翌朝、ユウナは正彦の研究室のドアをノックした。返事が返ってくると、ユウナはドアを開けた。その中にいたのは正彦の他に、アカネと真宏もいた。
「よう」
「先輩、どうしたんですか?」
真宏がいたことに、ユウナは少々驚いた。すると、アカネが説明した。
「なんかな、昨日のこと話したら、俺も手伝いたいねんて」
「俺も、お前には借りがあるからな。お前から頼って来ねえから、俺から来てやったぜ」
真宏は、そう言うと笑顔を見せた。
「でも先輩、お仕事の方は大丈夫なんですか?」
「あぁ、ちゃんとやってる」
真宏は答えると、またアカネが言った。
「そうそう。この人、京都に就職したんよ」
「そうなんですか?」
「余計なこと言わなくていいから!」
「でも、なんで……」
ユウナが不思議そうに真宏を見ていると、真宏はこう答えるのだった。
「親と相談してさ、そうしたら住み慣れたとこで働く方がいいってことになってよ。それに俺、やっぱこの街好きだから。落ち着いてて、ちょうどいい賑やかさだしさ。だから、お前が住んでるとこにもすぐ行けるぜ」
「先輩……、変わってないですね」
「ん、どういう意味だ?」
真宏は、気に障ったような表情でユウナを見る。ユウナはそれを見て、微笑していた。真宏も、あれからちゃんとやれていたのだ。そう思うと、ユウナは少し安心した。三人が黙るのを見計らい、そこでようやく正彦が切り出した。
「え〜、というわけで早速やってもらいたいことがあるんだが……」
「何だ? 今の俺なら、何だってやるぜ!」
真宏は言った。しかし正彦は、
「いや、そうではなく……。ユウナ君、君に行ってほしいところがあるんだ」
と、言うのだった。
「どこですか?」
ユウナがきくと、正彦は立ち上がってスクリーンにSPのマップを表示させた。そして、棒を使ってその中のある地点を示した。
「ここは、第二十六エリア。ダンジョンが設置されている、クローノスという森に行ってほしいんだ」
「そこに、何かあるんですか?」
正彦が言うので、ユウナは質問した。すると、正彦は難しい顔をした。
「いや。実は、通信エラーが発生していてね」
「それって、何年か前に起こったのと同じやつか?」
今度は、真宏が質問を投げかける。
「いや、違う。あれは、人間が完全にログインできないように、エリア自体が封鎖されていた。今回は、どうやらそこから悪質な電波が流れているようなんだ」
「悪質な……、電波?」
ユウナは、嫌な予感を催した。さらに、正彦は話を続ける。
「それによって、モンスターたちを狂わせているようだ。私の創ったダンジョンは、モンスターがプレイヤーを襲うことはない。それなのに、プレイヤーに攻撃してくる可能性があるんだ」
それをきいて、ユウナはあの時のことを思い出した。あれは、正彦に頼まれてSPの中を調査していた時だった。突然デビルドラゴンに襲われ、それをミカやアカリに助けてもらった。あのモンスターも、その電波によって洗脳されていたのだろうか。そんなユウナの顔を見て正彦が、
「どうした、嫌ならべつに構わんが」
と言うので、ユウナは顔を上げると返事をした。
「いえ、行きます。行かせてください」
「よし、わかった」
正彦は言うと、再び椅子に腰を下ろす。すると真宏が、
「おい、じゃあ俺は何をすれば……」
ときくと正彦は、
「君は、外からユウナ君たちの援護を頼む」
そう言った。
「……外から?」
「あぁ。中にいても、こちらからの電波を受け取ることはできる」
正彦はそう言い、目の前のパソコンを起動させる。
「あの……、たちって……」
今度は、ユウナが正彦に尋ねた。するとアカネが、
「うちも行くから」
と、ユウナの肩に手を置いた。それならばと、ユウナはアカネに言った。
「じゃあ、ひとつお願いきいてもらってもいいですか?」
それは、ミカとアカリも一緒に行くことだ。二人がいれば、またモンスターが襲ってきた時に、うまく対処できるかもしれない。正彦は、それを了承してくれた。そして、結局四人でダンジョンの中に入ることとなった。
「あ〜、久しぶりのダンジョンやけん、久しぶりやね〜」
SPの中を歩きながら、アカリが言った。先頭をユウナとアカネが歩き、その後にミカとアカリが続く。ダンジョンの中は、本当に攻撃されているのかと疑うくらい、空も晴れ晴れとしていて、上空には様々な属性のモンスターが行き交っている。
