部屋に戻るとミカが、
「教授、大丈夫かな」
と言いながら、腰を下ろす。アカリも、
「そうじゃね。あの人のことやけん、また無理せんといいけどね」
そう、心配そうに言った。そんな二人を見て、ユウナが声を出す。
「大丈夫だよ! 教授は、きっとあの世界を守ってくれる。今は、信じよう」
それをきいた二人は、じっとユウナのことを見つめてくる。ユウナは少し戸惑いながら、
「ど、どうしたの……?」
ときくと、ミカが言った。
「なんか、ユウナがそんなこと言うの珍しいと思って」
「えっ?」
「うちも。てっきり、また止めるもんやと思ってた」
アカリも、意外そうな顔をしている。たしかに、今までのユウナであれば止めていたかもしれない。それでも、正彦の真剣な顔を見て、今は応援しようという気持ちが芽生えたのだ。
「私も、最近やっとわかったの。教授は、ずっとあの世界のことを、自分の子供みたいに思ってきたから。だから、私も教授を応援したい。できることなら、何でもしてあげたい。私も、教授と、あの世界が好きだから」
「……よかった」
不意に、ミカが呟いた。
「えっ?」
「いつものユウナに戻ったなって思って」
「ユウナちゃん、ずっとあの人の研究手伝ってきたんやもんね!」
「二人とも……」
ユウナは、思わず涙がこぼれそうになる。今の言葉は、ずっと近くで見てきたからこそ、自然に出てきたのかもしれない。ユウナは、心の中で正彦と二人に感謝した。
誰もいなくなった研究室では、正彦が早速ソフトの開発に取り組んでいた。サタールが生成した、特殊なウイルスであったため、通常のワクチンソフトでは効かないのだ。正彦は一人、デスクで作業をしていると、急にドアが開いた。正彦もそれに気づいて、後ろをふり返ると真宏が立っていた。
「どうした?」
「どうしても、アンタに確かめたいことがあってさ」
「確かめたい?」
「ほんとに、いいと思ってんのか? あの世界を守り抜く方法で、一番手っ取り早いのはすべてのダンジョンを攻略して、あの世界ごと消去することだろ?」
真宏がきくと、正彦は下を向いて答えた。
「私は……、できればあの世界ごと残したいと思っている。だが、それは現状不可能のようだ。これでダメなら、そうするしかない」
「じゃあ、またあいつらに手伝ってもらうのか?」
「それは……」
「一人でやるとなると、かなりの時間がかかる。それに、体の問題もある。だから、彼女らを利用したんじゃないのか?」
真宏がそう問い質すと、正彦は立ち上がった。
「違う! それは断じて違う! 私は、彼女たちには限られた力があると思ったんだ」
「限られた力?」
「あぁ。だから、彼女たちでないとダメなんだ。彼女たちなら、きっとあの世界を救う勇者となってくれる。そう信じてきたのだ」
「それで、あいつらを選んだのか……」
正彦はゆっくりと頷き、また椅子に腰を下ろした。真宏は、それから何も言う気になれず、ただ黙りこんでいた。正彦も下を向きながら片手で顔を覆い、必死に涙を堪えているのが、真宏からも見えた。そして真宏は、最後にこう言った。
「俺も、手伝えることがあったらする。仕事とかあるけど、わりと休日暇だからな」
真宏は、笑いながら話した。そして、
「だから、いつでも頼ってきていいぜ」
と言うので、正彦は真宏を見ながら、
「吉田君……」
と、呟いていた。
「じゃあな」
真宏は研究室の戸を閉め、帰っていってしまった。それは正彦が知る中で、初めて真宏が見せた優しさだった。いつも、正彦に対して冷たかったが、また研究を手伝ってくれるというのだ。正彦自身も、それを望んでいた。その分、嬉しさは相当なものだった。
一方、SPではサタールが某研究所を訪れていた。それを、研究者のコサカが出迎えた。
「我々は、新たなるモンスターを生成いたしました」
「ほぅ、何という名だ」
「はい。和神のひとつ、アマテラスです」
サタールがきくと、コサカが答えた。アマテラスとは、光属性のモンスターだ。さらに、コサカは続ける。
「これを、第二十三エリアにある、イワトノ丘に降臨させようと思いまして」
「なるほど、でも敵に気づかれやしないか?」
