パズル&ドラゴンズ~もうひとつの旅~   作:葉之和 駆刃

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第37話 再召集〜リ・コンヴィーン〜(その参)

 中は暖房が効いており、美千子がいつものように皆に紅茶を入れる。そこで、ユウナに雅也が先ほどの話をした。

 

「まず、俺とこの二人が同じ高校だったんだよね」

 

 そして、真司と慎一郎を指す。

 

「で、卒業したあと、こいつらは同じ大学に進学して、二人とも横大路先生のゼミ受けてたんだって」

「そうだったんですね」

 

 ユウナは言うと、話をきいていたミカが言った。

 

「じゃあ、ユウナの先輩に当たるわけ?」

「ほんとじゃ、すごーい」

 

 アカリも感心している。しかし、真司がこう言った。

 

「まぁ、学科名は違うけどな」

 

 たしかに、ユウナは「パラダイス開発研究科」の第三期生であり、真司たちはユウナが入学する二年ほど前に卒業している。恐らく、その年に正彦によって新しく開設されたのだろう。そんな話をしていると、部屋に正彦が入ってきた。

 

「お父さん、皆揃っています。そろそろ話しますか?」

 

 真司は、正彦に言った。ユウナは周りを見ると、ほかにはアカネやヒロインの姿もある。正彦が前に進み出てくると、部屋にいる皆を見渡しながら言った。

 

「諸君、急に召集をかけてすまない。なぜ呼び出されたか、薄々気づいているだろう。私も、これで終わりにするつもりだ。君たちの自由を奪った償いは、必ずする。だから今は、話をきいてほしい」

 

 その場にいる全員は、何も言わずにただ黙ってそれをきいている。そして、正彦も話の続きを始める。

 

「実はこの間、このようなメールが届けられてね。宛先が書かれていないんだ」

 

 正彦はそう言うと、白衣のポケットから一枚の紙を取り出す。紙を広げると、書かれている内容を読み上げ始めた。

 

「『神に選ばれし勇者たちよ。今こそ、己の勇気と誇りを信じ、セインツ・パラダイスの中の悪を滅ぼすのだ。火を操る者、木を愛する者、水の心を持つ者、光を解き放つ者、そして闇に生きる者。皆で協力し合い、この危機を乗り越えていってほしい。君たちになら、できると信じている』」

 

 正彦は、紙を再び折り畳んだ。

 

「ここに書かれていることは、恐らく君たちのことだろう。もう一度、ダンジョン攻略に力を貸してほしい。この通りだ!」

 

 正彦はそう言い、頭を下げた。ユウナはそれをきいて、すべてを理解した。正彦は今度こそ、あの世界を終わらせるつもりなのだということを。ダンジョンをすべてクリアしてしまえば、あの世界は自動的になくなってしまう。それでも、誰かに悪用されるのであれば、その方がよいだろう。ユウナは立ち上がり、

 

「教授。私は、最後の最後まで教授についていきたいです。だから、もう一度決心させてください。私は、あの世界でもう一度戦います」

 

 と言うと、正彦は顔を上げた。

 

「本当に、いいのか? 拒否権はあるんだぞ」

「……いえ、私もあの世界が大好きだから。これ以上、荒らされるのを黙って見ているなんてできません」

 

 すると、ミカとアカリも立ち上がった。

 

「ユウナがそこまで言うなら、あたしも戦う。どの道、あの世界がなくなっちゃうのは嫌だけど、悪用されるよりマシだから」

「うちも、そう思う。みんないるけん、大丈夫やと思う」

「ミカ……、アカリ……」

 

 ユウナが二人の方をふり向くと、二人もユウナを見て頷いた。そしてユウナは、レイカにも声をかけた。

 

「鶴ケ崎さんも、一緒に戦ってくれるよね?」

 

 しかし、レイカは誰とも目を合わせようとしない。それでもユウナは、いつかレイカも一緒に戦ってくれると信じた。自分たちにしかできない、そう思えたからかもしれない。それを見ていたミーサが、

 

「なぁ、くだらねえ友情ごっこいつまで続くんだ?」

 

 と言っているので、ミカがふり向いて言った。

 

「だったら、なんでいんのよ、あんた敵でしょ?」

「用事済んだから帰るよ」

 

 そう言うと、ミーサはSPの中に戻っていった。男性陣は、それを呆れながら見ていた。しかし、その時のユウナにとってはどうでもよかった。今は、あの世界を守る最善の策とは何かを考えていたのだった。

 

 その夜は、研究所の一室に泊まることになった。ユウナは、ミカやアカリと一緒の部屋で眠った。ユウナが寝ていると、その横でミカがぼやいた。

 

