パズル&ドラゴンズ~もうひとつの旅~   作:葉之和 駆刃

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第36話 夫の仕事〜ハズバンズ・ワーク〜(その参)

 一時間後、一人ひとり士郎に作品を見せていた。士郎は、それぞれにコメントを残している。見せに来た女性は、それをきいて喜びの表情を浮かべたりしていた。そして最後、千年の番になった。千年は花瓶を持ってくると、それを士郎の前に置いた。士郎は、それをまじまじと見つめている。その時、千年が言った。

 

「これには、私の経験すべてをかけました。これがもし、先生のお目に留まったなら、母から結婚の許しをもらうとの約束をしております。どうか入念に見てください。嘘はいりません。見たままを、教えてください」

 

 千年の目は、真剣だった。それを、母の雅美も見つめている。そして士郎は、

 

「わかった」

 

 と言うと、千年の活けた作品をチェックし始めた。しばらくの沈黙が流れ、士郎が花瓶から目を話すと、千年の目を見て言った。

 

「ほんまに、努力しはったんやな」

「……はい」

「素晴らしいわ。幸せそうな色の花ばかりやけど、なぜかその中に寂しさもある。見てる人を切なくするような、恋の気持ちがそのまま伝わってくる。ほんま、よう考えはったと思うわ。今までに、いろんな人の作品を見てきたけど、こんなんは初めてや。これからも、その気持ちを忘れんといてほしい」

 

 それをきき、千年は嬉しくなった。ユウナも、すぐにでも拍手を送りたくなるような、そんな心持ちだった。しかし、それには雅美の了解を得なければならない。士郎は雅美の方を向き直り、こう言った。

 

「どうです? 娘さんの花、私は好きです。あんたさんも、そうと違いますか?」

 

 しかし、雅美は言うのだった。

 

「私は……、認めません」

「なんでですか!」

 

 思わず、千年が身を乗り出した。

 

「約束、したやないですか! お師匠さんに認められたら、結婚は許すって!」

「それは、嫁が勝手に言い出したこと。私は、そんなん一言も言ってません」

 

 雅美が頑なに言うので、ユウナは千年を見た。千年の目には、涙が潤んでいる。ユウナは、それを見て責任を感じた。自分があのような話をしなければ、千年はこのような思いをしなくて済んだのだ。ユウナが、何とかしようと思った時、扉が開く音がした。そして、なんと悠二郎が入ってきたのだ。

 

「母さん、いい加減にしてよ!」

「悠二郎さん……?」

 

 ユウナは思わず、声に出してしまった。悠二郎は、雅美の前に座ると言った。

 

「母さんの、姉貴に家元を継いでほしいっていう気持ちはわかるよ。けど、いつまでもこの家に縛りつけておいて、ほんとにそれでいいの? 娘の自由を奪って、ほんとにそれでいいと思ってるの?」

「あんたには、関係ないやないの。千年がおらんようになったら、誰が継ぐって言うのよ」

「……わかった。じゃあ、彼にも話してもらうよ」

「彼?」

 

 雅美は、不思議そうに悠二郎を見つめている。悠二郎はふり返り、

 

「入ってきていいよ」

 

 と、誰かを部屋に呼んだ。すると、その部屋に入ってきた男がいた。見たところ、三十代前半くらいだろう。ユウナは、それを見てハッとした。それは、庭で千年と会っていたあの男だったのだ。千年も、

 

「勝さん……」

 

 と、その男の名を呼んだ。勝という男は、悠二郎の隣に座った。そして、雅美に言った。

 

「お母さん、お久しぶりです。勝手なことをして、本当に申し訳ありません。でも、千年さんを思う気持ちは、本物なんです。必ず幸せにします。だから、どうか、どうか結婚をお許しください! お願いします!」

 

 勝は、深々と頭を下げる。それでも、雅美は勝を見ようとしない。そうすると、士郎が隣から声をかける。

 

「意地を張るのは、親の特質というもんや。でも、ずっと張り続けるのは、子を苦しめることにもなる。それは、あんたさんもわかってはるんとちゃいますか?」

「先生……」

「娘さんの作品を見て、何も感じひんことあらへんがな。心のどこかに、認めたくないという気持ちがあったんでしょう。ですが、面白いことに手は正直です。ちゃんと、触れてはるやないですか」

 

 雅美の右手を見ると、千年が活けた花に伸びている。どうやら、雅美も無意識のうちに触っていたようだ。そして、雅美も考えた。もう一度、勝も願いを伝える。

 

「どうか、お願いします」

 

 すると、ようやく雅美は答えた。

 

「せやな。意地を張ってたんは、私の方やったんかもな。勝さん。娘を、頼みます」

「認めて……、くれはるんですか?」

「えぇ。断ってもあんた、しつこく娘に付きまとうやろ? せやから、不束な娘やけど、この子をどうか幸せにしてやってください」

「あ……、ありがとうございます!」

 

