現実世界に戻る途中、不意にミカが立ち止まった。ユウナがふり返ると、
「どうしたの?」
と、尋ねた。するとミカは、腑に落ちない顔をして言った。
「どうしても、出てきてくれない子がいるの……」
「そうなんや……」
アカリも、それをきいて下を向く。ユウナは、
「仕方ないよ。もしかしたら、向こうも寂しいのかもしれないし」
と、ミカを励ました。そう言ってもミカは、納得がいかない様子だ。するとアカリも、ミカに言った。
「でも、ゲーム開いたらまた会えるわけやけん」
「でも……、この世界ではもう会えないわけじゃん」
「そうじゃけど……」
「私、やっぱり戻ってみる! 二人は、先帰ってて!」
今まで俯いていたミカは、突然顔を上げると、そう言った。そして、そのまま向こうへ駆けていってしまったのだ。
「ミカ!」
ユウナはミカを追いかけようとするが、アカリがそれを止めた。
「そっとしといてあげよう、ユウナちゃん。もう少ししたら、きっと戻ってくるけん」
「そう、だね……」
アカリの言葉をきいたユウナも、ミカの気持ちを察し、追わないことにした。ユウナが辛いのと同じくらい、ミカも辛いのだ。それを、親友としてわからないはずはない。
ミカは水辺に近寄り、モンスターを呼んだ。
「お願い! 出てきて、もう会えないかもしれないんだよ! お願いだから……、出てきてよ……」
すると、水面に小さな影が浮かんだ。それを見て、ミカは顔を輝かせる。水面から顔を出したのは、アワりんだった。アワりんはミカを見ると、嬉しそうに笑った。それを抱きしめ、ミカは言った。
「ありがとう……、出てきてくれて……」
別れの儀式が終わると、ミカはアワりんを水辺に戻した。アワりんが沈んでいくのを見ながら、
「バイバイ!」
と、いつものテンションに戻ったミカは、手を振っていた。やがて、アワりんが完全に姿を消すと、ミカも戻ろうと立ち上がった。その時、近くに誰かが降り立った。ふり返ると、プテラドスが水面の水を飲んでいる。その横には、フギンがいた。
「ムニン、いつも働かせてごめんな」
フギンはそう言いながら、プテラドスの背中を撫でていた。ミカは、黙ってそれを見ていた。しばらくして、向こうもそれに気づいたらしい。
「おや、誰かと思えばアンタか」
「何してんのよ?」
「お前こそ、何してんだ?」
「あたしのモンスターに、お別れ言いに」
「お別れ? なんでだ?」
「はぁ? 誰のせいでそうなったと思ってんのよ! あんたたちがこの世界潰そうとしてるからでしょ? だから教授は、あたしたちをこれ以上巻きこまないために、ここに来れないようにしたのよ」
ミカの話をきき、フギンは言った。
「なるほどね〜。でもそれじゃあ、本末転倒だぜ?」
「何がよ」
「アンタらがいなくなれば、オッちゃんに勝ち目はねえ」
「なんで、そんなことが言えんのよ!」
「それは、アンタらが一番知ってることじゃねえの?」
そう言うと、フギンはミカに近づいていき、親指と人差し指でグイッとミカの顎を上げた。そして、こう続けた。
「俺たち側につくか? そうすれば、報酬はいくらでもするぜ?」
ミカの目の前には、フギンの顔があった。よく見ると、なかなか整った顔をしている。正彦の甥とは思えないほど、好青年だ。その時、ミカの胸がドキッと高鳴る。やがてミカはハッと我に返り、
「ふ、ふざけないでよ!」
と言い、フギンの手を払った。
「誰があんたなんかに味方するってのよ! 見てなさい、いつか絶対にペシャンコにしてやるんだから! 覚悟しときなさいよ!」
フギンに言い放つと、ミカは走っていった。フギンもそれを見つめながら、微かに笑みを浮かべていた。ミカも走りながら、さっきまでのことを思い出していた。一瞬だが、敵に心を許してしまいそうになったことを反省した。あれが何だったのか、ミカは自問自答を繰り返していた。
一方、SPにある謎の研究所では、また謎の開発が行われている。研究者のコサカが、機密なプログラミングで、SPにおける物体を構築していく。それを、研究員たちが見ていた。その時、部屋のドアが開いた。中に入ってきたのは、コサカの助手である金色ルリであった。ルリはコサカの前に来ると、
「教授、礼のカプセルが届けられました」
と言うので、コサカはニヤリとしながら言った。
「ご苦労だった。これで、セインツ・パラダイスの中にいるモンスターを捕獲できる。私も、研究の成果が認められる時が来たのだ! そして、すべてはサタール様のために……!」
コサカも、そう言いながら前のスクリーンを眺めていた。
一方、ユウナたちは正彦の部屋にいた。
「本当に、今までありがとうございました」
ユウナがまた、改めて正彦に礼を言った。その後ろで、ミカやアカリも寂しそうな顔をしている。
「お別れは、言えたかい?」
「はい、おかげ様で」
