パズル&ドラゴンズ~もうひとつの旅~   作:葉之和 駆刃

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第42話 決意の余白~マージン・オブ・インテント~(その参)

 研究所に着くと、ドアの前にミカが立っているのが見えた。ミカはユウナが走ってくるのを見つけると、

 

「あ、ユウナ! こっちこっち!」

 

 と言いながら、手を振っている。

 

「何があったの?」

 

 ユウナは、ミカの前まで行くとそうきいた。

 

「いいから、早く入って!」

 

 ミカはユウナの手を引き、中に入れた。

 

 そして、ミカは正彦の部屋をノックした。返事が返ってくるとともに、ミカはその部屋の戸を開ける。中には、正彦のほかにも研究所の人員全員が集まっていた。正彦はユウナを見ると、

 

「やぁ、やっぱり来てくれたか」

 

 と、言った。ユウナが正彦に、

 

「あの……、教授。モンスターに襲われたって……」

 

 そう言うと、正彦は答えた。

 

「何、大したことではないよ」

「でも、どうしてこんなことに……」

 

 ユウナが呟くと、それについてはアカネが解説する。

 

「実は教授、あんたの代わりに自らSPの中に入って、調査してたんよ。そしたら、突然モンスターに襲われて……」

「そんな……」

 

 ユウナは、ひどい罪悪感に苛まれた。自分のせいで正彦を危険な目に遭わせてしまったことが、遣る瀬無かったのだ。ユウナの表情から気持ちを察したのか、

 

「君が気にすることではないよ。私も、不注意だった」

 

 と、正彦は言った。それでも、ユウナは少なからず責任を感じていた。

 

「でも……」

「実を言うと、初めてわかった気がするよ。これまで、君たちにどんなことをさせてきたのか。それを知るいい機会になった。だから、私の方が謝るべきなんだ」

「教授……」

「身をもって知ったよ。だから、もう君たちを危険な目に遭わせるわけにはいかない」

 

 正彦は、下を向いた。それがどのような意味を示しているのか、ユウナには考える間もなくわかった。

 

「……諦めるんですか?」

「諦める……、か。そういうことになるな」

 

 正彦は言った。しかし、言うまでもなくユウナは納得できない。あの世界を守るために、これまで頑張ってきた日々は何だったのか。

 

「教授、なんでそんな簡単に諦めちゃうんですか? 教授、ずっとあの世界を守るために、努力してきたじゃないですか。それらを、すべて無駄にするんですか!?」

 

 ユウナは、目に涙をためながら訴えた。しかし、正彦から返答は返ってこない。その時、ユウナはあることを思いついた。

 

「私……、これからあの世界で暮らします」

 

 それをきいて、周りが騒然となった。正彦も、驚きに満ち溢れたような顔で、ユウナを見つめてくる。しかし、ユウナの決心は揺るがない。

 

「私は、戦い続けます。誰に反対されても、私はあの世界を守りたい! だから、教授も簡単に諦めるなんて言わないでください!」

 

 これは、ユウナの本心だ。ユウナが初めてセインツ・パラダイスに入ったのは、大学に入学して間もないころだった。あの時の感動は、今でも覚えている。それ故に、諦められなかったのだ。

 その思いは正彦にも伝わったのか、先ほどよりもにこやかな表情をする。しかし正彦が話すより先に、反発の声を上げた者がいた。

 

「ちょっと待ってよ」

 

 ユウナが声の方をふり向くと、そこにはなんとレイカがいた。

 

「鶴ケ崎さん……?」

 

 今まで無関心だったレイカが、自発的に声を発することは、今までに一度もなかった。そのためユウナは、驚きながらレイカを見つめた。レイカもユウナを見つめながら、こう続ける。

 

「あなた、子どもがいるんでしょ? いったい、どうするつもりなの?」

 

 レイカの疑問は、理にかなっている。ユウナは大毅や悠二郎のことを思い出し、俯いた。あの世界は守りたい。しかしユウナには現在、かけがえのない家族がいるのだ。なぜそれを今まで忘れていたのだろうと、自分自身を責めた。

 

「もっと、よく考えてから言いなさいよ。あなたに何かあったら、悲しむ人だっているのよ? 何が守りたいよ。生きてく上で必要のないものよりも、ほかに守るべきもんがあるでしょうが!」

 

 レイカのその言葉は、ユウナの心に大きく音を立て、そして奥の方まで響いた。ユウナも、今まで忘れてしまっていた。自分自身、守らなければならない人たちがいる。レイカは、それを教えてくれたのだ。ユウナは再び正彦の方を向くと、こう言った。

