中は暖房が効いており、美千子がいつものように皆に紅茶を入れる。そこで、ユウナに雅也が先ほどの話をした。
「まず、俺とこの二人が同じ高校だったんだよね」
そして、真司と慎一郎を指す。
「で、卒業したあと、こいつらは同じ大学に進学して、二人とも横大路先生のゼミ受けてたんだって」
「そうだったんですね」
ユウナは言うと、話をきいていたミカが言った。
「じゃあ、ユウナの先輩に当たるわけ?」
「ほんとじゃ、すごーい」
アカリも感心している。しかし、真司がこう言った。
「まぁ、学科名は違うけどな」
たしかに、ユウナは「パラダイス開発研究科」の第三期生であり、真司たちはユウナが入学する二年ほど前に卒業している。恐らく、その年に正彦によって新しく開設されたのだろう。そんな話をしていると、部屋に正彦が入ってきた。
「お父さん、皆揃っています。そろそろ話しますか?」
真司は、正彦に言った。ユウナは周りを見ると、ほかにはアカネやヒロインの姿もある。正彦が前に進み出てくると、部屋にいる皆を見渡しながら言った。
「諸君、急に召集をかけてすまない。なぜ呼び出されたか、薄々気づいているだろう。私も、これで終わりにするつもりだ。君たちの自由を奪った償いは、必ずする。だから今は、話をきいてほしい」
その場にいる全員は、何も言わずにただ黙ってそれをきいている。そして、正彦も話の続きを始める。
「実はこの間、このようなメールが届けられてね。宛先が書かれていないんだ」
正彦はそう言うと、白衣のポケットから一枚の紙を取り出す。紙を広げると、書かれている内容を読み上げ始めた。
「『神に選ばれし勇者たちよ。今こそ、己の勇気と誇りを信じ、セインツ・パラダイスの中の悪を滅ぼすのだ。火を操る者、木を愛する者、水の心を持つ者、光を解き放つ者、そして闇に生きる者。皆で協力し合い、この危機を乗り越えていってほしい。君たちになら、できると信じている』」
正彦は、紙を再び折り畳んだ。
「ここに書かれていることは、恐らく君たちのことだろう。もう一度、ダンジョン攻略に力を貸してほしい。この通りだ!」
正彦はそう言い、頭を下げた。ユウナはそれをきいて、すべてを理解した。正彦は今度こそ、あの世界を終わらせるつもりなのだということを。ダンジョンをすべてクリアしてしまえば、あの世界は自動的になくなってしまう。それでも、誰かに悪用されるのであれば、その方がよいだろう。ユウナは立ち上がり、
「教授。私は、最後の最後まで教授についていきたいです。だから、もう一度決心させてください。私は、あの世界でもう一度戦います」
と言うと、正彦は顔を上げた。
「本当に、いいのか? 拒否権はあるんだぞ」
「……いえ、私もあの世界が大好きだから。これ以上、荒らされるのを黙って見ているなんてできません」
すると、ミカとアカリも立ち上がった。
「ユウナがそこまで言うなら、あたしも戦う。どの道、あの世界がなくなっちゃうのは嫌だけど、悪用されるよりマシだから」
「うちも、そう思う。みんないるけん、大丈夫やと思う」
「ミカ……、アカリ……」
ユウナが二人の方をふり向くと、二人もユウナを見て頷いた。そしてユウナは、レイカにも声をかけた。
「鶴ケ崎さんも、一緒に戦ってくれるよね?」
しかし、レイカは誰とも目を合わせようとしない。それでもユウナは、いつかレイカも一緒に戦ってくれると信じた。自分たちにしかできない、そう思えたからかもしれない。それを見ていたミーサが、
「なぁ、くだらねえ友情ごっこいつまで続くんだ?」
と言っているので、ミカがふり向いて言った。
「だったら、なんでいんのよ、あんた敵でしょ?」
「用事済んだから帰るよ」
そう言うと、ミーサはSPの中に戻っていった。男性陣は、それを呆れながら見ていた。しかし、その時のユウナにとってはどうでもよかった。今は、あの世界を守る最善の策とは何かを考えていたのだった。
その夜は、研究所の一室に泊まることになった。ユウナは、ミカやアカリと一緒の部屋で眠った。ユウナが寝ていると、その横でミカがぼやいた。
「そういえば、今日ってクリスマスイブじゃない? 全然忘れてたんだけど」
「うちも。ていうか、うちらもう大人じゃけん、関係ないよね」
アカリも、そう答えていた。ユウナも、二人の会話をききながら、横になったまま目を開けていた。ミカはさらに、