森に入り、しばらく進むとユウナの手にしていた携帯型の機械から、声がきこえる。
『なぁ、ユウナ。きこえるか?』
真宏が、研究室から信号を送ってきているのだ。ユウナは画面越しに真宏を見て、
「大丈夫です、先輩。それより、教授の方は大丈夫ですか?」
ときくと、真宏は答えた。
「あぁ。今は、向こうで休んでる。何かあったら、ゼッテー教えろよ」
「わかりました」
ユウナはそう言うと、画面を切った。この分だと、モンスターと出くわすこともないだろう。ユウナたちは、さらに森に足を進める。
「……なんか、特に異常はなさそうじゃない?」
後ろで、ミカも呟いている。ユウナも足を止め、また手にしている機械の画面を見た。そこには波長が表示され、異常があれば乱れるようになっている。しかし特に乱れはない。ユウナはふり返り、三人に言った。
「特に、何もないみたい」
その瞬間、低い鳴き声とともに巨大な足音がきこえてきた。四人はそれに驚いていると、周りの草木が激しく揺れ始めた。するとそこに、あるモンスターが現れた。それは、「ファフニール」という木属性のモンスターで、数メートルはある巨大な体を軋ませる。
「ヤバイって、逃げよう!」
ミカが言うと、ユウナもそうした方が今はよいと判断し、逃げ出した。しかし、それをファフニールは追ってくる。
「戦った方がいいんと違う?」
アカリは逃げながら言うが、モンスターを呼び出している余裕などない。
「今は、あんまり刺激しない方がいいと思う」
ユウナはそう答え、ほかの三人を先導した。もうすぐ出口だ。しかし、ファフニールに追いつかれそうになる。ファフニールは、口から何度も攻撃を仕掛けてくる。それを交わしながら、ユウナたちは走り続けた。「もうだめだ」という考えが芽生え始めた時、後ろで咆哮のような声がきこえ、静かになった。それに気づいたユウナは、後ろをふり向いた。そうすると、ファフニールが氷漬けになっている。何が起きたのか、ユウナには皆目見当がつかなかった。ミカやアカリも、不思議そうにそれを見つめている。その時、アカリがあることに気づいた。
「ねぇ、あれ見て!」
アカリが指差した方向を、ユウナも見てみた。そこには「キマイラ」という、ギリシャ神話に登場するライオンのような怪物をモチーフにしたモンスターがいる。キマイラの前足や後ろ足には鎖がつけられており、ユウナたちを睨みながら近づいてくる。それは威嚇しているようで、ユウナたちは後退りした。すると、キマイラは言った。
「ココカラ、今スグ立チ去レ」
それをきいたミカが、
「何こいつ、喋れんの?」
と、気持ち悪がったように言った。しかし、キマイラは微動だにしない。ユウナもまた、それに負けじと前に進み出て言った。
「どうして? ここは横大路教授が創った世界。私たちは、そのお手伝いをしてるの。だから、出ていくわけにはいかない」
すると、
「出て行け!」
という声が、茂みの奥からきこえた。それは、女の声のようにもきこえた。それと同時に、足音も近づいてくる。それが段々と近くなるや否や、人影が飛び出し、キマイラの前に着地した。それは、ユウナより年下か同じ年くらいの、若い女だった。
「……誰?」
また、ミカが声を上げる。すると、その女はキマイラを撫でながら、
「さっき、こいつが侵入者が入ったって教えてくれたんだ。それが、まさかこんなにいたなんてな」
と言うので、ユウナは言い返した。
「侵入者ってどういうこと? ここは、横大路教授が創った世界で、悪い電波が出てるからって、見にきただけなんだけど……」
そうすると、その女はまじまじとユウナを見つめてくる。そして、ニヤリと笑う。
「なるほど、アンタが中谷ユウナか。俺はこの森の番人、ミーサだ。親父から話はきいてたけど、まさかこんなとこで会えるなんてな」
するとミカが、
「今は喜多村だけどね」
と、茶々を入れる。しかし、ユウナはきこえていないように、ミーサに尋ねた。
「じゃあ、あなたもあのサタールという人を手伝ってるの?」
「そうだよ。中谷ユウナ、俺と勝負しろ!」
ミーサがユウナを指さし、そう言い放った。
「勝負……?」
「いつか、戦ってみたいと思ってたんだ。嫌だって言うなら、アンタはここにいる資格はねえ。さっさと出ていくんだな、目障りだ」
ユウナが戸惑っていると、その言葉にカチンときたのか、アカリが進み出てきた。