 

「しばらく、考えさせてください。彼と、よく相談してみます」

「……わかった」

 

 正彦も、納得してくれた。この時、ユウナも驚いていた。まさか、レイカに説諭されるなど思ってもいなかった。しかしその分、嬉しさもあったのはたしかだ。

 

 自宅に戻ったユウナは、悠二郎に相談した。そして、

 

「私、やっぱり自分勝手なのかな……」

 

 と言うと、悠二郎は首を振った。

 

「いや、ユウナは自分勝手なんかじゃないよ。その子も、きっとユウナのことを心配してくれたんじゃないか? だから、何も気にすることなんてない」

「でも、私これからどうしたらいいんだろう……。大毅とも一緒にいたいし、あの世界も守りたい。どうしたら……」

 

 ユウナは、頭を抱える。こればかりは、どうしようもない。すると、悠二郎がユウナに言った。

 

「じゃあ、こうしようか。俺も、ユウナたちと一緒にあの世界に行くよ。大毅も連れて」

「えっ……」

 

 これは、予想外の言葉だ。

 

「でも、中は危ないよ。洗脳されたモンスターも、いつ襲ってくるかわからないし……」

 

 しかし、悠二郎は言うのだ。

 

「大丈夫。大毅は、俺が必ず守るから。だから、あんまり心配しないでくれ」

 

 悠二郎は笑顔だった。その時、どこかできいた言葉だとユウナは思った。あの夏の日、大輝はユウナに言った。

 

『何かあったら、絶対俺に言えよ。俺が守ってやるから』

 

 ジャングルジムから、手を差し延べた大輝の笑顔が脳裏を過ぎる。それを思い出すと、自然に涙があふれ出てきた。

 

「大ちゃん……、今度は私が大ちゃんを守る番だよ」

「えっ?」

 

 ユウナが呟くと、悠二郎も不思議そうにユウナを見つめてくる。そしてユウナは悠二郎を見ると、

 

「私、必ずこの戦いに勝ってみせる。みんなで、笑って戻って来られるように」

 

 と、笑顔で言った。それを見て、悠二郎も笑い返していた。

 

「そうだな」

 

 それだけ言うと、悠二郎は立ち上がった。

 

「じゃあ……、明日にでも報告するか。決意表明ってやつだ」

 

 それをきくと、ユウナもさらに嬉しくなった。今まで、何度も悠二郎の優しさに甘えてきた。だが、このままではいけない。今度は、自分が悠二郎の支えになろう。ユウナは、そう決心したのだった。

 

 その頃、研究所の一室にレイカはいた。縁側に腰かけ、星空を眺めながら、今日のことを思い返していた。すると、また後ろから声がかかる。

 

「おい、風邪ひくぞ?」

 

 ふり向くと、そこには真司が立っていた。真司は仕方なさそうに笑うと、レイカの隣に腰を下ろす。

 

「今日は正直、驚いたよ」

「何がよ」

「まさか、君があんなこと言うなんてな。今まで、父さんが創った世界がどうなろうと、知ったこっちゃないって思ってたけど、ちゃんと考えてくれてたんじゃないか?」

「今も思ってるわよ。あの世界がなくなったからって、こっちの世界が滅んだりしないでしょ?」

 

 レイカが言うのをきいて、真司は息を吐いた。その白い息は、空中に虚しく消えていく。そして、こう言うのだ。

 

「そうとも言いきれない」

「……どういうこと?」

「奴らは、あの世界を乗っ取ることが目的じゃない。あの世界を利用して、父さんを陥れること。それこそが、あいつらの目的なんだ。最悪の場合、現実世界にモンスターを放出するかもしれない。そして、父さんの研究を世間の人間に知らしめる。よって、父さんは危険なものを開発したとして書類送検されるだろう。それは、俺らの世界が滅ぶのと同じことだよ」

 

 レイカは、真司の話を黙ってきいていた。本当にそんなことが起きれば、大変なことになる。レイカも、少なからず危機感を感じたのは言うまでもない。

 

「じゃあ、俺はもう寝るから。君も、温かくして寝ろよ」

 

 真司は立ち上がると、自分の部屋に戻っていってしまった。しかしレイカはしばらく、そこから動かなかった。レイカ自身も、迷っていたのかもしれない。

 

 

