・・。」

 

翔鶴「瑞鶴、大丈夫!?」

 

瑞鶴「大丈夫よ、流石に噴流が凄いわね・・・。」

 

翔鶴「無理矢理運用しているんだもの、これを改善して行けば、私達でも扱えるかもしれないわね。」

 

瑞鶴「だといいんだけどねぇ・・・。」

 

 

~現在・小松艦隊左翼艦隊~

 

飛鷹「どういう事!? あの機体、私達が使ってるのとは全然違う!」

 

小松艦隊の飛鷹がそれに気づいたのは、既に左舷至近距離まで迫られてからであった。

 

5機の噴式景雲改二は、反跳爆撃で80番爆弾を投下すると、全速力で突っ切る様に突破し離脱する。その内の一弾は・・・

 

吹雪「きゃぁっ!?」

 

 

ドゴオオォォォォーーー・・・ン

 

 

見事に吹雪を捉え、同艦娘は一撃で戦闘不能判定が出たのであった。駆逐艦に800㎏爆弾が直撃したのだから、まぁそんなものである。

 

他に武蔵にも1発が命中したが、左舷の防盾付き高角砲3基を総なめに薙ぎ払い、特に中央の1基は直撃を受け見る影もなくスクラップと化し、更に装甲を歪ませるところまでが限界であった。武蔵に投弾されたのは徹甲爆弾であったがそれでも装甲を貫徹するに至らなかったところに、武蔵の堅牢さが如実に表れていると言えるだろう。

 

艦娘による最初の噴式強襲は正にこの時であったが、噴式景雲改二が巨大艤装で運用する為の装備であり、それを噴式機運用に必要な装備さえ備えない空母艦娘の艤装で無理矢理運用した事から、1回限りしか使えない事は明白だった。そう何度も使えば、飛行甲板が燃えて使用不能になるからである。

 

 

瑞鶴「先行した景雲から入電、攻撃成功!」

 

翔鶴「やったわね。」

 

瑞鶴「うん!」

 

加賀「次は、私達の番ね。」

 

赤城「そうね。」

 

加賀「一航戦には負けてられません。」

 

赤城「―――三航戦攻撃隊、攻撃態勢に入ります!」

 

 

瑞鶴の噴式強襲に遅れること13分、小松艦隊左翼の上空に、120機の第一次攻撃隊が現れた。

 

飛鷹「こちらに先に来たみたいね。」

 

龍鳳「迎撃します、本隊へ、敵機来襲です、応援を要請します!」

 

大鳳「“本隊了解、戦闘機を向けるわね。”」

 

 

赤松「今回はいつもとは一味違う、心してかかれ! 行くぞォ!!」

 

赤松少佐の雷電隊、いつもより気合が入っている。

 

赤松(相手の機材は零戦ばかり、性能差を見せてやるぞ。)

 

さらに高度優位さえ取っている。雷電にとって、土俵は完全に整ったと言えるだろう。

 

赤松「全機、突入!」

 

赤松少佐機のダイブに続き、雷電隊は一斉に小松艦隊の直掩隊に襲い掛かったのである。

 

 

直掩の戦闘機の数は41機、雷電隊は16機。しかし戦力に於いて直掩機が約2.5倍であった筈のその結果は目を覆うものになった。

 

雷電隊は8機ずつに分かれて編隊の両端を狙い降下、その目論見通り、腕のまだ未熟な補充兵(妖精)が大半を占めていた機体を、10機纏めて叩き落としてしまったのである。

 

一方の直掩機もこれに反応し機首を翻したまでは良かったものの、既に第一撃を終えた雷電は上昇に移った後であり、到底追い付く事は出来ず、編隊を組み直そうとした正にそのタイミングで第二撃がまたしても上方から降り注ぐ形になってしまう。

 

こうなってしまうと雷電の独壇場であり、飛鷹と龍鳳の艦載機で構成された直掩隊は四分五裂で逃げ惑う羽目に陥ってしまったのである。その間に赤城制空隊に守られた攻撃隊は悠々と攻撃に移っていたのだった。

 

 

15時32分 小松艦隊左翼隊

 

飛鷹「何が―――何が起こってるって言うのよ!?」

 

余りにも圧倒され狼狽する飛鷹。これが編成上は退いたとはいえ一航戦の看板を担った空母の、その特異点を持った艦娘の実力であった事は事実である。

 

武蔵「対空戦闘、防ぎ止めるぞ!」

 

睦月・川内「「了解!」」

 

武蔵の堂々たる威容にどうにか動揺を抑えていた2人が武蔵と共に対空戦闘に移る。しかし有効な対空射撃を行えたのは結局この3隻だけであり、龍鳳と飛鷹は事態の収拾に追われてキャパオーバーであり、吹雪は早々に戦線離脱を強いられている。

 

 

~14分後~

 

龍鳳「大鳳さんの、仰っていた通りでしたね・・・。」大破

 

飛鷹「そうね、洗練され過ぎてる・・・。」大破

 

川内「嘘でしょ・・・?」中破

 

睦月「にゃし・・・。」大破

 

武蔵「まさか、横鎮防備艦隊が、これ程までとは・・・。」小破

 

※大破した場合戦闘不能判定

 

小松艦隊左翼隊は壊滅した。戦闘機による攪乱に続く突入でタイミングを逸らされたのが最大の敗因であった。攻撃を終えた機体はすぐさま反転離脱をかけた為損害もそれ程強いる事が出来ず、その嵐のような素早さに、大鳳の指示で急行した直掩隊も間に合わなかった程であった。

 

そして雷電に散々痛めつけられた直掩機も、殆どが撃墜された挙句、残った機体も殆どが飛行に堪える事が出来なかったのだった。

 

武蔵「―――まだだ。私は責任を果たす。少しでも長く、ここを維持しなくては。」

 

川内「私もまだいけるわ、引き揚げろなんて野暮な事言わないでよね?」

 

武蔵「あぁ、分かった。」

 

 

同じ頃、空母部隊に向かった小松艦隊攻撃隊はと言うと・・・。

 

 

~横鎮近衛艦隊金剛本隊~

 

摩耶「ヘッ、言うほどじゃぁねぇな。」

 

なんと金剛の本隊に捕捉され、その上空で待ち構えていた岩井・岩本両小隊を含む一航戦直掩機と、摩耶らの対空砲火によって散々に追い散らされていたのである。

 

この時、瑞鶴率いる空母部隊は翔鶴の艦偵隊を使い敵攻撃機を捜索、それを発見させる事によってそれを敵に追尾させ、敵攻撃機をまんまとおびき出したのである。正にこの辺りが航空戦に於ける“経験の差”でもあっただろう。

 

金剛「上手く行ったネー。」

 

瑞鶴「“そうね、後頼むわよ。”」

 

金剛「勿論デース! 距離3万5000、全砲門、ファイアー!」

 

 

ズドドオオオオォォォーーー・・・ン

 

 

金剛の46cm砲12門が一斉に火を噴く。砲門数は武蔵の9門を主砲1基分上回ってさえいる、その点で武蔵は不利でさえあったのである。

 

鈴谷「さぁ、皆行くよ!」

 

北上「OK!」

 

摩耶「おうよ!」

 

榛名「分かりました!」

 

鈴谷が指揮を引き継いで、射程の足らない艦が前進を開始する。

 

 

武蔵「―――!?」

 

武蔵にとっては予想だにしない砲炎に、さしもの彼女も驚きを隠せなかった。正に射撃しようとしたその刹那の事だったからである。それによって砲撃が止まった程であった。

 

川内「・・・武蔵?」

 

武蔵「―――いや、何でもない! 砲撃開始!」

 

 

ズドドオオオオォォォーーー・・・ン

 

 

金剛に遅れること6秒、武蔵も砲撃する。彼我の距離約3万5000、敵への到達はなんと90秒程かかる。46cm砲はその装填に理論値30秒だが、実際には50秒程度かかったと言う。いや、それでも着弾するまでに第二射が撃ち込まれるような超遠距離砲戦である。これ程の砲撃戦を繰り広げられる戦艦は、深海棲戦艦らも含めてもそう多くはいない。

 

 

そしてきっかり50秒で双方共に第二射を放ち、更にその40秒後の事である。

 

 

~金剛~

 

ドドドドドドォォォォォーーーー・・・・ン

 

金剛「そんな簡単には当たらないネー。」ペロリ

 

 

~武蔵~

 

ドドドドドドゴオオオオォォォォーーーー・・・ン

 

武蔵「―――!?」

 

川内「うわああああっ!?」

 

武蔵「川内っ!?」

 

(電子音声)「“川内、戦闘不能、後退して下さい。”」

 

武蔵「初弾を直撃だと―――? 馬鹿な、どんな腕をしていると言うんだ!」

 

金剛の力を知らない武蔵が狼狽する。武蔵の砲弾は全てが外れたのに対し、金剛の砲弾はその散布界内に川内と武蔵を纏めて捉え、あまつさえその内の一弾を直撃さえさせて見せたのだった。

 

 

金剛(まず護衛は後退させたネ、あとは―――)

 

金剛が第三斉射を放つ。状況は完全に、金剛のワンサイドゲームの様相を呈していたのである。

 

 

提督(金剛はよくやっているな。技量の差が如実に表れてもいるが、何よりその特異点が武蔵との差を決定的にしてもいるようだ。)

 

金剛の能力である超精密射撃と各砲個別射撃の組み合わせ(各砲個別精密射撃)は、他の艦娘には稀有な程正確な射撃を可能とする。これに匹敵し得るのは巨大艤装位である、と言えば分かるだろう。

 

 

~数分後~

 

武蔵「くっ・・・何故だ、相手は金剛型の筈。それが46cm砲を使って、何故ここまで正確に!」

 

状況を全て把握する事も出来ないまま、武蔵はその戦闘力の半分を喪っていた。主砲の使用可能門数は4門、背負い展開式の3番砲塔は脱落(判定)し使用不能、1番砲塔は辛うじて全ての砲が撃てたが、2番砲塔は左の1門以外は砲身が半ばから吹き飛んでいた。

 

武蔵「―――!」

 

ドドドドドドゴオオオォォォォーーーー・・・ン

 

武蔵「ぐっ!?」

 

第9斉射で遂に武蔵が膝を折った。その斉射の内の一弾が、何の運命の悪戯か、先の噴式強襲で直撃された際の被弾痕に突き刺さってしまったのである。この1発で武蔵は一撃で装甲を貫通されてしまったのである。

 

武蔵(まだだ・・・増援が来るまで、ここを持ち堪える!)

 

武蔵の闘志に、衰えはない。

 

武蔵「そうだ、当ててこい! 私はここにいるぞ!!」

 

 

~更に数分後~

 

金剛「しぶといネー・・・。」

 

榛名「“流石ですね。”」

 

金剛「最強の戦艦(バトルシップ)の名は、伊達ではないと言う事デスネー・・・。」

 

この世界線に於いても、大和に比肩しうる通常動力の戦艦は殆ど存在しない。いるとすればモンタナ級戦艦6隻がそれに当たるだろうが・・・。

 

金剛「余り長引くと敵の応援が来るネ、ここで決めるヨー!」

 

金剛は武蔵に対する攻勢を強化するが、それにも拘らず武蔵は20分もの間しぶとく抵抗を続け、遂に大井と北上による雷撃が行われた。

 

大井「本当にしぶといわね。」

 

北上「まぁ、中々手強かったよね~。」

 

榛名「でも、これで終わりの筈です。」

 

北上「だといいね~。」

 

 

一方の武蔵は最早航行不能になってはいたが、辛うじて大破判定が出ていなかった。

 

武蔵「―――もうダメか。だが―――」

 

しかし武蔵の目に、悲壮感は無かった。

 

ヒュルルルルル・・・

 

榛名「!?」

 

金剛「エッ!?」

 

ドドドドドオオオオォォォォーーー・・・ン

 

突如として降り注ぐ砲弾、誰が言うともなく周囲を見渡し、そして気付く。

 

鈴谷「3時の方向敵艦隊!!」

 

 

提督「なに、新手だと!?」

 

瑞鶴「嘘!?」

 

金剛「“数は6隻、多分右翼部隊が来たんだと思うネ。”」

 

提督「―――連戦で打撃部隊を相手するのは危険だな。金剛、一旦後退して態勢を立て直すんだ。瑞鶴、攻撃隊を敵本隊に。但し、これは牽制だからそのつもりで行け。」

 

金剛「OKネー。」

 

瑞鶴「分かった。」

 

 

~同刻・小松艦隊本隊~

 

大鳳「・・・“後方の空母部隊から艦載機が出た”わね。航空隊発艦。上空を固めるわよ。」

 

赤城「はい。」

 

加賀「分かったわ。」

 

大鳳「このままじゃ終わらないわ。私の力を見せてあげる。」

 

大鳳が持つ能力、その正体とは・・・。

 

 

金剛「完全に側面を取られてるネ、隊列を整えるヨー!」

 

本隊全員「「了解!」」

 

金剛「神通さんはその間敵を牽制して下サーイ!」

 

金剛はここで絶妙な艦隊指揮を見せる。突入してくる右翼の長門隊の突入に対し、まず金剛がその鼻先に46cm砲弾を放り込んで出鼻を挫くと、その背後で鈴谷と榛名の指揮の下で本隊が陣形の再編を始め、長門隊の反撃が始まったタイミングで神通の水雷戦隊が放った雷撃が届くと言う完璧な連携を見せたのである。

 

それによって陣形をかき乱されている間に金剛が引き、神通らも颯爽と引き上げた後と言う、艦隊戦に於ける艦隊運用の妙技を金剛らは見事にこなしてのけたのだった。

 

 

提督「ほう、巧みだな。」

 

直人はその様子をプロットを通して見ていたが、彼を唸らせるには十分と言えた。

 

提督「金剛も歴戦の将と言えるレベルになったと言う事だ、成長ぶりをこうして見れた事はいい収穫だったと言えるだろうな。」

 

瑞鶴「“なら、私達もきちんと役割をこなさなきゃね。”」

 

