パズル&ドラゴンズ~もうひとつの旅~   作:葉之和 駆刃

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第41話 愛情と亀裂~ラブ・アンド・クラック~(その参)

 ユウナは、廊下の壁に背をくっつけているレイカの姿を発見した。そして近づいていき、呼びかけた。

 

「鶴ケ崎さん……」

 

 しかし、レイカからの反応はない。

 

「雅也さん……、お兄さんが外国に行くってきいたの。辛いのはわかるよ。でも……」

「あなたに何がわかるの?」

 

 レイカは、ユウナの言葉を遮った。

 

「人を励ます時って、とりあえずわかるって言っとけばいいと思ってるわけ?」

「そうじゃないけど……」

「だったら、私の気持ちなんて誰も知らないじゃない!」

「鶴ケ崎さん……」

「もう、二度と私に構ってこないで」

 

 そう言って、レイカが向こうに行こうとすると、ユウナは咄嗟にレイカの腕をつかんだ。

 

「待って!」

 

 しかし、すぐにその手はレイカによって払われた。

 

「高校の時、言ったこと覚えてる?」

「えっ……?」

 

 レイカに言われ、ユウナは戸惑った。言われたことが多すぎて、何のことだかすぐにはわからなかった。そして、レイカは続ける。

 

「あなたとは、解かり合える気がしないって。今だってそう。自分には関係ないのに、世話焼いて、本当は他人事だって思ってるんでしょ?」

 

 その言葉をきいて、ユウナは首を横に振るのだった。

 

「違う。自分には関係なくても、私は誰かの役に立ちたいの。一緒に、お兄さんを見送りに行かない? 鶴ケ崎さんが来てくれたら、きっと喜ぶはずだから」

 

 レイカは、しばらく考えていた。そして、

 

「ほっといてよ」

 

 と言い、向こうに行ってしまった。それでも、ユウナは諦める気になれなかった。雅也は、きっとレイカに見送りに来てほしいはずだ。何かいい方法はないか、ユウナはその場で考えを巡らせていたのだった。

 

 しかし、特にこれといった考えは思い浮かばず、ユウナは部屋に戻って来た。ドアに手をかけようとした時、ドアが開いて中からアカネが出てきた。

 

「あ、アカネさん。遅れてしまって、すみません。鶴ケ崎さんは、ちょっと来れないそうで……」

 

 ユウナが説明すると、アカネは言った。

 

「大丈夫。あとの二人も来てへんから」

「えっ……?」

 

 ユウナから思わず、声が漏れた。アカネは続け、

 

「五人のうち、集まったのはうちとあんただけ。残りの三人は、研究所には来てるはずやけど、顔を見せへんかった。だから、会議は中止。あんたの方からも、そう伝えといて」

 

 と、言うのだ。アカネが歩いていこうとするのを、ユウナは呼び止める。

 

「待ってください。詳しい事情とか、きいてませんか?」

「きいてへんよ。みんな、ちょっと疲れとるみたいやけどなぁ」

 

 アカネは上を見ながら呟くと、また歩き始めるのだった。ユウナも、その様子を不安気に見つめていた。レイカだけではなく、ミカとアカリも会議に出席しなかった。ユウナは、二人のことも心配になっていった。

 ミカの方は、まだフギンのことを気にしているのだろうか。ユウナは、そのことを考えながら部屋に戻った。ある部屋を通りかかった時、中から声が漏れてくるのがわかった。

 

「ねぇ、ミカちゃん。気持ちはわかるけど、考え直した方がいいよ」

「わかってるわよ……」

 

 それは、アカリとミカの声だった。ユウナは、その部屋の扉を開けた。そこは、応接室だった。アカリがユウナに気づくと、

 

「ユウナちゃん……」

 

 と、呟いた。ミカも、その声に反応してふり返る。ユウナは二人のところまで来ると、

 

「今日、会議やるって事前に知らされてたはずだけど、どうして来てくれなかったの?」

 

 そう尋ねた。それをきいて、ミカは黙っている。すると、アカリが代わりに答えた。

 

「ミカちゃんが、行きたくないって言い張るから……」

「アカリだけでも行けばよかったじゃん」

 

 ミカは、ぶっきらぼうに言う。

 

「ミカ、どうして?」

「この間、きいたんじゃろ? フギンさんのこと、気になっとるって」

 

