第40話 勇者の称号~タイトル・オブ・ブレイバー~(その壱)
「わ〜、きれい〜」
三人は丘の上から、花々できれいに彩られた地面を眺めていた。
「教授が、また創ったんだって」
ユウナが、ミカとアカリに説明した。正彦は、今でも自らの技術を生かし、新たな世界を開拓している。それは、誰が何と言おうと間違いなかった。
「やっぱりここ、現実世界とちょっと違うよね」
「そうだね。空気もきれいだしね」
ミカとアカリが、そんな会話をしている。すると、ミカがあることに気づいた。
「あれ? アカリ、方言じゃないの?」
「標準語、上手くなったじゃろ? あ……」
それをきき、ミカと一緒にユウナも笑っていた。そして、また丘の下を覗く。花が咲き乱れ、風に揺れている。それを見ながら、ユウナは正彦の偉大さを再確認する。この世界を壊そうとしているサタールとの決戦に向け、負けられないという意志が、ユウナの中でさらに芽生えつつあったのだ。
第四十回
2019年3月上旬、梅の蕾が大きくなっていた。ユウナたちは、あれから横大路研究所に泊まりこんでSPの中を調査し、そして順調にダンジョン攻略を進めていた。
この日も、三人はひとつのダンジョンを攻略し、研究室まで戻ってきていた。
「今日も、みんなご苦労だった。いやぁ、こんなにも順調だと、このまま上手くいきそうだよ」
正彦は、嬉しそうに話す。ミカも、
「特に、異常ありませんでした!」
と言いながら、敬礼する。それを、近くにいた美千子もフッと笑って見ていた。
「明日からも、よろしく頼む」
「はい」
「でも、ユウナちゃんたちも疲れてるんじゃない? しばらく、休ませてあげたら?」
不意に、美千子が口を挟んだ。たしかにここ数日、ユウナ、ミカ、アカリの三人はほぼ毎日調査に駆り出されている。一晩寝れば、体力は回復する。しかし、最近は一日で消費する体力が、一晩寝て回復する体力の量を少しばかり上回っている。そのため、回復が追いつけない。それを察し、美千子は正彦に提案したのだ。正彦も、それには賛同した。
「そうだな。じゃあ、しばらく休みをあげよう。温泉にでも入って、ゆっくり休息をとりなさい」
正彦が言うので、三人は嬉しそうに顔を見合わせていた。皆、SPが好きなため、毎日苦もなくダンジョンに行っているが、それでも休みは欲しい。それ故、正彦の配慮は少しばかり嬉しかったのだ。
部屋を出た三人は、廊下を歩きながら話し合った。
「ねぇ、どうする? 教授は温泉って言ってたけど」
ミカが、二人に言った。考えてみれば、急に休めと言われても、どこに行けばいいのかわからなくなってしまう。ユウナも、どこか休めそうな場所はないか考えていた。すると、アカリが言い出した。
「じゃあ、うちの実家くる?」
「えっ?」
「母ちゃんが、言っとったんよ。機会ができたら、友達を連れてきてって。うちもいつか、みんなを連れてこれたらいいな〜って、思いよったけん」
アカリが嬉しそうに話すのをきいて、ユウナとミカは顔を見合わせる。そして、
「じゃあ、そうしよっか!」
と、ミカは言った。ユウナも、そうすることにした。思えば、ミカの家に行ったことは何度かあるが、アカリの家にはまだ一度も行ったことがない。家が県外で、それも遠すぎるため、行く機会すらなかったのだ。それがここに来て、突如訪れた。人生、何があるかわからない。そう、ユウナは思うのだった。
三人は翌日から、一泊二日の予定を立て、アカリの実家に赴いた。アカリの家は愛媛県今治市にあり、ユウナの家と同じくらいの大きさの一軒家だった。アカリが扉を開け、
「ただいま〜! 友達、連れてきたけん!」
と、中に呼びかける。そして二人の方を向き、
「さ、入って!」
そう言って促した。二人も、
「お、お邪魔します」
と言いながら、中へ入った。入った瞬間、線香の匂いが鼻をつく。するとアカリの母、嘉代子が二人を出迎えた。
「あぁ、ようきたなぁ〜。さ、早よ上がり!」