提督「そうだぞ、頼むぜ。」

 

瑞鶴「“了解!”」

 

16時07分、瑞鶴と翔鶴の航空隊で構成された第二次攻撃隊は、小松艦隊本隊への攻撃を開始した。のだが―――

 

 

16時08分 横鎮近衛艦隊本隊

 

金剛「陣形再編完了、砲撃戦、用―――」

 

摩耶「!? 敵機直上!」

 

金剛「Watt(ワット)!?」バッ

 

突如急襲する小松艦隊の艦爆隊、砲撃測距中だった為その対応には相応の時間がかかる。

 

摩耶「舐めるな! 不意打ちだったら勝てるとでも―――!」

 

ドドドドドドドォォォォォーーーー・・・ン

 

摩耶の高角砲が一斉に火を噴く。それに呼応する形で、各艦の対空火器が猛烈な火箭を打ち上げる。一挙に上空は砲弾の炸裂で黒く染まっていくが、艦爆隊は損害を恐れず攻撃針路を取り続ける。

 

摩耶「なんだあいつら、これまでの連中とは訳が違う!」

 

全く編隊を乱さないその様子に、摩耶も只者でない事を見抜いた。この艦爆隊こそ大鳳航空隊の主戦力であり、第一次攻撃では温存されていた彗星一一型(小松隊)、その本隊12機だったのである。

 

鈴谷「来るよ! 敵機急降下!!」

 

金剛「まだデース、投下するまで引き付けるネ! 目を離しちゃダメヨー!!」

 

金剛もさるものだ、早過ぎる回避運動が意味を為さない事を知っている。各艦に注意を喚起し、自らも敵機の軌道を注視する。

 

高度700m、敵機が爆弾を投下した正にその瞬間、各艦はすぐさま急激に進路を転換し、小松隊渾身の急降下爆撃は1発も直撃しなかった。が、事態はそれだけでは終わらなかった。

 

浜風「雷跡右55度、数12、向かってくる!」

 

金剛「魚雷!? 潜水艦なんてオーダー表には!」

 

浦風「重雷装艦もリストに無い筈じゃけぇ、どっから!?」

 

浜風「兎に角回避しましょう!」

 

榛名「敵弾、来ます!!」

 

大井「ああ~もう! どうしてこうも次から次へと!!」

 

金剛「まずは回避運動に専念するデース!」

 

一同「「了解!」」

 

 

~一方・・・~

 

提督「チッ―――!」

 

ザザザァァッ

 

同じ頃、攻撃を受けていたのは単艦でいた直人であった。雷撃機24機による波状攻撃を受けて防戦していたが、既に4本の魚雷を回避し、2機の雷撃機を撃墜している。

 

瑞鶴「“提督、持ちそう?”」

 

提督「なんとかな、しかし念には念を入れよう。急いでくれ。」

 

瑞鶴「“分かった。”」

 

瑞鶴も直掩機の一部を割いて全速力で14km先の紀伊上空に向かわせていたのだが、既に攻撃が始まった後であった。

 

提督「それまで、数分間持たせないとな。」

 

紀伊の持つ高角砲は全部で8基16門、機銃は約90挺を装備している。そしてそこに、巨大艤装紀伊の霊力機関コアから部分的に引き継いだ能力である、劣化してはいるが強力な射撃管制能力を以って、なんとか敵の攻撃を防いでいたのだった。

 

提督(何か・・・変だ・・・。)

 

彼はここ10分以上の間に立て続けに起こっている出来事の連続に違和感を覚えていた。何かがおかしい、得体の知れないその虫の報せだけでも掴んだ事は、彼が歴戦の強者である何よりもの証拠であったに相違ない。

 

 

16時31分―――

 

大井「やるわね・・・。」

 

鈴谷「とんでもなく畳み掛ける様な攻撃だったね・・・。」

 

金剛「し、凌ぎ切ったネー・・・。」

 

榛名「今がチャンスです、一挙に眼前に敵部隊を!」

 

金剛「勿論デース! 全艦、突入!」

 

苦戦約40分、金剛らは見事に小松艦隊の猛攻を耐え抜いた。大井が中破し、鈴谷と浦風は小破したものの、全艦未だに健在、敵の攻撃の合間を縫って一挙攻勢に転じたのである。その切り替えは余りにも鮮やかであった。

 

 

長門「応戦だ!」

 

陸奥「撃てーッ!!」

 

小松艦隊右翼隊も果敢に反撃する。が―――

 

ズズウウウウゥゥゥゥゥゥゥーーーー・・・ン

 

秋月「ッ―――!?」

 

飛龍「キャァッ!?」

 

長門「なんだと―――!?」

 

それは、偶然とはいえ見事な時間差攻撃であった。大井が被弾する直前に放った魚雷40射線雷撃が、金剛らの攻勢遷移後少しして到達し、秋月と飛龍の2隻をたちまちの内に討ち取ってしまったのである。

 

 

大井「魚雷命中!」

 

金剛「ナイスタイミングデース!」

 

大井「当然でしょう? さぁ、一気に片付けましょうか!」

 

鈴谷「さっすが大井っち~、やっる~!」

 

大井「次はあなたの番でしょ?」

 

鈴谷「だね、頑張っちゃおっかな~!」

 

この時点で横鎮近衛艦隊の士気は最高潮に達していた。この士気の差が、右翼隊の突破にそれ程の時間をかけなかった事は言うまでも無かったが、ただで済んだ訳ではなかった。

 

 

17時02分

 

提督「そうか、あの榛名がな・・・。」

 

金剛「“そうネー。出来れば、提督の出戦をお願いするデース。神通さん達もこれ以上の損害は・・・。”」

 

横鎮近衛艦隊は右翼隊との交戦で、中破艦3・小破艦4を出し、榛名が大破して戦線を離脱していた。何よりも、敵の戦艦長門を撃ち漏らした事が問題になりつつあった。ここまでの間に更に3回の航空攻撃を行ってもいたが、本隊への航空攻撃は余り芳しい結果を挙げているとは言えなかった節があるのだ。

 

提督「・・・仕方があるまい、戦にも相手のある事だ、そう言う時もある。ここはひとつ私が出て、埒を開けるとしよう。」

 

金剛「ありがとうデース、提督。」

 

提督「他ならぬ、お前の頼みだ、金剛。」

 

金剛「“それでこそ、将来の旦那様デース。”」

 

横鎮近衛一同((はいはい。))

 

それ程楽観も出来ないまでも、いつものペースを崩さないのは流石と言えるのだろう。戦場で惚気話が出るのはどうかと言う点はさておくとしても。

 

瑞鶴「“ここからどうする? 正直航空攻撃は続けてるけど、日没が近いよ?”」

 

提督「夜間まで継続実施する。我が艦隊の実戦行動能力を示してやれ。」

 

瑞鶴「“了解!”」

 

榛名「“ですが大丈夫ですか? 敵の航空戦力は・・・。”」

 

提督「敵空母は3隻しか残っていないな。だが、ここまでの迎撃によってこちらも航空戦力は半減していると言っていい。戦力的には若干劣勢だが、ここから日没になるから、迎撃効率は下がる一方だ。こうなると経験の差がモノを言うだろう。」

 

榛名「“そうですね。”」

 

提督「我が艦隊の第三航空戦隊が、ただの赤城と加賀でない事を分からせればそれで良かろう。さて、すぐ合流するから待っていてくれ。」

 

金剛「OKデース!」

 

 

大鳳「遂に出てきますか・・・。」

 

赤城「どうするんです?」

 

大鳳「夜間に私達が出来る事はありません、が、私達が実験部隊であると言う特性を最大に生かしましょう。」

 

赤城「はい。」

 

加賀「敵第6波、来るわ。」

 

赤城「随分と執拗ですね。」

 

加賀「航空攻撃が出来なくなるからでしょう、日没までに出来る限り打撃を与えたいのでしょうね。」

 

大鳳「・・・本当にそうかしら?」

 

長門「―――どうした?」

 

大鳳「本当に“日没だから”、それだけなのかしら・・・。」

 

赤城「何かある、そう言う事ですか?」

 

大鳳「可能性はあります。警戒して下さい。」

 

大鳳は多少訝りながらも、まずは対応に取り掛かるのであった。

 

 

17時37分、柱島沖の日は落ちた。前後して、集結を終えた横鎮近衛艦隊水上部隊は、いよいよ敵の本隊が待ち構える泊地に対する突入を開始した。

 

文字通りの指揮官先頭、直人(戦艦紀伊)の右後方に神通の水雷戦隊、左後方に金剛の本隊を従え、複縦陣で堂々と一挙に本陣直撃を目指していた。その上空を、一航戦航空隊が飛び越していく。日の沈んだ後の暗い洋上を空母を離発着して飛べるのは、正に横鎮近衛艦隊ならではの精強ぶりが成せる業である。

 

 

17時58分頃―――

 

提督「静まり返ってるな。」

 

金剛「水上艦はあと5隻の筈ネ、チャンスを窺っていると見て間違いないネー。」

 

神通「前方に障害物! あれは・・・?」

 

提督「艦娘相手に障害物だと・・・?」

 

全員が目を凝らし前方を注視すると、確かに複数の物体が浮いているのが見て取れた。

 

提督「―――なんだあれは?」

 

次の瞬間である。その障害物からいくつもの光が発したのは―――

 

提督「砲炎―――!」

 

直人はすぐに、自分達が射撃された事に気付いた。しかし遅すぎた。

 

ドドドドドドドオオオオォォォォーーーー・・・ン

 

提督「くっ、浮き砲台か、皆大丈夫か!」

 

金剛「全艦健在デース!」

 

提督「辛うじて被害は無しか―――反撃するぞ、撃て!!」

 

一同「「了解!」」

 

 

赤城「“気付かれたようですね。”」

 

大鳳「仕掛けそのものは単純だから当然でしょうね。でも、それが機動力を持っていたらどうかしら。加賀さん、そちらの浮航砲台の内12基をD2ポイントに移動してください。」

 

加賀「“了解。”」

 

大鳳(目は使えないけど、位置の把握なら簡単に出来る!)

 

大鳳は彼女らしか持ち得ないような手法を駆使して、横鎮近衛艦隊に対抗する他に手も無かった。お互い様と言えない事もないが。

 

 

提督「成程、艦娘の機能、その限定的な機械化か。三技研のやりそうなことだな。」

 

サックリ片付けて発した第一声がこれなのだから余裕である。

 

ドオオォォォォーーーー・・・ン

 

提督「ぬ!?」

 

神通「左舷正面に先程の物と同じ物が!」

 

提督「なんだと!?」

 

最上「さっきまで何も!」

 

鈴谷「移動出来たりとか・・・?」

 

提督「あり得る話だ。今後あれの事は浮航砲台(ふこうほうだい)と呼ぼう、撃ち返せ!」

 

金剛「ファイアー!」

 

側面を取ってこの有様なのは、彼らが揃って歴戦の雄である事を示していた。

 

 

加賀「“浮航砲台B6~18が全滅したわ。”」

 

三技研側と横鎮近衛艦隊側で、この浮き砲台の呼称が一致したのは単なる偶然であるが、三技研でもこの新兵器は“浮航砲台”と呼ばれていた。

 

大鳳「やりますね・・・側背面からの攻撃を強化して下さい、ゲリラ的にです!」

 

加賀「“分かったわ。”」

 

赤城「“了解!”」

 

 

小松「ふむ、ここまで浮航砲台の試作品は戦果無しか。やはりこの程度の性能ではどうしようもない様だ。時間稼ぎにはなるようだが・・・。」

 

送られてくるデータを参照しながら、小松所長は自身の“作品”の論評をしているのだった。彼自身にそれ程作戦指導能力はない、だからこそこう言った時には秘書艦である大鳳の手腕に全てが委ねられるのである。

 

彼に出来る事は、艦娘達がより効率よく、よりパワフルに戦えるようにする事。その方法を模索すると言う、技術者らしい手法によってのみであったのだから。

 

 

提督「これで6度目か、多いな。」

 

18時半前になっても、直人らは本陣まで辿り着けずにいた。敵の散発的な浮航砲台による襲撃で警戒を厳にしつつ島の中に入っていっただけに、その侵攻速度は遅かった。

 

提督「・・・これでは敵の思う壺だな。時間を稼がれているようだ。」

 

神通「突破しますか?」

 

提督「そうだな、浮航砲台も数が揃えばそれなりに手強い事が分かったが、結局は玩具の様な代物だ、ならばこの際、一点突破で直に攻撃するのがいいだろうな。」

 

神通「分かりました。」

 

提督「大井、北上、浦風と浜風は別行動だ。」

 

大井「え?」

 

北上「別働ねぇ。」

 

浦風「何をするんじゃ?」

 

浜風「私は構いませんが・・・。」

 

提督「いいか―――」

 

この時4人に耳打ちした策が、後々に効く事になる―――

 

 

赤城「“敵、突破してきます、砲台に見向きもしません!”」

 

 

提督「行くぞ! 雑魚に目もくれるな!!」

 

 

18時32分、艦隊が再突入を開始した。目標は敵泊地中心部、他には目もくれず全速力で突き進んでいく。

 

 

大鳳「―――本番、と言う訳ですね。」

 

大鳳はそう感じ取った。文字通り、遊びは終わりだと言う事であった。

 

大鳳「全火器管制オンライン! 拠点防衛用装備の実戦テストも兼ねてるわ、しっかりやるわよ!」

 

赤城「“分かりました、砲台は防衛ラインまで下げます。”」

 

大鳳「お願い。全艦戦闘配置!」

 

残存艦艇「「“了解!”」」

 

大鳳が全戦力を集結、ないし起動させる。一体これ以上に何があると言うのだろうか・・・。

 

 

18時51分

 

提督「撃ち方始め!」

 

 

大鳳「射撃開始!」

 泊地へ突入した横鎮近衛艦隊と、迎え撃つ小松艦隊が砲戦を開始する。中破した長門は兎も角、まだ金剛型戦艦2隻を残しているだけに油断が出来ない。

 