 アカリは確認するように、ユウナにきく。ユウナも、それをきいて頷いた。ミカは依然として、無表情を貫いている。このままでは、場が悪くなる一方だ。ユウナはそれを危惧し、ミカに話しかけた。

 

「ミカの気持ちは、わかるよ。恋愛も、個人の自由だと思う。でも、相手は教授の創った世界を滅ぼそうとしている人だよ? もし、ミカとあの人が一緒にいるところを教授の弟さんに見られたりしたら、いいように利用されるだけだよ」

 

 最後まで言い終わらないうちに、ソファーに座っていたミカが、

 

「ほっといてよ!」

 

 と言いながら、突然立ち上がった。ユウナは思わず、後退りした。ミカは、今にも泣き出しそうな顔をしている。

 

「ミカ……」

「私の……!」

「えっ」

「私の……、私の気持ちなんかわかってないくせに、わかったわかったって言われるのが一番腹立つの!」

「ミカちゃん、そんな言い方!」

「アカリは黙ってて!」

 

 ミカの大声に、アカリもたじろいだ。ミカは、ユウナを見つめながら続ける。

 

「私だってわかってんのよ! わかってるけど……、恋愛感情なんて、簡単に抑えられるもんじゃないの!」

 

 そして目線を上に逸らし、

 

「あぁ~あ。これだから言いたくなかったのよ!」

 

 と言うと、ミカはまたユウナの方を見て言った。

 

「もう、私の好きにさせて。私は、あの人のことが好き。こんな気持ち、初めてなんだよ。ねぇ、わかる!? あ……、そっか。ユウナにはわかんないよね、リア充だから!」

 

 最後の言葉は、ユウナの心に絶大なダメージを与えた。それを見かねたのかアカリが、

 

「ちょっと、ミカちゃん……。いい加減にせんと……」

 

 と言い、ユウナを庇う態勢に入った。ミカも言い過ぎたことを反省したのか、

 

「あ、ごめん……。ユウナ……」

 

 そう言って手を伸ばすと、ユウナの視界が突然ぼやけた。次に、感じたことのない吐き気に襲われた。そしてバランスを崩し、ユウナは床に膝をつく。意識も、だんだんと遠のいていく。二人は驚き、ユウナに駆けよった。

 

「ユウナ!」

「ユウナちゃん!?」

「ユウナ、大丈夫?」

 

 二人の声が、判然としない意識の中きこえる。そしてユウナは、とうとう意識を手放してしまった。

 

 知らせをきいた悠二郎は、急いで病院に駆けつけた。病室の前に、ミカとアカリがいる。悠二郎は二人のところに行くと、

 

「ユウナは?」

 

 と、荒い息を整えながら尋ねた。不安そうに顔を見合わせる二人を見て、悠二郎はますます不安を抑えきれなくなりそうだった。やがて病室のドアが開き、中から看護婦が出てきた。悠二郎は真っ先に、看護婦にきいた。

 

「あの、どうでしたか?」

 

 すると、看護婦は優しい表情をして言った。

 

「おめでとうございます。三ヶ月ですよ」

 

 悠二郎は一瞬、何を言われているのか理解できなかった。そして徐々に実感が出てきたのか、

 

「ほ、ほんとですか!?」

 

 と、笑顔で大声を発した。しかしその笑顔は、近くにいた病人や家族にも見られ、恐縮そうな顔へと変わる。それでも、やはり喜びを抑えられなかった。

 悠二郎がユウナのいる病室に入ると、ユウナは意識を取り戻していた。悠二郎はベッドの隣の椅子に腰かけ、ユウナに話しかけた。

 

「気分はどう?」

「うん、平気」

「よかった……。いやぁ、突然倒れたってきいて、驚いたよ」

 

 悠二郎は笑い、そう言いながら後頭部をかいた。そして、

 

「俺たちの子どもかぁ~」

 

 と、上を向いて呟く。ユウナも内心、飛び上がりたいくらい嬉しかったのだ。悠二郎がユウナの手を握ると、

 

「守ろう、大切なものを」

 

 と、言った。

 

「大切なもの?」

「俺とお前の、宝だ。この子は、二人で守り抜こう」

「……うん」

 

 ユウナも、笑顔で頷いた。

 

