パズル&ドラゴンズ~もうひとつの旅~   作:葉之和 駆刃

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第33話 森の番人〜ガーダー・オブ・クローノス〜(その壱)

 深い森を抜け、荒れ果てた大地へと人影が颯爽と駆けていく。モンスターたちの楽園、SP(セインツ・パラダイス)は、ある別れ道に来ていた。存続を願う者、滅亡を図る者、両者が対立している。ダークネス・キャッスルの棟梁、サタールはSP創造者の正彦に対し、敵意を抱いていた。それにより、SPはサタールによって破滅へと誘われていったのである。

 

 一方、創造者である正彦は、それを食い止めるべく、五人の勇者たちにこの世界の存亡を託すことになるのだが、それはまだ先の話になりそうだ。

 

 

 2017年暮。悠二郎は借りているアパートの部屋が粗方片付いたので、そこにユウナを入れた。

 

「だいぶ片付けたけど、まだちょっと散らかってるから、居心地悪いと思う」

「いえ、私もこれくらいがちょうどいいので」

 

 悠二郎が言うと、ユウナも照れ笑いながらそう返した。悠二郎の仕事がひと段落つき、ユウナはやっと悠二郎と一緒に住めることになった。ユウナは、これから世話になるであろう新しい部屋を眺め、これまでにないくらいの期待を胸に抱いていた。

 

 

 

第三十三回 森の番人(ガーダー・オブ・クローノス)

 

 

 夜になり、二人は同じ部屋に布団を並べた。悠二郎が布団を整えながら、ユウナにこう言った。

 

「今度、うちの実家に連れていくよ。父さんや母さんにも、会わせたいし」

「そういえば、式には来てくださらなかったですよね」

「あぁ」

「呼ばなかったんですか?」

「……、いや。もともとウチって、そういう種族じゃないんだ」

 

 どういう意味かと、ユウナは悠二郎を見つめていた。それを察したのか、悠二郎はこう続ける。

 

「二人とも、西洋風とか嫌いなタイプだからさ、教会でやるって言ったら、勝手にしろ的な感じで。だから、式にも出席してくれなかったんだ」

「そうですか。そういえば前に、お兄さんやお姉さんがいるという話をされてましたけど、お二人ともご結婚はされてるんですか?」

「兄貴はしてるけど、姉貴はまだだな。もういい年してるくせに、まだお見合いすらしてないからな。まあ、その原因は両親にあるんだけどさ」

「そうなんですか……」

 

 ユウナが言うと、悠二郎がユウナの前に来て座った。悠二郎がじっと見つめてくるので、ユウナも見つめ返した。二人は、しばし見つめ合った。すると、ユウナは次第に緊張してくるのだった。すると、悠二郎が立ち上がり、何も言わずに自分の布団に戻っていった。その時に悠二郎が、

 

「敬語、やめてくれよ。もう他人じゃないんだから」

 

 そう言ってくるので、ユウナもハッと気がつく。もう自分と悠二郎は、他人ではない。その言葉が、何度もユウナの頭の中で繰り返された。

 

「ご、ごめんなさい……」

「じゃあ、おやすみ」

 

 悠二郎が言うと、部屋の電気を消した。そして、悠二郎が横になるのを見たユウナは、布団に入った。しかし、しばらく経っても一向に眠たくならない。家族以外とは、一緒に寝たことすらなかった。高校時代、ミカが自分の家で「お泊まり会」をやると誘ってきた時も、予定が入って結局行けなかったのだ。そして、悠二郎と結婚するまで一度も異性はおろか、血の繋がらない他人と一緒に寝たことはない。ユウナは、悠二郎とは反対の方に寝返りを打ち、目を閉じてなんとか眠ろうとした。

 

「……眠れないの?」

 

 ふと、横から声をかけられる。ユウナは目を開け、再び逆の方向に寝返りを打つと、悠二郎がユウナのことを見ている。

 

「こんなこと、生まれて初めてだから……」

 

 ユウナが事情を話すと、悠二郎は笑って言った。

 