「そういえば、今日ってクリスマスイブじゃない? 全然忘れてたんだけど」

「うちも。ていうか、うちらもう大人じゃけん、関係ないよね」

 

 アカリも、そう答えていた。ユウナも、二人の会話をききながら、横になったまま目を開けていた。ミカはさらに、

 

「ハァ……、これからどうなっちゃうんだろ」

 

 と、呟く。どうやら、今後のことが気になって眠れないらしい。ユウナは体を起こすと、横を見てみた。すると、レイカの姿が見当たらない。同じ部屋で寝ていたはずなのだが、いつの間にかいなくなっていた。

 

「どったの?」

 

 不意に、ミカが尋ねてきた。

 

「ねぇ、鶴ケ崎さん知らない?」

「え、嘘。あ、ほんとだ、いない!」

「どこいったんじゃろね、レイカちゃん」

 

 二人も、ようやく気がついたようだ。ユウナは、少し心配になった。

 

「私、探してくる」

「え、やめときなって。今日だって戦う気ゼロだったじゃん。ほんと何なんだろね、あの態度」

 

 ミカはそう言うと、再び目を閉じていた。アカリも、探しにいく気はなさそうだ。それでも、ユウナは探しにいくことにした。もしかしたら、帰ってしまったのかもしれない。真夜中に若い女性が一人で出歩くのは、治安的な意味で考えても危ない。

 

 廊下に出て、レイカがいないか確かめる。そして、ユウナは研究所の庭に出てみた。庭には、美千子が育てているらしき植物が植わってある。流石にひんやりとしており、今にも凍えそうだ。すると、庭先に人の影が見える。ユウナが近づくと、それはやはりレイカだった。レイカも、ユウナの気配に気づいたようだ。

 

「鶴ケ崎さん、風邪ひくよ? 一緒に、入ろう」

「放っておいてくれる?」

「え、でも……」

「私は、なんでこんなとこ連れてこられたのか、考えてただけ」

 

 レイカが言うので、ユウナは質問してみた。

 

「ねぇ。鶴ケ崎さんは、どう思ってるの? 教授の研究のこと」

「くだらないと思うわ」

 

 レイカは、あっさりと答えた。そして、こう続けた。

 

「でも、それであれだけ必死になれるなんてすごいと思う。逆に、尊敬に値するわ」

「鶴ケ崎さん……」

 

 ユウナはさらにレイカに近づくと、

 

「間違ってたら悪いけど、鶴ケ崎さんがここに来た理由って、お兄さんが教授の息子さんの友達だったから?」

 

 と、きいた。

 

「そういうわけじゃないけど」

「じゃあ、どうして?」

「あまりにしつこく言ってきたから、仕方なく来てあげただけ。だから、勘違いしないで。私は、あなたたちと一緒に戦うつもりなんてない。明日にでも、帰るから」

 

 レイカはそうとだけ言うと、一人で中に入ってしまった。ユウナは、しばらくその場で星空を眺めていた。悠二郎の実家で見た星空とは、やはり少し違った。

 

 

 翌日になり、ユウナたちはまた正彦に呼ばれた。その前に、少しだけ悠二郎と話をした。悠二郎がユウナに、

 

「昨晩は、バタバタしちゃって話せなかったけど、母さんから逃げる時、大きな音がしただろ? あれ、実は姉貴に頼んだんだ」

 

 と、言うのだ。

 

「お姉さんに?」

「ユウナには借りがあるからって、あっさりオッケーもらったよ。母さん、絶対に連れ戻そうとすると思ったから、ちょっと仕掛けを施したんだ」

 

 悠二郎の話によると、千年が大きな缶をバチで叩き、悠二郎自身は近くの山に花火を仕掛けに行ったのだという。自分のためにそこまでしてくれたのかと、ユウナは内心驚いた。すると悠二郎は、

 

「ユウナが、あの教授が創った世界を必死に守ろうと思ってることは、みんなわかってると思う。だから、俺も反対はしないつもりだった。でも、もしユウナが危険な目に遭ったらって思うと、恐ろしくて夢にまで見るんだよ」

 

 そう言った。それをきいたユウナは、悠二郎の手を握った。

 

「大丈夫です。教授も、危なくなったら手は打ってくれるはずです。だから、悠二郎さんは安心してください」

「……わかった。守れるといいな」

「はい」

 

 悠二郎の言葉をきき、ユウナは嬉しくなった。その後、正彦の部屋に向かった。

 

 正彦は、前にSP全体のマップを広げながら言った。

 

「これにて、ダンジョン攻略の順序を説明する」

 

 部屋には、ユウナ、ミカ、アカリの三人がいた。やはり、レイカは来ていない。アカリは部屋を見渡しながら、

 

