パズル&ドラゴンズ~もうひとつの旅~   作:葉之和 駆刃

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第33話 森の番人〜ガーダー・オブ・クローノス〜(その参)

 翌朝、ユウナは正彦の研究室のドアをノックした。返事が返ってくると、ユウナはドアを開けた。その中にいたのは正彦の他に、アカネと真宏もいた。

 

「よう」

「先輩、どうしたんですか?」

 

 真宏がいたことに、ユウナは少々驚いた。すると、アカネが説明した。

 

「なんかな、昨日のこと話したら、俺も手伝いたいねんて」

「俺も、お前には借りがあるからな。お前から頼って来ねえから、俺から来てやったぜ」

 

 真宏は、そう言うと笑顔を見せた。

 

「でも先輩、お仕事の方は大丈夫なんですか?」

「あぁ、ちゃんとやってる」

 

 真宏は答えると、またアカネが言った。

 

「そうそう。この人、京都に就職したんよ」

「そうなんですか?」

「余計なこと言わなくていいから!」

「でも、なんで……」

 

 ユウナが不思議そうに真宏を見ていると、真宏はこう答えるのだった。

 

「親と相談してさ、そうしたら住み慣れたとこで働く方がいいってことになってよ。それに俺、やっぱこの街好きだから。落ち着いてて、ちょうどいい賑やかさだしさ。だから、お前が住んでるとこにもすぐ行けるぜ」

「先輩……、変わってないですね」

「ん、どういう意味だ?」

 

 真宏は、気に障ったような表情でユウナを見る。ユウナはそれを見て、微笑していた。真宏も、あれからちゃんとやれていたのだ。そう思うと、ユウナは少し安心した。三人が黙るのを見計らい、そこでようやく正彦が切り出した。

 

「え〜、というわけで早速やってもらいたいことがあるんだが……」

「何だ? 今の俺なら、何だってやるぜ!」

 

 真宏は言った。しかし正彦は、

 

「いや、そうではなく……。ユウナ君、君に行ってほしいところがあるんだ」

 

 と、言うのだった。

 

「どこですか?」

 

 ユウナがきくと、正彦は立ち上がってスクリーンにSPのマップを表示させた。そして、棒を使ってその中のある地点を示した。

 

「ここは、第二十六エリア。ダンジョンが設置されている、クローノスという森に行ってほしいんだ」

「そこに、何かあるんですか?」

 

 正彦が言うので、ユウナは質問した。すると、正彦は難しい顔をした。

 

「いや。実は、通信エラーが発生していてね」

「それって、何年か前に起こったのと同じやつか?」

 

 今度は、真宏が質問を投げかける。

 

「いや、違う。あれは、人間が完全にログインできないように、エリア自体が封鎖されていた。今回は、どうやらそこから悪質な電波が流れているようなんだ」

「悪質な……、電波?」

 

 ユウナは、嫌な予感を催した。さらに、正彦は話を続ける。

 

「それによって、モンスターたちを狂わせているようだ。私の創ったダンジョンは、モンスターがプレイヤーを襲うことはない。それなのに、プレイヤーに攻撃してくる可能性があるんだ」

 

 それをきいて、ユウナはあの時のことを思い出した。あれは、正彦に頼まれてSPの中を調査していた時だった。突然デビルドラゴンに襲われ、それをミカやアカリに助けてもらった。あのモンスターも、その電波によって洗脳されていたのだろうか。そんなユウナの顔を見て正彦が、

 

「どうした、嫌ならべつに構わんが」

 

 と言うので、ユウナは顔を上げると返事をした。

 

「いえ、行きます。行かせてください」

「よし、わかった」

 

 正彦は言うと、再び椅子に腰を下ろす。すると真宏が、

 

「おい、じゃあ俺は何をすれば……」

 

 ときくと正彦は、

 

「君は、外からユウナ君たちの援護を頼む」

 

 そう言った。

 

「……外から?」

「あぁ。中にいても、こちらからの電波を受け取ることはできる」

 

 正彦はそう言い、目の前のパソコンを起動させる。

 

「あの……、たちって……」

 

 今度は、ユウナが正彦に尋ねた。するとアカネが、

 

「うちも行くから」

 

 と、ユウナの肩に手を置いた。それならばと、ユウナはアカネに言った。

 

「じゃあ、ひとつお願いきいてもらってもいいですか?」

 

 それは、ミカとアカリも一緒に行くことだ。二人がいれば、またモンスターが襲ってきた時に、うまく対処できるかもしれない。正彦は、それを了承してくれた。そして、結局四人でダンジョンの中に入ることとなった。

 

 

「あ〜、久しぶりのダンジョンやけん、久しぶりやね〜」

 

