パズル&ドラゴンズ~もうひとつの旅~   作:葉之和 駆刃

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第33話 森の番人〜ガーダー・オブ・クローノス〜(その弐)

 年が明け、2018年1月。ユウナはまた、横大路研究所の戸を叩いた。戸を開けると、中には雅也と真司がいた。雅也はユウナに気づき、

 

「あ、ユウナちゃん! 明けましておめでとう。そして、結婚おめでとう。いやあ、式出れなくてごめんね。こっち帰ってきてからきいてさ」

 

 と言うので、ユウナは中に入った。

 

「いいんです。それより、これ京都で買ってきたので、よかったらどうぞ」

 

 ユウナは、雅也に和菓子の入った紙袋を渡した。

 

「えっ。ユウナちゃん、京都行ってきたの?」

「はい。雅也さんが帰ってこられるときいたので。外国、行かれていたんですよね」

「あぁ、そうなんだよ」

「よかったら、お話きかせてくれませんか?」

「どうしたの、急に」

 

 雅也はユウナを見つめながら、不思議そうに尋ねる。

 

「その、少し気になって……。詳しくはきいていないので、どこへ行かれたのかとか……」

「いや、でも土産話するほど満喫してないというか……」

 

 雅也は少し困った顔をしていると、真司が話に割って入ってきた。

 

「話してやれよ。お前が何を取材してきたのかくらいはさ」

「うるさいな。でも、わかったよ。じゃあ、こっちで話そうか」

 

 雅也はそう言うと、ユウナを別の部屋に案内した。そこで、ユウナは雅也から取材の話をきいた。話をきいたあと、ユウナは感心した。

 

「そんなことがあったんですね。今日は、いろいろ為になりました。ニュースとは違って、細かい話まできけてよかったです」

「ハハッ、それはよかった。テレビじゃ、伝えられないことも多くあるからね」

「でも、少し安心しました」

「何が?」

「だって以前、外国にはもう取材に行けないと仰っていましたから。行けるようになって、よかったなぁって」

 

 ユウナが大学生の時、雅也は過去の苦い思い出から、外国への取材は断り続けていたときいた。それを思うと、今回の雅也は非常に生き生きとしているようにも見えた。

 

「いつまでも、逃げてばかりではいられないからね……」

 

 雅也は、そう呟くと窓の外を見つめる。あの時とは全く違う、穏やかな表情をしていた。それを見て、ユウナは過去を乗り越えた雅也は強いと感じるのだった。そして、ユウナは話を変えた。

 

「それより、今日はどうしてここへ?」

「あ、それについてはまだ話してなかったね。レイカが、今年の四月から一人暮らし始めるんだよ。まだ院生だけど、就職前の練習としてさ」

「そうだったんですか……」

「だから今日はね、真司に引越しの手伝いを頼みに来てたんだよ。それより君は、今でもレイカとは会ってるの?」

「いえ。連絡先も、未だにきいたことありませんし。卒業してから、どこで暮らしているのかもわかりませんでしたから、式にも、呼べなくて」

 

 それをきいた雅也は、申し訳ないといった表情をする。

 

「あ〜、ごめんね。あいつにもよく言っておくよ。まったく、また余計な心配かけて」

「いえ、いいです。彼女も、この先のことで忙しいと思いますから、あまり負担になるようなことは……」

 

 ユウナが言うと、雅也は一瞬無表情になり、その後突然笑い出した。それを見たユウナは、

 

「あの……、どうされたんですか?」

 

 と、不思議そうに尋ねた。すると、雅也は言った。

 

「いや〜、ごめんごめん。君の優しさを、あいつにも分けてあげたいなって思ってさ」

「そんな……」

 

 ユウナもまた、恥ずかしそうに下を向く。その時、部屋の戸が開いた。するとアカネが顔を出し、

 

「あ、ここにおったんや。来てるっていうから探したけど、どこにもおらへんねんもん」

 

