パズル&ドラゴンズ~もうひとつの旅~   作:葉之和 駆刃

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第2話 完璧の人~パーフェクト・ウーマン~(その弐)

 その晩、ユウナは母親に今日のことを話した。

 

「鶴ケ崎さんって、学年一位の子でしょ?」

 

 その日は父の帰りが遅く、家にいるのは母の百合子、そして弟の義輝(よしただ)だけだった。百合子にきかれるとユウナは、

 

「うん。しかも運動神経もよくて、みんなの憧れなんだって。私も尊敬しちゃう」

 

 と言った。

 

「何だよそれ、完璧じゃん」

 

 義輝もそう言って、感心していた。すると百合子は席に座りながら、こう言った。

 

「でも、噂では色々言われてるみたいね」

「えっ?」

「小さい頃、お母さんが家を出て、お父さん一人に育てられたって話。それが今も心に残っていて、人をあまり信じようとしないんだとか。ほかの人からきいた話だから、本当かわからないんだけどね」

 

 ユウナは、その話を初めてきいた。レイカのことは以前から多少耳にしていたが、言葉を交わしたのはこの日が初めてだった。

 ユウナは部屋に戻ると、レイカに言われたことを思い出してみた。

 

『私、下手な人には興味ないから』

 

 ユウナにしてみれば、心に深く刺さる残酷な言葉だった。しかし、不思議と反撃する気が起こらなかった。ユウナはその夜、そのことばかりが頭の中で飛び交い、なかなか寝付けなかった。

 

 次の日、ユウナは眠たいまま学校に向かい、どの部活も朝練習を行っていない小さい体育館に行った。そこで、ミカとバレーのレシーブの練習をした。ユウナの反応が遅いため、ミカがこう言った。

 

「ユウナ、昨日ちゃんと寝れた?」

「あ、うん。ごめん」

 

 ユウナは、瞼をこすった。するとミカは、ユウナのところに行ってきいた。

 

「まだあのこと、気にしてんの?」

「え? いや、そうじゃないけど……」

「まぁ、ほっときなさい! あーゆうやつには何言っても通じないんだから」

 

 ミカは、ユウナの肩を軽くたたいた。すると、チャイムが鳴った。あと五分で、朝のホームルームが始まる。二人は急いで制服に着替え、教室に向かった。

 ユウナは下駄箱で上靴に履き替えると、すぐそこをレイカが通るのが目に入った。するとユウナは、また声をかけた。

 

「鶴ケ崎さん!」

 

 それをきいて、レイカがふり向いた。するとユウナは笑顔で、

 

「おはよう」

 

 と言った。しかしユウナを見ていたレイカは、また前を向いて行ってしまった。高校生は、それを「無視」と呼ぶ。「チラ見」=「無視」だからだ。何かしらの反応を返さないと、向いただけでは「無視」なのである。でもユウナは予想していたのか、まったく腹が立たなかった。

 ユウナは教室に行き、アカリからある話を聞かされた。

 

「え? 顧問の鶴ケ崎先生って、鶴ケ崎さんのお母さんなの?」

 

 ユウナは、驚きを隠せなかった。アカリは続けて、

 

「うん。でもなんか色々あったみたいで、まだ話しかけられんみたいよ」

 

 と、言うのだった。今まで、偶然同じ苗字なのかと思っていたが、まさか血の繋がった親子だったとは。でも、ユウナは疑問に思ったことがある。

 

「ねぇ、なんで家を出ても名前変えないんだろう」

「それはうちも思とったけど、複雑な思いがそうさせとるんかもしれんね。まだ後悔しとるんかなぁ」

 

 アカリもそう言った。

 そして放課後、帰宅部の生徒や部活をもうすでに引退した生徒が、文化祭の準備に取りかかっていた。そこでユウナは、ミカにもあのことを話した。

 

「そうだったんだー、やっぱりねー」

「ミカ、知ってたの?」

「べつに。でも、顔とか似てるしさー。そうなのかなーって、私もなんとなくだけど」

 

 ミカは椅子にだるそうに座りながら、そう話した。ミカの方が、ユウナよりもよく観察していた。それならばなぜ、気まずいのにレイカはこの高校を選んだのだろう。知らなかったからか、それとも知っていたが気にしていなかったのだろうか。それになぜ、近くにいるにもかかわらず、いまだに話しあえていないのか。ユウナの疑問は、増すばかりだった。するとミカが、

 

「てゆうか、衣装係マジでやることないんですけど。アカリも音響でいないしさ。しかも、これって自由解散だよね? もう帰っていいのかな」

 

