ユウナとミカ、アカリは教室に戻ってきた。
「ほんっと、何なんだろうね、あの態度。思い出すだけであぁマジむかつく」
ミカ(
「でも、勉強できる人ってやっぱすごいけんね」
アカリ(夢野あかり)も、そう言いながら座った。
「でもさ、あれはちょっとないんじゃないの? 勝ちたいのは自分だけって、どこの名言だよ。人を下に見すぎじゃない?」
ミカは、相当腹が立っている様子だ。でもユウナは、腹が立つというよりも、レイカが哀れに思えた。レイカは幼い頃、母は仕事を優先させるため、家を出た。レイカはそのことがショックで、母に捨てられたのだと思いこみ、母を恨んだ。その母が、ユウナに心の内を話してくれたのだ。
『あの子は今も、許してくれていない。ずっと孤独だったの、私のせいで……』
それを聞いて、ユウナにはわかった。母の智美は、自分を許せないのだと。後悔してもしきれない、罪を償いたい気持ちはあるのだと。でもそうすることで、レイカとの間にできた深い溝は、また一段と深さを増すのではないかと、怖がっているということも。ユウナはそう考えた。考えれば考えるほど、ユウナは二人を救いたくなる。しかし、レイカはそれによって自ら孤独を選んだせいか、人を頼ろうとはしなくなってしまったのだ。
『私は今までほかの人を頼ったことなんてないわ。この先も絶対にない。私は、自分だけを信じて生きている。勝ちたいのは自分だけ。それ以外には興味を持てないの』
ユウナは、思った。自分が、二人を心の闇から助けだしてみせる。これは、「独り」という暗闇を経験した自分にしかできないことなのだと。もし誰にも助けられなかったら、自分は今も心の闇をさまよっていただろう。必ず、必ず、二人の溝を埋めたいとユウナは固く決心をした。
第三回
ユウナは、バスに一人で乗った。その中で、過ぎゆく景色を見ながらユウナは二人を引きあわせる方法を考えていた。でも、一向に思い浮かばない。説得してみても、レイカは絶対に受け入れないだろう。しかし、二人を対面させてみるのが一番の策だと思った。それにしても、まったく関係のない他人である自分が二人の中に入るのもどうかと思う気持ちもあった。なるべく自然な形で、二人を引きあわせたい。そのためには、何をすればよいのだろうか。考えているうちに、だんだんと眠くなってきた。
ユウナは眠気覚ましに、カバンからスマホを出した。そして、パズドラのアプリを開く。ユウナが適当にダンジョンを開こうとした時、「只今通信エラーが発生しております」というメッセージが表示された。ユウナはアプリを閉じようとした時、謎のブラックホールのようなものが文字の上に現れた。今まで、見たことのないエラーだった。ユウナは少し驚き、それを見つめていると、赤いモンスターがそのブラックホールから顔を出した。パズドラにおける、マスコットのようなモンスターだ。それはまるで、ユウナを見つめているようだった。ユウナは慌ててアプリを閉じ、もう一度恐る恐る開いてみた。そうすると、通常のようにダンジョンの一覧が表示され、謎のブラックホールはなくなっていた。
今のは一体何だったのだろう、と思っていると、バスはユウナの最寄りのバス停で停車した。ユウナはそれに気がつき、急いでバスを降りた。ユウナはしばらくそのことを考えていたが、特に気にすることなく歩きだした。
そして、その日はなんとなく公園に行ってみたくなった。ユウナは公園のベンチに腰かけ、ジャングルジムや滑り台で遊ぶ子どもたちを見ていた。そこで、ゆっくりレイカと智美のことを考えることにした。
しばらくして、子どもたちが砂場で砂を掘り、何かを埋めているのがユウナの視界に入ってきた。ユウナはそれを見ると、あることを思い出した。それは、小二の夏に幼馴染の大輝がユウナのゲームカセットを埋めたのだった。子どもたちが帰ると、ユウナはその場所に近づいた。ユウナは、場所を正確に覚えていた。しゃがみ込み、地面に手を伸ばした。しかし、ユウナはその手を止めた。あんなものを掘り返しても意味がないと思っていたのは、ユウナ自身だった。ユウナは立ち上がり、公園を後にして家に帰った。
ユウナが家に帰ると、百合子が出てきた。
「あら、遅かったわね」
百合子はそうとだけ言うと、リビングに入っていった。
ユウナは自分の部屋に行くと、電気をつけ、机に向かった。明日から、中間テスト三週間前となる。カバンから教科書を取り出すと、ページを開く。
しかし、なかなか集中できなかった。レイカのこともあるが、あのバスでの出来事が何より気になっていた。あれは一体何だったのか、ユウナはもう一度アプリを開くが、あれから何事もなく起動している。ふと時計を目にすると、六時半だった。いつもは五時には家に帰っているが、公園で時間を潰しすぎたと反省した。十月ともなれば日も短く、六時を過ぎれば外は真っ暗に近かった。やがて夕食のため、母がユウナを呼ぶ声がした。ユウナは黙って席を立ちあがり、一階へ降りた。