 そして勝は、また頭を深々と下げる。それを見ていた一同は、拍手を送った。勝は顔を上げると、千年を見た。千年も、笑顔で見つめ返してくる。それを見て、勝も嬉しそうに笑い返していた。ユウナと悠二郎も、顔を見合わせて微笑み合った。これほどまで、幸せそうな恋人をかつて見たことがあっただろうか。ユウナはそう思いながら、拍手を二人に対して送り続けていた。

 

 

 月日は経ち、その年の12月2日。喜多村家ではその日、祝言の準備が執り行われた。千年は白装束に見を包み、仲居たちが化粧を手伝ったり、着付けをしたりしている。その様子を見ていた仲居の美子(よしこ)が、

 

「なんと、お美しい……」

 

 と、泣きながら言った。すると千年が呆れたような笑みを浮かべ、

 

「頼むから、うちに恥かかさんといてな。泣くんは、式が終わってからにして」

 

 そう言うと、美子は泣き止んだ。その様子を部屋の外から、ユウナも見ていたのだった。ユウナは、

 

「失礼します」

 

 と言い、戸を開けた。

 

「何か、お手伝いできることは?」

「ありがとう。でももういいから、早く部屋行っとき」

 

 千年が言うが、それでもユウナは落ち着かなかった。

 

「でも、せっかくなので何かお手伝いしたいですし……」

 

 すると美子が立ち上がり、

 

「じゃあ、お赤飯炊くの手伝ってもらいましょか。こちらです」

 

 そう言い、ユウナを案内した。ユウナも笑顔で、

 

「はい」

 

 と言うと、美子についていった。

 

 厨房では、ユウナは米を研いだ。すると美子が来て、

 

「奥さん、先に部屋行ってお皿並べといてもらえます?」

 

 と言うので、ユウナは返事をしてそこに行った。部屋には、すでに大勢の人が集まっていた。ユウナと悠二郎の時とは一味違い、皆和服を着ている。ユウナもその日は、着物を来て出向いた。皿を並べていると、こんな会話がきこえてきた。

 

「いやぁ。これで、三人とも相手を見つけたゆうことになりますなぁ」

 

 そう言ったのは、千年や悠二郎の父、孝太郎だった。それに答えたのは、士郎だ。

 

「それにしても、一番年上やのに、意外でしたなぁ」

「まぁ、長女はいくら年とってもきれい言いますしな。わはは!」

「そんな言葉、初めてききましたわ」

 

 二人はそう言い合いながら、愉快に笑っている。その場にいた人も、クスクスと笑っていた。それを見て、ユウナも嬉しくなった。すると、士郎が今度はユウナにも話しかけた。

 

「ユウナさん、でしたっけ」

「はい」

「今回の件は、あんたさんのおかげや。千年さんも、きっと感謝してると思いますで」

「そんな……。私は何も」

「そない謙遜せんくても、みんな知ってはるわ。ユウナさんが、雅美さんに提案したことも。たいした度胸どすなぁ」

 

 士郎が言うと、またユウナに笑いかけてくる。それを見て、ユウナも軽く頭を下げた。やはり、感謝されるほど気持ちのよいことはない。そう思えた瞬間でもあった。

 

 そして、いよいよ式が始まる。先に勝が部屋に入ってきて、前に座った。そして後から、仲居たちに連れられて、千年が入ってきた。初々しい装束に身を包み、誰が見ても惚れてしまいそうな、そんな姿にも見えた。千年は、ゆっくりと勝の隣に座る。勝も千年を見て、小声で言った。

 

「……きれいやで」

「ありがとう」

 

 千年も、笑顔で返した。その様子を、ユウナも笑顔で見ていた。このような場面に遭遇したことを、ユウナは誇りに思った。二人はそのまま、互いを見つめ合った。

 

 その後、孝太郎が、

 

「さぁさぁ、皆さん。今日はご来席くださり、誠にありがとうございます! では二人のこれからを願って、乾杯!」

 

 と言いながら、猪口を掲げた。それを合図に、皆は乾杯した。それから、皆は楽しそうに談笑をし始める。それを、部屋の外からユウナも見ていた。そうすると、

 

「入らないのかい?」

 

 という声がした。

 

「悠二郎さん……」

 

 ユウナが言うと、悠二郎もユウナの隣に座った。

 

「ユウナのおかげで、今日を迎えることができた。姉貴が、そう言ってたよ。代わりに、礼を言ってほしいんだってさ」

「お姉さんが?」

 

 ユウナがきくと悠二郎は頷き、

 

「自分で言えばいいのにね」

 

 と、笑いながら言うのだった。

 

「でも私、お二人の幸せそうな笑顔を見てると、少し羨ましいなって……。あ、でも私も、悠二郎さんと一緒にいる時は幸せですから」

 

 ユウナは口を滑らせてしまったことを反省し、なんとか弁解しようとした。それをきき、悠二郎は笑顔を見せた。

 

「たしかに俺たちって、あんなに笑ってない気がする」

 

 悠二郎が言うので、ユウナは悠二郎を見つめた。そして、悠二郎は続ける。

 