「そうか……。本当に勝手だとは思うが、最後にひとつだけきいてほしいことがある」
「何ですか?」
ユウナがきくと、正彦は言った。
「あ、いや……、君たちのスマホを借りたいんだが」
「あの、それは……?」
「少しの間、預かりたいと思ってね。あの世界のことを、私なりに解明したいんだ。創造者の私にも、知らないことが無数にあるかもしれない。だから、私はそれを追求したい。それまでの間、君たちには代わりの携帯を渡そう」
正彦はそう言いながら、三人分のスマホをテーブルの上に置く。ユウナは、正彦のその行動に戸惑ってしまった。
「じゃあ……、それが解明されたら……」
「あぁ、帰ってきていい」
それをきき、ユウナから笑みがあふれた。その言葉で、すべてが救われたようだった。後ろをふり返ると、二人も笑っている。それにしても、正彦は何を追求しようというのだろうか。SP自体、正彦が創造したといっても、サタールらによってすでに所々データが書き換えられている。正彦は、そのことを解明したがっているのだとユウナは考えた。そしてユウナはもう一度、
「教授。研究は、これからも続けてください。あの世界が永久に続くように、そしてそれを、いつか世の中に発表できるように」
と言うと、正彦も笑顔を見せた。
「わかった、約束しよう」
「はい!」
ユウナは新しいスマホを受け取ると、横大路研究所を後にした。今まで、いろんなことがあった。それらを思い出しながら、ユウナは帰路に着くのだった。
その頃、ダークネス・キャッスルでは……。
「そうか、逃げたか……」
サタールが椅子に座りながら呟いていると、フギンは言った。
「けど、あいつらは必ず戻ってくるぜ」
「なんでそんなこと言えるんだよ?」
隣にいたミーサがきいた。
「まぁ、俺にもわからねえけどな」
フギンは、笑いながらはぐらかした。ミーサは、不満げな表情を浮かべている。
「それよりフギン、宝玉の生成は順調のようだ。だが、奴らが来なければ、何の意味も持たないだろう」
サタールが言うのでフギンが、
「あんたは、彼女たちの度量を確かめたいみてえだな」
と言うと、サタールは答えた。
「そういうわけではない。本当にオーディンが姿を見せたというのなら、私はそれを確かめたいだけだ」
「ふ〜ん。まあ、彼女たちにゲームを仕掛けること自体、俺はいいと思うけどな」
二人は、そんな意味深長な会話を続ける。すると、ミーサは向こうを向きながら、
「俺は好かないけどな、あいつらのこと」
と言い、部屋を出ていった。それを見ていたフギンは、
「あいつも、もう少しまともな子供時代送れたら、あぁならなかったのかもな、オヤジ」
そうサタールに問いかけた。しかしサタールは、黙って前だけを見つめているのだった。
戻って横大路研究所では、真司と正彦が部屋で話していた。
「本当に、いいんですか? あれほど熱心に手伝ってくれていた子たちを追い出して」
「追い出したわけではない。ただ、彼女たちにも好きな道を歩んでほしかった、それだけなんだ」
すると、美千子が来て言った。
「ずっと、責任を感じていたんですって。それでもついてきてくれて、それに執着して、言えなかったのよ」
その話をきき、真司はそれ以降何も口にできなかった。正彦は、ずっと我慢していたのだ。ユウナたちも、それには気づいていたはずだ。それでも、正彦を支え続けた。そのことだけでも、正彦にとっては何よりの支えだった。するとドアが開き、ヒロインが中に入ってきた。ドアを開けたまま、黙って立っているヒロインに、正彦が声をかける。
「どうした? これからのことはいいから、君も好きな道を行きなさい」
すると、ヒロインが言った。
「私……、どこにも行けないんです……」
「何?」
「私、ずっとここにいたいんです! ここにいて、いろんなものに触れて、もっともっと勉強がしたいんです。だから、これからもお手伝いさせてください」
そう言われ、正彦は固まってしまった。ヒロインの目は、至って真剣だ。そして真司が、正彦に返答を促す。すると、正彦はヒロインに言った。
「わかった。君が望むなら、その通りにすればいい」
「はい!」
ヒロインも、笑って答えていた。それを見て、美千子も安堵したような表情をしている。こうして再び、全員がそれぞれの道へと旅立つことになったのである。ユウナがもう一度、この場所へ帰ってくる日は、まだ先になりそうだ。
そのユウナは、悠二郎の実家に帰る日取りを、悠二郎とともに決めていた。
「会社の仕事も一通り片付いたから、今度有休取ろうと思うんだ。だから、その時に一緒に行こう」
「あの……」
「何?」
「悠二郎さんのお母様って、どんな方なんですか?」
「どんなって言われてもなぁ……」
悠二郎は、上を見ながら呟いた。そして、再びユウナを見た。
「とても一言じゃ説明できないな。まぁ、会ってみるといいよ」
「そうですね」