が、それ以上の問題が発生した。

 

提督「―――!!!」

 

ズドドドドドドドドドドドドドオオオオオオオオォォォォーーーー・・・ン

 

尋常ではない数の水柱が屹立したのである! それも小型砲などではなく、戦艦クラスの大型砲のものであった。

 

「な、なんだなんだぁ!?」

思わず声を上げる直人。

 

金剛「砲撃・・・でも数がおかしいヨー!?」

 

提督「またか、また()()()か!」

 

神通「ですが、水上に障害無し!」

 

提督「へあっ!? ま、まさか、ガチの砲台か!?」

その言葉を裏付けるかのように、時雨からの報告が飛ぶ。

「―――敵艦隊背後の島沿岸に砲炎多数!」

 

夕立「砲台っぽい!」

 

提督「砲台なら戦艦クラスの砲も使えらぁな・・・。」

 

「悠長な事を言ってる場合じゃありません!」

そう鋭く指摘する神通だが、彼女が思っているほどこの時の彼は呑気でも慌ててもいない。

「分かってる。問題はあれが自律式なのか制御式なのかだ。それを見極めんと対応出来ん。瑞鶴、聞いてたな?」

 

瑞鶴「“聞いてたわよ提督。砲台は任せて頂戴。撃ちまくっているなら、照明弾なしでも出来るわ!”」

 

提督「ヒュ~ゥ♪ 心強いお言葉だ、頼むぞ!」

 

「“勿論!”」

 瑞鶴の艦載機部隊は優秀な夜間行動能力を持ち合わせている。それは持ち前のものではなく猛訓練で培われたものであったが、この時ばかりは自身の采配が吉と出た形となった。

その頼もしい言葉を受けた直後、雪風から新たな報告が飛ぶ。

「右前方に障害物、さっきの砲台です!」

それを聞くや直人が即断する。

「成程、この辺りが防衛ラインと言う訳だ。突破するぞ、雪風達、行けるか?」

 

天津風「任せなさい!」

 

島風「いつでもいいよ~。」

 

雪風「御命令、どうぞ!」

 

提督「よし、十六駆は一挙前進して敵砲台を殲滅せよ! お前達3人の連携を見せてやれ!」

 

雪風「承りました、突撃します!」

 

島風「島風先陣! いっくよ~!」

 

天津風「天津風、突撃!」

 直人の命令の下、3隻の駆逐艦娘は島風を先頭にして一列に突入して行く。ここまでの戦闘で残った浮航砲台も砲撃するのだが―――

 

ドォンドオオォォォーーー・・・ン

 

島風「おっそーい!」ザザァッ

 

ガァァァァァン

 

天津風「この程度の砲撃で、私の盾は貫けないわよ? 沈みなさい!」

 

ドオォォォーー・・・ン

 

天津風の放った一撃は、重巡並みの装甲を施されている浮航砲台を、たった一撃で爆砕する。明らかに駆逐艦の主砲の一撃ではないが、これが天津風が持つ特異点であった。

 

島風「魚雷、着弾~。」

 

ドドドドオオオォォォォーーー・・・ン

 

 島風の雷撃により4基の浮航砲台が立て続けに粉砕される。雪風は持ち前の技量で砲撃を回避しながら、砲撃と雷撃で丁寧に1つずつ砲台を叩き、また2人をアシストしていた。

雪風の戦闘スタイルは、2人に比べると派手さがない。基本に忠実、フォームも普通、精度も普通、威力だって普通、能力的にも他の艦娘と比較して多寡がある訳ではない。あるのは持ち前の技量と、それによって引き出される異常とまで言われる幸運だけである。

だからこそ、駆逐隊旗艦を務める雪風は敵と一線を置いて、少し後ろから状況を把握する事で駆逐隊全体を優位に戦闘させるスタイルを取っていたのである。

 

天津風「いくわよ、島風!」

 

島風「ほーい!」

 天津風の合図で天津風が島風の前に立って前進し、敵の攻撃を受け流すと島風にバトンタッチし、砲雷撃で砲台を次々に倒していく。バトンタッチした天津風も援護の為に別の浮航砲台を吹き飛ばしていく。典型的なフォーメーションアタックの一つだ。

この二人は互いに長所を生かし合う事で縦横無尽に立ち回るスタイルで戦っている。重装甲高火力な突撃役として最適な駆逐艦天津風と、機構的に防御面で難はあるものの、40ノットの俊足と15射線の魚雷を持つ雷装重視の島風の組み合わせは、正に完璧と言えた。

更に言うと、堅実な天津風と奔放な島風がフレンドリーなのも相乗効果を生んでいたと言える。

 艦娘とはかくあるべしと言ういい見本であるとも言えるこの二人、自身の性能や特徴を組み合わせて欠点を補い合う戦術と、その結びつきをより深くする「心の繋がり」と言う二つの武器を、天津風と島風は持っていたとも言えるのだ。

 

提督「―――鮮やかだなぁ・・・。」

 

神通「集中して下さい。」

 

「はいはい。」

 砲撃しながらそう言った艦娘達の実戦評価もやらなければならない所に直人の苦労はあった。提督と艦娘の兼務が如何に大変かがよく分かるだろう。紀伊 直人は女性ではないけれども!

 

 

赤城「“大崎鼻砲台、損害六割以上!”」

 

加賀「“浮島砲台、損害五割を超えたわ。”」

 

大鳳「不味いわね、我島砲台も損害が・・・!」

 

長門「この音はなんだ?」

 

大鳳「音・・・?」

 

長門に言われ、大鳳が耳を澄ますと、その音と言うのは―――

 

大鳳「―――爆音!?」

 

ブオオオオオオオオオ・・・

 

手遅れであった。我島砲台に爆撃を加えるべく、瑞鶴の艦爆、坂本隊が一斉に急降下に入っていたのである。

 

長門「対空戦闘!」

 

榛名「間に合いません!」

 

霧島「夜間で視界も―――!」

 

大鳳(しまった、対空電探が無いから―――!)

 実はこの艦隊編成、対空電探装備艦が1隻もいないと言う重大な盲点を抱えていたのである。より厳密に言えば、横鎮近衛艦隊の実力を図る目的も兼ねて外されていたと言うのが正解であるが。

 

ドオオオオンドオオオォォォーーー・・・ン

 

1基、また1基と、砲台が爆撃で沈黙する。燃え盛る炎の光が島を照らし出し、浮き彫りになる砲台に向けて砲撃が集中し、瞬く間に全砲台の7割以上が大破したのである。

 

大鳳「相手の空母艦載機は、夜間でも飛べるなんて・・・。」

 能力の差を、ここまで思い知らされた事は、大鳳にとってはこれが初めてであった。練度の差、実績の差、経験の差、何よりも能力の差が、抜き難い障害となって立ち塞がっていたのである。

 

長門「空母は昼しか動けないものでは無かったのか・・・?」

 

磯風「この世界には、まだまだ私達の知らない事があるようだ。」

 

黒潮「ホンマやなぁ。」

 

大鳳「戦力の消耗が甚大、阻止にも失敗しているわ。皆、お願い。」

 

長門「仕方があるまい。」

 

長門の指揮の下、小松艦隊が戦闘態勢に入る。一方、横鎮近衛艦隊側にも損害が無かった訳ではなかった。

 

ドオオォォォォーーー・・・ン

 

摩耶「くっ―――やるな・・・。」中破

 

提督「大丈夫か?」

 

摩耶「お、おうよ! お前の為だ、まだまだいけらぁ!」

 

提督「そうか、しっかりついてこい!」

しかしその状況を見た金剛は、流石に嘆息せざるを得なかった。

「流石に損害が拡大してるネー。」

 こればかりは地上砲台と艦載砲の精度の差が、如実に出てしまっていた。こちらは波に揺られながらなのに、向こうは固い地面の上から正確に砲撃を繰り出せるとあっては、その差は大きい。

「あぁ、最上も既に離脱してしまっているしな。4隻別働で割いているし、こちら単体では12隻にしかならん。相手は空母も含んでいるとはいえ9隻だ。」

直人もこの点は同意せざるを得ないと見えてそう言った。

金剛「数の上で絶対有利ではないネー。」

 

提督「水上艦の数で言えばこちらは倍いるから有利なのは確かなんだがな。」

 

金剛「砲台はまだ多いネ、油断は禁物ヨー。」

 

提督「全くその通りだな、てか先言われた。」

 

金剛「先の読める事ネー。」

 

提督「やれやれ。頼もしい秘書艦様ですわ。」

 

金剛「そう思うならもっと頼るデース。」

 

提督「もしかしてだけど拗ねておられる?」

 

金剛「そうではないデスガ・・・。」

 

提督「・・・!」キュピーン

 

名案を思い付いた様だ。

 

提督「金剛、左前方の島にある砲台を別働として艦砲射撃で潰してくれ。夕立と時雨を連れて行くといい。」

 

金剛「了解デース!」(計画通り・・・。)

 

提督「頼むぞ~。」

 彼にしてみれば、泊地突入の際障害になる敵砲台陣地を減らすのが狙いであったが、金剛にしてみればただ単に見せ場が欲しかっただけである。兎も角、直人は土俵を整えた。戦力差イーブン、水上戦力で1.5倍差になった訳である。

 

提督「全艦突入! 雪風達はそのままもう一つの敵砲台群を叩け!」

 

雪風「“はいっ! 頑張りますッ!”」

 

提督「各員の健闘に期待させて貰うぞ。」

 

一同「「“はいっ!!”」」

 駆逐艦の全てと、主力艦の一部を割いて、文字通り真正面から殴り込む直人。戦艦の数で3対1、砲門数で言えば、横鎮近衛艦隊は16インチ砲10門だけに対し、小松艦隊は16インチ砲8門と14インチ砲16門が未だに健在なのだ。ただ、横鎮近衛艦隊には小松艦隊では既に前線にいない重巡が1隻おり、8インチ砲10門を擁するのだが、戦艦の主砲と比べればその威力の懸絶は激しいと言わざるを得ない。

 

提督「―――全く、荷の重いこった。」

 

摩耶「その分、アタイに任せな。」

 

提督「あぁ、頼むぞ摩耶。加減はいらん、全力で行け。」

 

摩耶「おう!」(おぉ~、今スッゲェ頼られてるぞォ! ここで得点稼いどくチャンスだな!)

 摩耶の言う「得点」は稼ぐのはいいとして何処で使うのか、無謀な戦いもいい所である。テンションが上がり過ぎてそれにすら気づかない位には思考が錯綜している摩耶であった。

 

 

大鳳「―――!」

 

大鳳も突入を始めている横鎮近衛艦隊内に戦艦級の艦娘が見当たらず、提督の姿がある事に気付く。

 

大鳳「チャンス、かもしれないわね、今なら!」

 いない理由は、赤城と加賀の報告からも自明だ。明らかに砲台への損害が増えすぎているからである。だがそれを置くとしても、今の戦力は水上艦6隻と砲台のみ。横鎮近衛艦隊はここまで徹底して砲台を叩いていたのであった。

 

長門「いいだろう、私が引き受ける。」

 

大鳳「各個撃破のチャンスよ、しっかり頼むわね。」

 

長門「うむ。」

 

小松艦隊で唯一紀伊に対抗可能かもしれない艦娘、長門を筆頭に打って出る小松艦隊。正面からの力のぶつけ合い、長門の弾き出した戦術の解は、大艦巨砲主義に基づく全くシンプルでポピュラーな、だからこそこうした場合では有効な戦術であった。

 

 

提督「―――長門か、損傷しても尚、立ちはだかって来るとは流石だな。」

 

長門「ビッグセブンを侮って貰っては困るな。そちらもここまで中々の戦いぶり、感服した。」

 

提督「褒めても何も出んがね。」

 

長門「期待してもいないな。」

 

提督「―――始めようか。私がただの提督でない事はもう分かっているだろう?」

 

長門「言われるまでもない、全力で参られよ。」

 

提督「元より、そのつもり。全砲門斉射!!」

 

長門「全艦撃ちまくれ!!」

 

19時16分、距離1万m、小松艦隊と横鎮近衛艦隊との間で、夜戦の火蓋が切って落とされた。

 

提督「回避はしっかりやれ、相手の方が火力は上だ!」

 

摩耶「おう!」

 

神通「敵艦に命中!」

 

提督「いい調子だ! 着弾―――今!」

 

ドガアアアアァァァァァァァーーーーー・・・ン

 

「あああぁぁっ!?」

 紀伊の第一斉射は一撃で榛名を捉え、命中弾4を数えたその一撃は、瞬く間に榛名を大破させてしまったのである。

元々巡洋戦艦だったものを改装した高速戦艦では、16インチ砲には耐えられないのも道理であったが。

 

提督「よしっ! 次だ!」

その時敵陣で砲炎が煌めくのが見えた。

 

提督「―――!」

 その内の一つが明らかに彼を狙っている事に気づくまで、そう時間はかからなかった。紀伊を照準したのは霧島である。

 

ドドドドオオオオォォォォーーー・・・ン

 

提督「うおおおおっ!?」

 

霧島の放った砲弾は至近弾こそ出したものの、命中させた1発は装甲にものの見事に弾かれていた。角度が余りにも浅すぎてそもそも突き刺さりすらしなかったのである。突き刺さった所で対16インチ砲防御を施された装甲を貫徹出来るかは怪しいが。

 

提督「まぁ狙われらぁな。」

 

神通「“大丈夫ですか?”」

 

提督「大丈夫よ~。今度は俺の番だな、斉射!」

 

ズドオオオォォォォォーーー・・・ン

 

直人が霧島に向けて反撃の斉射を放つ。動機が何であったにせよ、形勢を巻き返す為に敵戦艦の数を減らすと言う選択は誤っていなかった。

 

摩耶「敵駆逐艦に命中弾2!」

 

神通「それとは別の駆逐艦に命中弾3与えました!」

 