「さっきからきいてたら……」
「アカリ?」
「ユウナちゃんを馬鹿にするんは、うちが許さんけん! 第一、ここは元々教授の創った世界なんよ!? それを自分のもんみたいに言うて、何が出ていけよ! 出ていかなあかんのんは、そっちじゃろうが!!」
それをきき、ミーサは大声で笑った。それを見て、アカリも言った。
「何がおかしいんよ!」
「お前らは、ほんとに馬鹿なんだなと思ってさ」
「はぁ?」
ミカも声を上げると、ミーサは続けた。
「仲間を庇うのは個人の自由だ。でも、それを選ぶ権利はお前らにはない。中谷ユウナ、俺と
ユウナはそう言われ、黙りこんでしまった。ミーサは、きっと強いモンスターを使ってくるだろう。それなら、ユウナには勝ち目はない。ゲーム歴が長いとはいえ、この世界で戦わせたことは、ほとんどないからだ。ユウナが迷っていると、遠くで違うモンスターの鳴き声がきこえた。それをきいたミーサは「チッ」と舌を鳴らし、キマイラに飛び乗った。
「勝負はお預けだ。いつか、必ず潰してやるから覚悟しておくんだな!」
そう言うと、そのまま森の奥へ走り去っていってしまった。ミーサは結局、四人に対して悪い印象しか残さなかった。
「何だったの、あいつ!」
ミカもレイカに喧嘩を売られた時以上に、怒りを露わにした。しかしユウナは、不思議と怒りはあまり出てこなかった。それよりか、ミーサとは何者だったのかが気になった。サタールの娘なのだろうか、それとも助手なのだろうか。しばらく、その場に立ったまま考えていた。
それと同じ頃、SP内の研究所ではコサカたちが、ユウナたちを監視していた。
「あれが、例の娘か……」
スクリーンに、森の中に立っている四人の姿が映し出されている。
「オーディンに、認められたという子ですか?」
ユウナを見ながら、ルリがきいた。すると、コサカは言った。
「一刻も早く、奴らを排除しなくては。サタール様の思惑通り、事を運ぶぞ」
「はい」
ルリも、そう答えていた。ユウナは、サタールに雇われた研究者たちから見られていることなど知らず、SPを後にしたのだった。
一方、ダークネス・キャッスルではサタールがフギンを呼んでいた。
「オヤジ〜、やっぱりバレちまったぜ」
「あいつには、荷が重すぎたか。だがフギン、私でもそのようなことは想定済みだ」
「じゃあ、わざと気づかせたのか?」
「もしかしたら……、二人を対面させたかったのかもしれんな」
サタールは言うと、部屋を出ていった。それを、フギンも怪訝そうに見ていた。
ユウナが帰宅すると、部屋であの続きを考えていた。彼女は何者なのか、なぜユウナに出て行けと言ったのか、またどこからSPの中に入ったのか、疑問は尽きそうになかった。
第三十三回「
次回予告
ユウナ「きいてほしい話があるの」
ミカ『SP第23エリア・イワトノ丘にアマテラス降臨の兆しあり』
サタール「闇は、光が強いほどそれに抗うように大きくなる」
フギン「ミーサ、お前が行ってきてくれ」
ミーサ「そいつを、このセインツストーンに封印する!」
真司「君は兄さんのこと、どう思ってるんだ?」
大輝「よう」
ユウナ「大ちゃん……?」
大輝「俺、救命士の資格とったんだ」
ユウナ「どう思ってるんですか、彼のこと」
真司「君はあいつみたいになっちゃいけないんだ」
悠二郎「俺も、彼に負けないくらい、強くならなくちゃな」
正彦「君たちはもう、ここには来なくていい。来てほしくないんだ」
次回(第三十四回)
「
序盤のキャラで、最も印象深い登場人物は?
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中谷優奈
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鶴ケ崎麗菓
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月見里美香
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夢野あかり
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池谷大輝
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相場善秀