二人もお辞儀し、三人は家の中に上がる。アカリは、二人を部屋へ案内した。その途中、ミカがユウナに小声で言った。
「優しそうなお母さんだね」
リビングまで来ると、そこには小さなテーブルがあった。
「ちょっと狭かろ。ごめんね、急に来るってきいたけん、準備できんかったんよ〜」
嘉代子は申し訳なさそうに、二人に言う。
「いえ、お構いなく」
ミカは、笑顔で答えた。アカリは、
「じゃあ、ちょっとお父さんに挨拶してくるけん!」
と言い、部屋を出ていった。アカリの父、政介は五年前に他界していた。それによって、アカリは折角受かった国立大学を中退し、仕事探しに必死だったと嘉代子は話した。
その話をきいて、ユウナは当時のアカリの心中を察した。どれほど辛かったか、安易に想像できるほどだった。
ユウナとミカも、仏間に言った。アカリが政介の遺影の前で、手を合わせている。二人もアカリの後ろに座り、一緒に手を合わせた。それに気づいたアカリがふり向き、
「二人とも、どうしたん?」
と尋ねると、ユウナは言った。
「私たちも、いいかな」
アカリも、それをきいて頷いた。
「……、うん」
そして、三人は再び手を合わせていた。その様子を、部屋の外から嘉代子も見ていた。それは、とても優しい表情だった。
その後、三人は近くの温泉に入った。お湯に浸かりながらミカが、
「はぁ〜。教授も優しいよね、こんな休みくれるなんてさ」
と、呟いた。
「でも、教授は大丈夫なんかな……」
アカリも、心配そうに呟く。前に倒れた時も、あれはきっと過労だったのだろう。正彦にも、しっかりと休みを取らせるべきだとユウナは思った。
「じゃあ、帰ったら勧めてみようよ。教授も、多分自分の身体のことは自覚してると思うし」
「そうだね……」
「ユウナちゃんの優しさがあれば、きっと休んでくれるはずやけん」
二人も、積極的に言った。ふと向こうを見ると、山が見える。ミカも、それを見ながら足を伸ばしていた。
「はぁ〜、ゲームの中もいいけどさ、あの中じゃこんな温泉には入れないもんね」
ミカが言うのをきいて、それはそうだとユウナは思うのだった。いくら正彦であっても、仮想世界の中に温泉まではつけられないだろう。夕方であったため、夕陽も美しく見える。それを見ているだけで、心が浄化されていくようだった。
しっかりリラックスしたあと、三人はアカリの実家に帰った。戸を開くと、
「あ、お姉ちゃん! 帰りよったんじゃね!」
そう言いながら、アカリの妹のほたるが飛び出してきた。ほたるは大学生で、バイトをしながら母とともに家の生計を立てている。アカリは、二人にほたるを紹介した。
この日は、五人で食事をとった。その時に嘉代子が、
「ねぇ、みんなはお仕事何しよるの?」
ときいてくるので、ユウナたちは何と答えたらいいかわからなくなった。アカリは無論、正彦のことなど伝えているはずもない。すると、アカリが言った。
「二人も今、就活しよるんよ」
「え? 大丈夫なん?」
「うん。もうすぐ内定もらえるって。だから、心配せんでええんよ。うちも、そのうちに朗報持って帰ってくるけん」
「そう……、頑張りや」
嘉代子は、アカリに優しく言った。ユウナとミカも、嬉しそうに顔を見合わせていた。すると、ほたるが話した。
「でも、二人とも理系の学校出よるってきいたよ。それじゃのに就職決まってないって、そんなに景気悪いんかなぁ。うちも、どうしよ……」
「心配せんでええよ。ほたるやったら、きっとすぐ仕事見つかるけん」
アカリが励ますので、心配そうな表情をしていたほたるも笑顔を取り戻し、
「うん!」
と、頷いていた。嘉代子も、それを微笑ましそうに見ている。極普通の家庭にも、言えないことは存在するのだ。しかし、それは時に優しさでもある。自分の母親や妹に心配はかけまいと、アカリも思っているのだろう。
その夜、三人は同じ部屋で布団を並べて寝ることにした。
「ねぇ、あたしらいつ帰るんだっけ?」
ミカが、手鏡を見ながら言った。
「母ちゃんには、明日帰るって伝えとるけど……」