 そう言うので、

 

「アカネさん。どうしたんですか?」

 

 と、ユウナは尋ねた。もしかしたら、また正彦に何かあったのではないかと思っていると、案の定アカネがこう言うのだ。

 

「ちょっと来てくれへん? 教授が……」

「えっ」

 

 予感が的中し、驚いたような眼差しを、ユウナはアカネに向けた。

 

 正彦は、自分の研究室で研究を続けようとしていた。美千子が不安そうな表情で、

 

「あなた。もうしばらく休んでねって言ったじゃない」

 

 と言うが、正彦は何も答えずにコンピュータの前で手を動かし続けている。

 

「駄目だ。去年、やり残したことが山ほど残っている。一刻も早く、追いつかなければ」

 

 美千子は、それをきいて段々と呆れ顔になっていった。すると、部屋をノックする音がきこえ、ドアが開いた。そして、部屋にアカネとユウナが入ってきた。

 

「教授、もうやめてください。あとは、うちらで何とかしますから」

 

 アカネも説得しようとすると正彦が、

 

「しかし、私にはまだやらなければならないことがある。頼むから、一人にさせてくれ」

 

 と、言い放った。部屋を出ると、美千子が二人に言った。

 

「ずっと、あの調子なの。気にかけてくれてるみんなのことなんか気にも留めずに、研究を続けようとするの。あの世界をなくすわけにはいかないからって、最近、そればっかり言ってるの」

「どうにか、説得する方法はないですか?」

 

 ユウナがきくと、美千子は首を振って答える。

 

「駄目よ。何を言っても無駄なの。まるで、倒れる前に逆戻りね」

 

 たしかにユウナ自身も、正彦が創ったあの世界がなくなるのは辛い。しかしサタールと和解できないのなら、必然的に存続は危うくなる。正彦も、それを危惧しているのだろう。あの様子では、サタールはさらなる攻撃を仕掛けてくる。そこをどう乗り切るかが、正彦にかかっていた。

 

 その頃、雅也はリビングで真司と話していた。雅也が、

 

「あの子は、そのセインツ・パラダイスとやらを救おうとしているのか?」

 

 ときくと、真司は答えた。

 

「あぁ。それを潰そうとしているのが、どうやらお父さんの弟、俺の叔父さんに当たる人らしいんだ。昔、お父さんがわざと見殺しにしたとか」

「それで、復讐を?」

「多分な」

 

 真司の話をきき、雅也は難しい表情をしていた。何を思ったかは、ご想像にお任せする。

 

 正彦はその頃、デスクに両肘をついて指を組み、その上に顎を乗せて一人考え事をしていた。言うまでもなく、SPをどのようにして存続させるかだ。サタールが謝っても許してくれないのであれば、戦うしかない。そうなれば、正彦一人の力ではどうにもならない。それならば、どうすればよいのか……。

 そうしていると、ふとあの時の光景が頭を過ぎった。弟の隆文(サタール)は、必死に正彦の手を握っていた。しかし、正彦はその手を離してしまったのだ。その後、正彦は両親のいるところに一人で戻り、訳を話すと母親が正彦の頬を打った。その顔は、鬼のような剣幕で、それでいて目には涙を溜めていたことを、正彦は今でもはっきりと覚えていた。両親にとって、正彦よりも隆文の方が可愛かったのだ。故に、行方不明になったのが隆文ではなく、自分の方がよかったのかもしれないと、正彦は思うのだった。

 

 戻って、雅也は研究所を後にしようとしていた。見送りに出た真司に対して雅也は、

 

「じゃあ、みんなによろしく。あと引越しの件、考えといてくれよ」

 

 と言うので、真司も言った。

 

「べつに俺じゃなくてもいいだろ。お前が手伝ってやればさ」

「俺の方は仕事、まだ片付いてないから。日本にいなかった分、頑張って取り戻さなきゃな。また何かあったら寄るから、それじゃ」

 

