女性が帰ると、ユウナはSPに足を運んだ。中では、ミカとアカリが退屈そうにしていた。
「これから、どうしよっか。ユウナがあれじゃ、ダンジョン攻略どころじゃなくない?」
「そうじゃね。うちら、これからどうなるんじゃろか」
二人はそのようなことを言いながら、ただ湖を眺めていた。湖では、様々なモンスターたちが、気持ちよさそうに泳いでいる。しばらくして、ミカが気づいた。
「ユウナ……?」
アカリも、それをきいてふり向くと、そこにはユウナが立っている。
「ユウナちゃん、どしたん?」
アカリは驚いている。すると、ユウナは話し始めるのだった。
「ごめん……、二人とも。私、今まで自分を見失ってた。大ちゃんが亡くなって、ここにいる意味もわからなくなってた。でも、思い出したの。私たちは、この世界を守るために来たの。それを、天国にいる大ちゃんに教えてもらった。だから、安心していいよ。私は、この世界を守りたいの!」
ユウナが言うので、二人はしばらく唖然としていた。そして、徐々に実感が湧いてきたのか、ミカが突然、ユウナに飛びついてきた。
「ミ、ミカ……?」
ユウナが驚いていると、ミカは言った。
「ほんとに、ほんとに心配してたんだから! このまま、戻ってこないんじゃないかって」
「ごめんね……」
ミカは泣いていた。すると、アカリも近よってきた。
「ユウナちゃん、みんな待っとったよ。だから、うちも嬉しい……」
「アカリ……」
アカリも、ユウナにすり寄ってきた。ユウナは、アカリを抱きしめた。二人は、ずっとユウナの帰りを待っていたのだ。顔を上げると、周りのモンスターたちもユウナの帰りを祝福しているようだった。それを見て、ユウナはまた気持ちを新たにするのだった。
その夜。寝室で、ユウナは悠二郎と話した。
「悠二郎さん。今まで心配かけて、ごめんなさい。そして、ありがとうございました」
ユウナが言うので、
「待って。その前に、確認しておきたいことがあるんだ」
と、悠二郎は言うのだった。
「今まで、俺に敬語使ってたのは、彼に遠慮していたからじゃないのか?」
ユウナはそれをきき、しばらく黙った。やはり、悠二郎には嘘をつけない。
「私、大ちゃんにも幸せになってほしかったんです。小さいころからずっと一緒にいるのに、私だけ幸せになっていいのかって、ずっと考えてました。考え方によっては、裏切りのような気もして……。素敵な女性と出会い、幸せな家庭を築くことを、彼も夢見ていたと思うんです。だから、少し罪悪感もあって、ずっと悠二郎さんに対して敬語だったのも、それが関係しているのではないかって……」
ユウナは、そっと顔を上げた。悠二郎も、微笑みながらユウナを見ている。
「じゃあ、もうやめてくれるか? きっと彼も、そんなことは望んでないと思う。自分が生きられなかった分、君にはこれからもライフを歩んでいってほしい、そう願っていると思う。だから、ギクシャクした関係は今日で終わりにしよう。お互いのためにも、そうした方がいい」
「悠二郎さん……」
ユウナは、涙ながらに悠二郎を見つめていた。そして、悠二郎はユウナを抱きしめた。ユウナも、泣きながら悠二郎の肩に額をくっつけていたのだった。これは、二人にとって本当の始まりだったのかもしれない。大輝が、大切なことを教えてくれた。そのことだけが、事実と言えるだろう。その後、二人はいつものように並んで眠るのだった。
一ヶ月後。ユウナはSPに入った。ユウナがセイントドアの前まで来ると、悠二郎が声をかける。
「今日も行くのかい?」
「うん。でも、夕方には帰れると思うから」
「じゃ、気をつけてね」
「うん!」
