パズル&ドラゴンズ~もうひとつの旅~   作:葉之和 駆刃

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第35話 毒在りし花〜ポイズン・イン・フラワーズ〜(その弐)

 現実世界に戻る途中、不意にミカが立ち止まった。ユウナがふり返ると、

 

「どうしたの?」

 

 と、尋ねた。するとミカは、腑に落ちない顔をして言った。

 

「どうしても、出てきてくれない子がいるの……」

「そうなんや……」

 

 アカリも、それをきいて下を向く。ユウナは、

 

「仕方ないよ。もしかしたら、向こうも寂しいのかもしれないし」

 

 と、ミカを励ました。そう言ってもミカは、納得がいかない様子だ。するとアカリも、ミカに言った。

 

「でも、ゲーム開いたらまた会えるわけやけん」

「でも……、この世界ではもう会えないわけじゃん」

「そうじゃけど……」

「私、やっぱり戻ってみる! 二人は、先帰ってて!」

 

 今まで俯いていたミカは、突然顔を上げると、そう言った。そして、そのまま向こうへ駆けていってしまったのだ。

 

「ミカ!」

 

 ユウナはミカを追いかけようとするが、アカリがそれを止めた。

 

「そっとしといてあげよう、ユウナちゃん。もう少ししたら、きっと戻ってくるけん」

「そう、だね……」

 

 アカリの言葉をきいたユウナも、ミカの気持ちを察し、追わないことにした。ユウナが辛いのと同じくらい、ミカも辛いのだ。それを、親友としてわからないはずはない。

 

 ミカは水辺に近寄り、モンスターを呼んだ。

 

「お願い! 出てきて、もう会えないかもしれないんだよ! お願いだから……、出てきてよ……」

 

 すると、水面に小さな影が浮かんだ。それを見て、ミカは顔を輝かせる。水面から顔を出したのは、アワりんだった。アワりんはミカを見ると、嬉しそうに笑った。それを抱きしめ、ミカは言った。

 

「ありがとう……、出てきてくれて……」

 

 別れの儀式が終わると、ミカはアワりんを水辺に戻した。アワりんが沈んでいくのを見ながら、

 

「バイバイ!」

 

 と、いつものテンションに戻ったミカは、手を振っていた。やがて、アワりんが完全に姿を消すと、ミカも戻ろうと立ち上がった。その時、近くに誰かが降り立った。ふり返ると、プテラドスが水面の水を飲んでいる。その横には、フギンがいた。

 

「ムニン、いつも働かせてごめんな」

 

 フギンはそう言いながら、プテラドスの背中を撫でていた。ミカは、黙ってそれを見ていた。しばらくして、向こうもそれに気づいたらしい。

 

「おや、誰かと思えばアンタか」

「何してんのよ?」

「お前こそ、何してんだ?」

「あたしのモンスターに、お別れ言いに」

「お別れ? なんでだ?」

「はぁ? 誰のせいでそうなったと思ってんのよ! あんたたちがこの世界潰そうとしてるからでしょ? だから教授は、あたしたちをこれ以上巻きこまないために、ここに来れないようにしたのよ」

 

 ミカの話をきき、フギンは言った。

 

「なるほどね〜。でもそれじゃあ、本末転倒だぜ?」

「何がよ」

「アンタらがいなくなれば、オッちゃんに勝ち目はねえ」

「なんで、そんなことが言えんのよ!」

「それは、アンタらが一番知ってることじゃねえの?」

 

 そう言うと、フギンはミカに近づいていき、親指と人差し指でグイッとミカの顎を上げた。そして、こう続けた。

 

「俺たち側につくか? そうすれば、報酬はいくらでもするぜ?」

 

 ミカの目の前には、フギンの顔があった。よく見ると、なかなか整った顔をしている。正彦の甥とは思えないほど、好青年だ。その時、ミカの胸がドキッと高鳴る。やがてミカはハッと我に返り、

 

「ふ、ふざけないでよ!」

 

 と言い、フギンの手を払った。

 

