二人は近くの定食屋で食べることになり、その日は、ユウナが相場に奢ることにした。
「いいのか? 俺の分まで払ってもらって」
食べ終わったあと、相場がきいてくるので、ユウナは言った。
「いいの。相場君、覚えてる? 初めて二人きりで出かけた時、レストランで食事したの」
「あぁ、覚えてる。あの時は、ほんとにごめんな」
「まだ気にしてたんだ……。でも、私はそれで相場君を恨んだりとかしてないよ。あの時は、ちょっとビックリしたけど、でも、ほんとに何も気にしてないから。だから相場君も、もう気にしないで」
「そうか……。けど、あのおかげで大輝のやつを怒らせちまったけどな」
「私も、あんなに怒った大ちゃん初めて見たよ」
ユウナが懐かしそうに言うと、相場も笑った。
「けどあいつは、昔からほんとに世話焼きだったよな。なんか、ほかの奴らにも頼りにされてなかったっけ」
「大ちゃんは、頼られる存在だったから」
ユウナが言ってすぐ、相場の顔が少しだけ曇ったように見えた。それを見逃さなかったユウナは、
「相場君? どうしたの?」
と尋ねると、相場も気づいた。
「あ、いや。何でもない」
「そっちは、やっぱりお仕事とか大変なの? 相場君も、救命士だったよね?」
「あぁ、うん。ちょっと大変だけど、訓練とか。でも、一応なんとかなってる。まだまだ、あいつには及ばないかもだけど」
「あいつって、大ちゃんのこと?」
「あぁ。俺、あいつの分まで成果を出そうと思ってるんだ。そうでなきゃ、あいつに面目が立たないからな」
「相場君らしいね……」
そして、また沈黙が流れる。その時にユウナは、相場の様子がおかしいことに気づく。
「相場君、ほんとに何もないの?」
ユウナが声をかけると、相場は思いきったように話し始めた。
「そういえば、あの時、お前が落としたケータイ、鶴ケ崎が拾ってくれたみたいでさ」
「そう、みたいだね。鶴ケ崎さんにも、お礼を言いたかったの。でも、来てるのかどうかもわからないし……」
「来てるよ」
「えっ?」
相場の言葉に、ユウナは言葉を詰まらせる。そして、相場は続けた。
「実はあの時、あいつとも少し話したんだ。大輝がいない分、これからは俺がユウナを励ましてやれって、そう言われた。それに、葬式にも行くつもりだって言ってたから」
「そう、だったんだ……」
ユウナは、下を向いた。あのレイカが、そのようなことを言うなど意外だった。それ故に、ユウナにとっては嬉しさもある。すると、相場がまた話しかけてきた。
「あの、なかた……、喜多村」
「中谷でいいよ」
「中谷、実は……」
相場が言いかけると、相場の電話が鳴った。相場が電話に出ると、それは西城からで、早く来いとのことだった。相場が返事をして電話を切ると、ユウナに告げた。
「悪い。俺、もう行くわ」
「うん。気をつけてね」
ユウナも答えると相場は、
「あぁ。じゃあ、また後でな」
と言い、店を出ていった。それを、ユウナも笑顔で見送った。それにしても、ユウナは頭の中で何かが引っかかるような感覚を覚えた。相場は、いったい何を言おうとしていたのだろうか。考えているうち、次第にモヤモヤとした気分になっていった。
一方、ダークネス・キャッスルでは、サタールがSP侵略の見取図を示していた。
「オケアーノ大瀑布、そしてヒュペリオ溶岩河に、それぞれボスモンスターを配置した。そのほかにも、様々なモンスターを生成しているところだ。お前たちには、エリアごとの監視をしてもらいたい」
サタールは、地図を示しながらフギンとミーサに命じた。フギンは、
「よっしゃ。ついに俺の出番ってわけですかい」
と乗り気で言うが、ミーサは不満そうな顔をしている。
「それって結局、アンタが破壊したいだけじゃん。俺たちはあいつらに何の恨みも持ってないんだけど」
「ほぅ、お前がそんなことを言うなんて珍しい。庇っているのか? 奴らを」
「べつにそんなんじゃねえよ。どっちかっつーと、いけ好かねえけどな」
「ならば、何も気にすることなどない。もうすぐ、この計画も達成される。そうなれば、この世界には用はない。私は、あの男に私と同じ運命を辿らせることさえできれば、それでいいと思っている」
サタールが言うと、また不気味に笑った。フギンも、
「じゃあ、それが終わったら好きにさせてくれんのか?」
ときくとサタールは、
「あぁ、約束しよう」
