パズル&ドラゴンズ~もうひとつの旅~   作:葉之和 駆刃

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第41話 愛情と亀裂~ラブ・アンド・クラック~(その壱)

 あれから、特に進展は見られず、日々が流れていた。桜も完全に散って、夏を知らせる太陽が照りつけている。部屋には、いつもの三人が集まっていた。

 

「あ~、暑くない? ゴールデンウィークもまだだってのに!」

 

 ミカは下敷で扇ぎながら、そう呟いていた。アカリは立ち上がり、カーテンを閉めた。すると、部屋が薄暗くなる。アカリは元の場所に座り直し、

 

「こんなこと、しよる場合なんやろか」

 

 と、呟いた。ユウナも、その気持ちは大いに理解できた。しかし、今後をどうするかが決まらない以上、何もできないのが現状だった。時間が経つに連れ、やる気が失せていく。ユウナは、心に葛藤を抱いた。自分だけでも、SPの中で生活を送ろうか。しかし、皆に心配をかけないだろうか。そればかりが、自分自身を苦しめていく。

 

『どうだ、あの世界に住んでみないか』

 

 正彦の言葉が、ユウナの頭の中で繰り返し再生される。ユウナは黙ったまま、しばらく考えていたのだった。

 

 

 

第四十一回 愛情と亀裂(ラブ・アンド・クラック)

 

 

 2019年5月。この日も、ユウナたちはダンジョン攻略に参加した。もうすでに半分以上を攻略し、あとは高難度のダンジョンをクリアするのみとなっていた。

 

「じゃあ、私は三十三エリアに行くね」

 

 SPのマップを見ながらユウナが言うと、

 

「オッケー。じゃ、私はここに行けばいいわけね」

 

 と、ミカも場所を確認していた。

 

「えっと、じゃあうちはこっちね」

 

 アカリも、ユウナに確認を取ると、そこに向けて歩いていった。そして、ユウナも自分に割り当てられたダンジョンへと足を運んだ。

 

 この日も、それぞれのダンジョンでモンスターを戦わせていた。戦闘が終わると、ミカはダンジョンから出てきた。そして、ふと腕時計で時間を確認する。集合時間までには、まだまだ時間がある。ミカは適当な場所を探して座りこんだ。目の前には、湖が広がっている。そこでは、主に水属性のモンスターたちが泳ぎ、また木属性のモンスターなども湖の水を飲みに来ている。それをミカは、ほっこりしたような気持ちで見ていた。

 

 しばらく時間が経つと、自然と睡魔に襲われる。うつらうつらしていると、誰かが後ろからミカに声をかけてきた。

 

「お~い、そんなとこで何してんだ?」

 

 ミカはその声にハッとし、ふり返る。立っていたのは、フギンだった。フギンは不敵な笑みを浮かべながら、ミカを見ている。ミカもそれには驚き、立ち上がった。

 

「ちょっ! 何の用なの!?」

 

 ミカは、当然の反応を示す。そしてフギンを精一杯睨むが、フギンには通用しないようだ。フギンは、

 

「ちょっと、水を飲みに来ただけだ」

 

 と言いながら、湖に近づいた。そして、湖面に顔を近づけると、水をすくい上げて飲み始める。それを、ミカも驚いた目で見ていた。

 

「それって……、飲めるの?」

「あぁ。全部プログラムでできてるから、腹は膨れんけどな」

 

 飲み終わると、フギンは立ち上がり言った。

 

「お前ら……、ここの世界に住むつもりなのか?」

「は?」

 

 モンスターたちを見つめながら、フギンがそうきいてくるので、ミカは怪訝そうな顔できき返す。

 

「なんで、あんたがそんなこと知ってんのよ」

「やっぱりな……」

「え?」

 

 フギンはふり返ると、ミカに言った。

 

「本気で、ゲームをクリアするつもりなら、ログインする時間も惜しいんだろ。だから、この世界に住むことを教授から勧められた。違うか?」

「そう、だけど……」

 

 それには、ミカもそう言わざるを得なかった。フギンの言ったことは、すべて当たっている。どうやって推理したのかは不明だが、事実には変わりない。さらにフギンはミカに近づき、

 

「お前らがどこにいようと、何をしようと、うちのオヤジには筒抜けだぜ。それだけは、忠告しておく。だから、隠れて何かをしようとしても、無駄ってことだ」

 

 と言うと、向こうに歩いていった。

 

「待ちなさいよ!」

 

 ミカは、不意にフギンを呼び止めた。

 

「……あんたの目的って何?」

「知らねえよ。大事なことは、全部オヤジと部下の研究員しか知らねえ」

「じゃなくて、あんたが何をしようとしてんのか、まったく読めないんだけど」

「さぁな。自分でもわかんねえや」

 

 フギンは空を見上げ、そう呟いた。

 