提督「よし、いいぞ! このまま押し切るぞ!」

 なんと言う事であろうか。数でも砲門数でも劣る筈の横鎮近衛艦隊が、小松艦隊を押し切ろうとしていた。理由を求めるとするならばそれはやはり経験の差であっただろうが、直人の存在がイレギュラーすぎる、と言うのが実際の所では無かっただろうか。

巨大艤装「紀伊」の霊力機関のコアをトレースし、それを基にして作られた紀伊のコアなのだが、コアのトレースは、そこに内蔵されている機能の一部も引き継ぐ事になる。

 例えば射撃管制がそれに当たるものの一つである。無論トレースしているからそれ自体は劣化するのだが、それを技術と自身の経験で補完してやればいいだけの事である。

そして直人は、この日初めて使う筈の「戦艦」紀伊の艤装を一通り使いこなしていた。明石によって劣化した部分を可能なだけ補完した射撃管制機構は、夜の闇をものともしていなかったのである。

 

 

霧島「かなりの射撃精度、やりますね・・・。」

 直人が霧島に放った第一斉射は実は全弾外していたが、どちらかと言えば全弾躱されたと言う方が正しい。霧島の戦歴には夜戦経験があるから、こう言う局面にも適応してくる訳である。

 

「夜戦ならこちらが上手、それを見せて差し上げます!」

霧島が斉射を放つ。彼女からは直人の姿ははっきりとその目で捉えられているのである。

 

「正確だな、こっちはそもそも夜戦にも慣れてないのに。」

 直人の場合レーダー射撃を使っているから正確な射撃が出来ている。文明の利器を用いた射撃は肉眼に勝るが、それでも慣れているのとそうでないのとは訳が違う。

 

提督「見えんと言うのは、本当に不便だな!」

 

ズドオオオォォォォーーー・・・ン

 

提督「まだか―――!」

 

直人は、何かを待っていた―――。

 

 

砲撃戦開始30分、小松艦隊司令官である小松英翔は、前線部隊で被害が拡大する一方、敵にも損害を与えている事自体は事実であったが、横鎮近衛艦隊がなぜこれだけの戦力で正面からの砲撃戦を挑んできたのかが気になっていた。

 

小松(砲台はその場しのぎにはなるな。しかしなぜ、横鎮近衛艦隊はここまで戦力を割いたのだ・・・?)

 夜間航空攻撃と言う強みを十二分に用いているとはいえ、現状で横鎮近衛艦隊の劣位は歴然としていた。“横鎮近衛艦隊の方が戦力を残しているのに”である。

 

小松(砲台への被害は最早無視出来るレベルではない、戦力を割いた事による効果は確かに出ている。演習弾でなければ多額の損失を出していた所だ。だが肝心な突入で・・・)

 

小松所長は理由を考えて見たが、その理由までは分からなかった。

 

 

(一体なぜ・・・?)

 同じ時大鳳も同じ疑問に至っていた。しかし小松所長と違い、彼女はある一つの疑念に辿り着いた。

それは、戦場に出た者特有の、一種の直観に等しいものだった。

「待って・・・? 長門さん!」

 

長門「“―――どうした?”」

 

大鳳「敵重雷装艦の姿は見えますか?」

 

長門「“そもそも夜だからな、中々そこまで判別は難しい・・・。”」

 

「―――!」

大鳳は気付いた、が、遅きに失していた。

 

ドドドドドドドオオオォォォォーーーー・・・ン

 

大鳳「えっ―――!?」

 

 

「来たか!」

直人はこの瞬間勝利を確信した。

 

 

大井「間に合ったみたいね。」

 

北上「ナイスアシスト、ありがとね、浜風。」

 

浜風「どういたしまして。」

 

浦風「間に合うたねぇ。」

 

浜風「雷撃は得意でしたが、まさかこう言う形で生かせるとは。」

 覚えておいでだろうか。浜風の雷撃命中率は、艦隊の中で抜きん出て高い。その所以は、浜風の真面目さが、雷撃照準に求められる緻密な計算を正確に、且つ効率良く行う事で、雷撃の命中率を高くし、雷撃照準を素早く行う事で雷撃にかかる時間を短縮している訳である。

この二つが、浜風が雷撃を得意とする秘訣であった。

 

 

大鳳「そうか―――最初から重雷装艦はいなかった、突入前に分離して、ここぞと言う時に・・・。」

 

長門「“こちら、長門・・・前線は、崩壊した。全員、被雷したようだ・・・。”」

 

大鳳「そんな・・・!」

 浜風の雷撃指揮は完璧であった。5隻に数を減じていた小松艦隊前衛が、全艦見事に側面から雷撃を受けて航行不能になっていたのである。

大鳳が衝撃を受けたのも無理からぬ事ではない。何もかもが、違い過ぎていた。所詮実験が主任務の艦隊と、端から莫大な数の実戦を経験してきた歴戦の勇士達。そこには、大きく隔たった実力の壁があったと言えただろう。

大鳳「という事は・・・。」

 

 

提督「行くぞ、この勝負、我々の勝ちだ!」

 

一同「「はいっ!!」」

 戦艦紀伊を先頭に、横鎮近衛艦隊の主力が悠然と突入する。残されたのは活動不可能の空母のみである。

 

提督(苦労したが、粘り勝ちだな。)

 

 

小松「―――大鳳。」

 

大鳳「“なんですか?”」

 

小松「例のモノを使え。」

 

大鳳「“いいんですか? でもまだ調整中だった筈じゃ・・・。”」

 

小松「やらないよりはマシな筈だ。」

 

大鳳「“・・・分かりました。”」

 

―――筈だった。

 

神通「前方に空母1!」

 

提督「砲撃用意―――」

 

ヒュルルルルル・・・

 

提督「何!?」

 

ドゴオオオォォォォーーー・・・ン

 

摩耶「ぐああああっ!?」

 

「摩耶!」

 紀伊の隣を航行中で、中破していた摩耶が一撃で大破に持ち込まれた。いや、大事な事はそれではない。直人が驚愕したのは、間違いなく『砲撃可能艦が一隻もいない』筈であるのに、何処からか撃たれた事が問題なのだ。

「瑞鶴! 地上砲台は全部潰した筈じゃないのか!?」

流石に問い合わせる直人であったが、その瑞鶴からの返答はと言うと、

「“不備は無かったと言えないけど、殆ど全部叩いた筈よ!?”」

と言う、こちらも驚きを隠せないと言った様子の返事であった。

提督「なら一体どこから・・・?!」

 

神通「前方に発砲炎!」

 

提督「艦影は!」

 

神通「―――恐らくですが、大鳳型です!」

 それこそ彼にとっては驚くべき事実であった。空母が砲撃を行う等、赤城や加賀で無ければ本来不可能である芸当の筈だった。

言葉にならない驚きと共に、再び砲弾が彼らに降り注ぐ。

「回避!!」

咄嗟に直人も命じるが、流石に距離が近すぎ間に合わない。

 

ドゴオオオォォォォーーー・・・ン

 

神通「くあっ―――!?」

摩耶に続き神通が凶弾を受ける。神通までもが一撃で大破にされたのである。

「馬鹿な―――!?」

 そう、有り得ない事である。本来ならば、ここまで一方的に大破される事など、艦娘同士の戦闘では起こり得ない。あまつさえ、神通は艦隊創設初期から夜戦で戦功のあった、謂わばプロ中のプロ。それ故傷一つ無かった神通までもが、一撃で、しかも艦娘の砲撃によって大破したのだ。

 だがその驚愕に対するヒントは、その神通からもたらされた。

「提督、気をつけて下さい。あれは、まるで―――身体保護障壁を無視する様な―――!」

 

提督「―――そう言う手品か。ありがとう神通。」

 

神通「はい・・・。」

 

 彼はその言葉だけで、その力の本性を不完全ながら即座に見破った。彼がこうなる前、伊達に霊能者と呼ばれていた訳では無い。彼は艤装を扱う以前から、霊能に一定の精通があったし、それは周囲にも周知の事であった。

謂わば彼も一端の専門家、故に彼は、大鳳が()()()()()()を、たった1つの貴重なヒントでほぼ見破って見せたのだ。

「一発も受けてはならん訳だ。」

 

鈴谷「どうすんの!?」

 

提督「分散するしかないな。」

 残っているのは紀伊の他に彼女だけになってしまっていた。他は分散しているから、すぐ戦力にはならないし、少なくとも当座の間だけ、この2人だけで如何にかするしかない。

そしてそう言う時は、単艦での行動の方が、状況的に手っ取り早い。何より―――

提督「こういう時は一人の方が立ち回りやすい。だろ?」

 

鈴谷「無茶振りだねー?」

 

提督「でもやるんだろう?」

 

鈴谷「勿論、提督の頼みとあらば♪」

 

提督「やれやれ、俺も慕われてるな。」

 

鈴谷「その代わり、後でしっかり“お礼”はしてよね?」

 

「む・・・お手柔らかにしてくれると嬉しいなぁ。」

鈴谷の不穏な一言に、全てを察した直人である。

 

鈴谷「さ、行くよ。」

 

提督「あぁ―――!」

正体不明の攻撃を行う大鳳に対し、紀伊と鈴谷の挑戦が始まったのである。

 

提督「残存各艦へ、本隊は紀伊他鈴谷の2艦のみ。我これより突入す、各隊は攻撃終了後直ちに合流せよ。」

 

鈴谷「ちゃっかりしてるね?」

 

提督「まぁな。さてさて、飛び出すぞ。」

 

鈴谷「OK!」

 

直人と鈴谷は岩礁の陰から左右別に飛び出した。大鳳はその飛び出し際を狙ったもののスタートダッシュを2人とも決めていた為、掠りもせず明後日の方向に飛んでいく。

 

提督(障壁の無視か。方法としては二つだが―――)

 斉射を放ちながら、直人は神通から聞いたワードを考えた。艦娘の身体防護障壁は基本的に「同じ性質の霊力」では突破出来ないと言う特性を持っている。

つまり、磁石のプラスとプラスが互いに突破出来ないのは、互いに反発しあっているからであり、それと相似した現象が起こるのだ。

 その為この鉄壁の壁を破るとすれば、別の性質の霊力をぶつけるか、あるいは障壁を発動させていない時と言うそもそも論しかない。

 

提督(“障壁の無視”・・・負の霊力は無視する様な挙動は取らない。それが無視されていると言うのは・・・。)

 負の霊力の特性は「侵食」であり、「浄化」の特性を持つ正の霊力とは真逆と言える。但し真逆であると言うのはぶつけると打ち消し合う関係である訳だが、感覚的にはお互いに「干渉し合う」様な挙動を取る為、スルッと無視してすり抜けると言う様な事は起こり得ないのだ。

 つまるところ、打ち消し合った先に弾が残れば、残ったその弾は相手にダメージを与えられる、という訳である。残らなければそれもまた然りである。

 

(そうなると・・・。)

彼の中で結論は出つつあったものの、事態は戦闘中であったからより深刻であった。

 

提督「・・・効いている感じがしないな。」

 

 

「―――その程度ではびくともしないわ。」

 大鳳は無傷であった。直人は少なくとも41cm砲弾を6発は直撃させている筈なのだが、大鳳は全くの無傷であった。

 

大鳳「主砲・・・発射!」

 

ズドオオオォォォーーーー・・・ン

 

 驚くべき事に、大鳳はその周囲に4基の戦艦級主砲を浮遊させて運用していたのだ。しかも夜間故に砲とその台座のみと言う視認性の低さは際立ち、直人はこの時全く気付いていなかった程だ。

「まだ調整中だからかしら、追尾性が余り良くないわね・・・。」

最後の切り札に近い兵装だったが、どうにも扱いに苦労しているようである。

 

 

「急ぐデース!」

 最初に任務を完結したのは金剛別動隊であった。大井と北上の雷巡部隊は弾薬欠乏で後方へ離脱した後で増援は物理的に無理である。

 

時雨「前線は相当苦戦してるみたいだね。」

 

夕立「早く手伝わなきゃ!」

 

金剛「その通りネー!」

 この時フリーで動けたのは金剛隊だけであり、雪風隊は砲台の掃討に未だ手間取っていた為増援は不可であった。

 

金剛(終わってからでは遅い、急がなくちゃ・・・!)

 金剛の表情にも焦りの色が見える。砲台の炎上で明るく照らし出された洋上で、戦闘を行う者達の姿が金剛らからも望見する事が出来たのだから自然であっただろう。この時ばかりは、自分が暗に我儘を言った事を後悔してもいた。

今の所直人も鈴谷も被弾はしていない。しかしそれもいつ変わるか、予断を許さない状況だった。

 

 

「―――やはり、効いていない。」

12発目を直撃させた辺りで直人は感づいた。大鳳への攻撃は全て無効になっていると。

 

提督「鈴谷、そっちはどうだ。」

 

鈴谷「“1発受けたけど大丈夫! でも攻撃が効いてるのか分かんない!”」

 

提督「やはりか・・・。」

 

鈴谷「“えっ、もしかしてそっちも!?”」

 

提督「そうなんだ。増援か、或いは何か打開策がいるな。」

 

鈴谷「“増援は兎も角打開策なんてあるの!?”」

 

提督「まだ思い付いてない。そもそもなんで攻撃が効かないのかがな・・・。」

 

鈴谷「“だよねぇ~・・・。”」

 

(何かないか・・・何か・・・!)