そう答えた。何を考えているのか、二人にもわからない。しかし、これだけはわかった。この男は、必ず正彦を潰しにかかるのだと。それまでは何としてでも従うしかない、そう思ったのである。
その頃、正彦も必死にキーボードを叩き、新しい対策ソフトを生み出していた。ユウナたちが戻ってくるまでに、少しでも時間稼ぎをしておかなければならない。その一心で、休む間もなく研究室に籠りきりだった。
美千子も、正彦がまたいつ倒れるかわからないため、リビングのテーブルに座り、手で顔を覆い、そればかりを考えていた。その部屋に、アカネとヒロインが入ってきた。それを見て美千子は立ち上がり、二人にきいた。
「どうだったの? あの人は」
すると、二人は首を横に振った。
「今行ったら、部屋に鍵がかかってて……。また、部屋にこもってしまったみたいです」
「教授、先輩たちが帰ってくるまで、敵の出方を窺うらしくて……」
「もう、何回言ったらわかってくれるのかしら」
美千子はひどく落胆したように、また椅子に尻を落とした。
「うちらもできるだけ説得してみますが、本人が大丈夫って言い張ってる以上、通用するかどうか……」
アカネが言ったあと、ヒロインと顔を見合わせた。それを見た美千子は、また深く溜息を吐く。そこへ、真司が駆けこんできた。
「母さん」
「どうしたの?」
「今、龍山大のホームページへのアクセスが遮断されています」
「えっ?」
真司はそう言うと、三人にノートパソコンの画面を見せる。真司がアクセスしてみせると、「只今このページは表示できません」というメッセージのみが表示された。アカネは、それを見て何かを察したのか、こう言うのだった。
「これ、ただの通信障害ではなさそうですね」
「どういうこと?」
「たぶん誰かが、故意的に障害を発生させてるとしか……」
その言葉に、ヒロインもハッと何かわかったような顔をする。
「それじゃ、教授の弟さんが……?」
「たぶん、そうやと思う」
アカネは答えた。すると、美千子が真司に尋ねた。
「そのほかのページは、いつも通り表示できるのよね?」
「えぇ。でも、龍山に関するページだけが、同じく封鎖されています」
「どういうつもりなんやろ……。SPだけが狙いやったら、そんなんせんでもいいと思うねんけど……」
「龍山にも、恨みがあるってことですかね?」
アカネが呟いている横で、ヒロインも言った。
「とにかく、これを父さんに報告してきます。これ以上、被害を広げないためにも、対策を考える必要がありますから」
真司はそう言ってパソコンを持ったまま、部屋を出ていこうとした。それを、美千子が呼び止める。
「あぁ、でもあの人の部屋は今は入れないわよ!」
それをきくと真司はふり向き、美千子に微笑んだ。
「大丈夫です。マスターキーぐらい、持っていますよ」
真司が出ていったあと、美千子たちはこれからのことを案じていたのだった。あの世界は、どのような未来を迎えるのだろうかと。
一方、ユウナは葬式会場に戻ってきていた。大輝の遺族への挨拶を済ませ、一度実家に戻ろうかと思っていた時、また誰かから声をかけられた。
「ユウナちゃん?」
ユウナはその声に反応し、ふり返った。何度もきき覚えのある、それでいてどこか懐かしいような、そんな声の主はリカだった。優しい目で、ユウナのことを見つめてくる。
「リカも、来てたんだね」
「うん。私も、一応クラスメイトだったから……」
「でも、嬉しいよ。また、会えるなんて」
ユウナが言うと、なぜだかリカは悲しそうな顔をした。それは、必死に涙を堪えているようにも見えた。そして、ユウナの前まで走ってくると、ユウナに抱きついた。
「リカ? どうしたの?」
ユウナは驚き、リカに尋ねた。すると、リカは言った。
「ユウナちゃん……、我慢せずに泣いていいんだよ。ユウナちゃん、ずっと池谷君のこと好きだったんでしょ?」
「えっ……」
「さっき、そこでミカちゃんたちと会ってきいたの。だから……、だから、泣いてもいいんだよ」
リカの声は、次第に震えていた。本気で自分のことを気にかけてくれている、それだけでユウナは嬉しく思った。リカの優しさを、全身で受け止めようとも思った。
「ありがとう。でも、私は全然我慢なんかしてないよ。もちろん、大ちゃんがいなくなるのは寂しい。でも、ずっと泣いてたら前に進めなくなると思うから」