「その心配は無用です。モンスターを放す際、何かしらの信号が向こうの世界に送られますが、時間をずらせば簡単です。研究室に誰もいない時間帯は、すでに把握しておりますから」
「これは頼もしい」
サタールは、コサカの話をききながら言った。するとコサカは助手、
城に戻ったサタールは、フギンとミーサに言った。
「アマテラスが、イワトノ丘に降臨する」
「アマテラス?」
フギンがきくとサタールが、
「あぁ。時間が決まれば、即刻にお前たちに知らせる」
と、言うのだった。
「そんなもの、どうするんだよ?」
ミーサがきくと、サタールは答える。
「相手が、もうすぐSPにワクチンを注入してくる。それに対抗するため、先にこちらで手を打とうと思ってな。こちらが闇属性ということは、向こうも知っている。だからここは、光で対抗してくるだろう。ならば、こちらも光で対応する」
「でも、どうしてアマテラスなんだ?」
フギンは、不思議そうにきいた。
「理由は簡単だ。こちらの闇ウイルスを、光で消滅させる気なら、こちらも、光によって快復させればいい。闇は、光が強いほどそれに抗うように大きくなる。それに、やつには回復させる能力もある。奴らも、太刀打ちできまい」
要するに、アマテラスを使ってウイルスを守ろうというのだろう。それには、フギンとミーサは互いに顔を見合わせた。さらに、サタールは続ける。
「アマテラスが現れたら、目を覚ます前にセインツストーンに封印してくれ」
「セインツストーン?」
ミーサがきくと、フギンはサタールに言った。
「それって、たしか魔法石の一種だったよな?」
「あぁ、そうだ。では、頼んだぞ」
サタールは最後にそう言い残すと、部屋を出ていってしまった。そして残されたフギンが、ミーサの方を見るとこう言った。
「俺は、そんな面倒ごとはごめんだ。ミーサ、お前が行ってきてくれ」
「え、俺もそんな面倒なことごめんだっつーの」
「まぁ、オヤジをがっかりさせない程度にな」
フギンはミーサの話をきかずに、プテラドスを呼び、それに乗って城を去った。
「おい! 人の話をきけ! バカ兄貴〜!」
ミーサは空に向かって叫んだが、フギンには届かなかった。仕方なく、ミーサは伝達が来るのを待つことになった。
一方、レイカは真司とともに部屋にすべての荷物を運び終えた。
「ふぅ。もう、これ以上運ぶものはないかな」
真司が、部屋を見渡しながら言った。室内に夕日が差しこみ、中には段ボールがいくつか積まれてある。外からは、電車の音が漏れてくる。すると、真司は言った。
「じゃあ、俺はもう帰るよ」
「ありがとう」
レイカも礼を言うと、真司は帰る支度を始めた。その時、レイカにこんな話をした。
「君の兄さんは、昔っから生真面目だったよ。いろんな人に気配りができて、俺も頭では勝ってても、内面的にはいつも負けてた。行事とかでも、気が回らない俺をいつもカバーしてくれてさ。あいつ、自分が損してもいい、周りの奴らが幸せだったらそれでいいって、卒業の時に話してたよ。馬鹿だよな、いつも一人だけ貧乏くじで、誰にも何も言わずただ自分だけで解決しようとして……。だから、君はそうならないでほしい。他人の俺が言えることじゃないけど、君はあいつみたいになっちゃいけないんだ。なんか、そんな気がしてさ」
真司は、ふとふり返った。レイカは、立ったままその話をきいている。
「それ……、兄さんからきいたの?」
「いいや、あいつは何も言ってこなかった」
「じゃあ、今日はそれを言うためにわざわざ?」
「まさか。妹の引越しを手伝ってやってくれって、そう頼まれただけさ。じゃあ、役目は終わったし、俺はもう帰るから。戸締りはちゃんとしてよ」
真司はそう言うと、部屋を出ていった。そして、マンションの前に駐めていたトラックに乗ると帰っていった。レイカは、それを窓から見下ろしていた。真司が去ると、レイカはソファーに腰かけ、回想に耽った。
1995年、レイカが一歳になる直前のことだった。父、圭介がある孤児院を訪れていた。門の前で、そこの院長が一緒に連れている子供のことを見ながら、圭介に話した。