 照明弾を打ち上げながら、何とか打開策を捻り出そうとする直人だったが、そう一筋縄には出そうになかった。

 

 

その頃・・・

 

 

瑞鶴「見つけたって!? よし、攻撃開始!」

 

翔鶴「敵空母を叩くのよ!」

 

瑞鶴達も遊んでいた訳ではない。攻撃隊を索敵攻撃に出し、行方不明の残り2隻の空母を探し求めていたのである。そしてそれは実を結んだのだった。

 

皐月「いや~、これで僕達の仕事は終わりかな?」

 

秋月「だといいのですが・・・。」

 

赤城「何か、思う所が?」

 

秋月「前線で随分苦戦している様子ですし、何事も無ければいいのですが・・・。」

 

加賀「金剛隊の内、提督の率いた本隊が壊滅したようだけれど、別働として出した艦娘達は健在のようだし、合流すればまだいけるでしょうね。」

 

秋月「・・・そうですね。」

 

 

20時02分、戦況が遂に動いた。

 

状況の変化は二つ、一つは砲台の制御を担当していた赤城と加賀が大破した事で砲台が沈黙し、雪風隊が移動を始めた事。もう一つは・・・

 

金剛「へーイ提督ゥー! おまたせデース!」

 

夕立「魚雷、発射!」

 

時雨「投影(トレース)―――開始(オン)!」

 

提督「“遅いぞ金剛!”」

 

金剛「ソーリーネ♪」

 

金剛隊の来援、その遅さを咎めるような口調の直人だが、別に怒ってはいないし、それも金剛は分かっていた。

 

提督「“よくぞ間に合ってくれた。”」

 

金剛「間に合ってよかったネー、無茶しちゃノーなんだからネー?」

 

提督「“ハハハ、すまんすまん。”」

 

金剛「そのお詫びは今度デース、今は集中するヨー!」

 

提督「“勿論だ。”」

 

直人、金剛、そして鈴谷。3人揃えば何とかなる。直人はそう思いたかったのだが・・・。

 

 

大鳳「い、一体あれは―――!?」

 

一方、横鎮近衛艦隊の増援に面食らったのは大鳳の方であった。

 

ゴオオオオォォォォーーー・・・

 

時雨の魔術ロケット弾6発が迫る。

 

大鳳「―――!」

 

大鳳はその直感で咄嗟に回避行動を取る。しかし全てを避け切る事は出来なかった。

 

ドゴオオオォォォォーーー・・・ン

 

大鳳「!?」

 時雨の一撃は身体防護障壁を無視した。元より霊力を用いていないのだからそれも道理であった。

身体防護障壁は対深海棲艦の戦闘中に於いて、その身体を守る為のものであるから、負の霊力を防ぎ止める事にその主眼はある。この為霊力は防げても魔力その他は防げないのだ。

「損傷は軽微ね。でも、撃ち落さないと不味いわね・・・。」

 大鳳も魔術の存在を感知していない。この面々の中では、直人と時雨だけが扱える特別な能力であるし、この2人以外知らない能力である。

 

 

提督「あれは時雨の―――あれなら行けるのか。と言うか、霊力以外なら!」

 直人はようやくその事に気付いた。艦娘では中々思いつかないブレイクスルーではあるが、霊力以外なら物理エネルギー以外で身体防護障壁は無視出来る。

「各艦へ、敵の内懐に潜り込むから援護してくれ。」

 

金剛「“どういう事ネー!?”」

 

時雨「“―――成程ね。”」

 

「“いやどういう事ネー?”」

金剛がそう聞くと、時雨は金剛に直人が考えた事と概ね同じ事を耳打ちした。

 

金剛「“・・・成程ネー、了解デース!”」

 

「ありがとう。では行くぞ!」

 直人はおもむろに大鳳に突進するルートを取る。当然大鳳は直人に照準を絞るが、直人が艤装を畳んでいる事で被弾面積が小さく、直人も上から見た時の径を小さくする事で身軽に動ける為、大鳳の砲弾は全く当たらない。

この辺りは半ば反射神経テストじみてはいたが、直人の巨大艤装運用の経験が、これを後押しした。

 

大鳳「やるわね・・・!」

 

提督「そう簡単に当たるか!」

 空母と戦艦、砲撃の技量でどちらが勝るかは自明の理だ。そして、砲撃の回避方法に精通しているのがどちらであるかも明白だろう。

戦艦は砲撃戦のエキスパートなのだから当然である。

 

大鳳「距離8000、逃げた方が―――」

 

ドドドドオオオォォォォォーーー・・・ン

 

「!?」

大鳳が決断しかけた正にその刹那降り注いだのは、時雨の放ったロケット弾であった。

「あの駆逐艦、厄介ね―――!」

 彼女は漸くその脅威度の正確な認識をするに至るが、先に時雨に対応するか、紀伊の突撃に対処するべきかと言う所で僅かに逡巡が生じる。

 

時雨「“僕達が足を止めてる間に早く!!”」

 

提督「いい支援だ、その努力に報いるとしよう!」

 直人が戦艦紀伊を駆って最大速力の28.8ノットで大鳳に向けて肉薄する。距離4000m、流石にもう直人の目にも見えていた。

目の前で砲炎が瞬く。直人は直感的な回避軌道で速度を落とさず全弾回避する凄技を披露してのけると、低い姿勢を維持して直人は尚も突進する。

(3500・・・もうすぐだ、あと少しで手が届く!)

既に大鳳も高角砲をも使って弾幕を張っている。しかしその程度ではもう止められない。

(3000・・・2500・・・2000・・・)

 鉄の嵐が押し寄せて来る様な錯覚さえ覚える極限状態に置かれつつも、直人は尚ひた走る。

常人なら既に発狂しているだろうが、数多くの鉄火場を駆け抜けた彼は既に“常人”とは程遠い程にまで、精神的に洗練されていたと言える。

(1500・・・1000・・・500・・・!)

 

大鳳「嘘ッ―――!?」

機銃による弾幕も、彼の前には効果がない。戦艦と言う艦種が、彼に強力な加護を与えてもいるのだ、当然であろう。

 

提督「とくと見るがいい! これが、横鎮近衛の戦い方だ!!」

距離30m、身体防護障壁を直人が遂に突破する。

「抜刀!」

 

大鳳「か、刀―――!?」

 直人が霊力刀『極光』を引き抜く。これが障壁の外ならこの一太刀すらも弾かれるが、既に入り込んでしまっているから大鳳には確実に防ぐ術はない。

 

提督「ハアアアアアッ!!」

 

大鳳「くっ―――!!」

 

ガキイイィィィィーーー・・・ン

 

大鳳は咄嗟に自身の甲板で防ぐ。

 

提督「―――!」

 

大鳳「はっ!」

 

バシュバシュッ―――

 

 大鳳は反撃とばかりにボウガンを連射するがこれは避けられて虚空に消える。だがその間に大鳳は何とか少し距離を稼ぐ事に成功する。

しかしその接近によって大鳳の持つ霊力を感じ取った彼は得心する。それは艦娘が持つには、余りに特異な力でもあった。

「この霊力の感じ―――成程、貴様そう言う手品か。」

 

大鳳「・・・流石ね、そこまで見破られるなんて。」

 

提督「剣を交えて見て、やっと分かった。お前のそれは、正でも負でも、まして人が持つそれでさえもない。」

 

大鳳「えぇ・・・私達が“純粋霊力”と呼び、研究しているものよ。」

 

提督「成程、正も負も無い純粋な力と言う訳か。」

 

大鳳「どっちみち、後で説明されるでしょうけど。」

 

提督「久々の講義だな、楽しみにしておこう。だがこの感じを俺は“知って”いる。」

 

大鳳「―――!」

 

 

―――F武装、限定接続―――

 

 

 直人が久しぶりにその切り札を限定的に行使する。元々この力は巨大艤装に宿されていたものである為、この紀伊では断片的にその力を受け継いだに過ぎず、追加の兵装は一切使えない。

その為この戦艦紀伊に於いて『大いなる冬』の力が為し得るのは、「力を変質させる」事、ただその一点に尽きる。

「この感じは―――!」

 大鳳もそれに気づく。大鳳の持つそれとも異質なその力は、ここから存分に発揮される事となる。

提督「斉射!」

 

大鳳「―――!!」

 

ドドドドオオオォォォォーーーー・・・ン

 

大鳳「きゃぁっ!?」

 紀伊の砲弾が遂に大鳳にダメージを与えた。浮遊主砲3基を破壊し、甲板も半ばから断ち切られている。

 

大鳳「そんな・・・、この私が!?」

 

提督「質が違うってのよ。戦艦と空母では、霊力の強さが違う。」

 第二斉射を放つ直人。砲弾は1発が掠めた程度だったが、直人はこの段階でかなりの決定打を手にした事になる。

 

大鳳(あの提督は一体―――)

 流石に訝る大鳳である、まぁ人間が艤装を扱う事自体普通ではないのだが、艦娘から見ると意外と受け入れられるものらしい。が、正の霊力を扱わない事については別問題である。

「まだよ―――! 私のボウガンは、ただ艦載機を撃つだけのものじゃないわ!」

 大鳳のボウガンは自衛火器としても使えるようにはなっている。ただそれをしなくてはならないのは終末的状況に於いてであっただろうが、艦載機と同じ要領で砲弾を射出する特殊な矢を、大鳳クラスの艦娘は装備出来るのだ。

 

ビシュッ―――!

 

提督「ッ、ボウガン!?」

 

ドドドオオオォォォォーーー・・・ン

 

「ちょ、ちょ、ちょ!?」

 これに関しては完全に面食らう直人、艦娘の大鳳の事を良く知らなかった事が裏目に出た形になる。

 

提督「聞いてねぇぞおい・・・。」

 

ドゴオオォォォォォーーー・・・ン

 

提督「ぐあああっ!?」

 2射目で大鳳が直人を捉える。流石と言うべきか、主砲よりボウガンの方が得意であったようだ。

「・・・ま、そうだわな。と言うか、主砲1門だけ使えんくなったか。」

左側の砲塔を直撃した1発が、見事に砲身を歪ませていたのである。

 

提督「まぁ、手も足もまだ動く。行けるさ。」

 彼は残った9門を総動員して射撃を続行する。お互い名うての戦士同士、息もつかせぬ激しい一騎打ちが続く。

 

大鳳「発射!」

 

提督「撃て!!」

 

ドドドドドドドドオオオオオオォォォォォォーーーー・・・ン

 

提督「損害なし!」

 

大鳳「戦闘続行!」

 攻防は最終盤に差し掛かっていた。そしてやっぱりレベルの違いで場外のその他艦娘達である。

 

金剛「なんかコーユーの、前にもあったネー。」

 

鈴谷「だね。」

 

夕立「ぽい。」

 

時雨「うん。」

確かに前にもあった。もっと人数は多かったけれど。

 

鈴谷「でも生き生きと動き回ってるねぇ。」

 

金剛「あれだけ生き生きとした提督の姿も久しぶりネー。」

 

鈴谷「頼れる提督だよねー。」

 

金剛「普段は面倒臭がりだけどネー?」

 

鈴谷「ホントそうだよね。」

 

時雨「普段は普通の人だよね。」

 

夕立「凄く親切っぽい!」

 

鈴谷「そうだねぇ~。」

 

為す術も無いから雑談タイムなのは仕方がない。そんな事を言っている間にタイムリミットは着実に迫っていた・・・。

 

 

提督「ハアアアアアッ!!」

 

大鳳「やあああああっ!!」

 

ガキイイィィィィィーーー・・・ン

 

直人が再び極光を振り下ろし火花が散った。

 

「“双方それまで!!”」

 

提督「!!」

 

大鳳「!?」

 

「“時間経過により、勝者、柱島第444艦隊!”」

 

提督「なん・・・だと・・・。」ハァ・・・ハァ・・・

 身に着けていた腕時計に目をやると、時刻は21時00分。確かに、演習終了の規定時刻である。

 

金剛「“も、もうそんな時間デース!?”」

 

提督「そ、その様だな・・・。」

 

鈴谷「“全然気づかなかった・・・。”」

 

「状況終わり! 残存全艦集結!」

直人は息を切らしていたが、それでもどうにか呼吸を整えて鋭いひと声をインカムを通して発した。

 

大鳳「石川提督。」

 

提督「ん?」

 

大鳳「お見事でした。完敗です。」

 

提督「こちらこそ、いい経験になったと思う。」

直人と大鳳が互いの健闘を称え合う意味を込めて握手を交わす。

 

 

(勝ちに持って行けはしたか。それだけでも僥倖だな。)

その頃研究所から様子を見守っていた小松所長も状況を把握するに至った。

(彼らも良くやったが、大鳳も良くやってくれた。後でちゃんと褒めてやらないとな。)

 

 小松艦隊との横鎮近衛艦隊の演習は、結果として小松艦隊側の勝利で幕を下ろした。とは言え、横鎮近衛艦隊はその個々の能力を存分に生かし、その本分を果たし尽くした上での敗北であったから、咎められるべき何物も無いのは確かであった。

 ただ直人にとって痛恨だった事は、大鳳の事を良く知らないまま戦闘へと突入してしまった事、ただこの一点に尽きた。

幕下にいない艦娘の事をよく理解出来ていないのは道理だったが、さりとて情報を集めるべきではあったと言える。情報の重要性はどんな場面でも同じ事であって、実戦であればこれが元手になって敗北していてもおかしくはないのである。

 

 

21時31分 三技研エントランス

 

小松「紀伊元帥、お疲れ様でした。」

 

提督「いやぁ、今日はありがとうございました、所長。」

 

小松「いえいえ、こちらとしてもデータとしては素晴らしいものがありました。ありがとうございます。」

 

提督「それは良かった、是非ともお役立て頂きたい。」

 2人の目と声に、勝ったと言う実感は浮かんでいない。ただ、終わったかと言う安堵だけが、滲み出ていた。直人のその言葉に対し、小松所長はこの様に答えた。

「無論です。ところで幾らかお話があります。副官と総旗艦を帯同の上、所長室まで来て頂けますか?」

突然の申し出に目を丸くした直人ではあったが、

「はぁ、分かりました。金剛! 大淀!」

 

金剛「なんデース?」

 

大淀「なんでしょうか?」

 

提督「すまんが俺と一緒に所長室に来てくれ。小松所長がお呼びだ。」

 

金剛・大淀「「了解。」」

といった具合に2人を引き連れて小松所長に続いた。この時直人は疲れ切ってはいたが、何やら重要な話かと察した為に大人しく付いて行ったのだった。

 

 

21時43分 三技研・所長室

 

提督「―――それで、お話とは?」

 

少々の雑談を挟んだ後、直人が本題を催促する。

 