ユウナが言うと、リカは離れた。腫れた目で、ユウナのことを見つめている。それを見ながら、ユウナは続けた。
「でも、リカの気持ちは嬉しかった。ありがとう」
そして今度は、ユウナの方がリカを抱きしめた。その時、リカは声を詰まらせながら泣いていた。ユウナ自身、我慢していないというのが嘘だということは自覚している。それでいて、リカをこれ以上心配させたくなかったのだ。必死に歯を食い縛り、泣くのを我慢した。やがて、会場を出入りする人数も少なくなっていた。
その後、ユウナは一度実家に戻った。ユウナがソファーに座っていると、百合子がアルバムを持ってきて言った。
「今日のクラス会、参加するの?」
「うん、みんな行くって言ってるし」
「じゃあ、これを持って行きなさい」
百合子は、ユウナの手前に一冊のアルバムを置いた。ユウナはページを開くと、そこには幼稚園のころのユウナが写っていた。曇った表情をしているユウナの隣で、明るい笑顔の少年がいる。大輝だ。ユウナはそれを見て、懐かしくなった。もう、十八年ほども前になるだろうか。懐かしそうにページを捲っていくユウナを、隣から百合子も見つめていた。
そこに、父の惟英も入ってきた。
「部屋にこんなものがあったぞ」
惟英が持ってきたのは、薄汚れたゲーム機だった。
「何よ、それ」
百合子は、呆れたようにきいた。すると、惟英が言った。
「ユウナ、これに見覚えはないか?」
ユウナは、それをじっと見つめる。そして気づいた。十数年前に福引で当てたゲーム機。昔、これで大輝と遊んだことがあるのだ。ユウナの中で、その光景が蘇る。
『あぁ、また負けた! やっぱお前には勝てないや。じゃあ、もう一勝負な!』
大輝はその後、ユウナに何度も勝負を挑んでは、返り討ちにされていた。ユウナは引きこもり時代、ゲームばかりやりすぎていたせいで、素人同然の大輝では相手にならなかったのだ。そんな回想をしていると、惟英が話した。
「これ、ユウナがずっと大事にしてたやつだもんな。いやぁ、懐かしい懐かしい」
それをきき、ユウナも穏やかな表情を浮かべていた。すると今度は、義輝が入ってきた。
「姉ちゃん。俺もクラス会参加していい?」
「うん、いいよ。ミカも、千花ちゃん連れてくるって言ってたし」
ユウナは、そう答えた。その後、ユウナはクラス会まで、そのゲームで遊んだ。一種のバトルゲームだ。プレイヤー同士、戦闘機を戦わせるのだ。ユウナは久々にプレイしたが、百合子や惟英では、やはり相手にならなかった。義輝とは互角の勝負だったが、それでもユウナには敵わなかった。
やがて時間が経ち、夕方になった。ユウナは義輝と一緒に家を出ると、クラス会が行われる定食屋に向かった。
「なんか、久々にやったけど楽しかったなぁ」
義輝は、歩きながらゲームをした感想を言った。そして、それに答えるようにユウナもこう言うのだった。
「でも、もう大人だから、ちょっと恥ずかしかったかも」
「だよなー」
「ところで、なんで一緒に行きたいなんて言い出したの?」
「あいつ、俺からしても、兄ちゃんみたいな存在だったじゃん? だから、ちょっとお礼言いたくなってさ。葬式の時、あんまり言えなかったから……」
「私も、たくさん話したいことがあるの。だから、ちょうどよかったかも」
ユウナはそう言うと、空を見上げる。空を、夕日に染まった雲たちが忙しなく流れていく。それは、まるで大輝が動かしているようだった。
序盤のキャラで、最も印象深い登場人物は?
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中谷優奈
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鶴ケ崎麗菓
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月見里美香
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夢野あかり
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池谷大輝
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相場善秀