 SPの中を歩きながら、アカリが言った。先頭をユウナとアカネが歩き、その後にミカとアカリが続く。ダンジョンの中は、本当に攻撃されているのかと疑うくらい、空も晴れ晴れとしていて、上空には様々な属性のモンスターが行き交っている。

 

 森に入り、しばらく進むとユウナの手にしていた携帯型の機械から、声がきこえる。

 

『なぁ、ユウナ。きこえるか?』

 

 真宏が、研究室から信号を送ってきているのだ。ユウナは画面越しに真宏を見て、

 

「大丈夫です、先輩。それより、教授の方は大丈夫ですか?」

 

 ときくと、真宏は答えた。

 

「あぁ。今は、向こうで休んでる。何かあったら、ゼッテー教えろよ」

「わかりました」

 

 ユウナはそう言うと、画面を切った。この分だと、モンスターと出くわすこともないだろう。ユウナたちは、さらに森に足を進める。

 

「……なんか、特に異常はなさそうじゃない?」

 

 後ろで、ミカも呟いている。ユウナも足を止め、また手にしている機械の画面を見た。そこには波長が表示され、異常があれば乱れるようになっている。しかし特に乱れはない。ユウナはふり返り、三人に言った。

 

「特に、何もないみたい」

 

 その瞬間、低い鳴き声とともに巨大な足音がきこえてきた。四人はそれに驚いていると、周りの草木が激しく揺れ始めた。するとそこに、あるモンスターが現れた。それは、「ファフニール」という木属性のモンスターで、数メートルはある巨大な体を軋ませる。

 

「ヤバイって、逃げよう!」

 

 ミカが言うと、ユウナもそうした方が今はよいと判断し、逃げ出した。しかし、それをファフニールは追ってくる。

 

「戦った方がいいんと違う?」

 

 アカリは逃げながら言うが、モンスターを呼び出している余裕などない。

 

「今は、あんまり刺激しない方がいいと思う」

 

 ユウナはそう答え、ほかの三人を先導した。もうすぐ出口だ。しかし、ファフニールに追いつかれそうになる。ファフニールは、口から何度も攻撃を仕掛けてくる。それを交わしながら、ユウナたちは走り続けた。「もうだめだ」という考えが芽生え始めた時、後ろで咆哮のような声がきこえ、静かになった。それに気づいたユウナは、後ろをふり向いた。そうすると、ファフニールが氷漬けになっている。何が起きたのか、ユウナには皆目見当がつかなかった。ミカやアカリも、不思議そうにそれを見つめている。その時、アカリがあることに気づいた。

 

「ねぇ、あれ見て!」

 

 アカリが指差した方向を、ユウナも見てみた。そこには「キマイラ」という、ギリシャ神話に登場するライオンのような怪物をモチーフにしたモンスターがいる。キマイラの前足や後ろ足には鎖がつけられており、ユウナたちを睨みながら近づいてくる。それは威嚇しているようで、ユウナたちは後退りした。すると、キマイラは言った。

 

「ココカラ、今スグ立チ去レ」

 

 それをきいたミカが、

 

「何こいつ、喋れんの?」

 

 と、気持ち悪がったように言った。しかし、キマイラは微動だにしない。ユウナもまた、それに負けじと前に進み出て言った。

 

「どうして? ここは横大路教授が創った世界。私たちは、そのお手伝いをしてるの。だから、出ていくわけにはいかない」

 

 すると、

 

「出て行け!」

 

 という声が、茂みの奥からきこえた。それは、女の声のようにもきこえた。それと同時に、足音も近づいてくる。それが段々と近くなるや否や、人影が飛び出し、キマイラの前に着地した。それは、ユウナより年下か同じ年くらいの、若い女だった。

 

「……誰?」

 

 また、ミカが声を上げる。すると、その女はキマイラを撫でながら、

 

「さっき、こいつが侵入者が入ったって教えてくれたんだ。それが、まさかこんなにいたなんてな」

 

 と言うので、ユウナは言い返した。

 

「侵入者ってどういうこと? ここは、横大路教授が創った世界で、悪い電波が出てるからって、見にきただけなんだけど……」

 

 そうすると、その女はまじまじとユウナを見つめてくる。そして、ニヤリと笑う。

 

「なるほど、アンタが中谷ユウナか。俺はこの森の番人、ミーサだ。親父から話はきいてたけど、まさかこんなとこで会えるなんてな」

 

 するとミカが、

 

「今は喜多村だけどね」

 

 と、茶々を入れる。しかし、ユウナはきこえていないように、ミーサに尋ねた。

 

「じゃあ、あなたもあのサタールという人を手伝ってるの?」

「そうだよ。中谷ユウナ、俺と勝負しろ!」

 