「本当は、こんなことしたくないんでしょ?」

「……確証はあんのか?」

「ないわよ! ないけど……、これまでのあんたを見てると、なんかそうは思えないっていうか……。無理やり、そのサタールって人に働かされてるんじゃないかって」

 

 ミカが言うのをきき、フギンは声を出して笑った。

 

「な、何よ!」

「いや。まさかあんたに、そんな風に見られてたとはね~」

「……じゃあ、違うって言うの?」

「否定はしねえよ。ただ、俺にもわからない。本当は、何がしたいんだろうって……」

 

 フギンが突然、普通の喋り方になった。そしてまたミカに近づいてくると、ミカの肩に自分の手を置いた。

 

「けど、俺はお前さんたちを応援してるんだぜ?」

「ど、どういう意味?」

「オヤジの陰謀から、真っ向からぶつかってさ。最初は、バカな奴らだと思ってたけど、それでも必死にこの世界を守ろうとしている。これは遊びじゃない、戦争だ。本気で守りたいって思うなら、俺たちを殺すつもりで来い」

 

 そう言ったあと、フギンは空に向かって笛を吹いた。すると、上からプテラドスが降り立った。フギンはそれに乗り、

 

「じゃあな。まあ、せいぜい頑張れよ」

 

 そうミカに言うと、そのまま飛び去ってしまった。その様子を、ミカは下からポカンと見ていたのだった。そして次第に、ミカの心はフギンに惹かれていった。

 

 しばらく経ち、ユウナとアカリが戻ってきた。

 

「あ、ミカちゃん。そっちは、どうやった?」

「あ、うん。余裕だったよ」

 

 アカリにきかれ、ミカは適当に答えた。ユウナはミカのその様子に、少し疑問を抱いたが、気のせいだと思って追求しなかった。その後、三人は部屋に戻ることにした。

 

 部屋に戻った三人は、休憩として菓子を食べていると、アカリが呟いた。

 

「ほんま、どうしよっか……。あの世界に住むのはいいけど、ちょっと怖いけんね」

「私も、そうした方がいろいろな意味で便利だと思うの。でも、それなりに危険だってことは理解してるつもり」

 

 ユウナも、自分の考えを言った。あれから散々話し合ったが、どうにも纏まりそうにはなかった。二人がそんな会話をしている間にも、ミカは先ほどのフギンの話を思い返していた。

 

『俺はお前さんたちを応援してるんだぜ?』

 

 敵だとわかっていても、女心は正直だということだろうか。異性として、少し気になり始めていた。それだけは本当らしい。不意に、アカリがミカに声をかける。

 

「ミカちゃん、どしたん? さっきから、黙りよるけど」

「え? あ、ううん。何でもないよ。それよりさ、せっかくの連休だし、気分転換に三人でまたどっか行かない?」

「あ、いいね!」

 

 アカリも、乗り気で答えた。しかしユウナには、ミカが無理に笑顔を作っているように見えた。何かを、自分やアカリに隠しているように見えたのだ。

 時刻は、もう夕方五時前だ。時計を見たアカリは、

 

「あ、いかん! これから、バイトあるんやった! ごめんね、もう行くけん」

 

 と言って立ち上がった。

 

「あ、うん。頑張ってね!」

 

 ミカが言うと、

 

「うん、じゃあね」

 

 とアカリは言い、カバンを持って部屋を出ていった。その部屋には、ユウナとミカだけが残った。ユウナは、さっき抱いた疑問をミカにきこうと思ったが、なかなかその勇気が出てこない。やっと決心し、ユウナは口を開いた。その瞬間、ミカと声が重なった。ミカも、ユウナに何か言おうとしたのだ。

 

「あ、ユウナ。何か言った?」

「あ、ううん。何でもないの。それより、ミカこそ何て言おうとしたの?」

 

 思わず、ユウナは嘘をついてしまった。それでミカを傷つけることだけは、何が何でも嫌だった。ミカはしばらく間を置き、ユウナに言った。

 

「ねぇ。学生の時、ユウナを連れていったやついるでしょ? その……、フギンとかいう」

「うん」

「あの時、どこ連れてかれたの?」

 

 ユウナはその時の光景を思い出し、しばらく考えていた。

 

「……よくわからない。でも、オーディンがあの世界を救う鍵になるって」

「オーディンが?」

「うん。よくわからないけど、そう言ってた。あの人、そこで私にきれいな水晶を見せてくれたの。それが、オーディンの心だって」

「オーディンの、心……?」

 

 ミカも、怪訝そうな表情で繰り返していた。ユウナは、また思い出したことがあった。あの時、フギンからきいた言葉だ。

 

『こいつは、オーディンの心自身。こいつをどうコントロールできるかが、この世界の命運を揺るがす。これは忠告だ。おいらたちの目的は、この世界を滅ぼすこと。本気で守りてえって思ってんなら、命がけで来いよ』

