そして日が変わり、文化祭当日。高校のホールでは、演劇コンクールが行われた。三組では、レイカが主役の王女を演じていた。その演技力は、観客すべてを魅了していた。それを、順番を待つユウナのクラスも見ていた。ユウナの隣でミカも、
「あの人、本当に何でもできるんだ」
と、感心していた。アカリは吹奏楽の席に座っているため、ここにはいなかった。ユウナは、レイカの演技に見入っていた。
そして演劇も順調に進み、ユウナのクラスも無事に終わった。教室に戻り、皆は片付けを始めた。
「疲れたー」
と、ミカは箒をダルそうに持ち、掃いていた。そして片付けもあらかた終わると、その日は解散となった。ユウナは、校門前でミカと別れ、駅に向かった。すると、前を大輝が歩いていた。大輝も気配に気づき、ふり向いた。
「なんだ、お前かよ」
「なんだって何? それより大ちゃん、部活じゃなかったの?」
「今日、スタメンはオフだってよ」
「じゃ、一緒に帰ろ」
ユウナは、何気に誘ってみた。大輝は、
「なんだよ、珍しいじゃん」
と言い、二人は一緒に帰ることになった。
「すごかったなぁー、大ちゃんの演技」
ユウナは、歩きながら呟くように言った。
「全然すごかねーよ。しかも本当はやりたくなかったのによ」
「でも、よかったじゃん。準優勝だよ?」
「三組がすごすぎたよな」
二人は、そんな話をしながら帰った。
「大ちゃんは電車なんだね」
「あぁ。そっちの方が近いからな。お前は、いつもバスなのか?」
「うん。でもたまには電車もいいよね」
そして二人は駅に着くと、そこから同じ電車に乗った。大輝が窓の外を眺めながら、ユウナに言った。
「お前、まだ帰ったらゲームとかしてんの?」
「さすがに今年は……」
「だよなー」
大輝がそう言って答えると、ユウナはきいた。
「大ちゃんは、もう行きたい大学決まった?」
すると、こんな答えが返ってきた。
「ああ。俺、救命士目指してみようかと思って」
「救命士?」
「俺、人助け好きだからさ。向いてるんじゃないかなーなんて思ったりしてさ」
「そうなんだ……」
思い返せば、ユウナも大輝に助けられてばかりだった。
「じゃ、大学も決まってるの?」
「まあな。そういう学科があるとこすら、限られてるからな。あー、そろそろ勉強しねーとやばいなー」
大輝はそう言って、後頭部を粗くかいた。それを見ると、ユウナは懐かしむように微笑んでこう言った。
「大ちゃん、まだそのくせあるね」
大輝はそれをきいて恥ずかしそうに、
「うるせーよ」
と言ったあと、笑っていた。
そして二人は電車を降り、改札を出て帰路に着いた。歩きながら大輝が、
「そういや、お前は? 受ける大学決まったのか?」
ときく。ユウナは、
「まだ。今、迷ってて……」
そう答えた。
「そろそろ決めないとやばくねぇか?」
「だよね。中間までには決められたらいいと思う」
「もう理系の推薦、過ぎちまっただろ?」
「でも私、あまり推薦は受けない方がいいと思って。実力で行きたいから」
大輝はユウナの顔を見つめ、前を見た。
「なあ。お前、あの時の約束覚えてるか?」
「えっ?」
不意に、ユウナは大輝を見つめた。すると大輝は慌てた様子で、
「あ、いや。やっぱいいわ」
と言い、向こうに目線をそらした。ユウナも、しばらくそれを見ていた。
そして、ある交差点に出た。ここが、二人の別れ道だった。
「じゃあな、頑張れよ!」
大輝はそう言って、右手を挙げた。ユウナも嬉しそうに、
「じゃあね!」
と言い、大輝に手を振った。そしてユウナは青になった信号を渡り、大輝もまた、歩き出した。ユウナは、歩きながら考えた。十年前、ユウナの持っていたソフトを公園の土に埋めた。そしてそれを、十年後に掘り返すという約束もしていた。大輝は、それを言いたかったのだろう。ユウナも、それは忘れるはずもなかった。しかし今となっては、どんな意味があるのだろう、と思い、なかなか掘り返せずにいた。それでもユウナは、あの日のことを思い出しながら帰っていった。
部屋に入ると、ユウナは引き出しを開けた。そこには、幼稚園の頃、大輝と一緒に撮った一枚の写真があった。ユウナはそれを手に持った。笑顔の大輝の隣で、曇った顔のユウナがいた。まだこの時は、人を信じられずにいたのだろうか。たった十二年程前だが、ユウナにとっては遠い昔のようであった。ユウナはしばらく、部屋でその写真を眺めていた。
そして十月に入り、気温が一気に下がり、昼と夜での気温差が激しくなっていた。そして、中間テストも確実に近づいていた。休み時間、三人はいつものように一緒に弁当を食べたあと、勉強をしていた。
