翌日も、SPのダンジョンを攻略しに行った。クリアすると、そのダンジョンは跡形もなく消えてしまう。その分、SPの寿命は確実に迫っている。しかし、この世界をきれいなまま終わらせたい。ユウナは、その気持ちを忘れなかった。
セイントドアを潜り、正彦の研究室に戻った。中には、ミカやアカリ、アカネもいた。皆、嬉しそうに談笑している。ユウナがその横を通ろうとすると、それに気づいたミカが話しかけてきた。
「あ、ユウナ。あたしらこれから銭湯行くんだけど、ユウナも行かない?」
「あ、今日は悠二郎さんと約束があるから」
「……わかった。じゃあ、また明日ね」
「うん」
ユウナは、そう返事をすると研究室を出た。これから、悠二郎と一緒に食事に行く約束をしているのだ。しばらく、二人きりで出かけたことはなかった。だから久々に、悠二郎と外食をしようという約束をしたのだ。
ユウナが帰宅する途中、スマホが鳴った。きっと悠二郎からだと思い、ユウナはカバンからそれを取り出した。しかし、ロック中の画面に表示されていたのは、悠二郎の名前ではなかった。そこには、「相場善秀」とあったのだ。
「相場君……?」
ユウナは不思議に思い、その電話に出た。
「もしもし?」
「あ、もしもし。喜多村か?」
「相場君、どうしたの?」
ユウナが尋ねると、相場は答えた。
「俺、今空港にいるんだけど……」
それをきいた瞬間、ユウナはハッと思い出す。
『今、内戦やってるとこあるよな? そこに、軍隊として派遣されることになったんだ』
大輝の葬式の際、相場から思わぬ言葉が出たのだ。自衛隊に所属し、内戦が起きている国に行くことになったのだと。ユウナは止めようとしたが、上からの命令には逆らえないとのことだった。
「今日だったんだ……。もう、行っちゃうんだね……」
「あぁ。でも、心配しないでほしい。俺は、絶対帰ってくるから。大輝とは違う。お前を、絶対に悲しませたりはしない。約束する」
その話をきき、ユウナから涙がこぼれ落ちる。あの時も、同じようなことを言っていた。だが、今回の話をきいて確信した。相場は、あの時の約束を、まだ覚えていたのだということを。
『お前にはずっと笑っていてほしい。お前には、ずっと笑顔でいてほしいんだ。俺も、いつか追いつくから。きっと心から笑えるようになって、お前を、元気にしたい』
あれは、高校を卒業する直前に相場が言った言葉だ。あの時の相場の顔は、今でも忘れてはいない。それを思うと、ユウナは嬉しくなった。
「相場君……、いい笑顔だね」
「えっ……、なんでわかるんだ?」
「電話越しでも、そのくらいわかるよ。私、待ってるね。みんなも、待ってる。だから、絶対に帰ってきてね」
「……わかった。絶対、生きて戻ってくるから。だから、心配しないでくれ。約束だぞ?」
「うん、わかった」
ユウナも答えると、
「じゃあな」
と言い、相場は電話を切った。しばらくその場に立ち、ユウナは上を見上げた。桜の木が、少しずつ花をつけ始めている。それは時に、自分を慰めているかのように、ユウナの目に映った。それを見て、ユウナは再び歩き出したのだった。
相場も電話が切れると、カバンを手にして歩き始めた。その表情は、これから戦場に行くとは思えぬほど、穏やかだった。
数日後、ユウナたちは正彦の研究室に呼び集められた。
「皆のおかげで、セインツ・パラダイスにおける半分以上のダンジョンが、無事にクリアされた」
正彦の報告をきき、ミカやアカリは笑みを浮かべている。
「それで、君たちに相談なんだが……」
その言葉をきいて、皆は再び正彦に注目する。正彦も、少しだけ言い難そうだ。それを見て、ユウナは不審に思った。何を、そんなに躊躇う必要があるのだろうか。正彦は後ろにいた真司に促され、やっと口を開いた。
「これは、あくまで私の意見だ。だから、参考程度にきいてくれると有り難い。今日ではダンジョンが、あと全体の約半分ほど残っている。それを、これからも君たちで手分けして攻略していってほしい。私も、できる範囲で助力する。しかし、あの世界と現実世界を行ったり来たりするのは、少し不便だと思ってな。どうだ、あの世界に住んでみないか」
それをきいて、ユウナは驚きを隠せなかった。正彦の口から、そのような言葉が飛び出そうとは思ってもいなかった。たしかに、あの世界には建物がいくつか建てられてある。しかし、そこで寝起きしたいとは思ったことはない。それでも、その話をきくとユウナは、それも楽しそうだと思うのだった。
「皆、それについてはどう思うか」
「あ、私は……」
ユウナが言いかけると、アカリがそれよりも少し早く声を発した。