「ハァ……、これからどうなっちゃうんだろ」
と、呟く。どうやら、今後のことが気になって眠れないらしい。ユウナは体を起こすと、横を見てみた。すると、レイカの姿が見当たらない。同じ部屋で寝ていたはずなのだが、いつの間にかいなくなっていた。
「どったの?」
不意に、ミカが尋ねてきた。
「ねぇ、鶴ケ崎さん知らない?」
「え、嘘。あ、ほんとだ、いない!」
「どこいったんじゃろね、レイカちゃん」
二人も、ようやく気がついたようだ。ユウナは、少し心配になった。
「私、探してくる」
「え、やめときなって。今日だって戦う気ゼロだったじゃん。ほんと何なんだろね、あの態度」
ミカはそう言うと、再び目を閉じていた。アカリも、探しにいく気はなさそうだ。それでも、ユウナは探しにいくことにした。もしかしたら、帰ってしまったのかもしれない。真夜中に若い女性が一人で出歩くのは、治安的な意味で考えても危ない。
廊下に出て、レイカがいないか確かめる。そして、ユウナは研究所の庭に出てみた。庭には、美千子が育てているらしき植物が植わってある。流石にひんやりとしており、今にも凍えそうだ。すると、庭先に人の影が見える。ユウナが近づくと、それはやはりレイカだった。レイカも、ユウナの気配に気づいたようだ。
「鶴ケ崎さん、風邪ひくよ? 一緒に、入ろう」
「放っておいてくれる?」
「え、でも……」
「私は、なんでこんなとこ連れてこられたのか、考えてただけ」
レイカが言うので、ユウナは質問してみた。
「ねぇ。鶴ケ崎さんは、どう思ってるの? 教授の研究のこと」
「くだらないと思うわ」
レイカは、あっさりと答えた。そして、こう続けた。
「でも、それであれだけ必死になれるなんてすごいと思う。逆に、尊敬に値するわ」
「鶴ケ崎さん……」
ユウナはさらにレイカに近づくと、
「間違ってたら悪いけど、鶴ケ崎さんがここに来た理由って、お兄さんが教授の息子さんの友達だったから?」
と、きいた。
「そういうわけじゃないけど」
「じゃあ、どうして?」
「あまりにしつこく言ってきたから、仕方なく来てあげただけ。だから、勘違いしないで。私は、あなたたちと一緒に戦うつもりなんてない。明日にでも、帰るから」
レイカはそうとだけ言うと、一人で中に入ってしまった。ユウナは、しばらくその場で星空を眺めていた。悠二郎の実家で見た星空とは、やはり少し違った。
翌日になり、ユウナたちはまた正彦に呼ばれた。その前に、少しだけ悠二郎と話をした。悠二郎がユウナに、
「昨晩は、バタバタしちゃって話せなかったけど、母さんから逃げる時、大きな音がしただろ? あれ、実は姉貴に頼んだんだ」
と、言うのだ。
「お姉さんに?」
「ユウナには借りがあるからって、あっさりオッケーもらったよ。母さん、絶対に連れ戻そうとすると思ったから、ちょっと仕掛けを施したんだ」
悠二郎の話によると、千年が大きな缶をバチで叩き、悠二郎自身は近くの山に花火を仕掛けに行ったのだという。自分のためにそこまでしてくれたのかと、ユウナは内心驚いた。すると悠二郎は、
「ユウナが、あの教授が創った世界を必死に守ろうと思ってることは、みんなわかってると思う。だから、俺も反対はしないつもりだった。でも、もしユウナが危険な目に遭ったらって思うと、恐ろしくて夢にまで見るんだよ」
そう言った。それをきいたユウナは、悠二郎の手を握った。
「大丈夫です。教授も、危なくなったら手は打ってくれるはずです。だから、悠二郎さんは安心してください」
「……わかった。守れるといいな」
「はい」
悠二郎の言葉をきき、ユウナは嬉しくなった。その後、正彦の部屋に向かった。
正彦は、前にSP全体のマップを広げながら言った。
「これにて、ダンジョン攻略の順序を説明する」
部屋には、ユウナ、ミカ、アカリの三人がいた。やはり、レイカは来ていない。アカリは部屋を見渡しながら、
「レイカちゃん、やっぱりおらんね」
そう言っていると、
「だから、もう放っておきなさいって。私らだけで何とかすればいいんじゃない?」
と、ミカも言うのだった。ユウナも、もう何も言わないことにした。余計なことを口に出せば、ミカたちからも疎まれるかもしれない。周りが静かになるのを見計らい、正彦は口を開いた。
「では、まず入り口に一番近い第三エリアと第四エリアを、二人に攻略してもらいたい。そしてユウナ君は……」