「もうすぐ中間じゃね~」
アカリが言うと、ミカはこう言った。
「ていうか、中間の二週間前が体育大会って何考えてんだろね。おかしくない?」
ユウナも、数学の教科書を読んでいた。ミカが、
「勉強教えてくれる人いないかなー」
と言うと、ユウナはこう言いだした。
「じゃあ、鶴ケ崎さんは?」
「えー、でもあの子リア充でしょ? なんか嫌なんだけど」
ミカは、嫌だということを前面に押し出した。
「でも、きくだけきいてみようよ」
ユウナはそう言って、立ち上がった。ユウナがレイカのクラスの前に行くと、偶然にもレイカが中から出てきた。それを見たユウナは、
「鶴ケ崎さん」
と呼んだ。レイカはそれをきき、ふり返った。
「勉強、教えてほしいんだけど。数学」
ユウナがそう言うと、ミカとアカリも追いかけてきた。ミカが、
「やめといたら?」
と言ってもユウナは、レイカを見つめてこう言った。
「学年一位の鶴ケ崎さんなら、できると思って」
しかし、レイカからの反応はない。するとユウナは気がついて、
「あ、そっか。数三だし、習ってないからわからないか……」
と言い、引き返そうとした時だった。
「わかるわよ」
レイカがそう言った。
「えっ?」
ユウナは驚き、ふり返ってレイカを見た。
「マジで? 習ってないのに?」
ミカも、驚きを隠せないようだ。すると、レイカがこう言った。
「習ってなくても、そのくらいわかるわよ。でも、前にも言ったと思うけど私人に教えるのとかほんと無理なの。勘違いされたくないから言っただけ。残念だったわね」
レイカがそう言って歩き出そうとすると、ユウナは言った。
「待って! 頼られるってことは、尊敬されてるってことなんだよ。だから、もっと人を信じてみてもいいんじゃないかな」
レイカは立ち止まり、ユウナを見て言った。
「笑わせないでくれるかしら。私、あなたみたいなタイプが一番嫌いだから。人にばかり頼ろうとして、自分では何もできない。見ていてイライラしてくるの。いっそ学校やめて、好きなことでもすれば?」
また気に食わぬ言い方をされ、ミカは反論した。
「何よその言い方。あんただって人に頼って生きてきたんでしょうが!」
「頼る? 私は今までほかの人を頼ったことなんてないわ。この先も絶対にない。私は、自分だけを信じて生きている。勝ちたいのは自分だけ。それ以外には興味を持てないの。あなたたちとは違うのよ」
レイカは腕組みしながら、廊下を歩いて行った。それを、ミカとアカリも不満そうな顔をして見ている。「違う……、違う」とユウナは心の中で言った。人は、一人では生きていけない。ユウナは、身をもってそれを知った。人は互いに助けあいながら、生きていかなければならない。どうかそれを、レイカにもわかってほしい。そうユウナは、レイカを見つめながら強く願うのだった。
第二回「
次回予告
ユウナ「ちょっと話したんだけど」
ミカ「あー、明日は体育祭か〜」
アカリ「今日、来とらんみたいよ」
ユウナ「鶴ケ崎さんってゲームとかやるのかな」
ミカ「いやー、やらないでしょ」
ユウナ「本当はどう思われてるんですか? 娘さんのこと」
智美「全部、私が悪かったの。わかっていたのに、それが親というものかもしれないわね」
百合子「話しあわないと、先に進めないと思うわ」
智美「私、レイカと話そうと思って」
ユウナ「頑張れー!」
レイカ「あなたを母親と思ったこと、一度もない。もう、そのことで私に話しかけてこないで!」
ユウナ「もっと、娘さんを信じてあげてください」
次回(第三回)
「
序盤のキャラで、最も印象深い登場人物は?
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中谷優奈
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鶴ケ崎麗菓
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月見里美香
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夢野あかり
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池谷大輝
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相場善秀