 雅也はそう言って出て行こうとすると、不意に真司が呼び止めた。

 

「待て」

「何?」

 

 雅也は、それをきいてふり向いた。

 

「あ……、いや。何でもない」

「何だよ、言いたいことがあるなら言えよ。そういう仲だろ? 俺たちって」

「まぁ、そうだけど。お前、本当に妹のこと好きなんだなって、改めて思ってさ」

「まあね。まだ素直じゃない時もあるけど、それでも前よりはだいぶよくなってると思う。あいつも、そろそろ認めてくれてるだろ。血の繋がってない兄妹でも、いつかはその溝を完全に埋めてみせる」

「もう埋まってるだろ」

「……そうだといいけど……」

 

 そう呟くと、また雅也は向きを変え、研究所を出ていった。真司はそれを見送りながら、雅也のことを少し気にしているようだった。友として、力になりたかったのかもしれない。

 

 ユウナが部屋に戻ると、中にはミカとアカリが来ていた。ミカがユウナに気づき、先に声をかけた。

 

「あ、ユウナ」

「どうしたの?」

 

 ユウナがきくと、ミカは答えた。

 

「なんか、暇さえあればこっち来てるから」

「ミカちゃん、ほぼ毎日来よるけんね」

「アカリだって、ほとんど毎日来てるでしょ」

 

 それをきいて、ユウナは思わず笑ってしまった。この二人も、やはりSPや正彦のことを気にかけているのだろう。そう思うと、心強いと感じた。もしかすると、何かよい案を出してくれるかもしれない。すると、ミカがこう言い出した。

 

「昼は東京でバイトやって、その後セイパラを通してここへ来てるの。なんか、これさえあれば瞬間移動できる能力が備わったみたいでさ、すごくない?」

 

 ミカは、二人にスマホを見せた。SPには、スマホからでも入りこめるのだ。よって、SPに入ることでこの研究所にも来ることができる。そう考えれば、ミカの言った「瞬間移動できる能力が備わったようだ」という発言も、あながち間違いではないということになる。

 そうすると、アカリがユウナに尋ねてきた。

 

「ねぇ、あの後結局どうなったん?」

「えっ?」

「ほら、うちらが手伝いに行った日」

「あ、うん。悠二郎さん、喜んでた」

「よかったじゃん!」

 

 それをきいていたミカも、そう言って喜んでいる。

 

「あと……、これからのことは後でゆっくり相談しようとも言ってくれた」

「……優しいんやね」

「うん。あの人と一緒になって、本当によかったと思う。優しくて、一緒にいて心が休まるっていうか……」

 

 ユウナが、途中で話すのを止めた。そこまで言ってしまうと、流石にこの先を言うのは恥ずかしい。するとミカが、

 

「でも、ユウナが幸せそうでよかった〜。なんか、あいつが可哀想になってきたな」

 

 と言うので、ユウナは「あいつ」とは誰のことかパッとわかった。

 

「それって……、もしかして大ちゃんのこと?」

「あ、でも悪い意味じゃないよ? でも今までのこと考えたら、少し可哀想かなって……」

「ミカちゃん……」

 

 不意に、アカリがミカに注意する。それをきいたミカは、急いで言うのを止めた。見ると、ユウナは思い詰めたような表情をしている。

 

「……ごめん、つい」

 

 ミカが謝ると、ユウナは言った。

 

「大ちゃん、言ってたんだ。本当に好きなら、どんなことでも本気になれるんだって。それきいて、悠二郎さんも頑張ってた。大ちゃんも、それを認めてくれた。だから、この次は大ちゃんにも幸せになってほしいの。それは、私の願いでもあるから」

 

 ユウナが前向きに言うと、二人も安心したような笑みを浮かべていた。ユウナは、無意識に時計を見ると、夕方を指している。その時、大輝の言葉が頭の中で鮮明に再生された。

 