 と言って、周りを見回した。すると立ち上がり、

 

「ごめん。そろそろ帰るね」

 

 そう言うのでユウナも、返事をした。ミカが出て行くと、ユウナもすることがなかったので、帰ろうと立ち上がった。すると部屋にクラスメイトの相場(そうば)善秀(よしひで)と大輝が来て、

 

「おい、役者いるかー?」

「体育館で練習やんぞー」

 

 と言った。ユウナは二人の前を通り過ぎ、教室を出ようとした。

 

「ユウナ、帰んの?」

 

 大輝がきくとユウナは、

 

「うん、バイバイ」

 

 と言って、帰ろうとした。すると相場が呼び止めた。

 

「中谷」

 

 ユウナがふり向くと、相場がこう言った。

 

「リカから、何か連絡きたか?」

「えっ? 別に」

 

 ユウナがそう答えると相場は、

 

「そっか。じゃあな、お疲れ!」

 

 と言って、手を振った。ユウナは不思議そうにそれを見た後、教室を出た。大輝が相場に、

 

「何のことだよ」

 

 ときくと相場は、

 

「いや、なんでも」

 

 と、答えていたのだった。

 ユウナは特に何も考えないまま、バス停に向かった。すると、バス停の前に智美が立っていた。ユウナは智美の近くに行くと、

 

「あの、鶴ケ崎先生ですよね?」

 

 と、思いきって声をかけてみた。すると智美はふり向き、

 

「あぁ、たしかあなた、夢野さんたちと同じクラスよね」

 

 そう言ってくれた。それをきいたユウナは、内心すごく嬉しかった。話しかけてみて、正解だったと思った。

 

「はい!」

「いつも、ここからバスに乗るの?」

「はい。先生も、いつもここから通われてるんですか?」

「ええ」

 

 バスが来ると、二人は乗車して二人掛けの席に座った。

 

「あの……」

 

 ユウナは、意を決して智美に尋ねることにした。

 

「何?」

「娘さんの、ことなんですが」

 

 それをきくと智美は黙り、隣のユウナを見た。

 

「なぜ、家を出たんですか?」

 

 それをきき、智美は窓の外を見ながらこう話した。

 

「私ね、その時、仕事がうまくいってなくて。子育てもしないといけないのに、失敗ばかりしてたの。でもそんな時、夫が言ってくれた。麗菓のことは、任せてくれって」

「それで……、仕事を選んだんですか?」

「ええ。でも、落ち着いたら帰ってくる予定だったの」

 

 そして智美は、悲しい目をした。

 

『会いたくない?』

『あぁ。お前に会いたがらず、今は部屋に閉じこもっている。すまん、俺の力不足だ。許してくれ』

 

 夫の言葉が、今も智美の耳に残っていた。

 

「あの子は今も、許してくれていない。ずっと孤独だったの、私のせいで……」

 

 智美はそう言うと、黙った。ユウナも昔、孤独は経験済みだった。理由は違えど、同じ孤独を味わった人間として、その気持ちはよく理解できた。しかしユウナは、それ以上何も言えなかった。やがてバスは八王子に入り、ユウナの最寄りが近づいてきた。

 

「ところで、先生はいつもどこで降りられるんですか?」

「いつも終点まで乗ってるわ。一時間半くらいかなー」

 

 どうやらユウナと同じ八王子の、南側に住んでいるらしい。ユウナは、

 

「ご実家は?」

 

 と尋ねると、智美が答えた。

 

「私が住んでるアパートから、徒歩で二、三十分くらいよ」

 

 そう言っている間にも、ユウナの降りる駅が見えてきた。ユウナは立ち上がり、

 

「じゃあ、私はここで。今日は勝手な質問、失礼しました。さようなら」

 

 と言うと智美も、

 

「いいのよ。それに、久しぶりに楽しく帰れたわ」

 

 そう言うのをきき、ユウナは軽く礼をしてバスを降りた。ユウナが歩き出すと、バスがユウナを追い越していく。ユウナは立ち止まって、それを見送るように眺めていた。やっと話すことができた。しかし、智美はどことなく寂しそうにも見えた。今になっても自分を許せず、レイカに対して後悔しているのだろう。ユウナはこの時、少しでも二人の溝が埋まってほしいと強く望んだ。

 

 レイカは、高校に電車で通っていた。そして駅から歩いて、家に帰った。家が見えてくると、門の前に誰か立っているのが見えた。レイカは気になって近づいてみると、顔がはっきりとわかった。それは智美だった。智美もレイカに気づき、

 

「レイカ……」

 

 と呼んだ。しかし智美を見てレイカは動揺したようになり、

 