「誰があんたなんかに味方するってのよ! 見てなさい、いつか絶対にペシャンコにしてやるんだから! 覚悟しときなさいよ!」

 

 フギンに言い放つと、ミカは走っていった。フギンもそれを見つめながら、微かに笑みを浮かべていた。ミカも走りながら、さっきまでのことを思い出していた。一瞬だが、敵に心を許してしまいそうになったことを反省した。あれが何だったのか、ミカは自問自答を繰り返していた。

 

 一方、SPにある謎の研究所では、また謎の開発が行われている。研究者のコサカが、機密なプログラミングで、SPにおける物体を構築していく。それを、研究員たちが見ていた。その時、部屋のドアが開いた。中に入ってきたのは、コサカの助手である金色ルリであった。ルリはコサカの前に来ると、

 

「教授、礼のカプセルが届けられました」

 

 と言うので、コサカはニヤリとしながら言った。

 

「ご苦労だった。これで、セインツ・パラダイスの中にいるモンスターを捕獲できる。私も、研究の成果が認められる時が来たのだ! そして、すべてはサタール様のために……!」

 

 コサカも、そう言いながら前のスクリーンを眺めていた。

 

 一方、ユウナたちは正彦の部屋にいた。

 

「本当に、今までありがとうございました」

 

 ユウナがまた、改めて正彦に礼を言った。その後ろで、ミカやアカリも寂しそうな顔をしている。

 

「お別れは、言えたかい?」

「はい、おかげ様で」

「そうか……。本当に勝手だとは思うが、最後にひとつだけきいてほしいことがある」

「何ですか?」

 

 ユウナがきくと、正彦は言った。

 

「あ、いや……、君たちのスマホを借りたいんだが」

「あの、それは……?」

「少しの間、預かりたいと思ってね。あの世界のことを、私なりに解明したいんだ。創造者の私にも、知らないことが無数にあるかもしれない。だから、私はそれを追求したい。それまでの間、君たちには代わりの携帯を渡そう」

 

 正彦はそう言いながら、三人分のスマホをテーブルの上に置く。ユウナは、正彦のその行動に戸惑ってしまった。

 

「じゃあ……、それが解明されたら……」

「あぁ、帰ってきていい」

 

 それをきき、ユウナから笑みがあふれた。その言葉で、すべてが救われたようだった。後ろをふり返ると、二人も笑っている。それにしても、正彦は何を追求しようというのだろうか。SP自体、正彦が創造したといっても、サタールらによってすでに所々データが書き換えられている。正彦は、そのことを解明したがっているのだとユウナは考えた。そしてユウナはもう一度、

 

「教授。研究は、これからも続けてください。あの世界が永久に続くように、そしてそれを、いつか世の中に発表できるように」

 

 と言うと、正彦も笑顔を見せた。

 

「わかった、約束しよう」

「はい!」

 

 ユウナは新しいスマホを受け取ると、横大路研究所を後にした。今まで、いろんなことがあった。それらを思い出しながら、ユウナは帰路に着くのだった。

 

 

 その頃、ダークネス・キャッスルでは……。

 

「そうか、逃げたか……」

 

 サタールが椅子に座りながら呟いていると、フギンは言った。

 

「けど、あいつらは必ず戻ってくるぜ」

「なんでそんなこと言えるんだよ?」

 

 隣にいたミーサがきいた。

 

「まぁ、俺にもわからねえけどな」

 

 フギンは、笑いながらはぐらかした。ミーサは、不満げな表情を浮かべている。

 

「それよりフギン、宝玉の生成は順調のようだ。だが、奴らが来なければ、何の意味も持たないだろう」

 

 サタールが言うのでフギンが、

 

「あんたは、彼女たちの度量を確かめたいみてえだな」

 

 と言うと、サタールは答えた。

 

「そういうわけではない。本当にオーディンが姿を見せたというのなら、私はそれを確かめたいだけだ」

「ふ〜ん。まあ、彼女たちにゲームを仕掛けること自体、俺はいいと思うけどな」

 

