パズル&ドラゴンズ~もうひとつの旅~   作:葉之和 駆刃

110 / 172
第35話 毒在りし花〜ポイズン・イン・フラワーズ〜(その参)

 その日は、家族揃って食事をした。父親も帰宅し、皆で食卓を囲った。悠二郎の父、孝太郎(こうたろう)は、機嫌よく酒を煽りながら、

 

「いやあ、悠二郎が結婚か。目出度い目出度い!」

 

 と、言った。悠二郎の話から、想像していた人物像よりも、遥かに人がよさそうに見えた。ユウナは、孝太郎に酒のお替わりを勧めた。すると、

 

「おぉ、気が利くなぁ。よろしゅう頼むわ」

 

 そう言いながら、孝太郎は笑ってユウナの酌を受けていた。悠二郎が孝太郎に、

 

「そういえば、兄さんは?」

 

 ときくと、孝太郎は答えた。

 

「あぁ。当分、忙しいて帰って来ん言うてるわ。まだ見習いやのに、無理してんのや」

「そっか……」

 

 悠二郎は、少し残念そうな表情になった。ユウナも、心配そうにそれを見ていた。そこへ、悠二郎の姪に当たる由希が、ユウナに煮物を勧めてきた。ユウナは、

 

「ありがとう」

 

 と言い、それを食べた。その様子を、雅美も見ていた。ユウナはこの時、雅美の本当の目的をまだ知らない。そして、その日は何事もなく終わった。

 

 食べ終わると、ユウナは悠二郎とともに寝室へと向かう。布団を並べ、悠二郎も寝間着に着替えた。ユウナは今日のことをふり返りながら、

 

「とてもよさそうな人たちで、安心しました」

 

 と、言った。しかし、

 

「あ、うん……」

 

 と、悠二郎は少し微妙な顔をする。不思議に思ったユウナは、悠二郎に尋ねた。

 

「どうしたんですか?」

「あ、いや。何でもない。さ、今日は遅いから、もう休もう。機会があったら、今度兄貴も紹介するから。うちの家族で一番、話しやすいと思うよ」

「はい……」

 

 ユウナは答え、悠二郎が電気を消した。ユウナは布団に入ると、目を閉じた。すると、悠二郎が話しかけてきた。

 

「そうだ……、ユウナ」

「はい」

「俺、明日また仕事なんだ」

「え、でも、有休取ったって……」

「それが、最近景気悪いからさ、取らせてもらえなかったんだ。でも、ここからでも十分通える範囲だから、そんなに心配してないよ。ごめん、母さんとかにはちゃんと話しとくから。おやすみ」

「おやすみなさい……」

 

 本音を言えば、ずっと悠二郎といたかったが、わがままを言っても仕方がないだろう。ユウナはその夜、何も言わずに眠ることにした。それでも内心、残念だったのは隠しようのない事実であった。

 

 

 ユウナは、朝陽で目が覚めた。その時、襖が激しく開く音がし、ユウナは飛び起きた。そこにいたのは、雅美だった。

 

「お義母さん……」

「ほら、もうみんな起きてるで!」

「す、すみません……」

 

 ユウナは雅美に謝り、布団を畳んで居間に向かった。居間では、すでに子供たちが起きてきて朝食をとっている。朝食の用意は、仲居の美子がしていた。ユウナは美子に、

 

「あの、すみません。何か、お手伝いできることはありますか?」

 

 ときくと、美子は答えた。

 

「そんな、奥様は何もしなくていいですよ。これらはすべて、私たちの役目ですから」

 

 美子が言うと、ニコッと笑った。ユウナも申し訳なさそうにしながら、美子が用意してくれた朝食を食べた。美子の手料理は定食屋並に美味で、ユウナは思わず、

 

「美味しいです」

 

 と言うと、美子も嬉しそうにしながら台所に戻っていった。そこに足音がきこえたので、ユウナはふり向くと、雅美が入ってきた。

 

「ユウナさん、朝食が済んだらちょっと来てくださる?」

 