『大切なもののためなら、死に物狂いで取り返しに行く』

『今のあんたに……、ユウナを守る資格はねえ!』

 

 それをきいて、悠二郎にもやる気が芽生えたのだろう。ただ好きなのではない、心から愛せるようになったのだ。大輝のあの言葉のおかげで、悠二郎は自信を取り戻せたのかもしれない。今度は自分が大輝の幸せを願う番だと、ユウナは意気込みながら帰った。

 

 アパートの前まで来ると、悠二郎に会った。今日は、会社が早く終わったらしい。

 

「あ、お帰りなさい」

「あ、あぁ。君もね。今日は、どこ行ってたの?」

「あ、はい。教授の手伝いを……」

 

 ユウナが答えると、悠二郎が言った。

 

「そうだったんだ。言ってくれたら、迎えに行ったのに」

「そんな、悪いです。それに……」

「俺のことなら、気を遣わなくて大丈夫だから。言っただろ?」

 

 それをきき、ユウナは頷いた。慣れてきているとはいえ、今でも少しぎこちない。どうしても、他人のように振る舞ってしまう。それを、少し改善していくことがユウナの今の課題でもある。悠二郎は、

 

「そうだ。これから、どこか食べに行くか? 此間、美味しい店見つけたんだ」

 

 と言うので、ユウナも嬉しそうに頷いた。

 

「はい。行ってみたいです、是非!」

 

 それを見て悠二郎は、少し呆れたように笑っているのだった。その後、二人は駅中にあるレストランに入った。

 

「ごめんね。なんか、一日中一緒にいてあげられなくて。まだ仕事、一区切りついてなくてさ」

 

 レストランで、悠二郎が酒を飲みながら言った。

 

「大丈夫です。それに、毎日がすごく新鮮ですから」

「新鮮ね……」

 

 ユウナが言うと、悠二郎は上を見て呟いた。その時、ユウナはふと思った。悠二郎に、正彦の研究のことを話してもよいのだろうかと。ユウナは、まだそのことを話していないのだ。反対されるのではないか、その考えばかり先に出てくる。しかし、悠二郎が隠し事を好んでいないのは勘づいている。それなら、言ってもいいだろう。ユウナは、悠二郎を見つめながら話した。

 

「あの、きいてほしいことがあるんです」

「何?」

「悠二郎さん、気になってましたよね? なぜ私が毎日、卒業した大学の教授の研究室に行っているのか」

「あ……、うん。俺も、機会があればきこうと思って」

 

 悠二郎もそう話すので、ユウナは教えることにした。どう思われようと、言わないよりはましだろう。ユウナは心を決め、口を開いた。

 

「私、学生のころからその方の研究を手伝っていて、卒業した今でも来るように言われてるんです。その研究というのは、ゲームの中、つまり人によって創られた仮想世界に入りこんで、そこでゲームをクリアしてくれって言われてるんです」

 

 それをきいていた悠二郎は、飲んでいた酒を吹き出した。その様子を見たユウナは、

 

「信じられなくても、不思議はありません。以前、私もそうでしたから……」

 

 と言うと、悠二郎がこう言った。

 

「その人、そんな研究やってるんだ。でも、俺はべつにいいと思う。それが、君にとって楽しければさ。驚かせてごめん、風に当たってくるね」

 

 そして悠二郎は立ち上がり、ユウナの後ろを通って外に出ていってしまった。ユウナは、言えてよかったとホッと胸を撫で下ろした。悠二郎も、思っていたよりはあっさりとした反応だった。ユウナは明日、無関係者に口外してしまったことを、正彦に謝ろうと思った。それと同時に、悠二郎とも少しずつ距離を詰めていこうという決心もした。

序盤のキャラで、最も印象深い登場人物は?

  • 中谷優奈
  • 鶴ケ崎麗菓
  • 月見里美香
  • 夢野あかり
  • 池谷大輝
  • 相場善秀
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