「なんで……、なんで来たのよ」

 

 そう言うと、智美が言った。

 

「あなたと、どうしても話しあいたくて」

「何よ今更、許してくれとでも言いたいの?」

「でも、どうしてもあなたに謝りたくて……」

「そんなこと結構、二度と来ないで!」

 

 レイカは勢いよく門を開けると、鍵を開けて中に駆け込んだ。そのレイカの行動を見て、無理だと悟った智美は、仕方なくその家を後にした。レイカはしばらく、玄関に立ち止まっていた。まだいるのか、もういないのか、それもわからずにただ固まっていた。レイカにとっては、捨てられたも同然だった。今更、一緒に住むことなど考えられなかった。

 

 次の週の木曜。体育の授業で、実技テストが行われた。案の定、ユウナはサーブが一つも入らなかった。五回中、二回ほど網に当たったくらいだ。その時、見ていたミカが、

 

「おしい!」

 

 と言って励ました。しかしレシーブはなかなか調子が良く、五段階のうち、三をもらえた。三人が教室に帰る途中、アカリが言った。

 

「ユウナちゃん、よかったね!」

「でも、ほかの子に比べたら……」

「でも頑張ったし、いいんじゃない?」

 

 ユウナが言うと、ミカもそう言ってまた励ましてくれた。するとミカが話題を変え、

 

「あー、でも明日から文化祭かー」

 

 と言うとアカリも、

 

「劇の方も、だいぶ完成してきとるしね」

 

 そう嬉しそうに言った。ユウナたちには、高校生活最後の文化祭であった。少しでも多く、思い出を残したい。そう思ってきた。そして、少しでもみんなの思い出作りに携わりたい。自分にできること何だろう、ユウナはそればかりを考えていた。

 そうしているうちに、やがて一日が終わる。その日は特に仕事がないため、早めに学校を出ることにした。ユウナは下駄箱で靴を履き替えていると、

 

「中谷」

 

 と、ユウナを呼ぶ声がした。ユウナはふり向くと、相場がいた。相場が、ユウナに手紙を渡した。

 

「これ、リカから。本当は自分で渡したかったけど、住所がわからないからって。今朝、郵便受けに入ってた」

 

 ユウナは、それを受け取った。相場は、

 

「きっとあいつ、お前に言えなかったこと、今も後悔してるんだと思う。だから、できれば受け取ってやってほしい、あいつの気持ち」

 

 と言う。ユウナは、この時思った。

 

(リカ……、相場君に住所もきいてたんだ)

 

 相場のことを「好き」と言っていたリカ。その想いは、日に日に募っていったはずである。もしかすると、クラスで一番辛かったのはリカではないか、とさえも思えた。

 

「ありがとう」

 

 ユウナは相場に礼を言うと、校舎を出た。

 そして帰りのバスの中。ユウナは手紙を広げ、読んでいた。

 

『ユウナちゃんへ。お元気でしょうか。私は新しい高校でなんとか頑張ってます。ユウナちゃんたちと一緒に卒業できないのが、残念だけど……(涙)あ、そういえば、大学の推薦決まりました(^o^)/前の高校の時の成績も反映されるみたいで、よかったです。ユウナちゃんはまだ進路決まってないのかな。早く決まって、合格してくれることを願っています。あと、言ってなかったけど引越し先は京都で、大学も京都にあります。色んな文化財があって、とても神秘的な街です。いいところなので、ユウナちゃんも暇になったらぜひ、遊びに来てくれたら嬉しいです。その時はまた、ゲーム教えて下さい。最後に、住所を書いておきます。まぁ、そんなこんなでこちらは楽しく暮らしています。次、会える日を待っています。

 

P.S ユウナちゃんのところは、もうすぐ文化祭ですね。私の高校はもうとっくに終わってるけど……。頑張ってね! 理華より』

 

 ユウナはそれを読みながら、初めて一緒に帰った日を思い出した。リカにパズドラのコツを教えてあげたのは、ユウナだった。そしてあの日以来、一緒に帰ることはできなかった。手紙の最後には、リカの住所が書かれていた。ユウナはそれを見終わると、手紙を折り畳み、カバンにしまった。そういえば、リカはあれから、メールで相場と連絡をとりあったのだろうか。ユウナは、それが気がかりだった。相場は何も言わなかったが、実際はどうだったのだろう。ユウナは、考えながら帰るのだった。

序盤のキャラで、最も印象深い登場人物は?

  • 中谷優奈
  • 鶴ケ崎麗菓
  • 月見里美香
  • 夢野あかり
  • 池谷大輝
  • 相場善秀
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