ユウナは元気よく悠二郎に言うと、SPの中に入っていった。それを悠二郎だけでなく、部屋の外からは雅也たちも見ていた。
「ユウナちゃん、すっかり元気になってよかったよ」
「また、調子が戻ってきたな」
「俺たちも、見習わなくちゃな……」
三人は、そんな会話をしていた。すると、真司が雅也にきいた。
「そういえばお前、妹とはどうなったんだよ」
「あ、いや。まぁ、なんとか……」
「ちゃんと話し合った方がいいんじゃないのか?」
「まぁな……」
真司が言うのをきいて、雅也は少しくぐもった表情を浮かべていた。雅也はあの日以来、レイカと話していなかったのだ。不意に、真司が言った。
「お前、昔っから不器用だもんな」
「そ、そんなことないぞ! 俺だって、なんとかしようと思ってるんだ……」
雅也が珍しく弱気な表情を見せるので、慎一郎も励ました。
「まぁ、無理に話しかけると、かえって関係が崩れることだってあるからな。適当に声をかけつつ、様子見た方がいいんじゃね?」
「それもそうだな」
雅也は笑顔になった。そこへ、ヒロインが慌ただしく走ってきた。部屋の前で中を覗いていた三人に、
「ちょっと、邪魔ですよ!」
と言うので雅也は、
「あぁ、ごめん」
そう言い、ドアの側から離れた。そしてヒロインは部屋に入ると、中にいる正彦と何か話しているようだった。それを、三人も笑顔で見ていた。
その頃、ダークネス・キャッスルではサタールが、フギンとミーサを呼んでいた。
「これから、お前たちに重大な任務を与える」
「何だよ、任務って」
ミーサが、また怪訝そうに尋ねる。しかし、サタールはなかなか答えない。
「もうじき、奴らとの最終決戦が始まる。きっと、奴らはまた、小賢しい手を打ってくるはずだ。お前たちは、できる限りの手を尽くし、奴らの動きを封じるのだ。無論、どんな手を使っても構わない」
サタールは言い終えると、奥の部屋に姿を消した。それを見ていたミーサは、隣にいたフギンに言った。
「なんか、あいつ最近変わったよな」
「お前も、そう思うか?」
フギンも、それは一緒だったらしい。
「伯父さん、本当に親父のこと嫌ってたのかな……」
ふと、ミーサがらしくないことを呟く。するとフギンが、
「どうだかね~。でも、故意で崖から落とそうとしたのは事実だ。それは、どうやっても変えられねえよ」
と言い、去ろうとした。それを、ミーサが呼び止める。
「でも、仮にこの世界が手に入ったとして、誰の得にもなんねえよ!」
「まぁ……、憂さ晴らしくらいにはなるだろ」
「あぁ……、たしかにな……」
ミーサが、納得したように呟いた。しかし、フギンはふり向くと、今度はミーサに質問するのだった。
「ほんとに、それだけが狙いだと思うか?」
「あ? どういうことだよ」
「いや、べつに……」
フギンは窓の前に立ち、笛を吹いた。すると、プテラドスが舞い降りてきた。フギンはそれに飛び乗ると、空高く舞い上がっていった。
「おい! 教えろよ!」
ミーサは窓から身を乗り出したが、もう手遅れだった。フギンは、もうどこかに行ってしまった。ミーサはその後、フギンが言った意味深長な言葉を、頭の中で繰り返し再生したが、一向に意味を理解できなかった。サタール、いや、自分の父親のしようとしていることが、いまいちわからなかったのだ。
一方、ユウナはミカやアカリとSPの中にいた。三人は丘の上に立ち、下を眺めていた。向こうの山から川が流れ、周りには無数の木が生えている。
「きれかね……」
アカリが呟いた。ユウナは、
「ここ、教授のお気に入りの場所なんだって」
と、二人に教えた。
「でもさ、ここがゲームの世界だなんて、未だに信じられないんだけど」