リビングで、百合子が二人分の夕飯を食卓に並べていた。
「
「今日、部活で食べて帰るって」
この日は、母と二人きりの夕食となった。あまり箸の進んでいないユウナを見て百合子は、
「どうしたの? あまり進んでいないようだけど」
と尋ねた。ユウナは、母にきいてみたいことがあった。ユウナは百合子を見つめ、
「ねぇ、お母さん」
と言うと百合子も、
「何?」
と、返事をした。
「もし、私と喧嘩したら、どうするかな。あ、いや、もしそうなったら、お母さん、何て言うかなって思って」
ユウナは急に恥ずかしくなり、下を向いた。すると百合子は、こう言った。
「まず、あなたのすべてを受け入れるわ」
「えっ?」
「ユウナの考え、言い分、すべてを受け入れ、間違ってると思ったら注意する。そして私の考えを明確にあなたに伝える。それをあなたが受け入れるかは、別問題だけどね。話しあわないと、先に進めないと思うわ」
「お母さん……」
「本当に何もなかったの?」
ユウナは少しビクッとし、
「ううん、何も」
と言って立ち上がり、キッチンに水を取りに行った。すると玄関の扉が開き、
「ただいまー」
と言いながら、弟の義輝が帰ってきた。
「おかえり」
百合子も、それをきいて玄関の方に行った。
ユウナは、きけてよかったと思った。親というものは、いつどこで何をしていても、いざという時は助けてくれる。そう信じた。百合子が言ったことが、鶴ケ崎親子に通じなかったとしても、それはそれでいい。まずはやってみることが肝心だ、そう感じていた。今日ずっと自分を苦しめていた心のつかえが取れたような、ユウナはそんな感覚を覚えた。
寝る前に、帰宅途中で見た奇妙な現象がまた頭に浮かんだため、ユウナはまたアプリを開いたが、やはり何もなかった。多分、バグだったのだろうと自分に言い聞かせ、その日は寝ることにした。
次の日、学校では来週の体育祭に備え、それぞれどの種目に出場するか、クラスのホームルームで話しあいが行われた。体育委員が、前に出て黒板に名前を書いている。
「ユウナ、何出る?」
ミカが尋ねた。
「う〜ん。できれば、五十メートルとかがいいけど」
「あたしもー。相場君は何出るの?」
ミカが、隣にいた相場にも話しかけた。すると大輝が、
「お前はリレーアンカーだもんな!」
と、相場の肩に手を置いて言った。ユウナは、
「去年と一緒だね」
そう言うと、相場は少し恥ずかしそうに答えた。
「あぁ」
大輝が女子の体育員に呼ばれ、前に行った。ミカも自分の席に戻ると、相場がユウナに話しかけた。
「そういえば、こないだのリカからの手紙、何て書いてあった?いや、べつに嫌なら答えなくてもいいけど」
「あ、うん。元気にしてるって」
「そっか」
「相場君は……、どう思ってる? リカのこと」
ユウナは、何気に質問した。
「あぁ……。もう同じ学校じゃないからな。何て言えばいいんだろ、ちょっとわからないかな」
相場は、少し具合が悪そうに見えた。ユウナはそれを見ていると、
「中谷さん?」
と、不意に声をかけられた。ユウナはハッと気がつくと、女子体育委員の
「出たい種目決まった? まだ名前出てないの、あなただけよ」
「はい!」
ユウナは慌てて、希望する種目のところに名前を書きにいった。
放課後。ユウナはミカとアカリと学校横の公園に行った。前回説明した、「コンボ祭り」をやることにした。その日はアカリも部活が早く終わり、三人は公園で待ち合わせをした。外は、薄っすら暗くなっている。
「なんで十以上でないのよー」
ミカが、スマホを触りながら言った。すると、アカリが何かに気づいた。
「ねぇ、あれ……」
二人はそれを聞いて、ふり返った。公園の前を、レイカが歩いている。
「鶴ケ崎さん、部活終わったんかな?」
「あの子、電車?」
二人がそう言っていると、ユウナは智美のことを思い出した。智美はたしか、レイカの家から少し離れたアパートに住んでいると言っていた。そして、バスで終点まで乗っているとも言っていた。レイカが毎日電車で通っているのは、智美と顔を合わせたくないからかもしれないと、ユウナは直感的に思った。
「まぁいいや」
ミカがスルーしようとすると、ユウナはあることを思いついた。
「そういえば、鶴ケ崎さんってゲームとかやるのかな」
「いやー、やらないでしょ。あの顔で」
ミカは、そう言って笑った。
「でも、もしかしたら、パズドラぐらいやってるかも」
「ユウナちゃん、あの子もコンボ祭りに誘うん?」
「マジであの子誘うの?」
ミカは、反対するように言った。ユウナは、