「大丈夫、べつに何もしないから。実は、俺も眠れないんだ。緊張しちゃって……。この先、慣れないことの方が多いと思う。でも、何でも一人で抱えこまないって約束してほしい。隠さず、お互いありのままでいよう」

「悠二郎さん……」

「困ったことがあったら、お互い腹を割って打ち明けるんだ。辛いことや、逃げ出したいことは二人で共有し合う、それが一番いいと思うからさ」

 

 不意に、悠二郎が手を差し出してきた。ユウナも若干の戸惑いを抱きつつも、その手を握り返した。悠二郎の熱がユウナにも伝わり、少しだけ眠れそうな気がした。

 

「約束……、します」

 

 ユウナが答えると、悠二郎も頷いた。

 

「ありがとう。俺、また明日仕事あるから、君が起きた時にはもういないと思う。朝は、冷蔵庫にあるものを適当に食べてくれたらいいから」

 

 そして、悠二郎は手を引っこめると眠りについた。ユウナは今のところ、明日の予定はないが、また正彦の研究所へ行こうと思った。

 

 

 翌日になり、ユウナが目を開けると眩い光が差す。ゆっくりと起き上がり、時計を見た。午前八時を示しており、部屋を見ると横には布団が畳んで置いてある。悠二郎は、すでに出かけていったようだ。年末なのに仕事があるのかと心配にもなったが、言われた通りに朝は適当に済ませようと立ち上がった。

 

 リビングに行くと、床には幾つものダンボール箱が置いてある。きっと、一人暮らしをしていた時のアパートを引き払い、こちらに引っ越してきたのだろう。ユウナはそれを見て、何も手伝えなかった自分が恥ずかしく思えた。そこで、何かできることはないかと考える。悠二郎が帰宅するまでに、部屋の片付けでもしていようか。でも、勝手に触ってもよいのだろうか。そんな葛藤を繰り返しているうち、時計の針は午前十時を回っていた。

 

 結局、何もしないのは申し訳ないという結論に至り、悠二郎が帰るまでに部屋の片付けを少しでも進めようと考えた。それでも、一人で掃除するとなると手間がかかるだろう。そこでユウナは、電話で誰かを呼ぶことにする。

 

 昼を過ぎたころ、玄関のドアが開かれた。中に入ってきたのは、ミカとアカリだった。ユウナは二人を部屋まで案内すると、

 

「ごめんね、頼み事しちゃって」

 

 と、申し訳なさそうに言うが、ミカとアカリは全く気にしていないようだ。

 

「いいっていいって、このリア充! それに、ユウナの頼みだったら、いつでも大歓迎!」

「何かあったら、うちらいつでも飛んでくるけんね」

「ありがとう」

 

 ユウナは、二人の優しさを改めて実感した。

 

「じゃあ、旦那さん帰ってくる前に片付けちゃう?」

 

 ミカは、そう言うと置いてあるダンボールの箱を開けた。そこには、主に洋服が入っている。ユウナはそれを見て、やはり悠二郎に黙って中を漁るのはやめた方がよいという気になった。

 

「でも、勝手に触っちゃいけないものもあると思うから、今日は拭き掃除だけでいいよ」

「そっか」

 

 ユウナが言うと、ミカは箱を閉じる。その日は、主に部屋の掃除のみ行うことになった。アカリが、窓に息を吹きかけ、それをタオルで擦る。ミカも、レストランの店員のような手つきで、テーブルを拭いている。バイト経験者として、やはり慣れているのだろうか。ユウナも部屋を掃除しながら、そのようなことを考えていた。

 

 

 一方、SP内では正彦の知らないプロジェクトが開始されていた。サタールは「未知の領域」に新たな研究所を設け、そこに研究者たちを集めたのだ。サタールが部屋に入ると、中では研究者たちが働いている。

 

「これはこれは、サタール様」

 

 サタールに近づいてきたのは、女性の研究員・金色(こんじき)ルリだ。サタールは、

 

「オーディンは見つかったか」

 

 ときくと、ルリは答えた。

 