 雅美に言われ、ユウナは訳もわからぬまま頷いた。

 

「は、はい」

「ほな、待ってるわ」

 

 雅美が言うと、また慌ただしく出ていった。ユウナはそれを、何事だろうと不思議そうに見ていた。

 

 その後、ユウナは言われた通り、雅美の部屋に行った。ユウナは、

 

「失礼します」

 

 と声をかけ、その戸を開けた。すると中では、雅美が正座している。ユウナも、それを見て中に入った。

 

「あの、お義母さん、どうしたんですか?」

「あんた、お花活けたことある?」

「いえ、ありません……」

「じゃあ、ちょっと見本見せたるわ」

 

 雅美が言うと、花を活け始めた。ユウナも目を凝らし、それを見ていた。すると、見る見るうちに、花瓶の中は美しく彩られていく。次第に、ユウナは興味津々に身を乗り出し、それを眺めていた。終わると、雅美が言った。

 

「ほな、あんたが活けてみ」

「え……、でも、本当に私初心者なので……」

「構へん。来週のお花会までに、できるようになってくれたら」

「お花会……?」

「えぇ、週に一度、地元の人たちを集めてな、活け花教室をやるんよ。そこに、あんたも出席してほしいねん」

「え……」

 

 ユウナが突然のことで戸惑っていると、雅美が千年を呼んだ。

 

「千年、千年ー!」

 

 すると悠二郎の姉、千年が部屋に来た。そして、雅美は言った。

 

「ちょっとお願いけど、この子を指導してやってくれへん?」

「はい」

 

 千年も答えると、ユウナを見た。

 

「じゃあ、こっち来て」

 

 千年が言うので、ユウナもついていった。

 

 その後、別の部屋でユウナは千年から花の活け方を習った。そこで、ユウナは千年から様々な話をきいたのだ。

 

「じゃあ、弟さんが二人いるんですね」

 

 ユウナが花を活けながら千年に尋ねると、千年は答えた。

 

「うん。でも女はうちだけやから、お母様はてっきりうちが継ぐもんやと思ってる。代々受け継いできた教室やからって。家元を、ここで終わらせたないって。うちも、ほんまは家庭とか持ちたいんやけど……」

「お義母様には、相談しなかったんですか?」

「しても無駄や。きく耳持ってはらへん。だから、逆らえへんのよ」

 

 その話をきき、ユウナは気の毒に思った。その時、ユウナは花の重要な部分を間違えて切りそうになった。それを見た千年は、

 

「待って!」

 

 と言い、

 

「貸して」

 

 そう言ってユウナからハサミを受け取ると、代わりに花を活けてくれた。それを見て、ユウナはすごいと感心した。雅美と同じかそれ以上に、手付きが慣れている。それくらい、華道に愛情を持っているのだろう。それが、その様子からも窺えた。

 

 夜になり、悠二郎たちが帰宅した。食卓を囲みながら、悠二郎がユウナに尋ねる。

 

「今日は、何してたの?」

「はい、お姉さんから……」

 

 ユウナが言いかけると、雅美がそれを遮った。

 

「あぁ、あんな、今日は料理を仕込んでたんよ」

「そう……」

 

 悠二郎は少し戸惑いつつも、納得していた。ユウナはそれをきいて、不思議に思った。活け花を教えていたことを、悠二郎に知られたらまずいことでもあるのだろうか。ユウナは思ったが、その後は何も言わずにいた。

 

 寝室に行くと、悠二郎がユウナにきいてきた。

 

「ねえ。今日、母さんユウナに何か変なこと言ってこなかった?」

「いえ、特には……」

「そう……」

 

 結局話せないまま、その日は寝ることになった。雅美はあの時、なぜ悠二郎に教えるのを止めたのだろう。ユウナは、そのことがずっと気になっていた。

 

 

 時間は過ぎ、週末になった。ユウナは、千年ら数人の女性とともに、活け花教室に出席した。講師の雅美が、全員に挨拶をする。

 

「今日も、ご足労ありがとうございます」

 