「俺たちも、もう少し距離を詰めていこうか。なんだかんだ言って、もう一周年だもんな」

「はい」

 

 それをきいて、ユウナも笑顔で答えた。

 

「よし、じゃあ入ろう」

 

 そして、悠二郎は戸を開ける。ユウナも、悠二郎に続いて中に入った。そこで、孝太郎などに酒を注いだり、士郎から様々な思い出話などをきいたりした。そして時間は流れ、気がつけば夜中に近い時間となっていた。

 

 士郎が帰ろうとすると、雅美が呼び止める。

 

「先生、今日は泊まっていってください」

「いいや。早う帰らんと、家内がうるさいもんで……。今日は、ほんまおおきにな。これからも、娘さんを支えてやってください」

「はい……」

 

 雅美は玄関に手をつき、一礼した。それを見届けてから、士郎は帰っていった。雅美も顔を上げ、ただ玄関の扉を見つめていた。その様子を、さらに近くから千年も見ていたのだった。

 

 その頃、ユウナは悠二郎とともに寝室にいた。悠二郎は首筋を掻きながら、ユウナに言った。

 

「姉貴、結局家元は継ぎたいってさ」

「そうなんですか?」

「うん。だから表面上、勝さんがうちに婿に来たってことになってる」

「そうですか……」

「まぁ、これで母さんも納得してくれるだろ」

 

 悠二郎はそう言い、布団に入った。

 

「あの……」

「何?」

 

 ユウナが声をかけると、悠二郎はまた起き上がった。

 

「お義母さんとは、最近どうなんですか? あまり、お二人が話してるのを見ないので」

「……普通だよ。でも、最近はちょっと喋るかな。向こうも、わかってるみたい。ユウナを、いつまでもこの家に縛りつける気もないって、そう言ってたから。だから、ユウナも、好きなことしていいんだよ」

 

 それをきくと、ユウナは嬉しくなった。あの雅美が、そのように思っていたと知って、安心したのだ。

 

「よかった……」

 

 その時、悠二郎が完全に起き上がると、突然ユウナを抱きしめてきた。それにはユウナも驚きを隠せず、

 

「悠二郎さん……? どうしたんですか?」

 

 ときくと、悠二郎は言った。

 

「約束、覚えてる? 一人で何でも抱えこまず、困ったら何でも話すって。だから辛い時、逃げ出したい時、遠慮せずに何でも言ってきていいんだぞ?」

「はい……。これからは、隠し事はしません。だから、悠二郎さんも遠慮なく私に言ってきてください」

「……わかってる」

 

 悠二郎はユウナから離れると、再び床についた。ユウナもそれを見て、これが夫の仕事なのだろうと思い、自分も布団の中に入った。そして目を閉じた。これは、ありきたりな幸せなのだろう。このような当たり前が、ユウナにとっては何よりも愛おしく感じられた。この幸せがいつまでも続くように、そう願いながら意識を手放していった。

 

 ユウナに再び意識が戻ったのは、深夜四時を回ったころだった。目を開け、横を見るとそこに悠二郎の姿はなかった。こんな夜中にどこに行ったのだろうと、心配になって起き上がった。そうすると、庭から話し声のようなものがきこえる。ユウナは障子を開けて、庭を確かめた。すると、向こうに悠二郎の姿が見える。電話で、誰かと話しているようだ。

 

「兄貴、そっちはどう? こっちは、なんとかやれてるよ。例のこと、ほんとに言わなくて大丈夫なのか? うん、わかった。じゃあ、待ってる」

 

 そして、悠二郎は電源を切った。その様子を、ユウナは部屋の中からこっそり見ていた。そして、なぜだかその時、妙に嫌な予感を感じてしまったのだった。

 

 

第三十六回「夫の仕事(ハズバンズ・ワーク)」終

 

 

 

次回予告

ユウナ「私、やっぱり不安なんです」

正彦「あの子たちを、もう一度呼び集めようと思う」

雅美「うちで働いた方が、あの子のためやと思うんよ」

悠二郎「ユウナはどうしたい? これから」

千年「大丈夫。あんたやったら、なんとかなる」

サタール「あれはほかならぬ事実のようだからな」

真司「彼女たちも、きっと最後まで戦ってくれるはずです!」

正彦「『神に選ばれし勇者たちよ。今こそ、己の勇気と誇りを信じ、セインツ・パラダイスの中の悪を滅ぼすのだ』」

ミーサ「言っておくけど、私はあんたの敵だから」

正彦「もう一度、ダンジョン攻略に力を貸してほしい」

ユウナ「相場君……?」

相場「大輝が……」

  「死んだ」

 

 

 

次回(第三十七回)

 

再召集(リ・コンヴィーン)

序盤のキャラで、最も印象深い登場人物は?

  • 中谷優奈
  • 鶴ケ崎麗菓
  • 月見里美香
  • 夢野あかり
  • 池谷大輝
  • 相場善秀
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