「この子は、今年で小学生になるんです。二年前にご両親が事故で他界し、引き取り手がないのです。本人は、小学校に行きたいと希望しているのですが……」
「しかし、うちにはもう、娘が一人いまして……。それに、仕事をしながら二人を養うとなると、少し厳しくなると思います。妻も家を出てしまって、家事もしないといけないし」
圭介は申し訳なさそうに断ろうとすると、院長と手を繋いでいた子供は、圭介を見上げ、こう言うのだった。
「じゃあ、僕、何でも手伝いする! 掃除もお料理も、何でもするから、だからお父さんは、お仕事だけやって!」
圭介はしばらく考えたのち、決意して言った。
「……わかりました。私が、責任を持って面倒を見ます。この子の名前は?」
すると、院長は答えた。
「雅也です」
その日から、雅也は母の代わりに家事を手伝い、幼いレイカの世話まで一人でするようになった。そのおかげで、圭介は楽に仕事ができるようになったのだ。
レイカは、圭介からそうきかされていた。レイカはぼうっとソファーに座り、圭介から雅也が本当の兄ではないと告げられた日のことを、ただ思い出していたのである。
一方、ユウナは就活を始めていた。スーツに身を包み、今日も説明会に参加するのだ。その前に、母の百合子に電話をかけていた。
「あ、もしもし、お母さん? 私、やっぱりまた就職することに決めた。わかってるけど、やっぱり悠二郎さん一人に重荷を背負わせたくないの。だから、もう一度頑張ってみるね。うん、ありがとう」
ユウナは、そう言って電話を切った。母も、応援してくれるだろう。そう思えることが、何よりの喜びだったのかもしれない。
そして、ユウナはアパートを出た。いざ歩き始めようとすると、不意に誰かから声がかかった。
「よう、元気そうだな」
ユウナは足を止め、ふり返った。そこにはなんと、大輝がいたのである。
「大ちゃん……?」
ユウナは驚きのあまり、つい声が漏れてしまった。すると、大輝がユウナの前まで来て、こう言うのだ。
「俺、救命士の資格とったんだ」
「本当?」
「あぁ。実は来月から数ヶ月、また実習があんだよ。今回は、前と違って本格的なことを訓練させてもらえるらしい。だから、しばらくお前の顔が見れなくなると思って、挨拶に来たんだ」
大輝は言うと、恥ずかしそうに頭の裏をかいた。久しぶりに大輝の癖を見られたユウナは、笑って言った。
「頑張ってね。私も頑張る。また、就活することにしたの。いいとこ受かって、少しでも悠二郎さんが楽になるように努力する。だから、大ちゃんも途中で諦めないでね。せっかく、夢にまで見た救命士になれたんだから」
「あぁ、約束する。今日は、それ言いに来ただけだから。じゃあな、頑張れよ」
大輝が向こうへ歩いていこうとすると、ユウナは不意に呼び止めた。
「待って!」
「どうした?」
「あ……、ううん。何でもない」
「何だよ?」
大輝は、不思議そうにユウナを見つめてくる。ユウナは、少し心苦しそうな表情をしながら言った。
「また……、会えるよね?」
「何言ってんだよ、会えるに決まってんだろ。家近くなんだからさ。まあ、いつになるかわかんねーけど」
大輝も、笑顔で言った。ユウナも、それを見ると少し安心できたのか、
「そうだね」
と言い、笑い返していた。そして今度こそ、大輝に手を振って自分も説明会が行われる会場へと足を運ぶのだった。
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中谷優奈
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鶴ケ崎麗菓
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月見里美香
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夢野あかり
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池谷大輝
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相場善秀