「でも、きっと大勢でやったほうが楽しいし」
と言って、レイカを追いかけていった。
レイカが歩いていると後ろからユウナが、
「鶴ケ崎さん!」
と呼んだ。それをきいたレイカがふり返ると、ユウナはこう言った。
「あの、今から少し時間ある?」
「あるように見える?」
レイカの返事は、予想通りだった。
「あ……、ごめん。無理ならいいの。それより鶴ケ崎さん、パズドラって知ってる?」
「知ってるわ」
「でも……、まさかやってないよね」
「やってるけど」
「えっ?」
レイカは、まさかのパズドラユーザーだった。
「そうなんだ……。あ、今ね、ミカたちとコンボ祭りっていう遊びやってるんだけど。忙しいなら、ごめんね。じゃ、また学校で」
ユウナはそう言って戻ろうとすると、レイカは言った。
「べつに付きあってあげてもいいわよ」
レイカのその言葉は、完全に予想外だった。
「えっ?」
ユウナは驚きのあまり、ふり返ってレイカを見つめていた。
ユウナは、レイカを二人のところに連れていった。
「マジで連れてきたの?」
「ユウナちゃんすごーい」
ミカとアカリも、驚いているようだった。レイカは木の椅子に腰かけ、
「勘違いしないでね。今日はべつに帰ってすることもないし」
と言い、自分のスマホを出した。ユウナやミカと同じ、iPhoneだった。
「ルールは、さっき話したから」
ユウナは、ミカとアカリに伝えた。そして、四人はそれぞれパズルを動かした。
「うち、六コンボ!」
「やっと十コンボでたよ〜」
アカリに続き、ミカもそう言った。ユウナも、
「十三コンボ」
そう言って、二人に見せた。ミカが、
「どうやったらそんなにできんの? あ、鶴ケ崎さんは?」
と言って、レイカのスマホをのぞこうとした。するとレイカは、それを三人に向けた。ユウナたちの目に飛び込んできたのは、かつて見たことのない領域に達した映像だった。パズルがどんどん消え続け、数字が表示される。十八、十九、二十、二一、二二、二三……。三人は瞬きも忘れ、それに見入っていた。
「すごい……」
ユウナは、思わず呟いた。ミカも、
「二十コンボとか初めて見た」
そう呟いていた。
「これって、普通ダンジョンよね?」
アカリも、信じられない様子だ。普通のダンジョンだと、五色のドロップ+回復ドロップという構成である。でも中には、三色限定のダンジョンも存在し、三色+回復という構成である。それだと、比較的大コンボが起きやすいが、普通ダンジョンではそれらの大コンボは起きにくかった。
「どうやってやったの?」
ミカがきくとレイカはスマホをカバンに仕舞いながら、
「こんなの、予想すればどうにでもなるわ」
と言って立ち上がった。
「まずは、落ちてきやすいドロップの色を頭の中で分析するの。やってるうちにわかるわ。そして、縦に揃えるか、横に揃えるか、どうすればたくさん消すことができるのかを指を動かしながら考える。ま、つまりは数学とかと一緒で考えるのがコツね」
レイカはカバンを右肩にかけると、帰っていった。それを見ながらミカが、
「てゆうか、落ちてきやすい色とかあるの?」
と言っていた。ユウナは、レイカがパズドラをやっていた事実にも驚かされたが、考えながらプレーするということにも驚いていた。ゲームは、遊ぶためのものであり、考えながらやるなど、考えたこともなかったからだ。自分にとっては、勉強に疲れた後のほんの息抜きだった。しかし、レイカは勉強と同じように考えている。プレーする人によって、その役割は変わる。そういうことなのだろうか。
帰宅途中、改めてレイカの言葉を思い出す。今思えば、このゲームは縦に揃えるか、横に揃えるか、考えながらプレーするというものなのかもしれない。でもそれでは、あまり楽しめないとも思った。勉強から逃げ、息抜きのつもりでやっていたはずなのに、あの言葉をきいてから急にこのアプリを開けなくなってしまった。
序盤のキャラで、最も印象深い登場人物は?
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中谷優奈
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鶴ケ崎麗菓
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月見里美香
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夢野あかり
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池谷大輝
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相場善秀