 翌日、ユウナは悠二郎とともに研究所に足を運んだ。悠二郎は、幼い大毅を抱えている。そして二人は、前日に話し合った内容を正彦に伝えた。それをきいた正彦は驚きの表情を浮かべながらも、

 

「わかった。君たちがそう言うなら、私は構わない」

 

 と、快く了承してくれた。次に、正彦はほかのメンバーにも答えを求めた。

 

「君たちは、どうしたいんだ?」

 

 正彦の質問に、ミカとアカリは答える。

 

「私らも、あれから考えてさ……」

「ユウナちゃんが行くって言ってくれたら、うちらも行こうって決めたんよ」

「二人とも……」

 

 ユウナは、二人を見つめながら呟いた。視線を感じた二人も、ユウナに笑いかける。二人の言葉が、ユウナにとってどれだけ励みになったことだろう。そして、正彦はレイカにも尋ねた。

 

「君は……、どうだね?」

 

 するとレイカは、少し間を置いてから口を開いた。

 

「私も……、他人事じゃないって思えてきたから、……協力してあげるわよ」

 

 それをきいたユウナは、

 

「ほんとに、いいの……?」

 

 と、レイカにきいた。

 

「えぇ。どうせここで拒んでも、突っかかってくるでしょ? だからいっそのこと、今は賛同してあげる」

「ありがとう!」

「勘違いしないでね、私は私で行動するから」

「それでもいいよ。鶴ケ崎さんがそう言ってくれて、ほんとに嬉しい……」

 

 ユウナは、レイカに微笑んだ。すると、正彦は言った。

 

「これで決まった。皆、今日からセインツ・パラダイスに入ってくれ。食事や寝具などは、こちらで支給する」

「しばらくの間は、俺たちもそこで暮らすことにしたんだ」

 

 続いて、慎一郎が言った。

 

「兄さんも……?」

「やっぱり、男は女を守れないとな」

 

 真司も言った。

 

「私は、外で皆さんのステータスなどを管理します!」

 

 ヒロインも、声を張り上げて言った。それをきくと皆は笑いながら、

 

「頼んだで!」

 

 などと、声をかけている。

 

 よって、SPの中にはユウナ、レイカ、ミカ、アカリ、アカネのほかに、悠二郎、真司、慎一郎も入ることになった。美千子やヒロインは、現実世界で正彦の手伝いをすることになった。美千子はドアの前で皆に、

 

「気をつけてね」

 

 と、呼びかけていた。ユウナも、それに笑顔で答えていた。

 セイントドアを潜ると、穏やかな風が吹き、SPの中でも春の訪れを告げている。その風を感じながら、ユウナは草原を眺めていた。これから何があるのか、それはまだ誰にもわからない。しかし、早くこの戦いを終わらせたい、そう改めて心に誓うのだった。

 

 一方、その様子を見ている人物がいた。サタールだ。スクリーンで、ユウナたちの様子を眺めている。その後ろには、研究員のコサカとルリがいた。

 

「サタール様、やはり戻ってきましたね」

 

 コサカが言うと、サタールは言った。

 

「あぁ、奴らは必ず宝玉を探そうとするだろう。これから、面白くなりそうだな」

「いよいよですね……」

 

 ルリもそう言いながら、サタールを見つめている。そしてサタールはスクリーンに手を伸ばし、そしてまた怪しく笑っていたのだった。

 

 

第四十二回「決意の余白(マージン・オブ・インテント)」終

 

 

 

次回予告

ミカ「称号のことだけどさ、交換しない?」

サタール「たっぷりと思い知らせてやるがよい」

アカネ「放っておけば、現実世界にモンスターが逃げ出してくるかもしれへん」

ユウナ「私が、様子を見てきます」

正彦「第三十エリア、天上の海原だ」

真司「彼女たちを認めたくないのは、今まで逃げ続けてきた自分を認めたくないからだ」

アカリ「ノーマルスキル発動! アーマーブレイク!」

フギン「オヤジは、この世界で生涯を閉じるつもりだぜ」

ミカ「ユウナ変わったくない?」

悠二郎「ユウナはさ、人を恨んだこととかないの?」

真宏「守りたいんだよな、あの世界を」

  「絶対に……、生きろ」

ユウナ「恨みはいつか消える。そう、信じてるから」

 

 

 

次回(第四十三回)

 

天上の海原(オーシャン・オブ・ヘブン)

序盤のキャラで、最も印象深い登場人物は?

  • 中谷優奈
  • 鶴ケ崎麗菓
  • 月見里美香
  • 夢野あかり
  • 池谷大輝
  • 相場善秀
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