ユウナは笑顔で納得した。ユウナは悠二郎の両親に会えることを、今から楽しみに思うのだった。
そして、ついにその日が来た。二人はアパートを出、電車に乗った。乗ると悠二郎が、ユウナに説明する。
「うちの家、京都にあるんだけど、大阪の方に近いから、すぐに着くと思うよ」
「そうなんですか?」
ユウナは、悠二郎から詳しい話をきいていなかったのだ。それならば、なぜ両親は一度もアパートに顔を出さなかったのだろう。やがて、実家の最寄り駅が見えてくる。二人は、そこで降りた。ユウナは、あまり長居はしないだろうと思い、簡単な着替えだけ持ってきていた。そして、悠二郎とともに駅の改札を出る。季節はすでに夏になっており、外ではアブラゼミが鳴き、太陽がじりじりと照りつけてくる。外では、虫取り網を持った少年や少女が遊んでいる。ユウナはそれを見ながら、悠二郎のあとをついていった。
実家は、駅からそう遠くない場所にあった。
「ここだよ」
悠二郎が言うので、ユウナは顔を上げると驚いた。華道の家元とはきいていたが、非常に広く、日本風の屋敷のようだった。
「予想より大きいからびっくりした? ごめんな、誤解させないように、あまり話してなかったんだ。さぁ、入って。家族に紹介するからさ」
悠二郎はそう言い、戸を開ける。上方を見ると、筆字で「喜多村」と木でできた表札がある。ユウナはそれに見とれていると、中から悠二郎が呼ぶので、急いで中に入った。
長い廊下を進み、ユウナは居間に連れてこられた。すると、五十代ほどの一人の女性が二人を出迎えた。
「まぁ、悠二郎さん! お帰りなさいませ〜!」
「ただいま」
悠二郎は、その女性に挨拶をした。そして悠二郎は、
「これが、僕の妻だよ」
と、ユウナを紹介する。その女性は、感激したような素振りを見せ、
「まぁ、あなたが! 私、仲居をしている、
そう言いながら、手拭いで涙を拭いていた。
「よせよ、みっともない」
悠二郎は、少し恥ずかしそうに言った。
「それで、母さんは?」
「えぇ、奥様でしたら、またいつものお部屋でお花を活けていらっしゃいます。奥様も、悠二郎さんがお帰りになるときいて、大変喜んでいらっしゃいましたから」
美子の話をきき、ユウナも早く会ってみたい気持ちでいっぱいになった。
その後、悠二郎だけがその部屋に行った。悠二郎が戸を開けると、高そうな着物を着た一人の女性が背を向け、活け花をしている。悠二郎は、その女性に声をかけた。
「母さん、ただいま帰りました」
それは悠二郎の母、
「悠二郎。あんた、今までどこ行ってたの? 全然連絡くれへんかったやないの」
いきなり怒られても、悠二郎は雅美の前に腰を下ろす。
「ごめん。実は今日、前にも話したと思うけど、縁談の相手を連れてきたんだ。約束通り、会ってくれるよね?」
「どんな子か知らへんけど、ちゃんとした子なんやろね?」
「うん。気配り上手で、前に勤めていた会社の後輩なんだ」
「まぁ、ええわ。それより、ちゃんと花を活けられるか心配やわ」
「母さん、その話は……」
悠二郎が言いかけると、雅美はこう言うのだった。
「
そう言うと、雅美は立ち上がった。悠二郎も仕方なく、雅美とともに居間に向かった。居間では、ユウナが待っている。そこには、すでに幾つかの仲居や家族が集まっていた。悠二郎が雅美を連れてくると、二人もそこに座った。そして、父親の代わりに悠二郎が、ユウナに家族を紹介した。
「じゃあ、ユウナ。紹介するよ。こちらが、俺の母さん」
「雅美です」
雅美は、そう言って軽くお辞儀をした。
「そして、こちらが俺の姉、千年」
それをきいて、千年も軽く頭を下げる。続いて、悠二郎は近くにいた二人の子を連れた女性を指し、
「で、こちらが俺の兄の奥さんの、
と言うと、絵美里と子供二人も、頭を下げる。
「因みに、由希ちゃんは今年で七歳、大雅君は五歳になる」
そして、全員の紹介が終わると、ユウナは雅美の方を向いた。
「お義母さん、どうぞよろしくお願いします」
ユウナも、雅美に頭を下げた。雅美はそれを見ると、
「こちらこそ」
と言い、ニッコリと笑う。ユウナは、それを見て安心するのだった。
序盤のキャラで、最も印象深い登場人物は?
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鶴ケ崎麗菓
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月見里美香
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夢野あかり
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池谷大輝
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相場善秀