小松「えぇ、先程の演習で、金剛さんのデータを見させて貰いました。主に基本的な、霊力の波形等ですが、そちらの金剛さんは、各艦隊で広範に運用されている金剛とは明確に異なる点がありますね。」

 

提督「それは艤装の事ですか?」

 

小松「いえ、霊力そのものです。これを見て頂きたいのですが・・・。」

 

提督「拝見します。」

 

直人が資料を受け取ると、それは金剛から観測された霊力の波形と、広範に用いられている金剛の霊力波形を比較したものだった。

 

提督「・・・これはつまり、霊力を我が艦隊の金剛は他の金剛より高い値を出力している、と言う事ですか?」

 

小松「出力と言うのは機械的な言い回しですが、端的に言えばそうです。」

 

提督「ですが、我が艦隊の金剛は他の金剛より艤装や運用する主砲が二周り以上大きいのですから、それを扱うのに霊力が強くなるのは当然なのでは?」

 

小松「それは仰る通りですが、私が申し上げたいのは、それを含めても霊力の量が“多過ぎる”と言う事なのです。」

 

提督「・・・どういう事です?」

 

小松「言ってしまえば、“過剰”なんです。」

 

提督「いや、それは分かりますが、それがどういう影響を及ぼすんでしょうか?」

 

小松「影響、と言う程何かがある訳ではありません。」

 

提督「では何故、私達にその事を?」

 

小松「・・・元帥は、艦娘にも“世代”がある事をご存知ですか?」

 

提督「いえ、初耳です。」

 

小松「そうでしたか、まぁ昨年発表された事なので仕方ありませんね。艦娘には、その登場した時期によって幾つかの世代に分けられるのです―――」

 

 

艦娘達の世代は大まかには4つに分類される。

 

まずは

『第1世代』

 所謂“原初の艦娘”とも呼ぶべき存在であり、具体的には2052年4月以前に自然出現したものを指す。

様々な特殊な能力を持ち、全体的には後発の艦娘と比較して霊力保有量が明らかに多い傾向にある。原則として艤装はその保有量に準拠するのだが、第1世代艦娘はその余った霊力を様々な能力を発現するのに用いているのである。

 全体的な能力でこれ以降の世代の個体を大きく凌ぐ個体も多く、またかなり特異な能力を備えている場合もあり、実力は例外なく非常に高い。

全ての艦娘のオリジナルとなった個体が第1世代に分類される場合が大多数な為、同世代同名の個体は存在しないが、全戦力の軸となれる世代でもある。

 

次に

『第2世代』

 日本や一部の国に於いて艦娘を“建造”しようとした試みによって生まれた艦娘達の事で、日本ではこれに成功した事から戦局挽回の望みを託すに至った。これに加えて2052年4月以降に自然発生した個体もこれに含まれる。

 第1世代をベースモデルとしてそれをそのまま建造しようとした結果が第2世代であり、建造の結果が安定せず、イレギュラーの発生が相次いだ事から危険視された為ある時期を境に中止された。2052年4月以降に自然発生した個体も含まれるのは、建造され始めた事が一因とも言われているが能力がそれ以前の個体より劣った事による。

 能力面で第1世代には見劣りするが、時として第1世代を凌ぐ特異点を持つ場合も珍しくはない。

 

ここから派生するのが

『第2.5世代』

 建造と言う試みと並行して研究・開発されていた、人工艦娘や人造艤装がこれにあたり、建造ではなく人の手によって生み出された艤装や艦娘がこれに分類される。

再分類するなら4体の巨大艤装や戦艦紀伊もこれに当たる。

 霊力を用いる者にそれ専用の艤装を、妖精さんの力を借りて製作するのだが、素体となる者の素養や艤装そのものに対する適応と言う問題をクリア出来ず絶対数では数える程しかなく、実力も非常に安定しない。

 

第2世代の問題をクリアし、

現在広範で用いられるのが『第3世代』

 第2世代艦娘で目指した「第1世代艦娘の建造」を放棄し、無難な建造を目指しダウングレードされ建造した艦娘達であり、今日のスタンダードである。

能力を下げた影響でこの4代では最も弱く、特異点らしいものもほぼ発生しないが、対価として安定した建造結果を得る事が出来た事から、全司令部施設で第3世代艦娘が建造され続けている。

 

 

小松「―――この中で、そちらの金剛さんは第1世代に当たる可能性が非常に高いです。」

 

提督「そうなのですか?」

 

小松「恐らくは。横鎮の方に資料があるかもしれません。」

 

提督「・・・後で照会してみましょう。ですがうちの金剛は18インチ砲戦艦ですよ?」

 

小松「金剛を建造しようとした所、出来たのは史実と同じ14インチ砲搭載の金剛だったそうですから、それも特異点の一つなのでしょう。」

 

提督「成程・・・うちの金剛が全ての金剛のオリジナルとはねぇ。」

 

金剛「プレミアムな感じがするネー・・・。」

 

小松「他にも、そちら側の艦娘の大半が、第2世代に該当する可能性もかなり高いです。」

 

提督「・・・大淀、どう言う事だい?」

 

大淀「明石さんに確認しておきます。」

 

小松「これは私なりの推測になりますが、宜しいですか?」

 

提督「どうぞ。」

 

小松「恐らくですが、そちらで使っている建造設備は、第2世代艦娘に近い物を建造する為に作られたものである可能性があると思います。」

 

提督「だとすれば、イレギュラーの発生確率が・・・。」

 

小松「あるでしょうね。建造された艦が特異点を持っている事も珍しくない第2世代艦娘です。暴発すれば大変な事になりかねません。」

 

提督「と、いいますと・・・?」

 

小松「―――深海棲艦、或いはそれに近い物を建造する可能性があります。」

 

提督「―――!!」

 

金剛「エェッ!?」

 

大淀「な、成程・・・。」

 

小松「これについては施設を検める必要があるでしょうね。ところで、今までにどのような特異点がありました?」

 

提督「・・・最初から改二や改だったり、と言う事はありましたね。艦載機についてもエース部隊が多かったりとか。」

 

小松「成程、一応まだ特異点の内に収まる範疇ですね。ですが今後は念の為気を付けた方がいいでしょう。」

 

提督「・・・分かりました。」

 

小松「話と言うのは、この事について注意を呼びかけたかったのです。夜分遅くまで御足労をおかけしてすみません。」

 

提督「いえ、おかげで良い話を聞く事が出来ました。今後注意して行う事にします。」

 

こうして長い1日は終わりを告げた・・・しかし、彼の身にこの後起こる事は、彼にとって予想だにしない出来事であった。

 

 

3月19日の朝、直人は副官を伴い呉鎮守府へ出頭するよう命じられ、午前9時27分に出頭、その後小会議室へ通されて待たされていた。

 

提督「・・・何だろうか、ホントに。」

 

大淀「提督、もう6回目です。」

 

提督「良く数えてるなぁお前は。」

 

大淀「待ちくたびれてらっしゃいますね。」

 

提督「まぁな。もう30分は待ってるぞ。」

 

この体内時計はかなり正確であった。

 

大淀「待つのがお苦手なのは良く分かりました。」

 

提督「そうだよ。」

 

コンコン、ガチャッ・・・

 

水戸嶋「よぉ、直人。」

 

提督「おぉっ!? 氷空か!」

 

現れたのは呉鎮近衛艦隊司令官の水戸嶋(みとしま) 氷空(そら)元帥であった。

 

土方「私もいるぞ。」

 

提督「土方海将まで!?」

 

水戸嶋だけなら兎も角土方海将まで現れたのだから只事ではないなと感じた直人である。

 

土方「まぁ氷空君は顔が見たいそうだ、まずは水入らずでやりたまえ。」

 

提督「は、はぁ。」

 

氷空「久しぶりだな、卿も頑張っているそうだな。」

 

提督「お互い様じゃないか?」

 

氷空「そうだな、最近は北方に展開しての任務が増えてな。」

 

提督「俺も南方への展開が最近やたらとな。」

 

氷空「北と南か、お互い正反対の方面で、苦労も絶えんな。」

 

提督「全くだ。」

 

氷空「では、立て込んでいるようだから失礼するとしよう。」

 

提督「また今度な。」

 

氷空「あぁ。無理はするなよ。」

 

そう言って氷空は帰った。

 

土方「―――呼び立ててすまんな。」

 

提督「いえ、大丈夫です。それより何の用件でしょうか?」

 

土方「―――今回の案件は、非常に頼みにくいものなのだが・・・。」

 

陰鬱な顔をして、土方海将が言った。

 

提督「頼みにくい?」

 

土方「紀伊君や艦娘達にも、酷な事かも知れないが、それでも君にしか頼めない事案なのだ。」

 

提督「・・・仰りにくい様ですね。」

 

土方「そうだな、私としても、あのような事が本当に行われているとは思いたくなかったし、その解決を君に頼まなくてはならない自分の無力さを、悔やんでもいる。」

 

提督「そこまで仰らないで下さい、土方さん。私達に出来る事なら、汚れ仕事でも何でもやります。それが近衛艦隊ですから―――!」

 

土方「紀伊君・・・ありがとう。では一つ、頼みを聞いて欲しい。」

 

提督「はい! なんなりと。」

 

直人が姿勢を正すと、土方海将が話し始める。

 

土方「実は、今回君に頼みたい事は、普段君に頼んでいるのとは全く異なる任務だ。」

 

提督「と、いいますと?」

 

土方「今回の案件は・・・我々艦娘艦隊の内部に対するものだ。」

 

提督「内部・・・つまりそれは、我々が艦娘艦隊に対する任務、と言う事ですか?」

 

土方「口にするのも憚られる事だがな・・・。」

 

土方海将が言い難そうにしていた理由はつまるところ、普段彼らが遂行している戦闘とは全く性質が異なる、もっと言えば180度逆のミッションであったからだった。

 

土方「今回君にやって貰いたいのは、“ある提督グループ”の検挙だ。」

 

提督「―――!!」

 

大淀「それは・・・!」

 

土方「・・・先日、リンガの憲兵隊から、艦娘艦隊の内部で、不正な取引を管理・運営しているグループがいると言う情報が伝達されて来た。」

 

提督「不正取引、ですか? それは一体・・・。」

 

土方「・・・“人身売買”と言えば、分かるか?」

 

大淀「そっ、そんな―――ッ!!」

 

提督「人身売買―――奴隷取引、と言う事ですか?」

 

大淀が絶句し、直人も動揺を隠しきれない様子で問いかけた。

 

土方「そう言う事になる。」

 

提督「―――確かに、艦娘達は年頃の女性である場合も多く、しかも様々な趣向にも対応し得るし、何より提督の指揮権の中に置かれるから逆らう事は出来ない。マーケットとしてはこの上ないし、艦娘に対する感情が微妙である以上人権と言う認識に乏しい層には売れる―――」

 

土方「“高値で”、だ。」

 

提督「分かっています・・・考えても見れば、艦“娘”と言う位ですからね。これ程美女に囲まれる職場は他にない。まるでゲームの中の様な、そんな空間ですよ。その手の同人誌も漁れば山とある。ですがそれはあくまでフィクションだからこそ―――!」

 

土方「そうだ。フィクションであるからこそ、受容もされるし、それなりに需要もあるから供給としても認められる。私もその位の理解はある。だが、事が現実に起こってしまっている。到底、許容されるべき問題ではない。」

 

提督「・・・そうです、そんな違法取引はそう表には出ない、何故情報が?」

 

土方「それはだ、リンガ泊地にあるとある艦隊の隷下にいた艦娘だ。その艦娘が、情報を持って泊地司令部に単独で出頭したのだ。曰く“娼婦として売られかけている”とな。その艦娘は今リンガ泊地司令部で保護されていて、特に変わった所は無いそうだ。どうやら幸いにも売られる前だったらしい。」

 

提督「―――!!」

 

土方「思った通り、と言う顔をしているな。酷い顔ではあるがね。」

 

提督「―――私だって艦娘を抱いた事は幾度となくありますし、双方同意の上なら、提督との親睦をより深くする為に許された行為であると言う意味合いで、艦娘艦隊基本法にも規定されています。」

 

土方「そうか、君もその階段は登っていたか、いや結構な事だ。」

 

提督「だがその行為は、艦娘達の身や心は、金銭で取引されていいものでは無いのです!!」

 

土方「よく言ってくれた。私も同じ気持ちだ。この悪行は断じて許されていいものでは無い。だが今一つ証拠が無いのも事実なのだ。」

 

提督「・・・物証、と言う事ですか。状況証拠だけでは、確かに立件出来ませんね―――まさか土方さん、あなたは―――」

 

土方「その“まさか”だ。君達は極秘の存在だ。憲兵はこの状況では大きく動けないが、君達なら出来る。やって貰えるか? この世界に、不法をのさばらせて置く訳にはいかん。」

 

提督「・・・。」

 

大淀「提督、やりましょう。僭越ながら、私も御供致しますから!」

 

提督「大淀・・・。」

 

直人は大淀に励まされ、覚悟を決める。

 

提督「・・・分かりました。私が必ず、不届き者共を土方海将の御前に並べて御覧に入れます。」

 

土方「いつもすまないな、無理難題ばかり言っている気がするよ。」

 

提督「その無理難題を処理するのも、私達の仕事です。そうでしょう?」

 

土方「そうだ。だからこそ、今度も頭を下げるのだ。」

 

提督「とんだ貧乏くじですよ、我ながら。」

 

土方「それこそお互い様だろう?」

 

提督「ハハハ・・・そうですね。」

 

 

実の所、三技研の演習は、その申し出自体を渡りに船と見た横鎮側が、その本題を切り出す為に利用した所もある位で、この案件の処理を、土方海将以下横鎮サイドが如何に重要視していたかが伺える。ここで一つ例を作って置けば、再発する事は先細る様に少なくなるからだ。

 

 

土方「では君はすぐマニラ経由でリンガに向かって貰いたい。君の部下を連れていくかは、君の一存に任せる。生死は問わんから、その首を私の前に連れて来て貰えればそれでいい。」

 

提督「分かりました。武器等についてはどうするつもりですか?」

 