「いえ。たった今、SPの中を数百の探査機が飛び回っております。見つかるのは時間の問題だと思われますが、それでも多少はかかると思います」

「そうか……。一度、現実世界に放たれてしまったからな。だが、今はこの世界に戻ってきているはずだ。やつの力さえ手に入れば、すべてがうまくいくだろう」

「はい。そのことについては、念のため、現実世界にも探査機を飛ばす予定です。必ず、我々の開発したセインツストーンに封印してみせます」

 

 ルリはそう言ったあと、ある研究者の名を呼んだ。

 

「コサカ博士。サタール様がお見えになられました」

 

 それをきき、コサカという研究者はサタールのところに来た。

 

「いやあ、お待ちしておりました」

「今は、どのような様子だ」

「開発は順調です。ささ、こちらへ」

 

 コサカは自分の研究成果を見せるため、サタールを奥の方へと案内した。その研究室は、正彦の研究室とは違い、不穏な空気が漂っていた。サタールもまた、手下の研究者たちの手を借りてSPの征服を進めていたのは明確である。

 

 

 夜になり、悠二郎が帰宅した。悠二郎がリビングの戸を開けると、部屋が片付いており、床や窓がピカピカになっていた。悠二郎はそれを驚いたように眺めながら、

 

「これ、どうしたんだ?」

 

 と尋ねると、中にいたユウナが答えた。

 

「すみません、みんなに来て手伝ってもらったんです。私一人じゃ、できそうになかったので……。あの、勝手なことしてすみませんでした」

 

 ユウナは思わず、頭を下げた。掃除といっても、悠二郎に頼まれたわけではなく、自発的に行ったのだ。しかし、それをきいて悠二郎は笑顔になり、

 

「ありがとう!」

 

 と言い、ユウナを抱きしめた。

 

「あの……」

 

 ユウナが少々困惑していると、悠二郎はすぐに離れ、こう言った。

 

「あ……、ごめん。でも、すごく嬉しかったから。会社から帰って、今日も夜遅くまで、部屋の片付けしなきゃいけないのかって思ってたから。ほんと助かったよ」

「お役に立てて、こちらも嬉しいです」

「あれ、手伝いに来てくれた子たちは?」

「先ほど、帰りました。もう、夜も遅いので」

「そっか……。できれば、お礼言いたかったけど」

 

 悠二郎が残念そうに言うと、背広を脱いだ。それを近くのハンガーにかけると、ユウナはその後ろ姿に声をかける。

 

「あの、悠二郎さん」

「どうしたの?」

 

 悠二郎がふり向くと、

 

「私……、やっぱり、仕事探した方がいいでしょうか。悠二郎さんだけに負担はかけられないし、家事は私がやりますけど、でも二人で働いた方が暮らしも安定すると思うんです」

 

 と言うので、悠二郎がユウナの前に来て言った。

 

「あんまり心配するなよ」

 

 その言葉をきき、ユウナは悠二郎を見上げた。そして、さらに悠二郎は続ける。

 

「もちろん、その考え自体は立派だ。でも、働くことだけがすべてじゃないと思う。君も、それはわかってるんじゃないか? この先のことは、後でゆっくり相談して決めればいい。家事は、二人で分担してやろう。俺も、君だけに負担をかけるつもりはない。大事なのは、今なんだから。言っただろ? 何でも一人で抱えこむなって。だから、困ったことがあれば、遠慮なく言ってほしい。俺なりに、協力するから」

「……はい」

 

 ユウナは昔から、母親譲りで心配性なところがあった。しかし、それも悠二郎の前では無力なのだと悟った。悠二郎は着替え終わると、仕事の続きがあると言って自室に入っていった。

 

 その夜、ユウナは一人で寝ることになった。悠二郎の部屋の戸の隙間からは、明かりが漏れてくる。まだ、仕事が片付いていないのだろう。ほかに自分にできることはないか、そればかりをユウナは目を開けたまま考えていたのだった。

序盤のキャラで、最も印象深い登場人物は?

  • 中谷優奈
  • 鶴ケ崎麗菓
  • 月見里美香
  • 夢野あかり
  • 池谷大輝
  • 相場善秀
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