 二人は、そんな意味深長な会話を続ける。すると、ミーサは向こうを向きながら、

 

「俺は好かないけどな、あいつらのこと」

 

 と言い、部屋を出ていった。それを見ていたフギンは、

 

「あいつも、もう少しまともな子供時代送れたら、あぁならなかったのかもな、オヤジ」

 

 そうサタールに問いかけた。しかしサタールは、黙って前だけを見つめているのだった。

 

 

 戻って横大路研究所では、真司と正彦が部屋で話していた。

 

「本当に、いいんですか? あれほど熱心に手伝ってくれていた子たちを追い出して」

「追い出したわけではない。ただ、彼女たちにも好きな道を歩んでほしかった、それだけなんだ」

 

 すると、美千子が来て言った。

 

「ずっと、責任を感じていたんですって。それでもついてきてくれて、それに執着して、言えなかったのよ」

 

 その話をきき、真司はそれ以降何も口にできなかった。正彦は、ずっと我慢していたのだ。ユウナたちも、それには気づいていたはずだ。それでも、正彦を支え続けた。そのことだけでも、正彦にとっては何よりの支えだった。するとドアが開き、ヒロインが中に入ってきた。ドアを開けたまま、黙って立っているヒロインに、正彦が声をかける。

 

「どうした? これからのことはいいから、君も好きな道を行きなさい」

 

 すると、ヒロインが言った。

 

「私……、どこにも行けないんです……」

「何?」

「私、ずっとここにいたいんです! ここにいて、いろんなものに触れて、もっともっと勉強がしたいんです。だから、これからもお手伝いさせてください」

 

 そう言われ、正彦は固まってしまった。ヒロインの目は、至って真剣だ。そして真司が、正彦に返答を促す。すると、正彦はヒロインに言った。

 

「わかった。君が望むなら、その通りにすればいい」

「はい!」

 

 ヒロインも、笑って答えていた。それを見て、美千子も安堵したような表情をしている。こうして再び、全員がそれぞれの道へと旅立つことになったのである。ユウナがもう一度、この場所へ帰ってくる日は、まだ先になりそうだ。

 

 そのユウナは、悠二郎の実家に帰る日取りを、悠二郎とともに決めていた。

 

「会社の仕事も一通り片付いたから、今度有休取ろうと思うんだ。だから、その時に一緒に行こう」

「あの……」

「何?」

「悠二郎さんのお母様って、どんな方なんですか?」

「どんなって言われてもなぁ……」

 

 悠二郎は、上を見ながら呟いた。そして、再びユウナを見た。

 

「とても一言じゃ説明できないな。まぁ、会ってみるといいよ」

「そうですね」

 

 ユウナは笑顔で納得した。ユウナは悠二郎の両親に会えることを、今から楽しみに思うのだった。

 

 

 そして、ついにその日が来た。二人はアパートを出、電車に乗った。乗ると悠二郎が、ユウナに説明する。

 

「うちの家、京都にあるんだけど、大阪の方に近いから、すぐに着くと思うよ」

「そうなんですか?」

 

 ユウナは、悠二郎から詳しい話をきいていなかったのだ。それならば、なぜ両親は一度もアパートに顔を出さなかったのだろう。やがて、実家の最寄り駅が見えてくる。二人は、そこで降りた。ユウナは、あまり長居はしないだろうと思い、簡単な着替えだけ持ってきていた。そして、悠二郎とともに駅の改札を出る。季節はすでに夏になっており、外ではアブラゼミが鳴き、太陽がじりじりと照りつけてくる。外では、虫取り網を持った少年や少女が遊んでいる。ユウナはそれを見ながら、悠二郎のあとをついていった。

 

 実家は、駅からそう遠くない場所にあった。

 

「ここだよ」

 

 悠二郎が言うので、ユウナは顔を上げると驚いた。華道の家元とはきいていたが、非常に広く、日本風の屋敷のようだった。

 

「予想より大きいからびっくりした? ごめんな、誤解させないように、あまり話してなかったんだ。さぁ、入って。家族に紹介するからさ」

 