「でも、すべてのダンジョンをクリアすれば、自動的にあの世界はなくなるんですよね?」
「あぁ、そうだ」
正彦が答えると、ミカも言った。
「でも……。それなら、逆に危ないんじゃない? 最後をクリアしちゃったら、私たちもそこからすぐに逃げなきゃいけなくなるじゃん。しばらく住み着いてたら、どこが出口か迷っちゃわない?」
ミカのその推理は、当たっていたようだ。その言葉をきき、正彦はやはりかという溜息を漏らす。ユウナも、そこまで頭が回らなかった。さらにミカは、
「それにもし、あのサタールとかいう人がさ、私らが寝ている時とかに外から攻撃してきたら、太刀打ちできないと思うし」
と、追い討ちをかける。
「そうやね」
アカリも、ミカの意見に同調する。それをきいたユウナは、今まで自分の考えていたことを恥ずかしく感じた。たしかに、ミカの言う通りだ。あの世界は、今や脅威にあふれている。ダンジョン攻略の時も、心して行かなければ十分危険な場所だ。それ故、正彦も言うことを躊躇ったのだろう。
「答えは、すぐに出さなくていい。しかし、少し考えてみてくれないか」
正彦が言うので、皆はまた互いに顔を見合わせる。やはり、不安は隠せないのだろう。
「考えるって言ってもさ……、ここで拒んじゃってもいいわけでしょ?」
ミカの言葉に、正彦も返した。
「あぁ、もちろんだ」
ユウナは、自分だけでもあの世界に入り、夜もモンスターたちの世話をしたいと伝えたかったが、その勇気が出てこない。数分が過ぎ、ミカやアカリは部屋を出ていこうとしていた。ユウナも仕方なく、それに続こうとすると、
「待って!」
と、誰かから声をかけられた。ふり向くと、それは真司だった。
「父さんから、実はもうひとつ用件があるんだ」
「えっ……?」
真司は、また正彦を促す。すると、正彦はユウナたちを見つめ、話し始めるのだった。
「君たちが来る前に届けられたメールの中に、五人の勇者という記述があった。それぞれの属性を司る勇士たち、それらをフィフス・フォリアと呼ぶことにした」
『フィフス・フォリア……?』
ユウナ、ミカ、アカリの三人は繰り返した。初めてきくその言葉は、とても新鮮に思えた。そして、アカネが三人に歩みよってくると、こう付け加える。
「それぞれに、称号が与えられるらしいねんて」
「称号……?」
ユウナが尋ねると、アカネは頷き、そして答えた。
「例えば、木属性やったら、ウッド・マスター。水属性なら、アクア・マスターといった称号が付与されんねん」
「でも、誰が何属性とか、どうやったらわかんのよ」
ミカが言うと正彦は、
「それは、君たちで話し合って決めてほしい」
と、言うのだった。正彦も、そこまでは決めていないらしい。向いている属性を決め、それをとことん極めてくれということだろうか。しかし、それだけ言われてもユウナたちには難しいものがあった。ユウナは正彦の前に行き、
「あ、あの。アカネさんが今言った以外で、フィフス・フォリアの称号を教えてくれませんか」
と、言った。真剣な表情のユウナを見て、正彦は答えてくれた。
「光属性はライト・マスター、闇属性はダーク・マスター。そして、残る火属性は……、レッド・ブレイブ・フレイマーだ」
どうやら、火属性だけほかと呼び方が異なるらしい。なぜかはわからないが、その時は特に気にならなかった。ユウナは、
「ありがとうございます。では、みんなと相談してきます」
と言うと、ドアを開けた。ユウナが部屋を出ていくと、ミカとアカリも続いていった。それを見ていたアカネは、
「あの子たち、変わりましたね。初めて会った時と比べて」
と、正彦に話しかける。すると正彦も、
「人というのも、常に進化しているのかもしれない。そう考えると、当然のことだろう」
そう答えていた。それをきき、真司もドアの方を見ていた。もう自分たちからは、何も言うことはない。あとは、ユウナたちの判断を待つのみだ。それは、その部屋に残された誰もが思ったのは間違いない。
一方、レイカは研究室には行かず、一階の部屋の窓を開け、そこから足を出して座っていた。そこへ、足音がきこえた。レイカはふり向くと、雅也が立っていた。雅也も、何も言わずにレイカの横に腰を下ろす。
「最近は、教授の研究、手伝ってあげてるんだって?」
雅也が、何気に話しかけてきた。
「ただの気まぐれでやってるだけよ」
「それでもいい。やっとお前がその気になってくれたんだって、みんな喜んでるし」
雅也が言っても、レイカは何も答えない。ただ、目の前の庭を眺めている。それを見て、雅也も仕方なさそうに溜息を吐く。そして、こんな話を始めた。