「うちも」
ミカとアカリは、そう話している。前にも言っていたが、本当にその通りだった。空が澄み渡り、雲が流れ、風が吹いている。とても仮想世界とは思えないほど、現実世界との区別がつかない。いや、現実世界よりも美しい場所と言えるだろう。三人はしばらくその景色に見とれていると、
「みんな、あっちでお茶しよう」
と、アカネが来て言った。三人も笑顔で、そこへ行った。ガーデンテラスで、美千子がカップを並べていた。そこには悠二郎や、真司の姿もあった。するとユウナは何かに気がつき、真司に尋ねた。
「あの、鶴ケ崎さんと雅也さんは?」
「あぁ。もうじき来るよ」
真司は、慎一郎と顔を見合わせるのだった。意味ありげなその行動に、ユウナは違和感を抱いたが、すぐにわかった。雅也も、レイカのことをとても大事に思っているのだと。
レイカが部屋のベッドに腰かけていると、誰かが戸をノックした。するとドアが開き、入ってきたのはやはり雅也だった。
「レイカ。みんな、ゲーム世界のガーデンテラスでお茶してるけど、お前も来ないか?」
雅也が言っても、レイカは何も答えない。
「なんだよ、機嫌直してくれよ」
そう言いながら、雅也はレイカの隣に座った。
「そろそろ、認めてあげたらどうだ?」
「何をよ?」
「彼女のこと。ほんとは、すごいと思ってるんだろ? 最初は俺も正直、なんで他人事にここまで真剣になれるんだろうって思ってたよ。でも、ある日突然、気づいたんだよね。こんな子がいてくれるから、こんなにも世界が安定するんだって。お前も、それにはもう気づいてるんじゃないのか? 今なら、解かり合えると思うぞ。じゃあ、先行ってるから。気が向いたら来てくれ」
雅也は立ち上がり、部屋を出ていった。レイカは、ずっとその様子を見つめていた。
雅也がSPに戻ってくると、
「まだ、やっぱり気持ちが落ち着かないみたいでさ……」
と言いながら、席に着いた。それを見たユウナは、雅也に言った。
「でも鶴ケ崎さん、本当はいい人なので。だから私も、少しずつ話していこうと思います。いつか、仲良くなりたいので……」
「うん、きっとなれるよ」
雅也も、そう言うと笑った。そうしていると、
「ちょっと、ユウナ!」
と、ミカが呼びかけてくる。ふと前を向くと、なんとレイカが立っていたのだ。
「鶴ケ崎さん……」
「……勘違いしないでくれる? 私はただ、気晴らしに来ただけだから」
レイカの言葉をきいて、ユウナは笑って答えた。
「うん。でも、ありがとう」
ユウナは、レイカにも紅茶を入れた。そして、レイカのテーブルに置いた。少しでも近づけるように、そんな願いを込めて、ユウナはレイカに微笑みかけていたのだった。
第三十九回「
次回予告
ミカ「教授のメールフォルダに、また変な脅迫メールが届いてたんだけど」
ユウナ「やっぱり、早く戻ったほうがいいんじゃないかな」
正彦「これは、ダンジョン攻略に役に立つようにと、私が開発したものだ」
アカリ「ユウナちゃんの優しさがあれば、きっと休んでくれるはずやけん」
ユウナ「お姉さん……」
千年「うちは、あんたをうちみたいにしたくなかっただけ」
悠二郎「ユウナはさ、あの人のどこに惹かれたの?」
ユウナ「相場君……?」
相場「お前を、絶対に悲しませたりはしない。約束する」
正彦「それぞれの属性を司る勇士たち、それらをフィフス・フォリアと呼ぶことにした」
雅也「お前も、自分の信じる道を行けよ」
正彦「どうだ、あの世界に住んでみないか」
次回(第四十回)
「
序盤のキャラで、最も印象深い登場人物は?
-
中谷優奈
-
鶴ケ崎麗菓
-
月見里美香
-
夢野あかり
-
池谷大輝
-
相場善秀