 ミーサがユウナを指さし、そう言い放った。

 

「勝負……?」

「いつか、戦ってみたいと思ってたんだ。嫌だって言うなら、アンタはここにいる資格はねえ。さっさと出ていくんだな、目障りだ」

 

 ユウナが戸惑っていると、その言葉にカチンときたのか、アカリが進み出てきた。

 

「さっきからきいてたら……」

「アカリ?」

「ユウナちゃんを馬鹿にするんは、うちが許さんけん! 第一、ここは元々教授の創った世界なんよ!? それを自分のもんみたいに言うて、何が出ていけよ! 出ていかなあかんのんは、そっちじゃろうが!!」

 

 それをきき、ミーサは大声で笑った。それを見て、アカリも言った。

 

「何がおかしいんよ!」

「お前らは、ほんとに馬鹿なんだなと思ってさ」

「はぁ?」

 

 ミカも声を上げると、ミーサは続けた。

 

「仲間を庇うのは個人の自由だ。でも、それを選ぶ権利はお前らにはない。中谷ユウナ、俺と対戦(デュエル)するか。それか、もう二度とこの世界に来ないか、今すぐ選べ」

 

 ユウナはそう言われ、黙りこんでしまった。ミーサは、きっと強いモンスターを使ってくるだろう。それなら、ユウナには勝ち目はない。ゲーム歴が長いとはいえ、この世界で戦わせたことは、ほとんどないからだ。ユウナが迷っていると、遠くで違うモンスターの鳴き声がきこえた。それをきいたミーサは「チッ」と舌を鳴らし、キマイラに飛び乗った。

 

「勝負はお預けだ。いつか、必ず潰してやるから覚悟しておくんだな!」

 

 そう言うと、そのまま森の奥へ走り去っていってしまった。ミーサは結局、四人に対して悪い印象しか残さなかった。

 

「何だったの、あいつ!」

 

 ミカもレイカに喧嘩を売られた時以上に、怒りを露わにした。しかしユウナは、不思議と怒りはあまり出てこなかった。それよりか、ミーサとは何者だったのかが気になった。サタールの娘なのだろうか、それとも助手なのだろうか。しばらく、その場に立ったまま考えていた。

 

 

 それと同じ頃、SP内の研究所ではコサカたちが、ユウナたちを監視していた。

 

「あれが、例の娘か……」

 

 スクリーンに、森の中に立っている四人の姿が映し出されている。

 

「オーディンに、認められたという子ですか?」

 

 ユウナを見ながら、ルリがきいた。すると、コサカは言った。

 

「一刻も早く、奴らを排除しなくては。サタール様の思惑通り、事を運ぶぞ」

「はい」

 

 ルリも、そう答えていた。ユウナは、サタールに雇われた研究者たちから見られていることなど知らず、SPを後にしたのだった。

 

 一方、ダークネス・キャッスルではサタールがフギンを呼んでいた。

 

「オヤジ〜、やっぱりバレちまったぜ」

「あいつには、荷が重すぎたか。だがフギン、私でもそのようなことは想定済みだ」

「じゃあ、わざと気づかせたのか?」

「もしかしたら……、二人を対面させたかったのかもしれんな」

 

 サタールは言うと、部屋を出ていった。それを、フギンも怪訝そうに見ていた。

 

 

 ユウナが帰宅すると、部屋であの続きを考えていた。彼女は何者なのか、なぜユウナに出て行けと言ったのか、またどこからSPの中に入ったのか、疑問は尽きそうになかった。

 

 

第三十三回「森の番人(ガーダー・オブ・クローノス)」終

 

 

 

次回予告

ユウナ「きいてほしい話があるの」

ミカ『SP第23エリア・イワトノ丘にアマテラス降臨の兆しあり』

サタール「闇は、光が強いほどそれに抗うように大きくなる」

フギン「ミーサ、お前が行ってきてくれ」

ミーサ「そいつを、このセインツストーンに封印する!」

真司「君は兄さんのこと、どう思ってるんだ?」

大輝「よう」

ユウナ「大ちゃん……?」

大輝「俺、救命士の資格とったんだ」

ユウナ「どう思ってるんですか、彼のこと」

真司「君はあいつみたいになっちゃいけないんだ」

悠二郎「俺も、彼に負けないくらい、強くならなくちゃな」

正彦「君たちはもう、ここには来なくていい。来てほしくないんだ」

 

 

 

次回(第三十四回)

 

質朴な天照大神(プレイン・アマテラス)

序盤のキャラで、最も印象深い登場人物は?

  • 中谷優奈
  • 鶴ケ崎麗菓
  • 月見里美香
  • 夢野あかり
  • 池谷大輝
  • 相場善秀
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