「子供のころ、初めて俺が家に行った時、お前ご機嫌斜めでさ、俺に人形投げてきたりしたよな。それを見て、元気なやつだと思ったよ」
「いつの話よ?」
「いつだっけなぁ。たしか、お前がちょうど一歳の時だよ。でも俺、嬉しかったんだ。俺の両親は、俺が小さいころ事故で死んだからさ、あんまり憶えてないんだよね。だから、俺にも初めて家族ができたんだって、そう思うと嬉しくてさ。毎日、お前のオムツを替えるのも楽しくて……。だから俺、お前のこと……」
雅也が何気に横を向くと、レイカと目が合った。レイカは怒ったような表情で、顔面を朱く染めている。それを見た雅也は、
「あ、ごめん。昔のことだからつい……」
と言い、謝った。そして話を続け、
「でもお前、俺が本当の兄貴じゃないってきかされてから数年間、俺のことを兄さんって呼んでくれなかったよな。まぁ、そうだろうな。あの時のお前には、ちょっとショックな内容だったからな」
と言いながら、笑っていた。すると、レイカも話した。
「私、兄さんの気持ちが未だによく理解できない……。なんで、私の家に来たの? 家族が欲しいだけなら、ほかの家に行けばよかったでしょ? どうしてウチに来たのよ」
「そうだな……、どうしてだろうな……」
雅也は空を見ながら、そう呟いていた。そして、再び膝元に目を落とし、話を続ける。
「強いて言うなら、勘だな。この家だったら、毎日が楽しそうだって、そう思えたのかもしれない。だから実際、楽しかったし。でもレイカ、これだけは本当だぞ? 俺は、今の今まで、あの選択が間違いだったとは思ったことはない。そして、これからも決して思わない。これだけは、本当だから」
雅也は、真剣にレイカを見つめた。レイカもしばらく、雅也の目を見ていた。すると、急に雅也は立ち上がった。
「じゃ、俺は仕事に戻るか。お前も、自分の信じる道を行けよ」
雅也はそう言い残すと、部屋を去っていった。その時、レイカを暖かい風が包みこんだ。その瞬間、桜の花弁が部屋の中に舞いこんできた。レイカは春の日差しが、今まで感じた中で一番心地よいと思った。
その頃、別の部屋ではユウナたちが話し合っていた。ミカが、
「えーと。パーティーのリーダーが光属性のモンスターだから、私が光でいい?」
と、自分のスマホを眺めながら言った。
「うん。いいと思う。うちは、火属性ね。ユウナちゃんは?」
「パーティーのリーダーが水属性だから、水かな……」
アカリがきくと、ユウナも答えた。
「でも、ほんとにこんな決め方でいいの?」
ミカは、心配そうに言う。それでも、ほかにどうしようもなかったため、その決め方でやろうということになったのだ。
「仕方ないよ、ほかに方法がないんやけん」
「大丈夫。教授も、自分たちで決めていいって言ってたし」
ユウナは何気に窓の外を見ると、桜が散っている。もうこんな季節かと思う気持ちと、時間がないという気持ちが入り乱れ、どうにも表現しにくい心情になっていた。
第四十回「
次回予告
ユウナ「好きになったんじゃないかって……」
ミカ「どう思ってる? アイツのこと……」
フギン「これは遊びじゃない、戦争だ」
ヒロイン「ハッピーエンドで終わる物語は少ないです」
雅也「俺、また外国に取材頼まれてさ」
レイカ「もう、二度と私に構ってこないで」
ミカ「ユウナにはわかんないよね、リア充だから!」
「ユウナ!」
アカリ「ユウナちゃん!?」
悠二郎「この子は、二人で守り抜こう」
ヒロイン「大丈夫です、先輩なら何とかなりますよ」
雅也「俺、絶対帰ってくるから。いつになるかわからないけど、絶対に、お前を一人にしない」
ユウナ「私も、可能な限り仲間の気持ちを尊重したい。でも、SPを潰そうとしている人のことを好きになったら……」
「ミカ、ミカ!」
次回(第四十一回)
「
序盤のキャラで、最も印象深い登場人物は?
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中谷優奈
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鶴ケ崎麗菓
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月見里美香
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夢野あかり
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池谷大輝
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相場善秀