「じゃ、俺は仕事に戻るよ。あとのことは、ユウナの友達に任せてある。今度、様子見に来るから」

 

 悠二郎はそう言って、病室を出ていった。それとほぼ入れ違いに、ミカとアカリが部屋に入ってきた。

 

「ユウナ、おめでとう」

「はい、これ!」

 

 ユウナは、アカリから花束を渡された。

 

「これ、どうしたの?」

「ミカちゃんがね、近くの花屋さんで買って来ようって」

 

 ユウナが尋ねると、アカリは答えた。それをきいて、ユウナはミカを見た。ミカはあの時とは違い、穏やかな様子だ。

 

「ごめんね、ユウナ。さっきは、あんな酷い言い方して」

 

 ミカが謝るので、ユウナは首を横に振った。

 

「気にしてないよ。私の方こそ、わかったような言い方して、ごめんね」

 

 ユウナが言うと、ミカも首を振った。

 

「悪いのは、全部あたしだもん。いつだってそう。人の気持ちも考えずに、言いたいことばっか言ってたのは、私の方だった。それで、ユウナを傷つけちゃったの」

「ミカ……」

 

 すると、ミカは片手を差し出した。ユウナがその手を見つめていると、ミカは言うのだ。

 

「もう一度、確かめ合おう。私たちの、友情」

 

 それをきいたアカリが主旨を察したのか、ミカの手に自分の手を重ねた。それを見て、ユウナもようやくわかった。ユウナも手を伸ばし、アカリの手の上に自分の手を乗せる。その後、三人は互いを見る。三人とも、笑顔だった。そしてその表情のまま、三人は手を離し、笑い合っていたのだった。

 

 

 二週間が過ぎた、初夏。空港には雅也のほかに、真司と慎一郎が来ていた。

 

「悪いな、忙しいのに来てもらって」

 

 雅也が言うと、真司と慎一郎は言った。

 

「まぁ、せっかくだしな。見送りに行ってやろうってことになったんだ」

「お前と会えなくなるって思うと、やっぱり寂しくてな」

「よせよ、縁起でもない」

 

 雅也が言うので、三人は笑い合っていた。

 

「そうだ、妹には声かけなかったのか?」

「かけたよ。でも、やっぱり来てくれないかな。結局、最後まで素直になってくれないんだろうな~」

 

 真司の問いに、雅也は寂しそうに呟く。

 

「まぁ、それが妹ってもんだろ」

「一人っ子が何言ってんだ」

 

 慎一郎も、呆れながら言った。

 

「まぁ、そうだよな」

 

 そして、真司も笑った。雅也は空港の窓から、滑走路を見ていた。国際線が四方八方に翼を広げている。

 

「いよいよだな……」

 

 そう呟いた瞬間、ある声がきこえた。

 

「ちょっと、離してよ!」

 

 その声に雅也は反応し、ふり向いた。すると、ユウナがレイカの手を引いて、こちらに向かってくる。二人が雅也の前に来ると、ユウナは言った。

 

「よかった……、間に合った……」

「ど、どうして君が……」

 

 雅也は、躊躇いながら言った。すると、ユウナは息を整えながら答える。

 

「どうしても……、最後に、妹さんの話をきいてほしかったんです」

 

 そして、雅也はレイカを見た。レイカも、雅也に近づくと口を開く。

 

「私が、兄さんとの本当の関係を知ったのは、小四の時。最初は、何が何だかわからなくて、反抗したりもした。けど、兄さんは以前のように私に接してきてくれた。ずっと逃げ続けてきた私に、希望を与えてくれた。ずっと、どんな時も、私の味方でいてくれた。何をするにしても、鬱陶しいくらいに私に構ってきてくれた。だから、裏切らないで」

「裏切る……?」

「帰ってくるって言ったからには、絶対に帰ってきなさい。土産はいらない。私にとっての土産は、兄さんの元気な姿なんだから」

 

 そう言ったレイカの顔には、若干の笑みがあった。それを見た雅也も嬉しそうに、

 

「あぁ、約束する!」

 

 と、答えていた。それはレイカが自力で導き出した、雅也を送り出す言葉だったのかもしれない。ユウナも、やっと笑顔に戻ったレイカを微笑ましく思った。

 

「じゃ、俺らはそろそろ帰ろうか」

「そうだな」

 