「レイカちゃん、やっぱりおらんね」

 

 そう言っていると、

 

「だから、もう放っておきなさいって。私らだけで何とかすればいいんじゃない?」

 

 と、ミカも言うのだった。ユウナも、もう何も言わないことにした。余計なことを口に出せば、ミカたちからも疎まれるかもしれない。周りが静かになるのを見計らい、正彦は口を開いた。

 

「では、まず入り口に一番近い第三エリアと第四エリアを、二人に攻略してもらいたい。そしてユウナ君は……」

 

 その時、ユウナのスマホが鳴った。出て行く前に正彦に預けたスマホを、昨夜に返してもらっていたのだ。ユウナは立ち上がり、正彦に言った。

 

「すみません、失礼します」

「あ、あぁ」

 

 ユウナはそれを持って、部屋を出た。研究所の外に出ると、スマホの画面を確かめた。そこには、『相場善秀』と表示されている。

 

「相場君……?」

 

 それは、高校時代にクラスメイトだった相場からだった。いったい何の用なのだろうかと不安に思いつつ、ユウナはその電話に出た。

 

「もしもし、相場君?」

『あ、中谷。よかった、繋がった。久しぶりだな』

「あ、うん。久しぶり……、どうしたの?」

『あぁ、いや……。元気、してるか?』

「うん……、なんとか。相場君は?」

『あぁ、こっちもなんとか……』

 

 話し口調からしても、少し不自然だった。ユウナは、思いきって尋ねた。

 

「ひょっとして、大事な話があるの?」

『あ、あぁ……。でも、やっぱりいい。また、今度かけるから』

「でも、気になるよ。教えて。……相場君?」

 

 しばらく、相場は何も言わなかった。それは、何かを隠しているように思えた。そして、ついに電話越しに相場の声が流れる。

 

「中谷……。これから話すことは、残念だけど本当なんだ」

「何のこと?」

 

 そしてまた、沈黙が流れる。数秒後、ユウナの耳に予期せぬ言葉が飛びこんできた。

 

「大輝が……」

「大ちゃんが、何?」

「……、死んだ」

 

 その瞬間、ユウナの頭の中が真っ白になった。

 

「嘘……、だよね? 相場君、何言ってるの?」

「研修中に、本当に火災が発生してさ、食料係のお婆さんがまだ中にいて、それを大輝が助けにいったんだ。それで、倒れてきた壁の下敷きになって……」

 

 −−−−−−−−ポトッ

 ユウナの足元に、スマホが落ちた。ユウナは、そのまま走り去った。

 

『中谷? 中谷!』

 

 相場は、ユウナのことを呼んだが、もちろん返事はない。その時、そのスマホを拾った者がいた。レイカである。レイカは、ユウナが走っていった方を、ただ見つめていた。

 

 ユウナはその後、建物の側に蹲った。言うまでもなく、相場からきかされたことがどうしても信じられなかったのだ。その時、大輝の声がふと脳裏に蘇る。

 

『ここに何か埋めようぜ!』

『俺とお前の、友情の証』

『何かあったら、絶対俺に言えよ。俺が守ってやるから』

『昔は俺がついていないと何もできなかったけど、今はちゃんと自分の考え持って、そんなお前見てると俺、なんか嬉しくなって……』

『ごめん。俺、彼女作ったことないからさぁ、こんな時、どう返事したらいいのかわかんねえんだ。ごめんな』

『俺は、あんたとは違う。大切なもののためなら、死に物狂いで取り返しに行く』

『じゃあな、頑張れよ』

 

 そしてユウナは、声を殺して泣いたのだった。

 

 

第三十七回「再召集(リ・コンヴィーン)」終

 

 

 

次回予告

ユウナ「大ちゃん、みんな来てるよ。同じクラスになった人たち、部活で一緒だった人たちも、みんな大ちゃんを送り出そうとしてる。だから、安心して。こっちのことは、心配しないでいいから。私も、もう十分強いから」

ミカ「バカじゃないの!? 残された人の身にもなりなさいよ!」

  「一緒に行こう。お葬式」

百合子「あなたに知ってほしかった。遠くにいても、ちゃんと見てくれてる人がいたんだってことを」

悠二郎「ユウナが今、どんな気持ちで東京にいるか考えて言ってんのかよ!」

ユウナ「リカ?」

   「みんな大ちゃんのことが大好きなんだよ。だから、安心して見守っててね」

 

 

 

次回(第三十八回)

 

友の涙(フレンズ・ティアーズ)

序盤のキャラで、最も印象深い登場人物は?

  • 中谷優奈
  • 鶴ケ崎麗菓
  • 月見里美香
  • 夢野あかり
  • 池谷大輝
  • 相場善秀
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