その時、ユウナのスマホが鳴った。出て行く前に正彦に預けたスマホを、昨夜に返してもらっていたのだ。ユウナは立ち上がり、正彦に言った。
「すみません、失礼します」
「あ、あぁ」
ユウナはそれを持って、部屋を出た。研究所の外に出ると、スマホの画面を確かめた。そこには、『相場善秀』と表示されている。
「相場君……?」
それは、高校時代にクラスメイトだった相場からだった。いったい何の用なのだろうかと不安に思いつつ、ユウナはその電話に出た。
「もしもし、相場君?」
『あ、中谷。よかった、繋がった。久しぶりだな』
「あ、うん。久しぶり……、どうしたの?」
『あぁ、いや……。元気、してるか?』
「うん……、なんとか。相場君は?」
『あぁ、こっちもなんとか……』
話し口調からしても、少し不自然だった。ユウナは、思いきって尋ねた。
「ひょっとして、大事な話があるの?」
『あ、あぁ……。でも、やっぱりいい。また、今度かけるから』
「でも、気になるよ。教えて。……相場君?」
しばらく、相場は何も言わなかった。それは、何かを隠しているように思えた。そして、ついに電話越しに相場の声が流れる。
「中谷……。これから話すことは、残念だけど本当なんだ」
「何のこと?」
そしてまた、沈黙が流れる。数秒後、ユウナの耳に予期せぬ言葉が飛びこんできた。
「大輝が……」
「大ちゃんが、何?」
「……、死んだ」
その瞬間、ユウナの頭の中が真っ白になった。
「嘘……、だよね? 相場君、何言ってるの?」
「研修中に、本当に火災が発生してさ、食料係のお婆さんがまだ中にいて、それを大輝が助けにいったんだ。それで、倒れてきた壁の下敷きになって……」
−−−−−−−−ポトッ
ユウナの足元に、スマホが落ちた。ユウナは、そのまま走り去った。
『中谷? 中谷!』
相場は、ユウナのことを呼んだが、もちろん返事はない。その時、そのスマホを拾った者がいた。レイカである。レイカは、ユウナが走っていった方を、ただ見つめていた。
ユウナはその後、建物の側に蹲った。言うまでもなく、相場からきかされたことがどうしても信じられなかったのだ。その時、大輝の声がふと脳裏に蘇る。
『ここに何か埋めようぜ!』
『俺とお前の、友情の証』
『何かあったら、絶対俺に言えよ。俺が守ってやるから』
『昔は俺がついていないと何もできなかったけど、今はちゃんと自分の考え持って、そんなお前見てると俺、なんか嬉しくなって……』
『ごめん。俺、彼女作ったことないからさぁ、こんな時、どう返事したらいいのかわかんねえんだ。ごめんな』
『俺は、あんたとは違う。大切なもののためなら、死に物狂いで取り返しに行く』
『じゃあな、頑張れよ』
そしてユウナは、声を殺して泣いたのだった。
第三十七回「
次回予告
ユウナ「大ちゃん、みんな来てるよ。同じクラスになった人たち、部活で一緒だった人たちも、みんな大ちゃんを送り出そうとしてる。だから、安心して。こっちのことは、心配しないでいいから。私も、もう十分強いから」
ミカ「バカじゃないの!? 残された人の身にもなりなさいよ!」
「一緒に行こう。お葬式」
百合子「あなたに知ってほしかった。遠くにいても、ちゃんと見てくれてる人がいたんだってことを」
悠二郎「ユウナが今、どんな気持ちで東京にいるか考えて言ってんのかよ!」
ユウナ「リカ?」
「みんな大ちゃんのことが大好きなんだよ。だから、安心して見守っててね」
次回(第三十八回)
「
序盤のキャラで、最も印象深い登場人物は?
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中谷優奈
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鶴ケ崎麗菓
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月見里美香
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夢野あかり
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池谷大輝
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相場善秀