土方「相手は地下取引を行っている闇組織だ、武装している事も加味して、リンガ泊地に話を付けて置くから安心して貰いたい。」

 

提督「分かりました。これからすぐに三技研に戻ります。」

 

土方「吉報を待っているよ。」

 

提督「はい。」

 

直人はすぐさま三技研に取って返すべくその場を後にする。

 

土方(三技研に戻る、それが君の決断なのだな―――。)

 

それを見送る土方海将は、直人の判断を見抜いていた・・・。

 

 

11時07分 三技研・会議室

 

直人は戻るなり小松所長に行って会議室を借りると、連れて来ていた艦娘全員を召集した。

 

金剛「急にどうしたノー?」

 

鈴谷「そうそう、随分唐突だよね?」

 

提督「静かに、今から重要な話があるんだ。頼むから、皆も黙って聞いていて欲しい。」

 

そう言うと直人は、集まった21人の艦娘達の前で、土方海将から聞いた話を、一つも漏らさず話した。

 

リンガ泊地を舞台に、水面下で艦娘の身柄が不正に売買されている事―――

その用途が奴隷と同じで、娼婦として売られている場合もある事―――

リンガ泊地司令部に密告があった事―――

物証がなく憲兵が動けない為、自分達がその検挙の任を受けた事を―――

 

はらわたが煮えくり返るような怒りを覚えながら、それを堪え直人は話を終える。そして最後に直人はこう言った。

 

提督「―――相手は武装している可能性が高い。正直言って、生身の人間一人では厳しいと思う。だから・・・力を―――皆の手を貸して欲しい。」

 

室内がシンとなった。艦娘達にとっても、憤りを覚える事柄ではあるが、直人とは違い一つの問題があった。それは、「人間に弓を引くのか」と言う事である。

 

直人の命令とはいえ、艦娘が人間に対し武器を向ける。そんな事があっていいのか、それをする事は、自分達が普段戦う深海棲艦と同じになってしまわないかと言う、艦娘の存在意義そのものに対する根源的疑問が、さしもの歴戦の勇士達の決断力を鈍らせていたと言う事だろう。

 

提督「・・・。」

 

直人は敢えて何も言わない。艦娘達自身の決断でなければ、この際は意味が無いからである。

 

金剛「―――やるネー。」

 

提督「!」

 

金剛「それで少しでも多くの艦娘を救えるなら。不当な理由の下に生まれてくる艦娘を減らせるのなら。」

 

鈴谷「私もやる。女として許せないよ。そんなサイテーな奴らの為に戦ってるんじゃない!」

 

赤城「私が付き従うのは貴方一人です、提督。」

 

瑞鶴「賛成賛成!」

 

翔鶴「私もお供致します。」

 

加賀「私も行くわ。」

 

夕立「悪い事をしてるなら止めなきゃダメっぽい!」

 

時雨「その通りだね。」

 

神通「現在も続く悪行を正し、法の公平と艦娘の安寧を取り戻す為に! 皆さん異存無いですね!」

 

艦娘一同「「はいっ!!」」

 

神通「―――これが、私達の総意です。提督。私達22人、どこへなりとも、貴方と共に参ります。」

 

提督「お前ら・・・ありがとうな、いつも。」

 

金剛「水臭いのはナシネー。」

 

提督「そうか。ならば付いて来てくれ。艦隊出撃だ!」

 

一同「「了解!」」

 

こうして、直人にとっても、艦娘達にとっても予想だにしなかった検挙任務が、この小さな一室から始まったのである。

 

 

この後、鉄道と空路で移動すること実に10時間以上、リンガ飛行場に到着したのは23時37分になっての事であった。担当将校の案内でその日は宿舎で過ごし、翌日泊地司令部に出頭することになった。

 

 

3月20日7時41分 リンガ泊地司令部・司令官室

 

提督「石川少将、只今出頭致しました。」

 

北村「おぉ、来たな若いの。まぁ、掛けてくれ。」

 

提督「ハッ、では。」

 

司令官室に顔を出すと、好々爺で有名な北村海将補が、執務机ではなくその前に置かれているロングテーブルのソファに腰を掛けていた。隣には海自の制服でも艦娘艦隊の制服でもない男が一人座っている。

 

直人が北村海将補の向かい側に座ると、北村海将補が話し始める。

 

北村「紹介しよう。リンガ憲兵隊で今回の件を担当している、青江(あおえ) 文人(ふみと)憲兵中佐じゃ。」

 

青江「青江です、今回は宜しく。」

 

提督「宜しくお願いします。早速ですが、詳しい説明の方を頂きたいのですが。」

 

青江「大まかな事情については、既に向こうで受けてお出でと思いますので、現在の状況だけお伝えします。」

 

提督「お願いします。」

 

青江「保護した艦娘の証言によりますと、その艦娘が居た艦隊の提督は、あくまで協力者に過ぎなかったとの事です。証言に依れば、その艦娘は秘書艦を務めていたそうですが、提督の所業を詮索したところ疎まれたらしく―――」

 

提督「それを疎ましく思った提督が、売り飛ばそうとした・・・。」

 

青江「そうです。それを察した件の艦娘は、提督が不在の間に何とか抜け出し、リンガ泊地司令部に保護を求めたと言うのが、発覚までの流れです。」

 

提督「成程。もう少し詳しくお聞かせ願えますか?」

 

青江「その艦娘の証言を元に、憲兵隊で似顔絵を描きました所、この人物が主犯格ではないかと言う提督が1名浮上しました。」

 

そう言って青江憲兵中佐が似顔絵と共に1枚の提督の経歴書を卓上に差し出す。似顔絵は少し細めの目に吊り上がった太めの眉、顔つきは全体としてがっしりとしており、花崗岩のような風格、という例えが似つかわしい様に思える。

 

青江「“アーデルハイト”提督、本名、松谷(まつや) 小次郎(こじろう)。現在の階級は艦娘艦隊中将。これまでの実績は優秀で、艦隊としての練度も高レベルであるという評価がされている人物です。」

 

提督「で、似顔絵と言う事は、その協力者の下を訪れていた、と言う事ですか?」

 

青江「1週間に1度、出向くか出向かれるかのどちらかで、協力者と連絡を取っていたようです。その外出履歴が頻繁に過ぎ、件の艦娘が演習の際に会った別の艦隊の艦娘に問い質した所、違和感に気付いたそうです。」

 

提督「成程、いい直感をしているようですね。」

 

青江「そうした艦娘は、後ろめたい所がある者には得てして疎まれるものです。」

 

提督「大凡の状況は分かりました。で、我々は何をすれば?」

 

青江「これが、盗聴その他により得た、次の取引の情報です。無論証拠能力を持ちませんが・・・。」

 

何枚かの書類を、青江憲兵中佐が差し出すと、直人はそれを受け取って読み始めた。

 

提督「・・・22日ですか。」

 

青江「22日の19時、便宜上“ベースX”と名付けていますが、そこで取引が行われると言う事です。準備時間は2日しかありません。」

 

提督「わかりました。」

 

青江「本官も情報は出来るだけ提供致しますので、今回の一件、宜しくお願い致します。」

 

提督「はい。」

 

青江「では、本官はこれにて。」

 

そう言うと青江憲兵中佐は司令官室を辞去して行った。

 

北村「―――さて、概要としては今の通りじゃ。確認じゃが、艦娘達も連れて行くのじゃな?」

 

提督「同意も得て、ここに連れて来たつもりです。」

 

北村「分かった。小銃と拳銃に関しては弾薬共々供与するから、あとでちゃんと返すのじゃぞ。」

 

提督「その辺りは首尾一貫徹底させますので御安心下さい。」

 

北村「うむ、頑張ってくれよ。」

 

提督「生死を問わず、と土方海将には言われてしまいましたからね。殺して済む話ならばもっと簡単なのですがね。」

 

北村「ほう、土方君がそんな事を言ったかね。」

 

意外そうに北村海将補が言う。

 

提督「はい、確かに。」

 

北村「そうか、珍しいな・・・普段はそんな事を言う男じゃないと思っていたがね。」

 

提督「相当、怒り心頭と言う様な感じを受けました。」

 

北村「そうじゃろうな、儂も出来る事なら自ら先頭に立って、あのシロアリ共を快刀乱麻の下に断ってやりたい位じゃ。」

 

提督「北村海将補・・・。」

 

北村「分かっておる、今回は証拠が無いからの、立件出来るのは君らだけじゃ。儂の分も頼むぞ、紀伊君!」

 

提督「お任せ下さい!」

 

 

8時52分 リンガ泊地司令部武器庫

 

提督「これがそうですか?」

 

担当将校「はい、“29式小銃改”22丁と、9mm拳銃になります。」

 

提督「きゅ、9mm拳銃と来ましたか・・・。」

 

担当将校「すみません、どうしても火器の在庫が足りないので。」

 

提督「状況は理解しています、仕方がないでしょう。」

 

直人の前に並べられたのは、陸上自衛隊で2029年に正式採用され、2043年から47年にかけて改修を終えた主力制式小銃「29式5.56mm小銃改」である。

 

口径5.56mm、使用弾薬5.56mmNATO弾、銃身長480mm、全長890mm、装弾数20/30発のこの小銃は、豊和工業で89式5.56mm小銃の後継小銃として開発/製造されたライフルの改修仕様となっている。とは言うものの基本構成は同じで、過酷な環境下でも動作するよう信頼性と剛性の強化が為されている。

 

最大の差異は折り畳みストックの標準装備で、市街地戦においてより取り回しやすい様になっている。他にも命中精度の向上の為のフローティングバレル採用や、日本人の体格よりも少しちいさめにせっけいされた為に銃床の後尾が10cm引き出せるようになっている等、命中精度や小型軽量化に注意が払われている。

 

9mm拳銃は、ドイツのザウエル&ゾーン社製「S&S M220」を、日本企業であるミネベアミツミ(株)がライセンス生産していたもので、現在は別の拳銃が正式採用されているが、戦争拡大に伴う新火器の不足で在庫から引っ張り出されたものである。

 

大淀「私達がこれを使う訳ですね。」

 

提督「そう言う事になるな。基本的な使い方は本職にレクチャーして貰う事になるが。」

 

直人は非常用の銃として、サーブ340B改のコックピットにH&K G3A3・マイナーカスタムを予備弾薬ごと積んでいるので、拳銃は借りるが小銃はこちらを使うつもりだったのだ。

 

担当将校「提督は使われないのですか?」

 

提督「自分のを持ってきています、大丈夫ですよ。」

 

担当将校「分かりました。」

 

提督「指導の方はそちらでお願いします。」

 

直人は残念な事に、29式小銃の使い方を知らないのであった。

 

 

10時28分 リンガ市街地・“ベースX”周辺

 

提督「・・・。」

 

直人は普段の軍服を現地民の服に着替えて、当該地点付近の偵察(下見)に来ていた。

 

提督(入り口はあそこか、バーに偽装しているのだな。裏口は―――民家の茂みか? 茂みの下の地面に人が出入りしている痕跡が残っているな。)

 

そんな事をしていると、その民家の二軒隣の家の庭先に、男性と思しき人がいるのを見つけ、直人は自然を装ってそちらに向かった。

 

提督「こんにちわ。」

 

男「こんにちわ。この辺じゃ見かけない顔だね、泊地の人かい?」

 

提督「はい、つい先日赴任しまして。」

 

男「それはご苦労な事だね―――」

 

聞くとその男性は日本からの移住者で、その近辺に住んで長いという。本土にいる親族や家族とは長く連絡出来ていないと話す。

 

提督「それは・・・心配ですね。」

 

男「だが、戦争だからな。これも仕方ないかもしれんなぁ。」

 

提督「そうですね。内地との連絡船も、無事に着く保証はありませんから。」

 

男「それがちゃんと辿り着けるように、頑張ってくれ、若いの!」

 

提督「ありがとうございます。そういえば、どこのご出身ですか?」

 

男「和歌山の串本町田原と言う所だ、知ってるかね?」

 

提督「奇遇ですね、私も和歌山なんですよ。新宮市の出身です。」

 

男「おぉ! ここで同郷の士に会えるとは。私も一時期、新宮に居た事があるよ。」

 

提督「私も串本には、何度か観光で行きましたよ。自然豊かでいい所ですね。」

 

男「そうだろう。よし、同郷のよしみで一つ、いい事を教えてやる。多分、お前さんには耳寄りだと思うよ?」

 

提督「本当ですか、耳寄りだと嬉しいですが。」

 

男「うん。実はな、そこにバーがあるだろ。」

 

提督「はい、通りかかりました。」

 

男「あのバーの前に時々、何台かトラックが物々しく止まっている時がある。それも決まって夜、店仕舞いしてからだ。」

 

提督「トラックですか?」

 

男「4トンくらいの奴だな。あそこの仕入れのトラックは軽トラなんだ、俺はあそこのマスターと親身だから良く知ってる。」

 

提督「とすると、積み荷はなんなんです?」

 

男「そこが肝心だ。ある晩、偶然荷下ろしをしている所を見たんだ。数人組の男が、悟られないようトラックの陰から積み荷を降ろしていた。大きな声じゃ言えないが―――」

 

提督「ほうほう。」

 

男「―――“女”だ。それも俺の目が確かなら、噂の“艦娘”って奴に髪型が似ていたのがいる気がしたな。」

 

提督「艦娘が、ですか?」

 

男「そう、男共は配達員の格好をしていたが、動きがタダもんじゃない。それに一人、軍服姿のもいた。」

 

提督「軍服姿、ですか・・・しかし、一体何をしてたんでしょうかね?」

 

男「さぁな・・・だが、女共は手錠を掛けられ、鎖で繋がれていた。アレを見る限り、何かの取引なんじゃないかと思う。この二軒右隣、明らかに協力者の家だな。お前さんさっき庭の中を覗き込んでいたろ。」

 

提督「・・・!」

 

その言葉に直人の背筋が凍り付いた。日本人とはとかく何かを盗み見る事に長けている者が多いという事を、まざまざと実例を以て見せつけられているような気がしたものである。が、次の一言でそれは解けた。

 

男「安心しな、口は堅いんでな。どうだい、参考になったかい?」

 

提督「―――はい、ありがとうございます。」

 

男「そいつは良かった。大方調査に来たんだろうと思ってな。その若さで任されるんだから、相当切れ者なんだろう。これからも頑張れよ。」

 

提督「ありがとうございます。それでは。」

 

男に見送られて、直人はその場を後にする。この証言を得た事により、この周囲で、何かが起こっている事が明確に明らかとなったのである。そしてそれは憲兵隊の調査結果に結びつき、「人身売買」である事は明白だった。

 

艦娘達が銃の指導を受けている間のこの出来事は、直人の念を一層強くした。

 

提督(俺の手で終わらせるんだ。少なくとも、負の連鎖の一つであろうものを!)

