ユウナは、企業の説明をききながら、必死にメモを取っていた。
部屋に戻り、ユウナは今日のことを悠二郎に報告した。
「へぇ、いいやつじゃないか、彼」
悠二郎は、大輝の話題にも友好的な表情を示した。それを見て、ユウナは悠二郎に尋ねてみた。
「あの、どう思ってるんですか、彼のこと」
「どうって……、そうだなあ」
悠二郎は腕を組み、考えていた。
「でも、ユウナがどう思おうと、ユウナの夫は俺だから。俺も、彼に負けないくらい、強くならなくちゃな。そうでなきゃ、またあの時みたいに怒られちゃうよ」
「はい……」
ユウナも、それをきいて笑顔で頷いた。もしもあの時、大輝が現れなかったら今頃二人は、夫婦としての生活を送れていないかもしれない。その分、今度は大輝にもいい出会いが訪れることを、ユウナは望んだ。
一方、龍山大学のアニ研部室には、真宏が足を運んでいた。ここでは、SPの修復作業が密やかに行われていた。アニ研部員たちが、ウイルス対策ソフトなどをパソコンにインストールさせ、SPを修復していた。正彦が真宏に頼み、それを真宏がアニ研のメンバーにも手伝ってほしいと依頼したのだ。その部屋には
「先輩、できましたよ!」
と言うと、
「落としたデータは、研究所宛のメールに添付して送ってくれ!」
真宏は、そう指示していた。すると、真宏は恵とも目が合った。
「今日は、来てくれてありがとな」
不意に、真宏に言われ、恵は少し赤くなりながらも、頷くのだった。
その後、廊下を二人は歩いていた。
「お前は、最近どうなんだ? 仕事とか、嫌なことばっかあるだろ」
「はい。でも、もう慣れました。毎日が楽しいんです、すごく。だから私、今の生活でもいいな〜って思ってるんです」
真宏がきくと、恵は答えた。すると真宏は笑い、
「お前って最近、ユウナみたいなこと言うようになったな」
と言うので、恵は真宏を見つめた。気がつくと、無意識のうちに足が止まっている。先を行った真宏がふり返ると、恵に声をかけた。
「どうしたんだ?」
「いえ、何でもないです」
恵は言うと、再び歩き始めた。その時、真宏はこのようなことをきいてきた。
「そういやお前、結婚とか考えてるのか?」
「えっ?」
恵はまた、驚いたように真宏を見つめる。
「なんか、俺もそろそろ考えたいなって。でも、無理だよな。こんな引きこもり、好きになってくれたやつなんて、数えるほどしかねえし」
「あの……!」
上を向きながら話す真宏に、恵は言った。
「どうした?」
「先輩に、お話があるんです」
そう言う恵を、真宏も不思議そうに見つめていた。
一方、横大路研究所をまた雅也が訪れていた。真司から、引越しの報告をきくためだ。
「いやあ、この間は助かったよ。妹も喜んでたし、ありがとうな」
「とてもそんな感じには見えなかったけどな」
「あいつ、いつもあんな感じだからな〜」
真司も、レイカによい印象は持っていないようだ。それでも雅也は、真司を頼って引越しの手伝いを依頼したのだ。
「まあ、お前なら手伝ってくれると信じてたけどな。真司だけに」
「うるせえよ。お前が手伝ってあげればよかっただろ」
「だから、仕事入ってたんだって! 断れない感じだったからな」
「でも、ほかにも暇そうなやついただろ」
「まあな。でもお前が一番付き合い長いわけだしさ、丁度いいかなって」
「何だそれ……」
二人がそんな会話をしていると、ドアが開いてヒロインが入ってきた。ヒロインが、
「お二人さん、美千子さんからですよ〜」
と言いながら、二人の前にハーブティーを置いた。
「おぉ、いい匂いだな」
雅也は、そう言いながら紅茶の香りを嗅いだ。それを見ていた真司は、少し不審そうな顔をする。
「お前、あの話はいいのか?」
「何が?」
「だってお前、紅茶見るたび悲しそうな顔してたじゃねーか。友達が好きだったって……」
「あぁ、あれね。もういいんだ。過去は過去で、もう思い出さないことにしたよ。君だって、そうだろ?」
雅也は、不意にヒロインを見た。それに対し、ヒロインも答えた。
「そうですね。私も、たくさん辛い経験しましたけど、今が楽しいので。皆さん、とても優しくて、ここに来てよかったです」
嬉しそうに話すヒロイン。それは、嘘偽りない豊かな表情にも見えた。
「そういえば、今年で大学卒業だね。おめでとう。この後は、どうするの? 就職?」
雅也は、ヒロインに尋ねた。
「ありがとうございます。私、もうしばらくは、ここで研究のお手伝いをさせていただくことにしました。これからのことは、これから考えたいと思います!」