「早くない? でもまぁ、あんまり長い間留守にすると何があるかわかんないもんね」
「じゃ、明日帰ろう。あっちのことも、気になるから……」
ミカの言葉に、ユウナも同調するように言った。それをきくと、二人も納得した表情で頷く。そして結局、翌朝に帰ることになった。
その後、電気を消して三人は就寝した。ユウナは、しばらく寝つけなかった。頭に浮かんだのは、悠二郎のことだ。悠二郎には、何も伝えずに出てきてしまった。それだけが、心残りだった。今ごろ、何をしているのだろうか。ユウナは仰向けになりながら、ずっとそのようなことを考えていた。
翌朝、ユウナは目を覚ました。昨日はあれから、いつの間にか眠ってしまっていたのだ。ユウナは起き上がり、横を見ると、二人はもう起床したあとらしかった。ユウナは眠たい瞼を擦っていると、戸が開いてアカリが入ってきた。そして、こう言うのだ。
「ユウナちゃん! 大変、ちょっと来て!」
「えっ?」
何が何だかわからず、ユウナは急いで着替えると、ミカのいる部屋へ向かった。ミカは、ユウナにパソコンの画面を見せながら言う。
「教授のメールフォルダに、また変な脅迫メールが届いてたんだけど」
「えっ?」
ユウナは、それを読んでみた。そこには、こう書かれてあったのだ。
『来年夏、東京都内にてSPからモンスターを放出する』
ユウナが読み上げると、
「来年の夏に、何があるんじゃろね」
と、アカリも不思議そうに呟いている。
「あれじゃない? オリンピックじゃない?」
ミカは、人が多く集まるオリンピック時に、街にモンスターを放出することによって、この国を混乱させようとしているのではないかと推測した。しかし、実際のところはよくわからない。これを送ってきたのは、きっとサタールだろう。サタールは、いったい何を考えているのだろうと、ユウナは不安になるのだった。
もしも、この話が本当であるならば、この国は大変なことになる。正彦に、早く知らせなければならない。ユウナは、
「やっぱり、早く戻った方がいいんじゃないかな」
と言うと、二人もまた頷いた。
「そうじゃね。教授も、心配じゃけん」
「じゃあ、飛行機のチケット取ってくるね」
「待って、ミカちゃん。これで帰ればええんと違う?」
アカリは、ミカに自分のスマホを見せる。これがあれば、SPの中を通って正彦の研究室まで行ける。
「あ、そっか……。なんか、あんまり現実的じゃないから忘れてた」
ミカは、そう言って座り直した。来る時は飛行機だったが、事は一刻を争う状況だ。今は、SPの中を通って帰るしかない。
その後、三人は夢野家を後にした。嘉代子が見送りに出ると、
「もう帰るん? もう少し、泊まっていってもいいんよ?」
と、声をかける。
「いえ。よくしてくださって、ありがとうございました」
ユウナも、そう言って挨拶をした。
「また、いつでも来ぃや」
「はい」
三人は、嘉代子に手を振った。そして、家からしばらく歩き、人気のない路地に来た。アカリはそこにスマホを置くと、虹色の扉が出現する。三人はそれを潜り、やがて虹色の扉とともに置いてあったスマホも消えた。
序盤のキャラで、最も印象深い登場人物は?
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中谷優奈
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鶴ケ崎麗菓
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月見里美香
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夢野あかり
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池谷大輝
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相場善秀