 そして一同は一礼すると、活け花を始めた。ユウナも、千年に教わった通り、花を活け始める。活け花には、それなりの思考が必要なため、ユウナも自分の考えを巡らせながら、花を活けていった。教室が終盤に近づく頃、雅美が言った。

 

「では、最後に一人ずつ活けた花を見せて、どのように工夫したのかを、教えていただきましょう」

 

 ユウナは緊張した。皆の前で、自分の活けた花を説明しなければならない。ユウナは、目の前の花を眺めていると、

 

「では、ユウナさん」

 

 と、いきなり名前を呼ばれた。ユウナは驚きながらも、

 

「は、はい」

 

 そう言って、前に出ようとした。その時だった。突然、その部屋の戸が思いきり開かれた。すると、なんと悠二郎が入ってきたのだ。

 

「悠二郎さん……!」

 

 雅美が、驚きの目を悠二郎に向ける。すると、悠二郎は雅美のところに歩いてきた。

 

「何かおかしいと思ったら、やっぱりユウナにこんなことをさせていたのか!」

「いえ、これは……」

「言い訳は結構。ユウナ、行こう」

 

 悠二郎はユウナの手を引き、その部屋から連れ出した。ユウナは、いまいち状況がつかめずに、

 

「あの、何があったんですか?」

 

 ときいても、悠二郎は答えなかった。

 

 その後、二人は雅美の部屋に行った。悠二郎は雅美の向かいに座り、こう言った。

 

「母さん、僕はがっかりだよ。あんなに言っていたのに、なんで言うことを守ってくれなかったの? 家元は姉貴が継ぐから、心配ないって!」

「せやけどな、あの子が継がへんって言い張ってる以上、この子しかおらへんのよ」

「それが目的で……、結婚を許したの?」

「えぇ、せや。それ以外に理由がありますかいな。どこの子かもわからせえへんのに」

「兎も角、もう二度とユウナに、僕の妻に、手を出さないでください!」

 

 悠二郎がそう言い放つと、またユウナの手を引き、部屋を後にした。

 

 廊下で、ユウナは悠二郎を呼び止めた。

 

「あの、本当にいいんですか? お義母さんは、きっと家元を存続させたいんだと思います。それは、悠二郎さんもわかってるんじゃないですか?」

「じゃあ、君はそうなってもいいのか?」

「……え?」

「家元を継ぐことになったら、この家から出られなくなるんだぞ?」

「それは……」

「もっと、よく考えてから発言するべきだ」

 

 悠二郎は冷たく言うと、向こうに歩いていってしまった。ユウナは、何もかける言葉が見つけられなかった。だが、このままでは悠二郎と雅美の関係が悪くなってしまう。どうにかできないものかと、ユウナは思考を巡らせていたのだった。

 

 

第三十五回「毒在りし花(ポイズン・イン・フラワーズ)」終

 

 

 

次回予告

ユウナ「お姉さんは、どう思ってるんですか? お母様のこと」

千年「もしもそのこと、お母様に教えたりなんかしたら、許さへんから!」

雅美「今すぐにでもこの家を出ていきなさい」

ユウナ「それが、私の生き方だと思っているので」

悠二郎「母さんも、そろそろ認めてあげなよ」

ユウナ「悠二郎さん……?」

磯ケ谷士郎「きっと素晴らしいもんを見せてくれはるんやろなぁ」

千年「うち、自分自身を信じきれてへんかっただけかもしれへん」

士郎「今までに、いろんな人の作品を見てきたけど、こんなんは初めてや。これからも、その気持ちを忘れんといてほしい」

ユウナ「これからは、隠し事はしません。だから、悠二郎さんも遠慮なく私に言ってきてください」

 

 

 

次回(第三十六回)

 

夫の仕事(ハズバンズ・ワーク)

序盤のキャラで、最も印象深い登場人物は?

  • 中谷優奈
  • 鶴ケ崎麗菓
  • 月見里美香
  • 夢野あかり
  • 池谷大輝
  • 相場善秀
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。