 慎一郎と真司は、そう言いながら帰っていった。

 

「え、搭乗口まで来ないの?」

「俺たち、チケット持ってないからな」

「じゃあな」

 

 二人は手を振り、その場を去ってしまった。

 

「では、私もこれで」

 

 ユウナが言うと、

 

「えぇっ? 君もなの?」

 

 と、雅也は戸惑い気味に言った。

 

「はい。あとは、お二人でどうぞ」

「……わかった、連れてきてくれてありがとう」

「いえ」

 

 ユウナは礼をすると、二人についていった。雅也は、

 

「ほんとにいい子だな……」

 

 と呟いていると、レイカは言った。

 

「ただのお節介じゃない」

「でも、感謝してるんだろ? 本当は」

 

 レイカは、雅也を見つめた。すると雅也がまた笑顔で、

 

「ほかの子にも、素直になればいいじゃないか。気が合わなくても、今はそれでいい。でも、いつかは仲良くなれると思うんだ。あの子、全然タイプの違う子とも、仲良くしてるじゃないか。だから、お前ともいつかきっと仲良くなれるさ」

 

 と言うので、レイカはユウナの後ろ姿を見つめていた。雅也の言葉が、レイカを変えることになるが、それはまだ先の話だ。

 

 その頃、ミカはSPに入っていた。湖の畔に行くと、長身の男が立っている。フギンだ。ミカは、黙ってフギンに近づいた。フギンはふり返ると、

 

「あぁ、あんたか」

 

 と、素っ気なく言った。ミカはなるべく目を合わさないようにし、

 

「ちょっと、話が……」

 

 そう言いかけた瞬間、

 

「危ない!」

 

 と言いながら、フギンがミカに覆いかぶさった。次の瞬間、近くの火山が噴火を始めた。地面が軋み、モンスターたちが奇声を上げながら自分の棲み処に戻っていく。

 

 異変は、正彦のところにも知らされた。書きかけのデータが消え、SPへの出入り口が遮断されたのだ。セイントドアを見ると、まるでスノーノイズのようになっている。それを見たアカネが、

 

「教授、これ……」

 

 と言うと、正彦も答えた。

 

「あぁ、きっとやつの仕業だろう」

 

 そこに、アカリが駆けこんできた。

 

「ミカちゃんは?」

「え? 知らんけど」

「きっとミカちゃん、まだSPの中にいる!」

「……えっ?」

 

 アカリの話をきき、その場にいた全員が凍りついた。そこに、ユウナも戻って来た。中の異変に気づいたユウナが、

 

「あの、どうしたんですか?」

 

 と尋ねると、アカリがユウナのところに駆けより、

 

「ミカちゃんが、SPの中に閉じこめられたみたい」

 

 そう言うので、ユウナは直感で大体のことを察した。そしてセイントドアの前に行き、

 

「ミカ、ミカ!」

 

 と言いながら、扉を叩く。しかし勿論、中からの返事はない。ミカは大丈夫なのだろうかと、ユウナの焦りは活動中の火山のように、静まりそうにもなかった。

 

 

第四十一回「愛情と亀裂(ラブ・アンド・クラック)」終

 

 

 

次回予告

ユウナ「私を、そこへ行かせてください」

サタール「このSPのどこかに、五つの巨大な宝玉がある」

正彦「きっと、これはやつから仕かけられたゲームだろう」

ユウナ「ゲーム……」

アカネ「大丈夫。みんな、あんたのこと心配してるから」

悠二郎「やっと、会えたんだ……」

真宏「俺もやっと吹っ切れたから」

悠二郎「『大きい』に、『毅(つよ)い』って書いて、大毅だ」

サタール「これからが、本番だ」

レイカ「生きてく上で必要のないものよりも、ほかに守るべきもんがあるでしょうが!」

真司「奴らは、あの世界を乗っ取ることが目的じゃない」

ユウナ「今度は私が大ちゃんを守る番だよ」

   「私は、戦い続けます。誰に反対されても、私はあの世界を守りたい!」

 

 

 

次回(第四十二回)

 

決意の余白(マージン・オブ・インテント)

序盤のキャラで、最も印象深い登場人物は?

  • 中谷優奈
  • 鶴ケ崎麗菓
  • 月見里美香
  • 夢野あかり
  • 池谷大輝
  • 相場善秀
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