「そうか。じゃあ、また来るから、その時も美味しい紅茶入れてよ」
「はい!」
ヒロインは、また嬉しそうに言った。真司も、それを仕方なさそうな表情で眺めていた。
ユウナはといえば、いつものように部屋でミカやアカリと一緒に寛いでいた。正彦からの召集がなければ、このようにして退屈な時間を過ごしているのである。ユウナは就活中だが、この日は特に予定がないため、研究所に足を運んでいた。ミカは、またパソコンで正彦宛のメールを整理していた。アカリは、本を読んでいる。
「ミカちゃん、ちょっと休んだら?」
「大丈夫、もうちょっとだから」
ユウナも読書をしながら、二人の会話をきいていた。すると、急にミカが声を上げる。
「ちょっと! 見てこれ!」
それをきき、二人は驚いて画面を覗きにいった。そこには、こう書かれてあったのだ。
『2018年3月13日。SP第23エリア・イワトノ丘にアマテラス降臨の兆しあり。美神をセインツストーンに封印すべし』
「何だろうこれ……」
ミカは、そのメールを読み上げると言った。
「誰から?」
「わかんない」
ユウナがきくと、ミカは答えた。アカリも、
「何のことじゃろうね」
と言っていると、ミカがこう言い出した。
「そうだ。じゃあ、行ってみようか」
「えっ。でも二十三エリアって、どこにあるん?」
「大丈夫、地図持ってるから!」
ミカは乗り気だ。こうと決めれば、必ず実行するのがミカの長所であり、短所というところだ。ユウナも気になったので、止めることはしなかった。それでも、もしものために、正彦に相談した方がよいと思った。
「あの、それじゃあ一回教授に……」
「あ、でもなんかさっき出かけてったよ? 集中講義があるから〜とか言って」
「でも、勝手に入って怒られることない?」
アカリも、不安そうに言う。
「大丈夫だって! なんかあれば、その場でログアウトすればいいだけだし!」
ミカが言うので、ユウナとアカリは顔を見合わせつつ、そうすることにした。
そして三人はSPに入り、第二十三エリアを目指した。しばらく進み、ミカがある地点を指差し言った。
「あれじゃない?」
見ると、向こうに丘が見える。あれが、きっと「イワトノ丘」だろう。三人は近くまで行き、近くの岩に隠れ、様子を窺った。しかし、何も起きる気配がない。
「もうすぐ時間なのに、何も起きる気しなくない?」
「ほんまに、アマテラスが降臨するんじゃろか? うち、ガチャ回しても全然出んけん、どうしても欲しいんよね」
「あ、わかるそれ」
アカリの言葉に、ミカも同調した。その時、ユウナはあることに気づいた。
「ねえ、あそこ。誰かいるよ」
「え、どこどこ?」
ミカは岩から顔を出し、丘の方を見た。たしかに誰かが立っている。ユウナたちと同じくらいの、女の影に見えた。
「近づいてみよっか」
ミカが言うと、岩を出た。
「危ないよ」
そして、アカリもミカを追うように外へ飛び出していく。ユウナも、仕方なくそれについていった。三人が近づいていくと、段々とその影が近くなってくるのがわかった。それがはっきりと見えるようになった時、ユウナは率先してその人物に声をかける。
「あの……」
声がきこえたのか、その女がふり向いた。それは、あのミーサだったのだ。目が合ったミカとミーサは同時に、
『あーっ!!』
と言い、互いを指差した。
「ちょっ、お前らなんでいるんだよ!」
ミーサが言うのでミカも、
「それはこっちのセリフよ! また何か悪いこと企んでるんでしょ! こっちは、すべてお見通しなんだからね!」
と、言い張った。しかし、ユウナは冷静にミーサに尋ねた。
「ねえ、ここで何してたの?」
すると、ミーサが言った。
「お前らに教える筋合いなんかねえけど、まあ、特別に教えてやろう。もうすぐ、ここに五和神のひとつ、アマテラスが降臨する。そいつを、このセインツストーンに封印する!」
ミーサは、虹色に輝く石を取り出し、それを天に掲げる。セインツストーンは、太陽の光を反射し、より輝きを増した。
「それが、セインツストーン……」
ユウナが呟くと、ミーサは言った。
「わかったら、さっさと帰るんだな」
「でも、そのアマテラスをどうするつもりなの!?」
ミカがきくと、
「そんなもん、知るかよ! すべては、親父……、サタールの思惑なのだ!」
と、ミーサは言い放った。それをきいて、さらにユウナはミーサに尋ねる。
「じゃあ、あなたも知らないの? それを、何のために使うのか」