 

 あれは何を意味していたのか、未だによく理解できずにいた。するとミカがユウナに、このようなことをきいてきた。

 

「でさ、ユウナはさ、どう思ってる? アイツのこと……」

「アイツって、フギンさんのこと?」

 

 ユウナがきき返すと、ミカは頷くのだった。

 

「どうって……、突然きかれても……」

 

 ユウナが躊躇っていると、ミカはフッと笑った。

 

「そうだよね……。なんか、変なこと気にして、バカみたい。私、昔からそうだったから」

 

 ミカが言うので、ユウナは気になって尋ねてみた。

 

「ねぇ。本当に、何もないの?」

 

 その言葉で、またミカは真顔に戻った。図星のようだ。それを見て、ユウナはとうとう欲求を抑えられなくなってしまった。

 

「悩みがあるなら、私でよかったら、話してくれない? 友達として、できれば私もミカの力になりたいから」

「ユウナ……」

 

 そう呟きながら、ミカもユウナを見つめた。その言葉で話す決心がついたのか、ミカは下を向いて大きく息を吐くと、再びユウナを見て言った。

 

「私、その……。アイツのこと、ちょっとだけ気になるっつーか……、いいなぁ~って。敵だっていうことはわかってる。でも、自分でも気持ちの整理がつかなくて……」

「それって、好きってこと……?」

「まだわからない。でも私も、ここまで一人だから。自然に、そう思ったのかもしれない」

「ミカ……」

 

 ユウナは、ミカのことが心配になった。するとミカは立ち上がり、ドアノブに手をかけた。その時、ユウナの方をふり向いて言った。

 

「しばらく、考えてくるね。ごめんね、余計な心配かけて」

 

 ミカが出ていこうとすると、ユウナは咄嗟に呼び止めた。

 

「待って、ミカ」

 

 それをきいて、ミカも動きを止める。

 

「私も、可能な限り仲間の気持ちを尊重したい。でも、SPを潰そうとしている人のことを好きになったら……。その……。利用、されるかもしれないし……」

 

 ユウナの話をきき、ミカはしばらく黙ったまま立ち止まっていた。それは、ミカも十分理解しているのだろう。その上で、ユウナに打ち明けたのだ。ミカはふり返って、

 

「たしかに、その通りだよね。ごめん、今の話は忘れて。じゃあ、また明日ね」

 

 と言いながら、また笑顔を見せると、部屋を出ていってしまった。しかし、そう言われてもユウナの不安は治まらない。ミカは、本当にフギンのことが好きなのだろうか。もしそうだとすると、ミカはフギンに利用されかねなくなる。それだけは、何としてでも阻止したかったのだ。

 考えても考えても、どうにも答えを導けそうにない。いつものように、ユウナは研究所のリビングへと向かった。そこで、美千子に相談することにしたのだ。美千子も、正彦の管理で多忙なため、話すのは躊躇われたが、自分だけでは解決できそうもなかった。

 

 美千子は紅茶を入れながら、

 

「ごめんなさいね。いつまでも、ここに縛りつけちゃって」

 

 そう言うので、

 

「いえ。毎日、楽しんでやっていますので」

 

 と、ユウナは答えた。美千子は紅茶をユウナに出しながら、

 

「名前の通り相変わらず優しいのね、ユウナちゃんは。それで、今日は何の相談? また、あの人のこと?」

 

 と言い、前の席に座った。

 

「いえ、今日は教授のことではなくて……」

 

 ユウナが言うのを、美千子は黙ってきいている。本当に、こんなことをきいてもよいのだろうかと躊躇いつつ、ユウナは言うことにした。

 

「あの。友達……、ミカのことなんですけど」

「ミカちゃんが、どうかしたの?」

「こんなことを美千子さんにきくのはどうかとも思ったんですが、私一人じゃ考えられそうになくて……。あの世界、セインツ・パラダイスを乗っ取ろうとしている人たちがいるじゃないですか。そのうちの一人を、ミカは気にしてるみたいなんです。好きになったんじゃないかって……」

 

 その話をきくと、美千子も驚いた表情をしている。無理もない。ユウナは続け、

 

「普通なら、友達として友達の恋を、応援してあげるべきだと思うんです。でも、それが私たちの敵だとしたら、うまく言えなくて……」

 

 と言った。すると、その話をきいていた美千子が口を開く。

 

「そうね……。それなら、私よりも適任がいるんじゃないかしら」

「えっ……?」

 

 それをきき、ユウナは呆気にとられていた。

序盤のキャラで、最も印象深い登場人物は?

  • 中谷優奈
  • 鶴ケ崎麗菓
  • 月見里美香
  • 夢野あかり
  • 池谷大輝
  • 相場善秀
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