 悠二郎はそう言い、戸を開ける。上方を見ると、筆字で「喜多村」と木でできた表札がある。ユウナはそれに見とれていると、中から悠二郎が呼ぶので、急いで中に入った。

 

 長い廊下を進み、ユウナは居間に連れてこられた。すると、五十代ほどの一人の女性が二人を出迎えた。

 

「まぁ、悠二郎さん! お帰りなさいませ〜!」

「ただいま」

 

 悠二郎は、その女性に挨拶をした。そして悠二郎は、

 

「これが、僕の妻だよ」

 

 と、ユウナを紹介する。その女性は、感激したような素振りを見せ、

 

「まぁ、あなたが! 私、仲居をしている、美子(よしこ)といいます。ほんとに、あの悠二郎さんがご結婚遊ばすなんて……」

 

 そう言いながら、手拭いで涙を拭いていた。

 

「よせよ、みっともない」

 

 悠二郎は、少し恥ずかしそうに言った。

 

「それで、母さんは?」

「えぇ、奥様でしたら、またいつものお部屋でお花を活けていらっしゃいます。奥様も、悠二郎さんがお帰りになるときいて、大変喜んでいらっしゃいましたから」

 

 美子の話をきき、ユウナも早く会ってみたい気持ちでいっぱいになった。

 

 その後、悠二郎だけがその部屋に行った。悠二郎が戸を開けると、高そうな着物を着た一人の女性が背を向け、活け花をしている。悠二郎は、その女性に声をかけた。

 

「母さん、ただいま帰りました」

 

 それは悠二郎の母、雅美(まさみ)だった。雅美はふり向くと、悠二郎に言った。

 

「悠二郎。あんた、今までどこ行ってたの? 全然連絡くれへんかったやないの」

 

 いきなり怒られても、悠二郎は雅美の前に腰を下ろす。

 

「ごめん。実は今日、前にも話したと思うけど、縁談の相手を連れてきたんだ。約束通り、会ってくれるよね?」

「どんな子か知らへんけど、ちゃんとした子なんやろね?」

「うん。気配り上手で、前に勤めていた会社の後輩なんだ」

「まぁ、ええわ。それより、ちゃんと花を活けられるか心配やわ」

「母さん、その話は……」

 

 悠二郎が言いかけると、雅美はこう言うのだった。

 

千年(ちとせ)があんなんやから、お前との結婚を許したんよ? それも守れへんようやったら、この家の敷地を踏む資格もないわ」

 

 そう言うと、雅美は立ち上がった。悠二郎も仕方なく、雅美とともに居間に向かった。居間では、ユウナが待っている。そこには、すでに幾つかの仲居や家族が集まっていた。悠二郎が雅美を連れてくると、二人もそこに座った。そして、父親の代わりに悠二郎が、ユウナに家族を紹介した。

 

「じゃあ、ユウナ。紹介するよ。こちらが、俺の母さん」

「雅美です」

 

 雅美は、そう言って軽くお辞儀をした。

 

「そして、こちらが俺の姉、千年」

 

 それをきいて、千年も軽く頭を下げる。続いて、悠二郎は近くにいた二人の子を連れた女性を指し、

 

「で、こちらが俺の兄の奥さんの、絵美里(えみり)さん。で、その子供の由希(ゆき)ちゃんと大雅(たいが)君」

 

 と言うと、絵美里と子供二人も、頭を下げる。

 

「因みに、由希ちゃんは今年で七歳、大雅君は五歳になる」

 

 そして、全員の紹介が終わると、ユウナは雅美の方を向いた。

 

「お義母さん、どうぞよろしくお願いします」

 

 ユウナも、雅美に頭を下げた。雅美はそれを見ると、

 

「こちらこそ」

 

 と言い、ニッコリと笑う。ユウナは、それを見て安心するのだった。

序盤のキャラで、最も印象深い登場人物は?

  • 中谷優奈
  • 鶴ケ崎麗菓
  • 月見里美香
  • 夢野あかり
  • 池谷大輝
  • 相場善秀
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