「そうだよ、いいから早く帰っ……」
ミーサが言いかけた瞬間、突然光明が射してきた。四人は、上を見上げるとアマテラスが降りてくる。目を閉じ、まるで眠っているような表情だ。ゆっくりと丘に降りてくると、ミーサはまた、セインツストーンを掲げた。そうすると、アマテラスは石の中にみるみるうちに吸いこまれていく。その時、眩しい光がイワトノ丘を包んだ。ユウナが目を開けた時には、アマテラスはどこにもいなかった。ミーサはセインツストーンを手にしたまま、笛を吹いた。そうすると、キマイラが走ってきた。ミーサは素早くそれに乗ると、ユウナに告げた。
「じゃあな。今度は、俺と勝負しろよな。その時に、思い知らせてやる。お前の考えが、どんだけ浅はかかってことをな!」
そして、キマイラに乗ったミーサは、どこかに行ってしまった。それを黙って見ているユウナの隣でミカが、
「何なの、あの態度! ほんっとムカつく。誰かさんと同じかそれ以上に!」
と、独り言のように言っている。ユウナもその時に改めて、ミーサの存在が何なのかを考えてしまうのだった。
城へ戻ったミーサは、セインツストーンをサタールに渡した。サタールはそれを受け取ると、
「そうであったか。まあ、彼女たちに知られたところで、どうということはなかろう。こいつの使い道など、気づくはずもないからな」
と言うのだった。サタールは、アマテラスの力が封印されたセインツストーンを見つめながら、ニヤリとし、奥の方に消えていった。その時、ミーサは後ろに誰かの気配を感じ、ふり返った。それは、やはりフギンだった。ミーサは最初からわかっていたのか、フギンに言った。
「アンタだろ、奴らに教えたの」
「まあな、面白そうだったからな」
「ほんと、ろくなことしないな。まあ、大事には至らなかったから結果オーライだけど。アンタの方こそ、いつ首切られるか知れたもんじゃないぜ」
ミーサはそう言い、その部屋から姿を消した。フギンも、目を閉じて考え事をしていた。この時、フギンの頭の中にあったのは、ユウナのことであった。
ユウナたちも、正彦に今日のことを報告した。正彦はそれをきくと、
「そうか、それは大変だったな」
とだけ言うのだった。
「今回も余計なことして、すみませんでした」
ユウナが頭を下げると、後ろにいた二人も頭を下げた。
「大丈夫だ。それより、私からも君たちに話があったんだ」
正彦が言うので、三人は再び顔を上げる。すると、正彦が予想外の発言をした。
「前にも話した通り、ウイルス除去のソフトが完成してね。光線によって、ウイルス自体を萎縮させるというものだ。それで話というのは、君たちはもう、ここには来なくていい。いや、正確に言おう。来てほしくないんだ」
その話をきいて、ユウナは呆気にとられ、何も声にできなかった。正彦から、そのようなことを言われようとは、想像もしていなかったからだ。
第三十四回「
次回予告
ユウナ「お別れ言いに来よう」
「ありがとう。元気でね」
フギン「俺たち側につくか?」
コサカ「すべてはサタール様のために……!」
ユウナ「今までありがとうございました」
悠二郎「俺の実家に行こう」
ユウナ「悠二郎さんのお母様って、どんな方なんですか?」
雅美「この家の敷地を踏む資格もないわ」
ヒロイン「私、ずっとここにいたいんです!」
ユウナ「研究は、これからも続けてください。あの世界が永久に続くように」
サタール「私はそれを確かめたいだけだ」
雅美「どこの子かもわからせえへんのに」
悠二郎「なんで言うことを守ってくれなかったの?」
「もっと、よく考えてから発言するべきだ」
次回(第三十五回)
「
序盤のキャラで、最も印象深い登場人物は?
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中谷優奈
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鶴ケ崎麗菓
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月見里美香
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夢野あかり
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池谷大輝
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相場善秀