 

許されざる蛮行、それを終わらせ首謀者を捕らえる事が、彼の今回課せられた使命である。多くの沈んでいった艦娘達の為にも、もう手遅れになってしまった、悲運の艦娘達の為にも、この任務は、必ずやり遂げる必要があったのである・・・。

 

 

~同時刻・リンガ基地内射撃訓練場~

 

タタタタタタタタタタタタ・・・

 

金剛「艤装よりは簡単デスネー。」

 

当たり前である。

 

浜風「普段から主砲がこうですから、狙いは付けられますね。」

 

浦風「ほんませやねぇ~。」

 

艦娘達は基本として武器の扱いに関してはエキスパートである。銃器の扱いも飲み込みは早かった。それこそ、武器の機構そのものは、今と昔はさして変わっていないからである。

 

このあと艦娘達は、武器の扱いについて作戦の半日前まで訓練を続け、その間暇を持て余す直人は、一人情報収集に走るのであった。

 

 

3月22日19時01分 ベースX近くの林道

 

提督「―――始まってるな。」

 

大淀「まだ突入しないのですか?」

 

提督「・・・分からんか?」

 

大淀「・・・なにがですか?」

 

提督「―――高官は後から来ると言う事だ。」

 

大淀「―――成程。」

 

直人は粘り強く待つことを選択した。全ての根を一網打尽にするのでなければ意味が無いからである。問題の大きさを明らかにする事によって、この問題を世の中に提示することも彼の目的だったのである。

 

提督「今はまだ、待つ。後々の為にもな。」

 

 

そうして待つ事20分、何台かの車が近くに止まり、数人の男が件のカフェに入っていく。

 

提督「インドネシアの高官だな、今のは。」

 

大淀「では―――!」

 

提督「おっと待った。」

 

大淀「えっ?」

 

提督「暫くはいつも通りだと思わせるんだ。気取られて逃げられては敵わん。」

 

大淀「そ、そうですね。」

 

 大淀の逸る気持ちは、直人にも理解出来た。が、それでもそれを抑える事が、確実に悪を叩く事に繋がるのだ。と、彼は自分に言い聞かせた。彼も、逸る気持ちは同じなのである。

彼らは会場がよもや彼らに張られているとも思わず、のこのこと会場の方に向かっていく・・・

 

 

決定的タイミングは、そこから更に15分後だった。

 

~19時35分~

 

提督「―――動くぞ、2班は裏口へ、3班は駐車場を、4班は周囲の道路を、1班は付いてこい。」

 

暗黙の内で、22人の艦娘と直人がそれぞれに動き出す。

 

22人を5人ずつ4班に分け、金剛と大淀は直人に続くよう編成した直人は、時雨と夕立を含む1班を連れて正面から殴り込みをかけるべく、林道を素早く出る。

 

バタァン

 

店長「“な、なんだお前達は!”」

 

金剛「“リンガ泊地司令部から派遣された者だ! そこを動くな!”」

 

提督「―――神通、このマスターを取り抑えて置け! 金剛、そう伝えろ!」

 

金剛「“一度拘束させて貰います。”」

 

店長「“なにっ―――!”」

 

提督「地下への階段を探せ! 店の奥だ!」

 

そしてその粗は秒で見つかる事になる。

 

時雨「あった!」

 

提督「突入!」

 

直人は迅速に、地下への階段を下って行き―――

 

ダアァァン

 

提督「リンガ泊地からの者だ、全員を拘束する!」

 

瞬間場が騒めく。

 

提督「全員動くな、動いた者はただでは済まんぞ!」

 

その瞬間、代表者と思われる仮面の男が直人の前に堂々と立つ。意外にも中肉中背の背の高い男であった。

 

男「お若いの、我々に何の非があると言うのです?」

 

提督「艦娘を用いた人身売買及び、高官との癒着、物資の不正流用とその売買取引、他数件、近隣住人の証言も取れた。何か言い残す事は?」

 

男「―――よく調べたものだ。」

 

提督「大半は憲兵隊からの情報だ。」

 

男「貴様、提督か。」

 

提督「見て分からんか。土方海将からの命令で、『抵抗する者は射殺して構わない』との命令も受けている。“生死は問わぬ”とな。」

 

男「若造が、やれるもんならやってみろ! 艦娘に人が撃てるものか!」

 

タアアァァァァァァン

 

提督「!?」

 

突然銃声が響き渡る。

 

男「くっ!? 貴様、何をする! 私も提督だぞ!」

 

時雨「艦娘舐めないでよ。君達が思って居る程、艦娘は軟弱者じゃない。それに僕の提督は、どうあってもこの人一人と決めているんだ。君みたいな外道、眼中にないんだ。」

 

引き金を引いたのは時雨だった。男の左腕から鮮血が滴る。

 

男「言わせて置けばこの小娘―――」

 

提督「動くな。」

 

男「うっ―――!」

 

直人が男の眉間にG3A3の銃口を突きつける。

 

提督「この銃は親父の形見でな、扱いも知ってるし、弾は実弾、ロックも外してある。動けばあの世行きだぞ。」

 

男「・・・な、なぁ、お前もオークションに参加しないか、上玉が揃ってる、調教済みのもだ―――!」

 

提督「生憎、そう言う手合いは間に合っている。」

 

金剛「そうネー!」

 

鈴谷「この提督は、性欲処理には困ってないの♪」

 

男「っ・・・!」

 

提督(鈴谷お前、言い方ってものがあるだろうが・・・。)

 

心の中でやれやれと思う彼ではあったが、その指示は迅速を極めた。

「この場の全員を拘束しろ! 抵抗するなら射殺して構わん! それと“商品”となっている艦娘を発見したら救出するんだ!」

 

 

~一方裏口では~

 

 

浦風「・・・。」

 

ガサガサッ―――

 

浜風「動くな!」

 

男A「なに!?」

 

翔鶴「ここで拘束させて頂きます。」

 

男B「貴様ら、下の連中の―――!」

 

瑞鶴「問答無用! 大人しくなさい!」

 

 

~近隣の駐車場でも~

 

男C「お急ぎを!」

 

高官「あぁ・・・!」

 

最上「何処に急ごうって言うのかな?」

 

男C「誰だ!」

 

皐月「君達を捕まえに来た艦娘、って言えば、分かるかい?」

 

高官「私を、逮捕しようと言うのか! 私は、インドネシアの、外務次官だぞ!」

 

秋月「身分・立場に関係なく、会場から逃亡を図る者は逮捕・拘束せよとの命令が出ています。貴方が秘密の出口から周辺の路地に脱出した事は、見張りからの通報で既に分かっています。」

 

最上「そう言う事、大人しくなさい!」

 

 

そして同じ頃、周辺に派遣されていた憲兵隊職員からの突入の連絡を受け、手筈通り憲兵隊が現場に到着する。

 

提督「青江憲兵中佐!」

 

青江「お疲れ様です。小官が拘束部隊の指揮を任されまして。」

 

男「憲兵隊―――!」

 

青江「松谷 小次郎だな。横領、艦娘艦隊基本法違反、贈収賄、犯罪幇助(ほうじょ)の罪、及び人身売買の現行犯で拘束する!」

 

男「何処に証拠が!」

 

青江「関係者の密告だ!」

 

その言葉に主犯格の男は心当たりがあると言うようにハッとした顔になる。

 

青江「連れて行け!」

 

青江憲兵中佐が一喝そう言うと、最早見苦しい抵抗はしなくなった。

 

提督「屑め・・・。」

 

嫌悪感を露わに、彼は吐き捨てる様に言った。

 

青江「ご協力、ありがとうございました。」

 

提督「いえ、こちらこそ。良い経験になりました。」

 

青江「ところで一つ、お尋ねしたい事があるのですが。」

 

提督「なんでしょう? 答えられる事だといいのですが。」

 

青江「いえ、記憶違いならいいのですが、2年前に亡くなったと言う“紀伊 直人”氏ではありませんか?」

 

提督「―――いえ、人違いですね。似ているとよく言われます。あんな国民的英雄と同一視されるのは光栄だと思うのですが。」

 

青江「そうですか・・・いえ、失礼致しました。」

 

提督「いえいえ、大丈夫ですよ。ご苦労様です。」

 

青江「はい、ではこれにて。」

 

青江憲兵中佐は、部下を引き連れその場を後にする。

 

 

青江(“人違い”ね、それにしては似過ぎている・・・。)

 

・・・

 

提督(流石憲兵隊佐官だな、疑う事に長けている。だが“英雄”紀伊直人は死んだのだ。少なくとも「今」は、そうでなければならん。)

 

 

 “英雄”を捨て“提督”となった「紀伊直人」と、“憲兵中佐”の肩書を持つ「青江文人」の遭遇。それは、僅かな懐疑を後に残して終わった。

それは、憲兵特有の直観に基づくものだったが、その疑問はこの戦争が終わるまで、ついに解決されないまま終わったのである。

 ともかくにも、直人ら横鎮近衛艦隊による快刀乱麻を断つような人身売買の検挙劇は、土方海将と北村海将補双方の称賛を受け、直人は堂々とリンガ泊地を後にし、パラオ経由でサイパンへと帰投した。彼らにとって6日ぶりのサイパンの風はリンガに比べれば涼しく思えたという。

 

そして、“予測可能、回避不可能”の出来事は、その2日後の夜起こった―――

 

 

3月25日22時10分 中央棟2F・提督自室

 

ガチャッ

 

提督「―――それで、個人的な話ってのは?」

 

金剛「まぁまぁ、入りまショ♪」

 

提督「おう・・・。」

半ば押し切られるように直人は二人を部屋に入れる。

 

バタン、カチャッ☆

 

提督(・・・カチャッ?)

 

鈴谷「・・・。」ニヤリ

 

提督「―――それで?」

不穏な鈴谷の笑みをスルーして、彼は金剛に用件を問いただした。

 

金剛「まぁ今日()ひとつ、ある事にはあるネ。」

 

提督「ふむ。」

 

金剛「空母航空隊の強化をお願いするネー。今回の演習でも浮き彫りになった事でもありマース。」

 

提督「そうだな、それについては俺も思っていた。一航戦があれではいかんし、鋭意検討させて貰おう。」

 

鈴谷「宜しく~。」

 

提督「で、なんでお前がいる。それに今日“は”とはなんだ今日はとは。」

 

金剛「そこに触れるとは~、」

 

鈴谷「提督も好きだねぇ~。」ニヤニヤ

 

提督「お前ら―――」

全てを察した彼はこめかみを震わせる。だってそうである、ムードも何もあったものでは無いではないか。

 

 

何かと思えばやっぱりかぁぁぁぁぁ―――!!

 

 

こうして夜の帳は下りてゆく。常に強いストレスに戦場では晒される艦娘達にとって、その発散方法は様々であるが、この2人にとってはつまりそう言う事なのであろう。結局の所、手段の違いでしかないのである。

 

 

~三技研・所長室~

 

「―――巨大艤装、ですか。」

 

小松「君に、その運用者になって貰いたいんだ。“井野”君」

 

井野君と呼ばれた研究員風の女性が書類に目を通す。

 

井野「・・・。」

 

暫くの沈黙の後、彼女は告げた。

 

井野「分かりました、やります。」

 

小松「良かった。君以外に適任も見つからなくてね。」

 

井野「私でお役に立てるのでしたら。それはお引き受けしますとも。」

 

小松「そう言って貰えて助かるよ―――」

 

 

井野(これも・・・因果ね。)

 

 

彼女の名は井野(いの) 真知子(まちこ)。手にされた書類に記された艤装の名は「磐城」。後に一波乱を起こす、その人が巨大艤装を手にした瞬間は、正にサイパンでのそうした事の裏で、直人が感知しない所でであった・・・。

 

 

~次回予告~

 

 演習と検挙という大冒険を終えた横鎮近衛艦隊に舞い込んだ次の指令、

それは大胆にも、敵の懐に飛び込めと言う無謀極まるものであった!

動揺走る艦娘達、提督の判断は―――!?

 

次回、横鎮近衛艦隊奮戦録第3部11章、

『闇よりの強襲! ~無謀なる突入作戦~』

 

艦娘達の歴史が、また1ページ・・・。




艦娘ファイルNo.128

陽炎型駆逐艦 浦風改

装備1:12.7cm連装砲C型
装備2:12.7cm連装砲C型
装備3:13号対空電探改

初期から改で尚且つ装備も別のものを装備する特異点を持つ駆逐艦。
同駆逐隊所属の浜風とは違い砲撃戦を得意とする。


艦娘ファイルNo.129

綾波(特Ⅱ)型駆逐艦 朧

装備:12.7cm連装砲

空母の護衛を務めた事もある駆逐艦。
凡庸と言えば凡庸な普通の駆逐艦である。


艦娘ファイルNo.130

朝潮型駆逐艦 霰

装備:12.7cm連装砲

こちらも空母護衛の経験を持つ駆逐艦の1隻。
平凡ではあるが大切な戦力である。


艦娘ファイルNo.131

高雄型重巡洋艦 鳥海

装備1:20.3cm連装砲
装備2:零式水上偵察機

高雄型最後の1隻が艦隊に合流。
4姉妹の中では砲撃戦を最も得意とする艦娘。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。